(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の溶融ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融温度又は請求項2に記載の工程(iii)における溶融温度が180〜260℃である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、かつアミド化合物がポリプロピレン用β晶造核剤であって、ポリオレフィン系樹脂成形体がβ晶含有量50%以上のポリプロピレン系樹脂成形体である請求項1〜4のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
請求項6に記載の溶融ポリオレフィン系樹脂の溶融温度又は請求項8に記載の工程(iii)における溶融温度が180〜260℃である、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶の成長速度を抑制する方法、アミド化合物の結晶成長速度抑制剤、アミド化合物の結晶成長速度抑制剤としてのフェノール系化合物の使用方法、及びポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定のアミド化合物を用いた成形品を製造するに当たり、その製造条件の最適化した上で当該製造を行った。ところが、当該製造を行っていたところ、押出機の圧力が上昇したり(当該上昇はスクリーンメッシュ等の目詰まりが主因であった。この場合、スクリーンメッシュの交換による稼働時間ロスや樹脂の損失等による生産性の低下が問題となる。)、成形品に白点やフィッシュアイが生じたりした。
【0007】
本発明者らは、当該原因を検討したところ、当該アミド化合物が、ポリオレフィン系樹脂に対して溶解度が低いことから、押出機の設定温度が溶解温度に達していないか又は溶解させる時間が短かったために、未溶解物としてポリオレフィン系樹脂に残存したことが原因であると推定した。これに対しては、アミド化合物を微粉末化や混練装置の設定温度を上げることで対応可能と考えた。
【0008】
しかし、特定のアミド化合物を、一旦ポリオレフィン系樹脂に完全溶解させたにも拘わらず、押出機の圧力の上昇や白点が生じた。そこで、さらに本発明者らは原因を追及したところ、次のことがわかった。
(i)その主因が特定のアミド化合物が溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在する該結晶が成長することに起因していること。
(ii)一旦ポリオレフィン系樹脂に完全に溶解させ、その後冷却してポリオレフィン系樹脂中で結晶化させた特定のアミド化合物(微細な結晶)は、溶融ポリオレフィン系樹脂中での結晶成長速度が比較的速い傾向にあったこと。
(iii)アミド化合物の種類や含有量にもよるが、概ね樹脂温度が180〜260℃の温度範囲で結晶成長速度が比較的速い傾向にあったこと。
(iv)また、当該アミド化合物は、ポリオレフィン系樹脂に対して核剤効果を有している。しかし、当該結晶成長により、その表面積の縮小により核剤効果が低下する傾向があったこと。
【0009】
本発明者らは、上記成形加工条件の最適化の他に、特定のアミド化合物の結晶成長を抑制する技術が必要であると考え、さらに鋭意検討した結果、特定のアミド化合物に対してフェノール系化合物を特定量の範囲でポリオレフィン系樹脂に共存せしめることにより、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶の成長速度を著しく抑制できることを見出した。
【0010】
本発明者らは、溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物が結晶成長する現象について、次のように考えた。
【0011】
溶融状態のポリオレフィン系樹脂中にアミド化合物が存在する状態は、当該アミド化合物が溶融ポリオレフィン系樹脂に完全に溶解する温度よりも低い温度領域にある状態なので、結晶として存在するアミド化合物と溶融ポリオレフィン系樹脂に溶解しているアミド化合物とが存在する。通常その状態は、結晶の溶解と析出とが平衡状態にあるものと考えられる。
【0012】
しかし、極性が比較的低いポリオレフィン系樹脂と極性が比較的高いアミド化合物とは相溶し難いと考えられるので、アミド化合物の結晶はポリオレフィン系樹脂に溶解するよりもその結晶同士の凝集の方が起こり易くなり、その結果としてアミド化合物の結晶が成長するものと考えた。
【0013】
本発明者らは、本発明の抑制効果が、特定のアミド化合物とフェノール系化合物との相互作用によるもの、換言すれば溶融ポリオレフィン樹脂へのアミド化合物の溶解性の低下や結晶同士の凝集の阻害などに関係しているものと考えた。その相互作用は、アミド化合物の溶解温度にも影響が表れている。その影響とは、アミド化合物とフェノール系化合物との配合割合において、フェノール系化合物の割合が大きい場合、溶解温度が上昇する傾向が認められることである(後述の実施例)。
【0014】
本発明は、かかる知見や考えに基づいて完成した。即ち、本発明は、以下の項目の発明を提供するものである。
【0015】
(項1)下記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶が溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在する溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する工程を含むポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法であって、
前記溶融ポリオレフィン系樹脂組成物はフェノール系化合物を含有し、かつ、アミド化合物とフェノール系化合物との配合割合が60:40〜10:90(重量比)である、ポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
一般式(1):
R
1−(CONHR
2)n (1)
[式中、nは、2〜4の整数を表す。R
1は、炭素数3〜6の飽和若しくは不飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数3〜25の脂環族ポリカルボン酸残基又は炭素数6〜25の芳香族ポリカルボン酸残基を表す。2〜4個のR
2は、同一又は異なって、それぞれ、炭素数5〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜20脂環族アミン残基又は炭素数6〜20の芳香族アミン残基を表す。]
【0016】
(項2)(i)ポリオレフィン系樹脂にアミド化合物を加熱溶解させる工程、
(ii)前記工程(i)の溶融状態のポリオレフィン系樹脂組成物を冷却して、アミド化合物の結晶を析出させる工程、及び
(iii)前記工程(ii)のアミド化合物の結晶を析出させたポリオレフィン系樹脂組成物をT
1+10℃〜T
2−10℃(T
1は、ポリオレフィン系樹脂の融点を表し、T
2は、アミド化合物の溶解温度を表す。)の温度範囲で溶融させた溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する工程
を含むポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法であって、
前記工程(i)〜工程(iii)から選ばれる少なくとも1つの工程においてフェノール系化合物を前記配合割合の範囲で配合する、上記項1に記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0017】
(項3)一般式(1)に記載のR
1が、式(a):
【0018】
【化1】
【0019】
、又は式(b):
【0020】
【化2】
【0021】
である、上記項1又は項2に記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0022】
(項4)フェノール系化合物が、一般式(2a):
【0023】
【化3】
【0024】
[式中、mは、2〜5の整数を表す。m個のR
3は、同一又は異なって、それぞれ、エステル結合、チオエーテル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜25の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。]、
一般式(2b):
【0025】
【化4】
【0026】
[式中、pは、1〜4の整数を表す。p個のR
3は前記式(2a)と同じである。Xは、エステル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。]、又は一般式(2c):
【0027】
【化5】
【0028】
[式中、qは、1〜4の整数を表す。q個のR
3は前記式(2a)と同じである。Yは、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。]
である上記項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0029】
(項5)上記項1に記載の溶融ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融温度又は上記項2に記載の工程(iii)における溶融温度が180〜260℃である、上記項1〜4のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0030】
(項6)フェノール系化合物の配合量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.07〜1重量部である上記項1〜5のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0031】
(項7)アミド化合物の配合量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.07〜1重量部である上記項1〜6のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0032】
(項8)ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、かつアミド化合物がポリプロピレン用β晶造核剤であって、ポリオレフィン系樹脂成形体がβ晶含有量50%以上のポリプロピレン系樹脂成形体である上記項1〜7のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法。
【0033】
(項9)溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在する下記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶の成長速度を抑制する方法であって、アミド化合物とフェノール系化合物とが60:40〜10:90(重量比)の割合となるようにフェノール系化合物をポリオレフィン系樹脂に含有せしめることを特徴とする方法。
一般式(1):
R
1−(CONHR
2)n (1)
[式中、nは、2〜4の整数を表す。R
1は、炭素数3〜6の飽和若しくは不飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数3〜25の脂環族ポリカルボン酸残基又は炭素数6〜25の芳香族ポリカルボン酸残基を表す。2〜4個のR
2は、同一又は異なって、それぞれ、炭素数5〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜20脂環族アミン残基又は炭素数6〜20芳香族アミン残基を表す。]
【0034】
(項10)溶融ポリオレフィン系樹脂組成物の溶融温度が、T
1+10℃〜T
2−10℃(T
1は、ポリオレフィン系樹脂の融点を表し、T
2は、アミド化合物の溶解温度を表す。)の温度範囲である、上記項9に記載の方法。
【0035】
(項11)(i)ポリオレフィン系樹脂にアミド化合物を加熱溶解させる工程、
(ii)前記工程(i)の溶融状態のポリオレフィン系樹脂組成物を冷却して、アミド化合物の結晶を析出させる工程、及び
(iii)前記工程(ii)のアミド化合物の結晶を析出させたポリオレフィン系樹脂組成物をT
1+10℃〜T
2−10℃(T
1は、ポリオレフィン系樹脂の融点を表し、T
2は、アミド化合物の溶解温度を表す。)の温度範囲で溶融させた溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する工程から選ばれる少なくとも1つの工程においてフェノール系化合物を配合し、工程(iii)において溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶の成長速度を抑制する方法であって、
フェノール系化合物の配合割合が、アミド化合物:フェノール系化合物=60:40〜10:90(重量比)である、上記項9に記載の方法。
【0036】
(項12)一般式(1)に記載のR
1が、式(a):
【0037】
【化6】
【0038】
、又は式(b):
【0039】
【化7】
【0040】
である、上記項9〜11のいずれかに記載の方法。
【0041】
(項13)フェノール系化合物が、一般式(2a):
【0042】
【化8】
【0043】
[式中、mは、2〜5の整数を表す。m個のR
3は、同一又は異なって、それぞれ、エステル結合、チオエーテル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜25の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基を表す。]、
一般式(2b):
【0044】
【化9】
【0045】
[式中、pは、1〜4の整数を表す。p個のR
3は前記式(2a)と同じである。Xは、エステル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。]、又は一般式(2c):
【0046】
【化10】
【0047】
[式中、qは、1〜4の整数を表す。q個のR
3は前記式(2a)と同じである。Yは、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。]
である上記項9〜12のいずれかに記載の方法。
【0048】
(項14)上記項9に記載の溶融ポリオレフィン系樹脂の溶融温度又は上記項11に記載の工程(iii)における溶融温度が、180〜260℃である上記項9〜13のいずれかに記載の方法。
【0049】
(項15)フェノール系化合物の配合量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.07〜1重量部である上記項9〜14のいずれかに記載の方法。
【0050】
(項16)アミド化合物の配合量が、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、0.07〜1重量部である上記項9〜15のいずれかに記載の方法。
【0051】
(項17)フェノール系化合物を有効成分とする、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在する下記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶の結晶成長速度抑制剤。
一般式(1):
R
1−(CONHR
2)n (1)
[式中、nは、2〜4の整数を表す。R
1は、炭素数3〜6の飽和若しくは不飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数3〜25の脂環族ポリカルボン酸残基又は炭素数6〜25の芳香族ポリカルボン酸残基を表す。2〜4個のR
2は、同一又は異なって、それぞれ、炭素数5〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜20の脂環族アミン残基又は炭素数6〜20の芳香族アミン残基を表す。]
【0052】
(項18)T
1+10℃〜T
2−10℃(T
1は、ポリオレフィン系樹脂の融点を表し、T
2は、アミド化合物の溶解温度を表す。)
の温度範囲にある溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在する下記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶の結晶成長速度抑制剤としてのフェノール系化合物の使用。
一般式(1):
R
1−(CONHR
2)n (1)
[式中、nは、2〜4の整数を表す。R
1は、炭素数3〜6の飽和若しくは不飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数3〜25の脂環族ポリカルボン酸残基又は炭素数6〜25の芳香族ポリカルボン酸残基を表す。2〜4個のR
2は、同一又は異なって、それぞれ、炭素数5〜22の飽和若しくは不飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜20の脂環族アミン残基又は炭素数6〜20の芳香族アミン残基を表す。]
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶の成長速度を抑制することができる。そして、アミド化合物の結晶の成長に起因する成形機等の圧力上昇の抑制(スクリーンメッシュ等の目詰まりの低減)することにより生産性の向上に寄与したり、ポリオレフィン成形体中のアミド化合物に基づく白点の低減することにより成形体の外観の改善に寄与したりすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
<ポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法>
本発明の製造方法は、上記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶が溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在する溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する工程を含むポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法であって、前記ポリオレフィン系樹脂組成物はフェノール系化合物を含有し、かつ、アミド化合物とフェノール系化合物との配合割合が60:40〜10:90(重量比)であることを特徴とする。より好ましくは、本発明の効果をより顕著に或いはより安定的に発揮させる観点から、該フェノール系化合物がポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.07〜1重量部の割合及び/又は該アミド化合物がポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.07〜1重量部の割合とする態様が推奨される。
【0055】
また、前記成形工程においてアミド化合物の結晶が存在する状態で成形することにより、当該成形体の剛性の向上などの物性の改質に寄与する。また、当該成形方法によりポリオレフィンの分子鎖が配向性を示す傾向があるため、当該成形体は配向性を示す傾向があるという特徴もある。
【0056】
ポリオレフィン系樹脂
本発明に係るポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が例示され、1種で又は2種以上適宜混合して使用することもできる。
【0057】
具体的には、ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、エチレン含量50重量%以上(好ましくは70重量%以上、特に85重量%以上)のエチレンコポリマー;ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンホモポリマー、プロピレン含量50重量%以上(好ましくは70重量%以上、特に85重量%以上)のプロピレンコポリマー;ポリブテン系樹脂としては、ブテンホモポリマー、ブテン含量50重量%以上(好ましくは70重量%以上、特に85重量%以上)のブテンコポリマー;ポリメチルペンテン系樹脂としてはメチルペンテンホモポリマー、メチルペンテン含量50重量%以上(好ましくは70重量%以上、特に85重量%以上)のメチルペンテンコポリマー、ポリブタジエン等が例示される。
【0058】
上記コポリマーはランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよい。これらの樹脂の立体規則性がある場合は、アイソタクチックでもシンジオタクチックでもよい。
【0059】
上記コポリマーを構成し得るコモノマーとして、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン等の炭素数2〜12のα−オレフィン、1,4−エンドメチレンシクロヘキセン等のビシクロ型モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等が例示できる。
【0060】
上記のポリオレフィン樹脂の中でも、本発明の効果の観点から、好ましくはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂が推奨される。
【0061】
かかる重合体を製造するために適用される触媒としては、一般に使用されているチーグラー・ナッタ型触媒はもちろん、遷移金属化合物(例えば、三塩化チタン、四塩化チタン等のチタンのハロゲン化物)を塩化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウムを主成分とする担体に担持してなる触媒と、アルキルアルミニウム化合物(テトラエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド等)とを組み合わせてなる触媒系やメタロセン触媒も使用できる。
【0062】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂メルトフローレート(JIS K 7210−1995に準じる。)は、その適用される成形方法により適宜選択されるが、通常、0.01〜200g/10分、好ましくは0.05〜100g/10分が推奨される。
【0063】
アミド化合物
本発明に係るアミド化合物は、上記一般式(1)で表わされる少なくとも1種のアミド化合物である。アミド化合物は、公知の方法に従って製造することができ、また市販品を使用することもできる。通常、ポリオレフィン系樹脂用造核剤としても使用される。
【0064】
上記一般式(1)において、nは2〜4であり、好ましくは2又は3の整数が推奨される。R
1は、炭素数3〜6の飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数3〜25の脂環族ポリカルボン酸残基、炭素数6〜25の芳香族ポリカルボン酸残基であり、好ましくは炭素数3〜5の飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数5〜10の脂環族ポリカルボン酸残基、炭素数6〜22の芳香族ポリカルボン酸残基、特に炭素数3又は4の飽和の脂肪族ポリカルボン酸残基、炭素数10〜20の芳香族ポリカルボン酸残基が推奨される。n個のR
2は、同一又は異なって、それぞれ、炭素数5〜22の飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜20の飽和の脂環族アミン残基又は炭素数6〜20の芳香族アミン残基であり、好ましくは炭素数6〜10の飽和の脂肪族アミン残基、炭素数5〜14の飽和の脂環族アミン残基又は炭素数6〜14の芳香族アミン残基、特に炭素数5〜12の飽和の脂環族アミン残基が推奨される。
【0065】
なお、「ポリカルボン酸残基」とはポリカルボン酸から全てのカルボキシル基を除いて残った基を意味し、かかる炭素数はポリカルボン酸残基の総炭素数を表す。また、「アミン残基」とはモノアミンからアミノ基を除いて残った基を意味し、かかる炭素数はアミン残基の総炭素数を表す。
【0066】
アミド化合物としては、具体的には、N,N’−ジシクロヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−テレフタルアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−4,4’−ビフェニルジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロペンチル−4,4’−ビフェニルジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロオクチル−4,4’−ビフェニルジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロドデシル−4,4’−ビフェニルジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,2’−ビフェニルジカルボキシアミド、N,N’−ジフェニルヘキサンジアミド、N,N’−ビス(p−メチルフェニル)ヘキサンジアミド、N,N’−ビス(p−エチルフェニル)ヘキサンジアミド、N,N’−ビス(4−シクロヘキシルフェニル)ヘキサンジアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリシクロヘキシルアミド、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3−プロパントリカルボン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラシクロヘキシルアミド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸テトラ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、アジピン酸ジアニリド、スベリン酸ジアニリド、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ−tert−ブチルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2−エチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−エチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−n−プロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−イソプロピルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−n−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−イソブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−tert−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−sec−ブチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,4−ジメチルシクロヘキシルアミド)、N,N’−ジ(p−t−ブチルフェニル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2−メチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2,3−ジメチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(t−ブチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロペンチル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロオクチル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロドデシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,7−ナフタレンジカルボキシアミド、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,4−ジ−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(1−アダマンチル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−フェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(4−tert−ブチルフェニル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)カルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(1−ナフチル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ドデシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−オクタデシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(4−カルバモイルフェニル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N,N−ジシクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N,N−ジフェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチル−N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチル−N−フェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(1−ピロリジニルカルボニル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(1−ピペリジニルカルボニル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が例示される。
【0067】
好ましくは、一般式(1)において、R
1が上記式(a):
【0071】
を有する一般式(1)であることが推奨される。
【0072】
上記式(a)の具体例としては、N,N’−ジ(p−t−ブチルフェニル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2−メチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2,3−ジメチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(t−ブチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロペンチル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロオクチル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロドデシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジシクロヘキシル−2,7−ナフタレンジカルボキシアミド等が例示され、より好ましくはN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2−メチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(2,3−ジメチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド、N,N’−ジ(t−ブチルシクロヘキシル)−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドが推奨される。
【0073】
また、上記式(b)の具体例としては、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,3−ジメチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,4−ジ−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(1−アダマンチル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−フェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(4−tert−ブチルフェニル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)カルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(1−ナフチル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ドデシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−オクタデシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(4−カルバモイルフェニル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N,N−ジシクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N,N−ジフェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチル−N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(N−n−ブチル−N−フェニルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(1−ピロリジニルカルボニル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[4−(1−ピペリジニルカルボニル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が例示され、より好ましくは3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,4−ジ−tert−ブチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス{4−[N−(2,3−ジメチルシクロヘキシル)カルバモイル]フェニル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが推奨される。
【0074】
ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合、上記一般式(1)で表されるアミド化合物の中でも、ポリプロピレン系樹脂を成形させる際にポリプロピレン系樹脂の結晶形態をβ晶にさせることのできるβ晶造核剤が推奨される。この場合、本発明の効果が顕著に発揮される。β晶造核剤としては、ポリプロピレン系樹脂成形体のβ晶含有量が好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上となるように形成できるものが好ましい。
【0075】
具体的には、好ましい例示として上記一般式(1)において、R
1が式(a)及び式(b)を有する一般式(1)が挙げられ、より好ましくはR
2が炭素数5〜20の飽和の脂環族アミン残基である場合が推奨される。より具体的には、上述の式(a)の具体例や式(b)の具体例に記載されたものが挙げられる。
【0076】
本発明に係るβ晶含有量は、前記ポリプロピレン系樹脂成形体から適当量の評価用サンプルを採取し、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで示差走査熱量分析(DSC)を行い、そのDSCサーモグラムから得られるα晶とβ晶の融解熱量から以下の式に従い求めたものである。
β晶含有量(%)=100×H
β/(H
β+H
α)
[式中、H
βはβ晶の融解熱量(単位:J/g)を示し、H
αはα晶の融解熱量(単位:J/g)を示す。]
【0077】
当該β晶含有量を有するポリプロピレン樹脂成形体を得る手順としては、当該分野で公知の手順を用いることができる(例えば、特開2001−342272、WO2002/66233等)。具体的には、β晶造核剤が溶融ポリプロピレン系樹脂に溶解又は分散した状態から、冷却してポリプロピレンを結晶化させるに際して、当該冷却温度や冷却時間などを適宜調整して、β晶含有量が50%以上の成形体を得ることができる。
【0078】
本発明に係るアミド化合物の結晶系は、本発明の効果が得られる限り特に限定されず、六方晶、単斜晶、立方晶等の任意の結晶系が使用できる。これらの結晶も公知であるか又は公知の方法に従い製造できる。例えば、特開平7−242610号公報や特開平7−188246号公報の記載に従って、ポリカルボン酸とモノアミンを原料にアミド化反応を行うことにより得ることができる。また、これらのポリカルボン酸の酸無水物、塩化物、該ポリカルボン酸と炭素数1〜4の低級アルコールとのエステル化合物等の反応性誘導体をアミド化に供することによっても得ることができる。公知の方法に従い製造されたアミド化合物は、若干不純物を含むものであってもよいものの、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは97重量%以上が推奨される。不純物としては、反応中間体又は未反応物由来の部分アミド化物、副反応物由来のイミド化合物等が例示される。
【0079】
本発明で配合されるアミド化合物の粒径は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、溶融したポリオレフィン系樹脂に対する溶解時間や分散性の観点からできる限り粒径が小さいものが好ましく、通常、レーザー回折光散乱法で測定した最大粒径が200μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは10μm以下である。最大粒子径を上記範囲内に調製する方法としては、この分野で公知の慣用装置を用いて微粉砕し、これを分級する方法等が挙げられる。具体的には、流動層式カウンタージェットミル100AFG(装置名、ホソカワミクロン社製)、超音速ジェットミルPJM−200(装置名、日本ニューマチック社製)等を用いて微粉砕並びに分級する方法が例示される。
【0080】
アミド化合物の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.07〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.7重量部、特に0.1〜0.5重量部が推奨される。この範囲で、本願発明の効果に有意差が認められる。アミド系化合物が0.07重量部より少ない場合、造核剤としての改質効果が十分に発揮されない場合がある。また、1重量部を超える場合、添加量に見合う改質効果が得られ難く、またポリオレフィン系樹脂への溶解がし難く、白点やフィッシュアイなどにより外観を悪くする傾向が認められる。
【0081】
フェノール系化合物
本発明に係るフェノール系化合物は、上記式(2a)、(2b)、(2c)のものが好ましい。フェノール系化合物は、公知の方法に従って製造することができ、また市販品を使用することもできる。
【0082】
上記式(2a)におけるmは、2〜5の整数であり、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは3である。R
3は、エステル結合、チオエーテル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜25の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基である。また、R
3において、エステル結合、チオエーテル結合及びエーテル結合の結合基を有さない場合には、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは1〜4の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基であることが好ましく、前記結合基を有する場合には、好ましくは炭素数5〜25、より好ましくは8〜22の直鎖状又は分枝鎖状アルキル基であることが好ましい。また、m個のR
3は同一又は異なっていても良い。さらにR
3は、水酸基に対してオルト位又はパラ位に位置することが好ましく、特にオルト位に少なくとも一つが位置していることが推奨される。
【0085】
[式中、R
3は上記式(2a)と同じある。]
等が挙げられ、より具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオネート、2,4,ビス(オクチルチオメチル)−6−メチルフェノール等が例示される。
【0086】
上記式(2b)におけるpは、1〜4の整数、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは2である。Xは、エステル結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜6の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。
【0087】
上記式(2b)の具体例としては、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが例示される。
【0088】
上記式(2c)におけるqは、1〜4の整数、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは2である。Yは、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分枝鎖状のアルキレン基を表す。
【0089】
上記式(2c)の具体例としては、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン等が例示される。
【0090】
その他のフェノール化合物としては、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール、トコフェロール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、1,1−ビス(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォン酸モノエチルエステルカルシウム塩、2,2’−オキサミドビス〔エチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレ−ト、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス〔3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチルフェニル)ブタン酸〕グリコールエステル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス〔2−(1,1−ジメチルエチル)−6−〔〔3−(1,1−ジメチルエチル)−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル〕メチル〕−4−メチルフェニル〕エステル、
N,N,−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジン、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−{4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イル−アミノ}フェノール、2−[4,6−ジ(2,4−キシリル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−オクチルオキシフェノール、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレ−ト等が挙げられる。
【0091】
これらのフェノール系化合物は、1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0092】
かかるフェノール系化合物の使用量は、アミド化合物に対して、アミド化合物:フェノール系化合物=60:40〜10:90(重量比)であり、好ましくは60:40〜20:80(重量比)の配合割合である。フェノール系化合物が60:40より少ない場合、本発明の効果が十分に発揮されない。また、10:90よりも多い場合には、当該使用量に見合った効果が得られ難く経済的に好ましくない。
【0093】
また、前記配合割合に加えて、フェノール系化合物によるアミド化合物の結晶の成長速度抑制の効果をより安定的に発揮させる観点から、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、好ましくは0.07〜1重量部、より好ましくは0.08〜0.8重量部の範囲が推奨される。フェノール系化合物が0.07重量部より少ない場合、本発明の効果が安定的に十分に発揮されない場合がある。また、1重量部を超えるフェノール系化合物の使用は、樹脂成形体が黄色や黄緑色に着色する傾向が認められ好ましくない。
【0094】
本発明のアミド化合物の結晶の成長速度を抑制する方法において、フェノール系化合物をポリオレフィン系樹脂に含有せしめる方法は、上記アミド化合物を含有するポリオレフィン樹脂組成物を成形するとき又は成形する前に、アミド化合物:フェノール系化合物を60:40〜10:90(重量比)の配合割合でポリオレフィン系樹脂に含有せしめることができれば、特に制限なく、公知の方法が使用できる。
【0095】
本発明のポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法は、特定状態の溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する工程を含むものであり、前記特定状態とは、上記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶が溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在していることを意味する。
【0096】
アミド化合物の結晶を溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在させる方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂にアミド化合物を加熱溶解させた後、一旦冷却してアミド化合物の結晶を析出させてポリオレフィン系樹脂組成物とし、次いでそれをポリオレフィン系樹脂の融点以上でアミド化合物の溶解温度未満まで加熱する方法や、アミド化合物をポリオレフィン系樹脂とドライブレンドした後、そのドライブレンド物をポリオレフィン系樹脂の融点以上アミド化合物の溶解温度未満の温度範囲までで加熱する方法などが挙げられる。アミド化合物によりポリオレフィンの改質効果を考慮すれば、前者の例示の手順が好ましい。
【0097】
より具体的には、次のような手順が挙げられる。
(A)ポリオレフィン系樹脂(粉末、顆粒、フレーク又はペレット等の形態)、本発明に係るアミド化合物及び必要に応じて後述のポリオレフィン改質剤を所定の比率で仕込み、次いで慣用の混合機(例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、Vブレンダー、ドラムミキサー等)を用いて、通常室温付近で粉体混合してドライブレンド物を得た後、そのドライブレンド物を、慣用の混練機(例えば、(例えば、単軸若しくは多軸(二軸、四軸等)の混練押出機、混練ニーダ、混練ロール機、ミキシングロール機、加圧ニーダ混練機、バンバリーミキサー等)を用いて、好ましくはアミド化合物の溶解温度以上で溶融混練する(混練温度;通常180〜320℃、好ましくは200〜310℃。以下、特に断りがない限り、アミド化合物とポリオレフィン系樹脂とが混練りされる工程での溶融温度を「混練温度」という。)。次いで、押し出されたストランドを水冷、空冷等により冷却し(通常、ポリオレフィン樹脂組成物の結晶化温度以下、好ましくは室温まで冷却される。)、得られたストランドをカッティングすることにより、ペレットタイプのポリオレフィン系樹脂組成物を得る。そのポリオレフィン系樹脂組成物をポリオレフィン系樹脂の融点以上でアミド化合物の溶解温度未満まで加熱する手順、
(B)前記ドライブレンド物をポリオレフィン系樹脂組成物として、それをポリオレフィン系樹脂の融点以上アミド化合物の溶解温度未満の温度範囲までで加熱する手順、
(C)前記手順(A)や(B)のフルコンパウンド法に代えて、マスターバッチ法にして同様の行う手順。
【0098】
上記の手順(A)や手順(A)のマスターバッチ法は、本発明に係る工程(i)〜(iii)の手順(上記項2の発明及び上記項11の発明に係る構成)の具体的な説明に相当する。
【0099】
本発明に係るアミド化合物の結晶が溶融状態のポリオレフィン系樹脂中に存在する溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する方法において、当該溶融状態とする為の溶融温度の範囲は、具体的にはポリオレフィン系樹脂の融点以上アミド化合物の溶解温度未満の温度範囲が挙げられ、好ましくはT
1+10℃〜T
2−10℃、より好ましくはT
1+15℃〜T
2−15℃、特にT
1+20℃〜T
2−15℃が推奨される。
【0100】
ここで、T
1は、「ポリオレフィン系樹脂の融点」を表し、T
2は、ポリオレフィン系樹脂組成物(目的とするポリオレフィン系樹脂成形体の組成と一致している組成物)において存在する当該アミド化合物が完全に溶解する温度を「アミド化合物の溶解温度」として表す。なお、当該温度範囲の関係には、(T
1+10℃)<(T
2−10℃)、(T
1+15℃)<(T
2−15℃)、或いは(T
1+20℃)<(T
2−15℃)が成立する。
【0101】
また、T
1のポリオレフィン系樹脂の融点は、後述の実施例にある[融点]に記載の方法によって測定された値を表し、T
2のアミド化合物の溶解温度は、後述の実施例にある[溶解温度及び析出温度]に記載の方法によって測定された値を表す。
【0102】
また、ポリオレフィン系樹脂の種類、アミド化合物の種類および配合量にもよるが、より具体的な溶融温度の範囲としては、180〜260℃が好ましく、190〜260℃がより好ましく、200〜255℃がさらに好ましい。
【0103】
本発明に係る溶融ポリオレフィン系樹脂組成物を成形する方法としては、例えば、ペレットタイプのポリオレフィン系樹脂組成物を、所望の形状・形態(フィルム、シート、ボトル、ケース等)に応じた公知の成形方法(例えば、圧空成形、圧縮成形、真空成形、シート成形、フィルム成形、ブロー成形、押出サーモフォーム成形、押出成形、射出成形、紡糸等)を採用して成形することにより、ポリオレフィン成形体を製造する方法が挙げられる。
【0104】
本発明は、上述の通り、アミド化合物の結晶が溶融ポリオレフィン系樹脂中で成長することを抑制することを目的として、フェノール系化合物を共存ないし配合させる。換言すれば、アミド化合物の結晶が溶融ポリオレフィン系樹脂に存在しその結晶の成長を抑制したい場合、上記特定量のフェノール系化合物が共存している状態にせしめることが肝要である。よって、フェノール系化合物の配合時期及び手順は、前記の共存状態となれば特に制限はないものの、上記の手順や本発明に係る工程(i)〜工程(iii)から選ばれる少なくとも1つの工程において、単独で配合したり、アミド化合物や他の改質剤等と一緒に配合したり、或いはフェノール系化合物を一括して配合したり、分割して配合したりしてもよい。
【0105】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂の改質を目的として、従来公知のポリオレフィン改質剤を本発明の効果を奏する範囲で添加してもよい。
【0106】
かかるポリオレフィン用改質剤としては、例えば、ポリオレフィン等衛生協議会編「ポジティブリストの添加剤要覧」(2002年1月)に記載されている各種添加剤が挙げられ、より具体的には、安定剤(金属化合物,エポキシ化合物,窒素化合物,燐化合物,硫黄化合物等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物等)、酸化防止剤(亜リン酸エステル系化合物,イオウ系化合物)、界面活性剤、滑剤(パラフィン、ワックス等の脂肪族炭化水素、炭素数8〜22の高級脂肪酸、炭素数8〜22の高級脂肪酸金属(Al,Ca,Mg,Zn)塩、炭素数8〜18の脂肪酸、炭素数8〜22の脂肪族アルコール、ポリグリコール、炭素数4〜22の高級脂肪酸と炭素数4〜18の脂肪族1価アルコールとのエステル、炭素数8〜22の高級脂肪酸アマイド、シリコーン油、ロジン誘導体等)、充填剤(タルク,ハイドロタルサイト,マイカ,ゼオライト,パーライト,珪藻土,炭酸カルシウム,ガラス繊維等)、中和剤、制酸剤、発泡剤、発泡助剤、ポリマー添加剤、蛍光増白剤、可塑剤、分子量調整剤(ラジカル発生剤)、架橋剤、架橋促進剤、帯電防止剤、防曇剤、ポリマーアロイ成分(ブロックSBR或いはランダムSBR及びそれらの水素化物等のゴム類やポリスチレン等)、難燃剤、分散剤、有機・無機の顔料、染料、加工助剤、アンチブロッキング剤、上記アミド化合物以外の有機造核剤、等の各種改質剤が例示される。
【0107】
これらの改質剤は、1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0108】
<溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶成長速度の抑制方法>
本発明の方法は、アミド化合物を含有するポリオレフィン系樹脂において、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在する上記一般式(1)で表されるアミド化合物の結晶の成長速度を抑制する方法であって、該アミド化合物に対して、上記フェノール系化合物をアミド化合物:フェノール系化合物を60:40〜10:90の重量比の割合で含有せしめることを特徴とし、より好ましくは、該フェノール系化合物がポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.07〜1重量部の割合及び/又は該アミド化合物がポリオレフィン系樹脂100重量部に対して0.07〜1重量部の割合とすることが推奨され、当該推奨の態様において本発明の効果がより顕著に或いはより安定的に奏する。
【0109】
特に、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物が、一旦ポリオレフィン系樹脂に溶解させ、その後冷却してポリオレフィン系樹脂中で結晶化したアミド化合物(微細な結晶)である場合には本発明の効果の顕著性が認められる。
【0110】
本発明に係るポリオレフィン樹脂、アミド化合物及びフェノール化合物の説明としては、前記<ポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法>についての上記説明と同義である。
【0111】
<結晶成長速度抑制剤及び結晶成長速度抑制剤としての使用>
本発明の結晶成長速度抑制剤及び結晶成長速度抑制剤としての使用において、かかるフェノール化合物の説明は、前記<ポリオレフィン系樹脂成形体の製造方法>についての上記説明と同義である。
【実施例】
【0112】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例における評価方法は、以下の通りである。
【0113】
[結晶成長速度の抑制効果の評価方法]
溶融温度と同じ温度にセットしたホットステージ(METLLER TOLEDO株式会社製,Hot Stage(FP82HT型))に、ポリオレフィン系樹脂成形体及びスペーサーとしてテフロン(登録商標)シート(100μm厚)をカバーガラス(松浪硝子工業株式会社製/18mm×18mm/No.1[0.12−0.17mm])で挟み込み、1分間加熱してポリオレフィン系樹脂成形体を溶融させた。1分間経過直後に、ピンセットでガラスの上を押さえて、ポリオレフィン系樹脂成形体が均一な薄膜(100μm)となるように調整した。光学顕微鏡(Nicon社製偏光顕微鏡ECLIPSE LV100POL(接眼レンズ:10倍、対物レンズ:50倍))にて、溶融ポリオレフィン系樹脂中に存在するアミド化合物の結晶の最大の長さを目視で判断して評価した。
【0114】
更に、ホットステージ上で2時間静置させた溶融ポリオレフィン系樹脂中のアミド化合物の結晶の最大の長さを目視で判断して評価した。
【0115】
評価方法としては、光学顕微鏡の視野が縦170μm、横130μmの四角形の範囲内において、溶融温度と同じ温度にセットしたホットステージ上で2時間静置させた溶融ポリオレフィン系樹脂中のアミド化合物の結晶の最大の長さが10μm以上の結晶の個数と前記1分間後の10μm以上の結晶の個数との差により、結晶成長速度の抑制の効果を評価した。
【0116】
[融点]
示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、ダイヤモンドDSC)を用い、JIS K 7121(1987)に従って測定した。ポリオレフィン系樹脂約10mgを装置にセットし、30℃で3分間保持した後、10℃/分の加熱速度で加熱し、吸熱ピークの頂点を融点(℃)とした。
【0117】
[溶解温度及び析出温度]
予め目的とするポリオレフィン系樹脂成形体と同じ組成となるポリオレフィン系樹脂組成物を調製する。該ポリオレフィン系樹脂組成物は、所定量の各成分を室温でドライブレンドし、そのドライブレンド物を二軸押出機にて溶融混練りして、押し出されたストランドを水冷し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状のポリオレフィン系樹脂組成物とした。混練温度は、前記ストランドが目視で透明となる温度に設定した。
【0118】
200℃にセットしたホットステージ(同上装置)にそのペレットとスペーサーとしてテフロン(登録商標)シート(同上)とをカバーガラス(同上)で挟み込み、1分間加熱してペレットを溶融させた後、加熱速度90℃/分で溶解するまで加熱した(目安として320℃)。光学顕微鏡(同上装置)を用いて、この昇温過程においてアミド化合物がポリオレフィン系樹脂に溶解した温度(溶解温度(℃))を目視で判定した。次いで、その溶解した状態から冷却速度−45℃/分で200℃まで冷却した。この冷却過程においてアミド化合物が析出した温度(析出温度(℃))を目視で判定した。
【0119】
[外観]
ポリオレフィン系樹脂成形体の外観を下記の判定基準で目視により判断して評価した。
○;外観が良好である。
△;僅かながら淡黄色の着色が知覚できる。
×;着色、フィッシュアイ、白点、クレーターなど外観に異常が認められる。
【0120】
[Tダイ押出機のスクリーンメッシュの状態]
連続押出成形を実施した実施例及び比較例について、スクリーンメッシュ(金網;500mesh)の状態を下記の判定基準で目視により判断して評価した。
○;目詰まりが殆ど認められない。
△;僅かながら目詰まりが認められる。
×;明らかに目詰まりが認められる。
【0121】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレンホモポリマー(MFR=10g/10分,融点;168℃)100重量部、アミド化合物としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(商品名;エヌジェスターNU−100,新日本理化株式会社製)0.3重量部及びフェノール系化合物としてテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャルティーケミカルズ社製、商品名「IRGANOX1010」)0.05重量部、並びにポリオレフィン改質剤としてテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(チバスペシャルティーケミカルズ社製、商品名「IRGAFOS168」)0.13重量及びステアリン酸カルシウム(日東化成工業株式会社製、商品名「CP−S」)0.05重量を室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を二軸押出機にて混練温度(樹脂温度)300℃で溶融混練りして、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドを溶解させ、押し出されたストランドを水冷し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状のポリオレフィン系樹脂組成物を得た。当該ストランドは透明であり、未溶解物は認められなかった。
【0122】
得られたポリオレフィン系樹脂組成物100重量部とテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.3重量部とを室温でドライブレンドした。そのドライブレンドしたポリオレフィン系樹脂組成物を単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出して、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0123】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度、析出温度等を評価した。その結果、該抑制効果について、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに3個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が高いと評価される。また、溶解温度は295℃、析出温度は239℃であった。
【0124】
なお、評価対象の結晶がN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドの結晶であることは、他の添加剤の融点以上である200℃にホットステージ温度を設定しその昇温過程を観察して、200℃に達しても結晶が存在していたことにより確認した。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0125】
[実施例2]
上記ポリプロピレンホモポリマー100重量部、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン9重量部を室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を単軸押出機にて樹脂温度200℃で押し出し、押し出されたストランドを水冷し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状のフェノール系化合物のマスターバッチを調製した。
【0126】
前記マスターバッチ3重量部と実施例1で得られたポリオレフィン系樹脂組成物100重量部とを室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出して、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0127】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度、析出温度等を評価した。その結果、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに4個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が高いと評価される。また、溶解温度は295℃、析出温度は240℃であった。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0128】
[実施例3]
上記ポリプロピレンホモポリマー100重量部、上記N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3重量部、上記テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.35重量部、上記テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト0.13重量及び上記ステアリン酸カルシウム0.05重量を室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を二軸押出機にて混練温度(樹脂温度)300℃で溶融混練りして、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドを溶解させ、押し出されたストランドを水冷し、ペレタイザーでカッティングして、ペレット状のポリオレフィン系樹脂組成物を得た。
【0129】
得られたポリオレフィン系樹脂組成物を単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出して、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0130】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度、析出温度等を評価した。その結果、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに4個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が高いと評価される。また、溶解温度は295℃、析出温度は240℃であった。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0131】
[実施例4]
実施例1で得られたポリオレフィン系樹脂組成物100重量部とフェノール系化合物としてオクタデシル−3−(3,5−ジ-tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.3重量部とを室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出し、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0132】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度、析出温度等を評価した。その結果、該抑制効果について、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに4個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が高いと評価される。また、溶解温度は295℃、析出温度は238℃であった。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0133】
[実施例5]
実施例1で得られたポリオレフィン系樹脂組成物100重量部と1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン0.3重量部を室温でドライブレンドした。そのドライブレンド物を単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出し、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0134】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度及び析出温度を評価した。その結果、該抑制効果について、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに3個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が高いと評価される。また、溶解温度は295℃、析出温度は241℃であった。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0135】
[実施例6]
アミド化合物の種類と配合量を3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン0.2重量部に、フェノール系化合物の配合量を0.2重量部に代え、さらに混練温度を80℃、溶融温度を200℃に代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は210℃であった。
【0136】
[実施例7]
アミド化合物の種類を3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンに代え、さらに混練温度を290℃、溶融温度を210℃に代えた他は、実施例1と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は240℃であった。
【0137】
[実施例8〜12]
アミド化合物の配合量、混練温度、溶融温度を表1に記載の数値に代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は、実施例8;230℃、実施例9;235℃、実施例10;250℃、実施例11;235℃、実施例12;240℃であった。
【0138】
[実施例13]
フェノール系化合物の種類を1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオンに代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は、240℃であった。
【0139】
[実施例14]
ポリオレフィン系樹脂の種類をエチレンプロピレンブロックコポリマー(エチレン含有量;9.5重量%,MFR=26g/10分,融点;164℃)に代えた他は、実施例1と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は、240℃であった。
【0140】
[実施例15〜16]
アミド化合物の種類を表1に記載のアミド化合物に代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は、実施例15;220℃、実施例16;250℃であった。
【0141】
[実施例17]
ポリオレフィン改質剤を使用しなかった他は、実施例3と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は、240℃であった。
【0142】
[実施例18]
成形工程において、スクリーンメッシュ(金網;500mesh)を装備した単軸押出機をTダイ押出機に代えて、シート状に押し出して表面温度40℃に保持されたチルロール上で冷却して、シート状のポリオレフィン系樹脂成形体を得る操作に代えて連続製造を行った他は、実施例1と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(シート状)を得た。なお、当該製造は12時間連続で行った。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。スクリーンメッシュの目詰まりは、殆ど認められなかった。外観は良好であった。析出温度は、240℃であった。
【0143】
[実施例19]
実施例20において、チルロールの表面温度を120℃とし、チルロールでの冷却時間(接触時間)を20秒に調整した他は、実施例20と同様に行って、本発明のポリオレフィン系樹脂成形体(シート状)を得た。当該成形体のβ晶含有量は、72%であった。外観は良好であった。
【0144】
[比較例1]
実施例1に記載のポリオレフィン系樹脂組成物をそのまま単軸押出機にて溶融温度(樹脂温度)230℃で溶融させ混練りをし、ストランド状に押し出し、それを水冷した後、ペレタイザーでカッティングして、本発明外のポリオレフィン系樹脂成形体(ペレット状)を得た。
【0145】
得られたポリオレフィン系樹脂成形体を用いて、アミド化合物の結晶成長速度の抑制効果、溶解温度、析出温度等を評価した。その結果、該抑制効果について、10μm以上の結晶の個数は、1分後のときに0個、2時間後のときに25個であった。この結果は、結晶成長速度の抑制効果が低いと評価される。また、溶解温度は288℃、析出温度は220℃であった。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。
【0146】
[比較例2]
フェノール系化合物の配合量を3重量部に代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明外のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は250℃であった。
【0147】
[比較例3]
アミド化合物の種類を3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンに、フェノール系化合物の配合量を0.05重量部に代え、さらに混練温度を280℃、溶融温度を210℃に代えた他は、実施例3と同様に行って、本発明外のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は230℃であった。
【0148】
[比較例4]
実施例18において、フェノール系化合物を分割添加せずに、その配合量を0.05重量部とした他は、実施例18と同様に行って、本発明外のポリオレフィン系樹脂成形体を得た。当該製造は12時間連続で行った。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。スクリーンメッシュの目詰まりが明らかに認められ、スクリュ−の圧力が上昇したので、スクリーンメッシュを交換しながら12時間運転した。表1に組成、製造条件、評価結果等を纏めた。なお、析出温度は220℃であった。
【0149】
【表1】
【0150】
なお、表1に示す略号は、以下の通りである。
h−PP:ポリプロピレンホモポリマー
b−PP:エチレンプロピレンブロックコポリマー
A:N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド
B:3,9-ビス[4-(N-シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン
C:1,2,3-プロパントリカルボン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)
D:トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド
a:テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン
b:オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
c:1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン
d:1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン