【文献】
平成8年度放射線医学総合研究所重粒子線がん治療装置等共同利用研究報告書, (1997), [120], p.128-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故に伴い、一般公衆の放射線への関心が高まっている。また、近年は日本でも放射線がん治療が増える傾向にあり、正常組織を放射線から防護するような放射線防護剤や、がんの治療効果の相乗的な向上を図る放射線増感剤などについてのより詳細な研究が求められている。
【0003】
放射線による組織障害の防護を目的とする研究は、これまでにも多数行われてきた。現在、ヨウ素剤やキレート剤など放射性核種の生体への吸収・沈着を防止し排泄を促進する薬剤は存在する。しかし、これらはある特定の放射性元素による大量の内部被ばくを軽減する目的でのみ使用されるもので、医療行為で起こりうる少量の内部被ばくや外部被ばくに対する有効性は認められない。また、腫瘍の放射線療法における正常組織の防護を目指した薬剤として有名なものにシステアミンやアミフォスチン等がある。しかし、これらは、副作用などの理由から一般での使用が難しい。また、放射線増感剤に関しても多くの先行研究が行われているが、実際に臨床現場で応用されているものは存在しない。
【0004】
このような状況から、効果的な放射線防護・緩和剤、放射線増感剤の開発が急務となっている。このような薬剤を迅速に開発するためには、候補薬剤を迅速にスクリーニングすることが必要である。
【0005】
ここで、放射線照射による影響、薬剤の効果、薬剤の毒性等、調査対象が人もしくは動物に与える影響をスクリーニングする様々な方法が提案されている。以下、既に提案されているスクリーニング方法について説明する。
【0006】
<従来方法1:マウス、ラビットなどの実験動物の生存率によるスクリーニング方法>
この方法は、マウス、ラビットなどの実験動物に対して放射線照射や薬剤投与等を実施し、その後の実験動物の生存率を計測することで、調査対象が実験動物に与える影響をスクリーニングする方法である(非特許文献1参照)。
【0007】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、20日から30日の実験期間を必要とする。一度に検討できるサンプル数が1サンプル程度に限られ、かつ、1サンプル確認するのに数十匹の動物個体が必要となるため、コストがかかる。実験動物に薬剤を投与する際に、試験管実験の約10倍以上の濃度という大量の薬剤が必要になる。このため、特に新剤の開発初期においてはサンプルの用意が困難である。実験動物の個体差による影響が大きい。
【0008】
<従来方法2:コメットアッセイ法>
この方法は、放射線照射または薬剤投与等により起こるDNAの切断片を、彗星のように見える尾の長さとして検出する方法である(非特許文献2参照)。基本原理は、次のとおりである。すなわち、電気泳動によりアガロースゲル中でDNAを移動させ、顕微鏡下で観察する。すると、泳動細胞のうち切断が起きた細胞は、彗星(コメット)のように見える。この泳動細胞は、核領域で構成される頭部と、切断によりほどけて陽極へ移動するDNA鎖で構成されるテール部からできている。DNA移動量の変動は、ゲルのアガロース濃度、pH、温度、電気泳動における電圧、電流、泳動時間など、様々な要因に依存している。この方法は、毒性物質を同定するための方法として、食品及び薬品の毒性評価検査、及び健康影響に関する研究等においても用いられている。
【0009】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、2日から3日の実験期間を必要とする。操作工程も多く処理に時間がかかるため、一度に検討できるサンプル数が10サンプル程度であり少ない。専用のゲルや試薬等を必要とするためコストがかかる。
【0010】
<従来方法3:PCC法>
このPCC(Premature chromosome condensation;未成熟染色体凝縮)法は、個人の被ばく線量推測等において、染色体数を顕微鏡により観察、カウントし、染色体損傷を質的、量的に特定する方法である(非特許文献3、4参照)。
【0011】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、1週間程度の実験期間を必要とする。処理に時間がかかるため、一度に検討できるサンプル数が10サンプル程度と少ない。操作工程が多い。人が顕微鏡で目視確認するため、データ解析に疲労する。人が顕微鏡で目視確認するため、主観が入りやすい。
【0012】
<従来方法4:Multicolor FISH法>
上述したPCC法(従来方法3)に、Multicolor FISH(ハイブリダイゼーション;Fluorescence in situ hybridization)法を組み合わせれば、染色体損傷の詳細を観察できる。ここで、Multicolor FISH法は、すべての染色体を1回のハイブリダイゼーション操作で識別する手法である。個々の染色体に特異的に結合するプローブを用い、染色体ごとに検出される蛍光波長の組み合わせが異なるように各プローブを5色の蛍光色素で標識して、この組み合わせで各染色体を識別する。
【0013】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、1週間程度の実験期間を必要とし、結果が出るまでに時間がかかる。一度に検討できるサンプルが1サンプル程度と少ない。人が顕微鏡で目視確認するため、データ解析に疲労する。人が顕微鏡で目視確認するため、主観が入りやすい。高価なプローブ等を必要とするなどコストがかかる。
【0014】
<従来方法5:MTTアッセイ法>
MTT(3−[4,5−dimethylthiazol−2−yl]−2,5−diphenyltetrazolium bromide)は、細胞増殖への影響及び毒性検査に用いられる。MTTは、水溶性で黄色の溶液だが、細胞内に取り込まれると細胞内のミトコンドリアにある脱水素によってホルマザン(Formazan)に変化し、青色の非水溶性の結晶で沈殿する。これをDMSOなどの有機溶媒で溶解させると赤紫色の溶液となり、450nm吸光度によって、ミトコンドリア酵素活性として細胞の増殖率および生存率を測定できる。例えば、倍加時間24時間であるようなHeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来の細胞)の場合、毎日同じ時間(24時間ごと)にMTT処理をし、プレートリーダーにて測定し細胞の増殖曲線を求めることができる。
【0015】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、3日〜14日の実験期間を必要とし、結果が出るまでに時間がかかる。試薬のコストがかかる。
【0016】
<従来方法6:Trypan Blue染色法>
この方法は、Trypan Blue (トリパンブルー、テトラナトリウム;3,3’−[(3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニリレン)ビス(アゾ)]ビス[5−アミノ−4−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホナート]色素で細胞を染色し、血球計数板(Neubauer hemocytometer)で死細胞を数えることで細胞障害性を検出する。Trypan Blueは、損傷のある細胞膜を通過し死細胞を青色に染色するが、完全な膜を持つ正常な細胞は染色しない。この青く染色された細胞を数えることで細胞死を定量化できる。
【0017】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、3日から7日の実験期間を必要とするため、結果が出るまでに時間がかかる。一度に検討できるサンプル数が3サンプル程度と少ない。人が顕微鏡で目視確認するため、データ解析に疲労する。人が顕微鏡で目視確認するため、主観が入りやすい。
【0018】
<その他に提案されている従来方法>
また、細胞のアポトーシスを減少させる分子についてスクリーニングする方法も提案されている(特許文献1参照)。この方法は、Mcl−1ヌルMEF細胞を平底96穴プレート上に播種し、12〜24時間後、ライブラリー化合物を0.1μM、1μM、および10μMの最終濃度で添加し、2時間インキュベートした後、ABT−737(100nM)または担体媒体を添加して、24時間後にアラマーブルー色素を使用して細胞生存性をスコア化し、4時間後に読み取るといったものである。
【0019】
この方法は、次のような問題点を有する。すなわち、少なくとも2日程度の実験期間を必要とし、結果が出るまでに時間がかかる。アラマーブルー色素等を使用するため作業に手間がかかる。
【0020】
このように、従来の方法は、いずれも、結果がでるまでに時間がかかる、コストがかかる、主観が入りやすいといった問題点の1つ以上を有していた。そして、この3つの問題点を全て解決できる方法は存在していなかった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本発明者らが所属する研究所は、放射線防護剤や放射線増感剤の候補薬剤または化合物について、多数の新剤を設計合成している。しかし、設計合成した新剤の有効性や毒性を判定できる既存の方法は、費用と時間がかかるものであり、多数の新剤をスクリーニングするために適切ではなかった。
【0028】
そこで、本発明者らは、有効性が高く臨床応用可能な薬剤をスクリーニングすることを目的として、鋭意研究を重ねた。そして、大量の薬剤を短時間で客観的に判定できるスクリーニング方法を発明した。このスクリーニング方法を、“NILTH−ACCA(Nirs Lymph Thymus−Apoptosis Clear Check Assay)”と名付ける。
【0029】
本スクリーニング方法(NILTH−ACCA、以下同じ)は、抗酸化能やラジカル消去能が化学的にしか確認されていない放射線防護剤候補化合物についても、生物学的にその機能を評価できるものである。すなわち、本スクリーニング方法は、放射線防護効果を生物(生体)を使って確認でき、製薬や合成などのケミカルと、実際生体にどのような影響を与えるのかを調べる生物を結ぶパイプラインとなる。従って、放射線防護剤や放射線増感剤の効果を判定する確立した方法となり得るものである。また、本スクリーニング方法は、放射線に限らず、細胞障害性因子(放射線、紫外線、または薬剤(候補薬剤)等)の影響及び毒性、細胞障害性因子に対する薬剤の効果、細胞障害性因子に対する個体(若しくは個人)の感受性や障害の程度を測定若しくは推計できるものである。
【0030】
本発明のスクリーニング方法は、主に次の4工程により行われる。
[工程1]リンパ系細胞の準備
[工程2]スクリーニング対象の照射または投与
[工程3]所定時間のインキュベート
[工程4]細胞サイズの測定
各工程について、詳細に説明する。
なお、これ以降「リンパ系細胞」、「胸腺細胞」、「白血球」、「リンパ球」というときは、作業工程においては1つの細胞ではなく複数の細胞を意味する。すなわち、複数の細胞(リンパ系細胞、胸腺細胞、白血球、リンパ球)に対して、スクリーニング対象の照射または投与、インキュベート、細胞サイズの測定を実施する。
【0031】
[工程1]リンパ系細胞の準備
リンパ系細胞は、胸腺から単離できる胸腺細胞、末梢血から単離できる白血球やリンパ球、骨髄から単離できる骨髄細胞などのリンパ系の細胞である。リンパ球は、そのまま用いられてもよく、NK細胞、T細胞、NKT細胞、B細胞等が蛍光染色等の方法によって分類されたものが用いられても良い。分類されたものを用いた場合には、より詳細な検討を行うことができる。また、将来的には、ES細胞またはiPS細胞から胸腺細胞、リンパ球、または骨髄細胞等のリンパ系細胞を分化誘導して用いても良い。また、リンパ球が含まれている血液を用いる等、リンパ系細胞を単離せずにリンパ系細胞が含まれている組織を用いても良い。
【0032】
リンパ系細胞は、そのまま用いられても良いが、測定精度を向上するために適宜処理されることが好ましい。
例えば、胸腺細胞であれば、ラット、マウス、ラビット、またはモンキー等の動物から胸腺を外科的に取り出し、洗浄液で洗浄し、血清添加した一般的な培養培地に入れて胸腺細胞を絞り出し、メッシュを通して余分なゴミを取り除き、細胞をバラバラにする。
【0033】
リンパ球であれば、採取した末梢血を抗凝固剤およびリンパ球分離用試薬と混合し、遠心してリンパ球を分離し、血清添加した一般的な培養培地に入れる。
骨髄細胞であれば、摘出した大腿骨内腔より骨髄細胞を取り出し、血清添加した一般的な培養培地に浮遊させる。
【0034】
白血球であれば、採取した血液に抗凝固剤と溶血剤を添加し、遮光して室温で一定時間置き、遠心し、上清を吸引除去し、ペレットを血清添加した培養培地にて溶解し、メッシュに通して余分なゴミを取り除いて細胞をバラバラにし、血清添加した一般的な培養培地に入れる。
血液であれば、採取した血液に抗凝固剤を添加し、血清添加した一般的な培養培地に入れる。
【0035】
洗浄に用いる洗浄液は、緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝バッファー等、細胞にダメージを与えないようにpH、及び浸透圧等が調整された溶液である。この溶液は、細胞に対して低張及び高張とならないよう、細胞と同程度の浸透圧のものを用いる。緩衝生理食塩水には、界面活性剤が入っていないか、あるいは細胞膜に穴を開けない程度の極薄い界面活性剤が入っているものを用いることができ、具体的には、PBS(Phosphate Buffered Saline)またはTBS(Tris−Buffered Saline)等を用いることができる。
【0036】
血清には、細胞培養可能な適宜の血清を用いることができる。例えば、ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum; FBS)、または馬血清(Horse Serum)等を用いることができ、濃度1〜100%まで使用できる。これらの血清には、血清中の補体成分を失活させるために、例えば56℃のウォーターバスで30分処理するなど、非動化処理を行うことを推奨する。血清代替品等(成長因子を含む無血清培地用の補助試薬等)を用いることもできる。
【0037】
培養培地には、哺乳動物の細胞培養用の液体培地を用いることができ、天然成分に限らず、精製された化学薬品のみから調製可能な合成培地を用いることもできる。培養培地の具体例としては、RPMI1640(Roswell Park Memorial Institute 1640)培地、D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)培地、MEM(Minimum Essential Medium)培地、αMEM (alpha Modified Eagle Minimum Essential Medium) 培地、F12(Nutrient Mixture F−12 Medium)培地、またはマッコイ5A (McCoy’s 5A Medium) 培地等を用いることができる。この培養培地には、細胞障害性因子によってリンパ系細胞の凝縮する程度が大きくなるものを用いることが好ましく、正常なリンパ系細胞に対して面積が少なくとも70%程度に凝縮するものを利用でき、少なくとも60%程度に凝縮するものが好ましく、50%程度若しくはそれ以下に凝縮するものがより好ましい。なお、この面積は、細胞をある一方向から見た面積に該当し、フローサイトメトリー (Flow cytometry)であれば光に対する細胞の影のサイズとして測定できる。
【0038】
このようにして得られたリンパ系細胞を、カウントして必要数だけプレートにまく。ここでの必要数は、未処理のリンパ系細胞と処理後のリンパ系細胞について、細胞数がピークとなる細胞サイズまたは/および各細胞サイズの細胞数の分布を比較するに足る数とすることが好ましい。未処理のリンパ系細胞のサンプル(コントロール)とは、血清添加した培養培地に入れ所定時間のインキュベートを行うが、 薬剤や放射線の添加をしていないものをさす。つまり、薬剤や放射線の添加以外は全く同じ条件にしているものをコントロールとする。
【0039】
[工程2]スクリーニング対象の照射または投与
プレートにまいた複数のリンパ系細胞にスクリーニング対象の照射または投与を行う。例えば、放射線防護剤または放射線増感剤をスクリーニング対象とする場合であれば、リンパ系細胞に放射線防護剤または放射線増感剤の投与と放射線(スクリーニング対象の防護対象)の照射を行う。薬剤(スクリーニング対象)の毒性をスクリーニングする場合であれば、リンパ系細胞に薬剤を投与する。抗酸化剤(放射線防護剤の一種)をスクリーニング対象とする場合であれば、リンパ系細胞に抗酸化剤の投与と、細胞に酸化ストレスを与える放射線の照射や過酸化水素水の添加等を行う。
【0040】
なお、工程1及び工程2を行っている間、リンパ系細胞を入れている培養培地の温度は、3℃〜26℃の範囲にすることができ、4℃〜25℃程度が好ましく、4℃程度がより好ましい。
【0041】
また、工程1でリンパ系細胞(若しくはリンパ系細胞を含む組織)を培養培地に入れてから工程2が完了するまでの処理は、1時間から2時間程度で実行することができ、リンパ系細胞が培養培地に入っている時間も1時間から2時間程度となる。
【0042】
[工程3]所定時間のインキュベート
リンパ系細胞が細胞障害性因子の刺激で細胞死(アポトーシス)して凝縮するのに十分な時間のインキュベートを行う。このインキュベート時間(スクリーニング対象の照射又は投与後の細胞培養時間を指す。以下同じ)は、2時間以上が好ましく、2時間から6時間がより好ましく、3時間から5時間がさらに好ましく、4時間程度が最も好ましい。工程3において、このインキュベート時間と同じ時間、リンパ系細胞は培養培地に入っている。なお、このインキュベート時間は、リンパ系細胞の入った培養培地を、インキュベート用の温度とする環境に置いた時間を始期として測定している。
【0043】
インキュベート中の培養培地の温度は、3℃から41℃とすることができ、4℃から40℃が好ましく、37℃程度がより好ましい。pHは、pH6からpH8とすることが好ましく、pH6.8±0.5程度がより好ましい。
このインキュベート中に、細胞障害性因子(スクリーニング対象の防護対象、またはスクリーニング対象そのもの)の影響によりリンパ系細胞が細胞死を起こし、その際の凝縮によって細胞サイズが小さくなる。
【0044】
ここで、工程1から工程4の実施により、細胞障害性因子の影響によるリンパ系細胞の凝縮について説明する。
図1(A)は、細胞サイズの凝縮を説明するためのDAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)蛍光染色像を示す。この図は、胸腺細胞の核を染色し、蛍光顕微鏡を用い対物レンズ100倍にて撮影したものである。
【0045】
図示するように、生細胞LC(Living Cell)の核内には真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体であるクロマチン(Chromatin)構造を観察できる。細胞障害性因子によって細胞死した死細胞AC(Apoptotic Cell)では、核の濃縮が観察される。このように、細胞が断片化して出来るアポトーシス小体を形成することなく凝縮する性質を利用することで、細胞サイズの測定による細胞死の有無の測定が可能となる。
【0046】
図1(B)は、培養時間(インキュベート時間)による胸腺細胞における死細胞の割合に関する挙動を説明するグラフである。このグラフは、取り出し工程1〜2を経て精製したラット胸腺細胞にX線2Gyを照射後に一定期間の培養時間を経て、フローサイトメトリーにて死細胞の割合を測定したものである。具体的には、後述する実施例1のプロトコールを用い、インキュベート時間のみを1時間単位で0〜6時間まで異ならせて測定したものである。このグラフにおいて、横軸はインキュベート時間、縦軸は全体の細胞数に対する死細胞数の割合を示している。図示するように、インキュベート時間に依存して細胞死の割合が増加していることがわかる。
【0047】
[工程4]細胞サイズの測定
インキュベートした後に、リンパ系細胞の細胞サイズを測定する。本スクリーニング方法は、リンパ系細胞の細胞死を、リンパ系細胞の細胞サイズの変化、すなわち凝縮による細胞サイズの縮小により検出するものである。この細胞死を検出するための細胞サイズの測定は、複数のリンパ系細胞について、変化前の細胞サイズの分布と、変化後の細胞サイズの分布とを比較することで行える。
【0048】
比較の基となる変化前の細胞サイズは、(1)未処理(工程2でのスクリーニング対象の照射または投与のみ行わず、他の工程1,3,4を全て実施)のリンパ系細胞の細胞サイズ(コントロールの細胞サイズ)、(2)工程3も行わないそのままのリンパ系細胞の細胞サイズ、あるいは(3)予め(1)または(2)により測定しておき基準と定めておいた細胞サイズとすることができる。この中でも、純粋にスクリーニング対象の照射または投与に起因する変化のみを確認できる(1)未処理のリンパ系細胞の細胞サイズとすることが好ましい。
【0049】
細胞サイズの分布の比較は、具体的には、分布における細胞サイズのピーク部分の移動の有無と程度によって測定する、または細胞サイズの分布面積の変化の有無と程度によって測定する、または本来の細胞サイズの細胞数の変化の有無と程度によって測定するなど、適宜の方法によって測定できる。
【0050】
また、測定する細胞サイズは、リンパ系細胞の細胞全体のサイズとする、またはリンパ系細胞の核のサイズとする、あるいはこの両方とすることができる。細胞全体のサイズの方が凝縮の程度が大きくなり好ましいため、後述の実施例1〜実施例4では細胞全体のサイズを測定している。
【0051】
また、細胞サイズの測定と比較は、測定する装置に合わせて、細胞の面積、細胞の体積、または細胞の長さにより行うことができる。細胞の長さは、ある視点から見たある方向の最大長(例えば細胞含有液が流れる幅方向の最大長さ)、細胞の長径、細胞の短径、細胞の直径、細胞の半径など、適宜の長さとすることができる。面積とした場合は、長さよりも明瞭に差を判別でき、体積とした場合は、面積よりも明瞭に差を判別できる。また、面積または長さとした場合は、体積よりも容易に測定することができる。従って、面積とした場合は、差の明瞭性と測定の容易性を両立できる。
この測定は、フローサイトメトリー (Flow cytometry)、セルカウンター、または血球測定装置等、細胞のサイズを測定可能な装置で実行すると良い。後述の実施例1から実施例4では、フローサイトメトリーの一種であるFACSCalibur(BD, Becton Dickinson and Company)で測定しており、細胞サイズとして細胞の面積を測定している。この面積は、細胞をある一方向から見た面積であり、光に対する細胞の影のサイズとしてフローサイトメトリーにより測定できる。
【0052】
このように細胞サイズを測定することにより、スクリーニング対象の照射または投与による影響の有無と程度をスクリーニングできる。
このフローサイトメトリーによる測定は1サンプルあたり30秒〜2分で行えるため、その間リンパ系細胞は培養培地に入っていることとなる。インキュベート終了から測定中にかけてはサンプルの入ったプレートまたはチューブを氷上に置くなどしてサンプルを冷却しておくことが好ましい。
以下、工程1から工程4による具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0053】
実施例1として、リンパ系細胞に胸腺細胞を用いた例について説明する。この例では、ラットの胸腺細胞を用いる。なお、ラットはマウスに比べ胸腺が大きく、1匹から2000〜20000サンプル相当の大量の胸腺細胞が得られるため、スクリーニング等の研究に適している。
[工程1]リンパ系細胞(この例では胸腺細胞)の準備
(1)まず、ラットから胸腺を外科的に摘出する。
【0054】
(2)摘出した胸腺を、PBS中で軽く洗浄する。この洗浄は、1分から5分行えばよく、余分な血液や組織を洗い落とす程度であるから実際には2分から3分行えばよい。
【0055】
(3)FBS(ウシ胎児血清)(非動化処理済み)を約10%添加したRPMI1640培地に、洗浄した胸腺を入れる。非動化処理としては、56℃で30分の熱処理をしている。例では、RPMI1640培地を500ml(mlはミリリットル。以下同じ)とし、FBSは55mlとしている。なお、これ以降胸腺細胞を血清添加したRPMI1640培地に入れておくことで、凝縮の有無の分離能を高め、測定精度を向上している。
【0056】
(4)ピンセットを用いて胸腺から胸腺細胞を絞り出し、メッシュに通して余分なゴミを取り除き、胸腺細胞をバラバラにさせる。この処理中の培地温度は4℃であり、pHは6.8である。また、細胞精製中に使用する培地の量は約20mlである。
【0057】
(5)細胞数をカウントし、必要数をプレートにまく。この実施例の実験時には、48ウェルプレートを用いて5×10
5cells/wellをまいている。また、この実施例の実験時には、20サンプル程度の測定をしたため、培地を10ml程度使用している。なお、培地は、容器に合わせた容量の培地が必要となる。例えば、48ウェルプレートを用いた場合、プレートに細胞を播種する際に500μl/well(マイクロリットル パー ウェル)程度必要である。また、例えば、96ウェルプレートを用いた場合、プレートに細胞を播種する際に50〜200μl/well程度必要である。96ウェルプレートを1枚使用する場合であれば、最大で約20mlの培地を必要とする。
【0058】
[工程2]スクリーニング対象の照射または投与
この実施例では、(I)X線2Gyの照射、(II)カテキン誘導体1mM(mMはミリモラー。以下同じ)の投与、(III)カテキン誘導体1mMの事前投与とX線2Gyの照射、(IV)エピガロカテキン100μMの投与(μMはマイクロモラー。以下同じ)、(V)ビタミンC10μMの投与、(VI)ビタミンC100μMの投与を行った。この処理を行う際の培地温度は、4℃から室温とすることができ、反応が進まないよう4℃程度とすることが好ましい。なお、グレイ(gray、Gy)は、吸収線量の単位である。放射線によって1キログラムの物質に1ジュールの放射エネルギーが吸収されたときの吸収線量を1グレイと定義する。
【0059】
[工程3]所定時間のインキュベート
工程2の(I)から(VI)による試料に、4時間のインキュベートを行った。インキュベート中の培地温度は37℃であり、CO
2濃度は5%であり、加湿されており、pHは6.8である。
【0060】
[工程4]細胞サイズの測定
工程3のインキュベート後に、FACSCaliburを用いて測定した。測定に要した時間は1時間程度である。測定中、サンプルの入ったプレートを氷上に置き、サンプルを冷却しておいた。この測定結果を
図2及び
図3に示す。
【0061】
図2(A)から
図2(D)、及び
図3(A)から
図3(D)は、いずれも細胞サイズを測定した細胞サイズ測定グラフである。細胞サイズ測定グラフは、横軸が細胞サイズ、縦軸が細胞数である。
【0062】
図2(A)は、未処理の胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。図示するように細胞サイズのピークP1は、400付近となっている。ここで、本実施例のフローサイトメトリーは、コントロール(未処理の胸腺細胞)の細胞サイズのピークとなる生細胞ピーク位置L1が400付近となるように、横軸の数値が設定されている。また、この設定で、本実施例において細胞死した胸腺細胞の細胞サイズのピークは、死細胞ピーク位置A1となる。他の
図2(B)〜
図2(D)、
図3(A)〜
図3(D)についても、生細胞ピーク位置L(L1〜L7)を400付近とし、同じ設定で測定している。なお、死細胞ピーク位置A(A1〜A7)は、生細胞ピーク位置L(L1〜L7)よりも小さいサイズを示す位置であればよく、200付近、250付近、あるいは300付近など、適宜の位置とすることができる。
【0063】
図2(B)は、2GyのX線を照射した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。この場合、ピークP2は、200付近となっている。言い換えれば、生細胞ピーク位置L2の400付近にはピークが見られなくなり、コントロールでピークが見られなかった死細胞ピーク位置A2の200付近にピークP2が現れている。この
図2(B)と
図2(A)の比較により、上述した工程1から工程4のプロトコールを用い、工程2で胸腺細胞に2Gyの放射線を照射すると、照射により胸腺細胞が凝縮し、胸腺細胞の細胞サイズが半分になることがわかる。従って、本スクリーニング方法により、放射線等の細胞障害性因子がリンパ系細胞に対して細胞死(アポトーシス)を誘発する物質であることを同定できる。
また、このことから、フローサイトメトリーの設定が同じであるにもかかわらず、工程2を行わずに測定した胸腺細胞のピークP1の位置が死細胞ピーク位置A2である200付近(あるいは生細胞ピーク位置L2である400付近より小さい)であれば、胸腺を取り出す前の生体が放射線を浴びるか毒性の影響を受けていて、胸腺細胞の細胞死を誘発したであろうことを推定できる。
【0064】
図2(C)は、カテキン誘導体1mMを投与した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。カテキン誘導体による毒性は見られないため、ピークP3は生細胞ピーク位置L3である400付近のままである。従って、本スクリーニング方法によると、候補薬剤が、今回の放射線防護効果を有する濃度においては、リンパ系細胞に対して細胞死を誘発しない毒性のない物質であることを同定できる。
【0065】
図2(D)は、カテキン誘導体1mMを事前投与して2GyのX線を照射した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。ピークP4は、生細胞ピーク位置L4である400付近となっている。すなわち、2Gyの放射線を照射すると
図2(B)に示したようにピークP2が死細胞ピーク位置A4である200付近に移動するはずであるが、カテキン誘導体を事前投与したことでピークP4が400付近(生細胞ピーク位置L4)のままであり、死細胞ピーク位置A4である200付近にはピークが出現せず、細胞死による凝縮が起こっていないことがわかる。このことは、カテキン誘導体の放射線防護効果を示唆している。従って、本スクリーニング方法によると、候補薬剤が、細胞障害性因子(リンパ系細胞に対して細胞死を誘発する因子)に対して防護効果を有する物質であることを同定できる。
【0066】
図3(A)は、
図2(A)と同じ未処理の胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。
図3(B)は、エピガロカテキン100μMを投与した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。ピークP5は300付近(死細胞ピーク位置A5)となっている。この
図3(B)と
図3(A)を比較することで、エピガロカテキンによる毒性によりピークが移動したことがわかる。
【0067】
図3(C)は、ビタミンC10μMを投与した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。ピークP6は400付近(生細胞ピーク位置L6)のままであるが、カウント数が、
図3(A)に示したコントロールに対して少なくなっている。また、
図3(A)のコントロールでは400付近の生細胞ピーク位置L1だけにピークがあったことに対して、
図3(C)ではこれよりも小さい250付近の死細胞ピーク位置A6にもう一つの小さなピークP7が現れた。このことから、ビタミンCは10μMでは低い毒性を有することがわかる。
【0068】
図3(D)は、ビタミンC100μMを投与した胸腺細胞の細胞サイズ測定グラフである。400付近(生細胞ピーク位置L7)の位置にピークP8が存在しているが、カウント数が、
図3(A)に示したコントロールに対して著しく少なくなっている。また、
図3(A)のコントロールでは400付近の位置だけにピークがあったことに対して、
図3(D)ではこれよりも小さい250付近の死細胞ピーク位置A7にもう一つの大きなピークP9が現れた。このことから、ビタミンC100μMでは毒性が顕著に表れることがわかる。すなわち、この
図3(D)と
図3(C)から、ビタミンCは10μMではあまり毒性がないが、100μMだと毒性が顕著に表れることがわかる。従って、本スクリーニング方法により、候補薬剤がリンパ系細胞に対して細胞死を誘発する毒性のある物質であること、またその毒性の現れる濃度を同定できる。
【0069】
以上の実施例1より、放射線防護剤、抗酸化剤、および放射線増感剤のスクリーニング、薬剤の毒性のスクリーニング、薬剤による効果(薬効)のスクリーニングを実施できる。
【0070】
また、本スクリーニング方法は、全工程における手技が容易であり、4時間程度のインキュベートで良好な結果が得られ、準備作業と測定作業を含めても6〜8時間程度で完了できる。従って、本スクリーニング方法は、結果が出るまで何日もかかっていた従来方法と比べて、非常にハイスループットなアッセイである。このため、本スクリーニング方法によれば、新薬の探求に要する期間を大きく短縮することができる。
【0071】
また、本スクリーニング方法は、リンパ系細胞が細胞死によって細胞サイズが凝縮することを利用し、細胞サイズを測定してスクリーニングするものである。従って、本スクリーニング方法によると、研究者の顕微鏡観察による方法のように主観によって左右されることがなく、客観的で再現性の高いスクリーニングを実施できる。
【0072】
また、本スクリーニング方法によると、細胞死してもアポトーシス小体のような細胞断片化が起こらないため細胞数が変わらず、純粋に細胞サイズの変化だけを正確に測定できる。従って、明瞭で精度の良い結果を得ることができる。
【0073】
また、本スクリーニング方法は、従来のようにラット等の実験動物1体で1サンプルのスクリーニングをするようなものではなく、実験動物から多量に取得できるリンパ系細胞を使用するため、少量のサンプル容量で済む。その上、特殊な試薬も必要としない。従って、非常に安価に利用することができる。
【0074】
また、本スクリーニング方法は、事前準備として蛍光色素等で標識せずとも測定が可能であり、胸腺細胞のようなリンパ系細胞の準備のみですむため、安価かつ簡便に利用することができる。
【0075】
また、特定の細胞株を用いる必要がないため、継代中の性質の変化や細胞周期に依存することがなく、一定のデータを取ることができ、長期間経過後(例えば数十年後)のデータとも同じ基準で比較できる。従って、ワールドワイドな視野でスタンダードな方法として利用することができる。
【0076】
また、血清添加したRPMI1640培地のような培養培地を用いることで、凝縮細胞と正常細胞の分離能を高め、測定精度を向上させることができる。すなわち、血清添加したRPMI1640培地のような培養培地ではなく、Krebs−Ringer−phosphate solution(pH7.4)を用いた実験では、凝縮後の胸腺細胞の細胞サイズは、正常な胸腺細胞の細胞サイズに対して70%程度であった。これに対し、血清添加したRPMI1640培地のような培養培地を用いることで、凝縮後の胸腺細胞の細胞サイズが、正常な胸腺細胞の細胞サイズに対して50%程度にまで小さくなり、分離能が高まった。
【0077】
このように、本スクリーニング方法は、簡便性、客観性、および迅速性を全て備えた従来にない画期的な方法であり、研究に要する期間とコストを大幅に削減でき、研究者の満足度を向上させることができる。
【実施例2】
【0078】
次に、実施例2として、リンパ系細胞に白血球を用いた例について説明する。この例では、ラットの白血球を用いる。
【0079】
[工程1]リンパ系細胞(この例では白血球)の準備
(1)まず、ラットから血液を採取する。
(2)採取した血液の1/100量の抗凝固剤(0.5M EDTA−2Na)と血液の10倍量の1×溶血剤を添加する。この実施例では、血液を5ml、0.5M EDTA−2Naを50μl(μlはマイクロリットル。以下同じ)、1×溶血剤を50ml使用している。なお、抗凝固剤は、0.5M EDTA−2Naに限らず、適宜のものを利用できる。また、溶血剤は、ベクトン・ディッキンソン社(BD)のCat#555899を用いているが、これに限らず適宜のものを利用できる。
(3)遮光して室温で15分置く。
(4)回転速度1500rpmで5分間遠心する。
(5)上清を吸引除去してペレットを得、このペレットを、血清添加したRPMI1640培地にて溶解する。この培地には、実施例1と同じFBS(ウシ胎児血清)(非動化処理済み)を約10%添加したRPMI1640培地を用いており、pHは6.8である。これ以降白血球を血清添加したRPMI1640培地に入れておくことで、凝縮の有無の分離能を高め、測定精度を向上している。
(6)メッシュに通して余分なゴミを取り除き、細胞をバラバラにさせる。
(7)白血球の細胞数をカウントして必要数をプレートにまく。
【0080】
[工程2]スクリーニング対象の照射または投与
この実施例では、(I)採取した白血球に対するX線10Gyの照射を行った。この処理を行う際の培地温度は、4℃から室温とすることができ、反応が進まないよう4℃程度とすることが好ましい。
また、生体(ラット)が放射線照射を受けたことを事後的に検出する目的で、(II)X線10Gyの全身照射を行ったラットから採取した白血球での測定の採用も行った。すなわち、(II)の場合は、この工程2において何も行っていない。
【0081】
[工程3]所定時間のインキュベート
工程2の(I)から(II)による試料に、4時間のインキュベートを行った。インキュベート中の培地温度は37℃であり、CO
2濃度は5%であり、加湿されており、pHは6.8である。
【0082】
[工程4]細胞サイズの測定
工程3のインキュベート後に、FACSCaliburを用いて測定した。この測定結果を
図4に示す。
【0083】
図4(A)から
図4(D)は、いずれも細胞サイズを測定した細胞サイズ測定グラフである。細胞サイズ測定グラフは、横軸が細胞サイズ、縦軸が細胞数である。
図4(A),(B)は、横軸を整数としており、
図4(C),(D)は、横軸を指数としている。
【0084】
図4(A)は、未処理の白血球の細胞サイズ測定グラフであり、
図4(B)は、採取した白血球に工程2でX線を10Gy照射した場合の細胞サイズ測定グラフである。図示するように、コントロールのピークP10が、X線照射によって移動している。すなわち、
図4(B)に示すように、400強のピークP12はコントロールに比べてカウント数が減少しており、さらに300付近のピークP13はコントロールのピークP11に比べてカウント数が増加している。なお、この実験結果での細胞死の割合は、コントロールで19.71%、X線10Gy照射で41.37%であった。
【0085】
図4(C)は、未処理のラットから採取した白血球の細胞サイズ測定グラフであり、
図4(D)は、X線を10Gy全身照射したラットから採取した白血球の細胞サイズ測定グラフである。このグラフでは、黒色で示すピークP15を有するX線照射後のグラフに、
図4(C)に示したコントロールを灰色で示す比較用線K1として重ねて表示している。図示するように、コントロールのピークP14より小さな細胞集団のカウント数がX線照射によって増加している。すなわち、
図4(C)のコントロールのピークP14より小さな死細胞領域A8の細胞集団のカウント数が、
図4(D)のX線照射ラットの白血球での死細胞領域A9の細胞集団のカウント数においては増加している。なお、この実験結果での細胞死の割合は、コントロールで54.71%、X線10Gy全身照射で65.00%であった。
【0086】
以上の実施例2により、白血球でも実施例1の胸腺細胞と同様の効果を得ることができる。
なお、この実施例2では、
図4では死細胞画分に含まれる細胞数が多くなっている。従って、実施例2の条件でも測定できたが、白血球の分離能を上げる、インキュベート条件や測定条件を変更する、あるいは蛍光染色法と組み合わせて特定の細胞群だけを解析するといったさらなる至適化を行い、さらに測定精度を向上することも可能である。
また、実施例2ではラットを用いているが、他の哺乳動物やヒトから採取した血液からの白血球でも同様の効果を得ることができる。また、血液からの白血球であれば、動物個体を生かしたまま採取できる。
【実施例3】
【0087】
次に、実施例3として、リンパ系細胞に血液を用いた例について説明する。この例では、ラットの血液を用いる。
[工程1]リンパ系細胞(この例では血液)の準備
(1)まず、ラットから血液を採取する。
(2)採取した血液の1/100量の抗凝固剤(0.5M EDTA−2Na)を添加する。この実施例では、血液を5ml、0.5M EDTA−2Naを50μl使用している。なお、抗凝固剤は、0.5M EDTA−2Naに限らず、適宜のものを利用できる。
【0088】
[工程2]スクリーニング対象の照射または投与
この実施例では、(I)採取した血液に対するX線10Gyの照射を行った。また、生体(ラット)が放射線照射を受けたことを事後的に検出する目的で、(II)X線10Gyの全身照射を行ったラットから採取した血液での測定の採用も行った。すなわち、(II)の場合は、この工程2において何も行っていない。
【0089】
[工程3]所定時間のインキュベート
工程2の(I)から(II)による試料に、4時間のインキュベートを行った。インキュベート中の培地温度は37℃であり、CO
2濃度は5%であり、加湿されており、pHは6.8である。
【0090】
[工程4]細胞サイズの測定
工程3のインキュベート後に、FACSCaliburを用いて測定した。この測定結果を
図5に示す。なお、測定する試料の濃度がフローサイトメトリーでの測定に適さないほど濃い場合には、この段階で実施例1と同じFBS(ウシ胎児血清)(非動化処理済み)を約10%添加した培養培地、フローサイトメトリー用の測定溶液(シース液等)、PBS、あるいは生理食塩水等によって適度な濃度に希釈してもよい。
【0091】
図5(A)から
図5(D)は、いずれも細胞サイズを測定した細胞サイズ測定グラフである。細胞サイズ測定グラフは、横軸が細胞サイズ、縦軸が細胞数である。
図5(A)から
図5(D)は、横軸を指数としている。
【0092】
図5(A)は、未処理の血液の細胞サイズ測定グラフであり、
図5(B)は、採取した血液に工程2でX線を10Gy照射した場合の細胞サイズ測定グラフである。図示するように、コントロールのピークが、X線照射によって移動している。すなわち、
図5(A)に示すように、コントロールでは1050付近にピークP16があり、400付近に第2のピークP17がある。これに対してX線照射後は、
図5(B)に示すように、700付近のピークP18のみとなっており、それ以下の大きさの細胞集団をラダー状に観察できる。これは、400付近のピークが細胞死によってそれ以下の大きさの細胞集団にラダー状に分散し、1050付近のピークが細胞死によって700付近に移動していることを示している。
【0093】
図5(C)は、未処理のラットから採取した血液の細胞サイズ測定グラフであり、
図5(D)は、X線を10Gy全身照射したラットから採取した血液の細胞サイズ測定グラフである。図示するように、コントロールのピークP19、20が、X線照射によって移動している。すなわち、
図5(C)のコントロールでは250付近の第1のピークP19と75付近の第2のピークP20があるが、
図5(D)のX線照射ラットの血液では250付近のピークP21、75付近のピークP22、3付近のピークP23に分散している。なお、この実験結果での細胞死の割合は、コントロールで34.85%、X線10Gy全身照射で43.82%であった。
【0094】
以上の実施例3により、血液でも実施例2の白血球と同様の効果を得ることができる。すなわち、胸腺細胞や白血球やリンパ球といった特定細胞の場合は、特定細胞のピークを見ることで判定できたが、血液の場合は、このようなピークに限らず全体の細胞サイズの変化を確認することで細胞の凝縮を判定することができる。
【0095】
なお、この実施例3では、
図5では死細胞画分に含まれる細胞数が多くなっている。従って、実施例3の条件でも測定できたが、インキュベート条件や測定条件を変更する、あるいは蛍光染色法と組み合わせて特定の細胞群だけを解析するといったさらなる至適化を行い、さらに測定精度を向上することも可能である。血液の測定結果において細胞集団の分散が観察されたことから、細胞の断片化の可能性が示唆される。このことから至適化条件として、インキュベート前に血清添加したRPMI1640培地等の培養培地にて希釈し、これ以降血液を血清添加したRPMI1640培地等の培養培地に入れておくことで、細胞の断片化を防ぎ測定精度を向上できる。
また、実施例3ではラットを用いているが、他の哺乳動物やヒトから採取した血液でも同様の効果を得ることができる。また、血液であれば動物個体を生かしたまま採取できる。
【実施例4】
【0096】
次に、実施例4として、リンパ系細胞にリンパ球を用いた例について説明する。この例では、ラットのリンパ球を用いる。
[工程1]リンパ系細胞(この例ではリンパ球)の準備
実施例3の[工程1]と同一の処理を行った上で、リンパ球単離キットを用いてリンパ球を単離する。リンパ球単離キットは、例えばコスモ・バイオ社のLympholyte(登録商標)−Mammal CL5115を用いることができるが、これに限らず適宜のものを利用できる。この単離工程中に、リンパ球は培養培地に入れられる。培養培地は、実施例1と同じFBS(ウシ胎児血清)(非動化処理済み)を約10%添加したRPMI1640培地を用いており、pHは6.8である。
その他の[工程2]から[工程4]は、実施例2または実施例3と同一の処理を行えばよいため、その詳細な説明を省略する。
【0097】
この実施例4でも、実施例3と同様の効果を得ることができる。なお、実験結果のグラフについては図示省略する。
【0098】
以上に説明したスクリーニング方法により、細胞障害性因子(放射線、紫外線、薬剤等)の影響及び毒性、細胞障害性因子に対する防護性、および、細胞障害性因子に対する増感性をスクリーニングすることができる。
【実施例5】
【0099】
次に、実施例5として、個体間の感受性の差を検出する例について説明する。この実施例では、WMN/Nrs系統ラット、C57BL/6とC3H/HeのF1系統マウス間の放射線に対する胸腺細胞の感受性の差を検討した。またそれぞれの系統の雌と雄を用い、雌雄間の放射線に対する胸腺細胞の感受性を検討した。
それぞれの個体から採取した胸腺細胞を精製単離後にX線2、10Gyを照射し、インキュベート時間ごとの細胞死の起こり方の挙動をFACSCaliburにて測定した。この処理のプロトコールは、実施例1の工程1〜工程4と同一である。
【0100】
図6(A)、
図6(B)は、それぞれ、WMN/Nrs系統ラットの雄、雌、F1系統マウスの雄、雌の4群間の比較検討の図をあらわしている。
図6(A)は、X線を2Gy照射した場合の測定結果であり、
図6(B)は、X線を10Gy照射した場合の測定結果である。いずれも、横軸はインキュベート時間、縦軸は全体の細胞数に対する死細胞数の割合を示している。
【0101】
今回用いた系統においては、同じ系統(種別)では雌雄間における放射線に対する感受性の差はX線2、10Gyにおいてはないことがわかる。対して、ラット、マウス間のような種別間においては、放射線に対する感受性の差を確認できた。特に、
図6(B)に示すように、X線10Gy照射後、培養時間6時間において差が顕著に表れており、F1系統マウスよりWMN/Nrs系統ラットの方が放射線に対する感受性が高いということがわかる。
【0102】
また、線量が大きいほど死細胞の割合が大きいことから、放射線の線量依存的に、胸腺細胞の細胞死が誘導されていることがわかる。また、培養時間が長いほど死細胞の割合が大きいことから、培養時間依存的に胸腺細胞の細胞死が誘導されていることがわかる。
【0103】
また、死細胞は、インキュベート時間が2時間程度から増加し始めているため、インキュベート時間は、少なくとも2時間以上とすることが好ましい。
また、データには示していないが、6時間を超えると細胞の膨張も発生し、さらにグラフの傾斜が緩やかになる。このことから、インキュベート時間は、6時間を超えるよりも6時間以内の方が好ましい。
また、インキュベートの時間に対する死細胞の割合のグラフの傾斜が、時間経過に伴って大きくなっているが、4時間を経過すると傾斜が緩やかになっている。このことから、4時間以降経過するとオーバーキルのような現象が起こっていることがわかる。従って、インキュベート時間は4時間程度が最も好ましい。
【0104】
この実施例5のようにして、個体間の感受性の差を検出することができる。従来であれば、細胞障害性因子(放射線、紫外線、または薬剤等)の個人の感受性や障害の程度の推測等は、染色体を観察する方法などがとられていた。これに対し、本スクリーニング方法によると、細胞障害性因子に対する個体(若しくは個人)の感受性や障害の程度の推計等を、短期間で安価かつ客観的になし得る。また、生きた生体から採取可能なリンパ系細胞(白血球やリンパ球等)を用いることで、個体を生かしたまま感受性の差を検出することができる。
【0105】
なお、例えば、ある個体から採取した複数のリンパ系細胞に対して複数種類の薬剤を別々に投与し、この投与により得られる各系について、細胞サイズの凝縮を測定しても良い。この場合、各系の測定結果を比較することで、どの薬剤に対する感受性が強い個体であるかを推計できる。リンパ系細胞に対して薬剤の投与量を異ならせた複数の系で測定した場合には、適切な投与量を推計することもなし得る。
【0106】
また、このような推計を行うことで、本スクリーニング方法は、薬剤投与量の推計や放射線被ばく線量の推計にも利用し得る。
また、実施例2,3では生きたラットに放射線を照射してから観察したが、放射線に限らず、生きた生体に細胞障害性因子を投与若しくは照射し、それからリンパ系細胞を採取しても、同様の効果を得ることができる。
【0107】
以上に説明したように、本スクリーニング方法は、短期間で容易に精度よく測定できるため、先行技術にとって代わる技術となりうる。そして、本スクリーニング方法は、将来のオーダーメイド医療実現に向けて応用性の高い方法となりうる。
【0108】
また、一般的な大学/研究施設/医療現場等で所有している基本的な装置であるフローサイトメトリー、セルカウンター、血球測定装置等を用いて測定できるため、本スクリーニング方法は、多くの現場でコストをかけずに利用することができる。
【0109】
また、本スクリーニング方法は、遺伝子ノックアウトの技法によって1個以上の遺伝子が無効化されたノックアウトマウス等のような遺伝子組換え動物のリンパ系細胞を用いて研究を行うこともできる。この場合も、迅速簡便で精度の良いスクリーニングを実施できる。
【0110】
また、本スクリーニング方法は、薬剤の毒性を判定できるという面を持つことから、厚生労働省・農林水産省や企業等での新薬等の毒性判定等において迅速簡便な方法として応用することも可能である。
【実施例6】
【0111】
次に、上述したスクリーニング方法を容易にするスクリーニングキットについて説明する。このスクリーニングキットは、放射線および薬剤の毒性のスクリーニング、放射線防護剤、抗酸化剤、および放射線増感剤のスクリーニング、放射線や薬剤に対する個体の感受性のスクリーニング等に利用できる。
【0112】
図7は、スクリーニングキット1の説明図である。
図7(A)はスクリーニングキット1の外観構成を示す斜視図であり、
図7(B)はスクリーニングキット1に含まれる96ウェルプレート3の平面図である。
【0113】
図7(A)に示すように、スクリーニングキット1は、ポジティブコントロール試薬2a、ネガティブコントロール試薬2b、防護性コントロール試薬2c、蛍光染色液2d、固定液3e、および96ウェルプレート3を有している。
【0114】
ポジティブコントロール試薬2aは、例えば、過酸化水素水(H
2O
2)、細胞障害性試薬(カンプトテシン(Camptothecin、CPT)、フルオロウラシル(5−FU)等の抗がん剤等)、リンパ系細胞に細胞死を誘発させる試薬とする。
ネガティブコントロール試薬2bは、水、エタノール、DMSO(ジメチルスルホキシド、Dimethyl sulfoxide)等、リンパ系細胞に細胞死を起させない試薬とする。中でも、ネガティブコントロール試薬2bは、候補薬剤を溶かす溶液とし、候補薬剤を溶かす用途とネガティブコントロールの両方に使用させることが好ましい。
防護性コントロール試薬2cは、ポジティブコントロール試薬2aによる細胞死の誘発を防護する試薬とする。
【0115】
例えば、酸化ストレスをスクリーニングする場合、ポジティブコントロール試薬2aを過酸化水素水とし、ネガティブコントロール試薬2bを試薬の希釈に用いる溶媒とし、防護性コントロール試薬2cをビタミン類(ビタミンE等)とすることができる。他にも、薬剤毒性をスクリーニングする場合、細胞死を誘発するポジティブコントロール試薬2aをカンプトテシンとし、ネガティブコントロール試薬2bを試薬の希釈に用いる溶媒とし、防護性コントロール試薬2cを細胞死を阻害する試薬(アポトーシス阻害剤として働くプロテアーゼインヒビター等)とすることができる。
【0116】
蛍光染色液2dは、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)、ヘキスト (Hoechst)、またはフルオレセイン(Fluorescein)など、若しくはこれらの複数であり、細胞全体、細胞膜、または核を蛍光染色する試薬である。
この蛍光染色液2dを用いてリンパ系細胞を染色した場合には、クロマチンの凝集を顕微鏡下で観察する等により、細胞の大きさだけでなく形体変化も観察するといった詳細な観察も可能である。
また、リンパ系細胞として血液を利用した場合、白血球特異的な蛍光染色液2dで染める、リンパ球特異的な蛍光染色液2dで染める、あるいは白血球とリンパ球を蛍光色の異なる2種類の蛍光染色液2dで染め分けるといったことをインキュベート後測定前に行うことで、血液に含まれる特定細胞(リンパ球、白血球、赤血球、血小板、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球など)を選別し、その選別した特定細胞の凝縮を測定することができる。
【0117】
固定液2eは、パラホルムアルデヒドやホルマリン、架橋剤であるクロスリンカー等の細胞固定液である。この固定液2eを用い、処理後(インキュベート後)に固定処理を行うことで、処理した細胞の保存が可能となり、後日に蛍光染色等により観察することもできる。
【0118】
なお、スクリーニングキット1は、蛍光染色液2dまたは/および固定液2eを含まない構成としてもよい。この場合でも、胸腺細胞や白血球やリンパ球等の細胞サイズを測定することで、スクリーニングできる。
【0119】
96ウェルプレート3は、試薬を収納する複数のウェル4を有している。このウェル4は、上面が開放され底のある円筒形上をしている。この実施例の96ウェルプレート3には、8×12の96個のウェル4が左右に整列して設けられている。
【0120】
図7(B)の点線5に示すように、ウェル4を、3つずつセットにして用いることができる。この場合、例えばA列のNo.1〜No.3のウェル4にポジティブコントロール試薬2a(PC)を入れ、A列のNo.4〜No.6のウェル4にネガティブコントロール試薬2b(NC)を入れ、以降、3つのウェル4をセットにした区画#01から区画#30まで、30個の試薬をそれぞれ入れて利用できる。これにより、一度に30個の試薬をスクリーニングでき、1試薬について3つのウェル4で確認できる。
また、96ウェルプレート3は、これに限らず様々な利用ができる。例えば、区画#01に、防護性コントロール試薬2cを入れることもできる。また、各コントロール試薬(2a,2b,2c)について、複数の区画(1区画にウェル4を3つ使用)にそれぞれ濃度を異ならせて入れることもできる。この場合は、濃度差による影響の違いを測定できる。
【0121】
このようなスクリーニングキット1を使用し、測定装置フローサイトメトリーで測定する際に、96サンプルを自動的に順番に測定するシステムを利用(低温に保つ、定期的にシェイクする機能搭載)することで、本スクリーニング方法を、自動的で、よりハイスループットなアッセイとすることができる。すなわち、実施例1から実施例4の工程4と同一の効果を、より短期間で大量に得ることができる。
【0122】
なお、この例では96ウェルプレートを用いたが、これに限らず、48ウェルプレートを用いる等、適宜のプレートを用いることができる。
また、今後細胞に損傷を与えずに保存できる技術が向上することで、液体窒素で冷凍保存したリンパ系細胞をスクリーニングキット1に含めることもなし得る。この場合、利用者はリンパ系細胞を準備する工程を省略でき、さらに便利に利用できる。
【0123】
また、リンパ球単離キットや、白血球単離キット、溶血剤、正常細胞の細胞サイズまたは/および細胞死による凝縮後の細胞サイズと同じサイズのビーズ、またはこれらの複数をスクリーニングキット1に含めることもできる。
【0124】
これにより、より便利に利用することができる。リンパ球単離キットや、白血球単離キットを同梱した場合には、リンパ球や白血球の単離を容易化することができる。
【0125】
ビーズ(蛍光性で細胞と区別できるもの)を同梱した場合には、ビーズサイズと同じ細胞サイズを測定する、ビーズサイズの半分程度の細胞サイズを測定するといったことで目的とする細胞のサイズを測定することができる。ビーズは、正常な細胞の細胞サイズと同じサイズ、細胞死により凝縮した細胞の細胞サイズと同じサイズ、またはこの両方を用いることができる。
【実施例7】
【0126】
次に、細胞測定装置であるフローサイトメータ10と、このフローサイトメータ10に用いる解析プログラム44について説明する。このフローサイトメータ10は、上述した実施例1から実施例5の測定に用いることができ、実施例6のスクリーニングキット1を使用できるものである。
【0127】
図8は、フローサイトメータ10のブロック図を示す。
フローサイトメータ10は、測定装置11と、コンピュータ40とを有している。
測定装置11は、流体処理機構12と、光学処理機構13と、これらを制御処理する処理装置20とを有している。
【0128】
流体処理機構12は、シース液供給部21と、分析対象液供給部22と、フローチャンバ25と、フローセル26とを有している。
シース液供給部21は、シース液を貯蔵し、このシース液をフローセル26に供給する。
【0129】
分析対象液供給部22は、分析対象液をフローチャンバ25に供給する。分析対象液は、実施例1から実施例5で説明した工程1から工程3による処理後のリンパ系細胞を有する液、実施例6で説明したポジティブコントロール試薬2a、またはネガティブコントロール試薬2bによる処理後のリンパ系細胞を有する液である。
【0130】
フローチャンバ25は、略円筒形であり、その下方にフローセル26を有している。このフローチャンバ25内で、シース液供給部21から供給されるシース液が分析対象液供給部22から供給される分析対象液を円筒状に包み込むシースフロー(層流)が形成される。そして、フローチャンバ25内では、分析対象液に含まれるリンパ系細胞の細胞粒子が一列に整列され、この細胞粒子がフローセル25内を一度に1個ずつ通過する。
【0131】
光学処理機構13は、光源部31、蛍光用検出部32、第1検出部33、第2検出部34を有している。
光源部31は、フローセル25内で整列した細胞粒子にレーザービームを連続的に照射する。
【0132】
蛍光用検出部32は、蛍光染色された細胞粒子が前記レーザービームを受けて放射する光を検出する。
第1検出部33は、細胞粒子が前記レーザービームを受けて生じた前方の散乱光(レーザービーム進行方向の散乱光)を検出する。
第2検出部34は、細胞粒子が前記レーザービームを受けて生じた速報の散乱光(レーザービーム進行方向と直角方向の散乱光)を検出する。
【0133】
蛍光用検出部32、第1検出部33、および第2検出部34で検出した信号は、処理装置20に送信される。処理装置20は、受信した信号について信号処理を行い、このアナログ信号をデジタルデータに変換し、コンピュータ40に送信する。
【0134】
コンピュータ40は、CPUとROMとRAMで構成されて各種演算処理や制御処理を行う制御部41と、各種プログラムやデータを記憶するハードディスク等の記憶部42と、フローサイトメータ10等の他の装置とUSB等で接続されてデータ通信を行う接続部46と、マウス及びキーボード等で構成されて入力を受け付ける入力部47と、液晶ディスプレイまたはCRT等で構成されて文字や画像を表示する表示部48と、CD−ROM等の記録媒体51に対してデータの読み込み及び書き込みを行う記録媒体処理部49を有しており、これらの各部がシステムバス50で接続されている。
【0135】
記録媒体51には、測定プログラム43と解析プログラム44が記憶されている。この測定プログラム43および解析プログラム44は、記録媒体51に記録しておき、コンピュータ40にインストールする形で記憶部42に記憶させるとよい。
【0136】
測定プログラム43は、フローサイトメータ10の処理装置20から受信するデータに基づく測定を行うプログラムである。この測定プログラム43は、フローサイトメトリー等にインストールされている既存のプログラム(例えば、ベクトン・ディッキンソン社(BD)のCellQuest Pro Software)であり、細胞サイズの測定、細胞サイズ毎の細胞数のカウント等、適宜の測定を行う。
【0137】
解析プログラム44は、実施例1から実施例5に説明したようなリンパ系細胞の凝縮によるスクリーニング用のプログラムである。この解析プログラム44は、データ受領部61、境界決定部62、生細胞面積計算部(生細胞計算部)63、死細胞面積計算部(死細胞計算部)64、比率計算部65、および計算結果出力部66を有している。
【0138】
図9は、解析プログラム44による解析方法を説明するための説明図である。
図9(A)および
図9(B)は、未処理の胸腺細胞についての細胞サイズの測定結果を示している。いずれも細胞サイズとカウント数からなるグラフであり、見た目の違いは表現方法の違いである。未処理のリンパ系細胞のサンプル(コントロール)とは、薬剤や放射線の添加以外は比較検討対象のサンプルと全く同じ条件にしているものをさす。図中の領域R1および面積S
Aは、死細胞の領域および面積を示し、図中の領域R2および面積S
Bは、生細胞の領域および面積を示している。ここで、面積は細胞数を反映している。
【0139】
図9(C)および
図9(D)は、X線を2Gy照射した胸腺細胞についての細胞サイズの測定結果を示している。コントロールに対してX線2Gy照射後は、死細胞の領域R1が拡大して面積S
Aが大きくなっており、生細胞の領域R2が縮小して面積S
Bが小さくなっている。ここで、面積は細胞数を反映している。
【0140】
この
図9を参照しながら、解析プログラム44(
図8参照)の動作を説明する。
データ受領部61は、測定プログラム43から測定データを受領するステップを行う。
境界決定部62は、受領したデータについて、死細胞と生細胞の境界となる細胞サイズを決定するステップを行う。この算出は、
図9(B)及び
図9(D)に示すように、生細胞のピークから傾斜して下がる稜線と、死細胞のピークから傾斜して下がる稜線の交点部分を求めて決定する。この算出処理は、コントロールの測定データを用いて定める、処理後の測定データ(X線2Gyの測定データ)を用いて定める、あるいは予め設定しておくなど、適宜の方法によって決定する。
【0141】
生細胞面積計算部63は、境界決定部62で決定した境界より小さい細胞によって形成される面積S
Aの積分値を算出するステップを行う。
死細胞面積計算部64は、境界決定部62で決定した境界より大きい細胞によって形成される面積S
Bの積分値を算出するステップを行う。
【0142】
比率計算部65は、面積S
Aと面積S
Bの比率を計算するステップを行う。この計算は、次の[数1]の計算式によって計算する。
【0143】
【数1】
【0144】
計算結果出力部66は、計算結果を表示部48等に出力するステップを行う。この計算結果は、前記[数1]により計算した値とする、あるいはその値によって判定した試薬の効果とするなど、適宜の結果とすることができる。また、この計算結果の出力は、1つの試薬についての計算結果であってもよいが、実施例7に示したスクリーニングキット1を用いて30個の試薬をスクリーニングした場合であれば、30個の試薬についての結果をリスト形式で出力するなど、適宜の形式で出力することができる。なお、接続部46に印刷装置が接続されていれば、計算結果出力部66は、計算結果を印刷出力することもできる。
【0145】
なお、フローサイトメータ10は、96ウェルプレートから96個のサンプルを自動的に順番に取り出して測定する機能、サンプルを所定温度(例えば低温)に保つ機能、定期的にサンプルをシェイクする機能を備えている。従って、実施例6のスクリーニングキット1を用いて自動処理することができる。
【0146】
以上のフローサイトメータ10により、放射線防護剤、抗酸化剤、および放射線増感剤のスクリーニング、薬剤の毒性のスクリーニング、薬剤による効果のスクリーニングを効率よく実施できる。解析プログラム44は、既存のフローサイトメトリー等のフローサイトメータ10にインストールして使用することができる。従って、一般的な大学、研究施設、医療現場等が所有している既存の装置に、記録媒体51から解析プログラム44をインストールすることで、ハイスループットなスクリーニングが可能となる。
【0147】
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
例えば、リンパ系細胞に限らず、細胞死により凝縮する他の細胞に応用することもなし得る。他の細胞は、生体の細胞とすることができ、好ましくは哺乳動物の細胞とすることができ、ES細胞またはiPS細胞から誘導分化した細胞とすることもできる。この場合、スクリーニング方法に用いる細胞には、細胞が断片化して出来るアポトーシス小体を形成することなく凝縮する細胞を用いることができる。
スクリーニング対象としては、細胞の細胞死を誘発させる物質、または、投与することで細胞の細胞死を防護する物質とすることができる。
従って、本スクリーニング方法の応用例では、細胞死を伴う疾患に対する薬剤のスクリーニングに用いることができる。この疾患としては、例えば、血球減少、炎症性疾患、自己免疫疾患、破壊性骨障害、増殖性障害、感染性疾患、変性疾患、細胞死に関連した疾患、食事アルコール過剰摂取疾患、ウイルス媒介疾患、葡萄膜炎、炎症性腹膜炎、骨関節炎、膵臓炎、喘息、成人型呼吸窮迫症候群、糸球体腎炎、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、慢性甲状腺炎、グレーブス病、自己免疫性胃炎、糖尿病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性好中球減少、血小板減少、慢性活動性肝炎、重症筋無力症、炎症性腸疾患、クローン病、乾癬、アトピー性皮膚炎、瘢痕、移植片対宿主病、臓器移植拒絶、骨粗鬆症、白血病および関連障害、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫関連骨障害、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、転移性黒色腫、カポジ肉腫、多発性骨髄腫、出血性ショック、敗血症、敗血症性ショック、熱傷、シゲラ症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、プリオン病、脳虚血、てんかん、心筋虚血、急性および慢性の心疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全、アテローム性動脈硬化症、冠動脈バイパス移植、脊髄筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、HIV関連脳炎、老化、脱毛、発作による神経学的傷害、潰瘍性大腸炎、外傷性脳損傷、脊髄損傷、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、G型肝炎、その他の型のウイルス性肝炎、薬物(例えば、パラセタモール)により誘導された肝疾患、黄熱病、デング熱、日本脳炎、肝疾患、アルコール性肝炎、腎疾患、多発性嚢胞腎疾患、ピロリ菌関連胃十二指腸潰瘍疾患、HIV感染、結核、髄膜炎等が含まれる。
このように応用した場合にも、細胞サイズの測定によって、短期間で安価に客観的なスクリーニングを実施できる。