特許第5793622号(P5793622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793622凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793622
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20060101AFI20150928BHJP
   B63B 1/32 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B63B35/00 M
   B63B1/32 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-525916(P2014-525916)
(86)(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公表番号】特表2014-521561(P2014-521561A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】KR2012005792
(87)【国際公開番号】WO2014014149
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2013年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】594006932
【氏名又は名称】ヒュンダイ ヘビー インダストリーズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI HEAVY INDUSTRIES CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】リ,サン−ボン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ガン−フン
(72)【発明者】
【氏名】アン,ユ−ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン−グァン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ソク−ホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨン−グァン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ミン−ジェ
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−506930(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2000−0025585(KR,A)
【文献】 実開昭62−084597(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00,35/44,1/32,
39/00−39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップにおいて、
前記渦流抑制用ブロックの下部の船底を船体上部に向かって凹み加工した流動安定化部が形成されており、
前記流動安定化部は、
外部流動の剥離を防止するために、船首側の船底から船体上部に向かって傾斜するように形成された流動流入部と、
前記流動流入部を通じて流入した流動の流れを維持させるために、船底と平行するか一定の角度を有するように形成された流動平衡部と、
前記流動平衡部を通った流動を剥離させるために、前記流動平衡部から船尾側の船底に向かって傾斜するように形成された流動剥離部と、
前記流動平衡部を通る流動が流動剥離部に移動する際に流動が加速するように、流動平衡部と流動剥離部の下部方向に離隔して設けられた流動加速部と、からなることを特徴とする凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項2】
前記流動流入部が、船底に対して0°より大きくて30°以下である角度だけ傾斜するように形成されたことを特徴とする請求項に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項3】
前記流動流入部と船底との間の連結部の形状を曲線型Rに形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項4】
前記一定の角度を有するように形成された流動平衡部は、船底に対して-10°〜+10°の角度を有するように形成されたことを特徴とする請求項に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項5】
前記流動平衡部と流動流入部との間の連結部を曲線型Rに形成したことを特徴とする請求項に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項6】
前記流動剥離部は、直線型、曲線型、または直線型と曲線型の組み合わせのうち選択されたいずれかの形状を有することを特徴とする請求項に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【請求項7】
前記流動加速部は、流動平衡部と流動加速部との間の断面積が流動剥離部と流動加速部との間の断面積よりも大きくなるように、位置および角度を調節して設けられたことを特徴とする請求項に記載の凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船底に設けられる凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップに関するものであって、詳しくは、ムーンプールにおいて船首部の船底の形状を変更して、ムーンプールにおいて船首部の角部で剥離される流線(streamline)および渦流(vortex)を制御することにより、ムーンプールに作用する抵抗の変動量を減らし、ムーンプール内における自由水面を安定化するとともに、船底の床面から最小限に突出するようにした凹型流動安定化部が設けられた渦流抑制用ブロックを有するドリルシップ(drillship)に関する。
【背景技術】
【0002】
世界において産業または工業の発展に伴い、石油や天然ガス等の使用量が増加するにつれて、かつて経済性が無いといって軽んずられてきた小さい限界油田(marginal field)や深海油田の開発への関心が高まっている。
【0003】
そのための海底採掘技術の発展と共に、これらの油田を開発するための掘削設備を備えたドリルシップ(drillship)が様々な形で開発されている。
【0004】
通常、海上における石油掘削のための方法として、従来は、海上の一点に碇泊した状態で海底掘削の作業を行う海底掘削専用のリーグ船(rig ship)または固定式プラットフォームが主に使用されたが、最近は、先端の掘削装備を搭載し、自体の動力で航行できるように通常の船舶と同じ形で製作された運航可能なドリルシップ(drillship、掘削船)が開発され、海底の掘削に用いられている。
【0005】
前述したドリルシップの構造を見ると、掘削パイプを海底面に下りさせるために、船体の中心部で垂直に貫通するムーンプール(moonpool)が形成されている。このようなムーンプールにおいては、ドリルシップの航行時に非常に強い流動撹乱が発生することがあるが、流動撹乱は、ムーンプールにおいて船首部の端部から剥離される渦流(vortex)と自由水面との間の相互作用によって発生するものであって、ムーンプール内において自由水面を不安定にし、抵抗の時間変化量を増加させ、ドリルシップの抵抗性能を悪くする。
【0006】
図1は、ドリルシップに設置されている従来のムーンプールの形状を示すための側面図であるが、ドリルシップ船体のムーンプール50に流入する外部流動S10は、船首部60側の方向から船尾部61側の方向に移る。この時、外部流動(主流動)により発生する渦流を抑制するために、ムーンプール50において船首部側の船底から船尾側に向かって突出形成された渦流抑制用ブロック3の角部10aでは、流動が剥離され、せん断層の不安定性によって渦流V10(vortex)が生成される。
【0007】
上記渦流(vortex)は、流動の流れによってムーンプール50の船尾部の角部11aにぶつかるようになることで、強い圧力撹乱が発生してムーンプール50に作用する抵抗の時間変化量を増加させる。また、船尾部の角部に衝突した渦流(vortex)によって、ムーンプール50の中に一部の流動S11が流入し、ムーンプール50内の自由水面W10を撹乱させるという問題点がある。
【0008】
上述した流動撹乱を減少させるための従来技術としては、ドリルシップに設けられた流動安定化装置を備えたムーンプールの形状を示した側断面図である図2から分かるように、ムーンプール50の船首部の角部に、海底方向に傾斜するように突出した傾斜突出部20を設け、傾斜突出部の先端から発生する渦流(vortex)を制御し、ムーンプール50を通る外部流動S20の剥離角度θを調節しようとした。
【0009】
しかし、上記のような流動撹乱低減構造は、船首部の角部における渦流抑制用ブロック3に形成された傾斜突出部20がドリルシップの船底における床面よりも下部の海底方向に突出して船舶の建造時に水深による制約を受けることがある問題点と、剥離角度を一定に維持しながらパフォーマンスの向上を追求した場合、傾斜突出部20が大き過ぎるようになる問題点と、傾斜突出部20の高さを一定に維持しながらパフォーマンスの向上を追求する場合、剥離角度が増加することによってドリルシップに作用する抵抗の平均値が増加する問題点がある。
【0010】
その他に、従来のムーンプール内流動を抑制するための先行技術としては、韓国特許出願の第10-2007-37729号(ムーンプール流動の抑制装置)が挙げられるが、ムーンプール内部で発生する海水の流動エネルギーを分散・吸収して上記ムーンプール内部に発生するスロッシング現象およびオーバーフローイング現象を抑制し、ムーンプール内部で発生する渦流を遅延させて船舶の速度を向上させることができるムーンプール流動の抑制装置を提供する技術であって、主な構成は、ムーンプールの内壁面に該当する船首部側面と、船尾部側面と、両側面から垂直に設けられる複数のムーンプールプレートと、前記ムーンプールの内壁面において船首部側の下端辺に前記ムーンプールの中心方向に付着され、船底面と対等なレベルを維持するように形成されたムーンプール底ブロックとを含み、前記ムーンプールプレート及び前記ムーンプール底ブロックは、最大作業領域を干渉しないような突出幅を有し、前記ムーンプールプレートのうち上部側の複数の段は、船舶が作業位置にある時における海水の自由表面(free surface)よりも低く設けられており、前記ムーンプールプレートのうち下部側の複数の段は、前記船舶が運航している時における海水の自由表面よりも低く設けられていることを特徴とする。
【0011】
このような従来技術は、ムーンプール内に流入した後の流動エネルギーを分散・吸収する装置であって、ムーンプール内部に流入した流動を減少させることにより、ムーンプール内の自由水面を安定化させることができる長所を有する。
【0012】
しかし、外部流動がムーンプール内部に流入することを低減させないことにより、船首部の角部で剥離する流動および渦流(vortex)を制御して、船尾部の角部において流線(streamline)と渦流(vortex)との衝突によって引き起こされる圧力の変動性を減少させる能力が大きくないという問題点と、複雑すぎるように構成されたムーンプールプレートの設置に起因する重量増加および単価上昇の問題点を有する。
【0013】
その他に、ムーンプール内の流動を抑制するための先行技術としては、韓国特許出願の第10-2008-87278号(海水流動の自己抑制装置を備えたムーンプール)があるが、ムーンプールを介して流れてくる流水の流速抑制または遮断のために、海水の流れの分離を通じて境界層を形成することにより、流水の各流れの間の摩擦や干渉、気泡発生等による直接抵抗や自己抑制機能を遂行する海水流動の自己抑制装置を備えたムーンプールを提供する技術であって、ムーンプール手作り線付近の垂直壁体に設置され、海水の流れの方向を変換するために
形鋼で形成されて前記垂直壁体に沿って水平方向に長く配置される海水の流れの変換構造物と、前記海水の流れの変換構造物の下部において流水の流れを分離するために漏斗状に形成され、前記垂直壁体に沿って水平方向に長く配置される流水の流れの分離構造物とを備え、海水境界層を形成する海水流動自己抑制装置を、1段または多段の構造にして設置することを特徴とする。
【0014】
このような従来技術は、ムーンプールを通って流入する流水の流速抑制または遮断のために、海水の流れの分離を通じて境界層を形成することにより、1次的に海水流動自己抑制装置の自己遮断能力を活用し、分離された流れによる摩擦力を活用できるという点において、メリットを有する。
【0015】
しかし、外部流動がムーンプール内部に流入することを低減させないことにより、船首部の角部において剥離される流動と渦流(vortex)を制御して、船尾部の角部において流線(streamline)と渦流(vortex)との衝突によって引き起こされる圧力の変動性を減少させる能力が、大きくないという問題点があり、複雑すぎるように構成された垂直壁体に沿って水平方向に長く配置される海水の流れの変換構造物の設置に起因する重量増加やドリルシップの製造コストの上昇という問題点がある。
【0016】
その他にも、ドリルシップ内におけるムーンプール内の流動を抑制する技術であって、韓国実用新案登録出願の第20-2006-24344(船舶におけるムーンプール流動の抑制構造)、韓国特許出願の第10-2007-124862(掘削船におけるムーンプール構造物の流動低減構造)等のような数多くのムーンプール内流動低減の先行技術が存在するが、このほとんどは、ムーンプール内部に追加的にデバイスを備えたものに関することであって、外部流動がムーンプール内部に流入することを低減させないことにより、船首部の角部において剥離される流動および渦流(vortex)を制御して、船尾部の角部において流線(streamline)および渦流(vortex)の衝突によって引き起こされる圧力の変動性を減少させる能力は、大きくないという問題点があり、ムーンプール内において複雑な装置構成を追加することによる重量増加やドリルシップの製造コストの上昇という問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のような問題点を解決するための本発明の目的は、ムーンプール内の流動を安定化させ、ドリルシップの抵抗変化量を減らすために、船底からムーンプール内の船尾に向かって突出して形成された渦流抑制用ブロックの底面を船体の上部方向に凹むように形成した流動安定化部を備えたドリルシップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のような目的を達成し、従来の問題点を除去するための課題を遂行する本発明は、渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップにおいて、前記渦流抑制用ブロックの下部の船底を船体上部に向かって凹み加工した流動安定化部が形成されており、
前記流動安定化部は、外部流動の剥離を防止するために、船首側の船底から船体上部に向かって傾斜するように形成された流動流入部と、前記流動流入部を通じて流入した流動の流れを維持させるために、船底と平行するか一定の角度を有するように形成された流動平衡部と、前記流動平衡部を通った流動を剥離させるために、前記流動平衡部から船尾側の船底に向かって傾斜するように形成された流動剥離部と、前記流動平衡部を通る流動が流動剥離部に移動する際に流動が加速するように、流動平衡部と流動剥離部の下部方向に離隔して設けられた流動加速部と、からなることを特徴とする凹型流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックをムーンプール内に有するドリルシップである。
【0021】
本発明において、好ましい実施例として、前記流動流入部は、船底に対して30°以下の角度だけ傾斜するように形成することができる。
【0022】
本発明において、好ましい実施例として、前記流動流入部と船底との間の連結部の形状を曲線型Rに形成することができる。
【0023】
本発明において、好ましい実施例として、前記一定の角度を有するように形成された流動平衡部は、船底と-10°〜+10°の角度を有するように形成することができる。
【0024】
本発明において、好ましい実施例として、前記流動平衡部と流動流入部との間の連結部を曲線型Rに形成することができる。
【0025】
本発明において、好ましい実施例として、前記流動剥離部は、直線型、曲線型、または直線型と曲線型の組み合わせのうち選択されたいずれかの形状を有することができる。
【0026】
本発明において、好ましい実施例として、前記流動加速部は、流動平衡部と流動加速部との間の断面積が流動剥離部と流動加速部との間の断面積よりも大きいように、位置および角度を調節して設けることができる。
【発明の効果】
【0027】
上記のように、本発明は、ドリルシップに形成されたムーンプールの船首部の角部で剥離する流動および渦流(Vortex)を制御して、船尾部の角部で流線(streamline)および渦流(Vortex)の衝突によって引き起こされる圧力の変動を減少させることにより、ドリルシップの抵抗性能を改善し、船尾部の角部からムーンプール内に流入する流動を減少させることにより、ムーンプール内の自由水面を安定化させることができるというメリットと、ムーンプールの船首部に形成された渦流抑制用ブロックの船底を船体の内側に凹ませることにより、前記装置が船底の底面から最小限に突出し、船舶建造時の経済性を向上させることができるというメリットを有する有用な発明であって、その産業上利用が大きく期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来の一実施形態に係るドリルシップに設けられた通常のムーンプールの形状を示した側断面図である。
図2】従来の他の実施形態に係るドリルシップに設けられた流動安定化装置を備えたムーンプールの形状を示した側断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る流動安定化部が備わったムーンプールの側面図である。
図4a】本発明の実施形態に係る流動流入部の構造を示した側面図である。
図4b】本発明の他の実施形態に係る流動流入部の構造を示した側面図である。
図5a】本発明の一実施形態に係る流動平衡部の構造を示した側面図である。
図5b】本発明の他の実施形態に係る流動平衡部の構造を示した側面図である。
図6a】本発明の一実施形態に係る流動剥離部の構造を示した側面図である。
図6b】本発明の他の実施形態に係る流動剥離部の構造を示した側面図である。
図6c】本発明のもう一つの他の実施形態に係る流動剥離部の構造を示した側面図である。
図7】本発明の一実施形態に係る流動加速部の構造を示した側面図である。
図8】本発明の一実施形態に係るムーンプールの流動特性を示すための側面フローチャートである。
図9】従来のムーンプールと、本発明の実施形態に係るムーンプール内における自由水面を比較した瞬間流動場の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施例における構成とその作用を、添付図面を参照して詳細に説明する。また、本発明を説明するにあたって、関連した公知の機能または構成についての具体的な説明が本発明の要旨を余計に不明にすると判断される場合は、その詳細な説明を省略する。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態に係る流動安定化部が備わったムーンプールの側面図であって、図示されたように、本発明は、ドリルシップ船体に垂直方向に形成されたムーンプール50に流入する外部流動S10によって発生する渦流を抑制するために、ムーンプールの船首部側の船底から船尾側に向かって突出形成した渦流抑制用ブロック3の下部の船底を船体上部に向かって凹むように形成した凹型流動安定化部30を有する。
【0031】
前記渦流抑制用ブロック3の下部に凹むように形成された凹型流動安定化部30の構成は、外部流動の剥離を防止するために、船首側の船底から船体上部に向かって傾斜するように形成された流動流入部31と、流動流入部を通じて流入した流動の流れを維持させるために、船底と平行するか一定の角度を有するように形成された流動平衡部32と、流動平衡部を通った流動を剥離させるために、流動平衡部から船尾側の船底に向かって傾斜するように形成された流動剥離部33からなる。
【0032】
また、本発明は、前記流動平衡部を通る流動S70が流動剥離部に移動する際に、流動S71が加速するように、流動平衡部と流動剥離部の下部方向に離隔して設けられた流動加速部34をさらに含むことができる。図面では図示されていないが、少なくとも流動加速部の両端または両端を含む流動加速部において、複数のブラケットまたは支持部材が流動安定化部の船底と連結するように構成される。つまり、流動加速部は、板状部材がブラケットまたは支持部材によって船底に連結される構成である。
【0033】
以下、流動安定化部を成す各構成について、より具体的に説明する。
【0034】
図4aは、本発明の実施形態に係る流動流入部の構造を示した側面図であるが、図示されたように、流動安定化部30の入口部を形成するように凹まれた流動流入部31は、船底に対して一定の角度θ1だけ傾くように凹んで形成される。ここで、角度θ1において、船底から流入する流動が剥離し、再循環領域 40 が形成されないようにするため、0°より大きく30°以下である角度を維持しなければならない。
【0035】
ここで、再循環領域が形成されないようにしなければならない理由は、もし再循環領域が形成される場合、二つの大きな問題点が発生するからである。
【0036】
第一に、再循環領域が形成される場合、外部から流入する流動が流動流入部に沿って凹型構造の中に入れなくなるため、凹型構造が本来の役割を果たすことができなくなる。
【0037】
第二に、再循環領域が形成される場合、再循環領域が形成される領域で圧力が低くなることにより、船体に作用する抵抗が増加、すなわち、船体の抵抗性能が悪くなる。
【0038】
また、図4bは、本発明の他の実施形態に係る流動流入部の構造を示した側面図であって、図示されたように、流動剥離を防止し、流動を効果的に流入させるために、流動流入部と船底との間の連結部の形状を曲線型Rに形成することができる。
【0039】
このようにすると、船底と流動流入部との間に形成された角度による流動の流れ変化が、より自然になる。
【0040】
すなわち、角部等による流線の急激な変化が生じた場合、急な圧力勾配が発生することになり、このような急な圧力勾配が船体に作用する圧力抵抗を増加させることにより、船舶の抵抗性能が悪くなる結果を招くことになる。従って、好ましくは、曲線型に設計することにより、流線の急激な変化およびこれによる圧力勾配を最小化することが良い。
【0041】
図5aは、本発明の一実施形態に係る流動平衡部の構造を示した側面図であって、図示されたように、流動安定化部30の流動平衡部32は、船底と平行な面を成すことが望ましいが、流動の流れの効率を向上させるために、船底と-10°〜 +10°の角度θ2を有することができる。
【0042】
具体的には、流動流入部が船底に対して特定の角度を有するので、流動流入部から入ってきた流動はある程度の圧力勾配と速度勾配を有する状態であり、このように圧力勾配と速度勾配を有する流動が直ちに流動剥離部に流入する場合、所望の渦流抑制効果が発生しないことがある。従って、流動平衡部の役割は、このような速度勾配と圧力勾配を最小化することである。ところが、流動流入部で発生する圧力勾配と速度勾配は、流動流入部の幾何学的な角度だけでなく、流動流入部の上流から入ってくる流動の特性にも影響を受けることから、この二つの要素を考慮して流動平衡部の角度を決めることになる。すなわち、流動平衡部の役割は、流動流入部を通った流動を調節することであるので、-10°〜+10°の範囲が十分である。もし、この範囲を外れた場合、流動平衡部で速度勾配と圧力勾配が発生することになり、逆効果が生じる可能性が高いので、このような区間が最も好ましい。
【0043】
図5bは、本発明の他の実施形態に係る流動平衡部の構造を示した側面図であって、図示されたように、流動の効率的な流れのために、流動平衡部32と流動流入部31との間の連結部を曲線形 R に形成することができる。
【0044】
このようにすると、流動平衡部と流動流入部との間に形成された角度による流動の流れ変化が、より自然になる。即ち、前述のように、角部等による流線の急激な変化を最小限に抑えて圧力抵抗を減らことができる。
【0045】
図6a図6cは、本発明の幾つかの実施形態に係る流動剥離部の構造を示した側面図であって、図示されたように、流動剥離部33は、図6aのように直線型に形成することもあり、図6bのように曲線型に形成することもあり、図6cのように直線型と曲線型の組み合わせに形成することもある。
【0046】
上記3つのタイプの形状のうち、図6bのようにすると、流動平衡部と流動剥離部との間に形成された角度による流動の流れ変化がより自然になることができ、図6cのようにすると、先端部において流れが速くなって剥離発生効率が良くなる。
【0047】
図7は、本発明の一実施形態に係る流動加速部の構造を示した側面図であって、図示されたように、流動平衡部32を通る流動S70が流動剥離部32に移動する際、流動S71が加速されるようにするために、船底と離隔して流動の流れをガイドするように設けられる流動加速部34の位置と角度を調整して設置する。即ち、流動平衡部32と流動加速部34との間の断面積A70が流動剥離部33と流動加速部34との間の断面積A71よりも大きくなるように設置する。
【0048】
補足して説明すると、流動が通過する面積が狭くなると流動が加速されることは、ベルヌーイの原理など、既に技術常識として広く知られている。但し、本発明においては、凹型構造により、船底の底面が凹んでいるので、若干の空間が存在し、その空間に構造物を設置して流動をさらに加速させるために、流動加速部を設置したものであって、その設置位置に対する基準点による角度および位置が相対的であることから、その設置位置の客観性を確保するために、面積として表現したものである。
【0049】
図8は、図4a図7の各実施形態によるムーンプールの流動特性を示すための側面フローチャートであって、図示されたように、ムーンプールに流入する流動S80が、本発明に係る流動安定化部の入口部を構成する流動流入部によって内側に流入しS81、流動平衡部を経てS82、流動剥離部で剥離されるS83ことが分かる。
【0050】
また、下記の表1は、図1に示された従来ムーンプールに作用する抵抗の平均値と標準偏差、及び本発明の流動安定化部に作用する抵抗の平均値と標準偏差を示している。即ち、ムーンプール内の流動撹乱によって引き起こされる抵抗を数値解析を通じて示したものであって、本発明に係る流動安定化部が形成された渦流抑制用ブロックが備わると、ムーンプール内の抵抗の平均値と標準偏差が、それぞれ37%と88%減少することが分かる。
【0051】
【表1】
(従来ムーンプールとの比較のために、従来ムーンプールの抵抗平均と標準偏差にて無次元化した値)
一方、図9の(a)は、従来ムーンプール内において自由水面の瞬間流動場であり、図9の(b)は、本発明の実施形態によるムーンプール内における自由水面を比較した瞬間流動場であって、自由水面の高さから分かるように、本発明においてムーンプール内の流動が安定化したことが分かる。
【0052】
本発明は、上述した特定の好適な実施形態に限定されず、特許請求の範囲で請求する本発明の要旨を逸脱することなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば誰でも多様な変形実施が可能なのはもちろん、そのような変更は、特許請求の範囲に記載の範囲内になる。
【符号の説明】
【0053】
3 渦流抑制用ブロック
30 流動安定化部
31 流動流入部
32 流動平衡部
33 流動剥離部
34 流動加速部
40 再循環領域
50 ムーンプール
S10 外部流動
S11 ムーンプールの船尾部の角部からムーンプール内に流入する流動
V10 渦流(Vortex)
W10 自由水面
θ 流動安定化装置によって剥離される流動の角度
θ1 流動流入部と船底の底面との角度
θ2 流動平衡部と船底の底面との角度
A70 流動平衡部と加速部との間を通る流動が通過することになる断面積
A71 流動剥離部と加速部との間を通る流動が通過することになる断面積
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】