(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下記工程を含む一般式(5)で表されるピラゾール化合物の製造方法であって、第四工程で得られた
水層を第一工程における第二アミンの一部または全部として用いる、ピラゾール化合物の製造方法。
[1]一般式(7)で表される3−メトキシ−アクリル酸エステルと一般式(8)で表される第二アミンを水の存在下で反応させ、一般式(3)で表されるジアルキルアミノアクリル酸エステルを合成する第一工程
。
[2]第一工程で得られた一般式(3)で表されるジアルキルアミノアクリル酸エステルと一般式(2)で表されるカルボン酸ハライドを有機塩基存在下、溶媒中において反応させ、一般式(1)で表される2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルを合成する第二工程
。
[3]第二工程で得られた2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルと一般式(4)で表される置換ヒドラジンとを有機溶媒を含む溶媒中において
アルカリ金属の水酸化物の存在下で反応させ、一般式(5)で表されるピラゾール化合物と一般式(8)で表される第二アミンを含む反応器内容物を得る第三工程。
[4]第三工程で得られた反応器内容物に水を添加するかまたは添加しないで、有機層と水層からなる二層を形成させ、有機層から一般式(5)で表されるピラゾール化合物を取得し、かつ、一般式(8)で表される第二アミンを含む
該水層を得る第四工程。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
6はそれぞれ独立にアルキル基を表し、R
5はアルキル基またはアリール基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステル等の1,3−位に置換基を有するピラゾール化合物をそれに対応する1,5−位に置換基を有するピラゾール化合物から区別するために1,3−異性体と称し、同様に、1,5−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステル等を1,5−異性体と称するものであり、これらの表示は特定のピラゾール化合物を意味するものではない。
【0016】
本明細書において、アルキル基は、直鎖状、分岐状および環状のアルキル基を包含するものとする。アルキル基またはアリール基というときは、それぞれは置換基を有してもよい。
【0017】
<第一工程(置換工程):ジアルキルアミノアクリル酸エステルの製造>
一般式(3)で表されるジアルキルアミノアクリル酸エステルは、一般式(7)で表される3−アルコキシアクリル酸エステルと一般式(8)で表される第二アミンを反応させることで製造できる。
【0020】
3−アルコキシアクリル酸エステルにおいて、R
4はアルキル基を表す。ここで、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。各水素原子はハロゲン原子で置換していてもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、フッ素または塩素が好ましい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、および、それら任意の水素原子がハロゲン原子で置換したものが挙げられる。R
4はピラゾール化合物を反応試剤として用いる反応の目的に応じて選択するべきであるが、生成したピラゾール化合物中のR
4を脱保護してカルボン酸に誘導する場合は、脱離基として機能するので特に限定されず、前記アルキル基のうち、エチル基またはイソプロピル基などが好ましい。
【0021】
R
6は、アルコキシ基を表す。ここで、アルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基がより好ましい。各水素原子はハロゲン原子で置換していてもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、フッ素または塩素が好ましい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、および、それら任意の水素原子がハロゲン原子で置換したものが挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基またはイソプロピル基などが好ましい。
【0022】
3−アルコキシアクリル酸エステルは、公知の方法で製造することができる。例えば、アクリル酸エステルと脂肪族アルコールをPd触媒と亜硝酸エステルの存在下で接触反応させて3,3−ジアルコキシプロピオン酸をエステルとし(特公昭61−36733号)、これを脱アルコールすることで製造できる。
【0023】
一般式(8)で表される第二アミンのR
2、R
3は、それぞれ独立にアルキル基を表す。ここで、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。各水素原子はハロゲン原子で置換していてもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、および、それら任意の水素原子がハロゲン原子で置換したものが挙げられる。R
2、R
3は、環化工程において脱離基−NR
2R
3として機能するので、特に限定されることはなく、前記アルキル基のうち、メチル基またはエチル基が好ましく、R
2、R
3が共にメチル基であるものが特に好ましい。
【0024】
第一工程にかかる反応において、第二アミンは3−アルコキシアクリル酸エステルの1モルに対して、通常1〜20モルを使用し、1〜10モルを使用するのが好ましい。1モルは反応に必要な化学量論量であり、20モルを超えるのは未反応第二アミンが多く処理が煩雑になるので好ましくない。第二アミンは水溶液として使用することができ、そのようにするのが好ましい。本発明においては、第四工程で回収した第二アミン水溶液を使用するのが、廃棄物削減、コストの点で特に好ましい。
【0025】
第一工程においては、無溶媒または反応条件で不活性な溶媒の存在下で反応を行うことができる。溶媒としては、非プロトン性の溶媒が好ましく、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒などが挙げられる。炭化水素系溶媒としては、脂肪族または芳香族の炭化水素が挙げられる。例えば石油エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはデカリン、およびハロゲン化された炭化水素、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタンまたはトリクロロエタンなどが例示できる。エーテル系溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。これらのち、炭化水素系溶媒の使用が好ましく、具体的には、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、n−ヘキサンまたはシクロヘキサンの使用が好ましく、トルエンまたはキシレンがより好ましい。これらの溶媒は混合して使用することができる。
【0026】
溶媒を使用する場合、溶媒の使用量は特に限定されないが、3−アルコキシアクリル酸エステルの1重量部に対し、1〜50重量部であり、2〜20重量部が好ましい。1重量部未満では、溶媒の使用効果が明確には現れず、50重量部では反応後の処理が煩雑になるので好ましくない。
【0027】
反応温度は、−20〜200℃であり、0〜150℃が好ましい。−20℃未満では反応が遅く、200℃を超えると分解生成物等の副生成物が増加して好ましくない。この反応は反応圧力には依存しないが、第二アミンの性状によっては、加圧下で行うことが有利な場合がある。反応圧力は通常0.1〜10MPaで行い、0.1〜1MPaが好ましい。加圧状態の代わりに、大気圧下で還流器等で低沸点資材の流出を防止しながら反応を行うことも好ましい。反応時間は0.1〜100時間、1〜10時間程度が好ましい。
【0028】
本反応にかかる第一〜第四工程においては、ステンレス鋼、ガラス等を用いた通常の反応装置を適用することができる。
【0029】
反応は、3−アルコキシアクリル酸エステルと第二アミンを反応器に導入し混合することで行うが、攪拌するのが好ましい。導入の方法は特に限定されない。
【0030】
反応終了後の反応液は、水を溶媒が存在する場合は、通常二層を形成する。二層に分離していない場合は水を添加して二層を形成させる。各層を分取し、有機層から溶媒を留去すれば3−N,Nジメチルアミノアクリル酸エステルを得ることができる。反応液に水が存在しない場合は、反応液をそのまま蒸留して3−N,Nジメチルアミノアクリル酸エステルを得ることができる。得られた3−N,Nジメチルアミノアクリル酸エステルはさらに再結晶等により精製することもできる。
【0031】
<第二工程(アシル化工程):2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造>
一般式(1)
【0033】
で表される2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルは、一般式(2)
【0035】
で表されるカルボン酸ハライドと一般式(3)
【0037】
で表されるジアルキルアミノアクリル酸エステルを反応させることで製造できる。
【0038】
一般式(1)〜(3)におけるR
2、R
3、R
4は前記の通りであり、R
1は、アルキル基を表す。ここで、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。各水素原子はハロゲン原子で置換していてもよい。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、フッ素または塩素が好ましい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、および、それらの任意の水素原子がハロゲン原子で置換したものが挙げられる。R
1としては、炭素数1〜4のハロゲン化アルキルが好ましく、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、クロロアルキル基またはクロロフルオロアルキル基がより好ましい。具体的には、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、モノフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、トリクロロメチル基、ジクロロメチル基、モノクロロメチル基、ペンタクロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、2,2−ジクロロエチル基、1,1,2,2−テトラクロロエチル基、クロロジフルオロメチル基、ジクロロフルオロメチル基などを挙げることができる。これらのうち、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ジクロロメチル基などがさらに好ましい。
【0039】
一般式(2)におけるXはハロゲン原子を表し、ハロゲンはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。カルボン酸ハライドの製法としては、公知の方法を採用すればよく、例えば、対応するカルボン酸を塩化チオニルなどの塩素化剤で塩素化する方法またはハロゲン化炭化水素を酸化してカルボン酸クロライドとする方法や、1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、触媒の存在下に熱分解してジフルオロ酢酸フルオライドを製造する方法(特開平8−20560公報)などが挙げられる。
【0040】
2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造は非水溶性溶媒中で行われる。この溶媒としては、脂肪族または芳香族の炭化水素が挙げられる。例えば石油エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはデカリン、およびハロゲン化された炭化水素、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタンまたはトリクロロエタンなどが例示できる。トルエン、キシレン、クロロベンゼン、n−ヘキサンまたはシクロヘキサンの使用が好ましく、トルエンまたはキシレンがより好ましい。これらの溶媒は混合して使用することができる。
【0041】
2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造は通常は塩基の存在下で行われる。塩基の添加で、発生するHF、HClなどのハロゲン化水素を捕捉してトリメシン酸エステルの副生を防ぐことができる。塩基は、第三アミン(三級アミン)、ピリジンまたはピリジン誘導体(併せて、「ピリジン類」ということがある。)などが挙げられる。ピリジンまたはピリジン誘導体などの塩基としては、ピリジン、2−、3−もしくは4−メチルピリジン、2−メチル−5−エチル−ピリジン、4−エチル−2−メチルピリジン、3−エチル−4−メチルピリジン、2,4,6−コリジン、2−もしくは4−n−プロピルピリジン、2,6−ジメチルピリジン(ルチジン)、4−ジメチルアミノピリジン、キノリンまたはキナルジンなどが挙げられ、ピリジン、2−メチル−5−エチルピリジン、2,4,6−コリジン、キノリンまたはキナルジンなどが好ましい。これらのうちピリジンはより好ましい。第三アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−イソブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、トリ−tert−ブチルアミン、トリ−n−アミルアミン、トリ−イソアミルアミン、トリ−sec−アミルアミン、トリ−tert−アミルアミンなどの対称第三アミン、N−メチルジ−n−ブチルアミン、N−メチルジイソブチルアミン、N−メチルジ−tert−ブチルアミン、N,N−ジイソプロピルブチルアミン、N,N−ジメチル−n−オクチルアミン、N,N−ジメチルノニルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルウンデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N−メチルジヘキシルアミンなどの非対称第三アミンなどが挙げられる。沸点、水溶性、入手性の点で対称アミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−イソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミンがより好ましく、トリエチルアミンがさらに好ましい。この製造に使用する塩基としては、ピリジンまたはトリエチルアミンが特に好ましい。
【0042】
2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造は、温度−20℃〜+50℃で行い、好ましくは−10℃〜+45℃で行い、さらに好ましくは0〜40℃で行う。反応圧力は反応に影響は及ぼさないので特に制限されないが、0.1〜10MPa程度の加圧下で行ってもよく、通常、大気圧〜1MPa程度で行えばよい。反応時間は反応温度や反応試剤の比率に依存するが、通常10分〜10時間程度であり、反応を追跡しながら基質の減少または消失を目安に決定する。
【0043】
2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造では、カルボン酸ハライド1モルに対してジアルキルアミノアクリル酸エステルを0.5モル〜3モル、好ましくは0.5モル〜1.5モル、より好ましくは0.9モル〜1.1モルとする。塩基は通常、カルボン酸ハライド1モルに対し等モル量程度でよいが、0.5〜5モルであり、0.8〜2モルが好ましく、0.9〜1.5モルがより好ましい。
【0044】
2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの製造は、ジアルキルアミノアクリル酸エステルと塩基を溶媒に溶解して反応温度上限以下の温度に保持しながら、そこへ含ハロゲンカルボン酸ハライドを吹き込むことで行えるが、スクラバー形式とすることもできる。塩基は反応の経過に伴って連続的または逐次的に添加することもできる。
【0045】
このようにして得られた2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルを含む反応液は、アシル化工程でトリメシン酸エステルの生成を抑制するために有機塩基を添加してある場合には有機塩基・ハロゲン化水素塩を含むが、この塩を含む2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルを次工程の環化反応に用いた場合、好ましくない1,5−異性体の生成が促進される。そのため、環化工程の原料として使用するに当たり、次の様な手段を講じることが好ましい。
【0046】
(手段1)塩を含む反応器内容物(反応液)を水洗浄してハロゲン化水素を除去し、環化工程に供する。
【0047】
(手段2)塩を含む反応液を反応温度よりも低くして塩を析出させ、濾過等の方法で塩を除去し、環化工程に供する。
【0048】
(手段3)塩の除去は行わず、環化工程でアルカリ金属水酸化物を添加して反応させる。
【0049】
<第三工程(環化工程):ピラゾール化合物の製造>
一般式(1)
【0051】
で表される2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルと一般式(4)
【0053】
で表されるヒドラジン類を反応させて一般式(5)
【0055】
で表されるピラゾール化合物を製造できる。
【0056】
一般式(1)および一般式(5)におけるR
1、R
2、R
3、R
4は、前記の意味と同じであるので説明を繰り返さない。
【0057】
一般式(4)及び一般式(5)におけるR
5は、アルキル基またはアリール基を表し、これらは置換基を有してもよい。好ましくは、R
5は、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基またはアルコキシアルキル基またはアリール基であって、アルキル基およびアルコキシ基の任意の数の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、アルコキシ基の酸素原子は硫黄原子で置換されていてもよい。ハロゲンは、フッ素、塩素または臭素である。
【0058】
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基が挙げられ、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基またはtert−ブチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0059】
一般式(4)で表されるヒドラジン類は、具体的にはメチルヒドラジン、エチルヒドラジンなどが好ましい。ヒドラジン類は、無水のものでもよいが水溶液のものが入手が容易で取り扱いやすく好ましい。
【0060】
本発明のピラゾール化合物への環化反応は、塩基の存在下または非存在下で行う。塩基は、水溶性の無機塩基である。無機塩基としては、アルカリ土類金属またはアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩がより好ましい。アルカリ金属の水酸化物が特に好ましい。塩基として具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムまたは炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化リチウムが好ましく、水酸化カリウムは水性溶媒に対する溶解度が高く反応、精製等での操作性に優れるのでさらに好ましい。使用する塩基は、特に高純度品は要求されず、通常の工業用薬品、試薬等の汎用グレードのものが経済的で好ましい。
【0061】
環化反応での塩基の添加量は、2−アシル−3−アミノアクリル酸エステル1モルに対して、1モル以下であり、0.05〜1モルが好ましく、0.1〜0.8モルが好ましい。塩基の添加は2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルの転化率には大きな影響を及ぼすことはないので添加しなくてもよい。しかしながら、塩基の添加は1,5−異性体の抑制に効果を表すため添加することが好ましい。添加量が1モルよりも多い場合には、原料または生成物が加水分解して目的生成物の収量が低下することがある。
【0062】
本発明のピラゾール化合物への環化反応は、溶媒の存在下に行うことが好ましい。具体的には、水、脂肪族、脂環式または芳香族の炭化水素、例えば石油エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはデカリンなど、およびハロゲン化された炭化水素、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタンまたはトリクロロエタンなど、エーテル類、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル、メチルtert−アミルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンまたはアニソールなど、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノールなど、ニトリル類、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、n−もしくはイソブチロニトリルまたはベンゾニトリルなど、ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはシクロヘキサノンなど、アミド類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアニリド、N−メチルピロリドンまたはヘキサメチルホスホルアミドなど、スルホキシド類、例えばジメチルスルホキシドなど、またはスルホン類、例えばスルホランなどが挙げられる。炭化水素およびハロゲン化炭化水素が好ましく、芳香族炭化水素がより好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、n−ヘキサンまたはシクロヘキサンが好ましく、トルエンまたはキシレンがより好ましい。また、前段の2−アシル−3−アミノアクリル酸エステル反応と同じ溶媒を使用することが好ましい。前段の2−アシル−3−アミノアクリル酸エステル合成での反応生成物を分離または精製することなくピラゾール環化反応に供する場合には特に同じ溶媒を選択することが好ましい。溶媒は二種以上の併用することができる。
【0063】
ピラゾール化合物への環化反応は低温度で行うことが好ましいが、実用上、−78℃〜+30℃で行い、−30℃〜20℃が好ましい。低温では選択率は高いが、−78℃より低温では溶媒の凝固または粘度上昇による操作の困難、冷却コストの上昇、および反応速度の低下などの点から好ましくない。また、30℃を超えると副反応が起こり選択率に低下が見られるので好ましくない。反応圧力は通常の圧力範囲では反応に影響を及ぼさないので任意であるが、加圧または減圧してもよく、一般的には意識的な加圧または減圧を行わない大気圧下で行えばよい。強い還元剤であるヒドラジン類と空気が接触することは安全上好ましくないので、窒素、アルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。反応時間は、温度等の条件により異なるが10分〜10時間である。
【0064】
ピラゾール化合物への環化反応は、第二工程(アシル化工程)で得られた反応器内容物、置換ヒドラジンおよび必要に応じて無機塩基を混合すればよく、反応に関与する基質および副資材を反応系に導入する順序は限定されない。塩基はヒドラジン類および溶媒を含む組成物として取り扱うのが容易であり、この組成物に対し2−アシル−3−アミノアクリル酸エステルを含む組成物とを接触させる手順が好ましいが、当然、この趣旨に沿う方法であれば本発明の目的を達することができる。具体的には、反応器に仕込まれたいずれか一方の組成物へ他方の組成物を徐々に、例えば、滴下またはメータリングポンプによる注入等の方法で導入するのが好ましい。添加は反応器内容物の温度の上昇や成分の変化等の経過を観察しながら前記した反応温度の上限を超えない範囲で徐々に行うのが好ましい。また、反応器内容物は攪拌するのが好ましい。
【0065】
<第四工程(精製・回収工程)>
環化工程で得られた反応液には、ピラゾール化合物、第二アミン、アシル化工程で用いた有機塩基、有機溶媒(使用した場合に限る)、水、フッ化カリウム等の無機フッ化物(水酸化アルカリ金属を使用した場合)、無機水酸化物、ヒドラジン類等が含まれる。環化反応で水を使用した場合は反応後攪拌を停止することで、また、使用していない場合は反応後水を添加することで、反応液(反応器内容物)は有機層と水層の二層に分離し、有機層に、ピラゾール化合物、アシル化工程で用いた有機塩基および有機溶媒(使用した場合に限る)が、水層には、第二アミン、フッ化カリウム等の無機フッ化物(水酸化アルカリ金属を使用した場合)、無機水酸化物等が含まれる。有機層をフラッシュ蒸留してピラゾール化合物を取得することができ、一方、その際留去された塩基を含む溶媒は再度アシル化工程に使用することができる。また、有機層を水で洗浄して有機塩基を除去してから溶媒を留去してもピラゾール化合物を取得することができる。これらの方法で得られたピラゾール化合物は、さらに、加熱または減圧することで乾燥させることもできる。1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステルに含まれる1,5−異性体は溶媒を用いた結晶化(晶折)により除去することができる。予め1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステルとその異性体を加水分解して1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸に変換してから再結晶化することもできる。また、異性体を含むこれらエステルまたは酸は、吸着カラム等を用いてさらに精製することもできる。
【0066】
また、本発明の方法で合成した1,5−異性体を含む1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステルは、無極性溶媒による洗浄が効果的であり、再結晶処理に代えてこの洗浄で、99.9%以上の高純度とすることもできる。無極性溶媒としては、特に限定されないが、シクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素が挙げられる。洗浄の温度は、0〜25℃が好ましい。0℃未満では、不純物除去効率が低く、25℃より高い温度では、1,3−二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステルが溶出して回収率が低下することがある。洗浄方法は、攪拌洗浄、掛け洗浄、もしくはこれらの組み合わせが例示されるが、攪拌洗浄後に、濾過し、掛け洗浄することが好ましい。
【0067】
第四工程で反応液から分離した水層、洗浄で使用した洗浄水等を回収して得られた水層(第二アミン水溶液)には、環化工程で脱離した第二アミンが、生成した二置換ピラゾール−4−カルボン酸エステルと実質上等モル量含まれる。この第二アミン水溶液は、第一工程の置換反応の反応試剤として使用できる。第二アミン水溶液には、第二アミンのほかフッ化カリウム等の無機フッ化物(水酸化アルカリ金属を使用した場合)、無機水酸化物等が含まれることがあるが、これらの無機物は置換反応に影響を及ぼさないので、精製することなくそのまま使用することができる。第一工程に伴われた無機化合物は、第一工程の反応終了後の水洗浄で除去することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例をもって、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施態様に限られない。反応液中の有機物の分析はガスクロマトグラフ(FID検出器)で行い、組成を面積%で示した。
【0069】
[実施例1]2−ジフルオロアセチル−3−N,Nジメチルアミノアクリル酸メチル(以下、DFAAM)の合成
【0070】
【化11】
【0071】
吹き込み管、温度計、ドライアイスコンデンサーを備え、窒素シールした300ml三口フラスコに、3−N,Nジメチルアミノアクリル酸メチル(以下、DMAM)15g (0.116モル)、トルエン68g、トリエチルアミン13gを仕込み、攪拌しながら水浴で20℃に冷却した。そこへ、ジフルオロ酢酸フルオライド(純度95%)13gを0.2g/分の速度で吹き込み管から反応器に導入した。導入後、反応液の温度を30℃として1時間攪拌を継続して、反応を終了し、反応液を水50gで二回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を留去後、有機物を24.2g得た。ガスクロマトグラフ分析したところ99.4面積%のDFAAMであった。収率94%。
【0072】
[実施例2]3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸メチルの合成
【0073】
【化12】
【0074】
滴下ロート、温度計を備え、窒素風船でシールした500ml三口フラスコに、水6.9g、トルエン100ml、モノメチルヒドラジン4.6g(0.10モル)を仕込み、攪拌しながら−15℃の低温恒温槽で−10℃以下に冷却した。そこへ、実施例1で得たDFAAM24.2gにトルエン67gを添加して調製した溶液91g(DFAAM:0.11モル)を滴下ロートから内温が−10℃を超えないように徐々に滴下した。滴下終了後−12℃で1時間攪拌を継続した後、0℃に昇温し水100mlを添加した。分液ロートで有機層を分取し、水100mlで水洗してから、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、溶媒留去後粗ピラゾールを20.0g得た。ガスクロマトグラフ分析したところ全ピラゾール(3−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸メチルと5−(ジフルオロメチル)−1−メチル−1H−ピラゾール−4−カルボン酸メチルを併せたピラゾール化合物をいう。)純度98.5面積%であり、1,3−異性体94.7に対して1,5−異性体が5.3の比率で存在していた。実験を通して210gのジメチルアミン水溶液を得た。
【0075】
[実施例3]回収ジメチルアミン水溶液を用いたDMAM合成
【0076】
【化13】
【0077】
温度計、ドライアイスコンデンサー、滴下ロートを備えた500ml三口フラスコに3−メトキシアクリル酸メチル(以下、MAME)を11.6g、トルエンを55.5g仕込み氷浴で冷却した。実施例2で得られたジメチルアミン水溶液(計算上2.2質量%のジメチルアミンを含有。)210gを滴下ロートより内温が10℃を超えないように10g/分で滴下した。滴下後、温度調節可能な水バスに替えて、内温30℃で4時間攪拌した。分液ロートで有機層を回収し、水層にトルエン90gを添加して有機層を回収し、両方の有機層を合わせてから、エバポレーターでトルエンを留去して、有機物12.5gを得た。減圧蒸留して得た主留10.8gをガスクロマトグラフィ分析したところ、DMAM98,7面積%、MAME0.1面積%であった。DMAM収率83.0%。
【0078】
[実施例4]回収ジメチルアミン水溶液を用いて合成したDMAMを用いたDFAAMの合成
吹き込み管、温度計、ドライアイスコンデンサーを備え、窒素シールした300ml三口フラスコに、実施例3で得たDMAM10.8g(0.083モル)、トルエン49g、トリエチルアミン9.3gを仕込み、攪拌しながら水浴で20℃に冷却した。そこへ、ジフルオロ酢酸フルオライド(純度95%)9.3gを0.2g/分の速度で吹き込み管から反応器に導入した。導入後、反応液の温度を30℃として1時間攪拌を継続して、反応を終了し、反応液を水36gで二回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、トルエンを留去してDFAAMを17.4g得た。ガスクロマトグラフィ分析したところ、DFAAM99,2面積%であった。収率94%。
【0079】
[実施例5]
吹き込み管、温度計、ドライアイスコンデンサーを備え、窒素シールした200ml三口フラスコに、DMAM14.5(0.1124モル)g、トルエン68g、トリエチルアミン13gを仕込み、攪拌しながら水浴で20℃に冷却した。そこへ、ジフルオロ酢酸フルオライド(純度95%)を1g/分の速度で吹き込み管から反応器に導入した。導入後、反応液の温度を30℃として1時間攪拌を継続して、反応を終了した。DFAAMトルエン溶液を108g得た。
【0080】
[実施例6]
滴下ロート、温度計を備え、窒素風船でシールした500ml三口フラスコに、水9.0g、トルエン100ml、モノメチルヒドラジン6.0g(0.13モル)、水酸化カリウム8.6gを仕込み、攪拌しながら−15℃の低温恒温槽で−10℃以下に冷却した。そこへ、実施例5で得たDFAAMトルエン溶液108gを滴下ロートから内温が−10℃を超えないように徐々に滴下した。滴下終了後−12℃で1時間攪拌を継続した後、0℃に昇温し水100mlを添加した。分液ロートで有機層を分取し、水100mlで水洗してから、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して得た溶液をフラッシュ蒸留して粗ピラゾールを20.5g得た。留出液は190gで、ガスクロマトグラフ分析したところ、トリエチルアミン4.1面積%、トルエン95.8面積%であった。検出器感度補正後の含有量はトリエチルアミン11.0g(回収率88.3%)、トルエン179.0gであった。粗ピラゾールをガスクロマトグラフ分析したところ全ピラゾール純度99.3面積%であり、1,3−異性体98.5に対して1,5−異性体が1.5の比率(面積比)で存在していた。実験を通して230gのジメチルアミン水溶液を得た。
【0081】
[実施例7]
温度計、ドライアイスコンデンサー、滴下ロートを備えた500ml三口フラスコにMAMEを17.4g(0.15モル)、トルエンを50.0g仕込み氷浴で冷却した。実施例6で得られたジメチルアミン水溶液(計算上2.4質量%のジメチルアミンを含有。)230gを滴下ロートより内温が10℃を超えないように10g/分で滴下した。滴下後、温度調節可能な水バスに替えて、内温30℃で4時間攪拌した。分液ロートで有機層を回収し、水層にトルエン90gを添加して有機層を回収し、両方の有機層を合わせてから、エバポレーターでトルエンを留去して、有機物14.6gを得た。減圧蒸留して得た主留12.0gをガスクロマトグラフィ分析したところ、DMAM98,8面積%、MAME0.1面積%であった。DMAM収率81.8%。