特許第5794167号(P5794167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794167
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ガス分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/61 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   G01N21/61
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-27500(P2012-27500)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164336(P2013-164336A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】大寺 文章
【審査官】 松谷 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−248369(JP,A)
【文献】 特開2004−296233(JP,A)
【文献】 特開昭63−304137(JP,A)
【文献】 特開昭53−062585(JP,A)
【文献】 特開2010−237075(JP,A)
【文献】 特開2008−275390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学窓が形成されたサンプル流路内の測定対象ガスに、水に吸収される吸収波長及び水に吸収されない非吸収波長の測定光を光学窓を介して照射する光源部と、
前記測定対象ガス中を通過した測定光の強度を光学窓を介して受光する受光部と、
吸収波長の測定光の強度と非吸収波長の測定光の強度とに基づいて、前記測定対象ガス中の水蒸気量を算出する水蒸気量演算部とを備えるガス分析装置であって、
第一時間に記憶された非吸収波長の測定光の強度と、当該第一時間より後になる第二時間に取得された非吸収波長の測定光の強度とを比較することで、非吸収波長の測定光の強度の変動量を算出する算出部と、
前記測定対象ガス中の水蒸気量に基づいて、前記測定対象ガスにおける水蒸気の分圧値を算出して、当該分圧値と飽和水蒸気圧とを比較することにより、結露が生じる可能性を示す比較結果を作成する比較部と、
前記比較結果及び前記変動量に基づいて、前記光学窓に結露が生じたか否かを判定する結露判定部と
前記光学窓を加熱するためのヒータ部と、
前記ヒータ部の温度を制御するヒータ温調制御部とを備え
前記結露判定部は、前記光学窓に結露が生じたと判定したときには、前記ヒータ温調制御部に一時的に加熱制御命令を送信することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記サンプル流路に形成された光学窓として、入射用光学窓と、当該入射用光学窓に対向する出射用光学窓とが形成されており、
前記光源部は、前記入射用光学窓からサンプル流路内に測定光を入射させるともに、前記受光部は、前記出射用光学窓からサンプル流路外に出射された測定光を受光することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記サンプル流路に形成された光学窓として、入出射用光学窓が形成されるとともに、前記サンプル流路内で当該入出射用光学窓に対向する反射鏡が形成されており、
前記光源部は、前記入出射用光学窓からサンプル流路内に測定光を入射させるともに、前記受光部は、前記反射鏡で反射された後、前記入出射用光学窓からサンプル流路外に出射された測定光を受光し、
前記結露判定部は、前記光学窓又は前記反射鏡に結露が生じたか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ吸収分光法を利用して気体中の水蒸気量を測定するガス分析装置に関し、特に半導体製造装置における真空領域中や煙道中や燃焼プロセス中や自動車測定対象ガス中や燃料電池における流路中等の水蒸気量を測定するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体中の水蒸気量を測定する方法の一つとして、水分子が特定波長領域(例えば、1.3μm帯)の光のみを吸収することを利用した吸収分光法が挙げられる。この吸収分光法は、測定対象のサンプルガスに非接触で測定可能であるためサンプルガスの場を乱さずに、サンプルガス中の水蒸気量を計測することができる。
【0003】
このような吸収分光法の中でも、特に光源に波長可変半導体レーザを利用した「波長可変半導体レーザ吸収分光法」は、シンプルな装置構成で実現することができる。例えば、「波長可変半導体レーザ吸収分光法」を利用したガス分析装置では、サンプルガスが所定方向に流れている配管(サンプル流路)に対して、配管に形成された入射用光学窓と出射用光学窓とを介して、配管を横切って光路(光路長L)が形成されるようにそれぞれ対向して設けられる波長可変半導体レーザと光検出センサ(受光部)とを追加することが一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
このようなガス分析装置によれば、波長可変半導体レーザから照射された所定波長νのレーザ光は、配管内を通過する過程でサンプルガス中に存在する水分子の遮光作用によってレーザ光の進行が阻害されて、サンプルガス中における水分子の濃度に対応して光検出センサに入射する光量が減少することを利用して、波長可変半導体レーザから放射されたレーザ光の光量に対する光検出センサに入射するレーザ光の光量を測定することによって水分子の濃度が算出される。これにより、実際に起きているサンプルガスの挙動をリアルタイムに知ることができる。また、測定感度については、光路長Lに比例して増大するので、光路長Lを選択することで微量水分量領域から高湿度領域までの水蒸気量を測定することが可能である。
【0005】
ここで、吸収分光法における演算処理の一例について説明する。Lambert-Beerの法則より下記式(1)が成り立つ。
【0006】
【数1】
【0007】
なお、I(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の光強度、I(ν)は周波数νにおける透過光強度、cは水分子の数密度、Lはサンプルガスを通過する光路の長さ、S(T)は所定の吸収線強度におけるガス温度Tの関数、K(ν)は周波数νにおける吸収特性関数である。
【0008】
そして、図5は、波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用したガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、図6は、図5に示すガス分析装置のブロック図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
ガス分析装置101は、光源部10と、受光部20と、圧力値Ptotalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部160とを備える。
【0009】
ここでは、ガス分析装置101は、燃料電池システムへの給排気の各ラインに連結されたサンプル流路70内を流れる測定対象ガス中の水蒸気量を測定するために用いられている。サンプル流路70はZ方向に伸びており、サンプル流路70の側壁には、入射用光学窓71と、入射用光学窓71にX方向に距離Lを空けて対向する出射用光学窓72とが形成されている。そして、測定対象ガスはサンプル流路70内をZ方向に流れている。
【0010】
光源部10は、例えば光通信用分布帰還系形(DFB:distributed feedback)半導体レーザダイオードである。レーザダイオードは、近赤外領域の所定波長範囲内からレーザの発振波長νを調整することが可能となっており、レーザ制御部50からの制御信号によって制御されるようになっている。なお、上記光源部として、波長可変型の半導体レーザであれば赤外光その他の波長領域のいずれの構造のレーザでもよく、比較的高価であるが量子カスケードレーザ等が用いられてもよい。
そして、レーザダイオードは、入射用光学窓71からサンプル流路70内にX方向でレーザ光を入射させるように配置されており、レーザ光が測定対象ガスに対して照射されるようになっている。
【0011】
受光部20は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードである。そして、フォトダイオードは、出射用光学窓72からサンプル流路70外にX方向で出射されたレーザ光を受光するように配置されており、測定対象ガスを通過したレーザ光の強度I(ν)を受光する。これにより、水分子の吸収スペクトルの中心波長部分のレーザ光の強度I(ν)と、中心波長部分の両側となる非吸収波長部分のレーザ光の強度I(ν)とを含むスペクトル波形をフォトダイオードで取得することで、制御部160がI(ν)とI(ν)とを算出するができる。図7は、フォトダイオードで取得された吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【0012】
圧力センサ31は、サンプル流路70内に設置されており、測定対象ガスの全圧である圧力値Ptotalを所定時間間隔で測定する。また、ガス温度センサ32も、サンプル流路70内に設置されており、測定対象ガスの温度であるガス温度値Tを所定時間間隔で測定する。なお、圧力センサ31とガス温度センサ32とに関しては、圧力値Ptotalやガス温度値Tが既知である場合や測定に影響を及ぼすような変化が想定されない場合にはなくてもよい。
【0013】
レーザ制御部50は、レーザ電流を制御するレーザ電流制御部51と、レーザ温度を制御するレーザ温調部52とにより構成される。
制御部160は、CPU161とメモリ62とを備える。また、CPU161が処理する機能をブロック化して説明すると、測定対象ガス中の水蒸気量を算出する水蒸気量演算部61aを有する。
【0014】
そして、レーザ光の強度I(ν)、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換し、水蒸気量演算部61aは、このデジタル値からI(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得ることで、測定対象ガス中の水蒸気量を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−014585号公報
【特許文献2】特開2010−237075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述したようなガス分析装置101では、サンプル流路70内を高湿度領域の水蒸気量を含む測定対象ガスが流れている場合に、水分の凝縮による結露が入射用光学窓71や出射用光学窓72等に生じることがある。このように結露が生じたとき、水分が凝縮することによってレーザ光を散乱させるため、フォトダイオードで取得されるレーザ光の強度I(ν)に大きな変化が起きてしまい、測定対象ガス中の水蒸気量を正確に測定できなくなる。図8は、結露が生じたときに取得された吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
そこで、結露を避けるためには、測定対象ガスの流れるサンプル流路70を一定温度以上に加温しておくことが考えられるが、必要以上の加温は測定対象ガスの性質や状態そのものを変化させてしまうという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本出願人は、入射用光学窓71や出射用光学窓72等に結露が生じたことを判定することで、測定対象ガス中の水蒸気量を正確に測定する方法について検討した。まず、フォトダイオードで取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)に大きな変化が起きたときには、水蒸気量の変化でないため入射用光学窓71や出射用光学窓72等に結露が生じた可能性がある。よって、ある時間tに予め記憶させた非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)と、現時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)とを比較することにより、非吸収波長のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を算出することで、結露が生じたと判定することが考えられる。しかし、レーザ光の強度の変動量ΔI(ν)の原因は、結露以外にも存在する。例えば、入射用光学窓71や出射用光学窓72の汚れ、レーザダイオードの劣化、光軸のズレ等が考えられる。すなわち、変動量ΔI(ν)だけでは結露の有無を正確に判定することはできない。
【0018】
レーザ光の強度の変動量ΔI(ν)の原因が、結露であることを正確に判定するためには、その他の原因との切り分けが必要である。そこで、結露が起こりうる状態であるか否かを判定することにした。測定対象ガス中の水蒸気量から下記式(2)に従い、水蒸気の分圧値Ppartialが求められる。水蒸気の分圧値Ppartialが、現時間tの温度Tにおける飽和水蒸気圧に対してどれだけ近いかわかれば、入射用光学窓71や出射用光学窓72に結露が起こりうる状態であるかを判定することができる。
partial=c×k×T ・・・(2)
なお、kはボルツマン定数である。
【0019】
したがって、測定光の強度I(ν)に大きな変化がおき、かつ、分圧値Ppartialが飽和水蒸気圧に近いときには、結露が生じたと判定することを見出した。
【0020】
また、分圧値Ppartialと飽和水蒸気圧との比較に変えて、飽和水蒸気圧曲線で知られているSONNTAG(1990)の式から導き出されている下記式(3)、(4)に従い、水蒸気の分圧値Ppartialから露点温度Tに換算して、露点温度Tとガス温度値Tとの比較を行っても本質的には同様である。
y=ln(Ppartial/611.213) ・・・(3)
なお、y≧0であるとき(露点温度Tが0℃以上であるとき)
=13.715×y+8.4262×10−1×y2+1.9048×10−2×y3+7.8158×10−3×y4
・・・(4)
なお、上述した例では、露点温度Tが0から100℃までの場合を想定しているが、それ以外の露点温度Tである場合でも、飽和水蒸気圧曲線により好ましいとされる近似式を用いて適用してもよい。
【0021】
すなわち、本発明のガス分析装置は、光学窓が形成されたサンプル流路内の測定対象ガスに、水に吸収される吸収波長及び水に吸収されない非吸収波長の測定光を光学窓を介して照射する光源部と、前記測定対象ガス中を通過した測定光の強度を光学窓を介して受光する受光部と、吸収波長の測定光の強度と非吸収波長の測定光の強度とに基づいて、前記測定対象ガス中の水蒸気量を算出する水蒸気量演算部とを備えるガス分析装置であって、第一時間に記憶された非吸収波長の測定光の強度と、当該第一時間より後になる第二時間に取得された非吸収波長の測定光の強度とを比較することで、非吸収波長の測定光の強度の変動量を算出する算出部と、前記測定対象ガス中の水蒸気量に基づいて、前記測定対象ガスにおける水蒸気の分圧値を算出して、当該分圧値と飽和水蒸気圧とを比較することにより、結露が生じる可能性を示す比較結果を作成する比較部と、前記比較結果及び前記変動量に基づいて、前記光学窓に結露が生じたか否かを判定する結露判定部と、前記光学窓を加熱するためのヒータ部と、前記ヒータ部の温度を制御するヒータ温調制御部とを備え、前記結露判定部は、前記光学窓に結露が生じたと判定したときには、前記ヒータ温調制御部に一時的に加熱制御命令を送信するようにしている。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明のガス分析装置によれば、非吸収波長の測定光の強度の変動量を測定するとともに、分圧値と飽和水蒸気圧とを比較することから結露が起こりうる状態かどうかも判定し、それらふたつの結果から、光学窓に結露が生じたか否かを正確に判別できる。
【0023】
(他の課題を解決するための手段及び効果)
また、上記の発明は、前記サンプル流路に形成された光学窓として、入射用光学窓と、当該入射用光学窓に対向する出射用光学窓とが形成されており、前記光源部は、前記入射用光学窓からサンプル流路内に測定光を入射させるともに、前記受光部は、前記出射用光学窓からサンプル流路外に出射された測定光を受光するようにしてもよい。
【0024】
そして、上記の発明は、前記サンプル流路に形成された光学窓として、入出射用光学窓が形成されるとともに、前記サンプル流路内で当該入出射用光学窓に対向する反射鏡が形成されており、前記光源部は、前記入出射用光学窓からサンプル流路内に測定光を入射させるともに、前記受光部は、前記反射鏡で反射された後、前記入出射用光学窓からサンプル流路外に出射された測定光を受光し、前記結露判定部は、前記光学窓又は前記反射鏡に結露が生じたか否かを判定するようにしてもよい。
【0025】
さらに、上記の発明は、前記光学窓を加熱するためのヒータ部と、前記ヒータ部の温度を制御するヒータ温調制御部と、前記結露判定部は、前記光学窓に結露が生じたと判定したときには、前記ヒータ温調制御部に加熱制御命令を送信するようにしているので、光学窓や反射鏡に結露が生じたと判定したときには、ヒータ部による加温制御を行うことで、定常的な状態から一時的に温度を上げ、結露状態からの早期復帰を可能にし、利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態であるガス分析装置の一例を示す概略構成図。
図2図1に示すガス分析装置のブロック図。
図3】判定方法について説明するためのフローチャート。
図4】本発明の他の実施形態であるガス分析装置の一例を示す概略構成図。
図5】波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用したガス分析装置の一例を示す概略構成図。
図6図5に示すガス分析装置のブロック図。
図7】フォトダイオードで取得された吸収スペクトルの一例を示すグラフ。
図8】結露が生じたときに取得された吸収スペクトルの一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態であるガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、図2は、図1に示すガス分析装置のブロック図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。また、上述した従来のガス分析装置101と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガス分析装置1は、光源部10と、受光部20と、圧力値Ptotalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、ヒータ部81と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、ヒータ部81の温度を制御するヒータ温調制御部80と、マイコンやPCで構成される制御部60とを備える。
【0029】
ヒータ部81は、入射用光学窓71と出射用光学窓72とを加熱することができるようになっており、ヒータ温調制御部80からの制御信号によって制御されるようになっている。なお、通常結露防止のために入射用光学窓71や出射用光学窓72や周辺配管を加熱させることは一般的であり、本発明ではその加熱状態からさらに一時的に加熱させることになる。よって、ヒータ温調制御部80は、制御部60の結露判定部61dと連動して動作するようになっている。具体的には、ヒータ温調制御部80は、後述する結露判定部61dで結露したと判定されると、加熱制御命令を受信する。加熱制御命令については、測定される吸収スペクトル結果から、蒸発乾燥して結露が終わったとみなされるまで続けるようにすれば、必要以上に計測器やサンプルガスに熱的な負荷をかけることはなくなる。
【0030】
制御部60は、CPU61とメモリ62とを備える。また、CPU61が処理する機能をブロック化して説明すると、測定対象ガス中の水蒸気量を算出する水蒸気量演算部61aと、非吸収波長部分のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を算出する算出部61bと、結露が生じる可能性を示す比較結果を作成する比較部61cと、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに結露が生じたか否かを判定する結露判定部61dとを有する。さらに、メモリ62には、非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)等を記憶するためのレーザ光強度記憶領域を有する。
【0031】
水蒸気量演算部61aは、レーザ光の強度I(ν)、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換し、このデジタル値からI(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得ることで、測定対象ガス中の水蒸気量を演算する制御を行う。このとき、水蒸気量演算部61aは、非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)をレーザ光強度記憶領域に記憶させる。
【0032】
算出部61bは、第一時間tに記憶された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)と、現時間(第二時間)tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)とを比較することで、非吸収波長部分のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を算出する制御を行う。
例えば、現時間tに取得されたスペクトル波形から算出された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)を得る。そして、メモリ62に記憶されている第一時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)を得る。これにより、第一時間tに記憶された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)と、現時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)とを比較することで、非吸収波長部分のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を算出する。なお、非吸収波長のレーザ光の強度としては、例えば、非吸収波長帯中の任意の波長一点で随時強度を測定してもよく、非吸収波長帯の全ての積算値や平均値を取っても構わない。
【0033】
比較部61cは、水蒸気量演算部61aで現時間tに取得された測定対象ガス中の水蒸気量から式(2)に従い、測定対象ガスにおける水蒸気の分圧値Ppartialを算出して、式(3)、(4)に従い露点温度Tを算出するとともに、水蒸気量演算部61aで現時間tに取得されたガス温度値Tを取得して、露点温度Tとガス温度値Tとを比較することにより、結露が生じる可能性を示す比較結果を作成する制御を行う。
例えば、露点温度TがT×0.95以上である(露点温度Tがガス温度値Tに対して近い)か否かを判定する。そして、露点温度TがT×0.95以上であれば、結露が生じる可能性が高いことを示す比較結果を作成する。一方、露点温度TがT×0.95未満であれば、結露が生じる可能性が低いことを示す比較結果を作成する。
【0034】
結露判定部61dは、比較結果及び変動量ΔI(ν)に基づいて、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに結露が生じたか否かを判定する制御を行う。
ここで、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに結露が生じたか否かを判定する判定方法について説明する。図3は、判定方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、水蒸気量演算部61aは、レーザ光の強度I(ν)、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換し取得する。
【0035】
次に、ステップS102の処理において、水蒸気量演算部61aは、デジタル値からI(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得ることで、測定対象ガス中の水蒸気量を演算する。このとき、水蒸気量演算部61aは、第一時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)をレーザ光強度記憶領域に記憶させる。
また、比較部61cは、水蒸気量演算部61aで算出された測定対象ガス中の水蒸気量から式(2)に従い、測定対象ガスにおける水蒸気の分圧値Ppartialを算出する。
【0036】
次に、ステップS103の処理において、水蒸気量演算部61aは、レーザ光の強度I(ν)、圧力値Ptotal、ガス温度値TをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換し取得する。
次に、ステップS104の処理において、水蒸気量演算部61aは、デジタル値からI(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得ることで、測定対象ガス中の水蒸気量を演算する。このとき、水蒸気量演算部61aは、第二時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)をレーザ光強度記憶領域に記憶させる。
また、比較部61cは、水蒸気量演算部61aで算出された測定対象ガス中の水蒸気量から式(2)に従い、測定対象ガスにおける水蒸気の分圧値Ppartialを算出する。
【0037】
次に、ステップS105の処理において、算出部61bは、第一時間tに記憶させた非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)と、第二時間tに取得された非吸収波長のレーザ光の強度I(ν)とを比較することで、非吸収波長部分のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を算出する。そして、結露判定部61dは、変動量ΔI(ν)が例えば10%以上であるか否かを判定する。
レーザ光の強度の変動量ΔI(ν)が10%未満であった場合には、ステップS106の処理において、結露判定部61dは、入射用光学窓71や出射用光学窓72等に結露が生じた可能性がないと判定して、ステップS103の処理に戻る。また、後述するステップS110の処理でヒータ温調制御部80に加熱制御命令を送信しているときには、蒸発乾燥して結露が終わったとみなして、ヒータ温度制御部80に加熱停止制御命令を送信する。これにより、入射用光学窓71と出射用光学窓72とを一時的に加熱することで、必要以上に計測器やサンプルガスに熱的な負荷をかけることをなくすことができる。
【0038】
一方、レーザ光の強度の変動量ΔI(ν)が10%以上であった場合には、入射用光学窓71や出射用光学窓72等に結露が生じた可能性があると判定して、ステップS107の処理において、比較部61cは、ステップS104の処理で算出された水蒸気の分圧値Ppartialを取得して、式(3)、(4)に従い露点温度Tを算出する。
次に、ステップS108の処理において、比較部61cは、ステップS104の処理で算出されたガス温度値Tを取得して、露点温度TがT×0.95以上であるか否かを判定する。露点温度TがT×0.95未満であった場合には、ステップS109の処理において、比較部61cは、結露が生じた可能性が低いことを示す比較結果を作成する。これにより、結露判定部61dは、レーザ光の強度の変動量ΔI(ν)の原因は結露以外であると判定する。
【0039】
一方、露点温度TがT×0.95以上であった場合には、ステップS110の処理において、比較部61cは、結露が生じる可能性が高いことを示す比較結果を作成する。そして、結露判定部61dは、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに結露が生じたと判定して、ヒータ温調制御部80に加熱制御命令を送信して、ステップS103の処理に戻る。これにより、入射用光学窓71と出射用光学窓72とを加熱することで、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに付着した水分子が蒸発乾燥していく。
【0040】
以上のように、ガス分析装置1によれば、非吸収波長のレーザ光の強度の変動量ΔI(ν)を測定するとともに、分圧値Ppartialと飽和水蒸気圧とを比較することから結露が起こりうる状態かどうかも判定し、それらふたつの結果から、入射用光学窓71と出射用光学窓72とに結露が生じたか否かを正確に判別できる。
【0041】
<他の実施形態>
上述したガス分析装置1において、サンプル流路70の側壁には、入射用光学窓71と出射用光学窓72とが形成されている構成としたが、サンプル流路270の側壁には、入出射用光学窓271が形成されるとともに、サンプル流路270内で入出射用光学窓271に対向する反射鏡272が形成されているような構成としてもよい。
図4は、本発明の他の実施形態であるガス分析装置201の一例を示す概略構成図である。サンプル流路270はZ方向に伸びており、サンプル流路270の側壁には、入出射用光学窓271が形成されるとともに、サンプル流路270内で入射用光学窓271にX方向に距離Lを空けて対向する反射鏡272が形成されている。そして、測定対象ガスはサンプル流路270内をZ方向に流れている。
【0042】
光源部10は、入出射用光学窓271からサンプル流路270内に略X方向でレーザ光を入射させるように配置されており、レーザ光が測定対象ガスに対して照射されるようになっている。
受光部20は、フォトダイオードであり、入出射用光学窓271からサンプル流路270外に−X方向で出射されたレーザ光を受光するように配置されており、測定対象ガスを通過したレーザ光の強度I(ν)を受光する。
【0043】
これにより、X方向に進行するレーザ光は、入出射用光学窓271を透過することにより、測定対象ガスに照射され、反射鏡272によって進行方向を変え、−X方向に進行して、入出射用光学窓271を透過することにより、フォトダイオードに入射するようになっている。
その結果、結露判定部61dは、比較結果及び変動量ΔI(ν)に基づいて、入出射用光学窓271と反射鏡272とに結露が生じたか否かを判定する制御を行う。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、レーザ吸収分光法を利用して気体中の水蒸気量を測定するガス分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ガス分析装置
10 光源部
20 受光部
61a 水蒸気量演算部
61b 算出部
61c 比較部
61d 結露判定部
70 サンプル流路
71 入射用光学窓
72 出射用光学窓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8