特許第5794313号(P5794313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794313
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】フェライト粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20150928BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20150928BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20150928BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C01G49/00 C
   C04B35/26 F
   C04B35/26 A
   H01F1/11 A
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-549444(P2013-549444)
(86)(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公表番号】特表2014-524873(P2014-524873A)
(43)【公表日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2012002102
(87)【国際公開番号】WO2013021521
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2014年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-174032(P2011-174032)
(32)【優先日】2011年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕治
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 正史
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−133119(JP,A)
【文献】 特開平01−294539(JP,A)
【文献】 特開2000−311809(JP,A)
【文献】 特開2007−031204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00−49/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一金属元素(A)、第二金属元素(M)、鉄(Fe)および酸素(O)により AMFe1627 で表される化合物からなるW型フェライト相を有し、
該W型フェライト相が磁化容易軸方向へ積層した状態を呈する積層状組織を備えることを特徴とするフェライト粒子。
【請求項2】
前記積層状組織は、少なくとも破断面において観察される破断面組織である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
さらに、MFeで表される化合物からなるスピネル型フェライト相(以下「S型フェライト相」という。)を含み、前記W型フェライト相と該S型フェライト相が混在したWS混相組織を有する請求項1または2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
前記WS混相組織は、Cu管球をX線源としたX線の回折パターン(2θ=20°〜70°)に基づき算出したピーク強度比により定まるS型フェライト相の存在割合であるS型フェライト率が6%以下である請求項3に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
さらに、AFe1219で表される化合物からなるM型フェライト相を含み、前記W型フェライト相と該M型フェライト相が混在したWM混相組織を有する請求項1または2に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
前記WM混相組織は、Cu管球をX線源としたX線の回折パターン(2θ=20°〜70°)に基づき算出したピーク強度比により定まるM型フェライト相の存在割合であるM型フェライト率が20%以下である請求項5に記載のフェライト粒子。
【請求項7】
前記第一金属元素は、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)または鉛(Pb)のいずれか一種以上であり、
前記第二金属元素は、Fe、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(CO)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)またはリチウム(Li)のいずれか一種以上である請求項1〜6のいずれかに記載のフェライト粒子。
【請求項8】
AFe1219で表される化合物からなるM型フェライト粒子とMFeで表される化合物からなるスピネル型フェライト粒子(以下「S型フェライト粒子」という。)とからなる混合粉末を、磁場中で成形した成形体を得る成形工程と、
該成形体を焼成させた焼成体を得る焼成工程と、
該焼成体を粉砕する粉砕工程と、
を備えることを特徴とするフェライト粒子の製造方法。
【請求項9】
前記混合粉末は、AFe1219のモル数に対するMFeのモル数の比であるS型フェライト配合比が2以下である請求項8に記載のフェライト粒子の製造方法。
【請求項10】
前記S型フェライト配合比は、1.4〜1.8である請求項9に記載のフェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主相であるW型フェライト相が高配向した高磁気特性を発現し得るフェライト粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、比較的安価なフェライト(鉄系酸化物)を用いた磁石(フェライト磁石)が、種々の分野で多様な製品に利用されている。そして、最近では、資源的な観点からも、希土類磁石のようにレアメタルを必要としないフェライト磁石が注目されている。
【0003】
磁性材料としてのフェライトは、酸化鉄(Fe)を主成分とするセラミックスの総称であるが、ソフト磁石に用いられるスピネル型フェライト(以下「S型フェライト」という。)等の立方晶系と、ハード磁石(永久磁石)に用いられるM型フェライト等の六方晶系とに大別される。このうち、特に注目されているのはハード磁石となる後者の六方晶系フェライトである。
【0004】
六方晶系フェライトは、AO−M2+O−Fe (A:Ba、Sr等/M:Zn、Cu等)からなり、具体的な金属元素の組合わせにより、M型、W型、X型,Y型,Z型など複数のタイプが存在し得る。もっとも、永久磁石材料として現実に着目されているのは、M型フェライトとW型フェライトのみである。さらに現在利用されているほとんどのフェライト磁石は、SrO・6Fe やBaO・6Fe 等のM型フェライトである。逆に、W型フェライトはほとんど実用化されていない。
【0005】
しかし、W型フェライトはM型フェライトよりも飽和磁化が高い。このためW型フェライトを巧く用いることができれば、従来よりも高磁気特性のフェライト永久磁石が得られる。そこでW型フェライトやそれを用いた磁石に関する提案が種々されており、これらに関連する記載が例えば下記のような特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−501893(WO97/35815)号公報
【特許文献2】WO2005/056493号公報
【特許文献3】特開2005−1950号公報
【特許文献4】特開2006−135238号公報
【特許文献5】特開2007−31204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このうち、特に特許文献3および特許文献4には、リチウム(Li)を含むS型フェライト粉末とM型フェライト粉末との混合粉を成形、焼結(焼成)、粉砕することにより、W型フェライトを含む磁性粉末が得られる旨が記載されている。しかし、そのような方法により得られる粒子中のW型フェライト相は、結晶が等方的であり、磁化容易軸(c軸)方向の結晶配向性(または結晶磁気異方性)が小さい。従って、特許文献3または特許文献4に記載されているような磁性粉末を用いても、高磁気特性のフェライト磁石を得ることは困難と考えられる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、W型フェライト相を主相とした高磁気特性のフェライト粒子と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、S型フェライト粉末とM型フェライト粉末の混合粉末を磁場中で成形した成形体を、焼成、粉砕することにより、W型フェライト相が高度に配向した安定的なフェライト粒子が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《フェライト粒子》
(1)本発明のフェライト粒子は、第一金属元素(A)、第二金属元素(M)、鉄(Fe)および酸素(O)により AMFe1627 で表される化合物(W型フェライト)からなるW型フェライト相を有し、該W型フェライト相が磁化容易軸方向へ積層した状態を呈する積層状組織を備えることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明のフェライト粒子は、先ず、W型フェライト相から主になるため、従来のM型フェライト粒子よりも高い飽和磁化を有する。そして、このW型フェライト相が磁化容易軸(c軸)方向に積層されたような状態となることにより、本発明のフェライト粒子は高い結晶磁気異方性(結晶配向性)も発現すると考えられる。従って、高飽和磁化であると共に高配向度(高磁気異方化度)である本発明のフェライト粒子を用いれば、従来よりも格段に高磁気特性に優れたフェライト永久磁石が得られる。
【0012】
(3)ちなみに本発明は、当然、フェライト粒子に留まらず、その集合体であるフェライト(磁性)粉末等としても把握される。
【0013】
《フェライト粒子の製造方法》
上述した本発明のフェライト粒子は、その製造方法を問わないが、例えば、次のような本発明の製造方法により得られる。
【0014】
(1)すなわち本発明のフェライト粒子の製造方法は、AFe1219で表される化合物からなるM型フェライト粒子とMFeで表される化合物からなるスピネル型フェライト粒子(以下「S型フェライト粒子」という。)とからなる混合粉末を、磁場中で成形した成形体を得る成形工程と、該成形体を焼成させた焼成体を得る焼成工程と、該焼成体を粉砕する粉砕工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
(2)本発明の製造方法では、従来の製造方法と異なり、M型フェライト粒子とS型フェライト粒子から混合粉末を用いると共に、この混合粉末を磁場中成形している。これにより得られた成形体を焼成(仮焼)、粉砕(解砕、破砕等を含む)すると、前述したような高飽和磁化および高配向度(高磁気異方化度)のフェライト粒子が効率的に安定して得られる。
【0016】
またM型フェライト粒子もS型フェライト粒子も、市販されており安価に入手可能である。従って本発明の製造方法によれば、高飽和磁化および高配向度のフェライト粒子を安価にかつ容易に製造できる。
【0017】
もっとも本発明の製造方法により、優れたフェライト粒子(さらには粉末)が得られる理由は必ずしも定かではない。現状では次のように考えられる。先ず、W型フェライト(AMFe1627/AO・2MO・8Fe)は、M型フェライト(AFe1219/AO・6Fe)よりも、S型フェライト(MFe/MO・Fe)を多く含むような結晶構造をとる。このためW型フェライトは、従来、単相として生成され難く、S型フェライトとの混相状態として生成されることが多かった。またSrO、ZnO、Fe などを素原料としてW型フェライトを合成する場合、等方的なフェライト粒子しか得られないことが多かった。
【0018】
ところが本発明の製造方法のように、M型フェライト粒子とS型フェライト粒子から混合粉末を磁場中成形すると、配向したM型フェライト粒子の周囲にS型フェライト粒子が存在する成形体が得られる。この成形体を適切な温度で加熱(焼成)すると、M型フェライト粒子の磁化容易軸の配向が維持されたまま、M型フェライト粒子とS型フェライト粒子が反応(固相反応、二段反応等)してW型フェライト相が合成される。
【0019】
この合成時、M型フェライト粒子は消滅または形骸化するが、M型フェライト粒子が合成前から予め配向していたことによって、W型フェライト相の配向(磁化容易軸方向への積層)が助長または誘導されたと考えられる。その結果、非常に薄いW型フェライト相(例えば厚みが数十〜数百nmのW型フェライト層)が磁場中成形の配向方向(M型フェライト粒子の磁化容易軸方向)へ積層したような組織からなるフェライト粒子が得られたと考えられる。
【0020】
ちなみにこの際、M型フェライト粒子とS型フェライト粒子の配合比を適切に調整すれば、W型フェライト単相のフェライト粒子も、W型フェライト相とS型フェライト相が混相した組織(WS混相組織)からなるフェライト粒子も、W型フェライト相とM型フェライト相が混相した組織(WM混相組織)からなるフェライト粒子も得ることが可能である。
【0021】
《その他》
(1)本発明のフェライト粒子は、その特性改善に有効な元素である「改質元素」を適宜含み得る。改善される特性や改質元素の種類は問わないが、通常その含有量は微量である。このような改質元素または改質化合物として、例えば、SiO(粒成長抑制剤)、CaO(焼結促進剤)、Al、CrなどのFeと置換し易い元素を含むものがある。
【0022】
また本発明のフェライト粒子が、原料粉末中に含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであってコスト的または技術的な理由等により除去困難な不可避不純物を含み得ることはいうまでもない。
【0023】
(2)特に断らない限り本明細書でいう数値範囲「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】試料No.1に係るフェライト粒子のSEM写真である。
図1B図1AのSEM写真のL部を拡大した写真である。
図2】試料No.C1に係るフェライト粒子のSEM写真である。
図3A】試料No.1に係るフェライト粒子のX線回折パターンである。
図3B】試料No.C1に係るフェライト粒子のX線回折パターンである。
図3C】試料No.1に係る焼成前の粒子のX線回折パターンである。
図4】試料No.1〜5に係るフェライト粒子のX線回折パターンを対比した図である。
図5】S型フェライト配合比とフェライト粒子中における各フェライト相の割合との相関を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で説明する内容は、本発明のフェライト粒子(フェライト粉末を含む)のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。そして上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0026】
《フェライト粒子》
(1)組織
本発明のフェライト粒子は、W型フェライト相が主相であれば、W型フェライト単相である必要はない。スピネル型フェライト相(S型フェライト相)やM型フェライト相が共存することにより、フェライト粒子の磁気特性の調整や製造コスト低減等を図り得る。従って本発明のフェライト粒子は、前述したように、W型フェライト相とS型フェライト相が混在したWS混相組織を有するものでも、W型フェライト相とM型フェライト相が混在したWM混相組織を有するものでもよい。
【0027】
もっとも、本発明のフェライト粒子をハード磁石材料として考えると、その結晶配向度や保磁力を向上させるため、一般的なソフト磁石材料であるS型フェライトの含有率は少ないほど好ましい。例えば、前記WS混相組織は、Cu管球をX線源としたX線の回折パターン(2θ=20°〜70°)に基づき算出したピーク強度比により定まるS型フェライト相の存在割合であるS型フェライト率が、6%以下、5%以下、3%以下さらには1%以下であると好ましい。なお、ピーク強度比の詳細は後述する。
【0028】
またM型フェライトはハード磁石材料として一般的に使用されるが、W型フェライトよりも飽和磁化が小さい。このため、やはり、本発明のフェライト粒子中の含有率は少ないほど好ましい。例えば、前記WM混相組織は、Cu管球をX線源としたX線の回折パターン(2θ=20°〜70°)に基づき算出したピーク強度比により定まるM型フェライト相の存在割合であるM型フェライト率が、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、3%以下さらには1%以下であると好ましい。
【0029】
本発明のフェライト粒子は、層状のW型フェライト相が磁化容易軸(c軸)方向に積層されたような積層状組織を有する。この積層状組織は、その積層方向に直交する方向からフェライト粒子を観察した場合に、フェライト粒子の外観全面で観察されても、フェライト粒子の内部で観察されてもよい。例えば、フェライト粒子がW型フェライト単相なら、その外観面に積層状組織が出現し得る。しかし、W型フェライト相の合成原料にM型フェライト粒子やS型フェライト粒子を用いた場合、外表面に残存した(形骸化した)M型フェライト粒子やS型フェライト粒子による外観面が観察される場合もあり得る。従って、本発明のフェライト粒子の積層状組織は、少なくとも破断面(c軸を含む面)において観察される破断面組織であればよい。
【0030】
(2)結晶構造
W型フェライト相が磁化容易軸方向に積層したような積層状組織は、本発明のフェライト粒子をX線解析(XRD)した次のような結果からもわかる。すなわち、Cu管球をX線源として本発明のフェライト粒子を測定すると、W型フェライト相に関して、半値全幅2θ=20〜70°の範囲で(00L)面の回折線が規則正しく観測されるX線回折パターンが得られる。また、(116)面の回折線強度に対して(0010)面の回折線強度が強く現れる。
【0031】
(3)組成
本発明のフェライト粒子の主相を構成するW型フェライトは、AMFe1627 で表される化合物から基本的になり、その原料となり得るS型フェライトやM型フェライトは、それぞれ、MFeで表される化合物やAFe1219で表される化合物から基本的になる。
【0032】
ここで第一金属元素(A)および第二金属元素(M)は、六方晶フェライトまたは立方晶フェライトを構成する元素であれば、その種類は問わない。これらの元素は、それぞれ、一種でも二種以上でもよい。もっともAは、イオン半径がO2−に近似しており、フェライト結晶(六方晶)中でO2−に置換し得るイオンを形成する元素であると好ましい。例えば、Aは、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)または鉛(Pb)のいずれか一種以上であると好ましい。
【0033】
第二金属元素は、一般的には二価の金属イオン(M2+)となる元素であり、フェライト粒子の磁気特性を考慮すると、遷移金属元素、特に鉄属(8〜10族)元素またはその周辺の遷移金属元素が好ましい。例えば、Mは、Fe、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(CO)、マンガン(Mn)またはニッケル(Ni)のいずれか一種以上であると好ましい。さらにMは、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)等の元素でもよい。
【0034】
《フェライト粒子の製造方法》
(1)原料粉末
本発明の製造方法では、先ず、M型フェライト粒子とS型フェライト粒子からなる混合粉末を原料粉末としている。M型フェライト粉末およびS型フェライト粉末は、比較的安価に市販されており、資源的な問題も少なく入手が容易である。なお、成形工程で原料粉末を高配向させるために、結晶磁気異方性の高いM型フェライト粒子(粉末)を用いるほど好ましい。
【0035】
M型フェライト粒子とS型フェライト粒子からW型フェライトを合成する場合、理論的には、M型フェライト粒子:S型フェライト粒子=1:2(モル比)となる。もっとも、S型フェライトが残存する場合よりM型フェライトが残存する場合の方が、得られたフェライト粒子の磁気特性(結晶磁気異方性)は高くなり易い。そこでM型フェライト粒子に対するS型フェライト粒子の割合は2以下が好ましい。より正確にいうなら、混合粉末は、AFe1219のモル数に対するMFeのモル数の比であるS型フェライト配合比が2以下さらには1.8以下であると好ましい。なお、S型フェライト配合比の下限値は1以上さらには1.2以上であると好ましい。
【0036】
ここで本発明者が鋭意研究したところ、上記のS型フェライト配合比が1.4〜1.8さらには1.5〜1.7であると、W型フェライト単相またはそれに近い組織からなるフェライト粒子が得られて好ましい。それが過小ではM型フェライト相が増加し、過大ではS型フェライト相が増加して、いずれも好ましくない。
【0037】
混合粉末中の各粒子の粒径は問わない。もっとも高保磁力化の観点から、M型フェライト粒子の平均粒径は1μm以下が好ましい。またW型フェライトの反応性を高める観点から、S型フェライト粒子の平均粒径は0.5〜3μmさらには1μm以下が好ましい。なお、平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)により特定した値である。
【0038】
(2)成形工程
上記の混合粉末を磁場中成形して、成形体を得る。印加する磁場は、その強さを問わないが、例えば1〜3Tとすれば、M型フェライト粒子が十分に配向して好ましい。
【0039】
成形体は、W型フェライトが合成される程度にM型フェライト粒子とS型フェライト粒子が隣接しており、取扱いできる程度の保形性を有すれば、圧縮成形体である必要はない。圧縮成形する場合なら5〜50MPa程度で加圧すれば十分である。磁場中成形する雰囲気は問わないが、大気雰囲気で行えば足る。
【0040】
(3)焼成工程
磁場中成形した成形体を焼成することにより、その成形体中のM型フェライト粒子とS型フェライト粒子が反応してW型フェライト相が生成される。このときの焼成温度は1200〜1400℃さらには1250〜1350℃が好まし。このときの焼成時間は0.5〜3時間程度が好ましい。第二金属元素(M)がZn、Ni、Co、Mg等のとき、焼成雰囲気は大気圧雰囲気でもよいが、第二金属元素(M)がFeのとき、焼成雰囲気は酸化防止雰囲気が好ましい。
【0041】
(4)粉砕工程
焼成工程により得られた焼成体を粉砕することにより、W型フェライト相の積層状組織を有する本発明のフェライト粒子が得られる。粉砕工程は、例えば、ロッドミル等を用いて焼成体を数mm程度の粒子に粗粉砕(破砕)した後、ボールミル等を用いて所望粒径の粒子まで微粉砕すると好ましい。なお、フェライト磁石の原料粉末とする場合、フェライト粒子の平均粒径は1〜50μmさらには5〜20μmであると好ましい。ちなみに平均粒径は、レーザー回折法により測定した粒径の50%積算値として求められる数平均粒径により特定される。
【0042】
《用途》
本発明のフェライト粒子は、その用途を問わないが、通常、永久磁石であるフェライト磁石の素粉末として用いられる。ちなみにフェライト磁石は、焼結磁石でもボンド磁石でも良い。フェライト磁石は、様々な分野の多用な製品(例えば、各種モータ、ソレノイド等)に利用される。本発明のフェライト粒子からなるフェライト磁石を用いれば、磁気特性が向上した分、従来よりも製品の小型化や軽量化を大幅に改善できる。
【実施例】
【0043】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
(1)原料
市販されているM型フェライト粉末(SrO・6Fe/(株)高純度化学研究所製SRF12PB)と、調製したスピネル型フェライト粉末(ZnO・Fe)とを原料粉末として用意した。なお、スピネル型フェライト粉末は、α−Fe粉末((株)高純度化学研究所製FEO10PB)とZnO粉末((株)高純度化学研究所製ZNO02PB)を1:1のモル比で秤量し、これらを24時間混合して得た混合粉末を、大気圧雰囲気中で1300℃×4時間加熱することにより調製した。
【0044】
(2)混合
これら原料粉末を、表1に示す各配合モル比となるように混合した(混合工程)。本実施例の配合モル比は、SrO・6Fe(SrFe1219)のモル数に対するZnO・Fe(ZnFe)のモル数の比(ZnFe/SrFe1219)である。この配合モル比が本発明でいうS型フェライト配合比に相当する。なお、粉末の混合はボールミルを用いて4時間行った。
【0045】
(3)成形
得られた混合粉末を成形型のキャビティへ充填して、2Tの磁界を印加しつつ、10MPaで圧縮成形加圧した(成形工程)。こうして15x10x10mmの成形体を得た。なお、混合および成形は室温大気雰囲気中で行った。
【0046】
(4)焼成
この成形体を、不活性ガス(窒素)雰囲気の加熱炉に入れて、1300℃で1時間加熱した(焼成工程)。こうして仮焼体(焼成体)を得た。
【0047】
(5)粉砕
この焼成体を鉄製乳鉢を用いて破砕・粉砕した。得られた粉砕粒子を試料に供した。なお、この粉砕粒子が本発明でいうフェライト粒子(磁石粒子)に相当し、その集合体がフェライト粉末(磁石粉末)となる。
【0048】
(6)比較試料
成形時に磁場を印加せず、無配向状態で成形した試料も同様に製造した(試料No.C1)。なお、飽和磁化の標準試料として、M型フェライト粉末単体も用意した(試料No.C2)。
【0049】
《試料の観察・測定》
(1)破断面の観察
焼成体を粉砕した際にできた粉砕粒子(フェライト粒子)の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。この様子を図1A図1Bおよび図2に示した。図1Aは試料No.1のSEM像であり、図1Bはその拡大像である。図2は試料No.C1のSEM像である。
【0050】
(2)化合物相の同定
Cu管球をX線源として、各試料の粉砕粒子をX線解析(XRD)した。各試料について得られたX線回折パターンの一例を図3A〜C(これらをまとめて適宜「図3」という。)に示した。図3Aおよび図3Bは、それぞれ試料No.1および試料No.C1のX線回折パターンを示し、図3Cは試料No.1に係る焼成前の成形体の粉砕粒子のX線回折パターンを示す。また図4には、試料No.1〜5の粉砕粒子に関して得られた各X線回折パターン(2θ=20〜40)を表示した。
【0051】
上記のX線回折パターンに基づいて、各試料の化合物相中に存在するM型フェライト相とスピネル型フェライト(S型フェライト)相との割合をピーク強度比から求めた。具体的には、X線回折パターンの2θ=20°〜70°中で、M型フェライト相のピーク強度比ΣI、S型フェライト相のピーク強度比ΣIおよびW型フェライト相のピーク強度比ΣIをそれぞれ求める。次に、全ピーク強度比(ΣI+ΣI+ΣI)に対するピーク強度比ΣI またはΣI の比率を求める。そして、ピーク強度比率 ΣI/(ΣI+ΣI+ΣI)をM型フェライト相の存在割合(M型フェライト率)とし、ピーク強度比率 ΣI/(ΣI+ΣI+ΣI)をS型フェライト相の存在割合(S型フェライト率)とした。この結果も表1に併せて示した。
【0052】
これらの結果を踏まえて、同様に算出したW型フェライト相の存在割合(W型フェライト率)と、混合粉末の配合モル比(S型フェライト配合比)との相関を図5に示した。
【0053】
(3)磁気特性
各試料の飽和磁化(I)を、試料振動型磁力計(VSM)で測定した。これらの飽和磁化を、M型フェライト単相のみの飽和磁化(試料No.C2)を基準とした相対値で、表1に併せて示した。
【0054】
《評価》
(1)破断面組織
図1Aおよび図1Bから明らかなように、磁場中で配向させて圧縮成形した成形体を焼成した試料の場合、厚さ数100nm程度のシート(W型フェライト相)が積層したような構造の破断面組織(積層状組織)が観察された。また、その積層状組織の積層方向は、ほぼ、成形工程時に印加した配向磁場の方向を向いていた。
【0055】
一方、図2から明らかなように、無配向で圧縮成形した成形体を焼成した試料の場合、このような積層状組織や破断面組織は観察されなかった。
【0056】
(2)化合物相
図3Aおよび図4に示したX線回折パターンからわかるように、磁場中成形した成形体を焼成した試料の場合、半値全幅2θ=20〜70°の範囲で、W型フェライト相を示す回折ピークが(00L)面で規則正しく観測されており、混合粉末の配合モル比に応じて他のフェライト相を示す回折ピークが若干観察される程度であった。また(116)面の回折線強度に対して(0010)面の回折線強度が強く現れていた。これらの特徴は、磁場中成形を行わなかった試料(図3B)や焼成前の試料(図3C)には観られなかった。このことから、M型フェライト粒子およびS型フェライト粒子からなる混合粉末を磁場中成形した成形体を焼成することにより、W型フェライト相が合成され、そのW型フェライト相が磁化容易軸方向に強く配向したフェライト粒子が安定的に効率よく得られることがわかる。
【0057】
さらに図4図5および表1から、M型フェライト粉末とS型フェライト粉末の配合モル比(モル比)を広範囲で変化させても、最終的に得られた粉砕粒子(フェライト粒子)の主相はW型フェライト相であることがわかった。特に配合モル比(ZnFe/SrO・6Fe)が1.5〜1.7のとき、粉砕粒子は、ほぼW型フェライト単相となることもわかった。
【0058】
(3)飽和磁化
M型フェライト粉末とS型フェライト粉末の混合粉末を磁場中で配向させて圧縮成形した成形体を焼成した試料の場合、いずれも飽和磁化がM型フェライト粒子単体の場合よりも高くなった。特に、それら粉末の配合モル比(ZnFe/SrO・6Fe)が1.4〜1.8の試料は、M型フェライト粒子単体に対して、飽和磁化が14%以上も向上することが明らかとなった。
【0059】
(4)混相組織
表1および図5からわかるように、M型フェライト粉末とS型フェライト粉末の配合モル比を調整することにより、W型フェライト相とM型フェライト相またはS型フェライト相とが混在した混相組織(WM混相組織、WS混相組織)からなるフェライト粒子が得られることもわかる。このようなフェライト粒子でも、M型フェライト相単体の場合より、飽和磁化が10%以上も向上することが明らかとなった。ちなみに、配合モル比が1.6よりも大きいとき未反応のS型フェライト相の存在割合が大きくなり、配合モル比が1.6よりも小さいとき未反応のM型フェライト相の存在割合が大きくなった。もっとも、配合モル比が2のときでもS型フェライト率は高々6%であり、配合モル比が1のときでもM型フェライト率は高々20%であった。
【0060】
【表1】
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図1A
図1B
図2