特許第5793877号(P5793877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793877
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】四輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   B60K17/348 B
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-20823(P2011-20823)
(22)【出願日】2011年2月2日
(65)【公開番号】特開2012-158299(P2012-158299A)
(43)【公開日】2012年8月23日
【審査請求日】2014年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100083013
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 正明
(72)【発明者】
【氏名】八木 康
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−106138(JP,A)
【文献】 特開平09−272355(JP,A)
【文献】 特開平07−144552(JP,A)
【文献】 特開平05−319122(JP,A)
【文献】 特開昭61−193931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、
主駆動輪及び従駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、
前記スリップ量検出手段により検出された主駆動輪のスリップ量及び該主駆動輪への伝達トルク量に基づき主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、
前記スリップ量検出手段により検出された従駆動輪のスリップ量及び該従駆動輪への伝達トルク量に基づく従駆動輪の駆動ロスと、従駆動輪への前記出力の分配により発生する機械損失に基づく従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、
前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、
前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、
を有し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、
ことを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、
主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、
主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、
従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、
前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、
前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、
を有し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとが同一となるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、
ことを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、
主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、
主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、
従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、
前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、
前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、
を有し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、
前記分配制御手段は、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスが所定量以上であるとき、従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、
ことを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、
主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、
主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、
従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、
前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、
前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、
を有し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、
四輪駆動車の走行距離を計測する走行距離計測手段と、
該走行距離計測手段によって計測される走行距離に基づいて、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを補正する駆動ロス補正手段と、
をさらに有し、
該駆動ロス補正手段は、前記走行距離が長くなるにつれて従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスが低くなるように補正する、
ことを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、
主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、
主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、
従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、
前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、
前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、
を有し、
前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、
前記スリップ量検出手段は、主駆動輪の輪速を検出する第1の輪速検出手段と、従駆動輪の輪速を検出する第2の輪速検出手段と、該第2の輪速検出手段によって検出される従駆動輪の輪速に基づいて四輪駆動車の車速を推定する車速推定手段とを備え、前記第1の輪速検出手段によって検出される主駆動輪の輪速と前記車速推定手段によって推定される車速とに基づいて主駆動輪のスリップ量を検出するものであり、
前記駆動力分配手段によって分配される従駆動輪への前記出力の分配が増加するにつれて、前記車速推定手段によって推定される車速を低速側に補正する車速補正手段をさらに有している、
ことを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配するようにした四輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の走行状況に応じて、駆動源としてのエンジンの出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配し、主駆動輪のみを駆動させる二輪駆動状態と、主駆動輪と従駆動輪とを駆動させる四輪駆動状態とを切り換えるようにした四輪駆動車が一般に実用化されている。また、雪道を走行する場合など主駆動輪がスリップしたときに、二輪駆動状態から四輪駆動状態に切り換えるようにした四輪駆動車も知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、後輪駆動をベースにした四輪駆動車において、前後輪の回転数差がない場合には後輪駆動状態で走行し、後輪がスリップして前後輪の回転数差が生じる場合には前輪も駆動させて四輪駆動状態で走行し、前後輪の回転数差が大きくなるに従って前輪側への駆動力配分を増加させるようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−157437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、主駆動輪と従駆動輪の回転数差に応じて従駆動輪への駆動力配分を増加させることで、主駆動輪のスリップを抑制して車両の走行安定性を向上させることができるものの、主駆動輪と従駆動輪を駆動させる四輪駆動状態では、主駆動輪のみを駆動させる二輪駆動状態に比して、従駆動輪への駆動源の出力の分配に伴って駆動ロスが増加することから、燃費が悪化することとなる。
【0006】
すなわち、二輪駆動状態では、主駆動輪のみが路面との間でスリップすることにより主駆動輪のスリップによる駆動ロスのみが生じているが、四輪駆動状態では、主駆動輪に加えて従駆動輪も駆動させることで主駆動輪のスリップによる駆動ロスを減少させることができるものの、従駆動輪への駆動源の出力の分配に伴って、従駆動輪がスリップすることにより従駆動輪のスリップによる駆動ロスが新たに発生するとともに駆動系の機械損失も増加することから、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスが増加することとなる。
【0007】
そこで、本発明は、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる四輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本願の請求項1に係る発明は、駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、主駆動輪及び従駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、前記スリップ量検出手段により検出された主駆動輪のスリップ量及び該主駆動輪への伝達トルク量に基づき主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、前記スリップ量検出手段により検出された従駆動輪のスリップ量及び該従駆動輪への伝達トルク量に基づく従駆動輪の駆動ロスと、従駆動輪への前記出力の分配により発生する機械損失に基づく従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、を有し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本願の請求項2に係る発明は、駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、を有し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとが同一となるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
更に、本願の請求項3に係る発明は、駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、を有し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記分配制御手段は、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスが所定量以上であるとき、従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御する、ことを特徴とする。
【0011】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、を有し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、四輪駆動車の走行距離を計測する走行距離計測手段と、該走行距離計測手段によって計測される走行距離に基づいて、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを補正する駆動ロス補正手段と、をさらに有し、該駆動ロス補正手段は、前記走行距離が長くなるにつれて従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスが低くなるように補正する、ことを特徴とする。
【0012】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、駆動源と、該駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段とを有する四輪駆動車の制御装置であって、主駆動輪のスリップ量を検出するスリップ量検出手段と、主駆動輪の駆動ロスを算出する第1の駆動ロス算出手段と、従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスを算出する第2の駆動ロス算出手段と、前記第1の駆動ロス算出手段によって算出される主駆動輪の駆動ロスと、前記第2の駆動ロス算出手段によって算出される従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスとを比較する駆動ロス比較手段と、前記駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段と、を有し、前記分配制御手段は、前記スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を増加させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記駆動ロス比較手段によって主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への前記出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への前記出力の分配を減少させるように前記駆動力分配手段の作動を制御し、前記スリップ量検出手段は、主駆動輪の輪速を検出する第1の輪速検出手段と、従駆動輪の輪速を検出する第2の輪速検出手段と、該第2の輪速検出手段によって検出される従駆動輪の輪速に基づいて四輪駆動車の車速を推定する車速推定手段とを備え、前記第1の輪速検出手段によって検出される主駆動輪の輪速と前記車速推定手段によって推定される車速とに基づいて主駆動輪のスリップ量を検出するものであり、
前記駆動力分配手段によって分配される従駆動輪への前記出力の分配が増加するにつれて、前記車速推定手段によって推定される車速を低速側に補正する車速補正手段をさらに有している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願の請求項1に係る発明によれば、駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段を有する四輪駆動車の制御装置において、駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段は、スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への駆動源の出力の分配を増加させるように、主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への駆動源の出力の分配を減少させるように駆動力分配手段の作動を制御する。
【0014】
これにより、主駆動輪の駆動ロス、従駆動輪の駆動ロス及び従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの総和である全駆動ロスが最も小さくなるように駆動源の出力を従駆動輪へ分配することができるので、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
【0015】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、駆動源の出力を主駆動輪と従駆動輪とに分配する駆動力分配手段を有する四輪駆動車の制御装置において、駆動力分配手段の作動を制御する分配制御手段は、スリップ量検出手段によって検出される主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスより大きいと判定されたとき従駆動輪への駆動源の出力の分配を増加させるように、主駆動輪の駆動ロスが従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスより小さいと判定されたとき従駆動輪への駆動源の出力の分配を減少させるように駆動力分配手段の作動を制御する。
これにより、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスとの総和である全駆動ロスが最も小さくなるように駆動源の出力を従駆動輪へ分配することができるので、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
また、分配制御手段は、主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスとが同一となるように駆動力分配手段の作動を制御することにより、前記効果をより有効に奏することができる。
【0016】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、請求項2に係る発明と同様、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスとの総和である全駆動ロスが最も小さくなるように駆動源の出力を従駆動輪へ分配することができるので、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
また、分配制御手段は、主駆動輪の駆動ロスが所定量以上であるとき、従駆動輪への駆動力の出力の分配を増加させるように駆動力分配手段の作動を制御することにより、主駆動輪の駆動ロスが所定量以上であり主駆動輪のスリップ量が所定量以上である場合に、従駆動輪への駆動源の出力の分配を増加させて従駆動輪の駆動力を増加させることで、走行安定性を向上させることができる。
【0017】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、請求項2に係る発明と同様、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスとの総和である全駆動ロスが最も小さくなるように駆動源の出力を従駆動輪へ分配することができるので、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
また、四輪駆動車の走行距離を計測する走行距離計測手段と、該走行距離計測手段によって計測される走行距離に基づいて、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスを補正する駆動ロス補正手段とをさらに有し、駆動ロス補正手段は、走行距離が長くなるにつれて従駆動輪への駆動力の出力の分配による駆動ロスが低くなるように補正することにより、走行距離が長くなるにつれて駆動系の機械損失が低下することを考慮して従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの算出精度を高めることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0018】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、請求項2に係る発明と同様、主駆動輪の駆動ロスと従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスとの総和である全駆動ロスが最も小さくなるように駆動源の出力を従駆動輪へ分配することができるので、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
また、スリップ量検出手段は、主駆動輪の輪速と、従駆動輪の輪速に基づいて推定される車速とに基づいて主駆動輪のスリップ量を検出するものであり、従駆動輪への駆動源の出力の分配が増加するにつれて推定される車速を低速側に補正する車速補正手段をさらに有していることにより、従駆動輪の輪速に基づいて車速を推定する場合に、従駆動輪も駆動させると従駆動輪にも生じるスリップを考慮することで車速の推定精度を高めることができるので、主駆動輪のスリップ量の検出精度を高めることができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る四輪駆動車の制御装置を含む四輪駆動車の構成を概略的に示す図である。
図2】前後トルク配分比と前輪エネルギー損失、後輪エネルギー損失及び後輪へのトルクの配分による機械損失との関係を示すグラフである。
図3】前後トルク配分比と前輪エネルギー損失、後輪エネルギー損失及び後輪へのトルクの配分による機械損失の総和である全駆動ロスとの関係を示すグラフである。
図4】エネルギー損失差と後輪への伝達トルクの増減量との関係を示すグラフである。
図5】前輪エネルギー損失と後輪への伝達トルクの増減量との関係を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る四輪駆動車の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る四輪駆動車の制御装置を含む四輪駆動車の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る四輪駆動車10は、前輪12Fと後輪12Rを有するとともに、駆動源としてのエンジン14と、エンジン14の出力を前輪12Fと後輪12Rとに伝達するためのトランスミッション16とトランスミッション16からの駆動力を左右の前輪12Fに車軸18を介して伝達する前輪用デフ20とを備えたトランスミッションケース17と、後輪12Rに伝達する駆動力を取り出すトランスファ22と、トランスファ22からの駆動力を左右の後輪12Rに車軸24を介して伝達する後輪用デフ26とを有している。
【0021】
また、トランスファ22と後輪用デフ26は、車体前後方向に延びる駆動力伝達軸30及び後輪12Rに伝達する伝達トルク量を可変させるためのカップリング28を介して連結されている。具体的には、トランスファ22の出力軸が駆動力伝達軸30の一端に連結され、駆動力伝達軸30の他端がカップリング28の入力軸に連結され、該カップリング28の出力軸が後輪用デフ26の入力軸に連結されている。
【0022】
カップリング28は、前輪12Fと後輪12Rがスリップすることなく同一の回転速度で回転している場合にはエンジン14の出力を後輪12Rに分配せず、前輪12Fがスリップして前輪12Fと後輪12Rの回転速度が一致しない場合にはエンジン14の出力を後輪12Rへ伝達して前輪12Fと後輪12Rに分配するように構成されている。なお、本実施形態に係る四輪駆動車10では、前輪12Fが主駆動輪であり、後輪12Rが従駆動輪である。
【0023】
カップリング28はまた、エンジン14の出力を前輪12Fと後輪12Rとに分配する際に、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配量を調節することができるように構成されている。これにより、四輪駆動車10は、カップリング28によって後輪12Rに伝達する伝達トルク量を可変することができるようになっている。
【0024】
四輪駆動車10にはまた、前輪12Fの輪速を検出する前輪速センサ36と、後輪12Rの輪速を検出する後輪速センサ38と、カップリング28の作動を制御する制御ユニット34とが備えられ、前輪速センサ36によって検出される前輪12Fの輪速と後輪速センサ38によって検出される後輪12Rの輪速とが制御ユニット34に入力されるようになっている。
【0025】
制御ユニット34にはまた、エンジン14の出力トルク、変速段、トランスミッション16の出力軸の回転速度などの各種情報が入力されるようになっており、本実施形態では、制御ユニット34は、後述するように、これら各種情報に基づいてカップリング28の作動を制御する。なお、制御ユニット34は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0026】
制御ユニット34はまた、トランスミッション16の出力軸の回転速度などに基づいて四輪駆動車10の車速を推定することができるようになっているとともに、この推定される四輪駆動車10の車速と前輪速センサ36によって検出される前輪12Fの輪速とに基づいて前輪12Fのスリップ量を検出することができるようになっている。
【0027】
制御ユニット34ではまた、エンジン14の出力トルク、変速段、カップリング28の作動制御などに基づいて前輪12Fの伝達トルク量を算出することができるようになっているとともに、この算出される前輪12Fの伝達トルク量と検出される前輪12Fのスリップ量とに基づいて前輪12Fのスリップによるエネルギー損失(駆動ロス)E1を算出することができるようになっている。
【0028】
制御ユニット34は、後輪12Rについても同様に、推定される四輪駆動車10の車速と後輪速センサ38によって検出される後輪12Rの輪速とに基づいて後輪12Rのスリップ量を検出することができるとともに、エンジン14の出力トルク、変速段、カップリング28の作動制御などに基づいて後輪12Rの伝達トルク量を算出することができ、且つ、この算出される後輪12Rの伝達トルク量と検出される後輪12Rのスリップ量とに基づいて後輪12Rのスリップによるエネルギー損失(駆動ロス)E2を算出することができるようになっている。
【0029】
また、制御ユニット34には、前輪12Fと後輪12Rとの所定のトルク配分比における後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動系の機械損失が予め記憶されており、制御ユニット34は、カップリング28によって前輪12Fと後輪12Rとにエンジン14の出力が分配された状態において後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動系の機械損失(駆動ロス)E3を算出することができるようになっている。
【0030】
さらに、制御ユニット34は、算出される前輪12Fの駆動ロスE1と、算出される後輪12Rの駆動ロスE2と駆動系の駆動ロスE3との総和である後輪12へのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とを比較することができるようになっている。
【0031】
そして、制御ユニット34は、前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、前輪12Rの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より大きいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるようにカップリング28の作動を制御し、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より小さいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を減少させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0032】
前述したように、前輪12Fの駆動ロスE1は、例えば雪道を走行する場合など、前輪12Fのスリップによるエネルギー損失であり、後輪12Rへのエンジン1の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とは、例えば雪道を走行する場合など、後輪12Rのスリップによるエネルギー損失E2と、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配、すなわち後輪12Rへのトルクの分配に伴って生じる駆動系の機械損失E3との総和である。
【0033】
図2は、前後トルク配分比と前輪エネルギー損失、後輪エネルギー損失及び後輪へのトルクの配分による機械損失との関係を示すグラフであり、図2では、前輪エネルギー損失E1を実線で示し、後輪エネルギー損失E2を破線で示し、後輪12Rへのトルクの配分による機械損失E3を一点鎖線で示している。
【0034】
例えば雪道の加速状態を想定すると、図2に示すように、後輪12Rへのトルクの分配に伴って、すなわち後輪12Rへの伝達トルク量の増加に伴って、前輪12Fがスリップすることにより生じる前輪12Fのエネルギー損失E1は低くなるが、後輪12Rがスリップすることにより生じる後輪12Rのエネルギー損失E2が増加するとともに後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3が増加することとなる。
【0035】
図3は、前後トルク配分比と前輪エネルギー損失、後輪エネルギー損失及び後輪へのトルクの配分による機械損失の総和である全駆動ロスとの関係を示すグラフであり、図3では、前輪エネルギー損失E1、後輪エネルギー損失E2及び後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3の総和である全駆動ロス(E1+E2+E3)を実線で示している。
【0036】
図3に示すように、前輪エネルギー損失E1、後輪エネルギー損失E2及び後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3の総和である全駆動ロス(E1+E2+E3)は、最もエネルギー損失が低くなるトルク配分比を有し、このトルク配分比は、前輪エネルギー損失E1と、後輪エネルギー損失E2と後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3の総和(E2+E3)とが同一となる位置、すなわち前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とが同一となる位置である。なお、図3では、このトルク配分比が破線で示されている。
【0037】
従って、前輪12Fがスリップした場合に、前輪エネルギー損失E1、後輪エネルギー損失E2及び後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3の総和である全駆動ロス(E1+E2+E3)が最も小さくなるように、すなわち前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とが同一となるように前輪12Fと後輪12Rのトルク配分比を設定することで、後輪12へのエンジン14の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつエンジン14の出力を後輪12Rへ分配させることができると考えられる。
【0038】
そこで、本実施形態では、制御ユニット34は、前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とが同一となるように、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より大きいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるように、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より小さいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を減少させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0039】
図4は、エネルギー損失差と後輪への伝達トルクの増減量との関係を示すグラフであり、図4では、前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)との差であるエネルギー損失差ΔE[=E1−(E2+E3)]を横軸にとり、後輪12Rへの伝達トルクの増減量ΔTrを縦軸にとって表している。また、図4では、ΔTrが正の値であるときは増加量を示し、ΔTrが負の値であるときは減少量を示している。
【0040】
本実施形態では、図4において実線で示すように、制御ユニット34は、前輪12の駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とを比較し、前輪12の駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)との差であるエネルギー損失差ΔEに応じて、後輪12Rへの伝達トルク量を増加又は減少させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0041】
具体的には、制御ユニット34は、エネルギー損失差ΔEが所定値ΔE’より大きい場合には、エネルギー損失差ΔEがゼロになるように、すなわち前輪12の駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とが同一となるように、エネルギー損失差ΔEが大きくなるにつれて後輪12Rへの伝達トルク量を増加させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0042】
また、制御ユニット34は、エネルギー損失差ΔEが負である場合には、エネルギー損失差ΔEがゼロになるように、すなわち前輪12の駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とが同一となるように、エネルギー損失差ΔEが負側に大きくなるにつれて後輪12Rへの伝達トルク量を減少させるようにカップリング28の作動を制御する。なお、制御ユニット34は、エネルギー損失差ΔEがゼロから所定値ΔE’の間の場合には、後輪12Rへの伝達トルク量の増減を行わないようにカップリング28の作動を制御する。
【0043】
このように、本実施形態に係る四輪駆動車の制御装置では、カップリング28の作動を制御する制御ユニット34は、前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より大きいと判定したとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるように、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より小さいと判定したとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を減少させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0044】
これにより、前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)との総和である全駆動ロス(E1+E2+E3)が最も小さくなるようにエンジン14の出力を後輪12Rへ分配することができるので、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)の増加を抑制しつつエンジン14の出力を後輪12Rへ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
【0045】
また、制御ユニット34は、前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、前輪12Fの駆動ロスE1が所定量以上であるときは、前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)との差であるエネルギー損失差ΔEを算出することなく、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0046】
図5は、前輪エネルギー損失と後輪への伝達トルクの増減量、具体的には増加量との関係を示すグラフであり、この図5に示すように、本実施形態では、制御ユニット34は、前輪12Fのエネルギー損失E1が所定量E1’以上であるときは、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるように、具体的には後輪12Rへの伝達トルクを所定量ΔTr’増加させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0047】
このように、前輪12Fの駆動ロスE1が所定量以上であるとき、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるようにカップリング28の作動を制御することにより、前輪12Fの駆動ロスE1が所定量以上であり前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させて後輪12Rの駆動力を増加させることで、走行安定性を向上させることができる。
【0048】
図6は、本発明の実施形態に係る四輪駆動車の制御を示すフローチャートである。この制御では、まず、四輪駆動車10に関係する構成により検出された信号、すなわち、前輪12Fの輪速、後輪12Rの輪速、エンジン14の出力トルク、変速段、トランスミッション16の出力軸の回転速度などの各種信号が読み込まれる(ステップS1)。
【0049】
次に、ステップS2において、前輪12Fのスリップ量が所定量以上であるか否かが判定される。ステップS2での判定結果がノー(NO)の場合、すなわち、前輪12Fのスリップ量が所定量未満である場合には、ステップS1及びS2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がイエス(YES)の場合には、前輪12Fのエネルギー損失E1が算出される(ステップS3)。
【0050】
そして、ステップS3において算出された前輪12Fのエネルギー損失E1が所定値以上であるか否かが判定される(ステップS4)。ステップS4での判定結果がイエスの場合、すなわち、算出された前輪12Fのエネルギー損失E1が所定値以上である場合、後輪12Rへの伝達トルクを増加させる(ステップS10)。図5に示すように、前輪12Fのエネルギー損失E1が所定値以上である場合には、後輪12Rへの伝達トルクを所定量ΔTr’増加させ、後輪12へのエンジン14の出力の分配を増加させる。
【0051】
一方、ステップS4での判定結果がノーの場合、すなわち、算出された前輪12Fのエネルギー損失E1が所定値未満である場合、後輪12Rのエネルギー損失E2が算出され(ステップS5)、後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3が算出される(ステップS6)。
【0052】
次に、ステップS7において、前輪12Fのエネルギー損失E1と、後輪12Rのエネルギー損失E2と後輪12Rへのトルクの分配による駆動系の機械損失E3との総和(E2+E3)との差であるエネルギー損失差ΔE[=E1−(E2+E3)]が算出され、ステップS7において算出されたエネルギー損失差ΔEに基づいて後輪12Rへの伝達トルクの増減量ΔTrが決定される(ステップS8)。図4に示すように、エネルギー損失差ΔEが正であるときは後輪12Rへの伝達トルクを増加させ、エネルギー損失差ΔEが負であるときは後輪12Rへの伝達トルクを減少させるように後輪12Rへの伝達トルクの増減量が決定される。
【0053】
そして、ステップS8において決定された後輪12への伝達トルクの増減量ΔTrに基づいて後輪12Rへの伝達トルクを増減させるようにカップリング28の作動を制御する(ステップS9)。このように、本実施形態では、前輪エネルギー損失E1と、後輪エネルギー損失E2と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動系の機械損失E3との総和(E2+E3)とのエネルギー損失差ΔEに基づいてカップリング28の作動を制御する。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る四輪駆動車の制御装置は、前輪12Fのスリップ量を検出するスリップ量検出手段34と、前輪12Fの駆動ロスE1を算出する第1の駆動ロス算出手段34と、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)を算出する第2の駆動ロス算出手段34と、算出される前輪12Fの駆動ロスE1と、算出される後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)とを比較する駆動ロス比較手段34と、カップリング28の作動を制御する分配制御手段34と、を有している。
【0055】
そして、前記分配制御手段34は、前輪12Fのスリップ量が所定量以上である場合に、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より大きいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を増加させるように、前輪12Fの駆動ロスE1が後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)より小さいと判定されたとき後輪12Rへのエンジン14の出力の分配を減少させるようにカップリング28の作動を制御する。
【0056】
これにより、前輪12Fの駆動ロスE1と後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)との総和である全駆動ロス(E1+E2+E3)が最も小さくなるようにエンジン14の出力を後輪12Rへ分配することができるので、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつエンジン14の出力を後輪12Rへ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することができる。
【0057】
また、四輪駆動車10において、制御ユニット34を、推定される四輪駆動車10の車速に基づいて四輪駆動車10の走行距離を計測するように構成するとともに、計測される走行距離に基づいて、算出される後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)が低くなるように、具体的には、駆動系のなじみ等による機械損失E3の低下を考慮して、算出される後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動系の機械損失E3が低くなるように補正するように構成することも可能である。
【0058】
このように、本実施形態に係る四輪駆動車10の制御装置において、四輪駆動車10の走行距離を計測する走行距離計測手段34と、該走行距離計測手段34によって計測される走行距離に基づいて、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)を補正する駆動ロス補正手段34とをさらに有し、駆動ロス補正手段34は、走行距離が長くなるにつれて後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロス(E2+E3)が低くなるように補正することにより、走行距離が長くなるにつれて駆動系の機械損失E3が低下することを考慮して後輪12Rへのエンジン14の出力の分配による駆動ロスの算出精度を高めることができる。
【0059】
また、前述した実施形態では、制御ユニット34において、トランスミッション16の出力軸の回転速度などに基づいて四輪駆動車10の車速を推定しているが、後輪速センサ38によって検出される後輪12Rの輪速に基づいて車速を推定するようにすることも可能である。
【0060】
かかる場合には、制御ユニット34は、前輪速センサ36によって検出される前輪12Rの輪速と、後輪速センサ38によって検出される後輪12Rの輪速に基づいて推定される車速とに基づいて前輪12Fのスリップ量を検出することができるように構成されるとともに、カップリング28によって後輪12Rへのエンジン14の出力の分配が増加するにつれて推定される車速を低速側に補正するように構成される。
【0061】
このように、制御ユニット34は、前輪速センサ36によって検出される前輪12Fの輪速と、後輪速センサ38によって検出される後輪12Rの輪速に基づいて推定される車速とに基づいて前輪12Fのスリップ量を検出し、後輪12Rへのエンジン14の出力の分配が増加するにつれて推定される車速を低速側に補正することにより、後輪12Rの輪速に基づいて車速を推定する場合に、後輪12Rも駆動させると後輪12Rにも生じるスリップを考慮することで車速の推定精度を高めることができるので、前輪12Fのスリップ量の検出精度を高めることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、前輪12Fを主駆動輪とし、後輪12Rを従駆動輪とした四輪駆動車について説明しているが、後輪12Rを主駆動輪とし、前輪12Fを従駆動輪とした四輪駆動車についても同様に適用することができる。
【0063】
以上のように、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、四輪駆動車において、従駆動輪への駆動源の出力の分配による駆動ロスの増加を抑制しつつ駆動源の出力を従駆動輪へ分配させることができ、四輪駆動時に燃費が悪くなることを抑制することが可能となるから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0065】
10 四輪駆動車
12F 前輪
12R 後輪
14 エンジン
28 カップリング
34 制御ユニット
36 前輪速センサ
38 後輪速センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6