(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793724
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】脳梗塞治療材
(51)【国際特許分類】
A61K 35/32 20150101AFI20150928BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20150928BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20150928BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
A61K35/32
A61K37/02
A61P9/10
A61P25/00
【請求項の数】8
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2010-525733(P2010-525733)
(86)(22)【出願日】2009年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2009065024
(87)【国際公開番号】WO2010021412
(87)【国際公開日】20100225
【審査請求日】2012年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2008-214205(P2008-214205)
(32)【優先日】2008年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 美砂子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌彦
【審査官】
加藤 文彦
(56)【参考文献】
【文献】
杉山昌彦 他,歯髄由来CD-31-SP細胞の脳虚血疾患治療に対する有効性の検討,再生医療,2008年 2月,Vol.7,p.255
【文献】
杉山昌彦 他,歯髄CD31陰性SP細胞の歯髄および脳組織における神経・血管再生に対する効果の検討,日本歯科保存学会学術大会プログラムおよび講演抄録集,2008年 5月,Vol.128th,p.49
【文献】
Stem cells,2007年,Vol.26, No.3,p.638-645
【文献】
Stem cells,2006年,Vol.24,p.2493-2503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/32
A61K 38/00
A61P 9/10
A61P 25/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト歯髄幹細胞集団から分取されたCD105陽性細胞(SP細胞を除く)及び前記CD105陽性細胞の分泌蛋白質を含む培養上清のうち少なくとも何れか一つからなることを特徴とする脳梗塞治療材。
【請求項2】
前記CD105陽性細胞が、脳梗塞周囲部で、細胞遊走因子、細胞増殖因子、血管新生因子及び神経栄養因子のうち少なくとも何れか一つを含む因子を発現することを特徴とする請求項1記載の脳梗塞治療材。
【請求項3】
前記細胞遊走因子が、SDF1、GCSF、MMP3、Slit及びGMCSFのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項2記載の脳梗塞治療材。
【請求項4】
前記神経栄養因子が、VEGF、NGF、GDNF、BDNF、LIF、MYC、Neurotrophine3、TP53及びBAXのうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項2記載の脳梗塞治療材。
【請求項5】
前記細胞増殖因子が、bFGF及びPDGFの少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項2記載の脳梗塞治療材。
【請求項6】
前記血管新生因子が、PGF、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL10、ANPEP、NRP1、TGFβ、ECGF1、ID1及びCSF3のうち少なくとも何れか一つであることを特徴とする請求項2記載の脳梗塞治療材。
【請求項7】
前記CD105陽性細胞の濃度が、1×105セル/μl以上1×107セル/μl以下であることを特徴とする請求項1記載の脳梗塞治療材。
【請求項8】
前記CD105陽性細胞は、永久歯又は乳歯由来の歯髄幹細胞であることを特徴とする請求項1記載の脳梗塞治療材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳梗塞治療
材に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害は我が国の死亡原因の第2位を占め、死亡しなくても寝たきりになる最も大きな原因となる。そのため、高齢化社会において、脳血管障害に対する適切な治療法の開発は急務である。
脳血管障害の中で脳梗塞・脳血栓等の虚血性脳血管障害は最も頻度が高く、脳梗塞で死亡する率は心筋梗塞と虚血性心疾患との合計より多い。
現在のところ、麻痺した原因が脳梗塞であれば最新治療が有効なのは発症後3時間以内といわれる。
そして、rtPa(recombinant tissue plasminogen activator)点滴静注治療は、再開通効果を期待でき、障害が発生した脳機能のうち約30%まで機能回復する。
しかしながら、rtPa点滴静注治療は、脳内出血の副作用のため約2%しか使えないという欠点がある。
また、カテーテルを用いた血栓溶解療法は厚生省に認可されたが、保険で通ったこれに用いる薬はないのが現状である。
成体脳では新生ニューロンを産生する場所が、側脳室下帯と海馬歯状回の顆粒細胞層とに存在すると言われている。
また、脳梗塞後に生じる新しいニューロンは側脳室下帯由来であり、線条体の実質へ遊走し、鎖状細胞凝集体を形成し、線条体の神経に分化しシナプスを形成する。
また、血管は神経前駆細胞の分化制御に関わり、誘導される線条体の神経再生は血管に影響されると言われている。
脳梗塞に対して再生医療による治療法開発が進められ、ラット又はマウス脳梗塞モデルを用いた前臨床実験が行われている。
移植細胞としては骨髄、末梢血、脂肪又は臍帯血等に由来する幹細胞が使われている。また、胎生神経幹細胞又はES細胞等が使われている。これらの細胞は、脳内又は静脈内に注入している。
その結果、神経に直接分化して、脳梗塞部を減少させ、脳機能が回復されることもあるし、また梗塞周辺部の血管新生を促進することもある。
例えば、特許文献1には、脳梗塞により生じた神経損傷部位の治療等に重要な神経幹細胞を、インビトロ又はインビボで効率良く増殖誘導する方法が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、間葉系幹細胞とIGF−1とを組み合わせてなる脳梗塞部位の医療薬が記載されている。
しかしながら、これらの技術では効率的な脳梗塞部位の機能回復は困難であり、脳梗塞部位の血管障害を回復して脳機能を改善させる実効的な手法が求められる。
【特許文献1】特開2007−130026号公報
【特許文献2】特開2007−014780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、実効的に、脳梗塞部位の血管障害を回復して脳機能を改善させる脳梗塞治療
材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、この発明
に係る脳梗塞治療材は、
ヒト歯髄幹細胞集団から分取されたCD105陽性細胞
(SP細胞を除く)及び前記CD105陽性細胞の分泌蛋白質
を含む培養上清のうち少なくとも何れか一つ
からなることを特徴とする
。
前記
CD105陽性細胞が、脳梗塞周囲部で、細胞遊走因子、細胞増殖因子、血管新生因子及び神経栄養因子のうち少なくとも何れか一つを含む因子を発現することが好ましい。
前記細胞遊走因子が、SDF1、GCSF、MMP3、Slit及びGMCSFのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
前記神経栄養因子が、VEGF、NGF、GDNF、BDNF、LIF、MYC、Neurotrophine3、TP53及びBAXのうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
前記細胞増殖因子が、bFGF及びPDGFの少なくとも何れか一つであることが好ましい。
前記血管新生因子が、PGF、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL10、ANPEP、NRP1、TGFβ、ECGF1、ID1及びCSF3のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。
前記
CD105陽性細胞の濃度が、1×10
5セル/μl以上1×10
7セル/μl以下であることが好ましい。
前記
CD105陽性細胞は、永久歯又は乳歯由来の歯髄幹細胞であることが好ましい
。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係る脳梗塞治療
材は、従来にはなかった独創的で新規な脳梗塞治療
材であり、実効的に、脳梗塞部位の血管障害を回復して脳機能を改善させる。これにより脳卒中等の脳障害症状を極めて実効的に改善することができ、高齢化社会における人命救助に大きく貢献し、計り知れない利益が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1Aは、脳線条体への細胞移植を説明する図である。
図1Bは、脳割断面のマクロ像である。
図2Aは、脳梗塞周辺部の凍結切片をDCXで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図であり、脳梗塞24時間後にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植して21日目のものである。
図2Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位の凍結切片をDCXで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図2Cは、脳梗塞周辺部の、細胞を移植していないPBSコントロールをDCXで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図3Aは、脳梗塞周辺部の凍結切片をニューロフィラメントで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図であり、脳梗塞24時間後にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植して21日目のものである。
図3Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位の凍結切片をニューロフィラメントで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図3Cは、脳梗塞周辺部の、細胞を移植していないPBSコントロールをニューロフィラメントで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図4Aは、脳梗塞周辺部の凍結切片をNeuNで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図であり、脳梗塞24時間後にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植して21日目のものである。
図4Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位の凍結切片をNeuNで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図4Cは、脳梗塞周辺部の、細胞を移植していないPBSコントロールをNeuNで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図5は、脳梗塞24時間後にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植して21日目における、神経前駆細胞の密度の統計学的解析を示す図である。
図6は、脳梗塞24時間後にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植して21日目における、神経細胞の密度の統計学的解析を示す図である。
図7Aは、脳梗塞部にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合における、VEGF mRNAの発現を示す図である。
図7Bは、脳梗塞部にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合における、GDNF mRNAの発現を示す図である。
図7Cは、脳梗塞部にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合における、BDNF mRNAの発現を示す図である。
図7Dは、脳梗塞部にブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合における、NGF mRNAの発現を示す図である。
図8Aは、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合における、脳梗塞周辺部に遊走してきた移植細胞のVEGF mRNA発現上昇を示す図である。
図8Bは、Real−time RT−PCRの結果を示す図である。
図9は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清の神経前駆細胞に対する遊走効果を示す図である。
図10は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清の神経前駆細胞に対する増殖効果を示す図である。
図11は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清の神経前駆細胞に対するアポトーシス抑制効果を示す図である。
図12は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を脳梗塞ラットに移植した場合において、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を示す図である。
図13は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞、ブタ骨髄組織由来CD31陰性SP細胞、及び、ブタ脂肪組織由来CD31陰性SP細胞を、夫々、脳梗塞ラットに移植した場合において、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を示す図である。
図14Aは、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の血管への分化誘導を示す図である。
図14Bは、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の脂肪への分化誘導を示す図である。
図14Cは、脂肪への分化誘導がないコントロールの結果を示す図である。
図14Dは、Real−time RT−PCRによる脂肪への分化誘導の測定結果を示す図である。
図14Eは、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の象牙芽細胞への分化誘導を示す図である。
図14Fは、象牙芽細胞への分化誘導がないコントロールの結果を示す図である。
図14Gは、Real−time RT−PCRによる象牙芽細胞への分化誘導の測定結果を示す図である。
図15Aは、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞のneurosphere形成を示すものである。
図15Bは、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の神経分化能を示すものである。
図15Cは、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞のneurosphere形成を示すものである。
図15Dは、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の神経分化能を示すものである。
図16は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清の神経前駆細胞に対する遊走効果を説明する図である。
図17は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清の神経前駆細胞に対する増殖効果を説明する図である。
図18は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の神経前駆細胞に対するアポトーシス抑制効果を示す図である。
図19は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を脳梗塞24時間後に脳組織内線条体に細胞移植した21日目において、DCXで免疫染色し、脳梗塞周辺部の神経前駆細胞の密度を統計学的解析した図である。
図20は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を脳梗塞24時間後に脳組織内線条体に細胞移植した21日目において、NeuNで免疫蛍光染色し、脳梗塞周辺部の神経細胞の密度を統計学的解析した図である。
図21は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を脳梗塞24時間後に脳組織内線条体に細胞移植した21日目において、DCXで免疫染色し、脳梗塞周辺部の神経前駆細胞の密度を統計学的解析した図である。
図22は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を脳梗塞24時間後に脳組織内線条体に細胞移植した21日目において、NeuNで免疫染色し、脳梗塞周辺部の神経細胞の密度を統計学的解析した図である。
図23は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を脳梗塞ラットに移植後、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(脳梗塞治療材)
本実施形態に係る脳梗塞治療材は、歯髄幹細胞、歯髄幹細胞の分泌蛋白質、又はこれらの混合物を含有する。
本発明者は、歯髄幹細胞、又は、歯髄幹細胞の分泌蛋白質を脳梗塞部位に移植することにより、脳梗塞部位周辺の神経前駆細胞及び神経幹細胞の分化促進に間接的に寄与するという、従来には全く見られなかった独創的な新知見に基づいて、本発明を完成させた。
歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞及び脂肪幹細胞等の他の幹細胞よりも、脳梗塞部位を解消させる点において有利である。
歯髄組織は、例えば骨髄組織及び脂肪組織と比較して、幹細胞の含有率が高く、幹細胞の分取が容易である。例えば、SP細胞の比較では、ブタ歯髄組織:ブタ骨髄組織:ブタ脂肪組織=3%:0.3%:1.3%である。また、VEGFR2陽性細胞の比較では、ブタ歯髄組織:ブタ骨髄組織:ブタ脂肪組織=87%:43%:46%である。
また、歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞よりも増殖率が高いという点において利点がある。例えば、ブタ歯髄幹細胞は、ブタ骨髄幹細胞よりも、SP細胞継代時間の差が約2倍である。
また、歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞及び脂肪幹細胞と比較して、G−CSF、GM−CSF、MMP3、VEGF等の血管誘導因子を多く発現するという点において利点がある。例えば、CD105陽性のreal−time RT−PCRでは、イヌ歯髄幹細胞は、イヌ脂肪幹細胞よりも、G−CSF、GM−CSF、VEGFにおいて、夫々、∞倍、3.8倍、3.6倍多く発現する。
また、歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞、大動脈幹細胞及び脂肪幹細胞よりも、試験管内マトリジェル上で管状構造を形成しやすい。
また、歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞及び脂肪幹細胞よりも、血流を有意に回復し、血管新生を有意に促進する点において利点がある。例えば、下肢虚血マウスに移植すると、ブタ歯髄幹細胞は、ブタ骨髄幹細胞及びブタ脂肪幹細胞よりも、有意に血管を新生する。
また、歯髄幹細胞は、例えば骨髄幹細胞及び脂肪幹細胞と比較して、BDNF、NPY、TGFB1及びTGFB3等の神経誘導因子を多く発現するという点において利点がある。例えば、BDNFにおいて、歯髄幹細胞は、骨髄幹細胞より19倍多く発現し、脂肪幹細胞より2倍多く発現する。また、NPYにおいて、歯髄幹細胞は、骨髄幹細胞より7倍多く発現し、脂肪幹細胞より9倍多く発現する。
また、骨髄幹細胞は、骨髄穿刺の負担が大きいうえに、加齢に伴い幹細胞数が減少する点において不利である。脂肪幹細胞は、幹細胞を得るまでの採取量が多量であるため、採取効率が悪い。臍帯血幹細胞は、幹細胞の存在頻度が低いうえに、分娩から細胞採取までの時間及び臍帯血量に影響を受けやすく、安定して幹細胞を採取することができない点において不利である。ES細胞は、倫理的及び社会的問題があるうえに、安全性にも問題がある。胎生由来の神経幹細胞においても、倫理的及び社会的問題があるうえに、安全性にも問題がある。
それに対して、歯髄幹細胞は、智歯及び乳歯は採取に際して人体への侵襲性が少なく、医療廃棄物であるため倫理的問題は少なく、入手時期が限定されることもなく、採取において特別な器具及び技術を必要とせず、本明細書において示されるように高い増殖能及び多分化能を有する点において、他の幹細胞よりも有利である。
歯髄幹細胞は形質を維持したまま凍結保存が可能であり、骨髄幹細胞と比べて、T細胞の同種反応を抑制する免疫抑制活性が非常に高い。
歯髄幹細胞は、CD105陽性細胞、SP細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD133陽性細胞、CD271陽性細胞及びCD150陽性細胞のうち少なくとも何れか一つを含む。
SP細胞とは、Goodellら(J.Exp.Med.vol.183,1996年)によって発見された未分化細胞であり、フローサイトメトリーでの解析でHoechst33342という蛍光色素を細胞に取り込ませてUVで励起すると405nm及び600nmに蛍光を発する通常の細胞(未分化細胞以外の細胞)からサイトグラム上は異なった位置(左横下の蛍光の暗い部分、すなわち、“Hoechst Blue弱陽性かつHoechst Red弱陽性”)に出現する細胞集団のことである。
SP細胞は、CD31陰性、CD105陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD133陽性、CD271陽性又はCD150陽性の何れかである。
歯髄幹細胞は、脳梗塞周囲部で、細胞遊走因子、細胞増殖因子、血管新生因子又は神経栄養因子を発現する。
細胞遊走因子は、SDF1、GCSF、MMP3、Slit及びGMCSFのうち少なくとも何れか一つである。
神経栄養因子は、VEGF、NGF、GDNF、BDNF、LIF、MYC、Neurotrophine3、TP53及びBAXのうち少なくとも何れか一つである。
細胞増殖因子は、bFGF及びPDGFのうち少なくとも何れか一つである。
血管新生因子は、PGF、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL5、CXCL10、ANPEP、NRP1、TGFβ、ECGF1、ID1及びCSF3のうち少なくとも何れか一つである。
脳梗塞治療材に含有される歯髄幹細胞の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1×10
5セル/μl以上1×10
7セル/μl以下とすることが好ましい。歯髄幹細胞の濃度が1×10
5セル/μlより小さいと、神経前駆細胞及び神経細胞の分化促進に対する寄与が小さくなる可能性がありうる。一方、歯髄幹細胞の濃度が1×10
7セル/μlより大きいと、不要な歯髄幹細胞を脳梗塞部位に移植する可能性があり得るからである。
歯髄幹細胞は、脳機能改善の治療を受ける対象動物自身から抽出した細胞(自家細胞)でもよいし、また、脳機能改善の治療を受ける対象動物以外の動物から抽出した細胞(他家細胞、異種細胞)でもよい。
歯髄幹細胞は、永久歯又は乳歯由来のものを使用することができる。特に、ヒト乳歯由来の歯髄細胞には、CD105
+が約30%と多く含まれ、(ヒト永久歯由来CD31
−SP細胞ではCD105
+は約20%)、乳歯由来の歯髄幹細胞あるいは歯髄細胞は永久歯由来の歯髄幹細胞と同様に、試験管内血管誘導、下肢虚血部位での血流回復、血管新生促進効果を示す。また、CD150
+は乳歯歯髄細胞に0.5%含まれ、永久歯CD31
−SP細胞の0.2%より多い。乳歯由来の歯髄細胞は永久歯由来歯髄細胞よりも試験管内血管誘導、下肢虚血部位での血流回復・血管新生促進効果が高い。
本実施形態に係る脳梗塞治療材は、歯髄幹細胞のみならず、歯髄幹細胞の分泌蛋白質を含むものでもよい。
ここで、分泌蛋白質とは、細胞外に分泌される蛋白質である。分泌蛋白質は、N末端に分泌シグナルペプチドと呼ばれる配列を持っている。
(脳組織再生方法)
本実施形態に係る脳組織再生方法は、上述した脳梗塞治療材を、脳梗塞後、脳線条体に注入することで、脳中枢神経組織を再生し、脳機能を回復させる。
脳線条体への注入は、特に限定されるものではないが、例えば、頭頂骨の一部に穴を開けて開口することにより、行うことができる。
ここで、脳梗塞とは、脳の血管がつまったり、細くなったりして、血液の流れが悪くなり、脳の組織が死んでしまうことである。
脳線条体とは、終脳の皮質下構造である。脳線条体は、運動機能及び意志決定機能等に深く関わり、大脳基底核の主要な構成要素の一つである。
脳線条体は、新線条体又は腹側線条体のいずれでもよい。新線条体は、背側線条体とも呼ばれ、被穀と尾状核とから構成される。腹側線条体は、側坐核及び嗅結節等を含む。
脳梗塞治療材は、特に限定されるものではないが、例えば、脳梗塞発生後24時間以内に脳線条体に注入することができる。
【実施例】
【0008】
(実施例1)
本施例では、ブタ歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP移植によるラット脳梗塞後の神経再生を示す。
SD(Sprague−Dawley)ラットを用いて、中大脳動脈閉鎖術を行い、脳梗塞モデルラットを作成した。
CD31陰性SP細胞をDiIにて蛍光ラベルした後、脳梗塞24時間後に、
図1A及び
図1Bに示されるように、脳組織内の脳線条体の注入部Piに細胞移植した。なお、コントロールとしては、PBSを注入したものを用いた。
図1Aにおいて、Bはbregmaを示し、それは頭蓋の矢状縫合と冠状縫合との交点である。L1は6.0mmであり、L2は1.0mmである。
図1Bは、冠状断マクロ像である。L3は5.0mmであり、L4は6.0mmである。MLはミッドラインを示す。
細胞移植後21日目に灌流固定し、通法どおりに凍結切片を作製し、神経前駆細胞マーカーのDCX、神経マーカーのneurofilament及びNeuNを用いて、免疫染色を行った。
図2Aは、脳梗塞後にCD31陰性SP細胞を移植し、凍結切片をDCXで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図2Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位をDCXで免疫染色したものである。
図2Cは、脳梗塞後にPBSを注入し、DCXで免疫染色したものである。
この脳梗塞モデルラットでは、1か月後、大脳半球の1/4〜1/3に梗塞が生じていた。神経前駆細胞のマーカーのDCXで免疫染色(緑色)すると、梗塞部周囲にDiIにて染色(赤色)された移植細胞が集積し、その細胞とDCX陽性細胞は近接しているものの、重複はみられなかった。脳梗塞部位の反対側及びCD31陰性SP細胞を移植していない脳梗塞部周囲でも若干の陽性細胞がみられた。
次に、
図3Aは、脳梗塞後にCD31陰性SP細胞を移植し、凍結切片をneurofilamentで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図3Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位をneurofilamentで免疫染色したものである。
図3Cは、脳梗塞後にPBSを注入し、neurofilamentで免疫染色したものである。
神経細胞のマーカーのneurofilamentで免疫染色すると、その陽性細胞は脳梗塞周辺部に集積している細胞と近接しているものの、重複はみられなかった。細胞を移植していない脳梗塞周辺部では、neurofilament陽性細胞はごくわずかしかみられなかった。
次に、
図4Aは、脳梗塞後にCD31陰性SP細胞を移植し、凍結切片をNeuNで免疫蛍光染色した共焦点レーザー顕微鏡図である。
図4Bは、脳梗塞部位の反対側である正常脳の部位をNeuNで免疫染色したものである。
図4Cは、脳梗塞後にPBSを注入し、NeuNで免疫染色したものである。
NeuNにおいても、neurofilamentと同様に、陽性細胞は脳梗塞周辺部に集積している細胞と近接しているものの重複はみられなかった。また、細胞を移植していない脳梗塞周辺部では陽性細胞はごくわずかしかみられなかった。なお、NeuN染色は、神経細胞核特異的な蛋白質を染色する方法で、未分化の神経幹細胞と分化した神経細胞とを区別する際等に使用される。
これまで、脳梗塞後には、側脳室下帯由来の神経前駆細胞及び神経幹細胞が線条体の実質へ遊走し、神経に分化しシナプスを形成すると言われていた。ところが、
図2A〜
図2C、
図3A〜
図3C、及び、
図4A〜
図4Cの結果から明らかなように、PBS注入では神経前駆細胞は脳梗塞により線条体に遊走するが神経の分化がみられないこと、また細胞移植した場合、DCX、neurofilament、及び、NeuN陽性細胞と重複がみられないことから、移植細胞は神経前駆細胞又は神経細胞に直接分化せず、間接的に分化促進に関与しているということが考えられる。
次に、脳梗塞全体部を含む領域(幅6mm)において、1.2mmごとに5枚の連続切片を免疫染色し、移植したCD31陰性SP細胞の遊走がみられる脳梗塞部周囲の典型部を2カ所ずつ、1サンプルにつき計10カ所、KEYENCE蛍光顕微鏡にて撮影し、Dynamic cell countを用いてDCX及びNeuNの蛍光密度を測定することにより神経前駆細胞及び神経細胞密度を統計学的に分析した。
図5に、ブタ歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を移植した場合における、神経前駆細胞の密度の統計学的解析を示す。
図6に、ブタ歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を移植した場合における、神経細胞の密度の統計学的解析を示す。
図5に示されるように、脳梗塞部周囲における神経前駆細胞は細胞移植により、PBSコントロールと比較して約2倍に増加した。
また、
図6に示されるように、脳梗塞部周囲における神経細胞は細胞移植により、PBSコントロールと比較して約8倍に増加した。
このように、CD31陰性SP細胞を脳梗塞部位に移植することにより、脳梗塞周辺部へ神経前駆細胞が遊走し、増殖が促進され、アポトーシスが抑制され、さらに神経細胞への分化が促進されていることが示唆される。
次に、インサイチューハイブリダイゼーションにより神経栄養因子の発現を検討した。
図7Aは、脳梗塞部位周囲におけるVEGF mRNAの発現を示す。
図7Bは、脳梗塞周辺部におけるGDNF mRNAの発現を示す。
図7Cは、脳梗塞周辺部におけるBDNF mRNAの発現を示す。
図7Dは、脳梗塞周辺部におけるNGFmRNAの発現を示す。
図7A、
図7B、
図7C、及び、
図7Dに示されるように、移植細胞は脳梗塞周辺部においてVEGF mRNA、GDNF mRNA、BDNF mRNA、及び、NGF mRNAを強く発現していた。
また、特にVEGFに注目して、ブタに特異的に反応するプライマー
を用いたReal−time RT−PCRによるVEGFの発現を検討した。Real−time RT−PCRは、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR専用の装置を使用する。Real−time RT−PCRは、PCRの増幅量をリアルタイムモニターして解析するものであり、電気泳動が不要で迅速性と定量性に優れる。
図8Aは、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した脳梗塞周辺部のVEGFの発現を示す図であり、
図8Bは、Real−time RT−PCRによる測定結果を示す図である。
図8A及び
図8Bに示されるように、脳梗塞周辺部では正常のブタの脳の相当部と比べて1000倍以上のVEGF mRNA発現上昇がみられ、脳梗塞を生じていないところに移植した場合の約28倍の上昇がみられた。
このように、CD31陰性SP細胞を移植することにより、移植細胞から分泌されるVEGFをはじめとする神経栄養因子により、脳梗塞周辺部の神経前駆細胞及び神経幹細胞の分化が促進されると考えられる。
次に、培養神経前駆細胞(SHSY5Y ヒト神経芽腫細胞)を用いて、CD31陰性SP細胞の培養上清の遊走、増殖、及び、抗アポトーシス効果を検討した。
図9は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清の遊走効果を示す図である。
図9に示されるように、CD31陰性SP細胞の培養上清の遊走効果は優れていた。
図10は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清の増殖効果を示す図である。
図10に示されるように、CD31陰性SP細胞の培養上清の増殖効果は特に優れていた。
抗アポトーシス効果は400nM staurosporineによりアポトーシスを生じさせ、フローサイトメトリーによる壊死細胞及びアポトーシス細胞の割合を測定した。
図11は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞の培養上清のアポトーシス抑制効果を示す図である。
図11に示されるように、CD31陰性SP細胞の培養上清のアポトーシス抑制効果は優れていた。
さらに、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を脳梗塞ラットに移植した後、経時的に運動麻痺スコアを算定し、細胞移植による運動感覚機能の回復効果を検討した。
運動麻痺スコアの算出は、下記に示す方法によった。
1…尻尾を持って持ち上げたとき、麻痺側の上肢を突っ張らない。(1点)
2…麻痺側の下肢を引っ張ると下肢を引っ込めない。(1点)
3…体を麻痺側に倒すとそちらに傾く。(1点)
4…歩行させても歩けない。(1点)
5…直径50cmの円の中から10秒以内に歩いて抜け出せない。(1点) 20秒以内に歩いて抜け出せない。(2点) 30秒以内に歩いて抜け出せない。(3点)
6−1…麻痺側の上肢に上方向の抵抗を加えると突っ張らない。(1点)
6−2…麻痺側の上肢に前方向の抵抗を加えると突っ張らない。(1点)
6−3…麻痺側の上肢に横方向の抵抗を加えると突っ張らない。(1点)
図12は、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を示す図である。日数は、細胞を移植してからの日付である。なお、*P<0.05、**P<0.005、***P<0.001である。
図12に示されるように、細胞移植による運動感覚機能の回復効果をみると、細胞移植をした場合は9日目で運動麻痺のほぼ回復がみられるが、PBSコントロールではほとんど回復はみられなかった。運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を行うと、6日以降で細胞移植群はコントロール群のPBS注入に比べて有意に運動機能が回復することが明らかとなった。また、ブタ歯髄total細胞は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を分取する前の状態の細胞であり、そこにはブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞のみならずその他の細胞も含まれている。ブタ歯髄total細胞を移植した場合は、PBSコントロールよりも運動機能は回復しているものの、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞を移植した場合よりも、運動機能の回復は劣る。これより、運動機能の回復は、ブタ歯髄total細胞を移植するよりも、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞のみを選択して移植するほうが優れていることが判明した。
また、本発明者は、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞、ブタ歯髄total細胞、ブタ骨髄組織由来CD31陰性SP細胞、及び、ブタ脂肪組織由来CD31陰性SP細胞を、夫々、比較して、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を行った。
図13に示されるように、ブタ歯髄組織由来CD31陰性SP細胞は、ブタ骨髄組織由来CD31陰性SP細胞及びブタ脂肪組織由来CD31陰性SP細胞よりも、有意に運動機能が回復することが明らかとなった。従って、歯髄幹細胞が骨髄幹細胞及び脂肪幹細胞よりも脳梗塞の機能改善に有利であることが示唆された。
(実施例2)
本実施例では、実施例1と異なり、ヒト歯髄組織由来の歯髄細胞を使用する。表1は、ヒト歯髄組織由来CD31
−SP細胞及びブタ歯髄組織由来CD31
−SP細胞の性質を示すものである。
【表1】
表1に示すように、フローサイトメトリーにて、ヒト歯髄組織由来CD31
−SP細胞は、ブタ歯髄組織由来CD31
−SP細胞と比較して、CD90及びCD150を高発現していた。また、ヒト歯髄組織由来CD31
−SP細胞は、ヒトtotal歯髄細胞と比較して、CD105を高発現していた。
本施例では、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞移植による、ラット脳梗塞後の神経再生を示す。
表2は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の性質を示すものである。
【表2】
表2に示すように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒトtotal歯髄細胞よりも、神経幹細胞のマーカーCD24及びCD271、並びにより未分化な幹細胞マーカーCD150を高発現していた。よって、CD105
+細胞はCD31
−;CD146
−SP細胞及びヒトtotal歯髄細胞よりも神経幹細胞及びより未分化な幹細胞をより多く含むことが示唆される。
次に、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の特徴を明らかにするために、多分化能を検討した。
図14Aに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、血管に誘導された。
また、
図14Bに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、脂肪に誘導された。一方、
図14Cに示されるように、PBSコントロールでは、脂肪への誘導は見られなかった。
図14Dは、Real−time RT−PCRによる測定結果である。なお、PPARγは脂肪細胞に特異的な分化マーカーである。
また、
図14Eに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、象牙芽細胞に誘導された。一方、
図14Fに示されるように、PBSコントロールでは、象牙芽細胞への誘導は見られなかった。
図14Gは、Real−time RT−PCRによる測定結果である。なお、Dspp及びEnamelysinは象牙芽細胞に特異的な分化マーカーである。
図14D及び
図14Gで示したプライマーである、PPARγ、β−アクチン、Dspp、及び、Enamelysin(マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)20)については、表3に示す。
【表3】
次に、
図15Aに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞はneurosphere形成を示した。また、
図15Bに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は神経分化能を有していた。
また、
図15Cに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞はneurosphere形成を示した。また、
図15Dに示されるように、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞は神経分化能を有していた。
次に、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞につき、Real−time RT−PCRによる神経栄養因子及び幹細胞マーカーの発現を検討し、結果を下記表4に示す。
【表4】
なお、BDNF、NGF、GDNF、Neurotrophin3、VEGFA、Stat3、及び、Bmi1のプライマーについては、表5に示す。
【表5】
ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞はtotalの歯髄細胞に比べてbrain−derived neurotrophic factor(BDNF)及びnerve growth factor(NGF) mRNAの発現が4〜5倍と高かった。ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞に比べ、BDNFについては約4倍高い発現がみられ、NGF mRNAについては約5.6倍の高い発現がみられた。両細胞画分のVEGFA mRNAはtotalの歯髄細胞に比べて4〜5倍の発現がみられた。
一方、glial cell−derived neurotrophic factor(GDNF) mRNAについては、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞はtotalの歯髄細胞に比べて約4倍の発現の増加がみられた。また、glial cell−derived neurotrophic factor(GDNF) mRNAにつき、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞に比べ、約10.2倍の発現の増加がみられた。
即ち、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞は、BDNF及びNGFを強く発現していることが明らかとなった。また、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、GDNF mRNAを強く発現していることが明らかとなった。
幹細胞マーカーであるStat3 mRNAについては、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞はヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の約5.8倍強く発現していた。幹細胞マーカーであるBmi1 mRNAについては、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞はヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の約4倍強く発現していた。
以上より、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の遊走及び増殖促進効果は主にBDNF及びNGFによるものであり、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞のそれは主にGDNFによるものと考えられる。
次に、培養神経前駆細胞(SHSY5Y ヒト神経芽腫細胞)を用いて、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の培養上清の遊走、増殖効果、及び、アポトーシス抑制効果を検討した。
図16は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清の遊走促進を説明する図である。
図16に示すように、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の上清は、コントロールに比べ有意に遊走を促進した。
図17は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清の増殖促進を説明する図である。
図17に示すように、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の上清は、コントロールに比べ有意に増殖を促進した。また、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の培養上清は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清よりも、24時間後において有意差を有して増殖を促進しており、更に48時間後において両者の有意差は顕著なものであった。
図18は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞のアポトーシス抑制効果を示す図である。
図18に示すように、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の培養上清は、コントロールに比べ有意にアポートシスを抑制した。また、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞の培養上清は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞の培養上清よりも、より顕著にアポートシスを抑制した。
次に、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を、脳梗塞後に脳組織内線条体に細胞移植し、経時的に運動麻痺スコアを算定し、細胞移植による運動機能の回復効果を検討した。
実施例1と同様に、SDラットを用いて、脳梗塞モデルを作成した。ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びCD105
+細胞をDiIにて蛍光ラベルした後、脳梗塞24時間後に、脳組織内線条体に細胞移植した。
コントロールとしては、PBSを注入したものを用いた。脳梗塞21日後に灌流固定し、通法どおりに凍結切片を作製し、神経前駆細胞マーカーのDCX及び神経マーカーのNeuNを用いて免疫染色を行った。更に、細胞移植後、経時的に運動麻痺スコアを算定し、細胞移植による運動感覚機能の回復効果を検討した。
図19は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を脳梗塞後に脳組織内線条体に細胞移植後、21日目において、DCXで免疫染色し、神経前駆細胞の密度を統計学的解析した図である。
図19に示すように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を移植すると、脳梗塞部周囲における神経前駆細胞は細胞移植により約3倍に増加した。
図20は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞を脳梗塞後に脳組織内線条体に細胞移植後、21日目において、NeuNで免疫蛍光染色し、神経細胞の密度を統計学的解析した図である。神経細胞は反対側の正常脳の相当部と比較して神経走行は乱れているものの、
図20に示すように、脳梗塞周囲に、PBS注入に比べて有意に神経細胞の増加がみられた。
図21は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を、別々の脳梗塞SDラットに対し、脳組織内線条体に夫々細胞移植後、21日目において、DCXで免疫染色し、神経前駆細胞の密度を統計学的解析して比較した図である。
図21に示すように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞よりも、神経前駆細胞の増殖促進能が顕著であった。
図22は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を、別々の脳梗塞SDラットに対し、脳組織内線条体に夫々細胞移植後、21日目において、NeuNで免疫染色し、神経細胞の密度を統計学的解析して比較した図である。
図22に示すように、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞よりも、神経細胞の分化促進能が顕著であった。
よって、ヒト歯髄組織由来の移植細胞は、ブタ歯髄組織由来の移植細胞と同様に、神経前駆細胞又は神経細胞に直接分化せず、間接的に分化促進に関与することが実証された。
図23は、ヒト歯髄組織由来CD105
+細胞及びヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞を、別々の脳梗塞SDラットに対して移植後、運動麻痺スコアを経時的に算定し、統計学的な解析を比較する図である。日数は、細胞を移植してからの日付である。
図23に示すように、運動麻痺スコアを算定すると、ヒト歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞及びヒト歯髄組織由来CD105
+細胞は、PBS注入に比べて、両者ともに、有意な運動麻痺の回復がみられた。
上述の実施例にて示されたように、歯髄組織由来CD105
+細胞及び歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞は、細胞遊走能、細胞増殖能、及び、アポートシス抑制能に優れており、また、神経前駆細胞増殖能及び神経細胞の分化促進能に優れている。
また、上述の実施例にて示されたように、歯髄組織由来CD105
+細胞は、歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞よりも、細胞増殖能、及び、アポートシス抑制能に優れている。歯髄組織由来CD105
+細胞の歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞に対する顕著な優位は、予測できるものではなく、本発明者の実験により始めて明らかになったものである。
更に、歯髄組織由来CD31
−;CD146
−SP細胞は、分取するためにフローサイトメトリーを使用するところ、フローサイトメトリーは他個体に由来する細胞のコンタミネーションの可能性がある。そのため、フローサイトメトリーを使用する分取では、安全性の観点から、臨床では使用できない。一方、歯髄組織由来CD105
+細胞は、特に限定されるものではないが、例えば免疫磁気ビーズ法にて分取できる。免疫磁気ビーズ法は、チューブの中に試料と免疫磁気ビーズ(細胞の表面抗原に対する抗体に磁気ビーズがついたもの)を入れて反応させ、カラムにサンプルを吸着させ、分離する方法であり、コンタミネーションの危険性がない。そのため、歯髄組織由来CD105
+細胞を使用する脳梗塞治療材は、臨床にて即座に使用でき、脳血管障害に対する適切な治療手段を直ちに提供できるという大きな利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明に係る脳梗塞治療材は、神経前駆細胞増殖能に優れており、神経細胞の分化促進能にも優れている。また、本発明に係る脳梗塞治療材は、臨床にて即座に使用でき、脳血管障害に対する適切な治療手段を直ちに提供できる。
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