(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、アクリル酸を必須構成成分とするアクリル酸系重合体の連続製造方法において、送液ポンプにより反応器の出口液に0.5〜2.5kJ/Lの機械的負荷を付与することを特徴とする、分子量分布が狭く分散性等にも優れる低分子量のアクリル酸系重合体の製造方法に関する。
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を、(メタ)アクリル酸と表す。
【0014】
本発明によるアクリル酸系重合体の連続製造方法では、1基又は直列に設置した2基以上の反応器が使用される。反応器の形状及び種類等について特に限定はなく、槽型反応器及び管型反応器等の公知の反応器を使用することができるが、反応器に投入された単量体等の原料の偏在が少ない点で槽型反応器が好ましい。
ここで、反応器を1基のみ用いる場合の当該反応器、並びに直列に設置した2基以上の反応器を使用する場合の最初の反応器を「第1反応器」と称する。また、第1反応器の下流に引き続き反応器が設置されている場合はこれを「第2反応器」と称し、以降についても同様とする。反応器の数は、生産能力、設置場所及びコスト等を考慮して適宜設定される。
【0015】
槽型反応器としては、反応生成液の取り出しが可能であることを除けば、バッチ式の重合において通常使用されている反応器が使用できる。また、攪拌機および温調用の装置を有するものが好ましい。前記温調用の装置としては、ジャケット、内部コイル及び外部熱交等の公知の装置を適用することができる。
【0016】
本発明では、送液ポンプにより反応器の出口液に0.5〜2.5kJ/Lの機械的負荷が付与される。当該機械的負荷とは、送液ポンプの(軸動力/吐出量)より算出される「単位体積当りの機械的負荷」を示す。
通常、重合反応により得られたアクリル酸系重合体には、分散剤等の用途には好適でない高分子量成分が少量含まれる。この高分子量成分の生成を抑制するには連鎖移動剤の使用が効果的であるが、多量の連鎖移動剤を使用した場合には分散性等の性能に悪影響を及ぼすため、使用量が制限される。本発明では、アクリル酸系重合体に適度な機械的負荷を掛けることにより、分子量の大きな高分子鎖が切断される。その結果得られたアクリル酸系重合体は、高分子量成分の含有率が少ないものとなるため、分散剤等の各種用途に好適に用いることが可能となる。
【0017】
上記の通り、反応器の出口液には送液ポンプによって0.5〜2.5kJ/Lの機械的負荷が付与されることが必要であり、0.7〜2.0kJ/Lの範囲が好ましく、0.9〜1.8kJ/Lの範囲が特に好ましい。0.5kJ/L未満では高分子量成分の切断効果が不十分となり、分散性等の性能が不足する場合がある。また、2.5kJ/Lを超えると機械的負荷が強すぎるために高分子鎖が過剰に切断され、適正な分子量の目的物を得難くなる。
【0018】
送液ポンプは上記の機械的負荷を付与することができるものであれば特に制限はなく、非容積型のターボポンプ、容積型ポンプ及びその他特殊ポンプ等が使用可能であるが、適切な負荷を掛けやすい点および送液安定性等の点から容積型ポンプが好ましい。容積型ポンプとしてはピストンポンプ、プランジャーポンプ及びダイヤフラムポンプ等の往復ポンプ、並びにギヤポンプ、ベーンポンプ及びねじポンプ等の回転式ポンプ等が挙げられ、中でも適切な負荷を掛けやすい点で回転式ポンプが好ましい。
【0019】
送液ポンプとして上記容積型回転式ポンプを使用する場合、ポンプの容量及び型式等にもよるが、100〜450rpmの範囲の回転数で使用するのが好ましく、130〜400rpmの範囲がさらに好ましく、160〜350rpmの範囲が特に好ましい。100rpm未満の場合、高分子量成分の切断効果が不十分となり、分散性等の性能が不足する場合がある。また、450rpmを超えると機械的負荷が強すぎるために高分子鎖が過剰に切断され、適正な分子量体の目的物を得難くなる。
【0020】
本発明では、第1反応器から排出される出口液は、上記送液ポンプにより第2反応器または製品貯槽等の次工程へ移液されるが、その一部を循環液として第1反応器に返送しても良い。この場合、以下の式により算出される平均循環数が1〜10であることが好ましく、1.5〜6であることがより好ましい。
(平均循環数)=(第1反応器の平均滞留時間)×(上記送液ポンプを経て第1反応器へ循環される流量)/(第1反応器の液量)
上記の式から明らかな通り、平均循環数は反応液が第1反応器に滞留している間に上記送液ポンプによって機械的負荷を受ける平均回数に相当する。平均循環数が1未満では高分子量成分の切断効果が不十分となり、分散性等の性能が不足する場合がある。一方、10を超える場合は高分子鎖が過剰に切断され、適正な分子量の目的物を得難くなる。
【0021】
上記送液ポンプは第1反応器から貯槽タンク等の最終製品の充填または保管工程に至るまでの1箇所又は2箇所以上に設置されていれば良い。第1反応器において反応液を循環させながら効果的に機械的負荷を付与することができる点から、第1反応器の出口に設置することが好ましい。
【0022】
アクリル酸系重合体を構成する単量体としては、少なくともアクリル酸を含む単量体であれば良い。従って、上記単量体は、全量をアクリル酸としてもよく、単量体の一部にアクリル酸を含むものでもよい。
アクリル酸以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう)としては、アクリル酸と共重合可能な単量体であれば、特に限定されない。具体的には、ラジカル重合性を有するビニル系単量体(重合性不飽和化合物)が挙げられる。上記ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸以外のエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和カルボン酸の中和塩、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物、酸無水物、アミノ基含有ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物、スルホン酸基含有ビニル化合物、ポリオキシアルキレン基含有ビニル化合物、アルコキシル基含有ビニル化合物、シアノ基含有ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物、共役ジエン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらのうち、得られる分散剤の物性(分散安定性、着色抑制等)の面から(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、及び、ポリオキシアルキレン基含有ビニル化合物が好ましい。
【0023】
上記アクリル酸以外のエチレン性不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水フタル酸をアルキルアルコールでハーフエステル化したもの、及び、無水イタコン酸をアルキルアルコールでハーフエステル化したもの等が挙げられる。
【0024】
上記エチレン性不飽和カルボン酸の中和塩としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びクロトン酸等のカルボキシル基が中和されたエチレン性不飽和カルボン酸塩が挙げられる。また、このエチレン性不飽和カルボン酸塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及び、有機アミン塩等が挙げられる。
【0025】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0026】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ハロゲン化スチレン、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0027】
上記酸無水物単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0028】
上記アミノ基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。
【0029】
上記アミド基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0030】
上記スルホン酸基含有ビニル化合物としては、メタリルスルホン酸、アクリルアミド−2−メチル−2−プロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
上記ポリオキシアルキレン基含有ビニル化合物としては、ポリオキシエチレン基、及び/または、ポリオキシプロピレン基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0032】
上記アルコキシル基含有ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(n−ブトキシ)プロピル等が挙げられる。
【0033】
上記シアノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1−シアノエチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸1−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3−シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4−シアノブチル、(メタ)アクリル酸6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチル−6−シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8−シアノオクチル等が挙げられる。
【0034】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。
【0035】
上記ビニルエーテル化合物としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
ビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0036】
上記共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。
【0037】
その他、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系化合物;マレイン酸エステル化合物;イタコン酸エステル化合物;ビニルピリジン等のN−ビニル複素環化合物等が挙げられる。
【0038】
これらの他の単量体のうち、好ましくは、無水マレイン酸、アクリルアミド−2−メチル−2−プロパンスルホン酸等である。これらの単量体をアクリル酸と併用することにより、例えば顔料分散剤に使用した際には顔料への吸着と溶媒への親和性に優れ、分散性を向上させることができる。
【0039】
上記アクリル酸系重合体の重合において、単量体がアクリル酸以外の他の単量体を含む場合、アクリル酸の含有量は、上記単量体全量100質量%に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%である。本発明では、特に好ましくは100質量%として単量体全量をアクリル酸とする場合である。アクリル酸の含有量が80質量%以上であると、得られる分散剤の水への溶解度を十分なものにすることができる。
【0040】
アクリル酸系重合体の重合方法は特に制限されないが、水溶液重合法が好ましい。水溶液重合によれば、均一な溶液として分散剤を得ることができる。
水溶液重合の際の重合溶媒には、水または水及び有機溶剤の混合液を使用することができる。水及び有機溶剤の混合液を使用する際の好ましい有機溶剤としては、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類が挙げられ、特に好ましくはイソプロピルアルコールである。
【0041】
又、重合反応では公知の重合開始剤を使用出来るが、特にラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
ラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、過酸化水素等の水溶性過酸化物、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド等の油溶性の過酸化物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾ化合物等が挙げられる。
上記した過酸化物系のラジカル重合開始剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
上記した過酸化物系のラジカル重合開始剤の中でも、重合反応の制御が行い易い点より過硫酸塩類やアゾ化合物が好ましく、特に好ましくは過硫酸塩類である。
上記ラジカル重合開始剤は、例えば水性媒体等に希釈して、前記単量体とは別の供給口から反応器に供給する。
ラジカル重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、アクリル酸系重合体を構成する全単量体の合計重量に基づいて、0.1〜15重量%、特に0.5〜10重量%の割合で使用することが好ましい。この割合を0.1重量%以上にすることにより(共)重合率を向上させることができ、15重量%以下とすることにより、得られる重合体の安定性を向上させ、分散剤等に使用した際に性能に優れたものとなる。
又、場合によっては、重合開始剤として水溶性レドックス系重合開始剤を使用して製造してもよい。レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(例えば上記した過酸化物)と、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム等の還元剤や、鉄明礬、カリ明礬等の組合せを挙げることができる。
【0042】
アクリル酸系重合体の製造において、分子量を調整するために、連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−プロパンチオール、2−メルカプトエタノール、チオフェノール及びイソプロピルアルコール等が挙げられる。
上記した連鎖移動剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用しても良い。
上記した連鎖移動剤の中でも、分子量の制御が行い易い点から次亜リン酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウムおよびイソプロピルアルコールが好ましく、特に好ましくは次亜リン酸ナトリウムである。
上記連鎖移動剤は、前記単量体または重合開始剤と別の供給口から反応器に供給してもよいが、反応器に供給する直前に単量体と混合しても良い。その好ましい使用量は、単量体の量(モル数)に対して0.3〜50モル%であり、さらに好ましくは1.0〜25モル%である。
【0043】
第1反応器における重合反応の際の重合温度については特に制限されないが、60〜100℃で行うのが好ましい。
重合温度を60℃以上にすることで、重合反応が速く生産性に優れるものとなり、100℃以下とすることで、製品の着色を少なくすることができる。
又、反応は、加圧又は減圧下で行うことも可能であるが、加圧あるいは減圧反応用の設備にするためのコストが必要になるので、常圧で行うことが好ましい。
【0044】
単量体は水溶液として反応器に供給することが好ましく、単量体の水溶液濃度としては30〜60質量%が好ましい。単量体の供給速度としては、生産効率および得られる重合体の品質のバランスから、第1反応器に単量体が1〜4時間程度滞留するような供給速度が好ましい。
また、本発明においては、直列に設置した2基以上の反応器を使う場合、第1反応器において重合反応の90%以上を行うことが分子量分布の狭い重合体が得られる点で好ましく、そのためには用いる単量体の大半を第1反応器に供給することが好ましい。具体的には、用いる単量体の90%以上を第1反応器に供給することが好ましく、さらに好ましくは95%以上を第1反応器に供給することが好ましい。全単量体を第1反応器に供給しない場合、当然のことながら残余の単量体は第2反応器以降の反応器に供給する。なお、第2反応器以降の反応温度としては、20〜100℃が好ましく、さらに好ましくは30〜90℃である。
【0045】
重合反応中の反応液、並びに、最終製品として得られたアクリル酸系重合体溶液のpHを調整する目的で、アルカリ剤(中和剤)が用いられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
本発明におけるアクリル酸系重合体の重量平均分子量(Mw)は1500〜30000の範囲であることが好ましく、2500〜20000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が1500未満ではアクリル酸系重合体を分散剤等に用いた際に分散安定性が不十分となる場合があり、30000を超えると分散に不適当な分子量100000以上の重合体の割合が増加するために分散性が不足する場合がある。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリアクリル酸ナトリウム等の標準物質を用いて測定することができる。
【0047】
アクリル酸系重合体は、GPCにより測定される分子量100000以上の重合体が占める割合が、全重合体のうちの0.1質量%以下であること
を要する。本発明では、上記の通り、送液ポンプにより反応器の出口液に0.5〜2.5kJ/Lの機械的負荷を付与することにより当該分子量100000以上の重合体が占める割合を0.1質量%以下に低減することができる。これは、アクリル酸系重合体を含む水溶液に上記機械的負荷を付与した場合に分子量の高いポリマー鎖が切断されるためと推定される。
【0048】
上述の通り、無機顔料等の分散剤、洗剤ビルダー及び無機物析出抑制剤等の用途に用いられるアクリル酸系重合体は、重量平均分子量1000〜30000程度の低分子量のアクリル酸系重合体が好ましく、また、その分子量分布はできるだけ狭いものであることが好ましい。
一方、分子量100000以上の分子量の高い重合体は、系の粘度を高めるのみならず、複数の分散質表面に吸着等することにより分散質粒子間を橋架けする場合があるため、分散にとって不適当な成分である。従って、上記のような高分子量成分はできる限り少ない方が好ましい。
【0049】
上記高分子量成分は連鎖移動剤の使用によっても低減することができるが、多量の連鎖移動剤を用いることが必要であり、結果として分散性の悪化およびコストアップに繋がる。本発明による送液ポンプにて適切な機械的負荷を付与して高分子量成分のポリマー鎖を切断する方法は、多量の連鎖移動剤を必要としないために有用な方法である。
【0050】
本願発明によるアクリル酸系重合体は、分子量100000以上の分子量の高い重合体成分の含有量が少ないため、顔料分散剤、洗剤、無機物析出抑制剤等の用途において、優れた性能を発揮する。顔料分散剤としては各種顔料についての水系分散液を得るための分散剤として使用可能であるが、その中でも炭酸カルシウム等の無機顔料分散液を得るための分散剤として有用である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
また、各例において得られた重合体等の固形分濃度は、以下に記載の方法により測定した。
【0052】
<固形分>
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、30分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0053】
実施例1
図1に示すように、攪拌機を備えた槽型反応器を3基用意し、第1反応器、第2反応器、第3反応器の順に直列に配置し、原料組成物から反応生成物への流れはこの順になるように行った。各反応器には予め重量平均分子量6000、固形分40%のポリアクリル酸水溶液を2000L投入し、攪拌しながら液温を80℃に保持した。
第1反応器へ、60%アクリル酸水溶液を20kg/分、15%過硫酸ナトリウム水溶液を1.2kg/分、30%次亜リン酸ナトリウム水溶液を3.0kg/分で供給した。また、第1反応器から第2反応器への送液には容積型回転式ポンプを使用した。このポンプの吐出量は56L/分(反応液の比重1.1より61.6kg/分)、軸動力は1.3kW、機械的負荷は1.4kJ/L、歯車の回転数は240rpmであった。また、第1反応器には第2反応器への送液配管から分岐して第1反応器へ戻る循環ラインを設置した。
吐出液のうち、第2反応器へ24.2kg/分だけを供給し、残りの37.4kg/分の液は送液ポンプから循環ラインを経て第1反応器へ供給することにより、第1反応器の液量を2000Lに保持した。上記条件より計算される第1反応器における平均滞留時間は91分、平均循環数は1.5であった。
第2反応器では第1反応器と同温度を維持し、重合反応を継続した。また、第2反応器に供給される液と同量の24.2kg/分を第3反応器へ送液することにより反応器内の液量を2000Lに保った。
第3反応器では48%水酸化ナトリウム水溶液及び水を供給することにより、反応液のpHを7〜8、固形分を40%に調整し、反応器の液量を2000Lに保つように系外への排出を行った。
なお、第2及び第3反応器からの反応液の排出は、送液ポンプを用いることなく、自重により行った。
【0054】
この運転を20時間継続した時点で、第3反応器から排出される液を採取し、固形分40%、pH7.5のアクリル酸系重合体水溶液E1を得た。
E1の重量平均分子量(Mw)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。GPCの測定条件は、HLC8020システム(東ソー社製)を使用し、検出はRIで行い、カラムはG4000PW×1、G3000PW×1、G2500PW×1を連結して使用した。溶離液は0.1MNaCl+リン酸バッファー(pH7)とし、検量線はポリアクリル酸ナトリウム(創和科学社製)を用いて作成した。測定の結果、E1のMwは6000、分子量分画計算にて求めた分子量100000以上の含有量は0.004%であった。
【0055】
<重質炭酸カルシウムの湿式粉砕試験>
E1を7g、イオン交換水340g及び重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名「No.A重炭」)1000gを円筒型容器へ投入し、軽く撹拌して均一になじませた。次いで、メディア(1mmφセラミックビーズ)2700gを上記円筒型容器に投入し、1000rpmで50分間攪拌することにより湿式粉砕を行った。150メッシュの濾布を通してスラリーを回収し、イオン交換水を添加して固形分を75%に調整した。このスラリーの湿式粉砕当日の粘度、及び25℃で7日間静置した後の粘度を、B型粘度計を用いて、25℃、60rpmの条件で測定した。湿式粉砕当日のスラリー粘度は160mPa・s、7日後の粘度は1400mPa・sであった。また、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA−910(堀場製作所社製)を用いてこのスラリーの1.32μmアンダー積算値を測定した結果、90%の値が得られた。
【0056】
<軽質炭酸カルシウムの分散試験>
E1を10g、イオン交換水230g、軽質炭酸カルシウムの粉末770gを円筒型容器に投入し、4000rpmで10分間攪拌することにより分散スラリーを得た。このスラリーの分散直後の粘度、及び25℃で7日間静置した後の粘度を、B型粘度計を用いて、25℃、60rpmの条件で測定した。分散直後のスラリー粘度は300mPa・s、7日後の粘度は1200mPa・sであった。
【0057】
<泥土の分散−1>
大阪市内で採取した沖積粘性土からなる比重1.16、粘度940mPa・s、pH7.0に調整した泥水200gへE1を1.5g添加し、5分間攪拌した。攪拌直後の粘度をB型粘度計を用いて25℃、60rpmの条件で測定した結果、30mPa・sであった。
【0058】
<泥土の分散−2>
クレイ(三菱商事社、商品名「アマゾン88ノンプレディスパース」)1g、イオン交換水100g、及び13mgのE1を100mlメスシリンダーへ加え、マグネティックスターラーで10分間攪拌した。25℃で18時間静置した後、上澄み液を採取し380nmの吸光度を測定した。E1を用いた上澄み液の吸光度は1.2であった。
【0059】
<カルシウムイオン補足能試験>
200mgCa/Lの塩化カルシウム溶液100mL、及び4M塩化カリウム溶液1mLに対し、E1を200mg−solidとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH5に調整した。30℃で10分間放置した後、カルシウムイオンメーター(株式会社堀場製作所製、D−53及びカルシウムイオン電極6583−10C)で溶液に残存するカルシウムイオン濃度を測定し、補足されたカルシウムイオンを算出した。E1に捕捉されたカルシウムイオンは420mgCaCO
3/gであった。
【0060】
<炭酸カルシウムスケール抑制試験>
50mgCa/Lの塩化カルシウム溶液100mLに対し、E1を200mg−solidとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH8.5に調整した。3%炭酸水素ナトリウム溶液を10g加え、70℃で3時間放置した。析出分を濾別し、濾液中のカルシウム濃度をEDTA滴定により求め、スケール抑制率を算出した。E1の炭酸カルシウムスケール抑制率は75%であった。
【0061】
<洗浄力試験>
ドデシルベンゼンスルホン酸20%、珪酸ナトリウム10%、無水炭酸ナトリウム10%、無水硫酸ナトリウム40%及びE1を20%からなる洗剤組成物を調整した。攪拌式洗濯試験機へ名古屋市水1L及び洗剤組成物1gを添加し、10cm×10cmの人口汚染布(洗濯科学協会製)5枚を投入した。25℃で5分間洗浄後、5分間すすぎを行った。布を乾燥させた後、表面反射率計により布の表面反射率を測定し、以下の式より洗浄率を算出したところ、洗浄率55%の値が得られた。
洗浄率(%)=(R
W−R
S)/(R
0−R
S)×100
ここで、
R
W:洗浄後の人口汚染布の表面反射率
R
S:人口汚染布の表面反射率
R
0:汚染前の白布の表面反射率
【0062】
実施例2〜8
原料供給量やポンプ送液条件をはじめとする運転条件を表1の通りとする以外は実施例1と同様の操作によりアクリル酸系重合体水溶液E2〜E8を得た。得られた各重合体の物性値および評価結果についても表1に記載した。
【0063】
実施例9〜16
原料供給量やポンプ送液条件をはじめとする運転条件を表2の通りとする以外は実施例1と同様の操作によりアクリル酸系重合体水溶液E9〜E16を得た。得られた各重合体の物性値および評価結果についても表2に記載した。
【0064】
実施例17〜19
原料供給量やポンプ送液条件をはじめとする運転条件を表3の通りとする以外は実施例1と同様の操作によりアクリル酸系重合体水溶液E17〜E19を得た。得られた各重合体の物性値および評価結果についても表3に記載した。
【0065】
比較例1及び2
原料供給量やポンプ送液条件をはじめとする運転条件を表4の通りとする以外は実施例1と同様の操作によりアクリル酸系重合体水溶液C1及びC2を得た。得られた各重合体の物性値および評価結果についても表4に記載した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表1及び表2で用いた化合物の詳細を以下に示す。
AA:アクリル酸
NPS:過硫酸ナトリウム
NHP:次亜リン酸ナトリウム
【0071】
実施例1〜19において示されたアクリル酸系重合体E1〜E19は、いずれも好適な重量平均分子量(Mw)を有し、かつ分子量100000以上の重合体の含有量が十分抑制されている。また、これらのアクリル酸系重合体を含む分散剤、洗剤、無機物析出抑制剤は、良好な性能を発揮することが示された。さらに、上記分散剤を用いて得られた顔料分散液は、7日間の静置試験後においても粘度上昇が小さく、流動性に優れるものであった。
【0072】
これに対して、反応液に付与された機械的負荷が低い比較例1では、高分子量成分の切断効果が不十分なために高分子量体の含有率が高い結果となった。一方、機械的負荷が高すぎた比較例2では過剰な切断により得られた重合体のMwが低いものとなった。
さらに、これら比較例で得られたアクリル酸系重合体C1及びC2は、各種実用性能評価においても十分な性能を示さなかった。