【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る複合膜を成膜するための成膜装置は、成膜室を隔壁で仕切り、それぞれ異なる条件で成膜可能な複数のチャンバーを
連続的に形成し、且つ各チャンバーを横切るように可動する可動部を有し、各チャンバーは
内部に隔壁を設けることなくそれぞれ内部に減圧排気装置、ガス導入口及び蒸気源となるターゲットの保持部を有し、可動部が各チャンバーを横切るように成膜室を複数のチャンバーに仕切ったことで可動部、隔壁及び成膜室内壁の組み合せ間に生じ得る隙間を、ガスが他のチャンバーに混入しないように、隣接チャンバー間に形成された隙間断面積Sを粘性流が生じない所定の大きさ以下にしたことを特徴とする。
ここで、隣接するチャンバー間の隙間は、可動部の構造により相違し、例えば
図1に示した成膜装置は可動部(11)の表面(下面)と隔壁(12)の間に主な隙間ができ、
図12に示した成膜装置は
図1における上仕切り板(19)がなく、円盤状の可動部(11)が成膜室(10a)の内壁に沿って回転する場合で、可動部(11)と成膜室内壁との間にも隙間ができる。
また、
図13に示した成膜装置は、隔壁(112)が可動部(11)とともに公転するから、隔壁と成膜室内壁との間に隙間ができる。
本発明における隙間断面積Sとは上記のように各種構造により形成される隙間のうち、隣接するチャンバー間にガスが移動するのを抑えた隙間の面積の合計をいう。
なお、成膜室内壁とは成膜室の側面内壁のみならず、例えば
図1における可動部(11)と上仕切り板(19)の内周側上面との間が摺接していなく、隙間が形成された場合等、成膜室を構成するための仕切板等も含まれる。
本発明は、チャンバー内のガス圧をP[Pa]とし、隙間断面積Sを内径D[m]の円筒断面積に換算した場合にP×D<0.02[Pa・m]になるように隙間断面積Sを設定するのが好ましい。
なお、成膜材料や成膜条件によっては後述するように0.02[Pa・m]≦P×D≦0.8[Pa・m]の中間流の範囲でもよい。
本発明は、前記隔壁の端部に、成膜室の内壁又は可動部に沿った仕切り側片部を有するようにしてもよく、また各チャンバーのガス導入量と排気量を調整することで、各チャンバー間で圧力差を生じさせる差動排気手段を有するようにすることもできる。
【0006】
本発明にあって、複数のチャンバーに仕切った隣接チャンバー間に形成される隙間を所定の隙間断面積S以下にした理由は次のとおりである。
例えば、スパッタリングにおいては、真空(減圧)チャンバー内にターゲットを装着し、イオン化ガスを導入する場合に例えばタ−ゲットに金属アルミを用いる場合と、SiO
2等の絶縁性物質を用いる場合では減圧条件が相違し、イオン化ガスとしてアルゴンのような希ガスを用いる場合の他に酸素や窒素のような反応性ガスを導入したい場合もある。
その一方でナノコンポジット膜を成膜するには、被処理物を異なる蒸気源のチャンバー内に連続的に通過させる必要がある。
そこで成膜室を隔壁で仕切り、2つ以上の複数のチャンバーを形成し、チャンバー毎にそれぞれ独立した減圧排気装置、ガス導入口を設けるとともに高電圧を印可し、各チャンバー毎にスパッタリング現象を発現させつつ、被処理物が各チャンバー間に移動できるように隔壁と成膜室内壁又は可動部との間あるいは可動部と成膜室内壁との間に所定の隙間を設定した。
本発明にあっては、この隙間を適正に設定した点に特徴がある。
【0007】
真空ハンドブック改訂版(1982年版 真空ハンドブック編集委員会:編集日本真空技術株式会社),P36には、「円管の直径d[m]で円管内の平均圧力p[Pa]の場合にpd<0.015[Torr・cm]の条件下では気体分子の平均自由行程が管径dに比べて大きく、気体の分子は他の分子とぶつからず、ほとんど管壁にだけ衝突しながら流れる。」と記載されている。
また、pd>0.6[Torr・cm]の条件下では分子同士が衝突しあい、粘性流となり流れに影響を与えると記載してある。
なお、2002年7月発行新版 真空ハンドブック(株式会社アルバック編 オーム社)P.40 第一章 表1・7・1にpd>0.8[Pa・m]で粘性流になると記載されている。
また、SEIテクニカルレビューNo.176(2010年1月,住友電気工業発行)P.2には、pd<0.02[Pa・m]で分子流が、pd>0.68[Pa・m]で粘性流がそれぞれ生じると記載されている。
本発明者らは、これらの文献内容をヒントに例えばスパッタリングにおいて、ガス圧を0.1〜0.3Paレベルにした場合にアルゴン、酸素、窒素等の平均自由行程は2〜6cmと想定されることから隔壁と可動部又は成膜室内との隙間を1〜3mmのレベルに制御できれば各チャンバーの間に分子・イオンの移動(クロスコンタミネーション)を抑えることができることを見い出した。
このようにするとガスの導入量と排気量との調整により各チャンバー間でガス圧に差を設けることができ、ターゲット材料に応じた差動排気が可能であり、前記隙間断面積Sは排気口断面積の2%以下であることが好ましい。
【0008】
本発明に係る複合膜の成膜方法は、成膜室を隔壁で仕切ることで複数のチャンバーを形成し、且つ各チャンバーを横切るように可動する可動部を有し、各チャンバーはそれぞれ減圧排気装置、ガス導入口及び蒸気源となるターゲットの保持部を有し、可動部は複合膜を成膜させる被処理物を保持するものであり、可動部が各チャンバーを横切るように成膜室を複数のチャンバーで仕切ったことで可動部、隔壁及び成膜室内壁の組み合せの間に形成される隙間であって、隣接するチャンバー間に形成された隙間の合計を隙間断面積Sとし、チャンバー内のガス圧をP[Pa]とし、隙間断面積Sを内径D[m]の円筒断面積に換算した場合にP×D<0.02[Pa・m]になるように隙間断面積Sを設定し、各チャンバー毎に相互に異なる蒸気源又は/及びガス種を導入することを特徴とする。
ここで異なる蒸気源ターゲットとしては異なる金属、金属と絶縁性材との組み合せが考えられ、ガス種としては希ガスの他に酸素や窒素等の反応性ガスを組み合せてもよい。
この際、反応性の強いガス(例えば酸素)を流すチャンバー(A)の圧力を隔壁で仕切った反対側のチャンバー(B)の圧力よりも低く設定すると、チャンバー(A)からのチャンバー(B)への反応性ガスの流入をより効果的に防止することができる。
なお、0.02≦P×D≦0.8[Pa・m]の条件下では粘性流と分子流の中間流が生じる。
このような条件下では、通常のPVD等で用いられる1Pa以下のガス圧力において、所定の隙間(隙間断面積)を形成した隔壁であっても、この隔壁で仕切った左右のチャンバーの圧力差を保つことは比較的容易に行えるので、他チャンバーからのガスの流入を防ぎたいチャンバーの圧力をその他チャンバーよりもやや高く保つことによりコンタミネーションを防止することができる。
しかしながら、P×D>0.8[Pa・m]の条件下では粘性流となり左右のチャンバーの圧力差を所定に保つことが実用上難しくなる。