特許第5794307号(P5794307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794307
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】アンテナコイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 7/06 20060101AFI20150928BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20150928BHJP
   C04B 35/30 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   H01Q7/06
   H01F1/34 A
   C04B35/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-531255(P2013-531255)
(86)(22)【出願日】2012年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2012071324
(87)【国際公開番号】WO2013031641
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-191656(P2011-191656)
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】小松 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰宏
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−323283(JP,A)
【文献】 特開平05−175032(JP,A)
【文献】 特開2011−097524(JP,A)
【文献】 特開2010−018482(JP,A)
【文献】 特開2006−219306(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00− 57/00
C04B 35/26
H01F 1/12
H01Q 5/00− 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルであって、
導体コイルが銅を含む導体から成り、
磁性体コアが、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、
該焼結フェライト材料において、
CuのCuO換算含有量が5mol%以下であり、および
FeのFe換算含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、FeのFe換算含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が7.5mol%以上10mol%以下である、アンテナコイル。
【請求項2】
前記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量が33mol%以下である、請求項1に記載のアンテナコイル。
【請求項3】
前記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量が6mol%以上である、請求項1または2に記載のアンテナコイル。
【請求項4】
磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を前記磁性体コアに対応する形状に成形しつつ、該成形されたフェライト材料の周囲または内部に、銅を含む導体を前記導体コイルに対応する形状に配設すること、および
前記成形されたフェライト材料および該成形されたフェライト材料の周囲または内部に配設された導体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、該フェライト材料を焼成して前記磁性体コアを形成し、および該導体を前記導体コイルと成すこと
を含む製造方法。
【請求項5】
磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料のグリーンシートを、銅を含む導体ペースト層を介して積層し、導体ペースト層がフェライト材料のグリーンシートを貫通してコイル状に相互接続されている積層体を得ること、および
積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、フェライト材料のグリーンシートおよび銅を含む導体ペースト層を焼成して、それぞれ前記磁性体コアおよび前記導体コイルを形成すること
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナコイルに関し、より詳細には、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルに関する。また、本発明は、かかるアンテナコイルの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナコイルは、例えば、電磁誘導方式のRFID(Radio Frequency Identification)タグに使用されている。RFIDタグは、アンテナコイルに加えてICチップなどを備え、RFIDタグのアンテナコイルを、所定の周波数で使用されるリーダ/ライタのアンテナコイルと磁束結合させることによって、リーダ/ライタからRFIDタグのICチップに対して情報の読取および/または書込を無線通信で行うものである。
【0003】
従来、RFIDタグとして、フェライト材料を板状に形成した磁性体コアの周囲に、フレキシブルプリント配線板(FPC)を巻き付けた構造のものが知られている(特許文献1を参照のこと)。このフレキシブルプリント配線板には、予め、可撓性基材上に導体パターンが導体コイルに対応するように形成されると共にICチップなどが実装されている。かかるRFIDタグにおいて、フェライト材料から成る磁性体コアと、その周囲に巻き付けられたフレキシブルプリント配線板上の導体パターンである導体コイルとがアンテナコイルとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−86603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したRFIDタグの製造方法においては、フェライト材料を板状に焼結して磁性体コアを作製し、この磁性体コアの周囲に、別途準備したフレキシブルプリント配線板を巻き付け、巻き合わせた両端にて導体パターンをコイル状に接続(線材を用いた結線またはクロスオーバーパターンで連結)しており、これにより、磁性体コアの周囲に導体コイルが巻かれたアンテナコイルが構成される。
【0006】
しかしながら、かかる製造方法は、磁性体コアの周囲にフレキシブルプリント配線板を所定の位置で合わさるように巻き付ける工程や、導体パターンをコイル状に接続する工程を要するため、煩雑である。また、これら巻き付け工程および接続工程においては、磁性体コアとして、既に焼結されたフェライト材料をハンドリングするものであるため、これら工程において磁性体コアに欠け(またはチッピング、以下も同様)が発生し易いという難点がある。
【0007】
本発明の目的は、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルを提供することにある。また、本発明の更なる目的は、かかるアンテナコイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルを実現すべく、まず最初に、フェライト材料を磁性体コアに対応する形状に成形しつつ、成形されたフェライト材料の周囲に、銅を含む導体ペーストを導体コイルに対応する形状に配設して、これらフェライト材料および銅を含む導体ペーストを同時に大気焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成する方法について研究した。かかる同時焼成を実施するには、フェライト材料をより低温で焼結可能なように、Fe、NiO、ZnOおよびCuOを主成分として含むNi−Zn−Cu系フェライト材料を使用することが好ましいと考えられる。しかしながら、上記のような方法では、焼成工程中にCuがCuOに酸化されて、導体コイルの配線抵抗が上昇するという問題が生じる。CuがCuOに酸化されるのを防止するには、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成を実施することが考えられ得る。しかしながら、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成を実施すると、今度は、Ni−Zn−Cu系フェライト材料中のCuOがCuOに還元され、また、FeがFeに還元されることとなる。CuOがCuOに還元され、FeがFeに還元されると、いずれも、焼成によって得られる磁性体コアの比抵抗の低下をもたらし、アンテナコイルの電気特性(インピーダンスなど)の低下を招く恐れがある。特にFeについては、エリンガム図などから理解されるように、800℃以上の温度では、Cu−CuO平衡酸素分圧がFe−Fe平衡酸素分圧より低くなり、CuがCuOより支配的な酸素分圧範囲とFeがFeより支配的な酸素分圧範囲とはオーバーラップしない。そして、Ni−Zn−Cu系フェライト材料の焼成は、800℃未満では実施できない。従って、焼成時の酸素分圧を調整することによっては、CuのCuOへの酸化およびFeのFeへの還元の双方を同時に防止することはできず、導体コイルの配線抵抗と磁性体コアの比抵抗のいずれかを犠牲にせざるを得ない。
【0009】
上述の問題は、Ni−Zn−Cu系フェライト材料と、銅を含む導体ペーストと同時に焼成する場合に限らず、銅を含む導体をフォトリソグラフィ法等で導体コイルに対応する形状に配設する場合にも、導体コイルとなる銅が焼成工程にて高温雰囲気に曝されることは同じであるから、回避することはできない。
【0010】
本発明者らは、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルであって、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性体コアの比抵抗の低下の双方が効果的に防止されたアンテナコイルの実現を指向して、更なる鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルであって、
導体コイルが銅を含む導体から成り、
磁性体コアが、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、
該焼結フェライト材料において、
CuのCuO換算含有量が5mol%以下であり、および
FeのFe換算含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、FeのFe換算含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMnのMn換算含有量が7.5mol%以上10mol%以下である、アンテナコイルが提供される。
【0012】
本発明のアンテナコイルでは、その製造方法において後述するように、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成することにより、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。
【0013】
更に、本発明のアンテナコイルにおいては、磁性体コアが、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成り、この焼結フェライト材料におけるCuのCuO換算含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としている。このように、CuのCuO換算含有量を5mol%以下の低含有量とすることにより、フェライト材料が焼結される際の耐還元性が高まり、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、CuOがCuOに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。
【0014】
また更に、本発明のアンテナコイルにおいては、上記焼結フェライト材料において、FeのFe換算含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMnのMn換算含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、FeのFe換算含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMnのMn換算含有量を7.5mol%以上10mol%以下としている。このように、FeをMnと共存させて、FeのFe換算含有量をMnのMn換算含有量と組み合わせて各範囲を上記の通り選択することにより、フェライト材料の焼結時にFeがFe(FeO・Fe)に還元されることを効果的に回避でき、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で焼成しても、FeがFeに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を防止することができる。
【0015】
要するに、本発明のアンテナコイルは、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性体コアの比抵抗の低下の双方を効果的に防止することができ、かつ、フェライト材料および導体ペーストを、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で同時に焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成することにより製造可能である。かかる製造方法は、従来のアンテナコイルのように、磁性体コアの周囲にフレキシブルプリント配線板を所定の位置で合わさるように巻き付ける工程や、導体パターンをコイル状に接続する工程を要しないので、製造が容易であり、製造コストを低減することができる。また、既に焼結されたフェライト材料のハンドリングが少なくなるので、アンテナコイルの欠けの発生が低減される。
【0016】
なお、磁性体コアの成分は、アンテナコイルを破断し、磁性体コアの破断面を波長分散型X線分析法(WDX法)で定量分析することにより確認できる。CuのCuO換算含有量は、磁性体コア中のCuの全てがCuOの形態であると仮定して、CuをCuOに換算した場合のCuO含有量を意味し、具体的には、磁性体コア中のCuを上記WDX法で定量分析することにより調べられる。その他の「・・・換算含有量」の表現も同様である。
【0017】
本発明のアンテナコイルに関し、上記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量は33mol%以下であることが好ましい。ZnのZnO換算含有量を33mol%以下とすることによって、キュリー点の低下を回避でき、高いアンテナコイル動作温度を確保することができる。
【0018】
また、本発明のアンテナコイルに関し、上記焼結フェライト材料におけるZnのZnO換算含有量は6mol%以上であることが好ましい。ZnのZnO含有量を6mol%以上とすることによって、高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。
【0019】
本発明のもう1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料を上記磁性体コアに対応する形状に成形しつつ、該成形されたフェライト材料の周囲または内部に、銅を含む導体を上記導体コイルに対応する形状に配設すること、および
上記成形されたフェライト材料および該成形されたフェライト材料の周囲または内部に配設された導体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、該フェライト材料を焼成して上記磁性体コアを形成し、および該導体を上記導体コイルと成すこと
を含む製造方法もまた提供される。
【0020】
本発明の上記製造方法によれば、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧(還元雰囲気)で同時に焼成して、それぞれ磁性体コアおよび導体コイルを形成することができるので、上述したように、製造が容易であり、製造コストを低減することができ、また、アンテナコイルの欠けの発生が低減される。
【0021】
本発明の上記製造方法において、銅を含む導体は、銅を含む導体ペーストの形態で、上記の通り成形されたフェライト材料の周囲または内部に、上記導体コイルに対応する形状で配設されていてよく、その後の熱処理により、かかるフェライト材料および銅を含む導体ペーストを同時に焼成して、それぞれ上記磁性体コアおよび上記導体コイルを形成してよい。かかる態様によれば、銅を含む導体ペーストをCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより導体コイルが形成されるので、導体コイルの材料に使用したCuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイルの配線抵抗の上昇を防止することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、銅を含む導体は、フェライト材料の周囲または内部に任意の適切な方法で配設され得る。
【0022】
更に、本発明の上記製造方法によれば、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより磁性体コアを形成しており、このフェライト材料におけるCuO含有量を5mol%以下(ゼロmol%を除く)としているので、CuOがCuOに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を許容可能な範囲に抑えることができる。一般的に、CuOは他の主成分に比較して低融点であることから、CuO含有量を5mol%以下とすると、通常実施されている大気雰囲気での焼成の場合、焼成温度を1050〜1250℃程度に上げないと、焼結性(または焼結密度)の高い焼結体を得ることはできない。これに対して、本発明の上記製造方法によれば、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成しているので、Cuの融点以下の温度、例えば950〜1000℃で、焼結性の高い焼結体を得ることができる。
【0023】
また更に、本発明の上記製造方法によれば、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で焼成することにより磁性体コアを形成しており、上記フェライト材料において、Fe含有量を25mol%以上47mol%以下とし、かつMn含有量を1mol%以上7.5mol%未満とするか、Fe含有量を35mol%以上45mol%以下とし、かつMn含有量を7.5mol%以上10mol%以下としているので、FeがFeに還元されることによる磁性体コアの比抵抗の低下を防止することができる。
【0024】
本発明のもう1つの要旨によれば、磁性体コアと、磁性体コアの周囲または内部に配置された導体コイルとを含むアンテナコイルの製造方法であって、
Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料であって、CuO含有量が5mol%以下であり、およびFe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満であるか、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下であるフェライト材料のグリーンシートを、銅を含む導体ペースト層を介して積層し、導体ペースト層がフェライト材料のグリーンシートを貫通してコイル状に相互接続されている積層体を得ること、および
積層体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、フェライト材料のグリーンシートおよび銅を含む導体ペースト層を焼成して、それぞれ上記磁性体コアおよび前記導体コイルを形成すること
を含む製造方法もまた提供される。
【0025】
かかる本発明の製造方法は、上述した製造方法と同様の効果を奏し得、更に、シート積層法および印刷積層法などを利用して、アンテナコイルを簡便に作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、製造が容易で、欠けの発生が低減されたアンテナコイルを、導体コイルの配線抵抗の上昇および磁性体コアの比抵抗の低下を効果的に防止しつつ、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の1つの実施形態におけるアンテナコイルの概略斜視図であって、内部を透視して示す図である。
図2図1の実施形態におけるアンテナコイルの概略分解斜視図であって、引出し電極を省略した図である。
図3】Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料におけるFe含有量(mol%)およびMn含有量(mol%)を示すグラフである。
図4】磁性体コアに使用する磁性体の比抵抗を測定するための試料として作製した積層コンデンサの概略断面図である。
図5】本発明の実施例および比較例のアンテナコイルの通信距離を測定するために適用した模式的配置図である。
図6】本発明の実施例および比較例のアンテナコイルの通信距離を周波数に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のアンテナコイルおよびその製造方法について、以下、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態のアンテナコイル10は、磁性体コア1と、その内部に配置された導体コイル3とを含んで成る。磁性体コア1の底面には引出し電極7a〜7dが設けられ得、導体コイル3の両端は引出し電極7a、7cに接続され得る。なお、引出し電極7b、7dは、本実施形態に必須ではないが、アンテナコイル10を基板等に実装する際のアンテナコイル10の位置ずれを防止するために利用され得る。
【0030】
本発明を限定するものではないが、より詳細には、図2を参照して、磁性体コア1は、磁性体層1x、1a〜1e・・・1nおよび1yが積層されて成る(但し、磁性体層1yは省略してもよい。以下も同様とする)。また、導体部コイル3は、磁性体層1x、1a〜1e・・・1n間にそれぞれ配置された複数の導体パターン層3a〜3e・・・3nが、磁性体層1a〜1e・・・に貫通して設けられたビア5a〜5e・・・を通ってコイル状に相互接続されており、導体コイル3の両端は、図2中、記号XおよびYにて示される。但し、本実施形態の磁性体コア1および導体コイル3の構成、形状、巻回数および配置等は、図示する例に限定されないことに留意されたい。
【0031】
磁性体コア1は、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成る。この焼結フェライト材料の組成については後述するものとする。導体コイル3は、銅を含む導体から成るものであればよいが、銅を主成分として含む導体から成ることが好ましい。引出し電極7a〜7dは、特に限定されないが、銅を主成分として含む導体から成っていてよく、必要に応じてニッケルおよび/またはスズなどがメッキされ得る。
【0032】
かかる本実施形態のアンテナコイル10は、以下のようにして製造される。
【0033】
まず、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料であって、CuO含有量、Fe含有量およびMn含有量が所定範囲にあるフェライト材料を準備する。これは、Ni−Zn−Cu系フェライト材料において、Feの所定量をMnで置換したものと理解してよい。
【0034】
このフェライト材料は、Fe、Mn、ZnO、NiOおよびCuOを主成分として含み、必要に応じてBiなどの添加成分を更に含んでいてよい。通常、フェライト材料は、素原料として、これら成分の粉末を所望の割合で混合および仮焼して調製され得るが、これに限定されるものではない。
【0035】
このフェライト材料におけるCuO含有量は、5mol%以下(主成分合計基準)とする。CuO含有量を5mol%以下として、後述する熱処理により積層体を焼成することによって、磁性体コア1において高い比抵抗を確保することができる。フェライト材料中のCuO含有量は5mol%以下であればよいが、十分な焼結性を得るためには0.2mol%以上であることが好ましい。
【0036】
このフェライト材料におけるFe含有量およびMn含有量(主成分合計基準)は、図3に示す領域Zの範囲以内とする。図3は、Fe含有量をx軸にとり、Mn含有量をy軸にとったグラフであり、図中の各点(x,y)は、A(25,1)、B(47,1)、C(47,7.5)、D(45,7.5)、E(45,10)、F(35,10)、G(35,7.5)、H(25,7.5)である。即ち、これら点A〜Hで囲まれた領域Zの範囲は、Fe含有量が25mol%以上47mol%以下で、かつMn含有量が1mol%以上7.5mol%未満である領域と、Fe含有量が35mol%以上45mol%以下で、かつMn含有量が7.5mol%以上10mol%以下である領域を合わせたものに一致する。Fe含有量およびMn含有量を図3に示す領域Zの範囲以内として、後述する熱処理により積層体を焼成することによって、磁性体コア1において高い比抵抗を確保することができる。
【0037】
このフェライト材料におけるZnO含有量は、6〜33mol%(主成分合計基準)とすることが好ましい。ZnO含有量を6mol%以上とすることによって、例えば35以上の高い透磁率を得ることができ、大きなインダクタンスを取得できる。また、ZnO含有量を33mol%以下とすることによって、例えば130℃以上のキュリー点を得ることができ、高いアンテナコイル動作温度を確保することができる。
【0038】
このフェライト材料におけるNiO含有量は、特に限定されず、上述した他の主成分であるCuO、Fe、ZnOの残部とし得る。
【0039】
また、フェライト材料におけるBi含有量(添加量)は、主成分(Fe、Mn、ZnO、NiO、CuO)の合計100重量部に対して、0.1〜1重量部とすることが好ましい。Bi含有量を0.1〜1重量部とすることによって、低温焼成がより促進されると共に、異常粒成長を回避することができる。Bi含有量が高すぎると、異常粒成長が起こり易く、異常粒成長部位にて比抵抗が低下し、外部電極形成時のめっき処理の際に、異常粒成長部位にめっきが付着するので好ましくない。
【0040】
上記のようにして調製したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を用いてグリーンシートを準備する。例えば、フェライト材料を、バインダ樹脂および有機溶剤と混合/混練し、シート状に成形することによりグリーンシートを得てよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
別途、銅を含む導体ペーストを準備する。市販で入手可能な、銅を粉末の形態で含む一般的な銅ペーストを使用できるが、これに限定されない。
【0042】
そして、上記フェライト材料のグリーンシート(磁性体層1x、1a〜1e・・・1n、1yに対応する)を、銅を含む導体ペースト層(導体パターン層3a〜3e・・・3nに対応する)を介して積層し、導体ペースト層がフェライト材料のグリーンシートに貫通して設けられたビア(ビア5a〜5eに対応する)を通ってコイル状に相互接続されている積層体(未焼成積層体)を得る。
【0043】
積層体の形成方法は、特に限定されず、シート積層法および印刷積層法などを利用して積層体を形成してよい。シート積層法による場合、フェライト材料のグリーンシートに、適宜ビアを設けて、導体ペーストを所定のパターンで(ビアが設けられている場合には、ビアに充填しつつ)印刷して導体ペースト層を形成し、導体ペースト層が適宜形成されたグリーンシートを積層および圧着し、所定の寸法に切断して、積層体を得ることができる。印刷積層法による場合、フェライト材料のグリーンシートに、導体ペーストを所定のパターンで印刷して導体ペースト層を形成し、その上に、ビアを設けた別のグリーンシートを載せ、導体ペーストを所定のパターンで(ビアに充填しつつ)印刷して導体ペースト層を形成することを適宜繰り返し、最後にフェライト材料のグリーンシートを載せて圧着し、所定の寸法に切断して、積層体を得ることができる。この積層体は、複数個をマトリクス状に一度に作製した後に、ダイシング等により個々に切断して(素子分離して)個片化したものであってよいが、予め個々に作製したものであってもよい。
【0044】
次に、上記で得られた積層体を、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理することにより、フェライト材料のグリーンシートおよび銅を含む導体ペースト層を焼成して、それぞれ磁性体層1a〜1e・・・1n、1x、1yおよび導体パターン層3a〜3e・・・3nとする。これにより得られた焼結積層体において、磁性体層1a〜1e・・・1n、1x、1yは磁性体コア1を形成し、導体パターン層3a〜3e・・・3nは導体コイル3を形成する。
【0045】
Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で熱処理することにより、フェライト材料を空気中で熱処理する場合よりも低温で焼結でき、例えば、焼成温度を950〜1000℃とし得る。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、このような低酸素分圧雰囲気で焼成した場合、結晶構造中に酸素欠陥が形成され、結晶中に存在するFe、Mn、Ni、Cu、Znの相互拡散が促進され、低温焼結性を高めることができるものと考えられる。この工程において、積層体には、導体コイル3を形成するために銅を含む導体が存在しているが、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で低温焼成することにより、CuがCuOに酸化されることを防止でき、導体コイル3の配線抵抗を低く維持することができる。
【0046】
加えて、CuO含有量が5mol%以下であるNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用することにより、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成しても、磁性体コア1において高い比抵抗を確保することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、CuO含有量を小さくすることによりCuOの還元によるCuOの生成を抑制でき、これにより比抵抗の低下が抑制されるものと考えられる。
【0047】
また、Fe含有量およびMn含有量を図3に示す領域Zの範囲以内であるNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用することにより、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気で焼成しても、磁性体コア1において、高い比抵抗を確保することができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、これは、Mn−Mn平衡酸素分圧のほうがFe−Fe平衡酸素分圧より高く、MnのほうがFeより還元され易いため、Cu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧では、Feに比べてMnに対してより強い還元性雰囲気となり、この結果、FeよりもMnが優先的に還元され、Feが還元される前に焼成を終了できるためであると考えられる。
【0048】
焼成雰囲気の酸素分圧はCu−CuO平衡酸素分圧以下であればよい。Cu−CuO平衡酸素分圧は、例えば、温度900℃では4.3×10−3Paであり、温度950℃では1.8×10−2Paであり、温度1000℃では6.7×10−2Paである。また、磁性体コイル1の比抵抗を確保するにはCu−CuO平衡酸素分圧(Pa)の0.01倍以上であることが好ましい。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、酸素濃度があまり低すぎると、酸素欠陥が必要以上に生成されて磁性体コア1の比抵抗が低下するおそれがあり、酸素をある程度存在させることにより、酸素欠陥の生成が過剰となるのを回避でき、これにより高い比抵抗を確保できるものと考えられる。
【0049】
次に、上記にようにして得られた焼結積層体の底面に、引出し電極7a〜7dを形成する。引出し電極7a〜7dの形成は、例えば、銅の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを所定の領域に塗布し、得られた構造体をCu−CuO平衡酸素分圧以下の雰囲気中で、例えば850〜900℃で熱処理して銅を焼き付けることによって実施し得る。
【0050】
以上のようにして、本実施形態のアンテナコイル10が製造される。アンテナコイル10において、磁性体コア1は、Fe、Mn、Ni、Zn、Cuを含む焼結フェライト材料から成るが、焼結前のフェライト材料と組成が異なり得、例えば、CuO、Fe、Mnは焼成によりそれらの一部がそれぞれCuO、Fe、Mnに変化していることが起り得る。しかし、かかる焼結フェライト材料におけるCuのCuO換算含有量、FeのFe換算含有量、MnのMn換算含有量は、それぞれ、焼結前のフェライト材料におけるCuO含有量、Fe含有量、Mn含有量と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0051】
本実施形態によれば、導体コイル3の配線抵抗を低く維持できると共に、磁性体コア1の低温焼結性が良好で、かつ、磁性体コア1の比抵抗を高く維持することができ、例えば、比抵抗ρをlog ρで7以上の大きさで得ることができる。
【0052】
かかる本実施形態によれば、磁性体コア1と導体コイル3を同時焼成により形成でき、製造が容易で、欠けの発生を低減することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されず、種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態では、磁性体コア1の内部に導体コイル3を配置してアンテナコイルを構成したが、磁性体コアの周囲に導体コイルを配置して構成してもよい。この場合、上述したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料を使用して、磁性体コアに対応する形状に成形し、次いで、その周囲に銅を含む導体ペーストをコイル状に配置して、これらを同時に上記と同様の条件で焼成することによって、アンテナコイルを製造することができる。
【0054】
また、例えば、上記実施形態では、上述したNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料のグリーンシートおよび銅を含む導体ペーストを使用して、アンテナコイルを製造したが、本発明はこれに限定されず、少なくともNi−Mn−Zn−Cu系フェライト材料がCu−CuO平衡酸素分圧以下の酸素分圧で熱処理される限り、Ni−Mn−Zn−Cu系フェライト材料および銅を含む導体は、任意の適切な形態で使用してよい。例えば、銅を含む導体を、導体コイルに対応する形状に配設する方法には、銅(および必要に応じて他の導電性成分、以下も同様)の粉末をガラスなどと一緒にペースト状にしたものを所定のパターンでスクリーン印刷することや、銅をスパッタリング法で成膜し、フォトリソグラフィ法により所定のパターンにエッチングすることや、銅を所定のパターンに選択メッキすることを利用してもよい。選択メッキは、例えばフルアディティブ法(レジストパターン形成、無電解メッキ、およびレジスト剥離による方法)や、セミアディティブ法(無電解メッキによるシード層の成膜、レジストパターン形成、電気メッキ、レジスト剥離、シード層除去による方法)などを利用できる。
【実施例】
【0055】
(実験)
磁性体コアの材料として使用するのに適したフェライト材料を調べるために、以下の実験を行って、種々の組成を有するフェライト材料の耐還元性を評価した。
【0056】
フェライト材料の素原料として、Fe、Mn、ZnO、NiOおよびCuOの各粉末を用意し、フェライト材料の組成が表1〜5に示す割合となるように、これらの粉末を秤量した。なお、表中、試料No.に記号「*」を付して示したものは、フェライト材料組成が本発明の範囲外にあり、試料No.に記号「*」が付されていないものは、フェライト材料組成が本発明の範囲以内にある。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
次いで、各試料について、上記の秤量物を、純水およびPSZ(Partial Stabilized Zirconia; 部分安定化ジルコニア)ボールと共に、塩化ビニル製のポットミルに入れ、湿式で十分に混合粉砕した。粉砕処理物を蒸発乾燥させた後、750℃の温度で2時間仮焼した。これにより得られた仮焼物を、ポリビニルブチラール系バインダ(有機バインダ)、エタノール(有機溶媒)およびPSZボールと共に、再び塩化ビニル製のポットミルに入れ、十分に混合粉砕し、フェライト材料を含むスラリー(セラミックスラリー)を得た。
【0063】
次に、ドクターブレード法を使用して、上記で得たフェライト材料のスラリーを、厚さ25μmのシート状に成形した。得られた成形体を縦50mm、横50mmの大きさに打ち抜いて、フェライト材料のグリーンシートを作製した。
【0064】
(透磁率測定)
上述のようにして作製したフェライト材料のグリーンシートを、厚さが総計で1.0mmとなるように複数枚積層した後、60℃の温度で100MPaの圧力で60秒間圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを、外径20mmおよび内径12mmのリング状に切断してリング状成形体を作製した。
【0065】
上記で得られたリング状成形体を、大気中で400℃に加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HO混合ガスを焼成炉に供給して、焼成炉内の温度および酸素分圧を予め調整した後、このリング状成形体を焼成炉に投入し、温度1000℃および酸素分圧6.7×10−2Pa(1000℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)にて2時間保持して焼成し、これによりリング状試料を得た。
【0066】
そして、各リング状試料について、軟銅線を20ターン巻回し、インピーダンスアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製、E4991A)を使用し、周波数1MHzでのインダクタンスを測定し、その測定値から透磁率μ(−)を求めた。結果を表1〜5に併せて示す。
【0067】
また、表5に示す試料No.301〜309から作製したリング状試料については、振動試料型磁力計(東英工業株式会社製、VSM−5−15型)を使用し、1T(テスラ)の磁界を印加し、飽和磁化の温度依存性を測定し、この飽和磁化の温度依存性からキュリー点Tcを求めた。結果を表5に併せて示す。
【0068】
(比抵抗測定)
別途、銅粉末に、有機溶剤および樹脂から成るビヒクルを加え、一緒に混練することにより銅を含む導体ペースト(以下、「内部導体用銅ペースト」と言う)を用意した。この内部導体用銅ペーストを、上述のようにして作製したフェライト材料のグリーンシートの表面にスクリーン印刷して、導体ペースト層を形成した。ここで、導体ペースト層は、積層コンデンサ40の内部電極33に対応するパターンとした(図4)。
【0069】
次いで、導体ペースト層を所定のパターンで形成したフェライト材料のグリーンシートを所定枚数適切に積層した後、これらを、導体ペースト層の形成されていないフェライト材料のグリーンシートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で圧着し圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを所定のサイズに切断して積層体を作製した。
【0070】
上記で得られた積層体を、銅が酸化しない酸素分圧下で400℃に加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HO混合ガスを焼成炉に供給して、焼成炉内の温度および酸素分圧を予め調整した後、この積層体を焼成炉に投入し、温度1000℃および酸素分圧6.7×10−2Pa(1000℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)にて2〜5時間保持して焼成した、これにより焼結積層体を得た。
【0071】
この焼結積層体を水と共に、遠心バレル機のバレルポットに入れて遠心バレル処理を施して、焼結積層体から内部電極(導体ペースト層)を露出させた。
【0072】
その後、銅粉末、ガラスフリットおよびビヒクルから成る導電ペースト(以下、「外部電極用銅ペースト」と言う)を用意し、この外部電極用銅ペーストを、上記で遠心バレル処理した焼結積層体の両端部(内部電極を露出させた端面)をディップ法により塗布した後、温度900℃および酸素分圧4.3×10−3Pa(900℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)で焼き付けて、外部電極を形成した。これにより、比抵抗測定用試料として、図4に示す積層コンデンサ40を作製した。積層コンデンサ40は、磁性体(焼結フェライト材料)31内に内部電極33が埋設され、外部電極35a、35bに接続されて成る。
【0073】
そして、各比抵抗測定用試料(積層コンデンサ40)について、外部電極35a、35b間に50Vの電圧を30秒間印加したときに流れる電流値を測定して抵抗値を求め、試料形状から比抵抗ρ(Ω・cm)をlog ρで算出した。結果を表1〜5に併せて示す。
【0074】
表1〜5から明らかなように、Fe、Mn、NiO、ZnO、CuOを含むフェライト材料の組成において、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、CuOが5mol%以下である試料では、比抵抗ρが、log ρで7以上の大きさとなり、十分大きな比抵抗が得られた。これに対し、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲外にあるか、または、CuOが5mol%を超える試料では、比抵抗ρが、log ρで7未満となった。
【0075】
また、表1〜5を参照して、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、ZnO含有量を6mol%以上とした試料では、透磁率μが35以上となり、アンテナコイルの磁性体コアとして実用的な大きさの透磁率が得られた。また、Fe含有量およびMn含有量が、図3に示す領域Zの範囲以内にあり、かつ、ZnO含有量を33mol%以下とした試料では、キュリー点が130℃以上となり、十分なアンテナコイル動作温度が得られた。
【0076】
(実施例)
図1〜3を参照して上述した実施形態の製造方法に従って、図1〜2に示すアンテナコイル10を作製した。本実施例においては、以下の条件を適用した。
【0077】
上記実験と同様にして、Fe 42.0mol%、Mn 5.0mol%、ZnO 30.0mol%、CuO 1.0mol%、NiO 22.0mol%の組成を有するフェライト材料のグリーンシートを作製した。なお、ここで使用したフェライト材料は、表2中に示すNo.52の組成に一致するものである。
【0078】
かかるフェライト材料のグリーンシートに、レーザ加工機を使用して、所定の位置にビアを形成した。その後、上記実験で使用したものと同様の内部導体用銅ペーストをビアに充填し、グリーンシートの表面に内部導体用銅ペーストを所定のパターンで印刷し、乾燥させて、導体ペースト層を形成した。
【0079】
次いで、導体ペースト層を所定のパターンで形成したフェライト材料のグリーンシートを所定枚数適切に積層した後、これらを、導体ペースト層の形成されていないフェライト材料のグリーンシートで挟持し、60℃の温度で100MPaの圧力で圧着し、圧着ブロックを作製した。そして、この圧着ブロックを所定のサイズに切断して積層体を作製した。
【0080】
上記で得られた積層体を、銅が酸化しない酸素分圧下で400℃に加熱して十分に脱脂した。そして、N−H−HO混合ガスを焼成炉に供給して、焼成炉内の温度および酸素分圧を予め調整した後、この積層体を焼成炉に投入し、温度1000℃および酸素分圧6.7×10−2Pa(1000℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)にて2時間保持して焼成し、これにより焼結積層体を得た。
【0081】
その後、焼結積層体の底面に、上記実験で使用したものと同様の外部電極用銅ペーストをスクリーン印刷し、温度900℃および酸素分圧4.3×10−3Pa(900℃におけるCu−CuO平衡酸素分圧)で焼き付け、更に、電解めっきによりNi被膜およびSn被膜を順に形成して、引出し電極を形成した。
【0082】
以上により、本実施例のアンテナコイルを作製した。なお、アンテナコイルの外径寸法は、長さ(L)10mm、幅(W)5mm、高さ(H)0.8mmとし、導体コイルのターン数は所定のインダクタンス値(1MHzで約1μH)が取得できるように調整した。
【0083】
(比較例)
一方、比較例として、Fe 47.0mol%、ZnO 30.0mol%、CuO 1.0mol%、NiO 22.0mol%の組成を有するフェライト材料のグリーンシートを使用したこと以外は、上記実施例と同様にしてアンテナコイルを作製した。なお、ここで使用したフェライト材料は、表1中に示すNo.17の組成に一致するものである。
【0084】
(評価)
以上により作製した実施例および比較例のアンテナコイルの通信距離を測定した。具体的には、実施例および比較例のアンテナコイルのそれぞれについてICチップおよびコンデンサ(図示せず)を搭載してRFIDタグ41を構成し、図5に模式的に示すように、リーダ43のアンテナ45に対して、RFIDタグ41(これは、アンテナコイルの寸法に略等しい)を、アンテナコイルのコイル長軸方向の一方の端面が対向するように配置して、リーダ43の信号周波数(共振周波数)を13.1〜13.8MHzの範囲で設定し、RFIDタグ41をコイル長軸方向に動かして、RFIDタグ41とアンテナ45との間の距離Lを変化させて、対向方向に通信可能な最大距離(対向通信距離)を測定した。実施例のアンテナコイルについての結果を図6に示す。
【0085】
図6から理解されるように、実施例のアンテナコイルでは、共振周波数13.5MHzの場合、距離L=128mmでも通信可能であった。これに対し、比較例のアンテナコイルでは、距離Lをどれだけ近づけても通信できなかった。これは、比較例のアンテナコイルでは、磁性体コアの比抵抗が低く、アンテナコイルでの損失が大きくなったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の製造方法によって得られるコモンモードチョークコイルは、差動伝送方式による高速データ通信など、コモンモードノイズの低減および除去が要求される様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0087】
1 磁性体コア
1a〜1e・・・1n、1x、1y 磁性体層
3 導体コイル
3a〜3e・・・3n 導体パターン層
5a〜5e ビア
7a〜7d 引出し電極
10 アンテナコイル
31 磁性体
33 内部電極
35a、35b 外部電極
40 積層コンデンサ(磁性体の比抵抗測定用)
41 RFIDタグ
43 リーダ
45 アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6