特許第5793628号(P5793628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793628
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】非発酵ビール風味飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/00 20060101AFI20150928BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20150928BHJP
   C12C 5/02 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C12G3/00
   A23L2/00 A
   !C12C5/02
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-1021(P2015-1021)
(22)【出願日】2015年1月6日
(62)【分割の表示】特願2013-546917(P2013-546917)の分割
【原出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2015-61547(P2015-61547A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2015年1月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 順
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−532042(JP,A)
【文献】 特開2011−142901(JP,A)
【文献】 特開2011−188833(JP,A)
【文献】 特開2002−330735(JP,A)
【文献】 特開平08−009953(JP,A)
【文献】 特開平08−000249(JP,A)
【文献】 特開2006−006342(JP,A)
【文献】 特開2007−082538(JP,A)
【文献】 特開2007−006872(JP,A)
【文献】 特開2009−142233(JP,A)
【文献】 特開2003−250503(JP,A)
【文献】 特表2004−536604(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005129(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/079778(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/007475(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/080354(WO,A1)
【文献】 Beverage Japan,1993年 5月,No.137,p.38-44
【文献】 日経トレンディ,日経BP社,2010年 9月 4日,No.312,pp.162-163
【文献】 アサヒビール株式会社HPニュースリリース,2010年 5月18日,[平成27年4月6日検索]URL:https://www.asahibeer.co.jp/news/2010/0518_2.html
【文献】 ニューフードインダストリー,1993年 1月 1日,Vol.35, No.1,pp.25-32
【文献】 ジャパンフードサイエンス,2007年 2月 5日,2月号,pp.36-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12C
A23L 2/
日経テレコン
JSTPlus(JDreamIII)
CA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲用水に対し、8〜32mg/mlのDE5〜24のデンプン分解物、ショ糖換算で1〜18mg/mlの甘味物質、及びホップ又はホップエキスを含有させる工程を包含する非発酵ビール風味飲料の製造方法であって、
該甘味物質が、ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノース、イソマルトース、マルトトリオース、ラフィノース、カップリングシュガー、糖アルコール類及び高甘味度甘味料から成る群から選択される少なくとも一種である、非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項2】
前記ホップ又はホップエキスの添加量が、非発酵ビール風味飲料当たり、原料ホップ乾燥物に換算して0.005〜2重量%である請求項1に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項3】
前記デンプン分解物が難消化性デキストリンである請求項1又は2に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項4】
麦汁又は大麦エキスを含有させる工程は包含しない請求項1〜3のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項5】
エタノールを含有させる工程は包含しない請求項1〜4のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項6】
更に大豆タンパク質分解物を含有させる工程を包含する請求項1〜5のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項7】
前記大豆タンパク質分解物の添加量が10mg/ml以下である請求項6に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項8】
前記甘味物質の添加量がショ糖換算で4〜13mg/mlである請求項1〜7のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料の製造方法。
【請求項9】
8〜32mg/mlのDE5〜24のデンプン分解物、ショ糖換算で1〜18mg/mlの甘味物質、及びホップ又はホップエキスを含有する非発酵ビール風味飲料であって、
該甘味物質が、ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノース、イソマルトース、マルトトリオース、ラフィノース、カップリングシュガー、糖アルコール類及び高甘味度甘味料から成る群から選択される少なくとも一種である、非発酵ビール風味飲料。
【請求項10】
前記ホップ又はホップエキスの含有量が、非発酵ビール風味飲料当たり、原料ホップ乾燥物に換算して0.005〜2重量%である請求項9に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項11】
前記デンプン分解物が難消化性デキストリンである請求項9又は10に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項12】
麦汁又は大麦エキスを含有しない請求項9〜11のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項13】
エタノールを含有しない請求項9〜12のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項14】
更に大豆タンパク質分解物を含有する請求項9〜13のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項15】
前記大豆タンパク質分解物の含有量が10mg/ml以下である請求項14に記載の非発酵ビール風味飲料。
【請求項16】
前記甘味物質の含有量がショ糖換算で4〜13mg/mlである請求項9〜15のいずれか一項に記載の非発酵ビール風味飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非発酵ビール風味飲料に関し、特に、非発酵ビール風味アルコール飲料及び非発酵ビール風味炭酸飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール風味飲料には、実質的にエタノールを含有する酒類であるビール風味アルコール飲料、及び実質的にエタノールを含有しない炭酸飲料であるビール風味炭酸飲料等の多種類の製品がある。
【0003】
ビール風味アルコール飲料は、主として、麦芽又は穀類の糖化液を主原料として用いて、これを発酵させて製造される。発酵工程を経て製造されるビール風味アルコール飲料は、以下、「発酵ビール風味アルコール飲料」という。他方、ビール風味アルコール飲料には、飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類、香料及びエタノールなどを加えることによりビールらしい風味及び味質に仕上げたものもある。発酵工程を経ないで製造されるビール風味アルコール飲料は、以下、「非発酵ビール風味アルコール飲料」という。
【0004】
非発酵ビール風味アルコール飲料は、製造過程で発酵を行わないために、製造するのに特別な発酵装置を必要としない。そのため、低コストで大量生産するのに向いている。しかしながら、どのような成分をどれくらいの量で調合すればビールらしい風味及び味質を再現することができるのかは未だ明確になっておらず、製造方法は研究開発の途上である。
【0005】
他方、ビール風味炭酸飲料はアルコール度数が低く、運転者及び妊娠・授乳中の女性も気軽に飲むことができる。また、一般に、ビール風味炭酸飲料は通常のビールに比べてカロリーが低く、健康志向の人にも支持を受けている。
【0006】
ビール風味炭酸飲料の製造方法は、(1)エタノール除去、(2)発酵抑制、(3)非発酵の3種類に大別される。(1)は通常のビールから特殊な装置でエタノール分だけを抜いて造る。(2)は通常より低温で発酵させるなどして酵母の活動を抑制し、低エタノールに仕上げる。これらの発酵工程を経て製造されるビール風味炭酸飲料は、以下、「発酵ビール風味炭酸飲料」という。
【0007】
発酵ビール風味炭酸飲料は、製造方法に発酵工程があるため、ビールらしい風味になる。しかしながら、発酵工程でエタノールが生成してしまい、エタノール含有量を完全に無くすることは困難である。
【0008】
これに対し、(3)は飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類及び香料などを加えて製造される。これらの発酵工程を経ないで製造されるビール風味炭酸飲料は、以下、「非発酵ビール風味炭酸飲料」という。非発酵ビール風味炭酸飲料は、製造過程で発酵を行わないために、エタノールを含まなくするのが容易である。また、製造するのに特別な発酵装置を必要としない。そのため、低コストで大量生産するのに向いており、万人向けの低価格飲料である。しかしながら、どのような成分をどれくらいの量で調合すればビールらしい風味及び味質を再現することができるのかは未だ明確になっておらず、製造方法は研究開発の途上である。
【0009】
尚、非発酵ビール風味アルコール飲料は、非発酵ビール風味炭酸飲料の製造過程でエタノールを所定量添加することにより製造することができる。つまり、両者の実質的な相違点はエタノールを含有するかしないかのみである。従って、本明細書では、非発酵ビール風味アルコール飲料及び非発酵ビール風味炭酸飲料を一緒に扱い、両方を含めて「非発酵ビール風味飲料」という。
【0010】
特許文献1には、非発酵ビール風味炭酸飲料の製造工程において、植物性タンパク分解物及び麦芽抽出物を原料として用いることにより、ビール様の苦みやコク感を付与し、香味に厚みとまとまりを加えることができることが記載されている。
【0011】
また、特許文献2には、DE6〜30のデンプン分解物が炭酸飲料のクリーミー性、コク味などの味質を改善するのに有用であることが記載されている。
【0012】
しかしながら、非発酵ビール風味飲料は、通常のビールと対比すると、未だビールらしい風味について差が大きく、特に、「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が通常のビールに劣っている問題がある。
【0013】
尚、発酵ビール風味アルコール飲料の分野では、飲み応え及び飲んだ後のキレを増大させる方法が知られている。例えば、特許文献3には、原料中の麦芽の使用比率を高率とすることにより飲み応えを確保できること、及び麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得た蒸留液を添加することにより、麦芽発酵飲料の飲み応えを損ねることなく、喉越しのキレが付与できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−142901号公報
【特許文献2】特開2002−330735号公報
【特許文献3】国際公開2005/056746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、非発酵ビール風味飲料にビールらしい風味を付与することにある。より具体的には、非発酵ビール風味飲料の「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」を増強し、適度にバランスさせることにより、非発酵ビール風味飲料に対してビールらしい風味を付与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、飲用水に対し、8mg/ml以上の高分子糖、及び高分子糖100重量部に対して0.008〜100重量部の甘味物質を含有させる工程を包含する非発酵ビール風味飲料の製造方法を提供する。
【0017】
ある一形態においては、前記高分子糖がDE5〜24のデンプン分解物である。
【0018】
ある一形態においては、前記甘味物質が、単糖、二糖及び三糖から成る群から選択される少なくとも一つの糖である。
【0019】
ある一形態においては、前記非発酵ビール風味飲料の製造方法は麦汁又は大麦エキスを含有させる工程は包含しない。
【0020】
ある一形態においては、前記非発酵ビール風味飲料の製造方法は更に穀物由来タンパク質分解物を含有させる工程を包含する。
【0021】
また、本発明は、前記いずれかの方法で製造される非発酵ビール風味飲料を提供する。
【0022】
また、本発明は、8mg/ml以上の高分子糖、及び高分子糖100重量部に対して0.008〜100重量部の甘味物質を含有する非発酵ビール風味飲料を提供する。
【0023】
ある一形態においては、前記高分子糖がDE5〜24のデンプン分解物である。
【0024】
ある一形態においては、前記甘味物質が、単糖、二糖及び三糖から成る群から選択される少なくとも一つの糖である。
【0025】
ある一形態においては、前記非発酵ビール風味飲料は麦汁又は大麦エキスを含有しない。
【0026】
ある一形態においては、前記非発酵ビール風味飲料は更に穀物由来タンパク質分解物を含有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の非発酵ビール風味飲料は「のどにグッとくる飲み応え」及び「飲んだ後のキレの良さ」が増強され、適度にバランスされており、ビールらしい風味を有している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の非発酵ビール風味飲料は高分子糖を含有する。高分子糖を含有することで、得られる飲料は、飲んだときにのどに引っかかる感覚を与え、「のどにグッとくる飲み応え」を示すようになる。
【0029】
高分子糖とは各種の糖がグリコシド結合によって重合した高分子化合物をいう。高分子糖は非発酵性糖質であることが好ましい。高分子糖には、例えば、デキストリン、難消化性デキストリン等のデンプン分解物が含まれる。中でも、有効性の観点から好ましい高分子糖はデンプン分解物である。高分子糖は、分子量が低すぎると、非発酵ビール風味飲料ののどに対する引っかかり感が低下して好ましくなく、分子量が高すぎると、原料に使用する飲用水に溶解し難く好ましくない。
【0030】
デンプン分解物とは、デンプンを酵素及び/又は酸を用いて適当な分子量にまで分解したものを総称する。デンプン分解物としては、デンプンを水に分散し、これに酵素(例えば、アルファーアミラーゼ)及び/又は酸(例えば、塩酸や蓚酸)を添加し、加熱して糊化して加水分解したデキストリン、デンプンを酸焙焼して得られるデキストリンにアルファーアミラーゼなどの酵素を作用させて得られる難消化性デキストリン等が例示され、必要に応じて脱色、脱イオンなどの精製をし、液状、或は噴霧乾燥、ドラム乾燥などで粉末状にして利用できる。また、これらに水素添加した還元デンプン分解物も同じように効果があるのでこれも包含する。
【0031】
これらデンプン分解物の中でも、非発酵ビール風味飲料ののどに対する引っかかり感を考慮すると、DE5〜24のものが適している。DEが5未満では、デンプン分解物が溶解性に劣り、非発酵ビール風味飲料の貯蔵中に白濁などの現象がみられて外観が悪くなる。DEが24を越えると、非発酵ビール風味飲料ののどに対する引っかかり感が弱く、風味のバランスが悪くなる。好ましくは、デンプン分解物のDEは10〜20であり、より好ましくは13〜17である。
【0032】
本発明の非発酵ビール風味飲料に含まれる高分子糖の量は、濃度約8mg/ml以上である。高分子糖の濃度が約8mg/ml未満になると、非発酵ビール風味飲料ののどに対する引っかかり感が弱くなる。好ましくは、高分子糖の濃度は12〜50mg/ml、より好ましくは16〜32mg/mlである。高分子糖の濃度が50mg/mlを超えると、非発酵ビール風味飲料の風味が悪くなることがある。
【0033】
本発明の非発酵ビール風味飲料は甘味物質を含有する。甘味物質とは、ヒトが口に含んだときに甘味を感じる物質をいう。代表的な甘味物質は甘味料である。甘味料とは、飲料又は食品に甘みを付けるために使用される調味料をいう。甘味物質を含有することで、得られる飲料は、酸味と甘味のバランスが良くなり、酸味又は甘味等の後味感を与え難くなり、「飲んだ後のキレの良さ」を示すようになる。
【0034】
甘味物質の例として、糖類または糖アルコール類、高甘味度甘味料等が挙げられる。上記糖類としては、ぶどう糖、果糖、木糖、ソルボース、ガラクトース、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、高果糖液糖など)、蔗糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、パラチノース、イソマルトース、マルトトリオース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノースなどが挙げられる。上記糖アルコール類としては、例えば、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトールなどが挙げられる。上記高甘味度甘味料としては、例えばアスパルテーム、ステビア、酵素処理ステビア、ソーマチン、スクラロース、アセスルファムK等が挙げられる。
【0035】
甘味物質は低分子糖であることが好ましい。低分子糖とは各種の糖がグリコシド結合によってつながったオリゴマーをいう。より好ましい甘味物質は、単糖、二糖及び三糖から成る群から選択される一種以上である。更に好ましい甘味物質は、グルコース、フルクトース、マルトース、果糖ぶどう糖及びぶどう糖果糖から成る群から選択される一種以上である。
【0036】
本発明の非発酵ビール風味飲料に含まれる甘味物質の量は、高分子糖100重量部に対して0.008〜100重量部の間で適宜調節される。非発酵ビール風味飲料中の甘味物質の含有量が高分子糖100重量部に対して0.008重量部未満であると、非発酵ビール風味飲料は酸味等の後味感を与え易くなり、好ましくない。甘味物質の含有量が高分子糖100重量部に対して100重量部を超えると、後味感として甘味が残り易くなり、好ましくない。
【0037】
非発酵ビール風味飲料に含まれる甘味物質の濃度は、ショ糖換算で1〜18mg/mlとなるように適宜調節される。
【0038】
例えば、甘味物質の含有量は、非発酵ビール風味飲料に含まれるエタノールの量を考慮して調節される。エタノールは呈味機能として甘味も有しているからである。なお、添加するエタノールの形態は限定されず、例えば、原料用アルコール、ビール、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジン、スピリッツ等を添加できる。
【0039】
非発酵ビール風味飲料がエタノールを実質的に含まない非発酵ビール風味炭酸飲料である場合、甘味物質の含有量は、高分子糖100重量部に対して0.008〜100重量部、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは20〜80重量部、更に好ましくは30〜65重量部である。
【0040】
この場合は、非発酵ビール風味飲料に含まれる甘味物質の濃度は、ショ糖換算で1〜18mg/ml、好ましくは4〜13mg/ml、より好ましくは6〜11mg/mlである。
【0041】
非発酵ビール風味飲料がエタノールを実質的に含む非発酵ビール風味アルコール飲料である場合、例えば、アルコール度数が1〜10度である場合、甘味物質の含有量は、高分子糖100重量部に対して0.008〜10重量部、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜8重量部、更に好ましくは3〜6.5重量部である。
【0042】
この場合は、非発酵ビール風味飲料に含まれる甘味物質の濃度は、ショ糖換算で0.1〜1.8mg/ml、好ましくは0.4〜1.3mg/ml、より好ましくは0.6〜1.1mg/mlである。
【0043】
本発明の非発酵ビール風味飲料は穀物由来タンパク質分解物を含有することが好ましい。穀物由来タンパク質分解物を含有することで、非発酵ビール風味飲料の飲んだときにのどに引っかかる感覚、すなわち、「のどにグッとくる飲み応え」がより増強される。
【0044】
穀物由来タンパク分解物とは、大豆、エンドウ、トウモロコシ、小麦、大麦、米、落花生、菜種、ヒマワリ等から得られた、分離たん白等のタンパク質を多く含む画分を植物タンパク原料とし、この穀物タンパク原料を酸、アルカリまたは酵素によって加水分解したものである。穀物由来タンパク原料としては、大豆およびエンドウ等の豆科植物に由来する蛋白質が好ましく、加水分解方法は酵素法が好ましい。酵素法は、1種または2種以上のプロテアーゼを用い、それらに適した温度、pH、時間で加水分解を行う。分解の程度は適宜調節することができるが、概ね15重量%TCA可溶化率30〜100%が適している。また、分子サイズが大きすぎると、後工程や保存中にオリとなって不溶化してくる画分が多く、小さすぎると違和感のある旨味の原因となりやすくなる。よって、穀物由来タンパク分解物中に含有する水溶性画分の平均分子量が、550以上3、000以下、好ましくは600以上1、500以下が適している。
【0045】
尚、上記穀物由来タンパク分解物のパラメータである15重量%TCA可溶化率、及び水溶性画分の平均分子量の意義は、特許文献1の第0017段落及び第0018段落にそれぞれ記載されている通りである。
【0046】
本発明の非発酵ビール風味飲料に含まれる穀物由来タンパク質分解物の量は、少なすぎると効果が弱く、多すぎると逆に雑味の原因となり易く、更にpH上昇による微生物リスクを引き起こす原因となりうる。一般には、最終の飲料中の濃度が10mg/ml以下、好ましくは0.1〜6mg/ml、より好ましくは0.5〜4mg/mlになる量で使用される。
【0047】
本発明の非発酵ビール風味飲料は、麦汁又は大麦エキスを含有しないことが好ましい。麦汁とは大麦麦芽を粉砕して糖化を行った液をいう。大麦エキスとは大麦、大麦麦芽又はこれらの粉砕物から水又は熱湯で成分を抽出した抽出液、抽出液の濃縮物又は乾燥物をいう。麦汁又は大麦エキスは比較的低分子量の糖又は窒素源を多く含み、それ自体で甘味や旨味が強い。そのため、麦汁又は大麦エキスを非発酵ビール風味飲料に含有させると、風味のバランスを整え難く、後味として甘味が残ったり、不快な臭気が発生し易くなるからである。
【0048】
本来、酵母発酵させたビール風味飲料では、低分子量の糖や窒素源は酵母に資化され、最終製品にはほとんど含まれていない。逆に、高分子量の糖は酵母に資化されないために最終製品にそのまま残存する。発酵ビール風味飲料では、この少量の低分子糖(甘味物質)と多量の高分子糖の含有バランスによって、過度な甘味や旨味といった過剰な後味が抑制され、のどにグッとくる飲み応えが提供され、ビールらしい風味が実現されていると考えられる。
【0049】
本発明の非発酵ビール風味飲料は、ビール特有の爽やかな苦味を再現するために、ホップ又はホップエキスを含有することが好ましい。ホップまたはホップエキスとは、ホップの葉やその磨砕物、これらを水や熱湯で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物や乾燥物を指す。ホップまたはホップ抽出物の添加量は、ホップに由来する風味が与えられる量であり、例えば最終の飲料当たり、原料ホップ(乾燥物)に換算して、概ね0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%が例示できる。
【0050】
他にも、本発明の非発酵ビール風味飲料には、本発明の目的を損わない範囲において、糖類、糖アルコール、サポニン等の各種配糖体、香料、食物繊維や多糖類、酸類、酵母エキス等の原料を併用することができる。糖類としては、グルコース、フルクトース、マルトース等の還元糖や蔗糖等の少糖類、各種デキストリンやオリゴ糖類が挙げられ、香料としては、モルトフレーバー、ホップフレーバー、ビールフレーバー、アルコールフレーバー、カラメルフレーバー等を挙げることができる。酸類としては、クエン酸、乳酸酸、酒石酸等の有機酸や、塩酸、リン酸等の鉱酸が例示できる。
【0051】
本発明の非発酵ビール風味飲料の製造方法は、非発酵ビール風味飲料を製造する際に通常行われる工程を包含する。一例として、まず、高分子糖、甘味物質及びその他の成分を所定量混合して配合物を調製する。次いで、配合物に飲用水を所定量添加して一次原料液を調製する。一次原料液を煮沸後、必要に応じて発酵アルコールを加え、カーボネーション工程によって炭酸を添加する。
【0052】
必要により、各段階において、濾過、遠心分離等で沈澱を分離除去することもできる。また、上記原料液を濃厚な状態で作成した後に、炭酸水を添加しても良い。これらは通常のソフトドリンクの製造プロセスを用いることで、発酵設備を持たなくても、簡便に非発酵ビール風味飲料の調製が可能である。
【0053】
カーボネーション工程や炭酸水添加工程の前に沈殿を除去すると、オリや雑味の原因物質が除去でき、より望ましい。尚、カーボネーション工程や炭酸水の添加工程の前に、必要に応じてろ過又は殺菌を行ってもよい。
【0054】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0055】
実施例1
非発酵ビール風味炭酸飲料の製造
配合成分として、高分子糖であるDE14のデキストリン(松谷化学工業社製「液状デキストリン」)、甘味物質であるマルトース(昭和産業社製「MR70」)、大豆タンパク質分解物である大豆ペプチド等を準備した。
【0056】
表1に掲げる配合成分を数値で示した量(g)だけ混合し、得られた配合物に1Lになるように水を加えて一次原料液を調製し、これを1時間煮沸した。一次原料液を冷却後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施した。次いで、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させて、非発酵ビール風味炭酸飲料を得た。
【0057】
[表1]
【0058】
得られた非発酵ビール風味炭酸飲料の官能評価を行った。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。評価はビール類専門パネル13人による各9点満点の評価を平均した。結果を表2に示す。
【0059】
[表2]
【0060】
対照区1、2では「のどにグッとくる飲み応え」や「ビールらしさ」で当社ビールの対照区3と比べ非常に低い評価を受けているのに対し、試験区では高分子糖が増えるに従って、「のどにグッとくる飲み応え」や「ビールらしさ」という評価は上昇している事が確認された。
【0061】
実施例2
非発酵ビール風味アルコール飲料の製造
実施例1で用いたものと同じ配合成分を準備した。
【0062】
表3に掲げる配合成分を数値で示した量(g)だけ混合し、得られた配合物に0.95Lになるように水を加えて一次原料液を調製し、これを1時間煮沸した。一次原料液を冷却後、蒸発分の水を追加し、更に0.05L分95度以上の原料用アルコールを加え、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施した。次いで、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させて、非発酵ビール風味アルコール飲料を得た。
【0063】
[表3]
【0064】
得られた非発酵ビール風味アルコール飲料の官能評価を行った。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。評価はビール類専門パネル13人による各9点満点の評価を平均した。結果を表4に示す。
【0065】
[表4]
【0066】
対照区4、5では「のどにグッとくる飲み応え」や「ビールらしさ」で当社ビールの対照区6と比べ非常に低い評価を受けているのに対し、試験区では高分子糖が増えるに従って、「のどにグッとくる飲み応え」や「ビールらしさ」という評価は上昇している事が確認された。
【0067】
実施例3
高分子糖の種類による影響
配合成分として、高分子糖であるDE25のデキストリン(松谷化学工業社製「パインデックス#3」)、DE20のデキストリン(昭和産業社製「LDX35−20」)、DE15のデキストリン(松谷化学工業社製「グリスター」)、DE14のデキストリン(松谷化学工業社製「液状デキストリン」)、DE11のデキストリン(松谷化学工業社製「パインデックス#2」)、DE11の難消化性デキストリン(松谷化学工業社製「ファイバーソル2」)、DE4のデキストリン(松谷化学工業社製「パインデックス#100」)、甘味物質であるマルトース(昭和産業社製「MR70」)、大豆タンパク質分解物である大豆ペプチド等を準備した。
【0068】
表5に掲げる配合成分を数値で示した量(g)だけ混合し、得られた配合物に1Lになるように水を加えて一次原料液を調製し、これを1時間煮沸した。一次原料液を冷却後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施した。次いで、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させて、非発酵ビール風味炭酸飲料を得た。
【0069】
[表5]
【0070】
得られた非発酵ビール風味炭酸飲料の官能評価を行った。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。評価はビール類専門パネル5人による各9点満点の評価を平均した。結果を表6に示す。
【0071】
[表6]
【0072】
対照区7では「のどにグッとくる飲み応え」や「飲んだ後のキレの良さ」や「ビールらしさ」が低い評価を受けているのに対し、試験区ではデキストリンでも難消化性デキストリンでもDEが下がるにつれ、「のどにグッとくる飲み応え」や「飲んだ後のキレの良さ」や「ビールらしさ」という評価は上昇している事が確認された。一方でDE4のデキストリンでは溶解性が非常に悪く、製造効率を考えた際、このレベル分解度の糖を使用するのは現実的ではないと考えられた。
【0073】
実施例4
甘味物質の種類及び甘味料の配合による影響
配合成分として、高分子糖であるDE14のデキストリン(松谷化学工業社製「液状デキストリン」)、甘味物質であるグルコース(日本食品化工社製「液状ぶどう糖」)、フルクトース(日本食品化工社製「フジフラクトL−95」)、マルトース(昭和産業社製「MR70」)、マルトトリオース(群栄化学工業社製「ピュアトースL」)、スクロース(日新カップ社製「S67F」、果糖ぶどう糖(昭和産業社製「NF55」)、アセスルファムカリウム(キリン協和フーズ社製「サネット」)、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製「スクラロース」)、ステビア(守田化学工業社製「レバウディオ」)、アスパルテーム(味の素社製「PAL SWEET」)、ソーマチン(三栄源エフ・エフ・アイ社製「サンスイート」)、大豆タンパク質分解物である大豆ペプチド等を準備した。
【0074】
表7に掲げる配合成分を数値で示した量(g)だけ混合し、得られた配合物に1Lになるように水を加えて一次原料液を調製し、これを1時間煮沸した。一次原料液を冷却後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施した。次いで、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させて、非発酵ビール風味炭酸飲料を得た。
【0075】
[表7−1]
【0076】
[表7−2]
【0077】
得られた非発酵ビール風味炭酸飲料の官能評価を行った。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。評価はビール類専門パネル5人による各9点満点の評価を平均した。結果を表8に示す。
【0078】
[表8]
【0079】
対照区9では「飲んだ後のキレの良さ」や「ビールらしさ」が低い評価を受けており、酸味が立ち、非常にバランスが悪く感じられた。試験区では、単糖や2糖類で比較的「ビールらしさ」が上昇しており、特にフルクトースと果糖ぶどう糖で「ビールらしさ」を始めとする評価が良い事が確認された。
【0080】
実施例5
穀物由来タンパク質分解物の効果
配合成分として、高分子糖であるDE14のデキストリン(松谷化学工業社製「液状デキストリン」)、甘味物質であるマルトース(昭和産業社製「MR70」)、穀物由来タンパク質分解物である分子質量2kDaの大豆タンパク分解物、分子質量3kDaの大豆タンパク分解物、分子質量5kDaの大豆タンパク分解物、分子質量8kDaの大豆タンパク分解物、分子質量0.5kDaのトウモロコシタンパク分解物、分子質量1kDaのトウモロコシタンパク分解物等を準備した。
【0081】
表9掲げる配合成分を数値で示した量(g)だけ混合し、得られた配合物に1Lになるように水を加えて一次原料液を調製し、これを1時間煮沸した。一次原料液を冷却後、蒸発分の水を追加し、清澄化のため珪藻土濾過およびフィルター濾過を実施した。次いで、液中に炭酸ガスを吹き込む事で炭酸ガスを2.9ガスボリュームとなるように溶解させて、非発酵ビール風味炭酸飲料を得た。
【0082】
[表9−1]
【0083】
[表9−2]
【0084】
得られた非発酵ビール風味炭酸飲料の官能評価を行った。官能評価時は香りによる影響を避けるためノーズクリップを鼻に付けた状態で実施した。評価はビール類専門パネル5人による各9点満点の評価を平均した。結果を表10に示す。
【0085】
[表10]
【0086】
対照区10では「のどにグッとくる飲み応え」や「ビールらしさ」が低い評価を受けており、酸味が立ち、非常にバランスが悪く感じられた。試験区では、全ての評価が上昇しており、特に2kDa〜8kDaの大豆タンパク質で「のどにグッとくる飲み応え」において評価が上昇している事が確認された。