(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【実施例1】
【0027】
以下、本発明に係る乳房検診用放射線断層撮影装置9の実施例について図面を参照しながら説明する。実施例1におけるγ線は本発明の放射線の一例である。なお、実施例1の構成は、乳房検診用のマンモグラフィー装置となっている。
図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置の具体的構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る乳房検診用放射線断層撮影装置9は、被検体Mの乳房Bをz方向から導入させるガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた被検体Mの乳房Bをz方向から導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた内穴は、z方向に伸びた円筒形(正確には、正8角柱)となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に伸びている。なお、検出器リング12の内穴の領域が、乳房検診用放射線断層撮影装置9の断層画像Pが生成できる撮影視野となっている。z方向は、検出器リング12の中心軸の伸びる方向に沿っている。検出器リング12は、放射線を検出する放射線検出器1が弧状に配列されて構成される。
【0028】
放射線源5は、ガントリ11の内部に設けられている。具体的には、放射線源5は、検出器リング12からz方向に離反した位置に設けられている。この放射線源5には、放射性セシウムが封入されており、被検体Mに向けてγ線を照射できるようになっている。放射線源5が放射線を照射する方向は、検出器リング12の径方向であり、放射線源5から見て中心軸Cに向かう方向となっている。つまり、放射線源5は、放射線を検出器リング12の内壁に向けて照射する。なお、
図1は、放射線源5は使用されていない状態を表している。
図1では、被検体Mの無用な被曝を抑制する目的で設けられたシャッターによって放射線源5から放射線が照射されていない。シャッターの図示は省略するものとする。
【0029】
検出器リング12は、放射線源5よりも中心軸C方向に肉厚である。この様にすることで、放射線源5をz方向に移動させながらトランスミッションデータを取得することができる。仮に、検出器リング12の幅が放射線源5の幅よりも小さいようにすると、放射線源5は、後述の
図6で説明するように検出器リング12の内部を移動できない。放射線源5が移動される様子の詳細は、後述のものとする。検出器リング12は、シフト時の放射線源5から発し被検体Mを透過してきた放射線を検出する。この検出の様子も後述のものとする。
【0030】
遮蔽プレート13は、タングステンや鉛等で構成される。放射性薬剤は、被検体Mの乳房B以外の部分にも存在するので、そこからも消滅γ線のペアが発生している。しかし、この様な関心部位以外から発生する消滅γ線のペアが検出器リング12に入射すると、断層画像撮影の邪魔となる。そこで、検出器リング12のz方向における被検体Mに近い側の一端を覆うようにリング状の遮蔽プレート13が設けられているのである。
【0031】
検出器リング12の構成について説明する。検出器リング12は、例えば8個の放射線検出器1がz方向(中心軸方向)に垂直な平面上の仮想円に配列されることで、1つの単位リング12bが形成される。この単位リング12bがz方向に3個配列されて検出器リング12が構成される(具体的には、
図2参照)。検出器リング12の中心軸は、鉛直方向に伸びている。このように、検出器リング12は、放射線を検出する放射線検出器1が弧状に配列されて構成される。
【0032】
放射線検出器1の構成について簡単に説明する。
図3は、実施例1に係る放射線検出器の構成を説明する斜視図である。放射線検出器1は、
図3に示すように放射線を光に変換するシンチレータ2と、光を検出する光電子増倍管から構成される光検出器3とを備えている。そして、シンチレータ2と光検出器3との介在する位置には、光を授受するライトガイド4が備えられている。
【0033】
シンチレータ2は、シンチレータ結晶が3次元的に配列されて構成されている。シンチレータ結晶は、Ceが拡散したLu
2(1−X)Y
2XSiO
5(以下、LYSOとよぶ)によって構成されている。そして、光検出器3は、どのシンチレータ結晶が光を発したかという光の発生位置を特定することができるようになっているとともに、光の強度や、光の発生した時刻をも特定することができる。また、実施例1の構成のシンチレータ2は、採用しうる態様の例示にすぎない。したがって、本発明の構成は、これに限られるものではない。
【0034】
同時計数部21(
図1参照)には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する消滅γ線のペアである。同時計数部21は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶のうちの2つの組み合わせ毎に消滅γ線のペアが検出された回数をカウントし、この結果を吸収補正部22に送出する。同時計数におけるシンチレータ結晶の位置関係は、消滅γ線のペアが検出器リング12に入射した位置と入射した方向を示すものであり、放射性薬剤のマッピングに必要な情報である。シンチレータ結晶の組合せ毎に記憶される消滅γ線のペア検出の回数および消滅γ線のエネルギー強度は、被検体内における消滅γ線のペアの発生のバラツキを示すものであり、放射性薬剤のマッピングに必要な情報である。なお、同時計数部21による検出データの同時性の判断は、装置に付属のクロックによって検出データに付与された時刻情報が用いられる。
【0035】
<放射線検出器の移動>
次に、放射線検出器の移動について説明する。
図4は、放射線検出器が移動される様子を説明する図である。
図4左側に示すように、放射線検出器は、中心軸Cと直交する検出器リング12の径方向に移動されて中心軸Cから遠ざかることができる。この移動は、検出器移動機構31が放射線検出器1をガントリ11に対して移動させることで実現される。検出器移動機構31は、検出器リング12を構成する放射線検出器1の一部を検出器リング12の径方向に検出器リング12に対して移動させる構成となっている。検出器移動制御部32は、この検出器移動機構31を制御する目的で設けられている。検出器移動機構31は、本発明の検出器移動手段に相当し、検出器移動制御部32は、本発明の検出器移動制御手段に相当する。
【0036】
検出器リング12は、単位リング12bがz方向に3個配列されて構成されている。したがって、検出器リング12は、z方向に放射線検出器3個分の厚みを有することになる。検出器移動機構31は、z方向に配列された3個の放射線検出器を一体に移動させる。したがって、検出器移動機構31が放射線検出器1を移動させると、検出器リングから放射線検出器1が離反される前に占めていた位置がz方向に伸びた通路となって現れる。この通路は、後述のように放射線源5が通過する。放射線検出器1が離反される前に占めていた位置を離反前位置Rと呼ぶことにする。
【0037】
図4右側は、放射線検出器1が移動する様子をz方向から見た場合を示している。
図4右側を見れば分かるように、検出器リング12を構成する放射線検出器1のうち、移動ができるものは限られている。すなわち、円弧状に配列された放射線検出器1のうち、移動ができるのは、
図4右側において下側に位置する放射線検出器1のみである。実際には、検出器リング12は、z方向に3つの放射線検出器1が重ねられているので、移動ができる放射線検出器1は3つあることになる。
【0038】
このような事情を単位リング12bの概念を用いて説明する。単位リング12bを構成する放射線検出器1のうち、移動可能なのは、1つだけである。そして、検出器リング12を構成する放射線検出器1のうち、移動可能なのは、複数の単位リング12bに跨ってz方向に連接する3つの放射線検出器1である。この3つの放射線検出器1を移動可能な検出器アレイと呼ぶことにする。
【0039】
<放射線源のシフト>
次に、放射線源5のシフトについて説明する。
図5は放射線源5がシフトされる様子を説明する図である。
図5に示すように、放射線源5は、検出器リング12からz方向に離反した位置から中心軸Cに沿ってシフトされて離反前位置Rの範囲内に移動することができる。したがって、放射線源5は、z方向にシフトすることになる。このシフトは、線源シフト機構33が放射線源5をガントリ11に対して移動させることで実現される。この線源シフト機構33は、検出器移動機構31により検出器リング12から離反された検出器が離反前に占めていた位置である離反前位置に放射線源5をシフトさせる。このときのシフトの方向は中心軸Cの伸びる方向に一致している。線源シフト制御部34は、この線源シフト機構33を制御する目的で設けられている。線源シフト機構33は、本発明の放射線源シフト手段に相当し、線源シフト制御部34は、本発明の放射線源シフト制御手段に相当する。
【0040】
放射線源5が線源シフト機構33により移動されると、放射線源5は、放射線検出器1の移動により現れた通路を通過する。このとき、放射線源5の進行方向上にあるはずの放射線検出器1は既に検出器リング12から遠ざかる位置まで退避されている。したがって、放射線源5は、検出器リング12に衝突することがないのである。
【0041】
線源シフト制御部34と検出器移動制御部32との連携について説明する。線源シフト制御部34は、放射線検出器1が検出器リング12に離反された位置にあるときに限って放射線源5をz方向にシフトさせる。この様にすることで、放射線源5が検出器リング12を構成する放射線検出器1に衝突しない。同様に、検出器移動制御部32は、放射線源5が離反前位置Rから退避された位置にあるときに限って検出器アレイを検出器リング12に近づくように移動させる。この様にすることで、検出器アレイが放射線源5に衝突しない。
【0042】
<トランスミッションデータの取得>
図6は、実施例1の装置を用いてトランスミッションデータを取得している様子を示している。
図6においては、被検体Mの乳房Bが装置のガントリ11に挿入された状態を示している。
図6では説明の便宜上、ガントリ11は省略されている。トランスミッションデータとは、被検体Mの乳房Bが放射線を吸収する様子を表したデータであり、後述の吸収補正をするときに用いられるデータである。
【0043】
図6左側は、トランスミッションデータの測定が開始された状態を表している。この時点で、放射線源5を遮蔽していたシャッターは解放される。これに伴い、放射線源5から乳房Bを横切る方向に放射線が照射されることになる。
【0044】
トランスミッションデータの収集は、放射線源5を検出器リング12の中心軸方向にシフトさせながら行われる。したがって、トランスミッションデータの収集が進むうちに、放射線源5は、次第に被検体Mの体幹部に近づいていく。すると、検出器リング12に対する放射線源5の位置は、
図6左側に示す位置から、
図6中央に示す位置を経て、
図6右側に示す位置に遷移する。すなわち、線源シフト制御部34は、トランスミッションデータ取得中に放射線源5を中心軸方向にシフトさせるのである。
【0045】
このように放射線源5が移動している間にも、放射線が放射線源5から照射されている。そして、放射線は、被検体Mの乳房Bを横切って検出器リング12の内壁の一部に入射することになる。この放射線が入射する部分とは、検出器リング12の内壁のうち、離反前位置R上の放射線源5から中心軸Cに向かう方向の延長線上にある部分である。
【0046】
このように放射線源5を移動させながらトランスミッションデータを取得するようにすると、乳房Bが放射線を吸収する様子を立体的に捉えることができるからである。この原理について説明する。
図6における乳房Bの表面にある点pについて考える。この点pと検出器リング12との位置関係は、トランスミッションデータ取得中に変化しない。トランスミッションデータ取得中には乳房Bが検出器リング12に対して移動しないからである。
【0047】
この点pは、放射線源5からの放射線照射により、検出器リング12の内壁に投影される。このとき、放射線源5を移動させていくと、内壁に投影される点pの写像は、検出器リング12に対して移動していく。したがって、検出器リング12から取得されるトランスミッションデータを仮に画像化したとすると、放射線源5の移動に伴って点pの写像が撮影視野内を移動ていくような一連の画像が取得できる。
【0048】
点pの写像が画像上を移動する様子は、検出器リング12の内部で点pがどこに位置していたかを表している。具体的には、点pが画像上を移動する速さを知ることで放射線源5から点pまでの距離を知ることができるのである。この様な事情は、
図6に記載の点pに限られたことではなく、乳房Bの体表面上の全ての点について当てはまる。
【0049】
実施例1の装置は、検出器リング12が出力するトランスミッションデータに基づいて乳房Bの形状を認識できるようになっている。すなわち、実施例1の装置は、トランスミッションデータに基づいて、乳房Bの体表面が検出器リング12に写り込む様子が放射線源5のシフトに伴いどのように変化していくかを知る。そして、実施例1の装置はこの変化を基に乳房Bの形状を求めるのである。乳房Bの立体像を知る方法としては、例えば既存のバックプロジェクション法などを用いることができる。
【0050】
乳房Bの形状を取得する意義について説明する。検出器リング12の内部空間における放射線の吸収の強さは、乳房Bの体表面を境にして大きく異なる。組織が充填された乳房Bの内部の方が乳房Bの外側に相当する虚空の部分よりも放射線を吸収しやすいからである。乳房Bの形状を立体的に知っておけば、正確に放射線の吸収補正を行うのに有利である。実施例1の装置は、トランスミッションデータを基に、乳房Bの形状を取得する。この様な動作は、具体的には、吸収補正部22が行う。この吸収補正部22は、放射線源5が離反前位置Rにあるときに検出器リング12が収集したトランスミッションデータを用いて被検体Mの放射線の吸収補正を行う目的で設けられている。乳房Bの形状の取得は、吸収補正部22が行う吸収補正動作の一部である。
【0051】
また、放射線源5は、γ線を照射する構成となっている。したがって、トランスミッションデータは、乳房Bの形状を表しているのみならず、乳房Bがγ線をどの程度吸収するのかという情報も含んでいる。同じような形状の乳房Bでも、γ線の吸収の程度が同じであるとは限らない。乳房Bの形状が同じであると、乳房Bの体表面が検出器リング12に写り込む様子は同じとなる。しかし、乳房Bにおけるγ線の吸収の程度が異なると、乳房Bを通過してきたγ線の絶対量に違いが現れるのである。実施例1の装置は、トランスミッションデータを基に、乳房Bのγ線の吸収の程度を数値化する。この様な動作は、具体的には、吸収補正部22が行う。乳房Bのγ線の吸収の程度の数値化は、吸収補正部22が行う吸収補正動作の一部である。
【0052】
このように吸収補正部22は、トランスミッションデータを検出器リング12から受信する構成となっている。したがって、トランスミッションデータの取得中は、同時計数部21は、同時計数を行わない。したがって、この場合の同時計数部21は、検出器リング12から入力されたデータをそのまま吸収補正部22に送信することになる。吸収補正部22は、送信されたトランスミッションデータを基に、乳房Bの形状および乳房Bのγ線吸収の程度を取得する。
【0053】
<放射線源を回転させないようにしたことについて>
なお、実施例1の構成によれば、放射線源5が中心軸Cを中心として乳房Bの周りを回転する構成ではない。したがって、乳房Bをあらゆる方向から観察してトランスミッションデータを得ているのでなはい。したがって、実施例1の構成では、乳房Bの内部の様子を正確に表したトランスミッションデータが取得できないのではないかとも思われる。しかし、ほぼ対称な形状となっている乳房Bについては、
図6で説明したように、検出器リング12の中心軸方向にスライドさせながら撮影する方式でも十分に信頼できるデータの収集が可能である。
【0054】
<エミッションデータの収集>
次に、エミッションデータの収集について説明する。エミッションデータとは被検体内に分布する放射性薬剤が発する消滅放射線のペアの測定結果である。このエミッションデータを収集するには、離反前位置Rにある放射線源5が消滅放射線のペアを検出するのに邪魔となる。したがって、エミッションデータの収集に先立って放射線源5が離反前位置Rから遠ざけられ、検出器リング12にz方向から隣接する位置まで移動される。このとき、放射線源5の付属のシャッターは閉じた状態となり、放射線源5からの放射線の照射が禁止される。
【0055】
また、エミッションデータをより確実に収集するには、できるだけ放射線検出器1を被検体Mに近づける必要がある。したがって、エミッションデータの収集に先立って移動可能な検出器アレイを離反前位置Rまで移動させる。この時点で、検出器リング12を構成する検出器は、
図2に示すように円環状に並ぶことになる。
【0056】
エミッションデータは、検出器リング12が出力するデータに対し、同時計数部21が同時計数の動作を行うことにより生成される。消滅放射線のペアは、検出器リング12の異なる位置に同時に入射するはずである。同時計数部21が、この同時入射(同時イベント)を観測することで、実施例1の装置は、放射性薬剤から生じたシグナルを少ないノイズで取得することができるのである。生成されたエミッションデータは、吸収補正部22に送出される。
【0057】
<吸収補正>
吸収補正部22には、トランスミッションデータとエミッションデータとが送られてくる。吸収補正部22は、トランスミッションデータに基づいて乳房Bの立体的形状と乳房Bがγ線を吸収する強さを取得し、これを基にエミッションデータの吸収補正を行う。吸収補正とは、エミッションデータに含まれる放射線吸収の影響を消去する補正である。
【0058】
吸収補正について簡単に説明する。エミッションデータは、被検体内で発生した放射線を検出したものに過ぎない。したがって、エミッションデータは、被検体内で発生した放射線そのものを正確に表しているのではない。被検体内で発生した放射線には検出されないロスがあるからである。このロスは、被検体内で放射線が吸収されていることに起因する。ということは、エミッションデータを取得するに先立って、放射線がどの程度被検体Mで吸収されるのかを知っておけば、エミッションデータ取得時における検出のロスがどのように起こっているかを予測することができる。トランスミッションデータは、まさにその放射線吸収の状況(検出のロス)を表すデータに他ならない。吸収補正部22は、この原理を利用して、トランスミッションデータを用いてエミッションデータに含まれる放射線吸収の影響を消去するのである。
【0059】
吸収補正部22により生成された吸収補正後のデータは、画像生成部23により検出器リング12の開口部をある平面で裁断したときの断層画像Pに再構成される。
【0060】
表示部39は、画像生成部23が生成した断層画像Pを表示させるものである。操作卓38は、術者の指示を入力させる目的で設けられている。記憶部37は、検出器リング12が出力する検出信号、同時計数部21が生成する同時計数データ、断層画像P等、各部の動作によって生じるデータ、および各部の動作に際して参照されるパラメータの一切を記憶するものである。
【0061】
なお、乳房検診用放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41を備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部21,22,23,32,34を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。
【0062】
<乳房用放射線撮影装置の動作>
次に、実施例1に係る乳房検診用放射線断層撮影装置9の動作について説明する。
図7は、装置の動作を説明するフローチャートである。乳房検診用放射線断層撮影装置9を用いて検診を行うには、まず、被検体Mの乳房Bがガントリ11の開口に挿入される(被検体載置ステップS1)。以降、エミッションデータ取得が終了するまで乳房Bは、ガントリ11に対して移動することはない。
【0063】
術者が操作卓38を通じてトランスミッションデータの取得を指示すると、移動可能な検出器アレイが乳房Bから離反され、放射線源5が通過する通路が形成される。そして放射線源5は、遮蔽状態となっていたシャッターが解放され、検出器リング12の中心軸C方向に移動され、放射線源5が通路上に導入される。この時点より放射線源5から放射線が被検体Mに向けて照射される(トランスミッションデータ取得ステップS2)。このとき被検体Mを通過してきた放射線は、検出器リング12の内壁に入射し検出される。この放射線を検出している最中に放射線源5がシフトされ、トランスミッションデータの収集は、放射線の照射方向を変えながら行われる(
図6参照)。
【0064】
術者が操作卓38を通じてエミッションデータの取得を指示すると、解放状態となっていたシャッターが閉鎖され、放射線の照射が中止される。そして、放射線源5が通路から離反され、移動可能な検出器アレイが乳房Bに接近される。この時点より被検体Mから照射される消滅放射線のペアの同時計数が開始される(エミッションデータ取得ステップS3)。検出器リング12が検出した2つの放射線が消滅放射線のペアであるかは、同時計数部21により判断される。
【0065】
トランスミッションデータおよびエミッションデータは、吸収補正部22に送出され、エミッションデータに対して吸収補正が行われる(吸収補正ステップS4)。これにより、エミッションデータに重畳していた検出漏れの影響が消去される。
【0066】
画像生成部23には、吸収補正後のエミッションデータが送出される。画像生成部23は、これを基に断層画像Pを生成する(断層画像生成ステップS5)。取得された断層画像Pが、表示部39に表示されて、検査は終了となる。
【0067】
以上のように、実施例1の構成によれば、検出器リング12を構成する放射線検出器1の一部を検出器リング12から離反させることにより離反前位置に放射線源5が通過する通路が形成される。そして、放射線源5はこの通路内をシフトすることができる。この様にすることで、検出器リング12の内側に放射線源5を設ける構成としなくても、被検体Mのトランスミッションデータ(放射線吸収に関するデータ)を取得することができる。しかも、上述の構成によれば、検出器リング12の内径を極力小さくすることができるので、装置の製造コストを抑制することができる。上述のような構成でエミッションデータ(放射線放出に関するデータ)を取得しようとするときには、検出器リング12を元の状態に戻して消滅放射線のペアを計数するようにすればよい。このとき、検出器リング12の内径は極力小さいものとなっているので、空間分解能が高い乳房検診用放射線断層撮影装置9が提供できる。
【0068】
また、上述のように、検出器リング12の中心軸Cの伸びる方向に放射線源5を移動させるようにすれば、放射線の照射方向を変えながらトランスミッションデータを取得することができる。このようにすることで、乳房Bが放射線を吸収する様子をより正確に検出することができる。
【0069】
そして、放射線源5が通路(離反前位置R)にあるときに検出器リング12が収集したトランスミッションデータを用いて吸収補正を行うようにすれば、より鮮明で忠実に放射性薬剤の分布が表された画像が取得可能な乳房検診用放射線断層撮影装置9が提供できる。
【0070】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0071】
(1)上述した実施例1において、検出器リング12において移動可能な検出器アレイは、1つしかなかったが、本発明はこの構成に限られない。
図8のように移動可能な検出器アレイを2つ設けるようにしてもよい。この様な構成においては、まず、第1の検出器アレイのみを検出器リング12の中心から離反させるように移動させ、生成される通路に放射線源5を通過させてトランスミッションデータを収集する。そして、次に、第1の検出器アレイの位置を元の状態に戻す。続いて、第2の検出器アレイのみを検出器リング12の中心から離反させるように移動させ、生成される通路に放射線源5を通過させてトランスミッションデータを収集する。この様にすることで、より多様な角度から乳房Bを観察してトランスミッションデータを収集できるので、より信頼度の高いトランスミッションデータを収集することができる。
【0072】
(2)上述した実施例1において、
図9の矢印に示すように、トランスミッションデータ取得中に検出器リング12を中心軸Cを中心に回転させる機構を設けるようにしてもよい。この構成においては、トランスミッションデータ収集時において検出器リング12を回転させると、移動可能な検出器アレイ、および放射線源5もこれに追従して移動する。この様な構成とすると、より多様な角度から乳房Bを観察してトランスミッションデータを収集できるので、より信頼度の高いトランスミッションデータを収集することができる。このような検出器リング12の回転は、検出器リング回転機構43が行う。検出器リング回転制御部44は、検出器リング回転機構43を制御するものである。検出器リング回転機構43は、本発明の検出器リング回転手段に相当し、検出器リング回転制御部44は、本発明の検出器リング回転制御手段に相当する。
【0073】
(3)上述した実施例のいうシンチレータ結晶は、LYSOで構成されていたが、本発明においては、その代わりに、LGSO(Lu
2(1−X)G
2XSiO
5)やGSO(Gd
2SiO
5)などの他の材料でシンチレータ結晶を構成してもよい。本変形例によれば、より安価な放射線検出器が提供できる放射線検出器の製造方法が提供できる。
【0074】
(4)上述した実施例において、光検出器は、光電子増倍管で構成されていたが、本発明はこれに限らない。光電子増倍管に代わって、フォトダイオードやアバランシェフォトダイオードや半導体検出器などを用いてもよい。
【0075】
(5)上述した実施例において、検出器リング12は、O型のリング状であったがこれに代えてC型の円弧状としてもよい。