【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルを実現すべく、まず最初に、フェライト材料を磁性体コアに対応する形状に成形しつつ、成形されたフェライト材料の周囲に、銅を含む導体ペーストを導体コイルに対応する形状に配設して、これらフェライト材料および銅を含む導体ペーストを同時に大気焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成する方法について研究した。かかる同時焼成を実施するには、フェライト材料をより低温で焼結可能なように、Fe
2O
3、NiO、ZnOおよびCuOを主成分として含むNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用することが好ましいと考えられる。しかしながら、上記のような方法では、焼成工程中にCuがCu
2Oに酸化されて、導体コイルの配線抵抗が上昇するという問題が生じる。CuがCu
2Oに酸化されるのを防止するには、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成を実施することが考えられ得る。しかしながら、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成を実施すると、今度は、Ni−Zn−Cu系フェライト材料中のCuOがCu
2Oに還元され、また、Fe
2O
3がFe
3O
4に還元されることとなる。CuOがCu
2Oに還元され、Fe
2O
3がFe
3O
4に還元されると、いずれも、焼成によって得られる磁性体コアの比抵抗の低下をもたらし、アンテナコイルの電気特性(インピーダンスなど)の低下を招く恐れがある。特にFe
2O
3については、エリンガム図などから理解されるように、800℃以上の温度では、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧がFe
3O
4−Fe
2O
3平衡酸素分圧より低くなり、CuがCu
2Oより支配的な酸素分圧範囲とFe
2O
3がFe
3O
4より支配的な酸素分圧範囲とはオーバーラップしない。そして、Ni−Zn−Cu系フェライト材料の焼成は、800℃未満では実施できない。従って、焼成時の酸素分圧を調整することによっては、CuのCu
2Oへの酸化およびFe
2O
3のFe
3O
4への還元の双方を同時に防止することはできず、導体コイルの配線抵抗と磁性体コアの比抵抗のいずれかを犠牲にせざるを得ない。
【0009】
上述の問題は、Ni−Zn−Cu系フェライト材料と、銅を含む導体ペーストと同時に焼成する場合に限らず、銅を含む導体をフォトリソグラフィ法等で導体コイルに対応する形状に配設する場合にも、導体コイルとなる銅が焼成工程にて高温雰囲気に曝されることは同じであるから、回避することはできない。
【0010】
本発明者らは、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルであって、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性体コアの比抵抗の低下の双方が効果的に防止されたアンテナコイルの実現を指向して、更なる鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルであって、
導体コイルが銅を含む導体から成り、
磁性体コアが、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、
該焼結フェライト材料において、
CuのCuO換算含有量が5mol%以下であり、および
FeのFe
2O
3換算含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMnのMn
2O
3換算含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、FeのFe
2O
3換算含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMnのMn
2O
3換算含有量が7.5mol%以上10mol%以下である、アンテナコイルが提供される。
【0012】
本発明のアンテナコイルでは、その製造方法において後述するように、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成することにより、導体コイルの材料に使用したCuがCu
2Oに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。
【0013】
更に、本発明のアンテナコイルにおいては、磁性体コアが、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、この焼結フェライト材料におけるCuのCuO換算含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としている。このように、CuのCuO換算含有量を5mol%以下の低含有量とすることにより、フェライト材料が焼結される際の耐還元性が高まり、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、CuOがCu
2Oに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。
【0014】
また更に、本発明のアンテナコイルにおいては、上記焼結フェライト材料において、FeのFe
2O
3換算含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMnのMn
2O
3換算含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、FeのFe
2O
3換算含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMnのMn
2O
3換算含有量を7.5mol%以上10mol%以下としている。このように、Fe
2O
3をMn
2O
3と共存させて、FeのFe
2O
3換算含有量をMnのMn
2O
3換算含有量と組み合わせて各範囲を上記の通り選択することにより、フェライト材料の焼結時にFe
2O
3がFe
3O
4(FeO・Fe
2O
3)に還元されることを効果的に回避でき、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、Fe
2O
3がFe
3O
4に還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を防止することができる。
【0015】
要するに、本発明のアンテナコイルは、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性体コアの比抵抗の低下の双方を効果的に防止することができ、かつ、フェライト材料および導体ペーストを、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で同時に焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成することにより製造可能である。かかる製造方法は、従来のアンテナコイルのように、磁性体コアの周囲にフレキシブルプリント配線板を所定の位置で合わさるように巻き付ける工程や、導体パターンをコイル状に接続する工程を要しないので、製造が容易であり、製造コストを低減することができる。また、既に焼結されたフェライト材料のハンドリングが少なくなるので、アンテナコイルの欠けの発生が低減される。
【0016】
なお、磁性体コアの成分は、アンテナコイルを破断し、磁性体コアの破断面を波長分散型X線分析法(WDX法)で定量分析することにより確認できる。CuのCuO換算含有量は、磁性体コア中のCuの全てがCuOの形態であると仮定して、CuをCuOに換算した場合のCuO含有量を意味し、具体的には、磁性体コア中のCuを上記WDX法で定量分析することにより調べられる。その他の「・・・換算含有量」の表現も同様である。
【0017】
本発明のアンテナコイルに関し、上記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量は33mol%以下であることが好ましい。ZnのZnO換算含有量を33mol%以下とすることによって、キュリー点の低下を回避でき、高いアンテナコイル動作温度を確保することができる。
【0018】
また、本発明のアンテナコイルに関し、上記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量は6mol%以上であることが好ましい。ZnのZnO含有量を6mol%以上とすることによって、高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。
【0019】
本発明のもう1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe
2O
3、Mn
2O
3、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe
2O
3含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn
2O
3含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe
2O
3含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn
2O
3含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を上記磁性体コアに対応する形状に成形しつつ、該成形されたフェライト材料の周囲または内部に、銅を含む導体を上記導体コイルに対応する形状に配設すること、および
上記成形されたフェライト材料および該成形されたフェライト材料の周囲または内部に配設された導体をCu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、該フェライト材料を焼成して上記磁性体コアを形成し、および該導体を上記導体コイルと成すこと
を含む製造方法もまた提供される。
【0020】
本発明の上記製造方法によれば、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で同時に焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成することができるので、上述したように、製造が容易であり、製造コストを低減することができ、また、アンテナコイルの欠けの発生が低減される。
【0021】
本発明の上記製造方法において、銅を含む導体は、銅を含む導体ペーストの形態で、上記の通り成形されたフェライト材料の周囲または内部に、上記導体コイルに対応する形状で配設されていてよく、その後の熱処理により、かかるフェライト材料および銅を含む導体ペーストを同時に焼成して、それぞれ上記磁性体コアおよび上記導体コイルを形成してよい。かかる態様によれば、銅を含む導体ペーストをCu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより導体コイルが形成されるので、導体コイルの材料に使用したCuがCu
2Oに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、銅を含む導体は、フェライト材料の周囲または内部に任意の適切な方法で配設され得る。
【0022】
更に、本発明の上記製造方法によれば、Fe
2O
3、Mn
2O
3、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより磁性体コアを形成しており、このフェライト材料におけるCuO含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としているので、CuOがCu
2Oに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。一般的に、CuOは他の主成分に比較して低融点であることから、CuO含有量を5mol%以下とすると、通常実施されている大気雰囲気での焼成の場合、焼成温度を1050〜1250℃程度に上げないと、焼結性(または焼結密度)の高い焼結体を得ることはできない。これに対して、本発明の上記製造方法によれば、Cu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成しているので、Cuの融点以下の温度、例えば950〜1000℃で、焼結性の高い焼結体を得ることができる。
【0023】
また更に、本発明の上記製造方法によれば、Fe
2O
3、Mn
2O
3、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより磁性体コアを形成しており、上記フェライト材料において、Fe
2O
3含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMn
2O
3含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、Fe
2O
3含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMn
2O
3含有量を7.5mol%以上10mol%以下としているので、Fe
2O
3がFe
3O
4に還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を防止することができる。
【0024】
本発明のもう1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe
2O
3、Mn
2O
3、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe
2O
3含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn
2O
3含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe
2O
3含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn
2O
3含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料のグリーンシートを、銅を含む導体ペースト層を介して積層し、導体ペースト層がフェライト材料のグリーンシートを貫通してコイル状に相互接続されている積層体を得ること、および
積層体をCu−Cu
2O平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、フェライト材料のグリーンシートおよび銅を含む導体ペースト層を焼成して、それぞれ上記磁性体コアおよび前記導体コイルを形成すること
を含む製造方法もまた提供される。
【0025】
かかる本発明の製造方法は、上述した製造方法と同様の効果を奏し得、更に、シート積層法および印刷積層法などを利用して、アンテナコイルを簡便に作製することが可能となる。