特許第5794034号(P5794034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794034
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】障害予測システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20150928BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   G03G21/00 386
   G05B23/02 R
   G05B23/02 T
   G05B23/02 302Y
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-178901(P2011-178901)
(22)【出願日】2011年8月18日
(65)【公開番号】特開2013-41173(P2013-41173A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098132
【弁理士】
【氏名又は名称】守山 辰雄
(72)【発明者】
【氏名】安川 薫
【審査官】 齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/110021(WO,A1)
【文献】 特開2007−188471(JP,A)
【文献】 特開2005−017874(JP,A)
【文献】 特開平08−320726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータについて、値の変化に因果関係がある一対のパラメータから成る組を複数設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された組毎に得られる、各組を成すパラメータ間における値の時系列変化の相関度の推移が最も類似する2つの組について、共通するパラメータが存在する場合には当該共通するパラメータを特定し、共通するパラメータが存在しない場合には、当該2つの組について、一方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度、及び、他方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度を調べ、その中で相関度の推移が最も類似する2つの組に共通するパラメータを特定する特定手段と、
前記特定手段により特定されたパラメータに予め対応付けられた障害が被監視装置に発生する旨の通知を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする障害予測システム。
【請求項2】
前記設定手段は、前記被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータを少なくとも帯電電圧、トナー濃度、現像及びレーザパワーの各類に分類したパラメータ群毎に、そのパラメータ群に分類された各パラメータについて、正常状態の前記被監視装置において、前記値の変化に因果関係がある一対のパラメータからなる組を複数設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の障害予測システム。
【請求項3】
前記特定手段は、前記各組を成すパラメータ間の相関係数を対象範囲の期間をスライドさせた複数の期間についてそれぞれ算出し、当該算出した各期間の相関係数を時系列順に並べて相関データ列とし、当該相関データ列間の距離が近いほど相関度の推移が類似すると判断する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の障害予測システム。
【請求項4】
コンピュータに、
被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータについて、値の変化に因果関係がある一対のパラメータから成る組を複数設定した設定機能と、
前記設定機能により設定された組毎に得られる、各組を成すパラメータ間における値の時系列変化の相関度の推移が最も類似する2つの組について、共通するパラメータが存在する場合には当該共通するパラメータを特定し、共通するパラメータが存在しない場合には、当該2つの組について、一方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度、及び、他方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度を調べ、その中で相関度の推移が最も類似する2つの組に共通するパラメータを特定する特定機能と、
前記特定機能により特定されたパラメータに予め対応付けられた障害が被監視装置に発生する旨の通知を出力する出力機能と、
を実現するためのプログラム。
【請求項5】
前記設定機能は、前記被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータを少なくとも帯電電圧、トナー濃度、現像及びレーザパワーの各類に分類したパラメータ群毎に、そのパラメータ群に分類された各パラメータについて、正常状態の前記被監視装置において、前記値の変化に因果関係がある一対のパラメータからなる組を複数設定する、
ことを特徴とする請求項に記載のプログラム。
【請求項6】
前記特定機能は、前記各組を成すパラメータ間の相関係数を対象範囲の期間をスライドさせた複数の期間についてそれぞれ算出し、当該算出した各期間の相関係数を時系列順に並べて相関データ列とし、当該相関データ列間の距離が近いほど相関度の推移が類似すると判断する
ことを特徴とする請求項又は請求項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害予測システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントなどのように連続的に運転されるシステムについて、観測により得られたデータが閾値を超えるか否かで異常を特定する方法や、2つのパラメータ間の相互相関係数を利用して異常を特定する方法などが考案されている。
【0003】
例えば、木構造的に因果関係の関連する多数のプロセス値を有するプロセスにおいて、結果側から原因側に1つの経路に沿って順次プロセス値を辿って、隣接する2つのプロセス値毎に夫々の経時的測定データの相互相関係数を求めると共に、上記経路に沿った複数の相互相関係数の相乗平均を求め、全ての可能な経路につき求めた上記相乗平均の大きさにより、結果側のプロセス値の変動に対する原因側のプロセス値の影響の程度を分析することを特徴とするプロセスにおける変動の分析方法の発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
例えば、各々が複数のセンサを備える複数の設備を遠隔監視する遠隔監視システムであって、前記設備から送信される、前記複数のセンサで検知された実測センサ値を、随時取得するセンサ値取得手段と、前記設備が正常運転をしている際に、前記複数のセンサで検知され前記センサ値取得手段で取得された実測センサ値に基づいて、前記複数のセンサで検知される複数の実測センサ値間の相関関係を求め、当該相関関係を予測モデルとして格納する予測モデル構築手段と、前記センサ値取得手段が前記複数のセンサの実測センサ値を取得した際に、当該取得した実測センサ値と前記予測モデル構築手段が格納する予測モデルとから当該複数のセンサの予測センサ値を求め、当該実測センサ値と予測センサ値との差異に基づいて、当該設備の故障兆候を検知する故障兆候検知手段とを有することを特徴とする遠隔監視システムの発明が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−328644号公報
【特許文献2】特開2005−149137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータの時系列データに基づいて障害予測を行う技術に関し、或るパラメータのデータ異常を原因にして他のパラメータのデータにも異常が生じる場合であっても、原因となるパラメータを効果的に特定して障害予測を精度向上に役立てることを可能にする技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータについて、値の変化に因果関係がある一対のパラメータから成る組を複数設定した設定手段と、前記設定手段により設定された組毎に得られる、各組を成すパラメータ間における値の時系列変化の相関度の推移が最も類似する2つの組について、共通するパラメータが存在する場合には当該共通するパラメータを特定し、共通するパラメータが存在しない場合には、当該2つの組について、一方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度、及び、他方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度を調べ、その中で相関度の推移が最も類似する2つの組に共通するパラメータを特定する特定手段と、前記特定手段により特定されたパラメータに予め対応付けられた障害が被監視装置に発生する旨の通知を出力する出力手段と、を備えたことを特徴とする障害予測システムである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1に係る本発明において、前記設定手段は、前記被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータを少なくとも帯電電圧、トナー濃度、現像及びレーザパワーの各類に分類したパラメータ群毎に、そのパラメータ群に分類された各パラメータについて、正常状態の前記被監視装置において、前記値の変化に因果関係がある一対のパラメータからなる組を複数設定する、ことを特徴とする障害予測システムである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1、2に係る本発明において、前記特定手段は、前記各組を成すパラメータ間の相関係数を対象範囲の期間をスライドさせた複数の期間についてそれぞれ算出し、当該算出した各期間の相関係数を時系列順に並べて相関データ列とし、当該相関データ列間の距離が近いほど相関度の推移が類似すると判断する、ことを特徴とする障害予測システムである。
【0011】
請求項に係る本発明は、コンピュータに、被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータについて、値の変化に因果関係がある一対のパラメータから成る組を複数設定した設定機能と、前記設定機能により設定された組毎に得られる、各組を成すパラメータ間における値の時系列変化の相関度の推移が最も類似する2つの組について、共通するパラメータが存在する場合には当該共通するパラメータを特定し、共通するパラメータが存在しない場合には、当該2つの組について、一方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度、及び、他方の組における相関度の推移と当該組を成すパラメータについて設定された他の組における相関度の推移との類似度を調べ、その中で相関度の推移が最も類似する2つの組に共通するパラメータを特定する特定機能と、前記特定機能により特定されたパラメータに予め対応付けられた障害が被監視装置に発生する旨の通知を出力する出力機能と、を実現するためのプログラムである。
【0012】
請求項に係る本発明は、請求項に係る本発明において、前記設定機能は、前記被監視装置の内部状態を示す複数のパラメータを少なくとも帯電電圧、トナー濃度、現像及びレーザパワーの各類に分類したパラメータ群毎に、そのパラメータ群に分類された各パラメータについて、正常状態の前記被監視装置において、前記値の変化に因果関係がある一対のパラメータからなる組を複数設定する、ことを特徴とするプログラムである。
【0013】
請求項に係る本発明は、請求項4,5に係る本発明において、前記特定機能は、前記各組を成すパラメータ間の相関係数を対象範囲の期間をスライドさせた複数の期間についてそれぞれ算出し、当該算出した各期間の相関係数を時系列順に並べて相関データ列とし、当該相関データ列間の距離が近いほど相関度の推移が類似すると判断する、ことを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1,に係る本発明によれば、或るパラメータのデータ異常を原因にして他のパラメータのデータにも異常が生じる場合であっても、原因となるパラメータを効果的に特定して障害予測を精度向上に役立てることが可能になる。また、相関度の時系列変化が最も類似する2つの組に共通するパラメータが存在しない場合であっても、原因となるパラメータの特定を行うことができる。
【0016】
請求項2,に係る本発明によれば、原因となるパラメータの特定に係る計算量を削減することができる。また、被監視装置における異常の発生を高い感度で検出できるようになる。
【0017】
請求項3,に係る本発明によれば、元データの僅かな変化を敏感に捉えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る障害予測システムの構成例を示す図である。
図2】パラメータペアの一例を示す図である。
図3】原因パラメータ特定部による処理を説明する図である。
図4】原因パラメータ特定部による処理を説明する図である。
図5】原因パラメータとその異常に関連する障害とを対応付けた対応表の一例を示す図である。
図6】本例の障害予測システムによる処理フローの一例を示す図である。
図7】原因パラメータの特定処理に係る処理フローの一例を示す図である。
図8】2つのパラメータの各時系列データとその相関データ列との関係の一例を示す図である。
図9】3つのパラメータから原因パラメータを特定する例を説明する図である。
図10】3つのパラメータから原因パラメータを特定する例を説明する図である。
図11】サーバ装置のハードウェア構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る障害予測システムについて、図面を参照して説明する。
まず、本例に係る障害予測システムの説明に先立ち、その背景について説明しておく。
例えば、複写機では、機械メンテナンスのために、プロセス制御パラメータなどの機械内部の状態を示す多くのデータが稼働中に収集されている。これらの時系列データは、複雑なフィードバックループを持つシステムパラメータのデータであることが多く、或るパラメータのデータ異常を原因にして他のパラメータのデータにも異常が生じることがある。このため、時系列データの相互相関係数の推移から障害予測する際に、時系列データに異常があるパラメータが複数検出された場合には、どのパラメータが原因であったかを特定できなければ、障害予測に支障が生ずる。
そこで、本例の障害予測システムでは、以下のような構成により、原因パラメータを特定することで、障害予測の精度向上に役立てるようにしている。
【0021】
図1には、本例の障害予測システムの構成を例示してある。
本例の障害予測システムは、障害予測の対象となる複数の複写機と、各複写機から収集したデータに基づいて複写機に障害が発生することを予測するサーバ装置とを、通信網を介して有線又は無線により通信可能に接続したシステムであり、サーバ装置側に、データ収集部1、パラメータ分類部2、グループ別パラメータペア抽出部3、グループ別パラメータペア格納部4、相互相関係数算出部5、閾値比較部6、類似度算出部7、原因パラメータ特定部8、障害予測部9、を設けてある。本例では、1台のサーバ装置に上記の各機能部1〜9を設けた構成であるが、複数台のサーバ装置に分散して設けるようにしてもよい。
【0022】
データ収集部1は、各々の複写機から、その内部状態を示す複数のパラメータのデータを収集して蓄積する。収集データには、収集元の複写機を識別する装置ID、収集日時、パラメータ種別及びその値(設定値や測定値)が含まれている。この収集データに基づいて、同一の装置ID及び同一のパラメータ種別についてパラメータの値を収集日時順に並べることで、パラメータの時系列データが得られる。
【0023】
パラメータ分類部2は、複数のパラメータを、共通性を有するパラメータ同士をまとめたパラメータ群(グループ)に分類(グルーピング)する。分類は、パラメータが収集されている場所(部位)や内容などのパラメータ属性に基づいて行う。例えば、帯電電圧系、トナー濃度系、現像系、レーザパワー系等の系毎に関連するパラメータを分類する。パラメータによっては、2つ以上のパラメータ群に分類されることもある。
このように、複数のパラメータを予め分類しておくことで、後述する原因パラメータの特定に係る計算量を大幅に削減することができる。
【0024】
グループ別パラメータペア抽出部3は、パラメータ分類部2により分類されたパラメータ群別(グループ別)に、正常状態(障害及びその予兆が検出されていない状態)の複写機において時系列データの相関度が強いパラメータペア(2つのパラメータの組み合わせ)を抽出し、そのペアの情報をグループ別パラメータペア格納部4に格納する。すなわち、値の変化に因果関係がある一対のパラメータから成る組(ペア)を抽出して予め設定しておく。なお、パラメータペアの抽出は、1台の複写機(例えば、試験用の複写機)から収集された時系列データに基づいて行ってもよく、複数の複写機(例えば、運用中の複写機)から収集された時系列データに基づいて行ってもよい。
【0025】
本例では、データ収集部1により収集された各パラメータの時系列データに基づいて、正常状態における2つのパラメータの値の時系列変化の相関度として、その時系列データ間の相互相関係数(以下、相関係数)を算出し、正常状態の相関係数が閾値(本例では、0.9)以上となるパラメータペアを抽出する。
ここで、相関係数とは、2つのデータ間の相関(類似性の度合)を示す統計学的指標であり、2つのデータが全く同じ(或いは、変化の仕方が同じ)場合には、相関係数は1となり、逆に全く正反対に変化する場合には、−1となる。また、2つのデータに全く関連性が無い場合には、ゼロとなる。
【0026】
例えば、データ列(x,x,・・・,x)とデータ列(y,y,・・・,y)の相関係数は、(式1)により求めることができる。
【数1】
ここで、x ̄,y ̄は、それぞれ、x={x},y={y}の相加平均である。
これは、各データの平均からのずれを表すベクトル(x−x ̄)=(x−x ̄,・・・,x−x ̄),(y−y ̄)=(y−y ̄,・・・,y−y ̄)のなす角の余弦である。また、この式は、共分散をそれぞれの標準偏差で割ったものに等しい。
【0027】
相関係数の計算は、注目している期間(例えば、6ヶ月)について、その期間全体に亘って一度に算出(すなわち、6ヶ月全体のデータ推移について相関係数を算出)してもよいが、その期間内で算出期間を或る程度の幅(例えば、1週間)で順次シフトしながら算出(すなわち、1週間単位のデータ推移について相関係数を算出)する方法を採用してもよく、注目している期間で連続して強い相関を示すパラメータペアを検出できればよい。なお、正常状態でどのパラメータとも強い相関が得られないパラメータは利用しない。
このように、正常状態において相関が強いパラメータをペアにしておくことで、異常発生時に高い感度で相関係数に変化が現れる効果がある。
【0028】
図2には、パラメータペアの一例を示してある。
図2(a)は帯電電圧系のパラメータ群におけるパラメータペアの例であり、PA_a、PA_b、PA_c、・・・等のパラメータにより構成されている。図2(b)はトナー濃度系のパラメータ群におけるパラメータペアの例であり、PB_a、PB_b、PB_c、・・・等のパラメータにより構成されている。図2(c)は現像系のパラメータ群におけるパラメータペアの例であり、PC_a、PC_b、PC_c、・・・等のパラメータにより構成される。各パラメータ群は、最小で3種類以上のパラメータを含むように構成される。なお、本例では、各パラメータは、Y(Yellow),M(Magenta),C(Cyan),K(Key Plate)といった色要素別に設けられており、パラメータ名の末尾に付した数値(1)〜(4)で色要素を区別している。
【0029】
相互相関係数算出部5は、グループ別パラメータペア格納部4に格納されているパラメータ群別(グループ別)のパラメータペアの情報に基づいて、対象の複写機について直近の期間(本例では、直近過去5日間)におけるパラメータペアの時系列データ間の相関度(本例では、相関係数)を算出する。なお、相関係数を算出する対象範囲の期間(算出期間)は、相関係数の変化の急峻さ(日数が少ないほど急峻)と関係が有り、当該算出期間は厳密に決められるものではなく、異常検出との関係で決めればよい。
本例の相互相関係数算出部5では、データ収集部1により新たなデータが収集されるに従い(例えば、1日毎)、パラメータ群別のパラメータペア毎に、算出期間をスライドさせながら相関係数の算出を順次行う。これによりパラメータペア毎に得られる相関係数を時系列順に並べたデータ列を、そのパラメータペアに係る相関データ列(相関度の推移を示すデータ列)とする。すなわち、本例の相互相関係数算出部5によれば、対象の複写機について、パラメータペア毎に相関データ列を得ることができる。
【0030】
ここで、相関データ列について図8を参照して説明しておく。
図8(a)には、パラメータA,Bの各々の時系列データ(各パラメータの値の時系列変化)を示すグラフを例示してあり、図8(b)には、パラメータA,Bのペアに係る相関データ列(相関係数の推移)を示すグラフを例示してある。
図8(a)によれば、パラメータAの時系列データとパラメータBの時系列データは同様な変化をしているように見える。しかしながら、図8(b)に示すように、これらの時系列データに基づいて作成される相関データ列では、元データの僅かな変化の相違が大きな変動として現れている。例えば、図8(a)の点線で囲った部分の相違は僅かだが、図8(b)ではその相違が大きな変動で表されている。このように、相関データ列を用いることで、元データの僅かな変化を敏感に捉えることができる。
【0031】
閾値比較部6は、相互相関係数算出部5により得られるパラメータペア毎に相関データ列を常時監視して、予め定められた閾値(本例では、0.4)と比較する。そして、閾値を超えた(或いは当該閾値以上の)相関係数を相関データ列に含むパラメータペアが検出された場合に異常状態であると判定し、当該パラメータペアが属するパラメータ群(グループ)を特定する。すなわち、データ異常の原因となった原因パラメータの候補が属するパラメータ群を特定する。なお、原因パラメータが複数のパラメータ群に属する場合には、複数のパラメータ群が特定され得る。
【0032】
類似度算出部7は、閾値比較部6により特定された原因パラメータを含むパラメータ群(グループ)について、そのパラメータ群における全てのパラメータペアの相関データ列に基づいて、各相関データ列間の類似度を算出する。
本例では、相関データ列間の類似度として、予め定められた期間(例えば、5日間)における相関データ列間のユークリッド距離を用いる。すなわち、相関データ列をベクトルと見做すことで、相関データ列間(ベクトル間)の距離を、各々の相関データ列間の波形の変化の類似性を表す指標として用いることができる。この場合、相関データ列間の距離が小さいほど、両データ列の波形の変化が似ていることを意味し、距離がゼロであれば、両データ列は等しいことを意味する。
【0033】
例えば、パラメータA,Bのペアに係る相関データ列AB(x,x,・・・,x)と、パラメータC,Dのペアに係る相関データ列CD(y,y,・・・,y)との距離DAB,CDは、(式2)により求めることができる。
【数2】
本例では、n=30で計算して距離を算出している。
【0034】
原因パラメータ特定部8は、閾値比較部6により特定された原因パラメータを含むパラメータ群(グループ)について、類似度計算部7により算出された各パラメータペアの相関データ列間の類似度(本例では、距離)に基づいて、データ異常の原因となった原因パラメータを特定(推定)する。
【0035】
原因パラメータ特定部8による原因パラメータの特定処理について、図3図4を参照して説明する。
例えば、図3に例示するように、パラメータA,Bのペアに係る相関データ列ABと、パラメータE,Aのペアに係る相関データ列EAとの距離DAB,EAが、全ての相関データ列間の距離の中で最も短いとする。このとき、その距離DAB,EAに係る各パラメータペアでは、パラメータAが共通する。この場合、パラメータAが原因となって他のパラメータに影響を与えていると推定される。このように、最短距離となる2つの相関データ列に共通するパラメータが存在する場合には、そのパラメータがデータ異常(障害等によって発生した相関係数の低下)の原因パラメータと推定できる。
【0036】
また、例えば、図4に例示するように、パラメータA,Bのペアに係る相関データ列ABと、パラメータE,Fのペアに係る相関データ列EFとの距離DAB,EFが、全ての相関データ列間の距離の中で最も短いとする。このとき、その距離DAB,EAに係る各パラメータペアには、共通するパラメータがない。この場合、以下の手順により、条件付きで最短距離を調べ直して原因パラメータを推定する。
(手順1)一方の相関データ列ABと、その対象であるパラメータA,Bのいずれかが関わる他の相関データ列との距離を求める。すなわち、パラメータAに関して距離DAB,AC、DAB,AE、DAB,AFを求め、パラメータBに関して距離DAB,BC、DAB,BE、DAB,BFを求める。
(手順2)他方の相関データ列EFと、その対象であるパラメータE,Fのいずれかが関わる他の相関データ列との距離を求める。すなわち、パラメータEに関して距離DEF,EA、DEF,EB、DEF,ECを求め、パラメータFに関して距離DEF,FA、DEF,FB、DEF,FCを求める。
(手順3)上記の(手順1)及び(手順2)で求めた距離の中から最も短い距離の相関データ列に共通するパラメータを原因パラメータとして推定する。例えば、相関データ列ABと相関データ列BCとの距離DAB,BCが最短であれば、これら2つの相関データ列に共通するパラメータBを原因パラメータとして推定する。
なお、もともと初めに全ての組み合わせで距離計算を行うので、(手順1)及び(手順2)での距離を改めて求め直す必要は無い。
【0037】
障害予測部9は、原因パラメータ特定部8により特定された原因パラメータについて、当該原因パラメータのデータ異常に起因して発生することが予測される障害を特定(推定)する。本例では、図5に例示するように、原因パラメータとその異常に関連する障害(及び施すべき処置の内容)とを対応付けた対応表をメモリに保持しており、当該対応表を参照することで、対象の複写機に発生することが予測される障害(及び施すべき処置の内容)を推定する。
障害予測部9により推定された障害の情報は、対象の複写機の保守を担当する保守担当者などに通知される。これにより、実際に障害が発生する前に、計画的にメンテナンス等の保守作業を行うことができる。
【0038】
本例の障害予測システムによる処理について、図6に例示する処理フローを参照して説明する。
本例の障害予測システムでは、前処理として、パラメータ分類部2が、サブシステム(帯電電圧系、トナー濃度系、現像系など)単位でパラメータを分類(グルーピング)し(ステップS1)、グループ別パラメータペア抽出部3が、パラメータ群(グループ)別に、正常状態の相関係数が強いパラメータペアを抽出してグループ別パラメータペア格納部4に格納しておく(ステップS2)。これらの前処理は、パラメータ群の構成の変更や、パラメータの追加、修正、削除などが無い限り実施し直す必要は無い。
【0039】
上記の前処理が実施された後、対象の複写機毎に、以下の処理を繰り返す。
まず、相互相関係数算出部5が、直近の期間におけるパラメータペアの時系列データ間の相関データ列を生成し(ステップS3)、閾値比較部6が、相互相関係数算出部5により算出された相関データ列に閾値を超える相関係数が含まれるか否かを判定し(ステップS4)、閾値を超える相関係数を含むパラメータペアが検出された場合に異常状態であると判断して、当該パラメータペアを含むパラメータ群(グループ)を特定する(ステップS5)。その後、類似度算出部7及び原因パラメータ特定部8が、特定されたパラメータ群(グループ)について、原因パラメータの特定処理を行い(ステップS6)、障害予測部9が、特定された原因パラメータのデータ異常に起因して発生することが予測される障害を特定(推定)する(ステップS7)。
【0040】
原因パラメータの特定処理について、図7の処理フローを参照して更に説明する。
まず、特定されたパラメータ群(グループ)に属するパラメータの数が2つか否か(すなわち、パラメータペアが1つか否か)を判定する(ステップS11)。
ステップS11において、パラメータの数が2つと判定された場合には、そのいずれか一方が原因パラメータであると特定する(ステップS12)。
一方、ステップS11において、パラメータの数が2つ以上と判定された場合には、パラメータ群における全てのパラメータペアの相関データ列に基づいて、各相関データ列間の距離(類似度)を算出し(ステップS13)、最短距離となる2つの相関データ列に共通するパラメータが存在するか否かを判定する(ステップS14)。
ステップS14において、最短距離となる2つの相関データ列に共通するパラメータが存在すると判定された場合には、その共通パラメータを原因パラメータとして特定する(ステップS16)。
一方、ステップS14において、最短距離となる2つの相関データ列に共通するパラメータが存在しないと判定された場合には、この2つの相関データ列とその対象である4つのパラメータが関わる他の相関データ列との距離を調べ、その中で最短距離となる2つの相関データ列を特定し(ステップS15)、その共通パラメータを原因パラメータとして特定する(ステップS16)。すなわち、条件付きで最短距離となる相関データ列における共通パラメータを原因パラメータとして特定する。
【0041】
ここで、一例として、パラメータA,B,Cの3つのパラメータからなるパラメータ群の中から原因パラメータを特定する場合について、図9図10を参照して説明する。
まず、相互相関係数算出部5が、図9(a)に示すように、パラメータA,Bのペアに係る相関データ列AB、パラメータB,Cのペアに係る相関データ列BC、パラメータC,Aのペアに係る相関データ列CAをそれぞれ算出する。
その結果、相関データ列ABについて図10(a)のデータ推移が得られ、相関データ列BCについて図10(b)のデータ推移が得られ、相関データ列CAについて図10(c)のデータ推移が得られたとする。
この場合、閾値比較部6により、相関データ列AB及び相関データ列BCに、閾値を超える相関係数が含まれることが検出され、そのパラメータ群について原因パラメータを特定する処理に移行する。
【0042】
原因パラメータの特定では、まず、類似度算出部7が、図9(b)に示すように、相関データ列ABと相関データ列BCとの距離DAB,BC、相関データ列BCと相関データ列CAとの距離DBC,CA、相関データ列CAと相関データ列ABとの距離DCA,ABをそれぞれ算出する。
その結果、図9(c)に示すように、距離DAB,BC=0.085、距離DBC,CA=0.251、距離DCA,AB=0.191が得られたとする。
この場合、各距離の関係は、距離DAB,BC<DCA,AB<DBC,CAであるため、原因パラメータ特定部8により、最短の距離DAB,BCについて共通するパラメータであるパラメータBが原因パラメータとして特定される。
【0043】
以上のように、本例の障害予測システムでは、複数のパラメータからなるパラメータ群毎に、相互相関係数算出部5が、各パラメータペアについて相関データ列を生成し、閾値比較部6が、相関データ列に閾値を超える相関係数が含まれるか否かを判定し、閾値を超える相関係数を含むパラメータペアが検出された場合に、類似度算出部7が、そのパラメータが属するパラメータ群について各パラメータペアの相関データ列間の距離を算出し、原因パラメータ特定部8が、距離が最短(若しくは、条件付きで距離が最短)となる2つの相関データ列に共通するパラメータを原因パラメータとして特定し、障害予測部9が、当該原因パラメータのデータ異常に起因する障害の発生を予測するようにした。
このような構成によれば、原因パラメータを効果的に特定することができるため、そのパラメータのデータ異常に起因する障害の発生予測を精度良く行うことが可能になる。
【0044】
ここで、本例の障害予測システムは、複写機について障害予測を行うものであるが、他の装置について障害予測を行うようにしてもよく、例えば、複写機と同様に、用紙等の記録材に画像を形成して出力する画像形成機能を備えた、プリンタ(文書印刷装置)やファクシミリ装置(文書転送装置)、或いはこれらの装置の機能を複合的に備えた複合機など、他の種別の画像形成装置について障害予測を行うようにしてもよい。また、このような画像形成装置への適用に限定するものではなく、複雑なフィードバックループを持つ多数のパラメータを用いて制御される他の装置にも適用することができる。
【0045】
また、本例の障害予測システムでは、被監視装置(本例では、複写機)とは別体のサーバ装置により障害予測を行う構成にしてあるが、各々の被監視装置が自己について障害予測を行う構成にしてもよい。この場合には、被監視装置側に、データ収集部1、相互相関係数算出部5、閾値比較部6、類似度算出部7、原因パラメータ特定部8、障害予測部9などの機能を設ければよい。
【0046】
図11には、本例の障害予測システムにおけるサーバ装置のハードウェア構成を例示してある。
本例では、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)21、CPU21の作業領域となるRAM(Random Access Memory)22や基本的な制御プログラムを記録したROM(Read Only Memory)23等の主記憶装置、本発明の一実施形態に係るプログラムや各種データを記憶するHDD(Hard Disk Drive)24等の補助記憶装置、各種情報を表示出力するための表示装置及び操作者により入力操作に用いられる操作ボタンやタッチパネル等の入力機器とのインタフェースである入出力I/F25、他の装置との間で有線又は無線により通信を行うインタフェースである通信I/F26、等のハードウェア資源をサーバ装置のコンピュータが有している。
そして、本発明の一実施形態に係るプログラムを補助記憶装置24等から読み出してRAM22に展開し、これをCPU21により実行させることで、上述した各機能部をサーバ装置のコンピュータ上に実現している。
【0047】
なお、本発明の一実施形態に係るプログラムは、例えば、当該プログラムを記憶したCD−ROM等の外部記憶媒体から読み込む形式や、通信網等を介して受信する形式などにより、本例に係るサーバ装置のコンピュータに設定される。
また、本例のようなソフトウェア構成により各機能部を実現する態様に限られず、それぞれの機能部を専用のハードウェアモジュールで実現するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:データ収集部、 2:パラメータ分類部、 3:グループ別パラメータペア抽出部、 4:グループ別パラメータペア格納部、 5:相互相関係数算出部、 6:閾値比較部、 7:類似度算出部、 8:原因パラメータ特定部、 9:障害予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11