特許第5794319号(P5794319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794319
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】医療用処置用具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20150928BHJP
   A61B 17/34 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   A61B17/02
   A61B17/34
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-554988(P2013-554988)
(86)(22)【出願日】2012年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2012000448
(87)【国際公開番号】WO2013111183
(87)【国際公開日】20130801
【審査請求日】2014年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】金平 永二
(72)【発明者】
【氏名】山辺 悦朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 稔
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207576(JP,A)
【文献】 特開2010−207577(JP,A)
【文献】 特開2010−207578(JP,A)
【文献】 特開2010−207579(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/141409(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0261975(US,A1)
【文献】 特開2002−28163(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 13/00 − 18/28
A61B 1/00 − 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切開創に留置される筒状の開創器本体と、
前記開創器本体の開口端部に着脱自在に装着されて前記開口端部を閉蓋するコンバータと、
前記コンバータの複数箇所に設けられ、処置具を前記開創器本体の内部にそれぞれ挿入するポートと、を備え、
前記コンバータは、複数通りより選択的に選ばれた設置角度で前記開口端部に装着可能であり、かつ、それぞれの前記設置角度で前記コンバータを前記開口端部に装着した場合の前記開創器本体に対する前記ポートの位置関係が互いに異なることを特徴とする医療用処置用具。
【請求項2】
前記開創器本体は、前記切開創を所定の開き方向に広げた状態で保持する拡張手段を備え、
複数通りの前記設置角度において、前記切開創の開き方向に対する前記ポートの位置関係が互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の医療用処置用具。
【請求項3】
いずれか一つ以上の前記設置角度で前記コンバータが前記開口端部に装着された場合の第一のポートと第二のポートとを結ぶ線分の垂直二等分線と前記開き方向とのなす角度が115度±20度である請求項2に記載の医療用処置用具。
【請求項4】
略正三角形上に配置された第一から第三の前記ポートを少なくとも含み、かつ前記設置角度が四通り以上より選択されることを特徴とする請求項3に記載の医療用処置用具。
【請求項5】
前記処置具を挿通可能な複数の弁部材が前記ポートにそれぞれ設けられている請求項3または4に記載の医療用処置用具。
【請求項6】
前記コンバータは、前記開口端部を閉蓋する可撓性の天板部を備え、
前記天板部に前記第一のポートおよび前記第二のポートが設けられており、かつ、
前記弁部材は前記天板部よりも硬質の材料からなる請求項5に記載の医療用処置用具。
【請求項7】
前記第一のポートを通り前記垂直二等分線に平行な直線上に、前記弁部材の形成高さが前記第一のポートと異なる他の前記ポートをさらに有する請求項5または6に記載の医療用処置用具。
【請求項8】
前記コンバータを前記開口端部に当接させた非係止状態から前記コンバータを前記開創器本体に対して軸回転方向に所定角度だけ回転させることで前記コンバータを前記開創器本体に係止状態にロックする係止手段をさらに備える請求項3から7のいずれか一項に記載の医療用処置用具。
【請求項9】
前記垂直二等分線よりも前記所定角度だけ前記軸回転方向の前方に、前記係止状態における前記垂直二等分線の延在方向を示す指標部が設けられている請求項8に記載の医療用処置用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切開創に留置して用いられる医療用処置用具に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡下手術においては、一つの切開創から鉗子や光学装置などの複数の処置具を挿入して手術を行う、いわゆる単孔式手術が行われている。この手術方式は患者の体表に残る切開創が一つになるため美容的メリットが高い。術後に切開創が目立つことを防止するため、切開創を臍に形成することが一般的である。
【0003】
そして近年では、一つの切開創に複数の処置具を入れるための専用の器具も開発されている(特許文献1、2を参照)。これらの器具は、切開創を開いた状態に保持する筒状の開創器本体と、処置具をそれぞれ挿入する複数の小孔(ポート)を有する蓋状のコンバータと、を備えている。
【0004】
一方、腹腔鏡下手術では、切除された臓器(切除組織)を体外に取り出す必要がある。ポートの内径よりも大きな切除組織を取り出す場合は、切除組織がポートを通過することができないため、切除組織を把持している鉗子を開創器本体とともに切開創から引き抜くことがこれまで行われていた。また、臓器に癌の疑いがある場合には、癌のインプランテーションを防止するため、切除組織を腹腔内で回収袋に収容したうえで、開創器本体ごと回収袋を切開創から引き抜いて取り出すことが一般的であった。しかしながら、開創器本体を切開創から引き抜く作業は患者への負担が大きい。特に、複数箇所の患部の切除および組織の取り出しを繰り返して行う場合には、開創器本体を切開創に対して何度も装着および抜去する必要があり、患者への負担が大きかった。
【0005】
これに対し、特許文献1、2に記載の器具は、コンバータが開創器本体に対して着脱可能である。このため、切除組織を取り出す際には、開創器本体を切開創に留置したままコンバータを開創器本体から取り外すことで、開創器本体の大径の開口を通じて鉗子や回収袋を引き抜くことが可能となる。これにより、大きな切除組織や回収袋を体外に取り出す場合にも、開創器本体を腹壁に繰り返し着脱する必要がない。このため、患者への負担が少なく、また迅速な切除術が可能である。
【0006】
特許文献1に記載の器具は、その図1に示されるようにコンバータ(弁プレート)を開創器本体(保持具本体)に対して軸回りに回転させることで、突起と係合溝とが係止してコンバータが装着される。また、この器具は、特許文献1の図5(b)や図6(b)に示されるように、突起とポートがともに等しい角度間隔(120度間隔)で配置されている。このため、コンバータの取り付け角度を特に意識せずとも、開創器本体に対するポートの配置位置を常に一定にすることができる。
【0007】
また、特許文献2の器具は、その図10(Fig11)や図16(Fig17)に示されるように、複数のポート(25〜28)が設けられたコンバータ(20)を任意の角度で開創器本体(2)に押し込むことで着脱可能に装着することができる。具体的には、特許文献2の図10に示されるように、複数の弾性突起(91)が周囲に形成されたコネクタベース(80)をリング(6)にスナップ式に装着する態様と、その図16に示されるようにOリング(53)を結合環(54)に挿入する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−28163号公報
【特許文献2】国際公開2008/149332号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
臍などに切開創を形成する単孔式手術において気腹下操作で胃、胆嚢、大腸など種々の臓器にアクセスして患部を切除する場合、対象の患部にもっとも近い複数のポートをその都度選択して、把持用の鉗子や切除用のメスを挿入する。他のポートには補助用の鉗子や光学装置などが挿入されることが一般的である。
【0010】
このため、切開創に留置された開創器本体にコンバータを着脱可能に装着する際には、処置中の特定の臓器に繰り返しアクセスする場合の操作の安定性と、種々の複数の臓器に容易にアクセス可能な操作の多様性の実現という、相反する要求を満足することが求められている。
【0011】
しかしながら、特許文献1の器具は、開創器本体に対するポートの配置位置が常に同じ正三角形上に再現されてしまうため、患部の位置によっては、例えば二つのポートの延長線上に位置する患部などには、アクセスが困難となる。
また、特許文献2の器具は、コンバータを任意の角度で開創器本体に装着する構成であるため、開創器本体に対するコンバータの取付角度に再現性が無い。このため、開創器本体からコンバータを何度も取り外して切除組織を取り出した場合に、臓器とポートとの位置関係が毎回変動してしまうという問題がある。
【0012】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、処置中の臓器にポートを通じて繰り返しアクセスする場合の処置操作の安定性と、種々の臓器に対する多様なアクセスの実現とをともに実現する医療用処置用具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の医療用処置用具は、切開創に留置される筒状の開創器本体と、前記開創器本体の開口端部に着脱自在に装着されて前記開口端部を閉蓋するコンバータと、前記コンバータの複数箇所に設けられ、処置具を前記開創器本体の内部にそれぞれ挿入するポートと、を備え、前記コンバータは、複数通りより選択的に選ばれた設置角度で前記開口端部に装着可能であり、かつ、それぞれの前記設置角度で前記コンバータを前記開口端部に装着した場合の前記開創器本体に対する前記ポートの位置関係が互いに異なることを特徴とする。
【0014】
上記発明において、開創器本体に対する複数のポートの位置関係が同じであるとは、複数のポートが回転対称位置に配置されていて、コンバータの設置角度を変更してもポートの見た目の配置位置が不変であることをいう。逆に、開創器本体に対するポートの位置関係が互いに異なるとは、開創器本体を基準として、複数のポートの見た目の配置位置が変化することをいう。
【0015】
上記発明によれば、コンバータの設置角度が選択的であることで開創器本体とポートとの相対位置の微小な変動が防止されるため、開創器本体に対するポートの配置位置が再現される。また、コンバータの設置角度の選択を変更することで開創器本体に対するポートの位置関係が変化するため、ポートの配置位置が多様化する。
【0016】
本発明の医療用処置用具においては、より具体的な態様として、(2)前記開創器本体は、前記切開創を所定の開き方向に広げた状態で保持する拡張手段を備え、複数通りの前記設置角度において、前記切開創の開き方向に対する前記ポートの位置関係が互いに異なってもよい。(3)いずれか一つ以上の前記設置角度で前記コンバータが前記開口端部に装着された場合の第一のポートと第二のポートとを結ぶ線分の垂直二等分線と前記開き方向とのなす角度が115度±20度であってもよい。(4)略正三角形上に配置された第一から第三の前記ポートを少なくとも含み、かつ前記設置角度が四通り以上より選択されてもよい。(5)前記処置具を挿通可能な複数の弁部材が前記ポートにそれぞれ設けられていてもよい。(6)前記コンバータは、前記開口端部を閉蓋する可撓性の天板部を備え、前記天板部に前記第一のポートおよび前記第二のポートが設けられており、かつ、前記弁部材は前記天板部よりも硬質の材料からなってもよい。(7)前記第一のポートを通り前記垂直二等分線に平行な直線上に、前記弁部材の形成高さが前記第一のポートと異なる他の前記ポートをさらに有してもよい。(8)前記コンバータを前記開口端部に当接させた非係止状態から前記コンバータを前記開創器本体に対して軸回転方向に所定角度だけ回転させることで前記コンバータを前記開創器本体に係止状態にロックする係止手段をさらに備えてもよい。(9)前記垂直二等分線よりも前記所定角度だけ前記軸回転方向の前方に、前記係止状態における前記垂直二等分線の延在方向を示す指標部が設けられていてもよい。
【0017】
上記発明において、切開創の開き方向に対するポートの位置関係が互いに異なるとは、拡張手段の作動方向を基準として、複数のポートの見た目の配置位置が変化することをいう。
【0018】
本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、処置中の臓器にポートを通じて繰り返しアクセスする場合に、開創器本体に対するポートの配置位置が再現されているため処置操作を安定して行うことができる。また、コンバータの設置角度の選択を変更することで開創器本体に対するポートの位置関係が変化するため、種々の臓器に対する多様なアクセスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0021】
図1図1Aはコンバータを開創器本体から分離した状態を示す斜視図である。図1Bはコンバータを開創器本体に装着した状態を示す斜視図である。
図2図2Aは切開創の平面図である。図2Bは切開創に医療用処置用具が留置された状態を示す平面図である。図2Cは医療用処置用具を用いて切開創を拡径した状態を示す平面図である。
図3図3Aはコンバータの上方斜視図である。図3B図3Aの矢視図である。図3Cはコンバータの下方斜視図である。
図4】医療用処置用具の留置状態の平面図である。
図5】第一の取付角度で医療用処置用具が留置された状態を表す模式図である。
図6】第二の取付角度で医療用処置用具が留置された状態を表す模式図である。
図7図7Aはコンバータを開口端部に当接させた非係止状態を示す平面図である。図7Bはコンバータが開創器本体にロックされた係止状態を示す平面図である。
図8】変形例にかかるコンバータの上方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0023】
図1Aおよび図1Bは、本発明の実施形態にかかる医療用処置用具10の一例を示す斜視図である。より具体的には、図1Aはコンバータ20を開創器本体30から分離した状態を示し、図1Bはコンバータ20を開創器本体30に装着した状態を示している。
【0024】
図2Aから図2Cは、本実施形態の医療用処置用具10を切開創INCに留置する状態を示す平面図である。図2Aは、臍BT(同図には図示せず。図5を参照)を通過するようにして患者の正中線MLに沿って形成した切開創INCの平面図である。医療用処置用具10によって切開創INCを拡径する開き方向ODを、図2Aで白抜矢印にて示す。図2Bは、切開創INCに医療用処置用具10が留置された状態を示す平面図である。図2Cは、医療用処置用具10の拡張手段(引張ベルト34)を用いて切開創INCを四方(矢印方向)に放射方向に牽引し、これを開き方向OD(白抜矢印)に向かって略円形に拡径した状態を示す平面図である。なお、図2Cに示す引張ベルト34の牽引時には、コンバータ20を開創器本体30に装着しておいてもよい。または、コンバータ20を開創器本体30から分離した状態で開創器本体30の引張ベルト34を牽引してもよい。
【0025】
はじめに、本実施形態の医療用処置用具10の概要について説明する。
本実施形態の医療用処置用具10は、開創器本体30とコンバータ20とを備える。開創器本体30は、筒状をなし切開創INCに留置される。コンバータ20は、開創器本体30の開口端部32に着脱自在に装着されて、この開口端部32を閉蓋する。また、コンバータ20の複数箇所に、処置具(図示せず)を開創器本体30の内部にそれぞれ挿入するポート22a〜22dが設けられている。本実施形態の医療用処置用具10において、コンバータ20は、複数通りより選択的に選ばれた設置角度で開口端部32に装着可能であり、かつ、それぞれの設置角度でコンバータ20を開口端部32に装着した場合の開創器本体30に対するポート22a〜22dの位置関係が互いに異なる。
【0026】
次に、本実施形態の医療用処置用具10について詳細に説明する。
医療用処置用具10は、切開創INCを開いた状態に維持および保護して、腹腔内の観察、洗浄、切除、器具の留置および回収等の各種処置を補助するための器具である。
【0027】
開創器本体30は、腹壁の表面と裏面とを挟持するようにして切開創INCに装着されるとともに、切開創INCに対して径方向の力を付与してこれを拡径する部材である。開創器本体30の具体的な構造は特に限定されないが、一例として、本実施形態の開創器本体30は、気密性かつ可撓性を有する筒状部材33と、この筒状部材33の両端に設けられた第一固定部材37および第二固定部材38とを備えている。また、開創器本体30には、両固定部材に亘る複数本の引張ベルト34が設けられている。引張ベルト34は筒状部材33の内側に設けられている。
【0028】
第一固定部材37および第二固定部材38は、ともに平板環状をなしている。第一固定部材37は切開創INCを通じて腹腔の内部に挿入され、開口端部35を構成する部材であり、腹壁の裏面に密着して用いられる。第二固定部材38は開口端部32を構成する部材であり、腹壁の表面(体表面)に密着して用いられる。開創器本体30は、筒状部材33と、ともに環状の第一固定部材37(開口端部35)および第二固定部材38(開口端部32)とが同軸で連結されて筒状をなしている。ここで、筒状は円筒状でも角筒状でもよい。
【0029】
引張ベルト34の先端部(図1Aおよび図1Bにおける下端部)は第一固定部材37に固定的に連結されている。また、引張ベルト34の基端部(図1Aおよび図1Bにおける上端部)は第二固定部材38に対して径方向の内側から外側に向かって貫通して挿通されている。引張ベルト34と第二固定部材38には、引張ベルト34の基端部を第二固定部材38の径方向外側に引き抜く向きのスライドを許容し、逆に引張ベルト34の基端部が径方向の内側に戻る向きのスライドを規制するラチェット構造(図示せず)がそれぞれ設けられている。そして、引張ベルト34の基端部を第二固定部材38に対して径方向外側に牽引することで、第一固定部材37が引き上げられて第二固定部材38との間隔が短縮される。このとき、引張ベルト34の外側で筒状部材33は蛇腹状に折り畳まれる。4本の引張ベルト34の基端部を、同時にまたは任意の順番で、同じ長さだけ牽引すると、第一固定部材37は第二固定部材38に対向したまま第二固定部材38に近接していく。
【0030】
ここで、第一固定部材37を切開創INCに挿入し、第一固定部材37と第二固定部材38とで腹壁を緩く挟持した状態で引張ベルト34を牽引することで、第一固定部材37および第二固定部材38が腹壁の裏面と表面に密着する。この結果、環状の第一固定部材37および第二固定部材38の開口端部35、32を両端とする通孔が切開創INCの内側に形成される。かかる通孔を通じて切除組織は体内から体外に取り出される。
【0031】
第一固定部材37および第二固定部材38には、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合(ABS)樹脂、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)樹脂、シリコーンゴムなどの樹脂材料や、ステンレス鋼等の金属材料が使用される。
【0032】
筒状部材33は肉厚0.05mm以上3mm以下の膜からなる。筒状部材33の材質は、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、SEBS樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム等の樹脂材料が好ましい。
【0033】
コンバータ20は、開創器本体30の開口端部32に着脱自在に装着されてこれを閉蓋することにより切開創INCを気密に覆う部材である。ここで、コンバータ20が開口端部32を閉蓋するとは、コンバータ20が筒状部材33よりも開口端部32の側に設けられていることを意味する。そしてコンバータ20が着脱自在であるとは、開創器本体30が腹壁に留置された状態でコンバータ20を開創器本体30に対して装着および取り外し可能であることをいう。
【0034】
図3Aはコンバータ20の上方斜視図である。図3B図3Aの矢視図である。図3Cはコンバータ20の下方斜視図である。
【0035】
コンバータ20は、天板部21と、天板部21より突出して形成された複数のポート22a〜22dと、天板部21に周設された複数の係合凸部26とを備えている。本実施形態のコンバータ20は平面視が略円形をなし、係合凸部26は90度間隔で四箇所に形成されている。係合凸部26は、コンバータ20に対して径方向の内側に突出して形成されている突片である。
【0036】
天板部21は、開創器本体30の上端(近位)側の開口端部32を閉蓋する部材である。ポート22a〜22dは天板部21に設けられている。ポート22a〜22dは、それぞれ筒状部23と弁部材24と25とからなる。筒状部23は天板部21の上面に突出形成されている。筒状部23の下端はポート22a〜22dに連接している。筒状部23の上端より鉗子やメス等の処置具が挿入される。弁部材24と25は筒状部23の内部に設けられている。弁部材24または25の一方または両方は、筒状部23に挿入された処置具の周囲に密着する。これにより、腹腔内に充填されたガスが処置具のハンドリング中にポート22a〜22dから漏出することを抑制する。
【0037】
開創器本体30の環状の第二固定部材38の周囲には、コンバータ20の係止手段を構成する係止部36が設けられている。係止部36は、係止片36a、切欠凹部36bおよびスロープ部36cからなる。係止片36aは、第二固定部材38の周面に部分的に切欠形成された切欠凹部36bに隣接する突片であり、係合凸部26に対して周方向に当接することでコンバータ20をロックする部位である。切欠凹部36bに関して係止片36aの反対側にはスロープ部36cが形成されている。スロープ部36cは、第二固定部材38の周面に形成された突片であり、かつ軸方向に下り傾斜している。スロープ部36cの最下位置には、不連続な段差を介して切欠凹部36bが形成されている。
係止部36(係止片36a)は係合凸部26に対応する位置に形成されている。具体的には、第二固定部材38の周囲に90度間隔で四箇所に形成されている。また、切欠凹部36bには、補強用のリブ36dが径方向の外向きに突出して形成されている。
【0038】
図7を用いて後述するように、本実施形態の医療用処置用具10では、コンバータ20を開創器本体30に対して右ネジ方向(コンバータ20を上面視した場合の時計回り)に螺合させた場合に、係合凸部26が係止片36aに当接してロックされる。具体的には、コンバータ20を開創器本体30に対して軸回転方向(時計回り)に回転させると、まず係合凸部26がスロープ部36cで徐々に押し下げられて、コンバータ20は開創器本体30(第二固定部材38)に対して締め付けられていく。さらにコンバータ20を時計回りに回転させると、係合凸部26はスロープ部36cを乗り越えて切欠凹部36bに至る。ここで、切欠凹部36bの周長は係合凸部26の周長(幅寸法)よりも大きいため、係合凸部26は切欠凹部36bに嵌入する。そしてさらにコンバータ20を時計回りに回転させると、係合凸部26は切欠凹部36bに嵌入した状態で、係止片36aに係止してロックされる(図1Bを参照)。リブ36dにより第二固定部材38は全体に径方向に補強されており、コンバータ20の係合凸部26は、切欠凹部36bに確実に嵌入して係止片36aに係止してロックされる。このため、本実施形態の医療用処置用具10によれば、使用者はコンバータ20が締め付けられる感触を感じながらコンバータ20を開創器本体30にロックすることができる。このため、コンバータ20の装着時にその取付角度を確認することができ、言い換えるとポート22a〜22dが想定外の配置位置となるようなコンバータ20の誤装着を防止することができる。
【0039】
一方、コンバータ20を開創器本体30に対して軸回りの逆方向(反時計回り)に回転させると、係合凸部26が切欠凹部36bを通過して係止は解除されて、コンバータ20が開創器本体30から分離可能となる(図1Aを参照)。係合凸部26および係止片36aが90度間隔で四箇所に配置されていることにより、コンバータ20は複数通り(四通り)より選択的に選ばれた設置角度で開創器本体30の開口端部32(第二固定部材38)に対して装着可能である。
【0040】
図3Aおよび図3Cに示すように、ポート22a〜22dには、処置具を挿通可能な複数の弁部材24、25がそれぞれ設けられている。弁部材24、25は、ポート22a〜22dの上縁側と下縁側にそれぞれ設けられている。各ポートにおいて、弁部材24と25とは互いに離間して配置されている。弁部材24は弁部材25よりも上端側に設けられている。弁部材24、25は、処置具を挿通する挿通孔と、自然状態でこの挿通孔を閉止するフラップとを有している。例えば弁部材24は挿通孔が開いているシート弁であり、弁部材25はダックビル弁や十字弁である。弁部材24の挿通孔は円孔であり、径方向に等方的に収縮または伸長する。弁部材25はダックビル弁や十字弁であるため、特定の一方向または二方向に収縮または伸長する。すなわち、弁部材24と25とは開閉方向が互いに異なっている(同一ではない)。これにより、処置具の周囲に弁部材24および25が密着した状態から、両方の弁部材が同時に処置具から離間してしまうことがない。これにより、気腹下で種々の処置を行う際に、処置具の周囲からの脱気が好適に防止される。また、弁部材24、25は処置具を支持し、ハンドリング時の支点となる。特に、天板部21から上方に突出した高位の弁部材24を支点として、術中の処置具はハンドリングされる。
【0041】
天板部21は、可撓性を有する平坦な膜状の部材である。天板部21が柔軟に変形することで、ポート22a〜22dは変位する。このため、単孔式手術において、ポート22a〜22dに挿入された処置具の位置および向きを自在に操作することができる。
【0042】
天板部21および弁部材24、25の材質は、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルフォン樹脂等の硬質樹脂、またはシリコーンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム等の合成ゴムとすることができる。弁部材24、25の材料は、天板部21の材料よりも硬質であることが好ましい。これにより、筒状部23に挿入した処置具をハンドリングする際に、弁部材24、25が処置具の周囲に密着した状態を維持したまま、天板部21が撓んでポート22a〜22dの変位を許容する。このため、本実施形態の医療用処置用具10によれば、患者の気腹状態を保ちつつ、処置具の自在な操作が可能である。弁部材24、25の材料が天板部21の材料よりも硬質であることの指標として、弁部材24、25のデュロメータA硬度が天板部21のデュロメータA硬度よりも高いことが好ましい。より具体的には、弁部材24、25のデュロメータA硬度が40以上かつ70以下、天板部21のデュロメータA硬度が30以上かつ60以下であって、かつ相対的に弁部材24、25のデュロメータA硬度が天板部21のデュロメータA硬度よりも高いことが好ましい。弁部材24、25および天板部21のデュロメータA硬度は、JIS K6253およびISO7619に規定された方法で測定することができる。
【0043】
処置具としては、把持用の鉗子、切除用のメス、補助用の鉗子、光学装置またはこれらを挿通するためのトロッカー(カニューレ)を例示することができるが、これに限られない。
【0044】
本実施形態のポート22a〜22dの配置について説明する。図4は医療用処置用具10の留置状態の平面図であり、図2Cに対応する。ただし切開創INCは図示を省略している。図4に示すように時計回りに配置されたポート22a〜22dを、順に第一から第四のポートと呼称する。
【0045】
コンバータ20は、略正三角形上に配置された第一のポート22aから第三のポート22cを少なくとも含む。そして、上述のように開創器本体30に対するコンバータ20の設置角度は四通り以上(本実施形態では四通り)より選択される。このため、コンバータ20の設置角度を四通りに換えることで、第一のポート22a、第二のポート22bおよび第三のポート22cで描かれる三角形の向きは四通りに変化する。
【0046】
本実施形態の医療用処置用具10は、複数通り(最大四通り)より選択的に選ばれたそれぞれの設置角度において、開創器本体30に対するポート22a〜22dの位置関係が相違する。最大四通りのうち、いずれか二通りに関して開創器本体30に対するポート22a〜22dの位置関係が相違すればよいが、本実施形態のように複数通り(四通り)のすべてにおいてポート22a〜22dの位置関係が相違することがさらに好ましい。
【0047】
なお、第一のポート22aから第三のポート22cが略正三角形上にあるとは、図4に示すコンバータ20の平面視において、そのうち任意の二つのポートの中心同士を結ぶ線分LSを一辺とする正三角形の第三の頂点が、他のポートの内側にあることをいう。具体的には、本実施形態では、第一のポート22aの中心を第一の頂点とし、第二のポート22bの中心を第二の頂点とする正三角形の第三の頂点が、第三のポート22cの内側に位置している。さらに好ましくは、この第三の頂点が弁部材24または25の内側に位置するとよい(図4を参照)。
【0048】
コンバータ20の平面視において、第一のポート22aと第二のポート22bとを結ぶ線分LSの垂直二等分線PBは第三のポート22cを通る。言い換えると、第三のポート22cは、第一のポート22aと第二のポート22bとを結ぶ線分LSの垂直二等分線PBの上に存在している。
【0049】
また、コンバータ20は、第一のポート22aを通り垂直二等分線PBに平行な直線(平行線PL)上に第四のポート22dを有している。言い換えると、コンバータ20の平面視において平行線PLは第四のポート22dを通過する。
【0050】
すなわち、本実施形態の開創器本体30は、切開創INCを所定の開き方向ODに広げた状態で保持する拡張手段(引張ベルト34)を備えている。複数通りの設置角度において、切開創INCの開き方向ODに対するポート22a〜22dの位置関係は互いに異なっている。言い換えると、切開創INCに固定された開創器本体30に対して、ある設置角度でコンバータ20を係止した場合にポート22a〜22dの各中心を頂点とする四角形と、この開創器本体30に対して他の設置角度でコンバータ20を係止した場合の上記四角形とは完全一致はしない。本実施形態のコンバータ20と開創器本体30とは四通りの設置角度で互いに係止される。これらの四通りの設置角度における上記四角形は、互いにすべて異なっている。これにより、処置対象の患部にもっとも適したポート配置を複数通り、本実施形態では四通り、の中から選択することができる。
【0051】
第一から第四のポート22a〜22dの上記配置が好ましい理由を説明する。
単孔式手術においては、処置対象の臓器(患部)に対して等しく正対する二つのポートの一方に把持用の鉗子、他方に切除用のメスを挿入するとよい。対象の臓器を鉗子で把持して吊り上げることで、当該臓器にテンションが付与されてメスによる切除が好適に行われる。したがって、本実施形態の場合、第一のポート22aと第二のポート22bを結ぶ線分LSの垂直二等分線PB上に処置対象の患部を位置させることで、当該患部の処置が好適に行われる。なお、患部を切除する場合のほか、これを医療用クリップ等の器具を患部に留置したり、患部を縫合したりする場合も同様であり、一方のポートから把持用の鉗子を挿入し、このポートと並んで臓器に正対する他のポートからそれぞれの処置具を挿入するとよい。
【0052】
一方、単孔式手術では、この二つのポートからそれぞれ挿入された処置具によって視界が遮られない位置にCCD(Charge Coupled Device)カメラなどの光学装置を挿入することが好ましい。そこで本実施形態の医療用処置用具10では、線分LSの垂直二等分線PB上に第三のポート22cを配置したことで、第一および第二のポート22a、22bから略等しく離間した位置に光学装置を挿入することができる。
【0053】
さらに、第四のポート22dを第一のポート22aと第三のポート22cからともに離間した位置に配置することで、処置具同士の干渉を抑制している。このため、第四のポート22dは、第一のポート22aと第三のポート22cとの間、言い換えると垂直二等分線PBに沿って第一のポート22aの背後、すなわち平行線PL上であって線分LSに関して第三のポート22cと同一側に形成されている。
【0054】
ここで、切開創INCは、その切開長さを極力短くして患者の負担を減らしつつも、これを十分に拡径して処置具の可動域を広く確保することが求められる。かかる観点で、図2Aに示すように切開創INCを一文字状とし、これを開創器本体30により放射状に広げることが好ましい。なお、切開創INCを十字状とした場合には、この十字の四つの端点を頂点とする正方形状に切開創INCは拡径されることとなる。
【0055】
開創器本体30は切開創INCに対して任意の角度で装着することができる。図2および図4では、正中線MLに沿って一文字状の切開創INC(図示せず)を腹壁に形成し、医療用処置用具10の軸心Cが切開創INCの中央に一致するように開創器本体30を切開創INCに固定した状態を示している。
このとき、四本の引張ベルト34が、正中線MLを対称軸とする鏡像対称の位置に配置される角度で開創器本体30を切開創INCに固定する。言い換えると、正中線MLに対して引張ベルト34の引張方向が鏡像対称となるように医療用処置用具10を腹壁に固定する。
そして、切開創INCに開創器本体30を固定した状態で四本の引張ベルト34を同時または順次牽引することで、切開創INCは正中線MLに直交する方向を開き方向ODとして拡径される。
【0056】
このようにして切開創INCに固定された開創器本体30の開口端部32に対して、複数通り(本実施形態では四通り)より選択された取付角度でコンバータ20を装着する。
【0057】
そして、いずれか一つ以上の設置角度でコンバータ20が開口端部32に装着された場合(図4を参照)の第一のポート22aと第二のポート22bとを結ぶ線分LSの垂直二等分線PBと、切開創INCの開き方向ODとのなす角度θは115度±20度、すなわち95度以上かつ135度以下が好ましい。また、第一のポート22aと第二のポート22bとを結ぶ線分LSと、正中線MLとのなす角度θは115度±20度が好ましい。さらに、角度θおよび角度θは、115度±10度、すなわち105度以上かつ125度以下が好ましい。本実施形態の場合、開き方向ODと正中線MLとは直交し、垂直二等分線PBと線分LSとは直交するため、角度θと角度θとは等しい。
【0058】
なお、ここでいう角度θおよび角度θは有向角度である。角度θは、患者の胴体BODに対する右向きを基準(ゼロ度)として反時計回りに測った、垂直二等分線PBまでの角度である。角度θは、正中線MLのうち医療用処置用具10の軸心C(臍)から頭部に向かう向きを基準(ゼロ度)として反時計回りに測った、線分LSまでの角度である。
【0059】
角度θおよび角度θが115度±20度であることにより、本実施形態の医療用処置用具10は胆嚢GBの処置に特に好適である。その理由を、図5および図6を用いて説明する。
【0060】
図5は患者の胴体BODを表す模式図である。胆嚢GBおよび胃STを図5では模式的に図示している。切開創INCは胴体BODの正中線ML上に形成され、開創器本体30は図2Cおよび図4と同様の取付角度で切開創INCに留置されている。具体的には、切開創INCの開き方向ODは正中線MLの直交方向(胴体BODの左右方向)に一致している。開創器本体30に対するコンバータ20の取付角度も図2Cおよび図4と同様(以下、第一の取付角度)である。
【0061】
図6は、開創器本体30を切開創INCに固定したまま、他の取付角度(以下、第二の取付角度)を選択してコンバータ20を開創器本体30に固定した状態を示している。より具体的には、図6に示す第二の取付角度は、図5に示した第一の取付角度を、時計回りに90度前進させたものである。
【0062】
上述のように、図5に示す第一の取付角度において、第一のポート22aと第二のポート22bとを結ぶ線分LSの垂直二等分線PBと、引張ベルト34による切開創INCの開き方向ODとのなす角度θは115度±20度である。すると、図5に示す医療用処置用具10の代表的な使用態様において、コンバータ20を第一の取付角度で設置した場合の垂直二等分線PBの延在方向が胆嚢GBを指向する。図5では、臍BTを中心として正中線MLに沿って形成した切開創INCに対し、引張ベルト34による開き方向ODを正中線MLの直交方向に一致させて開創器本体30を留置している。そしてこれにより、図5に示す第一の取付角度でコンバータ20が設けられた医療用処置用具10は、胆嚢GBに対して等しく対向する第一のポート22aと第二のポート22bから、鉗子とメスをそれぞれ挿入することができるため、胆嚢GBの処置に適する。すなわち、第一の取付角度において、第一のポート22aから把持用の鉗子を挿入して胆嚢GBを吊り上げ、第二のポート22bからメスを挿入して胆嚢GBの胆嚢管を好適に切除することができる。
【0063】
そして、図6に示すように第二の取付角度でコンバータ20を開創器本体30に装着した場合の垂直二等分線PBの延在方向は、胃STの大彎GCを指向する。このため、第二の取付角度でコンバータ20が設けられた医療用処置用具10によれば、第一のポート22aと第二のポート22bから挿入した鉗子とメスにより、胃STの幽門PYから大彎GCにかけて好適に処置することが可能である。
【0064】
第二の取付角度からさらに時計回りに90度前進させた第三の取付角度では垂直二等分線PBが直腸近傍を指向するため、第一のポート22aおよび第二のポート22bから挿入した処置具によって直腸の処置を好適に行うことができる。さらに、第三の取付角度からさらに時計回りに90度前進させた第四の取付角度では垂直二等分線PBが大腸を指向するため、第一のポート22aおよび第二のポート22bから挿入した処置具によって大腸の処置を好適に行うことができる。
【0065】
すなわち、本実施形態の医療用処置用具10によれば、開創器本体30に対するコンバータ20の取付角度を複数通りから選択することにより、上述に例示される胆嚢GBおよび胃STなど、複数の臓器を処置対象として単孔式手術を好適に行うことができる。また、コンバータ20は開創器本体30に対して着脱自在であるため、臓器の切除後にコンバータ20を開創器本体30から取り外すことで、大径の開口端部32を通じて切除組織を取り出すことができる。したがって、本実施形態の医療用処置用具10によれば、コンバータ20を装着した気腹下操作から、コンバータ20を外しての直視下操作に切り替えて、さらに臓器を取り出すという操作を一連に行うことも可能である。
【0066】
そして、本実施形態によれば、一旦取り外したコンバータ20を再び開創器本体30に装着した際に、取付角度の選択を共通とするかぎりにおいて、ポート22a〜22dと臓器との位置関係が再現される。コンバータ20は係合凸部26および係止部36(係止片36a)によって同じ位置で開創器本体30に固定されるためである。
【0067】
ここで、コンバータ20を開創器本体30に繰り返して装着する場合に、取付角度の選択を誤って変化させてしまわないように、本実施形態の医療用処置用具10には指標部29が設けられている(図4を参照)。
【0068】
図7Aおよび図7Bは、指標部29を用いて行うコンバータ20の装着方法を説明する平面図である。
【0069】
図7Aはコンバータ20を開口端部32に当接させた非係止状態を示す。図7Bはコンバータ20が開創器本体30にロックされた係止状態を示す。図7Aの非係止状態からコンバータ20を開創器本体30に対して軸回転方向(本実施形態では時計回り)に所定角度φだけ回転させることで、コンバータ20は図7Bに示す係止状態となる。係止状態では、係止手段(係合凸部26および係止部36)がコンバータ20を開創器本体30にロックする。
【0070】
非係止状態は、係止手段(係合凸部26および係止部36)同士が未係合の状態であり、コンバータ20を開創器本体30に対して仮当てした状態である。具体的な非係止状態は種々を採りうるが、本実施形態の医療用処置用具10では、コンバータ20の係合凸部26と開創器本体30の係止部36とが最大限にずれあった状態を非係止状態として図7Aに図示している。言い換えると、図7Aに図示する非係止状態は、係合凸部26と係止部36とが45度間隔で離間した状態であり、上記の所定角度φは45度である。
【0071】
ここで、指標部29は図7Bに示す係止状態における垂直二等分線PBの延在方向を示している。指標部29は、垂直二等分線PBよりも所定角度φだけ軸回転方向(時計回り)の前方に設けられている。すなわち、コンバータ20を開創器本体30に仮当てした図7Aにおいて指標部29が示す方向は、コンバータ20を開創器本体30に本装着した図7Bにおいて垂直二等分線PBが指向する方向と一致している。
これにより、コンバータ20を開創器本体30に繰り返し着脱して切除組織(胆嚢GB)を切開創INCから取り出す場合などに、コンバータ20を開創器本体30に本装着したときのポート22a〜22dの配置位置を、装着前に事前に確認することができる。これにより、コンバータ20の取付角度に関する誤選択を防止して、装着のやり直しによる患者への負担を避けることができる。
【0072】
なお、本実施形態の指標部29はコンバータ20の天板部21の外周近傍に設けた方向指示用のマークであるが、これは一例である。指標部29の他の例としては、色彩や文字表示などによってコンバータ20の角度方向を識別可能としてもよい。
【0073】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0074】
図8は、変形例にかかるコンバータ20の上方斜視図である。第一のポート22aを通り垂直二等分線PBに平行な直線(平行線PL)上に、他のポート(第四のポート22d)をさらに有している。そして、第四のポート22dの弁部材24の形成高さは、第一のポート22aの弁部材24の形成高さと異なっている。言い換えると、このコンバータ20は、天板部21に対して高位にある弁部材24の形成高さが、第一のポート22aと第四のポート22dとで異なっている。ここで、弁部材24は、ポート22a〜22dに挿入される処置具の支点となる。よって、垂直二等分線PBの延在方向に隣接して並ぶ第一のポート22aと第四のポート22dにおいて支点の高さを相違させることで、処置具同士の干渉が好適に防止される。
【0075】
より具体的には、天板部21からの第一のポート22aの突出高さは、第二から第四のポート22b〜22dの突出高さよりも低い。これにより、第一のポート22aに挿入される処置具の可動域が拡大する。同様の理由により、第一のポート22aを、第四のポート22dよりも大径として処置具の基端部の可動域をさらに大きくしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8