特許第5793948号(P5793948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793948
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】同期電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20150928BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20150928BHJP
   H02K 1/02 20060101ALI20150928BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   H02K1/27 501M
   H02K1/27 501K
   H02K1/22 A
   H02K1/02 Z
   H02K21/14 M
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-102182(P2011-102182)
(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公開番号】特開2012-235608(P2012-235608A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】椛嶌 寿行
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−252530(JP,A)
【文献】 特開2009−022128(JP,A)
【文献】 特開2002−359942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 21/00−21/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機であって、
上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、
上記ロータコアは、所定の形状に打ち抜かれた薄板状の電磁鋼板を、複数枚積層することで形成されており、
上記各永久磁石の外周側の部位における周方向の両端部にのみ、上記ロータコアを構成する電磁鋼板の透磁率以上の透磁率を有する薄板状の高透磁率部材が、当該部位を覆うように、上記ステータ側に向かって複数枚積層して設けられていることを特徴とする同期電動機。
【請求項2】
請求項1記載の同期電動機において
記薄板状の高透磁率部材は、上記ロータコアを構成する電磁鋼板のうち、当該ロータコア以外の残部を用いて作られることを特徴とする同期電動機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の同期電動機において、
上記永久磁石及び高透磁率部材の周方向の端部と、上記ロータコアを構成する電磁鋼板との間には、両者の間に充填された非磁性樹脂からなるフラックスバリアが形成されていることを特徴とする同期電動機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の同期電動機において、
上記高透磁率部材は、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなることを特徴とする同期電動機。
【請求項5】
請求項4記載の同期電動機において、
上記高透磁率部材は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする同期電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機(モータ)は家電製品、電気自動車、ハイブリッド自動車等に用いられるところ、ロータコアの外周部付近にステータのティースと対向するように永久磁石が周方向に複数埋め込まれた構造を有する電動機(IPMモータ)においては、高効率化を図るとともに高いトルク特性を得るべく、様々な技術課題を解決又は改善するための研究開発が活発になされている。
【0003】
例えば、ロータの永久磁石に関しては、(A)減磁しやすい領域(端部等)の保磁力のみを向上させることや、(B)磁石渦電流の低減等が主要な技術課題となっている。また、永久磁石に関する課題以外にも、トルクリップル低減、コギングトルク低減、鉄損低減、高トルク化、耐遠心力強度の確保等がIPMモータにおける主要な技術課題となっている。
【0004】
ここで、上記(B)磁石渦電流の低減について説明する。IPMモータでは、ロータ回転により、ステータ巻線に鎖交する永久磁石磁束が、時間変化することによって、モータ電源の電圧とは逆極性の起電力がステータ巻線に発生する。この起電力は、モータ回転数(励磁周波数)に比例するため、高回転域では、ステータ巻線に電流を流せなくなり、モータを回転させることが困難になる。そこで、IPMモータにおいては、負のd軸電流を流して、d軸電機子反作用による減磁効果を利用して、鎖交磁束を減少させることにより、電位差を確保してモータを回転させる弱め磁束制御が行われている。
【0005】
しかしながら、弱め磁束制御によってステータ巻線で作られる磁束(d軸反作用)は、永久磁石の端部に集中し易いことから、永久磁石の端部ではモータの回転数の上昇に伴って磁束変化が大きくなる。このような大きな磁束変化により起電圧が誘起され、かかる起電圧によって永久磁石の端部に渦電流が流れる。そうして、永久磁石の端部に渦電流が流れると、渦電流損失による局所的な自己発熱が発生することから、IPMモータにおいては、磁石渦電流の低減が大きな課題になっている。
【0006】
そこで、磁石渦電流の低減を図るべく、例えば、特許文献1には、永久磁石の中で発生する渦電流が多く集中する、永久磁石におけるロータ外周に最も近い部位に、スリットを設けることが開示されている。また、特許文献2には、集中巻モータにおいて、永久磁石をステータに向かう面で分割し、この分割した永久磁石片間に電気絶縁性部(エポキシ樹脂又は空隙)を介在させた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−345189号公報
【特許文献2】特開2000−245085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、焼結材である永久磁石にスリットを設けることから、かかるスリットにロータの高速回転時の遠心力に伴う応力が生じ、これに伴ってクラックが発生し、構造的な信頼性が損なわれるおそれがある。
【0009】
また、上記特許文献2のものでは、ロータの回転軸方向に電磁鋼板が積層され、当該電磁鋼板の開口部に永久磁石が圧入等で介挿されているところ、ロータ全体が次第に昇温した場合に、電気絶縁性部を介在させた永久磁石と電磁鋼板との熱膨張差によって、開口部と永久磁石との間に緩みが生じ、構造的な信頼性が損なわれるおそれがある。
【0010】
そこで、構造的な信頼性が損なわれるのを回避すべく、強磁性の磁石(例えばネオジ鉄ボロン)を基材とし、磁束が集中する箇所に高抵抗の磁石(例えばフェライト)を配置した複合磁石を製造し、かかる複合磁石を用いて永久磁石の端部に渦電流が発生するのを抑えることが考えられるが、異なる特性の磁石を組み合わせると、トルクの安定度が低下するという新たな問題が生じる。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステータと、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータとを備えた同期電動機において、構造的な信頼性及びトルクの安定度を維持しつつ、ステータ巻線で作られる磁束に起因して、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る同期電動機では、永久磁石の端部に流入しようとする、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束を減衰させるべく、永久磁石の周方向の端部における外周側の部位に、高透磁率部材を略径方向に複数枚積層して設けることにより、かかる磁束と反対向きの磁束を生成させるとともにエアギャップを形成するようにしている。
【0013】
具体的には、第1の発明は、ステータ巻線を有するステータと、当該ステータの内側に回転可能に配置される、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータと、を備えた同期電動機を対象とする。
【0014】
そして、上記永久磁石は、上記ロータコアの外周縁部に周方向に離間して複数個設けられており、上記ロータコアは、所定の形状に打ち抜かれた薄板状の電磁鋼板を、複数枚積層することで形成されており、上記各永久磁石の外周側の部位における周方向の両端部にのみ、上記ロータコアを構成する電磁鋼板の透磁率以上の透磁率を有する薄板状の高透磁率部材が、当該部位を覆うように、上記ステータ側に向かって複数枚積層して設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
第1の発明によれば、各永久磁石の外周側の部位における周方向の両端部にのみ、ロータコアを構成する電磁鋼板の透磁率以上の透磁率を有する薄板状の高透磁率部材が、当該部位を覆うように設けられているので、ステータ巻線を流れる電流が作る、永久磁石の端部に集中する磁束は、先ず、当該高透磁率部材に流入する。そうして、高透磁率部材に流入した磁束に起因して、当該高透磁率部材の中に渦電流が発生すると、今度は、かかる渦電流によって、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束とは反対向きの磁束が生成され、これにより、永久磁石の端部に集中する磁束が減衰される。
【0016】
さらに、薄板状の高透磁率部材はステータ側に向かって(略径方向に)複数枚積層して設けられていることから、相隣り合う高透磁率部材同士の間、及び、高透磁率部材と永久磁石との間にはエアギャップが形成される。このため、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束が永久磁石の端部に流入するには、透磁率が極めて低い複数のエアギャップを通過しなければならないことから、永久磁石の周方向の両端部における外周側の部位に単一の高透磁率部材を配置した場合に比して、高透磁率部材及び永久磁石を含む、永久磁石の端部全体の磁気抵抗を高めることができる。
【0017】
つまり、第1の発明に係る同期電動機によれば、高透磁率部材の中に発生する渦電流によって作られる反対向きの磁束と、エアギャップによる磁気抵抗の向上とが相俟って、永久磁石に流入する磁束を減衰且つ減少させて、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。よって、渦電流損失の発生を抑えて、モータの高効率化を図ることができる。
【0018】
また、永久磁石の端部にスリットを形成したり、永久磁石に電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせていないので、トルクの安定度を維持することができる。
【0019】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記薄板状の高透磁率部材は、上記ロータコアを構成する電磁鋼板のうち、当該ロータコア以外の残部を用いて作られることを特徴とするものである。
【0020】
高透磁率部材は電磁鋼板の透磁率「以上」の透磁率を有していればよいところ、第2の発明によれば、ロータコアを構成する電磁鋼板のうち、当該ロータコア以外の残部を用いて高透磁率部材を作ることから、製造コストの上昇を大幅に抑えることができる。なお、この場合には、ロータコアを構成する電磁鋼板よりも高い透磁率を有する高透磁率部材を用いる場合に比して、当該高透磁率部材に流入する磁束が減少し、高透磁率部材の中に発生する渦電流によって作られる磁束成分は減少するが、エアギャップによる磁気抵抗の向上効果は維持されるので、ステータ巻線で作られる磁束に起因して永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0021】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記永久磁石及び高透磁率部材の周方向の端部と、上記ロータコアを構成する電磁鋼板との間には、両者の間に充填された非磁性樹脂からなるフラックスバリアが形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
第3の発明によれば、高透磁率部材の周方向の端部とロータコアを構成する電磁鋼板との間にフラックスバリアが形成されているので、ロータコアに埋め込まれている永久磁石に対して高透磁率部材がズレるのを抑えることができる。また、永久磁石の周方向の端部とロータコアを構成する電磁鋼板との間にもフラックスバリアが形成されているので、永久磁石からの磁束漏れを低減することができる。
【0023】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記高透磁率部材は、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなることを特徴とするものである。
【0024】
第4の発明によれば、比初透磁率が300以上の高透磁率材料からなる高透磁率部材を用いることで、永久磁石の端部に集中する磁束を効率よく高透磁率部材に流入させて、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束と反対向きの磁束を生成させることによって、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを確実に抑えることができる。
【0025】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記高透磁率部材は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とするものである。
【0026】
第5の発明によれば、比初透磁率が300以上の高透磁率材料の中でも比較的に飽和磁束密度が高い、これらの一種または数種を高透磁率部材として用いることで、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束と反対向きの磁束を確実に生成させて、永久磁石の端部で渦電流が発生するのをより一層確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る同期電動機によれば、各永久磁石の周方向の両端部における外周側の部位を覆うように高透磁率部材が設けられているので、かかる高透磁率部材の中に発生する渦電流によって、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束とは反対向きの磁束を生成して、ステータ巻線を流れる電流が作る磁束を減衰させることができる。
【0028】
さらに、薄板状の高透磁率部材はステータ側に向かって複数枚積層して設けられていることから、相隣り合う高透磁率部材同士の間及び、高透磁率部材と永久磁石との間にはエアギャップが形成されるので、永久磁石の端部全体の磁気抵抗を高めることができる。
【0029】
また、永久磁石の端部にスリットを形成したり、永久磁石に電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせていないので、トルクの安定度を維持することができる。
【0030】
以上により、構造的な信頼性を向上させ且つトルクの安定度を維持しつつ、ステータ巻線で作られる磁束に起因して永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。
図2】ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石のうち1つを拡大して示す斜視図である。
図3】ロータコアに埋め込まれた複数の永久磁石のうち1つを拡大して示す横断面図である。
図4】永久磁石の周方向の端部における当該永久磁石の磁束の流れを模式的に説明する図であり、同図(a)はフラックスバリアを設けていない場合を示し、同図(b)はフラックスバリアを設けている場合を示す。
図5】ロータコアを模式的に示す斜視図である。
図6】その他の実施形態に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図1図3図4及び図6では、図を見易くするために、断面表示用のハッチングを省略する。
【0033】
図1は、本実施形態に係る同期電動機を模式的に示す横断面図である。なお、図1では、図を見易くするために、後述するフラックスバリア27を図示省略している。この同期電動機1は、ステータ巻線9を有するステータ3と、ロータコア15の内部に永久磁石7が埋め込まれたロータ5と、を備えたIPMモータである。
【0034】
ステータ3は、略円筒状のヨーク13と、当該ヨーク13の内周面から径方向内側に突出する8つのティース23とを有しており、これらのティース23の先端面で囲まれる略円柱状の空間に、ロータ5が当該ステータ3に対して回転可能に配置されている。また、ステータ巻線9は、ティース23に巻回された断面円形の導線や平角導線で構成されている。なお、ステータ巻線9は集中巻でも分布巻でもよい。
【0035】
ロータ5のロータコア15は、プレスで打ち抜いた薄い(例えば0.25〜0.35mm)電磁鋼板15aを軸方向に積層することにより形成されており(図5参照)、その中央に不図示の回転シャフトを嵌挿するための貫通孔25が形成された略円筒状をなしている。なお、図中の符号35は、ロータコア15の軽量化を図るために形成された肉抜き凹部を示す。
【0036】
このロータコア15の外周縁部には、当該ロータコア15の軸方向から見て断面矩形状の永久磁石7が、矩形の長辺が径方向外側を向くように、周方向に離間して16個埋め込まれている。より具体的には、この永久磁石7は強磁性材であるネオジ鉄ボロンからなり、矩形板状に形成されていて、ロータコア15の外周縁部に形成された軸方向に延びる孔15bに挿入されている。これらの永久磁石7は、ロータコア15の軸方向から見て、2つ一組で径方向外側に行く程広がる略V字状に配置されており、これにより、ロータコア15の外周縁部には、一対の永久磁石7からなる略V字状の磁極が8つ形成されている。
【0037】
このように、本実施形態に係る同期電動機1では、永久磁石7を略V字状に配置することで、ステータ巻線9を流れる電流と永久磁石7が発する磁束との相互作用によって生じるマグネットトルクに加えて、磁気的な突極性により発生するリラクタンストルクが作用することになり、大きなトルクが得られるようになっている。なお、この同期電動機1では、永久磁石7の磁極の数と、ステータ3の極数とが同数となっているが、これに限らず、永久磁石7の磁極の数とステータ3の極数とが異なってもよい。
【0038】
ここで、IPMモータにおいては、ステータ巻線9に負のd軸電流を流して永久磁石7の磁化方向と逆向きの磁束を発生させることで、永久磁石7の磁束を弱めて電位差を確保する弱め磁束制御が行われているところ、かかる弱め磁束制御によってステータ巻線9で作られる磁束は、永久磁石7の端部7aに集中し易い。このため、永久磁石7の端部7aでは、不可逆減磁が発生し易くなるとともに、磁束変化が大きくなって起電圧が誘起されることから、渦電流損失による局所的な自己発熱の原因となる渦電流が発生し易くなる。
【0039】
そこで、本実施形態に係る同期電動機1では、不可逆減磁や渦電流の発生を抑えるべく、図2及び図3に示すように、各永久磁石7の外周側の面(部位)7cにおける周方向の両端部7aにのみ、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aの透磁率よりも高い透磁率を有する薄板状の高透磁率部材17が、当該部位(周方向の両端部7aにおける外周側の面)7cを覆うように、ステータ3側に向かって(略径方向に)複数枚積層して設けられている。より詳しくは、高透磁率部材17は、矩形板状に形成されており、その長辺側の側面(周方向の端部)17bと永久磁石7の周方向の端面7bとが面一になるように、永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7c上に、ステータ3側に向かって3枚積層されている。
【0040】
このように、各永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7cには、高透磁率部材17が当該部位7cを覆うように設けられているので、ステータ巻線9を流れる電流が作る、永久磁石7の端部7aに集中する(黒抜き矢印で示す)磁束19が、先ず、当該高透磁率部材17に優先的に流入する。これにより、モータの回転数の上昇に伴って高透磁率部材17における磁束変化が大きくなることから、図2に示すように、当該高透磁率部材17に電磁誘導によって渦電流57が発生する。そうして、高透磁率部材17の中に渦電流57が発生すると、今度は、図2及び図3の左側に示すように、ステータ巻線9を流れる電流が作る磁束19とは反対向きの(白抜き矢印で示す)磁束47が渦電流57によって生成され、これにより、永久磁石7の端部7aに集中する磁束19が減衰する。
【0041】
また、薄板状の高透磁率部材17はステータ3側に向かって(略径方向に)3枚積層して設けられていることから、図3の右側に示すように、略径方向に隣り合う高透磁率部材17同士の間、及び、高透磁率部材17と永久磁石7との間にはエアギャップ17aが形成される。このため、ステータ巻線9を流れる電流が作る磁束19が永久磁石7の端部7aに流入するには、透磁率が極めて低い3層のエアギャップ17aを通過しなければならないことから、永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7cに単一の高透磁率部材を配置した場合に比して、高透磁率部材17及び永久磁石7を含む、永久磁石7の端部全体の磁気抵抗を高めることができる。
【0042】
つまり、本実施形態に係る同期電動機1によれば、高透磁率部材17の中に発生する渦電流57に起因して生じる反対向きの磁束47と、エアギャップ17aによる磁気抵抗の向上とが相俟って、永久磁石7に流入する磁束19を減衰且つ減少させて、永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのを抑えることができる。なお、高透磁率部材17は、永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7cに積層されている(より厳密には、後述するフラックスバリア27を介して電磁鋼板15a及び永久磁石7に接着されている)だけであり、異なる特性の磁石を複合化している訳ではないので、永久磁石7の全磁束量の低下等が生じることはない。また、電磁誘導によって高透磁率部材17に渦電流57が発生すると、渦電流損失により高透磁率部材17が自己発熱するが、永久磁石7と高透磁率部材17との間にもエアギャップ17aが存在しているので、永久磁石7に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0043】
ここで、高透磁率部材17としては、透磁率が高く且つ飽和磁束密度が高いものが望ましいが、透磁率及び飽和磁束密度の両方が高い材料は存在しない。よって、高透磁率部材17として用いる軟磁性材料は、同期電動機のサイズや用途、要求される出力等に応じて適宜選択されることになるが、一応の目安としては比初透磁率μiが300以上であることが好ましい。そして、ある程度高い飽和磁束密度を確保するという観点から、高透磁率部材17は、純鉄、方向性電磁鋼板、Fe−Ni合金、Fe−Co合金からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることが特に好ましい。
【0044】
また、高透磁率部材17全体の厚さ、すなわち、積層された各高透磁率部材17の合計の厚さは、用いられる材料や同期電動機の大きさ等によって大きく異なるため、一概には規定できないが、数十μm程度の被膜では足りず、少なくともミリ(mm)オーダーの厚さとすることが好ましい。
【0045】
さらに、図3に示すように、永久磁石7及び高透磁率部材17の周方向の端部(端面7b,17b)と、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aとの間には、両者の間に充填された非磁性樹脂(例えば、エポキシ樹脂接着剤)からなるフラックスバリア27が形成されている。このように、非磁性樹脂からなるフラックスバリア27を形成することで、高透磁率部材17が当該フラックスバリア27を介して電磁鋼板15a及び永久磁石7にしっかりと接着されることから、高透磁率部材17が永久磁石7に対してズレるのを抑えることができる。また、隣接する永久磁石7間では、図4(a)の破線37で示すように、一方(図の例では右側)の永久磁石7の周方向の端部7aから他方(図の例では左側)の永久磁石7の周方向の端部7aに磁束が流入する磁束漏れが生じ易いところ、永久磁石7の周方向の端面7bと電磁鋼板15aとの間にフラックスバリア27を形成することで、永久磁石7の周方向の端面7bがフラックスバリア27で囲まれることから、図4(b)に示すように、永久磁石7からの磁束漏れを低減することができる。なお、本実施形態では、フラックスバリア27は断面略半円形に形成されているが、フラックスバリアの断面形状は、非磁性樹脂が充填される孔の形で決まるものであり、略半円形に限定されない。
【0046】
−効果−
本実施形態によれば、永久磁石7の端部7aに集中する磁束19が高透磁率部材17に流入し、当該高透磁率部材17の中に渦電流57が発生すると、ステータ巻線9を流れる電流が作る磁束19とは反対向きの磁束47がかかる渦電流57によって生成されるので、永久磁石7の端部7aに集中する磁束19を減衰させることができる。
【0047】
さらに、略径方向に隣り合う高透磁率部材17同士の間、及び、高透磁率部材17と永久磁石7との間にはエアギャップ17aが形成されるので、永久磁石7の周方向の両端部7aにおける外周側の面7cに単一の高透磁率部材17を配置した場合に比して、高透磁率部材17及び永久磁石7を含む、永久磁石7の端部全体の磁気抵抗を高めることができる。
【0048】
これらにより、高透磁率部材17の中に発生する渦電流57に起因して生じる反対向きの磁束47と、エアギャップ17aによる磁気抵抗の向上とが相俟って、永久磁石7に流入する磁束19を減衰且つ減少させて、永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのを抑えることができる。したがって、渦電流損失の発生を抑えて、モータの高効率化を図ることができる。
【0049】
また、永久磁石7にスリットを形成したり、電気絶縁性部を介在させたりしていないので、構造的な信頼性を維持することができるとともに、異なる特性の磁石を組み合わせた複合磁石とは異なり、トルクの安定度を維持することができる。
【0050】
さらに、永久磁石7及び高透磁率部材17の周方向の端面7b,17bとロータコア15を構成する電磁鋼板15aとの間にフラックスバリア27が形成されているので、ロータコア15に埋め込まれている永久磁石7に対して高透磁率部材17がズレるのを抑えることができるとともに、永久磁石7からの磁束漏れを低減することができる。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0052】
上記実施形態では、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aの透磁率よりも高い透磁率を有する高透磁率部材17を用いたが、高透磁率部材17は電磁鋼板15aの透磁率「以上」の透磁率を有していればよいので、これに限らず、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aと同じ透磁率を有する材料、例えばロータコア15を構成する電磁鋼板のうち、ロータコア以外の残部を用いてもよいし、ロータコア15用電磁鋼板15aを打ち抜いた後の鋼板残材から高透磁率部材17を打ち抜いて用いても良い。
【0053】
より詳しくは、図5に示すように、ロータコア15は、プレスで所定の形状に打ち抜かれた薄い(例えば0.25〜0.35mm)板状の電磁鋼板15aを軸方向に複数枚積層することにより形成されているところ、ロータコア15を製造する際に同時に打ち抜かれた薄板状の高透磁率部材17を用いれば、製造コストの上昇を大幅に抑えることができる。なお、この場合には、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aの透磁率よりも高い透磁率を有する高透磁率部材を用いた場合に比して、高透磁率部材17に流入する磁束19が減少するため、高透磁率部材17の中に発生する渦電流57に起因して生じる反対向きの磁束成分は減少するが、エアギャップ17aによる磁気抵抗の向上効果は維持されるので、永久磁石7の端部7aで渦電流が発生するのを抑えることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、永久磁石7を、ロータコア15の軸方向から見て、2つ一組で径方向外側に行く程広がる略V字状に配置したが、これに限らず、例えば、図6に示すように、永久磁石7を、その長手方向がロータコア15の周方向に沿うように配置してもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態では、フラックスバリア27として、永久磁石7及び高透磁率部材17の周方向の端面7b,17bと、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aとの間に非磁性樹脂を充填したが、これに限らず、フラックスバリア27として、例えば、永久磁石7及び高透磁率部材17の周方向の端面7b,17bと、ロータコア15を構成する電磁鋼板15aとの間に貫通孔(空隙)を形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では永久磁石7の断面形状を矩形状としたが、永久磁石7の断面形状はこれらに限定されない。
【0057】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明は、ステータと、ロータコアの内部に永久磁石が埋め込まれたロータとを備えた同期電動機等について有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 同期電動機
3 ステータ
5 ロータ
7 永久磁石
7a 周方向の端部
7c 外周側の面(外周側の部位)
9 ステータ巻線
15 ロータコア
15a 電磁鋼板
17 高透磁率部材
27 フラックスバリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6