(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1期間(T1)において、前記整流デューティ(drec)は、前記第2値(Im/Idc)と前記正弦値(sin(ωt))の絶対値との積((Im/Idc)・|sin(ωt)|)と、前記放電デューティ(dc)を1から差し引いた値(1−dc)とのいずれか小さい方を採る、請求項1記載の直接形電力変換装置の制御方法。
前記第2期間(T2)において、前記整流デューティ(drec)は、前記第2値(Im/Idc)と、前記第1値((1−k・cos(2ωt))/2)との積を前記正弦値の前記絶対値(|sin(ωt)|)で除した値((Im/Idc)・(1−k・cos(2ωt))/(2・|sin(ωt)|))を採る、請求項2記載の直接形電力変換装置の制御方法。
前記第1電流の前記仮想波高値(Im)として、前記第1期間と前記第2期間との境界で前記第1電流が採る値の絶対値(Im/√2)の√2倍を採用する、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載の直接形電力変換装置の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
A.直接形電力変換装置の構成:
図1は、本実施の形態で示される制御方法が適用される直接形電力変換装置の構成を示すブロック図である。当該直接形電力変換装置は、コンバータ3と、充放電回路4と、インバータ5とを備えている。
【0030】
コンバータ3は例えばフィルタ2を介して単相交流電源1と接続されている。フィルタ2はリアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。リアクトルL2は単相交流電源1の2つの出力端のうちの一つとコンバータ3との間に設けられている。コンデンサC2は単相交流電源1の2つの出力端の間に設けられている。フィルタ2は電流の高周波成分を除去する。フィルタ2は省略しても良い。簡単のため、以下ではフィルタ2の機能を無視して説明する。
【0031】
コンバータ3は例えばダイオードブリッジを採用し、ダイオードD31〜D34を備えている。ダイオードD31〜D34はブリッジ回路を構成し、単相交流電源1から入力される入力電圧である単相交流電圧Vinを単相全波整流して整流電圧Vrecに変換し、これを直流電源線LH,LL(これらはいわゆる直流リンクを形成する)の間に出力する。直流電源線LHには直流電源線LLよりも高い電位が印加される。コンバータ3には単相交流電源1から入力電流Iinが流れ込む。
【0032】
充放電回路4はバッファ回路4a及び昇圧回路4bを有する。バッファ回路4aはコンデンサC4を含み、直流電源線LH,LLとの間で電力を授受する。昇圧回路4bは整流電圧Vrecを昇圧してコンデンサC4を充電する。
【0033】
バッファ回路4aはダイオードD42と逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scを更に含んでいる。トランジスタScはコンデンサC4に対して直流電源線LH側で、直流電源線LH,LLの間で直列に接続されている。ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となって並列に接続されていることを指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(第1スイッチ)として把握することができる。
【0034】
昇圧回路4bは、例えばダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)Slとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードは第1スイッチとコンデンサC4との間に接続される。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
【0035】
リアクトルL4は直流電源線LHとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(第2スイッチ)として把握することができる。
【0036】
コンデンサC4は、昇圧回路4bにより充電され、整流電圧Vrecよりも高い両端電圧Vcが発生する。具体的には直流電源線LHから第2スイッチを経由して直流電源線LLへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーを蓄積し、その後に第2スイッチをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
【0037】
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従って第1スイッチの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。よって、以下、トランジスタScのみならず、これとダイオードD42とをまとめた第1スイッチについて、スイッチScと称することがある。
【0038】
また、直流電源線LHの方が直流電源線LLよりも電位が高いので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従って第2スイッチの導通/非導通は専らトランジスタSlのそれに依存する。よって、以下、トランジスタSlのみならず、これとダイオードD41とをまとめた第2スイッチについて、スイッチSlと称することがある。
【0039】
インバータ5は直流電源線LH,LLの間の直流電圧を交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。インバータ5は6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Sup,Svp,Swpはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sun,Svn,Swnはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0040】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Svp,Swp,Sun,Svn,Swnと並列に接続される。
【0041】
例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnにはIGBTが採用される。
【0042】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列に接続され、この直列体の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Rv,Rwについても同様である。またこれらの直列体の他端同士が相互に接続される。
【0043】
B.制御方法.
(b-1)電力低減の基本的な考え方.
コンバータ3に入力する瞬時入力電力Pinは、入力力率を1として、次式で表される。但し、単相交流電圧Vinの波高値Vm及び電源角速度ω、入力電流Iinの波高値Im、時間tを導入した。電源角速度ωと時間tとの積ωtは単相交流電圧Vinの位相角を表すことになる。また交流波形は、当該交流波形の位相角ωtの正弦値と波高値との積として把握した。
【0045】
式(1)の右辺の第2項が電力脈動を示す。従来の技術では、かかる電力脈動を打ち消すべく、バッファ回路4aが式(1)の右辺第2項と同じ値であって極性の異なる電力を直流電源線LH,LLとの間で授受していた。そのため、充放電回路4の電力容量は式(1)の右辺第2項以上に選定する必要があった。
【0046】
そこで、充放電回路4の電力容量を低減するために、どのような技術を採用すれば上記のように授受される電力(以下、「瞬時授受電力Pbuf」と称す)を低減できるのかについて説明する。
【0047】
もちろん、瞬時授受電力Pbufを全く零にすることは、インバータ5に入力する電力が式(1)の右辺第2項で脈動することになって望ましくないし、そもそも充放電回路4の電力容量の低減を図る必要もない。そこで、1未満の正の定数kを導入し(従って値(1−k)も1未満の正の定数となる)、瞬時授受電力Pbufを次式で決定する。換言すれば、このような瞬時授受電力Pbufを実現するために特徴的な手法について、以下に説明することになる。
【0049】
つまり、瞬時授受電力Pbufは、単相交流電源1から(あるいは更にフィルタ2を経由して:以下同様)入力される瞬時電力の直流分(Vm・Im/2)と、位相角ωtの二倍の値(2ωt)に対する余弦値cos(2ωt)と、定数(1−k)との積で表されることになる。
【0050】
瞬時授受電力Pbufは具体的には、単相交流電圧の位相角ωtが0以上π/4以下、3π/4以上5π/4以下又は7π/4以上2π以下である期間(以下「授与期間」と称す)に正の値を採り、これ以外の期間(以下「受納期間」)に負の値を採る。つまりバッファ回路4aは、授与期間において瞬時授受電力Pbufの絶対値を直流電源線LH,LLに授与し、受納期間において瞬時授受電力Pbufの絶対値を直流電源線LH,LLから受納する。これにより電力脈動が相殺される。
【0051】
単相交流電圧VinはVm・sin(ωt)で表されることから、上記範囲を換言して、単相交流電圧Vinの絶対値がその波高値Vmの1/√2倍の値よりも低いときには充放電回路4は正の電力を出力し、波高値Vmの1/√2倍の値よりも高いときには負の電力を出力する、とも把握できる。
【0052】
特許文献1及び非特許文献1(以下「第1文献群」と称す)を参照し、
図1に示された回路の等価回路である
図2を示す。
図2に示された等価回路においては、コンバータ3からインバータ5へと流れる電流irec1は、スイッチSrecが導通するときにこれを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、コンデンサC4の放電電流は、スイッチScが導通するときにこれを経由する電流icdとして等価的に表されている。また、インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLのいずれか一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流も、スイッチSzが導通するときにこれを経由して流れる零相電流izとして等価的に表されている。また
図2では、昇圧回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSlとが表され、リアクトルL4を流れる電流ilが付記されている。
【0053】
このようにして得られた等価回路においては、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれのデューティdrec,dc,dzとインバータ5に入力される直流電流Idcとを導入して、次式が成立する。
【0055】
電流irec1,icd,izはそれぞれ直流電流Idcにデューティdrec,dc,dzを乗算したものであるので、これらはスイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。また電流ilも同様にスイッチSlのスイッチング周期における平均値である。
【0056】
また直流電流IdcはスイッチSrec,Sc,Szをそれぞれ導通する電流irec1,icd,izの総和であるので、次式が成立する。但し、0≦drec≦1,0≦dc≦1,0≦dz≦1である。
【0058】
よってデューティdrec,dc,dzは、各電流irec1,icd,izに対する直流電流Idcの電流分配率と見ることができる。またデューティdrecはコンバータ3が直流電源線LH,LLと接続されて電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティであるので、これ以降では整流デューティdrecと称することがある。またデューティdcは、コンデンサC4が放電するデューティであるので、これ以降では放電デューティdcと称することがある。またデューティdzはインバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティであるので、これ以降では零デューティdzと称することがある。
【0059】
インバータ5は零相電流izが流れる期間においては、直流電源線LH,LLにおける直流電圧を利用することができない。よって、直流電源線LH,LLの間の直流電圧のうち、インバータ5が電力変換可能な期間における仮想的な直流電圧(以下「仮想直流電圧」と称す)Vdcを、下記のように考えることができる。仮想直流電圧Vdcはインバータ5が出力できる電圧の最大値の、スイッチSc,Slやインバータ5のスイッチングを制御する周期についての平均として、直流電源線LH,LLの間に印加される電圧と把握することができる。
【0061】
以下、波高値Vmに対する仮想直流電圧Vdcの比R(=Vdc/Vm)を電圧利用率と称す。
【0062】
(b-2)電圧利用率Rを最大とするための、デューティの第1の設定及びその修正.
第1文献群では、電圧利用率Rを最大にするための整流デューティdrec及び放電デューティdcを、授与期間と受納期間において、それぞれ式(6)及び式(7)で設定した。但し、特許文献1で示唆されるように、これは仮想直流電圧Vdcが一定となる場合において、電圧利用率Rを最大にする設定である。このとき電圧利用率Rは(1/√2)となる。受納期間においてはdc=0なので、スイッチScは導通しない。また授与期間においてはコンデンサC4は充電されず、従って電流ilは流れない。
【0065】
さて、当該「第1設定」及び後述する「第2設定」では、インバータ5に入力される直流電流Idcを脈動させ、式(2)を満足させる瞬時授受電力Pbufを得る。
【0066】
具体的には下式を満足する直流電流Idcをインバータ5に入力させる。下式(8)を満足させるためのインバータ5の制御は、電流指令値を制御することによって実現できる。当該電流指令値の制御については後述する。
【0068】
インバータ5に入力される電力、即ちインバータ5が消費する瞬時出力電力Poutは、直流電流Idcと仮想直流電圧Vdcとの積で求まり、式(9)で求められる。
【0070】
瞬時出力電力Poutは、定数kと余弦値cos(2ωt)との積を1から差し引いた値の半値である第1値(1−k・cos(2ωt))/2と、波高値Im,Vmとの積として表されることになる。
【0071】
式(9)と式(1)との差を求めると、式(10)となり、式(2)と一致する。このようにして、直流電流Idcを式(8)で設定することが妥当であることが説明される。
【0073】
式(9)からは、仮想直流電圧Vdcは、波高値Imを直流電流Idcで除した値である第2値Im/Idcと、第1値(1−k・cos(2ωt))/2と、波高値Vmとの積として表されることになる。そうすると、式(5)から、下記の設定により、式(2)が実現されることが判る:
(i)授与期間においては整流電圧Vrecと整流デューティdrecとの積Vrec・drecと、コンデンサの両端電圧Vcと放電デューティdcとの積Vc・dcとの和が、波高値Vmと、第1値(1−k・cos(2ωt))/2と、第2値Im/Idcとの積を採り;
(ii)受納期間においては整流電圧Vrecと整流デューティdrecとの積Vrec・drecが波高値Vmと、第1値(1−k・cos(2ωt))/2と、第2値Im/Idcとの積を採る。
【0074】
受納期間においてdc=0であることに鑑みれば、上記設定(ii)を上記設定(i)に含めることもできる。
【0075】
さて、授与期間においては、コンデンサC4から瞬時授受電力Pbufが供給されるのであるから、コンデンサC4に流れる電流icd、両端電圧Vcの積として表される電力が式(2)の右辺と等しくなる。電流icdは電流Idcと放電デューティdcとの積で表されるので、下式(11)が成立する。
【0077】
つまり放電デューティdcは波高値Vmを両端電圧Vcで除した電圧比Vm/Vcと、第2値Im/Idcと、値(1−k)と、余弦値cos(2ωt)との積の半値として表されることになる。
【0078】
上記第2値Im/Idcについて式(8)を考慮すると、電流Idcに依存せず、位相
角ωt、定数kと、比αと、電圧利用率Rとによって放電デューティdcが決定されることを示す式(12)が得られる。但し比αはVc/Vmに等しい。通常、比αはほぼ一定と考えられるので、定数kが設定されれば、所望の電圧利用率Rに応じて放電デューティdcを設定できることが判る。
【0080】
他方、受納期間においては、電流ilを式(13)のように設定する。そうすると、受納期間において充放電回路4で蓄積される電力は式(14)のように計算され、瞬時授受電力Pbufを示す式(2)と絶対値が等しく、極性が反対となる。よって電流ilを式(13)で設定することが妥当であることが判る。
【0083】
式(13)を満足するための具体的な昇圧回路4bの動作は、第1文献群に基づいて容易に得ることができる。
【0084】
さて、このような制御を行うに際し、入力電流Iinを正弦波とするための整流デューティdrecに必要な条件を検討する。コンバータ3が出力する電流irecは入力電流Iinの絶対値であるので、irec=Im|sin(ωt)|と表現できる。
【0085】
電流irec1は積drec・Idcに等しく、授与期間においては電流ilを零とするので、電流irec1は電流irecに等しい。よって入力電流Iinを正弦波とするための条件として下式(15)が成立する。
【0087】
つまり整流デューティdrecは第2値Im/Idcと、絶対値|sin(ωt)|との積として表されることになる。
【0088】
第2値Im/Idcについて式(8)を考慮すると、電流Idcに依存せず、位相
角ωt、定数kと、電圧利用率Rとによって整流デューティdrecが決定されることを示す式(16)が得られる。定数kが設定されれば、所望の電圧利用率Rに応じて整流デューティdrecを設定できることが判る。
【0090】
受納期間においては、電流ilが式(13)で表され、かつ電流irecは電流irec1,ilの和であるので、下式(17)が成立する。
【0092】
電流irec1は積drec・Idcに等しいので、式(8)を考慮すると、定数kや電流Idcには依存せず、位相
角ωt、電圧利用率Rとによって整流デューティdrecが決定されることを示す式(18)が得られる。定数kによらず、所望の電圧利用率Rに応じて整流デューティdrecを設定できることが判る。
【0094】
受納期間と授与期間との境界となる位相
角ωtにおいて|sin(ωt)|=1/√2となり、このとき式(16)、(18)は一致する。当該位相
角ωtにおいてcos(2ωt)=0であるので、式(16)においても定数kに依存せず、drec=1,R=1/√2となる。
【0095】
さて、受納期間においてはdc=0であるので、式(18)は式(5)を、電圧利用率Rにも定数kにも制限を受けることなく満足する。換言すれば、受納期間において電圧利用率Rは定数kによらずに受納期間と授与期間との境界での値1/√2を採り続けることができる。
【0096】
また、授与期間においては式(12)で表される放電デューティdcと、式(16)で表される整流デューティdrecとを用いて式(19)が成立する。
【0098】
式(19)の最左辺は式(5)から仮想直流電圧Vdcに等しいことが判り、式(19)の最右辺は電圧利用率Rの定義から仮想直流電圧Vdcに等しい。よって式(19)は電圧利用率Rや定数kによらずに成立する。よって授与期間においても、電圧利用率Rは定数kによらずに受納期間と授与期間との境界での値1/√2を採り続けることができる。上述の諸デユーティの設定は、第1文献群に基づいて容易に行うことができる。
【0099】
図3及び
図4は、いずれも
図1に示された直接形電力変換装置の動作を示すグラフである。
図3では定数kを仮に零とした場合であり、特許文献1に開示された技術(以下「基本技術」と称す)に相当する。
図4ではk=2/3に設定されている。また電圧の比αは
図3と
図4とで等しく設定した。
【0100】
図3及び
図4のいずれにおいても、最上段にデューティdrec,dc,dzを、上から二段目に仮想直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dc(式(5)参照)並びに電流Idcを、上から三段目に電流irec,icd,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pout,Pbufを、それぞれ示した。また記号T1,T2はそれぞれ授与期間及び受納期間を示す。
【0101】
図3及び
図4のいずれにおいても、横軸は位相角ωtを「度」を単位として採用して示した。また、電流Idc,irec,icd,il,irec1は、波高値Imを√2として換算した。電圧Vrec,drec,Vc・dcは波高値Vmを1として換算した。瞬時電力Pin,Pout,Pbufは、上記のように換算された電圧、電流の積として求めている。授与期間T1において電流ilは零であるので、電流irec1は電流irecと一致する。受納期間T2においてdc=0であり、電圧Vrec・drecは仮想直流電圧Vdcと一致する。
【0102】
受納期間において放電デューティdcは零であり、整流デューティdrecは式(18)で示されるように定数kには依存しない。よって
図3と
図4とでは受納期間においてデューティdrec,dc,dzは共通している。従って仮想直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dcも
図3と
図4とで共通する。
【0103】
但し、電流Idcは式(8)で表されるので、
図3に示される基本技術(つまり定数kとして仮に零を採用した場合)と、
図4に示される場合(ここではk=2/3)とは大きく異なる。
【0104】
電流ilは式(13)で表される。電流ilが流れるのは受納期間においては余弦値cos(2ωt)は負である。よって定数kが大きいほど式(13)の右辺の括弧中の第2項の分子は大きくなる。よって電流ilは定数kが大きいほど低減され、基本技術よりも定数kを導入した技術の方が電流ilは低減する。
【0105】
また電流icdは値Idc・dcを採る。電流icdが流れる授与期間においては余弦値cos(2ωt)が正である。よってIm=√2を代入して式(6),(11)を比較すれば、仮にkを零とするときの電流icdと、0<k<1のときの電流icdとの比は、1:(1−k)となる。よって定数kが大きいほど電流icdは低減される。つまり電流icdも電流ilと同様にして、基本技術よりも定数kを導入した技術の方が低減する。
【0106】
このような電流il,icdの低減は、充放電回路4において採用されるリアクトルL4やコンデンサC4に要求される電力容量を低減し、小型化及び廉価化という観点で望ましい。
【0107】
また、定数kを導入した技術の方が基本技術よりも、瞬時出力電力Poutが脈動はするものの、瞬時授受電力Pbufは低減することがわかる。
【0108】
但し、
図4に示された零デューティdzをみれば判るように、このような設定は授与期間T1において計算上、dz<0という状況が発生している。つまり式(11),(12),(15),(16)の全てを満足する設定は形式的には式(4)を満足するものの、授与期間T1において実現できない動作を設定していることになる。
【0109】
そこで授与期間T1においてdz≧0とすべく、放電デューティdcを設定する式(11),(12)を維持し、整流デューティdrecの設定を下記のように修正する:
(iii)授与期間において整流デューティdrecは、式(15)(あるいは式(16))で表される値(Im/Idc)・|sin(ωt)|と、式(12)で表される放電デューティdcを1から差し引いた値(1−dc)とのいずれか小さい方を採る。
【0110】
これにより、式(4)を満足し、かつdz≧0にできる。このように授与期間において整流デューティdrecを修正しても、電流il,icdの低減を損なうことはない。電流ilが流れるのは受納期間であるし、電流icdは授与期間において流れるものではあるが放電デューティdcは修正されないからである。
【0111】
また、瞬時授受電力Pbufは式(11),(14)を説明する際に示したように、電流icdと両端電圧Vcとの積及び電流ilと整流電圧Vrecとの積に等しい。上記(iii)の修正を行っても、電流icd,ilが修正されず、両端電圧Vc、整流電圧Vrecも維持されるので、瞬時授受電力Pbufも維持される。よって式(10)も維持され、引いては式(9)も維持されることになる。換言すれば、上記設定(i),(ii)を損なうことなく上記修正(iii)を導入することができることがわかる。
【0112】
もちろん、整流デューティdrecが式(15)に示された値よりも小さい値を採る期間が発生するので、当該期間においては電圧利用率Rは低下し、仮想直流電圧Vdcは一定にできない。また式(15)が満足されないので、電流irecが正弦波から歪む。電流irecは入力電流Iinの絶対値として現れるのであるから、
図3や
図4で示された場合とは異なり、入力電流Iinが正弦波とは異なる。
【0113】
よって波高値Imは、入力電流Iinの実効値(つまり入力電流Iinの二乗の時間平均)を実効値として正弦波を呈する電流の波高値(つまり当該実効値の√2倍)であると捉えられるべきである。よってこれ以降、波高値Imは仮想波高値Imとして取り扱う。もちろん、入力電流Iinが正弦波であれば、仮想波高値Imは通常の意味での波高値を意味することになる。
【0114】
なお、式(17)において、定数kに依らず、il=0,cos(2ωt)=0であるときには|sin(ωt)|=1/√2であり
、電流irecは値Im/√2を採る。そこで仮想波高値Imは、位相角ωtがπ/4,3π/4であるとき(即ち授与期間と受納期間との境界)に電流irec(即ち
入力電流Iinの絶対値)が採る値の√2倍として把握することができる。
【0115】
図5はこのように修正された整流デューティdrecを採用した場合の直接形電力変換装置の動作を示すグラフであり、整流デューティdrec及び零デューティdz以外は
図4と等しく設定されている。
【0116】
図4において零デューティdzが負となっていた期間は
図5において零デューティdzが零となり、仮想直流電圧Vdcが1/√2より低下し、電流irecが正弦波から歪んでいる。
【0117】
もちろん、このように電流irecが正弦波から歪む期間は短いことが望ましい。つまり式(12)、(16)で示されるデューティdc,drecの和が1を越えない程度に小さいことが望ましい。定数k及び電圧利用率Rとして所望の値を設定した場合、変更できるパラメータは比αであり、整流デューティdrecを修正することはできないが、比αを大きく選定することで放電デューティdcを小さくできることが判る。波高値Vmが決まっていれば両端電圧Vcが大きいほど比αは大きくなるので、両端電圧Vcが大きいほど電流irec、引いては入力電流Iinが正弦波から歪む期間を小さくすることができる。
【0118】
(b-3)電圧利用率Rを最大とするための、デューティの第2の設定及びその修正.
上述のように、第1の設定及びその修正では電流Idcの脈動に伴って瞬時出力電力Poutが脈動する。つまり瞬時授受電力Pbufを低減させるために、瞬時出力電力Poutの脈動を許している。そこで、当該「第2の設定」及びその修正では、インバータ5が利用する仮想直流電圧Vdcを、第1の設定の修正のように零デューティdzを正にする要求からではなく、積極的に脈動させることによって電圧利用率Rを向上する技術を説明する。
【0119】
具体的には仮想直流電圧Vdcの波形を、受納期間において、入力電圧Vinの絶対値Vm・|sin(ωt)|と等しく設定する。これにより、受納期間における電圧利用率Rの平均値Raは式(20)の計算によって0.9程度となる。これはつまり、インバータ5に入力する直流電圧の、交流電圧Vinの周期に対する平均値で求めた電圧利用率であると見ることができる。
【0121】
同様にして、授与期間における仮想直流電圧Vdcの波形を、Vm・|cos(ωt)|と等しく設定する。
【0122】
つまり、当該「第2の設定」では、仮想直流電圧Vdcの波形は波高値Vmを有する二相交流電圧を全波整流した波形(以下「二相全波整流波形」と称す)を呈する。
【0123】
授与期間と受納期間とではπ/2の位相差があり、かつ正弦波形と余弦波形とはπ/2の位相差があることから、授与期間における平均値Raは受納期間におけるそれと等しい。よって授与期間、受納期間のいずれであっても、平均値Raは式(20)で求められる。これは基本技術や「第1の設定」と比較して平均値Raが(2√2/π)/(1/√2)=4/π倍、即ち約1.11倍に改善されたことを示す。
【0124】
また平均値Raのみならず、電圧利用率Rそれ自体も位相
角ωtによらず基本技術や「第1の設定」と比較して改善される。これは仮想直流電圧Vdcが二相全波整流波形を採ることから、その最小値がVm/√2であって、基本技術や「第1の設定」で得られる仮想直流電圧Vdc(=Vm/√2)以上であることから判る。
【0125】
次に、仮想直流電圧Vdcの波形を二相全波整流波形にするための具体的手法を説明する。まず受納期間においては、仮想直流電圧Vdcの波形を入力電圧Vinの絶対値と等しく設定するのであるから、整流デューティdrecを1にすればよい。より具体的には式(4)に鑑みて放電デューティdc、零デューティdzを共に零とすればよい。つまり受納期間においてはスイッチScは導通しないし、インバータ5は誘導性負荷6に流す電流Iu,Iv,Iwの要求に応じて(仮想
直流電圧Vdcを設定するために零相電流izを必ず流さなければならない、という制限なく)動作することができる。
【0126】
drec=1となるのは、「第1の設定」において示された式(18)においてR=|sin(ωt)|とおいた場合であると把握することもできる。これは仮想直流電圧Vdcの波形を二相全波整流波形にすることからの当然の帰結でもある。
【0127】
drec=1であるので、電流Idcは電流irec1と等しく、式(17)で示される値を採る。即ち、受納期間において電流Idcは、仮想波高値Imと第1値(1−k・cos(2ωt))/2との積を、絶対値|sin(ωt)|で除した値を採る。これは、電流Idcを示す式(8)においてVm/Vdc=1/R=1/|sin(ωt)|を導入したものであると把握することもできる。
【0128】
このようにして式(9)、(10)が成立し、受納期間において式(2)で示される瞬時授受電力Pbufを得ることができる。また第1の設定と同様にして式(13)で示される電流ilを設定することにより、受納期間における入力電流Iinの波形を正弦波とすることができる。
【0129】
また、授与期間においても、電流Idc、整流デューティdrec、放電デューティdcを「第1の設定」と同様に設定する。具体的には電流Idcは式(8)で、整流デューティdrecは式(16)で、放電デューティdcは式(12)で、それぞれ設定する。このような設定によって授与期間において式(2)で示される瞬時授受電力Pbufを得ることができることは、式(12)を導出する基礎となった式(11)から明らかである。但し、仮想直流電圧Vdcの波形を二相全波整流波形にするのであるから、R=Vdc/Vm=|cos(ωt)|を採用することになる。
【0130】
具体的には電流Idcは式(21)で示される値を採る。即ち、
授与期間において電流Idcは、仮想波高値Imと第1値(1−k・cos(2ωt))/2との積を、絶対値|cos(ωt)|で除した値を採る。
【0132】
同様に整流デューティdrec、放電デューティdcはそれぞれ式(22),(23)で示される。
【0135】
以上のことから、受納期間においてdc=dz=0とし、授与期間において式(22),(23)で示された諸デューティを用いることにより、仮想直流電圧Vdcの波形を二相全波整流波形にし、以て電圧利用率Rが改善されることがわかる。上述の諸デユーティの設定は、第1文献群に基づいて容易に行うことができる。
【0136】
また、第2の設定においても電流Idcとして式(8)を採用しており、よって式(9),(10),(13)が成立する。よって第1の設定と同様に、電流il,icdを低減することができる。このような電流il,icdの低減は、充放電回路4において採用されるリアクトルL4やコンデンサC4に要求される電力容量を低減し、小型化及び廉価化という観点で望ましい。
【0137】
図6及び
図7は
図1に示された直接形電力変換装置の動作を示すグラフであり、当該「第2の設定」に基づいてデューティdrec,dc,dzを設定した場合の動作を示している。但し
図6においては定数kを仮に零とし、
図7においてはk=2/3とした。
【0138】
図6、
図7においても
図3〜
図5と同様に、最上段にデューティdrec,dc,dzを、上から二段目に仮想直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧Vrec・drec,Vc・dc並びに電流Idcを、上から三段目に電流irec,icd,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pout,Pbufを、それぞれ示した。また記号T1,T2はそれぞれ授与期間及び受納期間を示す。
【0139】
また横軸は位相角ωtを「度」を単位として採用して示した。電流Idc,irec,icd,il,irec1は、波高値Imを√2として換算した。電圧Vrec.drec,Vc・dcは波高値Vmを1として換算した。瞬時電力Pin,Pout,Pbufは、上記のように換算された電圧、電流の積として求めている。授与期間T1において電流ilは零であるので、電流irec1は電流irecと一致する。受納期間T2においてdz=dc=0であり、電圧Vrec・drecは仮想直流電圧Vdcと一致する。
【0140】
「第1の設定」の場合と同様に、「第2の設定」においても、定数kを仮に零とした場合と比較して、瞬時入力電力Pinは正弦波から歪み、瞬時出力電力Poutが脈動はするものの、瞬時授受電力Pbufは低減することがわかる。また電流icd,ilは定数kが大きいほど低減することも、「第1の設定」の場合と同様に説明できる。
【0141】
なお、「第1の設定」における電流Idcの最大値よりも、「第2の設定」における電流Idcの最大値の方が小さい。具体的には「第1の設定」でも「第2の設定」でも式(8)に鑑みて、電流Idcはcos(2ωt)=−1となる位相
角ωt(=(2n+1)π/2:nは整数であり、受納期間にある)で最大値Idc=(1+k)・Im/(2・R)をとるところ、「第1の設定」ではR=1/√2であり、「第2の設定」ではR=1/|sin(ωt)|=1だからである。つまり「第2の設定」における電流Idcの最大値は、「第1設定」における電流Idcの最大値の1/√2倍に留まる。
【0142】
特に電流Idcの最大値が低減される効果は、インバータ5に採用されるスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swn及びダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnの電力定格を低減する観点で望ましい。
【0143】
しかし、
図6及び
図7から判るように、「第2の設定」においては定数kを仮に零とした場合ですらも、「第1の設定」と同様にdz<0(
図4参照)が発生する。そこで、「第1の設定」の修正と同様に、授与期間T1においてdz≧0とすべく、整流デューティdrecの設定を下記のように修正する:
(iv)授与期間において整流デューティdrecは、式(15)(あるいは式(22))で表される値(Im/Idc)・|sin(ωt)|と、式(12)(あるいは式(23))で表される放電デューティdcを1から差し引いた値(1−dc)とのいずれか小さい方を採る。
【0144】
これにより、式(4)を満足し、かつdz≧0にできる。もちろん、整流デューティdrecが式(15)に示された値よりも小さい値を採る期間が発生するので、当該期間においては電圧利用率Rは低下し、仮想直流電圧Vdcは二相全波整流波形にすることはできない。
【0145】
図8はこのように修正された整流デューティdrecを採用した場合の直接形電力変換装置の動作を示すグラフであり、整流デューティdrec及び零デューティdz以外は
図7と等しく設定されている。
【0146】
図7において零デューティdzが負となっていた期間は
図8において零デューティdzが零となり、仮想直流電圧Vdcが二相全波整流波形よりも低下し、電流irecが正弦波から歪んでいる。
【0147】
しかしがら、「第1の設定」の修正で説明したのと同様に、授与期間において整流デューティdrecを修正しても、定数kを採用したことによる電流il,icdの低減が損なわれることはないし、式(2)で表される瞬時授受電力Pbufを得ることができる。また、受納期間において考慮されるべき電流Idcの最大値の、「第1の設定」と「第2の設定」との比較についても、改善が損なわれるわけではない。
【0148】
また、「第2の設定」では、修正(iv)の導入により、仮想直流電圧Vdcを二相全波整流波形にすることはできないものの、当該修正の対象となる期間は授与期間の一部に留まる。よって「第2の設定」が「第1の設定」よりも電圧利用率Rを改善する効果が大きく損なわれることはない。
【0149】
なお、上記のいずれの技術においても、実際にはスイッチSrecは設けられず、等価回路において現れているに過ぎない。つまり、その導通/非導通は、スイッチSc及びインバータ5の動作に従属して決定される。
【0150】
具体的には授与期間においては、「第1の設定」及びその修正、「第2の設定」及びその修正のいずれにおいても、式(12),(16)に鑑みて、下式(24)で設定される放電デューティdcと零デューティdzが採用される。つまり式(24)で示される放電デューティdcでスイッチScの導通/非導通を制御し、式(24)で示される零デューティdzでインバータ5のスイッチングを制御し(つまり零デューティdzに相当する期間においては、インバータ5が出力する電圧によらず零相電流が流れる)、結果的に整流デューティdrecを実現することになる。
【0152】
受納期間においてはスイッチScは導通せずdc=0なので、「第1の設定」及びその修正、「第2の設定」及びその修正のいずれにおいても、式(18)に鑑みて、値(1−R/|sin(ωt)|)を採る零デューティdzで、インバータ5のスイッチングを制御する。
【0153】
例えば「第1の設定」及びその修正ではR=1/√2であり、「第2の設定」及びその修正では授与期間においてR=|cos(ωt)|であり、受納期間においてR=|sin(ωt)|である。
【0154】
(b-4)インバータ5に電流Idcを入力させるための技術の一例:
当節では、デューティについての上記「第1の設定」及び「第2の設定」に共通して電流Idcに採用される式(8)を実現するための一例を挙げる。
【0155】
通常の交流負荷の動作について、良く知られたdq軸の制御を行う場合を例に採る。dq軸上の電力式は一般に式(25)で示される。記号V*,Iはそれぞれ交流負荷に印加される電圧の指令値と、交流負荷に流れる電流とを示す。これらはいずれも交流であるので、これらは複素数として表されることを示すドットが記号V*,Iのそれぞれに載っている。但し、q軸電圧はその指令値Vq*に、d軸電圧はその指令値Vd*に、それぞれ理想的に追従するとしている。
【0157】
直流電源線LH,LLからインバータ5に供給される電力には無効電力が存在しないので、当該電力は式(25)の
最右辺の第3項を無視して、式(26)で表される。
【0159】
式(9)で示した瞬時出力電力Poutは式(26)と一致するので、式(27)が成立する。
【0161】
よって式(26)の交流成分と、式(27)の最右辺第2項とを一致させる制御を行うことにより、式(8)を実現する制御を行うことができる。上記の制御を行うための構成の一例を、ブロック図として
図9に示す。当該構成は、例えば
図1において制御部10として示された構成において設けられる。
【0162】
図9の構成において、公知の技術を示す部分について簡単に説明すると、電流位相指令値β*を入力することによって、三角関数値cosβ*,−sinβ*を求め、これと電流指令値Ia*とからq軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*を生成する。誘導性負荷6が回転機であるとして、その回転角速度ωmと、当該回転機の界磁磁束Φaと、回転機のd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqと、q軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとに基づいて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を求める。q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*からインバータ5を制御するための電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0163】
例えば
図1に示された構成では速度検出部9が、誘導性負荷6に流れる電流Iu,Iv,Iwを検出し、これらから回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idを制御部10に与える。
【0164】
なお、制御部10では、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、図示しない演算処理(例えば特許文献1を参照)によって、インバータ5のスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作をそれぞれ制御する信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwn(
図1参照)が得られる。
【0165】
また、制御部10では、スイッチSc,Slの動作をそれぞれ制御する信号SSc,SSlも生成されるが、これらはデューティdrec,dc,dz,dlに基づいて生成される(例えば第1文献群参照)。
【0166】
さて、式(26)の交流成分と、式(27)の最右辺第2項とを一致させる制御を行うための処理部71について以下に説明する。処理部71は、直流電力計算部711と、脈動成分抽出部712と、脈動成分計算部713と、減算器714と、加算器715と、PI処理部716を備えている。
【0167】
直流電力計算部711は、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとを入力し、上記の式(26)に基づいて直流電力Pdcを計算し、これを脈動成分抽出部712に与える。
【0168】
脈動成分抽出部712は、式(26)の交流成分を抽出して出力する。脈動成分抽出部712は例えばハイパス(高域透過)フィルタHPFで実現される。
【0169】
脈動成分計算部713は波高値Vm,Imと、電源角速度ωと、定数kとを入力し、式(27)の最右辺第2項を求める。波高値Vm,Imと電源角速度ωとは、単相交流電源1から得られる情報として脈動成分計算部713に入力することができる(
図1参照)。
【0170】
上述のように、所望の処理は、式(26)の交流成分と、式(27)の最右辺第2項とを一致させるのであるから、脈動成分抽出部712の出力と、脈動成分計算部713の出力との差を小さくするように制御を行えばよい。よって減算器714によって当該差を求め、当該差にPI処理部716による積分比例制御を施した値を加算器715に出力する。
【0171】
加算器715は、通常の処理における電流指令値Ia*をPI処理部716の出力で補正する処理を行う。具体的には、まず、電流指令値Ia*を求める通常の処理として、減算器701によって回転角速度ωmと、その指令値ωm*との偏差を求める。当該偏差はPI処理部702において積分比例制御を受け、電流指令値Ia*を一旦求める。そして加算器715が、電流指令値Ia*を、PI処理部716からの出力で増加させる処理を行う。
【0172】
このようにして処理部71で補正された電流指令値Ia*に対して、上述の公知の技術を適用し、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を生成する。このような制御はq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとについてのフィードバックを施した制御であって、減算器714が出力する差を0に収束させるものである。つまり、このような制御によって、式(26)の交流成分と式(27)の最右辺第2項とを一致させることができる。
【0173】
C.充放電回路4についての利点の説明.
(c-1)バッファ回路4aについての利点の説明.
この節では、瞬時授受電力Pbufを低減することで、コンデンサC4に電解コンデンサを採用することができ、バッファ回路4aが安価に実現されることを説明する。
【0174】
図10は、入力電力(瞬時入力電力Pinの平均値:横軸)を入力して処理する直接形電力変換装置において採用もしくは要求されるコンデンサの静電容量(以下、「コンデンサ容量」と称す)(左縦軸)と、リプル電流及びその許容値(右縦軸)との関係を示すグラフである。
【0175】
記号H1,H2は、いずれも単相の力率改善回路を採用した場合に使用されているコンデンサ容量を示している。記号H1,H2は、それぞれ空調能力が6kW及び11.2kWの空気調和機を採用した場合のデータである。ここでいう力率改善回路は、充放電回路4からスイッチScを短絡除去し、かつリアクトルL4とコンバータ3との接続点をインバータ5と直接に接続させない構成として把握することができる。当該構成においては、ダイオードD40とリアクトルL4の直列接続が、直流電源線LHにおいてコンバータ3とインバータ5の間に介在することになり、またコンデンサC4が直流電源線LH,LLの間で、インバータ5に対して並列に接続されることになる。
【0176】
さて、非特許文献2,3から、基本技術で必要なコンデンサ容量Cは次式(28)で求められる。但し、両端電圧Vcの最大値Vcmax及び最小値Vcminを導入した。
【0178】
グラフG1は基本技術(「第1の設定」で定数kを仮に零とした場合)に必要なコンデンサ容量を計算した値をプロットしている。但し、最大値Vcmax=400+50=450(V)、最小値Vcmin=400−50=350(V)とした。また、グラフG1における黒丸は、記号H1,H2で示された場合と入力電力が同じ場合を示している。但し、記号H1,H2は実際に使用されているコンデンサ容量をプロットしており、これを式(27)から逆算すると、両端電圧Vcの変動は±5%程度となる。
【0179】
記号H1,H2とグラフG1における黒丸とを比較して判るように、基本技術では通常の力率改善回路と比較して、コンデンサ容量が1/3〜1/4程度にまで低減される。
【0180】
しかしながら、基本技術では、グラフG2で示されるリプル電流がコンデンサC4に流れる。他方、グラフG1で求められたコンデンサ容量を電解コンデンサで得た場合に許容されるリプル電流を、グラフG3で示す(例えばニチコン株式会社製電解コンデンサ、GWシリーズ(105℃仕様)で45℃における値)。グラフG2,G3の比較により、基本技術は、コンデンサC4に電解コンデンサを用いて実現することは、リプル電流が許容されるかという観点では、不可能であることがわかる。
【0181】
しかし、上述の「第1の設定」及び「第2の設定」において定数k(<1)を導入することにより、コンデンサC4に蓄積される電力の脈動分は、基本技術と比較して低減させることができる。これは、定数kを、所望のコンデンサ容量に対応して設定することによって、コンデンサC4を電解コンデンサで実現できることとなり、充放電回路4を安価に実現することに資する。
【0182】
(c-2)昇圧回路4bについての利点の説明.
この節では、瞬時授受電力Pbufを低減することで、昇圧回路4bが安価に実現されることを説明する。
【0183】
まず、基本技術ですら、通常の力率改善回路よりも電力容量が小さくて済むことを示す。式(1)から、力率改善回路を通過する電力は式(29)で求められる。
【0185】
他方、基本技術では、昇圧回路4bを経由してコンデンサC4に与えられる電力は、式(2)に基づいて、式(30)で求められる。
【0187】
式(29),(30)を比較して判るように、基本技術は、力率改善回路と比較して、昇圧回路4bに要求される電力容量が1/π倍(約1/3倍)に低減される。
【0188】
そして「第1の設定」及び「第2の設定」において定数k(<1)を導入することにより、基本技術よりも瞬時授受電力Pbufを低減できるのであるから、当該電力容量は更に低減されることがわかる。
【0189】
また、リアクトルL4に流れる電流ilについても、基本技術でさえ、式(31)に示されるように、そのピーク値が力率改善回路の場合のピーク値(これは波高値Imとなる)と比較して、1/2倍に低減される。
【0191】
そして「第1の設定」及び「第2の設定」において定数
(k<1)を導入することにより、基本技術よりも電流ilを低減できるのであるから、式(31)に鑑みれば、リアクトルL4に要求される電力容量は更に低減されることがわかる。
【0192】
D.変形
基本技術であっても、「第1の設定」及び「第2の設定」において定数k(<1)を導入する技術であっても、フィルタ2をコンバータ3と充放電回路4との間に設けることもできる。
【0193】
図11は当該変形として、フィルタ2をコンバータ3と充放電回路4との間に設けた場合の、それらの近傍のみを示す回路図である。
【0194】
このような構成を採用する場合、直流電源線LHにおいて、フィルタ2とバッファ回路4aとの間に、ダイオードD
oを設けることが望ましい。ダイオードD
oのアノードはフィルタ2側に、カソードはバッファ回路4a側に、それぞれ配置される。コンデンサC2の両端電圧が、スイッチScのスイッチングによってコンデンサC4の両端電圧Vcの影響を受けることを、ダイオードD
oによって防止できる。