(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5794494
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】医療用針
(51)【国際特許分類】
A61B 17/06 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
A61B17/06 310
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-184747(P2014-184747)
(22)【出願日】2014年9月11日
【審査請求日】2014年11月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514107299
【氏名又は名称】株式会社 コスミック エム イー
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 昌夫
【審査官】
村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−252408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部がループ状構造であるループ針及び外径が該ループ針の外径よりも大きい把持部を備えたループ部材と、
管状の糸通し針及び外径が該糸通し針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、末端から前記ループ部材を挿通可能であり、かつ、先端部がループ状構造ではない糸通し部材と、
先端部が鋭角構造である管状の穿刺針及び外径が該穿刺針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、かつ、末端から前記糸通し部材を挿通可能である穿刺部材と
からなる医療用針であって、
前記糸通し部材に前記ループ部材を限度まで挿通した場合に、前記ループ針の先端部は前記糸通し針の先端部から突出するように、前記ループ針の針長は前記糸通し針の針長よりも長くなるように形成され、及び
前記穿刺部材に前記糸通し部材を限度まで挿通した場合に、前記糸通し針の先端部は前記穿刺針の先端部から突出するように、前記糸通し針の針長は前記穿刺針の針長よりも長くなるように形成される、前記医療用針。
【請求項2】
前記ループ部材の把持部は、短径の延長方向に突起部が設けられており、
前記糸通し部材の把持部は、末端から長径方向に第1及び第2の切込み部が設けられており、
前記ループ部材の突起部は前記糸通し部材の第1及び第2の切込み部と嵌合可能であり、
前記糸通し部材の第1の切込み部の深さは、前記ループ部材の突起部が前記糸通し部材の第1の切込み部と嵌合した場合に、前記ループ針の先端部が前記糸通し針の先端部から突出しない程度に形成され、及び
前記糸通し部材の第2の切込み部の深さは、前記ループ部材の突起部が前記糸通し部材の第2の切込み部と嵌合した場合に、前記ループ針の先端部が前記糸通し針の先端部から突出する程度に形成される、
請求項1に記載の医療用針。
【請求項3】
前記糸通し部材の把持部は、短径の延長方向に突起部が設けられており、
前記穿刺部材の把持部は、末端から長径方向に第1及び第2の切込み部が設けられており、
前記糸通し部材の突起部は前記穿刺部材の第1及び第2の切込み部と嵌合可能であり、
前記穿刺部材の第1の切込み部の深さは、前記糸通し部材の突起部が前記穿刺部材の第1の切込み部と嵌合した場合に、前記糸通し針の先端部が前記穿刺針の先端部から突出しない程度に形成され、及び
前記穿刺部材の第2の切込み部の深さは、前記糸通し部材の突起部が前記穿刺部材の第2の切込み部と嵌合した場合に、前記糸通し針の先端部が前記穿刺針の先端部から突出する程度に形成される、
請求項1又は2に記載の医療用針。
【請求項4】
前記糸通し部材は、末端に嵌合し得る脱着可能なアタッチメントを備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療用針。
【請求項5】
前記穿刺部材は、前記穿刺針の先端部から前記穿刺部材の把持部の末端まで、長径方向に縫合糸の径より大きい第3の切込み部が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療用針。
【請求項6】
前記医療用針は、小児鼠径ヘルニア用針である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医療用針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹腔鏡下手術に使用される医療用針に関する。
【背景技術】
【0002】
小児鼠径ヘルニアは先天的な疾患であり、日本国内での年間症例数は約2万例であり、小児外科で最も多い疾患の一つである。健常な男児の場合、出生時に睾丸が陰嚢内に降りてくるときに、腹膜が一緒に引っ張られて、陰嚢内で袋状になる。しかし、睾丸が陰嚢にまで達すると、この袋状になった腹膜は自然に閉じる。この際、閉じずに袋状の腹膜(ヘルニア嚢)が維持すると、そのヘルニア嚢の中に腸などの腹中組織が入り込むようになる。これが小児鼠径ヘルニアである。また、女児の場合は、子宮の両上端から子宮円索という靭帯が精巣の下降経路と同一の経路で鼠径部に伸びて、子宮を固定するようになる。この靭帯が腹膜の突起を伴って下降するので、これが閉じないと、ヘルニアサックとなる。
【0003】
小児鼠径ヘルニアの治療は、ヘルニア嚢の根本(ヘルニア門)を縫合糸で縛って閉じる外科手術によって行われる。この小児鼠径ヘルニアの外科手術には、開腹手術及び腹腔鏡手術の2つがある。開腹手術は、鼠径部の皮膚を切開し、ヘルニア嚢を取り出した後に、ヘルニア門付近を縫合糸で縛って塞ぐことにより行われる。このように、開腹手術では腹部を切開することから、傷跡が残りやすく、術後の痛みが大きいという問題がある。
【0004】
一方、腹腔鏡手術(Laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure:LPEC法)では、臍付近に小さな穴を開けて腹腔鏡(カメラ)を挿入し、腹腔内をモニターで確認しながら、手術器具を用いてヘルニア門付近を縫合糸で縛って塞ぐことにより行われる。このように、LPEC法は被手術者に対する侵襲の程度が小さいことから、開腹手術で生じる傷跡や術後の痛みの問題を回避できる。
【0005】
LPEC法で使用される手術器具として、非特許文献1に記載のラパヘルクロージャー(登録商標)と称される縫合糸誘導針が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岩出珠幾ら、信州医誌、2013、61(3)、pp.139〜147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の縫合糸誘導針を用いれば、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導できる。しかしながら、非特許文献1に記載の縫合糸誘導針は、針先に縫合糸をつけた状態で患部に穿刺しなければならず、さらに穿刺後にヘルニア門の上縁から外側縁に沿って下縁へ運針する際も針先に縫合糸をつけた状態で行わなければならない。
【0008】
このように、非特許文献1に記載の縫合糸誘導針を用いて実施するLPEC法は、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導する際の穿刺、運針及び穿破において、針先に縫合糸をつけた状態の針を使わなければならないことから、手技が非常に困難な方法であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みて、非特許文献1に記載の縫合糸誘導針に比べて、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導する際の穿刺、運針及び穿破が容易であることから、手技がより簡易化されたLPEC法を実施し得る医療用針を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、穿刺するための穿刺部材と縫合糸を把持するためのループ部材とを別個に設けることにより、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導する際の穿刺、運針及び穿破を容易にすることに成功した。また、縫合糸を内側から通すための糸通し部材をさらに別個に設けて、ループ部材、糸通し部材及び穿刺部材をこの順に挿通及び組み合わせて用いることにより、驚くべきことに、穿破後に穿刺針の先端から縫合糸を掴み出すことを容易にすることに成功した。このように、本発明者らは、手技がより簡易化されたLPEC法を実施し得るための医療用針を製造することに成功した。本発明は、これらの成功例に基づいて完成された発明である。
【0011】
したがって、本発明によれば、先端部がループ状構造であるループ針及び外径が該ループ針の外径よりも大きい把持部を備えたループ部材と、管状の糸通し針及び外径が該糸通し針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、かつ、末端から前記ループ部材を挿通可能である糸通し部材と、先端部が鋭角構造である管状の穿刺針及び外径が該穿刺針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、かつ、末端から前記糸通し部材を挿通可能である穿刺部材とからなる医療用針であって、前記糸通し部材に前記ループ部材を限度まで挿通した場合に、前記ループ針の先端部は前記糸通し針の先端部から突出するように、前記ループ針の針長は前記糸通し針の針長よりも長くなるように形成され、及び前記穿刺部材に前記糸通し部材を限度まで挿通した場合に、前記糸通し針の先端部は前記穿刺針の先端部から突出するように、前記糸通し針の針長は前記穿刺針の針長よりも長くなるように形成される、前記医療用針が提供される。
【0012】
本発明の医療用針において、好ましくは、前記ループ部材の把持部は、短径の延長方向に突起部が設けられており、前記糸通し部材の把持部は、末端から長径方向に第1及び第2の切込み部が設けられており、前記ループ部材の突起部は前記糸通し部材の第1及び第2の切込み部と嵌合可能であり、前記糸通し部材の第1の切込み部の深さは、前記ループ部材の突起部が前記糸通し部材の第1の切込み部と嵌合した場合に、前記ループ針の先端部が前記糸通し針の先端部から突出しない程度に形成され、及び前記糸通し部材の第2の切込み部の深さは、前記ループ部材の突起部が前記糸通し部材の第2の切込み部と嵌合した場合に、前記ループ針の先端部が前記糸通し針の先端部から突出する程度に形成される。
【0013】
本発明の医療用針において、好ましくは、前記糸通し部材の把持部は、短径の延長方向に突起部が設けられており、前記穿刺部材の把持部は、末端から長径方向に第1及び第2の切込み部が設けられており、前記糸通し部材の突起部は前記穿刺部材の第1及び第2の切込み部と嵌合可能であり、前記穿刺部材の第1の切込み部の深さは、前記糸通し部材の突起部が前記穿刺部材の第1の切込み部と嵌合した場合に、前記糸通し針の先端部が前記穿刺針の先端部から突出しない程度に形成され、及び前記穿刺部材の第2の切込み部の深さは、前記糸通し部材の突起部が前記穿刺部材の第2の切込み部と嵌合した場合に、前記糸通し針の先端部が前記穿刺針の先端部から突出する程度に形成される。
【0014】
本発明の医療用針において、好ましくは、前記糸通し部材は、末端に嵌合し得る脱着可能なアタッチメントを備える。
【0015】
本発明の医療用針において、好ましくは、前記穿刺部材は、前記穿刺針の先端部から前記穿刺部材の把持部の末端まで、長径方向に縫合糸の径より大きい第3の切込み部が設けられている。
【0016】
本発明の医療用針において、好ましくは、前記医療用針は、小児鼠径ヘルニア用針である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の医療用針は、いわゆる三段ロケット方式を採る。すなわち、本発明の医療用針を構成するループ部材、糸通し部材及び穿刺部材の針及び把持部(グリップ)の径を変えることにより、段階的に穿刺部材内に糸通し部材及びループ部材を収容して、本発明の医療用針を一体化させて、穿刺や縫合糸の回収などができる。
【0018】
本発明の医療用針によれば、穿刺針の先から縫合糸が飛び出ていない状態で、糸通し部材を挿通させた穿刺部材を用いて穿刺、運針及び穿破が可能であることから、非特許文献1に記載の縫合糸誘導針に比べて、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導することが容易であり、手技がより簡易化されたLPEC法を実施することができる。また、穿刺部材を外套として利用することにより、使用者はこの外套を持って操作することが可能であり、穿刺が容易になる。その結果、本発明の医療用針を利用したLPEC法は、従来のLPEC法に比べて時間が短縮でき、使用者及び被用者ともに負担を軽減することが期待できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の医療用針の一実施態様の平面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の医療用針の一実施態様の外観図である。
【
図3】
図3は、本発明の医療用針の一実施態様に係るループ部材の平面断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の医療用針の一実施態様に係るループ部材の斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の医療用針の一実施態様に係る糸通し部材の平面断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の医療用針の一実施態様に係る糸通し部材の斜視図である。aは糸通し部材の末端が開口した状態の斜視図であり、bはアタッチメント29が嵌合して糸通し部材の末端が閉口した状態の斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の医療用針の一実施態様に係る穿刺部材の平面断面図である。aは穿刺部材全切込み部39がないものの平面断面図であり、bは穿刺部材全切込み部39があるものの平面断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の医療用針の一実施態様に係る穿刺部材の斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の医療用針の一実施態様の平面断面図(a)及び外観図(b)である。
【
図10】
図10は、本発明の医療用針の一実施態様の平面断面図(a)及び外観図(b)である。
【
図11】
図11は、本発明の医療用針の一実施態様の使用方法を説明した模式図である。
【
図12】
図12は、本発明の医療用針の一実施態様の使用方法を説明した模式図である。
【
図13】
図13は、本発明の医療用針の一実施態様の使用方法を説明した模式図である。
【
図14】
図14は、本発明の医療用針の一実施態様の使用方法を説明した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施態様に係るループ部材10と、糸通し部材20と、穿刺部材30とからなる医療用針1を、
図1〜
図10を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの図において具現化されているものに限定されない。
【0021】
医療用針1は、
図1及び2に示すとおりに、ループ部材10、糸通し部材20及び穿刺部材30から構成される。ループ部材10、糸通し部材20及び穿刺部材30のそれぞれの断面図及び斜視図を
図3〜8に示す。各部材について、それらの断面図である
図3、5及び7を用いて以下のとおりに説明する。
【0022】
ループ部材10は、ループ針11及びループ把持部12を備える。ループ針11は、先端部13にループ状構造を有する。ループの大きさは、縫合糸を挿通させることができる程度の大きさであれば特に限定されない。ループ針11の本体部分は中身が空洞である管状構造を採るものであっても、管状構造を採らないものであってもどちらでもよい。ループ針11は、ループ針接合部14(針基)により、ループ把持部12と接合されて一体化している。ループ把持部12は、その外径がループ針11の外径よりも大きい円柱構造を採る。ループ把持部12は、管状構造を採るものであっても、管状構造を採らないものでもどちらでもよい。ループ把持部12において、ループ針11が接合するループ針接合部14と反対側にある末端にあるループ把持末端部16は、その断面が後述する糸通し把持部22の内径より大きい径を有する円盤構造を採ることが好ましい。
【0023】
糸通し部材20は、糸通し針21及び糸通し把持部22を備える。糸通し針21は、中身が空洞である管状構造を採る。糸通し針21の先端部23は特に限定されず、直角、鋭角などの任意の構造を採り得る。糸通し針21は、糸通し針接合部24(針基)により、糸通し把持部22と接合されて一体化している。糸通し把持部22は、その外径が糸通し針21の外径よりも大きい円管状構造を採る。糸通し把持部22は、糸通し針21が接合する糸通し針接合部24と反対側にある末端である糸通し把持末端部26から、ループ部材10を挿通可能である。すなわち、糸通し針21の内径はループ針11の外径よりも大きく、かつ、糸通し把持部22の内径はループ把持部12の外径よりも大きい。糸通し把持末端部26は、開口したままのものでもよいが、嵌合し得る脱着可能なアタッチメント29を備えるものであってもよい。
【0024】
穿刺部材30は、穿刺針31及び穿刺把持部32を備える。穿刺針31は、中身が空洞である管状構造を採る。穿刺針31の先端部33は被用者の皮膚を穿刺できる程度に鋭角構造を採れば特に限定されない。穿刺針31は、穿刺針接合部34(針基)により、穿刺把持部32と接合されて一体化している。穿刺把持部32は、その外径が穿刺針31の外径よりも大きい円管状構造を採る。穿刺把持部32は、穿刺針31が接合する穿刺針接合部34と反対側にある末端である穿刺末端部36から、糸通し部材20を挿通可能である。すなわち、穿刺針31の内径は糸通し針21の外径よりも大きく、かつ、穿刺把持部32の内径は糸通し把持部22の外径よりも大きい。
【0025】
ループ針11、糸通し針21及び穿刺針31の長さは、この順に長い。すなわち、ループ針11の針長は糸通し針21の針長よりも長くなるように形成される。具体的には、糸通し部材20にループ部材10を限度まで挿通した場合に、ループ針11の先端部13が糸通し針21の先端部23から突出する程度にまで糸通し針21の針長よりも長くなるように形成される。糸通し針21の針長は穿刺針31の針長よりも長くなるように形成され、具体的には、穿刺部材30に糸通し部材20を限度まで挿通した場合に、糸通し針21の先端部が穿刺針31の先端部33から突出する程度にまで穿刺針31の針長よりも長くなるように形成される。穿刺針31の針長は特に限定されないが、想定されるヘルニア門の最大径よりも長い程度の長さである。なお、本明細書における「針長」とは、先端部から針接合部までを含む針の全体の長さである。
【0026】
本発明の医療用針は、上記した構造を採るループ部材、糸通し部材及び穿刺部材からなるものであれば特に限定されないが、
図1〜10に示すような突起部や切込み部があるものであってもよい。
【0027】
すなわち、ループ把持部12は、ループ把持末端部16から先端側に渡って、高さ方向、すなわち、短径の延長方向にループ把持突起部15を有する。糸通し把持部22は、糸通し末端部26から先端側までの長径方向に第1及び第2の切込み部である糸通し把持短切込み部27及び糸通し把持長切込み部28を有する。ループ把持突起部15は、糸通し把持短切込み部27及び糸通し把持長切込み部28とそれぞれ嵌合可能である。すなわち、糸通し把持短切込み部27及び糸通し把持長切込み部28のそれぞれの奥行きは、ループ把持突起部15の奥行きよりも大きい。糸通し把持短切込み部27の深さ(幅)は、ループ把持突起部15が糸通し把持短切込み部27と嵌合した場合に、ループ針11の先端部13が糸通し針21の先端部23から突出しない程度である。糸通し把持長切込み部28の深さは、ループ把持突起部15が糸通し把持長切込み部28と嵌合した場合に、ループ針11の先端部13が糸通し針21の先端部23から突出する程度である。
【0028】
糸通し把持部22にも、ループ把持突起部15と同様に、糸通し把持末端部26から先端側に渡って、短径の延長方向に糸通し把持突起部25を有する。穿刺把持部32は、穿刺把持末端部36から先端側までの長径方向に第1及び第2の切込み部である穿刺把持短切込み部37及び穿刺把持長切込み部38を有する。糸通し把持突起部25は、穿刺把持短切込み部37及び穿刺把持長切込み部38とそれぞれ嵌合可能である。すなわち、穿刺把持短切込み部37及び穿刺把持長切込み部38のそれぞれの奥行きは、糸通し把持突起部25の奥行きよりも大きい。穿刺把持短切込み部37の深さ(幅)は、糸通し把持突起部25が穿刺把持短切込み部37と嵌合した場合に、糸通し針21の先端部23が穿刺針31の先端部33から突出しない程度である。穿刺把持長切込み部38の深さは、糸通し把持突起部25が穿刺把持長切込み部38と嵌合した場合に、糸通し針21の先端部23が穿刺針31の先端部33から突出する程度である。
【0029】
穿刺部材は、上記した穿刺把持短切込み部37及び穿刺把持長切込み部38の他に、穿刺針先端部33から穿刺把持末端部36にかけて、長径方向に縫合糸の径より大きい第3の切込み部である穿刺部材全切込み部39が設けられていることが好ましい。このように穿刺部材全切込み部39は、穿刺部材全体にわたって設けられた切込み部である。
図13に示すように、穿刺部材30は穿刺部材全切込み部39を有することにより、穿刺部材30の中空内に縫合糸40が残っている状態で、糸通し部材20を穿刺部材30内に挿通することにより、縫合糸40を穿刺部材全切込み部39から穿刺部材30の外側に移動させることができる。したがって、被用者の体内に穿刺針31を刺している場合、穿刺針31を体内から抜き去ることなく穿刺部材30内の縫合糸40を被用者の体内に残すことができるので、その後の施術が非常に容易になるという利点がある。
【0030】
ループ部材10、糸通し部材20及び穿刺部材30をそれぞれ挿通させることにより、一体化した態様の断面平面図及び外観図を
図9及び10に示す。
図9では、ループ把持突起部15が糸通し把持短切込み部27と嵌合し、かつ、糸通し把持突起部25は穿刺把持短切込み部37と嵌合している。この態様では、穿刺針先端部33からループ針先端部13や糸通し針先端部23は突出していない。
図10では、ループ把持突起部15が糸通し把持長切込み部28と嵌合し、かつ、糸通し把持突起部25は穿刺把持長切込み部38と嵌合している。この態様では、穿刺針先端部33からループ針先端部13及び糸通し針先端部23が突出する。
【0031】
本発明の医療用針は、上記した構造を採るものであれば特に限定されず、本発明の課題を解決し得る限り種々の改変が可能である。例えば、本発明の医療用針を把持した場合のグリップ力を高めるために、ループ部材、糸通し部材及び穿刺部材の把持部の表面に凹凸を設けることができる。また、
図7に示すとおり、一体化させた場合に外套にあたる穿刺部材30の把持部32には、指の係りを良くするために、円周方向に穿刺指係止部35を設けることが好ましい。
【0032】
本発明の医療用針は、例えば、小児鼠径ヘルニアの治療のための手術に利用することができる。このように、本発明の医療用針の好ましい態様は、小児鼠径ヘルニア用針である。ただし、本発明の医療用針は、瘡痕を残すことなく腹腔内に縫合糸を持ち込み、腹腔内でループとした後に縫合糸の他端を腹腔外に引き出すという機能を有し、さらに腹腔外からの運針により腹腔内臓器に糸を通して結紮することもできるという機能を有することから、小児に関わらず成人の腹腔鏡手術にも適用可能である。その他の本発明の医療用針が適用可能な術式の例は以下のとおりである:精巣静脈瘤に対する精巣静脈結紮切離、停留精巣固定術における腹腔内での精巣動静脈及び輸精管の保持、虫垂切除における腸管の保持、結腸遊離・摘出術に際しての結腸の保持、胆嚢摘出術における胆嚢の保持、水腎症・水尿管症手術に際しての尿管保持、横隔膜ヘルニアにおける横隔膜欠損部の縫合閉鎖、食道裂孔ヘルニアにおける胃フンドプリケーション、胃軸捻転症における胃壁前壁固定、腹腔鏡下胃瘻増設術、メッケル憩室切除術など。以下に、本発明の医療用針の一実施態様を小児鼠径ヘルニア手術に使用した場合の手順を、
図11〜14を用いて説明する。
【0033】
糸通し部材20の糸通し把持末端部26に嵌合しているアタッチメント29を外し、糸通し部材20中にループ部材10を限度にまで挿通させる(
図11のStep 1)。次いで、糸通し針先端部23からループ針先端部13が突出するので、縫合糸40をループ針先端部13に通す(
図11のStep 2)。この状態でループ部材10を糸通し部材20から引き抜くと糸通し部材20の内啌に縫合糸40が引き込まれるので、縫合糸の一方の端を糸通し針先端部23から1cm程度出した上で、縫合糸の他方の端を糸通し把持末端部26から出した状態でアタッチメント29を嵌合することにより縫合糸40を固定する(
図11のStep 3)。縫合糸40を通した糸通し部材20を、穿刺部材30内に挿通する。このとき、糸通し把持突起部25を穿刺把持短切込み部37に嵌合させ、穿刺針先端部33から糸通し針先端部23及び縫合糸40が突出しないようにした状態で、穿刺部材30及び糸通し部材20を一体化させ固定する(
図11のStep 4)。
【0034】
次いで、穿刺針31を被用者の皮膚に穿刺し(
図12のStep 5)、続いて皮下組織、筋肉を貫通し、穿刺針31をヘルニア門上縁51からヘルニア門外側縁53を下縁52に向かい運針し、ヘルニア門下縁52で腹腔内に穿破する(
図12のStep6)。次いで、糸通し把持突起部25と穿刺把持短切込み部37との嵌合を解き、糸通し部材20を穿刺部材30内で円周方向に動かして、糸通し把持突起部25を穿刺把持長切込み部38に嵌合させ、穿刺針先端部33から糸通し針先端部23及び縫合糸40を突出させた状態で、穿刺部材30及び糸通し部材20を一体化させ固定する。糸通し針先端部23から突出している縫合糸40を把持鉗子60で掴み、糸通し把持末端部26に嵌合させていたアタッチメント29を外す(
図12のStep 7)。次いで、糸通し部材20を穿刺部材30内から抜き去ることにより、縫合糸40の一方の端が被用者のヘルニア門下縁52から出ており、縫合糸40の残りの部分が穿刺部材30の中空内に残る。(
図12のStep 8)。
【0035】
次いで、ループ把持突起部15が糸通し把持短切込み部27に嵌合するようにループ部材10を糸通し部材20内に挿通させ固定する(
図13のStep 9)。さらに、糸通し把持突起部25が穿刺把持短切込み部37と嵌合するように、ループ部材10を挿通させた糸通し部材20を穿刺部材30内に挿通させ固定する(
図12のStep 10)。このとき、穿刺針先端部33から糸通し針先端部23やループ針先端部13は突出していない。また、穿刺部材30に穿刺部材全切込み部39が設けられている場合は、穿刺部材全切込み部39を通って、穿刺部材30の中空内にあった縫合糸40を被用者の腹膜外腔内に完全に移動させることができる。次いで、縫合糸40を被用者の腹腔外腔内に残したまま、穿刺針31を引き戻す。(
図13のStep 11)。
【0036】
なお、穿刺部材30に穿刺部材全切込み部39が設けられていない場合は、
図12のStep 8後の状態にある穿刺部材30を腹腔内から抜き去ることにより、縫合糸40の一方の端が被用者のヘルニア門下縁52から出ており、縫合糸40の残りの部分がヘルニア門外側縁53に沿って腹腔内に残り、かつ、縫合糸40の他方の端がヘルニア門上縁51から出ている状態にする。次いで、ループ把持突起部15が糸通し把持短切込み部27に嵌合するようにループ部材10を糸通し部材20内に挿通させ固定し、さらに糸通し把持突起部25が穿刺把持短切込み部37と嵌合するように、ループ部材10を挿通させた糸通し部材20を穿刺部材30内に挿通させ固定する。このときは、穿刺針先端部33から糸通し針先端部23やループ針先端部13は突出していない。この状態を維持して、上記Step 5にて穿刺した箇所にて穿刺針31を被用者の皮膚に穿刺し、上記Step11の実施後の状態にする。
【0037】
次いで、穿刺針31を皮下組織、筋肉に貫通させ、ヘルニア門上縁51からヘルニア門内側縁54を下縁に向かい運針し、上記Step 6のヘルニア門下縁52にて最初に穿破した箇所で、再度腹腔内に穿破する(
図14のStep 12)。次いで、糸通し把持突起部25と穿刺把持短切込み部37との嵌合を解き、糸通し部材20を穿刺部材30内で円周方向に動かして、糸通し把持突起部25を穿刺把持長切込み部38に嵌合させ、かつ、ループ把持突起部15と糸通し把持短切込み部27との嵌合を解き、ループ部材10を糸通し部材20内で円周方向に動かして、ループ把持突起部25を糸通し把持長切込み部28に嵌合させることにより、穿刺針先端部33から糸通し針先端部23及びループ針先端部13を突出させた状態にして、穿刺部材30、糸通し部材20及びループ部材10を一体化させ固定する。次いで、把持鉗子60を用いて、ヘルニア門下縁52にて出ている縫合糸40の一端をループ針先端部13内に誘導する(
図14のStep 13)。
【0038】
次いで、糸通し把持突起部25と穿刺把持長切込み部38との嵌合を解き、糸通し部材20を穿刺部材30内で円周方向に動かして、糸通し把持突起部25を穿刺把持短切込み部37に嵌合させ、かつ、ループ把持突起部15と糸通し把持長切込み部28との嵌合を解き、ループ部材10を糸通し部材20内で円周方向に動かして、ループ把持突起部15を糸通し把持短切込み部27に嵌合させることにより、ループ針先端部13内に誘導した縫合糸40を固定する(
図14のStep 14)。この状態で、穿刺針31を抜き去り、ヘルニア門上縁51にて縫合糸40の一方の端と他方の端とが出た状態にする。次いで、これらの縫合糸40の両端を結紮することによりヘルニア門50は縫縮される(
図14のStep 15)。縫合糸40の結び目は皮下に埋没される。
【符号の説明】
【0039】
1 医療用針
10 ループ部材
11 ループ針
12 ループ把持部
13 ループ針先端部
14 ループ針接合部
15 ループ把持突起部
16 ループ把持末端部
20 糸通し部材
21 糸通し針
22 糸通し把持部
23 糸通し針先端部
24 糸通し針接合部
25 糸通し把持突起部
26 糸通し把持末端部
27 糸通し把持短切込み部
28 糸通し把持長切込み部
29 アタッチメント
30 穿刺部材
31 穿刺針
32 穿刺把持部
33 穿刺針先端部
34 穿刺針接合部
35 穿刺指係止部
36 穿刺把持末端部
37 穿刺把持短切込み部
38 穿刺把持長切込み部
39 穿刺部材全切込み部
40 縫合糸
50 ヘルニア門
51 ヘルニア門上縁
52 ヘルニア門下縁
53 ヘルニア門外側縁
54 ヘルニア門内側縁
60 把持鉗子
【要約】 (修正有)
【課題】従来技術の縫合糸誘導針に比べて、経皮下でヘルニア門に沿って縫合糸を誘導する際の穿刺、運針及び穿破が容易であることから、手技がより簡易化されたLPEC法を実施し得る医療用針を提供する。
【解決手段】先端部がループ状構造であるループ針30及び外径が該ループ針の外径よりも大きい把持部を備えたループ部材10と、管状の糸通し針及び外径が該糸通し針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、かつ、末端から該ループ部材を挿通可能である糸通し部材と、先端部が鋭角構造である管状の穿刺針及び外径が該穿刺針の外径よりも大きい管状の把持部を備え、かつ、末端から該糸通し部材20を挿通可能である穿刺部材とからなる医療用針により解決される。
【選択図】
図1