特許第5793635号(P5793635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793635
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】タングステン粉及びコンデンサの陽極体
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/052 20060101AFI20150928BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20150928BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150928BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20150928BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   H01G9/05 K
   H01G9/24 C
   B22F1/00 P
   B22F5/00 H
   C22C27/04 101
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-517523(P2015-517523)
(86)(22)【出願日】2014年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2014068908
(87)【国際公開番号】WO2015029631
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-179972(P2013-179972)
(32)【優先日】2013年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
(72)【発明者】
【氏名】光本 竜一
【審査官】 柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−235949(JP,A)
【文献】 特開2003−247041(JP,A)
【文献】 特開2002−173371(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/086272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/052
B22F 1/00
B22F 5/00
C22C 27/04
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム元素及び/またはハフニウム元素を含有し、両元素のうちのいずれか含有量の多い方の元素が0.04〜1質量%含まれ、該元素はタングステン粒子表層に局在しているタングステン粉。
【請求項2】
ジルコニウム元素及び/またはハフニウム元素は、粒子表面から50nm以内に局在する請求項1に記載のタングステン粉。
【請求項3】
ジルコニウム元素及びハフニウム元素の合計が1質量%以下である請求項1または2に記載のタングステン粉。
【請求項4】
さらにケイ素元素を7質量%以下含む請求項1〜3のいずれかに記載のタングステン粉。
【請求項5】
タングステン粒子表層にジルコニウムとタングステンとの化合物またはハフニウムとタングステンとの化合物を有する請求項1〜4のいずれかに記載のタングステン粉。
【請求項6】
タングステン粉が造粒粉である請求項1〜5のいずれかに記載のタングステン粉。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のタングステン粉を焼結してなるコンデンサ陽極体。
【請求項8】
請求項7に記載のコンデンサ陽極体を一方の電極とし、対電極との間に介在する誘電体とから構成された電解コンデンサ。
【請求項9】
原料タングステン粉にジルコニウム化合物及び/またはハフニウム化合物を混合し、真空下で加熱して該タングステン粉の粒子表面と前記混合した化合物とを反応させる工程を有し、得られるタングステン粉中のジルコニウム元素またはハフニウム元素のうちのいずれか含有量の多い方の元素の含有量として0.04〜1質量%となるように前記化合物の混合量が調整されるタングステン粉の製造方法。
【請求項10】
原料タングステン粉にジルコニウム化合物及びハフニウムの化合物を混合し、真空下で加熱して該タングステン粉の粒子表面と前記化応物とを反応させる工程を有し、得られるタングステン粉中のジルコニウム元素及びハフニウム元素の含有量として合計が1質量%以下となるように前記化合物の混合量が調整される請求項9に記載のタングステン粉の製造方法。
【請求項11】
さらに、タングステン粉を造粒する工程を含む請求項9または10に記載のタングステン粉の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載のタングステン粉を焼結することを特徴とするコンデンサの陽極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン粉、コンデンサ陽極体、その製造方法、及び前記陽極体を有する電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(WO2012/086272公報)には、良好な漏れ電流(LC)特性を与える、粒子表面にケイ化タングステンを有しケイ素含有量が0.05〜7質量%であるタングステン粉、コンデンサの陽極体、電解コンデンサ、タングステン粉の製造方法及びコンデンサの陽極体の製造方法が開示されている。また、良好なLC特性を得られなかった例としてタングステン−ジルコニウム合金粉が開示されている。
【0003】
特許文献2(特開2007−294875号公報;US7362541)には、陽極と、陰極と、該陽極が陽極酸化されて形成される誘電体層とを備えた固体電解コンデンサにおいて、漏れ電流の小さいコンデンサを得るために、前記陽極は、ニオブ、アルミニウム、タンタルのいずれか又はニオブ、アルミニウム、タンタルのいずれかを主成分とする合金からなる第一金属層と、該第一金属層の表面の一部がチタン、ジルコニウム、ハフニウムのいずれかを含む第二金属層で被覆されていることを特徴とする固体電解コンデンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/086272公報
【特許文献2】特開2007−294875号公報(US7362541)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタングステン粉を使用した電解コンデンサでは、LC特性は良好ではあるものの、コンデンサの容量値のばらつきが大きいという問題があった。
従って、発明の目的は、弁作用金属としてタングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサにおける容量のばらつきを低減し得るタングステン粉、それを用いたコンデンサの陽極体、及びその陽極体を電極として用いた電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は下記のタングステン粉、コンデンサの陽極体、電解コンデンサ、タングステン粉の製造方法及びコンデンサの陽極体の製造方法を含む。
【0007】
(1)ジルコニウム元素及び/またはハフニウム元素を含有し、両元素のうちのいずれか含有量の多い方の元素が0.04〜1質量%含まれ、該元素はタングステン粒子表層に局在しているタングステン粉。
(2)ジルコニウム元素及び/またはハフニウム元素は、粒子表面から50nm以内に局在する前項1に記載のタングステン粉。
(3)ジルコニウム元素及びハフニウム元素の合計が1質量%以下である前項1または2に記載のタングステン粉。
(4)さらにケイ素元素を7質量%以下含む前項1〜3のいずれかに記載のタングステン粉。
(5)タングステン粒子表層にジルコニウムとタングステンとの化合物またはハフニウムとタングステンとの化合物を有する前項1〜4のいずれかに記載のタングステン粉。
(6)タングステン粉が造粒粉である前項1〜5のいずれかに記載のタングステン粉。
(7)前項1〜6のいずれかに記載のタングステン粉を焼結してなるコンデンサ陽極体。
(8)前項7に記載のコンデンサ陽極体を一方の電極とし、対電極との間に介在する誘電体とから構成された電解コンデンサ。
(9)原料タングステン粉にジルコニウム化合物及び/またはハフニウム化合物を混合し、真空下で加熱して該タングステン粉の粒子表面と前記混合した化合物とを反応させる工程を有し、得られるタングステン粉中のジルコニウム元素またはハフニウム元素のうちのいずれか含有量の多い方の元素の含有量として0.04〜1質量%となるように前記化合物の混合量が調整されるタングステン粉の製造方法。
(10)原料タングステン粉にジルコニウム化合物及びハフニウムの化合物を混合し、真空下で加熱して該タングステン粉の粒子表面と前記化応物とを反応させる工程を有し、得られるタングステン粉中のジルコニウム元素及びハフニウム元素の含有量として合計が1質量%以下となるように前記化合物の混合量が調整される前項9に記載のタングステン粉の製造方法。
(11)さらに、タングステン粉を造粒する工程を含む前項9または10に記載のタングステン粉の製造方法。
(12)前項1〜6のいずれかに記載のタングステン粉を焼結することを特徴とするコンデンサの陽極体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタングステン粉を用いてコンデンサを作製することにより、容量のばらつきが小さいコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタングステン粉は、例えば、原料タングステン粉と、ジルコニウム化合物及び/またはハフニウム化合物とを混合し、真空下で加熱してタングステン粉の粒子表面と反応させて得ることができる。そのため、得られるタングステン粉中のジルコニウム元素、ハフニウム元素は、前記タングステン粉を構成する粒子表層に局在しやすい。
【0010】
本発明のタングステン粉はジルコニウム元素またはハフニウム元素のいずれかを所定量含有することによって効果が得られるが、タングステン粉中にジルコニウム元素とハフニウム元素の両方の元素を合計で所定量含有することによっても効果が得られる。本発明のタングステン粉中のジルコニウム元素またはハフニウム元素のうち、いずれか含有量の多い方の元素を0.04〜1質量%含むことが好ましい。また、タングステン粉中にジルコニウム元素とハフニウム元素の両方の元素の含有量を合計で規定する場合には、ジルコニウム元素及びハフニウム元素を合計1.2質量%以下含むことが好ましく、合計1質量%以下含むとLCが小さくなりより好ましい。
【0011】
原料タングステン粉の体積平均一次粒子径は0.1〜1μmが好ましく、0.1〜0.7μmがより好ましい。この範囲であると容量が大きいコンデンサを作製し易い。
原料タングステン粉としては市販されているものを使用することができる。
比較的粒径の小さい原料タングステン粉を得やすい方法としては、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕する方法が挙げられる。また、タングステン酸及びその塩(タングステン酸アンモニウム等)やハロゲン化タングステンの粉を水素やナトリウム等の還元剤を使用し、還元条件を適宜選択することによって得ることができる。
さらに、タングステン含有鉱物粉から直接または複数の工程を得て、還元条件を選択することによっても得ることができる。
さらに、分級して所望の粒径とした原料タングステン粉を使用することができる。
【0012】
原料タングステン粉は、後述するように造粒されたものを使用してもよい(以後、タングステン粉が造粒されたものかどうかを区別する場合は、未造粒のタングステン粉を「未造粒粉」、造粒されたタングステン粉を「造粒粉」と言う。)
【0013】
原料タングステン粉に混合するジルコニウム化合物、ハフニウム化合物及びケイ素の素材としてはいずれも市販されているものを使用することができる。
【0014】
ジルコニウム元素及びハフニウム元素は、市販の有機ジルコニウム化合物溶液及び有機ハフニウム化合物溶液をタングステン粉と混ぜ合わせ、真空下で加熱することによりタングステン粉に含有させることができる。この方法は、後述する造粒と同時に行なってもよい。なお、高温下ではジルコニウムやハフニウムのアルコキシド化合物は分解して金属となる。
【0015】
有機ジルコニウム化合物溶液及び有機ハフニウム化合物としては、例えばテトラピロール化合物溶液、アセチルアセトン化合物溶液、アミド化合物溶液、ブトキシド化合物の1−ブタノール溶液などのアルコキシド溶液を用いることができる。ブトキシド化合物は加水分解反応するので、窒素やアルゴンなど不活性ガス雰囲気下で混合することが好ましい。必要ならば、水及び酸素を除去した1−ブタノールを用いて適宜希釈してタングステン粉と混合することが好ましい。
【0016】
本発明のタングステン粉中にジルコニウム元素及びハフニウム元素を所望量残すためには、収率を考慮して所望量と当量以上のアルコキシド化合物を原料タングステン粉に混合しておく必要がある。具体的な混合量については予備実験により求めればよい。また、この方法の場合、ジルコニウム元素及びハフニウム元素はタングステン粒子表面から通常50nm以内の表層に局在して存在しやすい。このようにして作製すると、ジルコニウム元素及びハフニウム元素の大半はタングステン粒子表層に固溶して存在すると予想される。またジルコニウム元素の一部はW5Zr3またはW2Zrの結晶として存在し、ハフニウム元素の一部はW2Hfの結晶として存在する場合もある。
【0017】
原料タングステン粉に、ジルコニウム化合物、ハフニウム化合物及び後述するケイ素粉の少なくとも1種を混合する際、該タングステン粉は未造粒粉でも造粒粉でも良いが、均一に混合しやすい点から未造粒粉の方が好ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様では、本発明のタングステン粉中にケイ素元素を含ませると、得られるコンデンサの漏れ電流をより小さく抑えることができる。本発明のタングステン粉中のケイ素元素含有量は、7質量%以下が好ましく、0.05〜7質量%がより好ましく、0.2〜4質量%が特に好ましい。
【0019】
本発明のタングステン粉中にケイ素元素を含ませるためには、例えば、ケイ素粉を混合した原料タングステン粉を使用し、通常10-1Pa以下の真空度で1200〜2000℃の温度にて加熱し反応させることにより得ることができる。この方法は、後述する造粒と同時に行なってもよい。また、この方法の場合、ケイ素粉はタングステン粒子表面より反応し、W5Si3等のケイ素化タングステンが粒子表面から通常50nm以内の表層に局在して形成されやすい。そのため、一次粒子の中心部は導電率の高い金属のまま残り、コンデンサの陽極体を作製したとき、陽極体の等価直列抵抗が低く抑えられるので好ましい。
【0020】
原料タングステン粉に混合するケイ素粉としては、タングステン粉と均一に混合され易くするためにケイ素粉の細粉を使用することが好ましい。ケイ素粉の体積平均粒径として、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは0.5〜2μmである。
【0021】
造粒粉は、例えば、未造粒粉にエタノール等の液体や液状樹脂等の少なくとも1種を加えて適当な大きさの顆粒状とした後に、真空下に加熱し、焼結して得ることもできる。造粒の際、ジルコニウム化合物及び/またはハフニウム化合物を混合した未造粒粉を用いて、造粒粉を得ると同時に本発明のタングステン粉を得てもよい。より具体的には以下のようにして作製できる。
【0022】
タングステン未造粒粉(ジルコニウム元素、ハフニウム元素及び/またはケイ素元素が混合されていてもよい)を、104Pa以下の真空度で160〜500℃の温度で20分〜10時間放置した後、室温で大気下に戻し、混合し、102Pa以下の真空度で1200〜2000℃、好ましくは1200〜1500℃で、20分〜10時間放置し、室温で大気下に戻した後に解砕し、必要であれば分級して粒度分布を整え、造粒粉を得る。造粒粉の体積平均粒径は、好ましくは50〜200μm、より好ましくは100〜200μmの範囲である。この範囲であれば成形機のホッパーから金型にスムーズに流れるために好都合である。
【0023】
次に、得られた本発明のタングステン粉を成形する。例えば、該タングステン粉に成形用のバインダー樹脂(アクリル樹脂等)を混合し、成形機を用いて成形体を作製してもよい。成形する本発明のタングステン粉は、未造粒粉、造粒粉および未造粒粉と造粒粉との混合粉(一部造粒されている粉)のいずれであってもよい。好ましくは造粒粉である方がコンデンサの陽極としての良好な細孔を得やすい。
【0024】
得られる成形体には、コンデンサ素子の陽極リードとなる線材または箔片を植立させておいてもよい。陽極リードの材質としてタンタル、ニオブ、チタン、タングステン、モリブデン等の弁作用金属、または弁作用金属の合金が挙げられる。
次に、得られた成形体を真空焼結して焼結体を得ることができる。好ましい焼結条件としては、例えば、102Pa以下の真空度で、1300〜2000℃、より好ましくは1300〜1700℃、さらに好ましくは1400〜1600℃で、10〜50分、より好ましくは15〜30分である。
【0025】
得られた陽極リード付の焼結体を陽極体とし、該陽極体を電解化成することにより、陽極体表面(細孔内の表面及び外表面を含む)に誘電体層を形成することができる。さらに、誘電体層上に陰極を形成することにより、コンデンサ素子が得られる。このようなコンデンサ素子からは、陽極体を一方の電極とし、対電極との間に介在する誘電体とから構成されるコンデンサが得られる。また、このように作製されたコンデンサは、通常、電解コンデンサとなる。
【0026】
前記陰極は、電解液または半導体層で構成することができる。
陰極を半導体層で構成する場合、固体電解コンデンサ素子が得られる。例えば、半導体前駆体(例えば、ピロール、チオフェン、アニリン骨格を有するモノマー化合物、及びこれら化合物の各種誘導体から選択される少なくとも1種)を複数回、誘電体層上で重合反応させて導電性高分子からなる所望厚みの半導体層を形成し、コンデンサ素子を得ることができる。さらに、半導体層の上にカーボン層及び銀層を順次積層した電極層を設けたコンデンサ素子とすることが好ましい。このコンデンサ素子を封止し、製品となるコンデンサを得る。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
実施例及び比較例において使用したタングステン粉の体積平均粒子径、元素量及び結晶状態は、特に断りの無い限り以下の方法で測定した。
【0028】
体積平均粒子径は、マイクロトラック社製HRA9320−X100を用い、粒度分布をレーザー回折散乱法で測定し、その累積体積%が、50体積%に相当する粒径値(D50;μm)を体積平均粒径とした。なお、各実施例及び比較例で使用した原料タングステン粉は、ほとんど凝集せずに測定されるので、この方法で測定される体積平均粒子径は、ほぼ体積平均一次粒子径とみなせる。
タングステン粉中の元素量は、ICPS−8000E(島津製作所製)を用いICP発光分析で測定した。
タングステン粉中の結晶状態は、X線回析装置(X'pert PRO PANalytical製)を用いて分析した。
【0029】
実施例1〜3及び比較例1〜3:
二酸化タングステンを水素還元して得た体積平均粒径0.5μmの原料タングステン粉に、市販のジルコニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を、表1に示すZr量(質量%)となるように加えて混合し、窒素ガス雰囲気103Pa下、300℃に30分放置した。室温大気圧下に戻した後に再度混合し、10Pa下、1360℃で30分放置した。室温で大気下に戻した後にハンマーミルで解砕し、粒度26〜130μmを篩分して造粒粉(体積平均粒径105μm)を作製した。次に造粒粉100質量部にアクリル樹脂2質量部を混合した後に株式会社精研製TAP2成形機を用い、直径0.29mmのタンタル線を植立させて成形体を作製し、さらに10Pa下、1420℃で30分焼結した。室温で大気下に戻し、大きさ4.45±0.10×1.5±0.04×1.0±0.05mmで1.5×1.0mm面にタンタル線が6mm植立された焼結体を各例500個作製した。各例の造粒粉中のジルコニウム含量(質量%)を表1にまとめて示す。
【0030】
実施例4〜7及び比較例4〜5:
実施例1の原料タングステン粉を分級して体積平均粒子径0.3μmの本実施例及び比較例で使用する原料タングステン粉を得、ジルコニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)の代わりに市販のハフニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を表2に示すHf量(質量%)となるように加えた以外は実施例1と同様にして焼結体を各例500個得た。焼結体寸法は、大きさ4.45±0.13×1.5±0.06×1.0±0.06mmであった。各例の造粒粉中のハフニウム含量(質量%)を表2にまとめて示す。
【0031】
実施例8〜13及び比較例6〜7:
実施例1の原料タングステン粉を分級して体積平均粒子径0.1μmの本実施例及び比較例で使用する原料タングステン粉を得、ジルコニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)に加えてハフニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を表3に示すZr及びHf量(質量%)となるように加えた以外は実施例1と同様にして焼結体を各例500個得た。焼結体寸法は、大きさ4.44±0.08×1.5±0.08×1.0±0.07mmであった。各例の造粒粉中のジルコニウム含量とハフニウム含量(質量%)を表3にまとめて示す。
【0032】
実施例14〜16及び比較例8〜9:
実施例1でジルコニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を混合するときに同時に市販のケイ素粉(体積平均粒子径1μm)を表4に示すZr及びSi量(質量%)となるように加えた以外は実施例1と同様にして焼結体を各例500個得た。各例の造粒粉中のジルコニウム含量とケイ素含量(質量%)を表4にまとめて示す。
【0033】
実施例17〜19及び比較例10〜11:
実施例4でハフニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を混合するときに同時に市販のケイ素粉(体積平均粒子径1μm)を表5に示すHf及びSi量(質量%)となるように加えた以外は実施例4と同様にして焼結体を各例500個得た。各例の造粒粉中のハフニウム含量とケイ素含量を表5にまとめて示す。
【0034】
実施例20〜26及び比較例12〜13:
実施例8でジルコニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)とハフニウムt−ブトキシド(80%1−ブタノール溶液)を混合するときに同時に市販のケイ素粉(体積平均粒子径1μm)を表6に示すZr、Hf及びSi量(質量%)となるように加えた以外実施例8と同様にして焼結体を各例500個得た。各例の造粒粉中のジルコニウム含量、ハフニウム含量及びケイ素含量(質量%)を表6にまとめて示す。
【0035】
ここで、比較例1を除く各例における造粒粉をスパッタリングしてオージェ電子分光法により分析したところ、ジルコニウム元素またはハフニウム元素は造粒粉の粒子表面から30nmまでの範囲に存在することが分かった。
【0036】
実施例3及び7の造粒粉についてX線回析の分析を行ったところ、実施例3の造粒粉の粒子表面より反応物としてW5Zr3が、実施例7の造粒粉の粒子表面より反応物としてW2Hfがそれぞれ若干量検出された。本発明のタングステン粉の粒子表層には、少なくとも前記反応物の結晶など、ジルコニウムとタングステンとの化合物またはハフニウムとタングステンとの化合物が存在すると考えられる。
【0037】
また、同様のオージェ電子分光法分析で実施例14〜26及び比較例8〜13の造粒粉を分析したところ、ケイ化タングステンは造粒粉の粒子表面から30nmまでの範囲に存在することが分かった。さらにX線回析’の分析から、造粒粉の粒子表面より反応物としてケイ化タングステンが検出された。検出されたケイ化タングステンのほとんどがW5Si3であった。すなわち、ケイ素が造粒粉の粒子表層の少なくとも一部で、ケイ化タングステンとして存在することが確認された。
【0038】
実施例1〜26及び比較例1〜13の焼結体を電解コンデンサの陽極体として用い、容量及びLC値を求めた。陽極体を0.1質量%の硝酸水溶液中で10Vで5時間化成し、陽極体表面に誘電体層を形成した。誘電体層を形成した陽極体を、白金黒を陰極とした30%硫酸水溶液中に漬け、電解コンデンサを形成し、容量及びLC値を測定した。容量は、アジレント製LCRメーターを用い、室温、120Hz、バイアス2.5V値での値で測定した。LC値は、室温で2.5Vを印加して30秒後に測定した。各実施例及び各比較例の結果を表1〜6に併記する。なお、数値は、各例32個の平均値である。
【0039】
表1〜3からジルコニウム(Zr)元素及び/またはハフニウム(Hf)元素を所定量含むタングステン粉の焼結体から作製した実施例1〜13の電解コンデンサは、Zr元素及び/またはHf元素を所定量含まない比較例1〜7の電解コンデンサに比べて容量のばらつきが小さいことが分かる。ジルコニウム元素及びハフニウム元素の合計が1質量%以下である実施例1〜12はさらにLCも小さいことが分かる。また、表4〜6の所定量のケイ素元素を含むタングステン粉の焼結体(実施例14〜26)を化成して得た電解コンデンサは、容量のばらつきが小さいことが分かる。ジルコニウム元素及びハフニウム元素の合計が1質量%以下である実施例14〜24はさらにLCも小さいことが分かる。
ジルコニウム元素及びハフニウム元素の作用機序は明らかではないが、ジルコニウムやハフニウムは、化成により金属から酸化物となる際の密度変化がタングステンより小さいために誘電体膜がより均一で緻密になることが考えられ、容量ばらつきが小さいことや、LCが小さくなりやすいことと何らかの関係があるものと考えられる。
【0040】
【表1】
表中、「±」を用いて表される範囲は、測定された試料がその範囲にすべて入っていたことを示す。これは表2〜6でも同様である。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0046】
ジルコニウム元素またはハフニウム元素のいずれか含有量の多い方の元素が0.04〜1質量%含まれ、該元素がタングステン粒子表層に局在しているタングステン粉またはその造粒粉を焼結した焼結体をコンデンサの陽極体として使用することにより容量のばらつきが低減され、安定して容量が大きな電解コンデンサを製造することができる。