【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
硝酸ガドリニウム六水和物[Gd(NO
3)
3・6H
2O]〔和光純薬工業(株)製、純度:99.5%〕451mg(1mmol)をジエチレングリコール1mL中に添加し、加熱しながら溶解させた。得られた溶液の温度が100℃に達した時点で、水酸化ナトリウム50mg(1.25mmol)、および超純水製造装置(ミリポア社製、商品名:Direct−QUV)を用いて製造された超純水数滴を前記溶液に添加し、140℃で1時間加熱撹拌することにより、白濁溶液を得た。
【0049】
次に、前記で得られた白濁溶液を175℃で4時間撹拌することにより、酸化ガドリニウム含有粒子を含有する黒褐色溶液を得た。
【0050】
前記黒褐色溶液を25℃のアセトン40mL中に撹拌しながらゆっくり滴下したところ、褐色の沈殿物を含む溶液を得た。得られた溶液を6400×gで10分間遠心させることにより、沈殿物を沈降させた後、純水40mLを添加して再分散させ、0.2μmのシリンジフィルター(ミリポア社製)を用いて濾過することにより、濾液を回収した。
【0051】
次に、前記で得られた濾液10mLにゼラチン0.5gを添加し、撹拌した後、得られた混合物を凍結乾燥させることにより、酸化ガドリニウム含有粒子の表面上にゼラチン被膜が形成された黒褐色の複合粒子を得た。
【0052】
比較例1
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールモノビニルエーテル1mLを用いたところ、加熱攪拌時に重合反応が進行したため、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0053】
比較例2
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりにジエチレングリコールジメタクリレート1mLを用いたところ、生成物が超純水に分散しなかったため、この溶液からゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。前記で得られた粒子は、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0054】
比較例3
実施例1において、ジエチレングリコールの代わりに純水1mLを用いたところ、水酸化ガドリニウム[Gd(OH)
3]が生成し、ゼラチン被膜が形成された酸化ガドリニウム含有粒子(複合粒子)を得ることができなかった。この水酸化ガドリニウムは、超純水中で分散しなかったため、プローブに不適であると判断した。
【0055】
実施例2
実施例1で得られた複合粒子およびゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子をそれぞれ25℃の超純水中に分散させ、その粒子径の経時変化を粒子径測定装置〔マルバーン(Malvern)社製、商品名:Zetasizer Nano ZS〕を用い、動的光散乱(DLS)法により25℃で測定した。その結果を
図1に示す。
【0056】
図1において、(a)〜(c)は、それぞれ順に、ゼラチンを被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該酸化ガドリニウム含有粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。また、(d)〜(f)は、それぞれ順に、複合粒子を25℃の超純水中に分散させた直後の粒径分布、当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて10時間経過時の粒径分布、および当該複合粒子を25℃の超純水中に分散させて30時間経過時の粒径分布を示す。
【0057】
図1の(a)〜(c)に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させた場合には、酸化ガドリニウム含有粒子が経時とともに凝集するので、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を大きくなるように当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整することができることがわかる。
【0058】
一方、複合粒子は、その表面がゼラチンで被覆されていることから水中に添加しても当該複合粒子が凝集しないので、その粒子径を維持することができることがわかる。
【0059】
したがって、前記結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を水中に分散させることにより、当該酸化ガドリニウム含有粒子の粒子径を調整した後、酸化ガドリニウム含有粒子をゼラチンで被覆することにより、水中に分散させても粒子径が変化しない所定の粒子径を有する複合粒子を得ることができることがわかる。
【0060】
実施例3
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子を、透過型電子顕微鏡〔(株)日立製作所製、品番:H−9500〕を用いて、加速電圧80kV、倍率12万倍にて撮像した。その結果を
図2に示す。
【0061】
図2において、(a)はゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の透過型電子顕微鏡写真、(b)は複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【0062】
図2に示された結果から、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子では、数10nm程度の粒子が凝集して大きな塊が形成されていることがわかる。
【0063】
一方、複合粒子は、その内部が酸化ガドリニウム粒子およびジエチレングリコールで構成され、ナノメートル程度の粒子径を有する酸化ガドリニウム粒子がジエチレングリコールに分散しており、その表面がゼラチンで覆われた、粒子径が100nm程度の球状粒子であることがわかる。
【0064】
実施例4
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析を行なった。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析は、示差熱−熱重量測定装置〔(株)リガク製、品番:TG−DTA TG8120〕を用い、空気の体積流量を50cm
3/minとし、酸化ガドリニウム含有粒子約5mgを10℃/minの昇温速度で室温から1000℃まで昇温することによって測定した。その結果を
図3に示す。
図3は、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の示差熱−熱重量分析結果を示すグラフである。
【0065】
図3に示された結果から、ジエチレングリコールの沸点である244℃付近で急激な発熱反応が確認された。このことから、酸化ガドリニウム含有粒子の粒子内部に大量のジエチレングリコールが存在していることが確認された。
【0066】
実施例5
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折を調べた。なお、酸化ガドリニウム含有粒子の粉末X線回折は、X線回折測定装置〔(株)島津製作所製、XD−D1型〕を用い、電圧30kV、電流30mAとし、発生したCuKα線を炭素モノクロメーターで単色化し、1°/minの速度にて測定した。その結果を
図4に示す。
【0067】
図4に示された結果から、X線回折図には、結晶格子を示す回折ピークが認められないことから、ゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子を構成している酸化ガドリニウムは非晶質であることがわかる。
【0068】
実施例6
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子の紫外−可視光吸収スペクトルを調べた。なお、紫外−可視光吸収スペクトルは、紫外−可視光吸収スペクトル測定装置〔(株) 日立製作所製、商品名:U-3010 Spectrophotometer〕を用い、ガドリニウム濃度0.25mMで300〜900nmの範囲で測定した。その結果を
図5に示す。
【0069】
図5に示された結果から、酸化ガドリニウム含有粒子は、300〜900nmの波長の紫外−可視光を吸収するものであることがわかる。
【0070】
実施例7
実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、磁気共鳴(MR)を調べた。磁気共鳴(MR)の測定には、小動物用磁気共鳴測定装置〔ブルカー・バイオスピン(Bruker Biospin)社製、商品名:7.0T/20 USR with 72 mm i.d. Quadrature resonator〕を用い、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1およびT1強調画像を、Inversion Pulseを併用したFISP法、FOV6*6cm、マトリックス256*256、スライスの厚さ:2mm、NEX2の条件で外部磁場強度7T、室温にて測定した。その結果を
図6に示す。
【0071】
図6において、(a)は従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕存在下でのT1強調画像を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子存在下でのT1強調画像を示す図である。
【0072】
図6に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子存在下では、より低いガドリニウム濃度で高い水のMR信号が観測された。
【0073】
次に、実施例1で得られた複合粒子および従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕の濃度が0mM、0.10mM、0.25mMまたは0.50mMとなるように調整した後、各造影剤の存在下で水の縦緩和時間T1を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示された結果から、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、縦緩和時間T1が格段に短いことから、より少量で必要なMRI撮像を可能にするMRI造影剤であることがわかる。
【0076】
また、T1短縮能r1値を、ガドリニウム金属の濃度に対して1/T1をプロットした傾きから求めたところ、実施例1で得られた複合粒子のT1短縮能r1値は9.51L/mmol・secであり、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕のT1短縮能r1値は4.89L/mmol・secであった。このように、実施例1で得られた複合粒子が従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、大きいT1短縮能r1値を有するのは、実施例1で得られた複合粒子では、被覆ゼラチン表面のアミノ基とカルボキシル基が水と水素結合することにより、水がガドリニウムに近づきやすい環境ができたことに基づくものと考えられる。
【0077】
実施例8
実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子、および複合粒子の光超音波信号の測定を行なった。なお、光超音波信号は、窒素色素レーザー〔(株)日本レーザー製、商品名:N
2 Laser MODEL 1010, Dye Laser MODEL 1011、波長 532 nm、1 mJ、10 Hz、Dt = 20 ps 以下〕を用いて組み立てた装置を用い、パルスレーザー光照射時のハイドロフォンにおける電圧変化を測定した。その結果を
図7に示す。
【0078】
図7において、(a)は実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(b)は実施例1で得られた複合粒子にパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図、(c)は超純水のみにパルスレーザー光を照射した時のハイドロフォンで観測した電圧変化を示す図である。
【0079】
図7に示された結果から、実施例1で得られたゼラチンで被覆する前の酸化ガドリニウム含有粒子およびゼラチンで被覆した複合粒子のいずれにおいても、光超音波信号が電圧の変化として確認されたことから、前記複合粒子は、光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することが期待されるものであることがわかる。
【0080】
実施例9
対数増殖期にあるマウス線維芽組織由来の細胞株L929を96穴プレートのウェルに10質量%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地〔DMEM/F12の質量比:1/1〕(100μL)とともに播種し(細胞密度:1×10
4個/cm
2)、二酸化炭素濃度が5容量%であるインキュベーター内で24時間培養した。その後、ウェル内の細胞をリン酸緩衝液生理食塩水(以下、PBSという)で1回洗浄した後、培地で種々の濃度に希釈したサンプル(100μL)を入れ、インキュベーター内で48時間曝露させた。PBSで3回洗浄した後、ウェル内に培地(100μL)および細胞数測定試薬SF〔ナカライテスク(株)製〕(10μL)を入れてインキュベーター内で1.5時間静置して呈色を行なった後、紫外−可視分光光度計〔ベックマン・コールター(Beckman Coulter)社製〕を用いてウェル内の細胞含有溶液の波長450nmでの吸光度を測定し、測定された吸光度に基づいて生細胞数を算出し、各試料について生細胞数を比較した。なお、使用したサンプルは、いずれも0.22μmのシリンジフィルターを通過させることにより、あらかじめ濾過滅菌を施しておいた。
【0081】
次に、対照(コントロール)として、超純水を用い、対照における生細胞数に対する各試料における生細胞数の比を求めた。その結果を
図8に示す。
【0082】
図8は、コントロール(超純水)、ガドリニウム濃度が0.05mMの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕(図中、MVで示す)、ガドリニウム濃度が0.05mMの複合粒子およびガドリニウム濃度が0.05mMの硝酸ガドリニウムが細胞に及ぼす毒性の試験結果を示す図である。
【0083】
図8に示された結果から、ガドリニウム濃度0.05mMにおいて、実施例1で得られた複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と同程度の細胞毒性を示したのに対し、複合粒子の原料である硝酸ガドリニウムは、はるかに高い毒性を有することがわかる。
【0084】
以上の結果から、本発明の複合粒子は、水中で凝集することなく、安定して分散するものであり、さらに100nm前後の粒径を有することから、腫瘍組織へのEPR効果が期待されるものである。
【0085】
さらに、本発明の複合粒子は、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕と対比して、約2倍のT1短縮能を有することからMRI造影剤として、さらにパルスレーザー光の照射により光超音波信号を発する光超音波マンモグラフィ用イメージングプローブとして使用することができると考えられる。
【0086】
実施例10(健常マウスを用いた体内動態試験)
C57Bl/6Jマウス(8週令)に対して、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕、およびガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を、尾静脈注射により投与し、経時的にMRI撮像を行ない、各臓器における造影効果を調べた。その結果を
図9および
図10に示す。
【0087】
図9は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。また、
図10は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子をマウスに投与し、各臓器での投与前におけるMR信号強度に対する投与後のMR信号強度の比の経時変化を示す図である。
【0088】
図9および
図10に示された結果から、従来の臨床用MRI造影剤〔Magnevist(登録商標)〕は早期に腎排泄が行なわれるのに対し、実施例1で得られた複合粒子は、血栓形成や急性毒性を生じることなく、血管、肝臓および脾臓で長期間にわたって滞留することが確認されたことから、これらの造影に効果的であることがわかる。
【0089】
実施例11(担癌マウスを用いた体内動態試験)
Balb/c nu/nuマウス(8週令)の前腕基部に、10
6個のヒト膵臓がん細胞株(Suit2)を投与し、約10日間飼育した担癌マウスに対し、イソフルランによる吸入麻酔下で、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を尾静脈注射により投与し、MRI撮像を行なった。その結果を
図11に示す。
【0090】
図11は、ガドリニウム濃度が0.1mmol/kgの実施例1で得られた複合粒子を担癌マウスに投与してから3時間経過後におけるMRI撮像結果を示す図である。
図11において、矢印で示される部分が腫瘍組織を示す。
【0091】
図11に示されるように、腫瘍組織でMR信号の増強が確認されたことから、実施例1で得られた複合粒子は、腫瘍組織へ集積することがわかる。