特許第5794532号(P5794532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794532
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】インターフェロン−αモジュレーター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20150928BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20150928BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150928BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20150928BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150928BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20150928BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C12N15/00 GZNA
   C12Q1/68 A
   C12Q1/02
   A61P43/00 111
   A61P31/12
   A61P35/00
   A61K31/7088
   A61K48/00
【請求項の数】6
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2011-536201(P2011-536201)
(86)(22)【出願日】2010年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2010068209
(87)【国際公開番号】WO2011046221
(87)【国際公開日】20110421
【審査請求日】2013年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2009-239801(P2009-239801)
(32)【優先日】2009年10月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-107544(P2010-107544)
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】592196156
【氏名又は名称】株式会社アミノアップ化学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】木村 富紀
(72)【発明者】
【氏名】西澤 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】蒋 時文
(72)【発明者】
【氏名】西川 正雄
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特公平03−021150(JP,B2)
【文献】 特開2010−104280(JP,A)
【文献】 Cell. Mol. Life Sci.,2013年,Vol.70,pp.1451-1467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロン−α1 mRNAのBulged SL領域内の15塩基以上の塩基配列に完全相補的であるか、もしくは1塩基のミスマッチを有する配列を含むアンチセンスヌクレオチドを含有してなるインターフェロン−α1発現増強剤。
【請求項2】
ウイルス感染症または癌の予防または治療用である、請求項記載の剤。
【請求項3】
インターフェロン−α1 mRNAのBulged SL領域内の15塩基以上の塩基配列と同一もしくは1塩基のみ異なる配列を含むセンスオリゴヌクレオチドを含有してなるインターフェロン−α1発現抑制剤。
【請求項4】
免疫応答異常の予防または治療用である、請求項記載の剤。
【請求項5】
被験物質の存在下および非存在下で、インターフェロン−α1 mRNAと、そのBulged SL領域内の15塩基以上の塩基配列に完全相補的であるか、もしくは1塩基のミスマッチを有する配列を含むアンチセンスRNAとのハイブリダイゼーションを検出・比較することを特徴とする、インターフェロン−α1発現増強または抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項6】
インターフェロン−α1 mRNAと、そのBulged SL領域内の塩基配列に完全相補的であるか、もしくは1塩基のミスマッチを有する配列を含むアンチセンスRNAとを発現する細胞に被験物質を接触させ、該細胞における該mRNA量および/またはインターフェロン−α1タンパク質量の変化を測定することを特徴とする、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立行政法人科学技術振興機構の支援を受けた成果である。
本発明は、インターフェロン−αのmRNAに相補的なアンチセンスヌクレオチドおよびそのインターフェロン−α発現増強作用の利用、並びに、アンチセンスRNAに相補的なセンスオリゴヌクレオチドおよびそのインターフェロン−α発現調節作用の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染に対する生体防御において、自然免疫は感染初期の速やかな防御機構として重要な役割を果たしている。I型インターフェロン(IFN)は自然免疫における抗ウイルス活性の中心的な役割を担うサイトカインであり、ウイルス感染によって一過的に分泌され、周囲の細胞に働きかけて抗ウイルス活性、細胞増殖抑制活性などの多様な生理活性を発揮する。I型IFNはIFN-α、-β、-ω、-ε、-κに分けられ、このうちIFN-αには、第9染色体上に少なくとも13の機能性サブタイプをコードする遺伝子群が存在する。IFN-αおよび-βは、これらの生理活性に基づき、血漿由来の製剤および遺伝子工学的に製造された組換えタンパク製剤が、B型肝炎、C型肝炎等のウイルス感染症、あるいは腫瘍などの種々の疾患に対する治療(もしくは補助療法)に利用されている。
【0003】
しかし、IFNの長期投与や過剰投与は、インフルエンザ様症状(頭痛、発熱、関節痛、筋肉痛、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐等)、自己免疫疾患、うつ症状(不眠や焦燥感等)、脱毛、甲状腺機能異常、痴呆等、多様な副作用を生じる場合がある。そのため、IFNを投与することなく、生体内のIFN産生を増強させることによって、ウイルス感染の防御や、癌等の改善・治療を図るための研究も進められている。しかし、IFN産生を増強する物質の多くはウイルスや病原菌由来物などで、安全性に問題のあるものが多い。
【0004】
ウイルス感染に対するIFN-α、-βなどのI型IFNの発現応答を高めることができれば、未知のウイルスを含めた種々のウイルス感染症の予防・治療に有効であると考えられる。最近、Toll様受容体(TLR)を介したウイルス感染の認識からキナーゼカスケードを介してI型IFNの発現誘導に至るシグナル伝達経路が解明されてきているが、IFN遺伝子の転写後調節については、未だ十分に理解されていない。
【0005】
アンチセンスRNAとは、mRNAに対して、相補的な塩基配列を持ったRNAであり、具体的には、センス遺伝子をコードするDNA鎖(すなわちmRNAの非鋳型鎖)を鋳型として合成されたRNAである。センス-アンチセンスRNA間には2本鎖形成能があり、例えば、2本鎖RNAはRNA干渉が働く際に必要であること、及びマイクロRNAと呼ばれる小さなRNAによるメッセンジャーRNAの分解に2本鎖RNAが関与することなどが知られている。最近の網羅的なcDNA解析により、かなり多くのアンチセンスRNAが転写されていることが明らかとなった(非特許文献1、2)。例えば、マウスでは約2,500対(非特許文献3)、ヒトでは約2,600対(非特許文献4)のセンス-アンチセンスRNAペアが存在することが示唆されており、それらの中にはタンパク質をコードしない非翻訳性のアンチセンスRNAが多く含まれている。
【0006】
アンチセンスRNAの生理機能については十分に解明されていないが、これまでの研究から、アンチセンスRNAは、mRNAの安定化もしくは不安定化、mRNAからの翻訳抑制など、異なる生理機能を有する多様な制御性RNAのグループに属することがわかってきている(非特許文献5)。
例えば、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)mRNAに相補的なアンチセンスRNAは、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の存在下で増加してeNOS mRNA量を減少させることが報告されている(非特許文献6)。また、酵母においても、PHO84遺伝子のアンチセンスRNAはヒストン脱アセチル化を介してmRNAの発現を抑制することが知られている(非特許文献7)。一方、本発明者らは、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)mRNAの3’-非翻訳領域(UTR)に相補的な内因性アンチセンスRNA(「asRNA」ともいう)が存在し、このアンチセンスRNAがiNOS mRNAとハイブリダイズすることによって該mRNAが安定化されiNOSの産生量およびNOの合成量が増大すること、該asRNAに相補的なセンスオリゴヌクレオチドは、asRNAのiNOS mRNAへの結合を阻害することにより該mRNAを不安定化し、iNOSの産生およびiNOSによるNO合成を抑制し得ることを報告した(特許文献1および2、非特許文献8)。
【0007】
しかしながら、IFN-α遺伝子については、内因性asRNAが存在するかどうかすら、これまで報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2007/142303号パンフレット
【特許文献2】WO 2007/142304号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cheng et al., Science, 308: 1149-1154 (2005)
【非特許文献2】Katayama et al., Science, 309: 1564-1566 (2005)
【非特許文献3】Kiyosawa et al., Genome Res., 13: 1324-1334 (2003)
【非特許文献4】Yelin et al., Nat. Biotechnol., 21: 379-386 (2003)
【非特許文献5】Faghihi and Wahlestedt, Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 10: 637-643 (2009)
【非特許文献6】Robb et al., J. Biol. Chem., 279: 37982-37996 (2004)
【非特許文献7】Camblong et al., Cell, 131: 706-717 (2007)
【非特許文献8】Matsui et al., Hepatology, 47: 686-697 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、内在のI型IFNの産生を調節し得る物質を同定し、該物質を利用したウイルス感染症や癌、自己免疫疾患などの疾患の新規予防・治療手段を提供することである。特に、ウイルス感染に対する持続的なI型IFN応答を誘導することによる、ウイルス感染症の有効な予防・治療手段を提供することである。加えて、膠原病やクローン病のように、免疫システムのバランスの破綻から引き起こされるI型IFN産生調節異常が、疾患発症の引き金の一つになると考えられる自己免疫疾患についても治療手段を提供することである。また、本発明の別の目的は、内在のI型IFNの産生を調節し得る物質を探索するためのスクリーニング系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは当初、IFN-α mRNAの3’-UTRに、iNOS mRNAと同様、mRNAの早い代謝回転に関与すると考えられているAU-rich element(ARE)モチーフが存在することに着目し、IFN-αの発現調節にも内因性asRNAが関与しているのではないかと発想した。そこで鎖特異的RT-PCR解析を行った結果、IFN-αasRNAの存在が確認された(図1A参照)。次に、ウイルス感染後のIFN-α mRNAおよびasRNAの発現変動を解析した予備実験において、IFN-α asRNAは構成的に発現しているが、ウイルス感染後速やかに発現が低下し、それに伴ってIFN-α mRNAの発現レベルが一過的に上昇すること、IFN-α mRNAの発現はいったん減衰した後、IFN-α asRNAの発現の回復とともに再上昇するという二峰性の発現挙動が観察された。これらの結果は、IFN-α asRNAによるIFN-αの発現調節が、iNOSにおけるasRNAによるそれとは異なることを示唆していた。
【0012】
本発明者らは、IFN-α mRNAの核外輸送に重要な、2つのステムループ(SL1およびSL2(SL2は内部にBulged SLを含む))を有する二次構造を形成する領域(Kimura et al., Medical Mol. Morphol., 43:145, 2010;図2A参照)を同定し、Bulged SLの欠失はIFN-α mRNAの発現低下を招くことを見出したことから、IFN-α asRNAは、3’-UTRのAREモチーフではなく、この二次構造を形成する領域をターゲットとしてIFN-α mRNAと相互作用することにより、IFN-αの発現を調節しているのではないかと考えた。そこで、Bulged SL領域のループ部分の配列を有するセンスオリゴヌクレオチドを作製し、IFN-α asRNAの発現阻害効果およびIFN-αの発現に及ぼす効果を調べた。その結果、該センスオリゴヌクレオチドはIFN-α asRNAの発現を効率よく阻害した(図2B参照)が、ウイルス感染によりIFN-α asRNAの発現は急速に回復上昇し、その後急速に減衰した。IFN-α mRNAの発現もIFN-α asRNAの発現と同様の挙動を示した。一方、センスオリゴヌクレオチド非導入(mock)細胞では、ウイルス感染後、IFN-α asRNAおよびIFN-α mRNAの発現は導入細胞よりも小幅で増加した後、緩やかに減衰し、感染後36時間以降には、IFN-α mRNAおよびIFN-α asRNAの発現は、センスオリゴヌクレオチド導入細胞の発現レベルを上回った(図3A,B参照)。
【0013】
これらの結果から、asRNAがIFN-α mRNAの安定化に寄与しており、センスオリゴヌクレオチドによるasRNAノックダウンがmRNAの不安定化をもたらすことが示唆されたので、本発明者らは、RNA転写阻害剤を用いてde novoのRNA新成を阻害した上で、IFN-α asRNAのノックダウンおよび過剰発現がIFN-α mRNAの安定性に及ぼす効果を調べた。その結果、IFN-α asRNAのノックダウンがIFN-α mRNAを著しく不安定化する(図3C参照)のに対し、asRNAの過剰発現により該mRNAが顕著に安定化されることが確認された(図5参照)。加えて、iNOS asRNAの同mRNA安定化作用を阻害するActive Hexose Correlated Compound (AHCC) は、IFN-α asRNAの構成的発現およびウイルス感染による発現上昇をも抑制し、IFN-α mRNAの安定化を阻害した(図4参照)。さらに、本発明者らは、IFN-α asRNAの各種フラグメントを過剰発現させることにより、その機能中心が該mRNAのSL2領域(特にBulged SL)に対応するasRNA領域に存在することを見出した(図6参照)。この結果は、Bulged SL領域に対応するアンチセンスリボオリゴヌクレオチドの導入により再現することが可能であり(図7-1参照)、しかもその作用は細胞質であることが明らかであった(図7-2参照)。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は以下の通りである。
〔1〕IFN-α mRNAに相補的な配列を含み、IFN-αの発現を増強させ得るアンチセンスヌクレオチド。
〔2〕IFN-α mRNAのSL1および/またはSL2領域内の塩基配列に相補的な配列を含む、上記〔1〕記載のアンチセンスヌクレオチド。
〔3〕IFN-α mRNAのBulged SL領域内の塩基配列に相補的な配列を含む、上記〔2〕記載のアンチセンスヌクレオチド。
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のアンチセンスヌクレオチドを含有してなるIFN-α発現増強剤。
〔5〕ウイルス感染症または癌の予防または治療用である、上記〔4〕記載の剤。
〔6〕IFN-α mRNAに対する内因性アンチセンスRNAに相補的な配列を含み、IFN-αの発現を調節し得るセンスオリゴヌクレオチド。
〔7〕該配列がIFN-α mRNAのSL1またはSL2領域内の塩基配列に相同な配列である、上記〔6〕記載のセンスオリゴヌクレオチド。
〔8〕該配列がBulged SL領域内の塩基配列に相同な配列である、上記〔7〕記載のセンスオリゴヌクレオチド。
〔9〕上記〔6〕〜〔8〕のいずれかに記載のセンスオリゴヌクレオチドを含有してなるIFN-α発現調節剤。
〔10〕免疫応答異常の予防または治療用である、上記〔9〕記載の剤。
〔11〕被験物質の存在下および非存在下で、IFN-α mRNAとそれに対する内因性アンチセンスRNAとのハイブリダイゼーションを検出・比較することを特徴とする、IFN-α発現増強または抑制物質のスクリーニング方法。
〔12〕IFN-α mRNAとそれに対する内因性アンチセンスRNAとを発現する細胞に被験物質を接触させ、該細胞における該mRNA量および/またはIFN-αタンパク質量の変化を測定することを特徴とする、上記〔11〕記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAと同様に該mRNAを安定化することにより、IFN-αの産生を増強することができる。一方、本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-α asRNAの該安定化効果を阻害してIFN-α mRNAを不安定化することにより、IFN-αの過剰産生を抑制することができる。さらに、これらのヌクレオチドは、IFN-α製剤と異なり吸入等による患者自身による投与が可能なため、患者負担を軽減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)IFN-α1 asRNA由来のcDNA(RT1、RT2)、該cDNAからの各種PCR増幅産物(PCR1〜5)とIFN-α1遺伝子上の位置を示す模式図、並びにIFN-α1 asRNA由来のcDNA(RT1、RT2)からの各種PCR増幅(PCR1〜5)の結果を示す図である。(B)ポリA鎖を有するRNA画分およびポリA鎖を有さないRNA画分を鋳型としたIFN-α1 asRNAについてのRT-PCR結果を示す図である。(C)センダイウイルス(SenV)感染24時間後のNamalwa細胞におけるIFN-α1 mRNA(S)およびIFN-α1 asRNA(AS)の発現量をリアルタイムPCRで比較解析した結果を示す図である。
図2】(A)IFN-α1 mRNAの核外輸送責任領域(CSS)の位置および該領域が形成するRNA二次構造(左図)、並びに該二次構造の各領域の欠失変異体(A: 野生型mRNA, B: SL1欠失変異体, C: SL2欠失変異体, D: Bulged SL欠失変異体)の発現および局在(右図)を示す図である。(B)IFN-α1 asRNAのノックダウン実験に用いたセンスオリゴヌクレオチドのCSSに対する位置(上図)、並びに該センスオリゴヌクレオチドによるIFN-α1 asRNA発現のノックダウン効果と特異性(下図)を示す図である。
図3】(A)センスオリゴヌクレオチドによるIFN-α1 asRNAのノックダウンがIFN-α1 asRNAおよびIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす効果を示す、鎖特異的RT-PCRの結果を示す図である。(B)(A) に示した結果を、リアルタイムPCR法により定量した図である。(C)アクチノマイシンDによりRNA転写反応を阻害した条件下で解析した、IFN-α1 asRNAのノックダウンによるIFN-α1 mRNAの不安定化を示す図である。
図4】(A)AHCCがIFN-α1 asRNAおよびIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす効果を示す、鎖特異的RT-PCRの結果を示す図である。(B)AHCCがIFN-αタンパク質量に及ぼす効果を示すELISAの結果を示す図である。
図5】(A)IFN-α1/WT asRNAの過剰発現がIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす効果を示す、鎖特異的RT-PCRの結果を示す図である。(B)(A) に示した結果を、リアルタイムPCR法により定量した図である。(C)アクチノマイシンDによりRNA転写反応を阻害した条件下で解析した、IFN-α1/WT asRNAの過剰発現によるIFN-α1 mRNAの安定化を示す図である。
図6】(A)IFN-α1 asRNAおよびその各種フラグメントの過剰発現がIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす効果を示す、鎖特異的RT-PCRの結果を示す図である。(B)(A) に示した結果を、リアルタイムPCR法により定量した図である。
図7-1】(A)図6の実験結果から決定したIFN-α1 asRNA中の機能中心のシークエンスから作製したアンチセンスリボオリゴヌクレオチド(asORN)およびCSS RNA二次構造の基部二本鎖を形成するシークエンスに由来するアンチセンスリボオリゴヌクレオチド(ncORN)のCSSに対する位置を示す図である。(B) asORNおよびncORNのIFN-α1 asRNAおよびmRNA発現に及ぼす効果をリアルタイムPCR法により定量した図である。
図7-2】(C)asORNまたはncORNを導入したSenV感染24時間後のNamalwa細胞の全RNA、核RNA分画および細胞質RNA分画におけるIFN-α1 asRNAおよびmRNA発現を鎖特異的RT-PCRにて解析した結果を示す図である。(D)(C) の結果をリアルタイムPCR法により定量した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、IFN-αの発現増強活性を有するIFN-αのアンチセンスヌクレオチドを提供する。本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α mRNAに相補的な配列を含み、かつIFN-αタンパク質の発現を増強させ得るヌクレオチドであれば、いかなるものであってもよい。ここで「相補的」な配列とは、mRNAに対して完全相補的な配列のみならず、細胞の生理的な条件下でmRNAとハイブリダイズしてmRNAを安定化し得る限り、1ないし数(2, 3, 4もしくは 5)塩基のミスマッチを含んでもよい。好ましくは、IFN-α mRNAに相補的な配列とは、ストリンジェントな条件、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件(例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられる)下で、該mRNAとハイブリダイズし得る配列である。
具体的には、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAは、該mRNAの熱力学的に安定でない部分と相互作用して該mRNAを安定化すると考えられるので、本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α mRNA中の熱力学的に安定でない部分に相補的な配列を含むことが好ましい。熱力学的に安定でない部分としては、mRNAが二次構造をとった際に一本鎖の状態にある(例えば、ステムループ構造のループ部分にあたる)領域が挙げられる。IFN-α mRNAの二次構造は、該mRNAの塩基配列情報をもとに、mfold(GCG Software; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 7706-10 (1989) 参照)に代表されるような既存のRNA二次構造予測プログラムを用いて予測することができる。IFN-α mRNAには少なくとも13種類の機能性サブタイプが存在するが(例えば、Science, 209: 1343-1347 (1980)、Gene, 11: 181-186 (1980)、Nature, 290: 20-26 (1981)、Nature, 313: 698-700 (1985)、J. Invest. Dermatol., 83: 128s-136s (1984)、J. Interferon Res., 2: 575-585 (1982)、J. Interferon Res., 13: 227-231 (1993)、J. Biol. Chem., 268: 12565-12569 (1993)、Acta Virol., 38: 101-104 (1994)、Biochim. Biophys. Acta, 1264: 363-368 (1995) 参照)、それらの塩基配列情報はいずれも容易に入手可能である。例えば、ヒトIFN-α1 mRNA(cDNA)の塩基配列は、DDBJ/EMBL/GenBank ヌクレオチドデータベースにAccession No. AB445100として登録されている。当該塩基配列を配列番号1に、当該塩基配列より推定されるヒトIFN-α1のアミノ酸配列を配列番号2に、それぞれ示す。
【0018】
好ましくは、本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α mRNAのSL1(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号229〜305で示される塩基配列)および/またはSL2領域(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号308〜434で示される塩基配列)内の塩基配列に相補的な配列を含む。ヒトIFN-α1 mRNAの種々の欠失変異体を用いた実験から、該mRNAの核外輸送には、配列番号1に示される塩基配列中塩基番号208〜452で示される領域が形成する2つのステムループ(SL1およびSL2)からなる二次構造を、核外輸送因子が認識することが必要であることが明らかとなった。IFN-α mRNAに対する内因性asRNAは、この核外輸送責任領域(CSSともいう)をターゲットとして該mRNAと相互作用することによりmRNAの分解を阻害すると考えられるので、CSS中の配列のうちで上記の条件に適合する領域、即ち、CSSが二次構造をとった際にSL1またはSL2領域内でループ構造を形成する部分の塩基配列に相補的な配列を含むヌクレオチドは、内因性IFN-α asRNAと同様にIFN-α mRNAを安定化し、該mRNAレベルを増大させ、IFN-αタンパク質の産生を増強することができる。特に、SL2領域内のBulged SL(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号322〜352で示される塩基配列)領域内の塩基配列に相補的な配列を含むアンチセンスヌクレオチドがより好ましい。
【0019】
本発明のアンチセンスヌクレオチドの長さに特に制限はなく、IFN-αの内因性asRNAの全長もしくは任意のその断片を含むものであってよいが、配列特異性の面から、標的配列に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは約12塩基以上、より好ましくは約15塩基以上含むものである。また、投与のし易さ等の面から、500塩基以下、好ましくは300塩基以下、より好ましくは150塩基以下の塩基長を有するものが挙げられる。
【0020】
さらに、本発明のアンチセンスヌクレオチドが10〜50塩基程度のオリゴヌクレオチドの場合、該ヌクレオチドは、配列非特異的な反応を起こす配列(例えば、5’-CG-3’、5’-GGGG-3’、5’-GGGGG-3’等)を含まないものから選択することが好ましく、また、IFN-α mRNA以外のRNA中に類似の相補鎖配列が存在しないものから選択することが好ましい。他のRNA中に類似の相補鎖配列が存在しないことは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの候補配列をクエリーとして、対象とする哺乳動物のゲノム配列に対して相同性検索をかけることにより確認することができる。ここで相同性検索手段としては、公知の核酸の相同性検索ソフトウェア(例えば、NCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)NBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)、GCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラム等)を用いることができる。また、ゲノムDNAデータセットとしては、例えば、Celera社が提供する全ヒトゲノムデータを用いることができる。
【0021】
本発明のアンチセンスヌクレオチドは、細胞への導入方法に応じて種々の形態で用いられる。例えば、該アンチセンスヌクレオチドが10〜50塩基程度のオリゴヌクレオチドの場合、一本鎖DNA、一本鎖RNA、DNA/RNAキメラのいずれであってもよく、さらに公知の修飾の付加されたものであってもよい。ここで「ヌクレオチド」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいてもよい。
【0022】
アンチセンスヌクレオチドを構成するヌクレオチド分子は、天然型のDNAもしくはRNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、種々の化学修飾を含むことができる。例えば、ヌクレアーゼなどによる分解を防ぐために、センスオリゴヌクレオチドを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各ヌクレオチドの糖(リボース)の2'位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2'-O-Me)、CH2CH2OCH3(2'-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。
RNAの糖部のコンフォーメーションはC2'-endo(S型)とC3'-endo(N型)の2つが支配的であり、一本鎖RNAではこの両者の平衡として存在するが、二本鎖を形成するとN型に固定される。したがって、標的asRNAに対して強い結合能を付与するために、2'酸素と4’炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したRNA誘導体であるBNA (LNA)(Imanishi, T. et al., Chem. Commun., 1653-9, 2002; Jepsen, J.S. et al., Oligonucleotides, 14, 130-46, 2004)やENA(Morita, K. et al., Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids, 22, 1619-21, 2003)もまた、好ましく用いられ得る。
【0023】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-αのmRNA(cDNA)配列に基づいて、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。
【0024】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、ポリリジンのようなポリカチオン体、脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性物質が付加された形態で提供され得る。あるいはまた、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを、膜透過機能を有するペプチド(例えば、ショウジョウバエ由来のAntennapediaホメオドメイン(AntP)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のTAT、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のVP22等の細胞通過ドメイン)などで修飾することにより、該オリゴヌクレオチドの細胞への取り込みを促進することができる。
【0025】
一方、本発明のアンチセンスヌクレオチドがより長い塩基長からなるポリヌクレオチドの場合、該ヌクレオチドの細胞への導入は、自体公知の遺伝子導入法を用いて実施することができる。この場合、該ヌクレオチドとしては二本鎖DNAが好ましく用いられる。本発明のアンチセンスヌクレオチドは、例えば、後述の実施例に記載されるように、IFN-αの内因性asRNAを発現する細胞(例えば、ウイルス感染により内因性IFN-α asRNAを高発現する細胞)から総RNAを抽出し、配列番号1に示されるIFN-α mRNAの配列情報に基づいて、その相補鎖配列の適当な領域を増幅し得るプライマーを設計し、RT-PCRを実施することにより取得することができる。得られたcDNAは、宿主となる動物細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0026】
本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α mRNAを安定化することにより、IFN-α mRNAおよびIFN-αタンパク質の発現を増強することができる。IFN-αは、抗ウイルス作用、細胞増殖抑制作用、ナチュラルキラー細胞の活性化作用などの多様な生理活性を有するので、本発明のアンチセンスヌクレオチドを含有する医薬は、IFN-αの発現増強剤として、種々の疾患の予防および/または治療に利用することができる。そのような疾患としては、例えば、インフルエンザ等の気道系ウイルス感染症、B型肝炎、C型肝炎(活動性、非活動性)、ヘルペス感染症(性器ヘルペス、角膜ヘルペス炎、口腔ヘルペスなど)、尖圭コンジローマ、AIDS等のウイルス感染症、腎臓癌、腎細胞癌、乳癌、膀胱癌、基底細胞癌、頭頸部癌、頸管異形成、皮膚悪性腫瘍、カポジ肉腫、悪性黒色腫、幼児血管腫、慢性肉芽腫症、慢性骨髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病、ヘアリー細胞白血病、毛様細胞白血病、T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)骨髄症、多発性骨髄腫、リンパ腫などの癌、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、シェーグレン症候群、多発性硬化症(MS)、口内炎、性器疣贅、膣内疣贅、赤血球増加症、血小板増加症、菌状息肉症、突発性難聴、老年性円盤状黄斑変性症、ベーチェット病などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明のアンチセンスヌクレオチドを含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、吸入投与、血管内投与、皮下投与、経粘膜投与など)に投与することができる。
これらの核酸を上記のウイルス感染症や癌などの予防・治療剤として使用する場合、自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。即ち、本発明のアンチセンスヌクレオチドを、単独で、あるいはレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどの上記の適当な哺乳動物細胞用の発現ベクターに機能可能な態様で挿入した後、常套手段に従って製剤化することができる。該ヌクレオチドは、そのままで、あるいは摂取促進のための補助剤とともに、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与することもできる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記ヌクレオチドを単独またはリポソームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
【0028】
本発明のアンチセンスヌクレオチドは、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明のアンチセンスヌクレオチドと薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
【0029】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、エアロゾル剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含してもよい。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。エアロゾル製剤はジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などのような圧縮された許容しうる抛射薬内に入れることができる。あるいはネブライザーやアトマイザーのような非圧縮性製剤用医薬品として製剤化してもよい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記核酸を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
【0030】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0031】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、エアロゾル剤、坐剤が挙げられる。本発明のアンチセンスヌクレオチドは、例えば、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
【0032】
本発明のアンチセンスヌクレオチドを含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人の急性C型肝炎の予防および/または治療に使用する場合には、本発明のアンチセンスヌクレオチドを1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1回〜数回程度、静脈注射や吸入等により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0033】
なお前記した医薬組成物は、本発明のアンチセンスヌクレオチドとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、他の薬剤を含有してもよい。他の薬剤としては、例えば、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、抗生物質、抗セプシス薬、抗セプティックショック薬、エンドトキシン拮抗薬、免疫調節薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド薬、炎症性メディエーター作用抑制薬、炎症性メディエーター産生抑制薬、抗炎症性メディエーター作用抑制薬、抗炎症性メディエーター産生抑制薬などが挙げられる。
【0034】
IFN-αの内因性asRNAの塩基配列に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(即ち、IFN-αのセンスオリゴヌクレオチド)は、IFN-α mRNAに対するasRNAの安定化作用を阻害することにより、IFN-α mRNAを不安定化し、IFN-αの発現を調節することができる。したがって、本発明はまた、IFN-αの発現調節活性を有するIFN-αのセンスオリゴヌクレオチドを提供する。本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAに相補的な配列を含み、かつIFN-α mRNAを不安定化し得るオリゴヌクレオチドであれば、いかなるものであってもよい。ここで「相補的」な配列とは、asRNAに対して完全相補的な配列のみならず、細胞の生理的な条件下でasRNAとハイブリダイズしてmRNAへのasRNAの作用を阻害し得る限り、1ないし数(2, 3, 4 もしくは 5)塩基のミスマッチを含んでもよい。好ましくは、IFN-α asRNAに相補的な配列とは、ストリンジェントな条件、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件(例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50〜65℃での一回以上の洗浄等が挙げられる)下で、該asRNAとハイブリダイズし得る配列である。
上述のように、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAは、該mRNAの熱力学的に安定でない部分と相互作用して該mRNAを不安定化するので、本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-α mRNA中の熱力学的に安定でない部分と相同な配列を含むことが好ましい。熱力学的に安定でない部分としては、mRNAが二次構造をとった際に一本鎖の状態にある(例えば、ステムループ構造のループ部分にあたる)領域が挙げられる。
【0035】
さらに、本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、配列非特異的な反応を起こす配列(例えば、5’-CG-3’、5’-GGGG-3’、5’-GGGGG-3’等)を含まないものから選択することが好ましく、また、IFN-α mRNA以外のRNA中に類似の配列が存在しないものから選択することが好ましい。他のRNA中に類似の配列が存在しないことは、アンチセンスオリゴヌクレオチドについて上記したと同様の方法により確認することができる。
【0036】
好ましくは、本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-α mRNAのSL1(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号229〜305で示される塩基配列)またはSL2領域(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号308〜434で示される塩基配列)内の塩基配列に相同な配列を含む。IFN-α1 mRNAの核外輸送責任領域(CSS)中の配列のうちで、CSSが二次構造をとった際にSL1またはSL2領域内でループ構造を形成する部分の塩基配列に相同な配列を含むセンスオリゴヌクレオチド(図2参照)は、IFN-α asRNAにハイブリダイズすることで該asRNAのIFN-α mRNAへの作用を阻害し、該mRNAレベルを調節することにより、IFN-αタンパク質の産生を調節することができる。特に、SL2領域内のBulged SL(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNA塩基配列にあっては、塩基番号322〜352で示される塩基配列)領域内の塩基配列に相同な配列を含むセンスオリゴヌクレオチドがより好ましい。
尚、「相同な」配列とは、IFN-α mRNAの特定の部分塩基配列と完全に同一な配列のみならず、該mRNAに対する内因性asRNAと細胞の生理的な条件下でハイブリダイズしてmRNAに対するasRNAの作用を阻害し得る限り、1ないし数(2, 3, 4もしくは 5)個の塩基が異なっていてもよい。
【0037】
より具体的なセンスオリゴヌクレオチドの例として、例えば、以下のものが挙げられる(括弧内の数字は配列番号1に示される塩基配列中の対応する領域を示す)。
配列番号3:5’-CCAGCAGATCTTCAACCTCT-3’(塩基番号319〜338)
配列番号4:5’-ATCTTCAACCTCTTTACCAC-3’(塩基番号326〜345)
配列番号5:5’-GATGAGGACCTCCTAGACAA-3’(塩基番号368〜387)
配列番号6:5’-GACCTCCTAGACAAATTCTG-3’(塩基番号374〜393)
【0038】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドの長さに特に制限はないが、配列特異性の面から、IFN-α asRNA中の標的配列に相補的な部分を少なくとも10塩基以上、好ましくは約12塩基以上、より好ましくは約15塩基以上含むものである。また、合成の容易さ、製造コスト、投与のし易さ等の面から、50塩基以下、好ましくは40塩基以下、より好ましくは30塩基以下の塩基長を有するものが挙げられる。
【0039】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖DNA、一本鎖RNA、DNA/RNAキメラのいずれであってもよく、さらに公知の修飾の付加されたものであってもよい。ここで「ヌクレオチド」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいてもよい。センスオリゴヌクレオチドがDNA(ODN)の場合、標的asRNAとセンスODNとによって形成されるRNA:DNAハイブリッドは、内在性RNase Hに認識されて標的asRNAの選択的な分解を引き起こすことができる。
【0040】
センスオリゴヌクレオチドを構成するヌクレオチド分子は、天然型のDNAもしくはRNAでもよいが、安定性(化学的および/または対酵素)や比活性(RNAとの親和性)を向上させるために、上記アンチセンスヌクレオチドの場合と同様に、種々の化学修飾を含むことができる。
【0041】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-αのmRNA(cDNA)配列に基づいて、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相同な配列を合成することにより調製することができる。
【0042】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、リポソーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、ポリリジンのようなポリカチオン体、脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性物質が付加された形態で提供され得る。あるいはまた、本発明のセンスオリゴヌクレオチドを、膜透過機能を有するペプチド(例えば、ショウジョウバエ由来のAntennapediaホメオドメイン(AntP)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のTAT、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来のVP22等の細胞通過ドメイン)などで修飾することにより、該オリゴヌクレオチドの細胞への取り込みを促進することができる。
【0043】
ウイルス感染などにより大量のIFN-αが産生されると、細胞傷害性T細胞の抗原非特異的活性化が誘導され、組織が損傷される。損傷した組織からは死細胞や、死細胞から核酸、核酸-タンパク質複合体などが放出され、それらに対する細胞性および液性免疫が誘導されて、細胞傷害性T細胞や抗原−自己抗体複合体による組織損傷をさらに悪化させる場合がある。本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、宿主免疫応答が異常を来たした場合などに、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAの作用を阻害することにより、IFN-α mRNAおよびIFN-αタンパク質の発現を調節し、IFN-αの過剰産生に起因する種々の疾患や病態を予防および/または治療することができる。そのような疾患または病態としては、例えば、乾癬、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、クローン病、非ホジキン型リンパ腫などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドを含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、吸入投与、血管内投与、皮下投与、経粘膜投与など)に投与することができる。
これらの核酸を上記のIFN-α過剰産生に起因する疾患および病態の予防・治療剤として使用する場合、上記の本発明のアンチセンスヌクレオチドと同様に製剤化し、投与することができる。
【0045】
本発明のセンスオリゴヌクレオチドを含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人のIFN-α過剰産生に起因する乾癬の予防および/または治療に使用する場合には、本発明のセンスオリゴヌクレオチドを1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1回〜数回程度、静脈注射や吸入等により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0046】
なお前記した医薬組成物は、本発明のセンスオリゴヌクレオチドとの配合により好ましくない相互作用を生じない限り、他の薬剤を含有してもよい。他の薬剤としては、例えば、抗ウイルス薬、抗腫瘍薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗原虫薬、抗生物質、抗セプシス薬、抗セプティックショック薬、エンドトキシン拮抗薬、免疫調節薬、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド薬、炎症性メディエーター作用抑制薬、炎症性メディエーター産生抑制薬、抗炎症性メディエーター作用抑制薬、抗炎症性メディエーター産生抑制薬などが挙げられる。
【0047】
本発明はまた、IFN-α mRNAに対する内因性asRNAの安定化作用を調節することによりIFN-αの発現を増強または抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、被験物質の存在下および非存在下で、IFN-α mRNAとそれに対する内因性asRNAとのハイブリダイゼーションを検出し、その程度を比較することを特徴とする。
例えば、IFN-α mRNAとIFN-α asRNAとを常法により単離し、いずれか一方を固相化し、他方を適当な標識剤で標識して、RNAが生理的な二次構造を形成し得る条件下で、被験物質の存在下および非存在下に両者をハイブリダイズさせ、固相に結合した標識量を両条件下で比較する方法が挙げられる。ここでmRNAおよびasRNAとしては、それぞれその全長を用いてもよいし、あるいはmRNAの核外輸送責任領域(CSS;配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNAの塩基配列にあっては、塩基番号208〜452で示される領域)、SL2領域(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNAの塩基配列にあっては、塩基番号308〜434で示される領域)あるいはSL1領域(配列番号1に示されるヒトIFN-α1 mRNAの塩基配列にあっては、塩基番号229〜305で示される領域)、並びにasRNAのそれらの領域に相補的な配列を含むそれらのフラグメントを用いてもよい。
固相の材料としては、シリコンなどの半導体、ガラス、ダイアモンドなどの無機物、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の高分子物質を主成分とするフィルムなどが挙げられ、また固相の形状としては、スライドガラス、マイクロウェルプレート、マイクロビーズ、繊維型などが挙げられるが、それらに制限されない。固相上にmRNAもしくはasRNAを固定化する方法としては、予め該RNAにアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入しておき、一方、固相上にも該RNAと反応し得る官能基(例:アルデヒド基、アミノ基、SH基、ストレプトアビジンなど)を導入し、両官能基間の共有結合で固相とRNAを架橋したり、ポリアニオン性のRNAに対して、固相をポリカチオンコーティングして静電結合を利用してRNAを固定化するなどの方法が挙げられるが、これらに限定されない。固相化RNAの調製法としては、フォトリソグラフィー法を用いてRNAを基板(ガラス、シリコンなど)上で1ヌクレオチドずつ合成するAffymetrix方式と、マイクロスポッティング法、インクジェット法、バブルジェット(登録商標)法などを用いて、予め調製されたRNAを基板上にスポッティングするStanford方式とが挙げられるが、使用するRNAの塩基長を考慮すれば、Stanford方式あるいは両者を組み合わせた手法を用いるのが好ましい。
標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔32P〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5などが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン-(ストレプト)アビジンを用いることもできる。
被験物質としては、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。添加される被験物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約1〜約24時間が挙げられる。
固相上のRNAと、標識したRNA(および被験物質)とを接触させて、インキュベートした後、固相に結合しなかったRNAを洗い流し、固相に結合したRNAの標識量を検出する。被験物質の存在下で、非存在下に比べて固相に結合した標識量が有意に増加した場合、該被験物質をIFN-α mRNA安定化物質、従ってIFN-α発現増強物質の候補として選択することができる。一方、被験物質の存在下で、非存在下に比べて固相に結合した標識量が有意に減少した場合、該被験物質をIFN-α mRNA不安定化物質、従ってIFN-α発現抑制物質の候補として選択することができる。
【0048】
好ましい実施態様においては、IFN-α mRNAとIFN-α asRNAとを発現する細胞に被験物質を接触させ、該細胞における該mRNA量および/またはIFN-αタンパク質量の変化を測定することにより、より直接的にIFN-α発現増強または抑制物質を選択することができる。
IFN-α mRNAとIFN-α asRNAとを発現する細胞は、両RNAを生来発現し得る細胞(例えば、白血球、リンパ芽球細胞等)であってもよいし、それらのいずれか一方もしくは両方を発現するDNAを導入した組換え細胞、あるいはウイルスを感染させた細胞であってもよい。組換え細胞の場合、宿主細胞として、例えば、H4IIE-C3細胞、HepG2細胞、293T細胞、HEK293細胞、COS7細胞、2B4T細胞、CHO細胞、MCF-7細胞、H295R細胞などの動物細胞をあげることができる。IFN-α mRNAおよびIFN-α asRNAをコードするDNAは、両RNAを常法により単離し、逆転写反応等によって二本鎖DNAに変換した後、宿主細胞内で機能しうるプロモーターを有する発現ベクターに挿入して、例えば、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法などにより、このベクターを宿主細胞に導入することにより作製することができる。
【0049】
被験物質としては、前記したとおりのものが用いられる。被験物質と上記細胞との接触は、例えば、該細胞の培養に適した培地(例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地など)や各種緩衝液(例えば、HEPES緩衝液、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液など)の中に被験物質を添加して、細胞を一定時間インキュベートすることにより実施することができる。添加される被験物質の濃度は化合物の種類(溶解度、毒性等)により異なるが、例えば、約0.1nM〜約100nMの範囲で適宜選択される。インキュベート時間としては、例えば、約1〜約48時間が挙げられる。必要に応じて、インキュベーションの際に上記細胞をウイルスに感染させてもよい。
【0050】
インキュベーション終了後(あるいは経時的に)、細胞からRNAを抽出してRT-PCR、リアルタイムPCRやノーザンブロット解析によりIFN-α mRNA量を測定するか、あるいは培養上清を回収して、自体公知の各種イムノアッセイやウェスタンブロッティング等によりIFN-αタンパク質量を測定する。被験物質の添加により細胞におけるIFN-α mRNA量および/またはIFN-αタンパク質量が有意に増加した場合、該被験物質をIFN-α発現増強物質の候補として選択することができる。一方、被験物質の添加により該mRNA量および/またはタンパク質量が有意に減少した場合、該被験物質をIFN-α発現抑制物質の候補として選択することができる。
【0051】
あるいはまた、ウイルス感染によりIFN-α mRNAとIFN-α asRNAとを発現する細胞において、被験物質の存在下および非存在下で、該細胞におけるIFN-αの産生および/またはウイルス力価の変動を指標として、IFN-α発現増強または抑制物質をスクリーニングすることもできる。被験物質の存在下で、非存在下に比べてIFN-αの産生量が有意に増加した場合および/またはウイルス増殖が有意に抑制された場合、該被験物質をIFN-α発現増強物質の候補として選択することができる。一方、被験物質の存在下で、非存在下に比べてIFN-αの産生量が有意に減少した場合、該被験物質をIFN-α発現抑制物質の候補として選択することができる。
【0052】
上記のスクリーニング法により選択されたIFN-α発現増強物質は、IFN-αmRNAに対する内因性asRNAの作用を増強することにより、IFN-α mRNAおよびIFN-αタンパク質の発現を増強することができる。したがって、上記IFN-α発現増強物質を含有する医薬は、例えば、インフルエンザ等の気道系ウイルス感染症、B型肝炎、C型肝炎(活動性、非活動性)、ヘルペス感染症(性器ヘルペス、角膜ヘルペス炎、口腔ヘルペスなど)、尖圭コンジローマ、AIDS等のウイルス感染症、腎臓癌、腎細胞癌、乳癌、膀胱癌、基底細胞癌、頭頸部癌、頸管異形成、皮膚悪性腫瘍、カポジ肉腫、悪性黒色腫、幼児血管腫、慢性肉芽腫症、慢性骨髄性白血病(CML)、成人T細胞白血病、ヘアリー細胞白血病、毛様細胞白血病、T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)骨髄症、多発性骨髄腫、リンパ腫などの癌、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、シェーグレン症候群、多発性硬化症(MS)、口内炎、性器疣贅、膣内疣贅、赤血球増加症、血小板増加症、菌状息肉症、突発性難聴、老年性円盤状黄斑変性症、ベーチェット病などの予防および/または治療に有用である。
一方、上記のスクリーニング法により選択されたIFN-α発現抑制物質は、IFN-αmRNAに対する内因性asRNAの作用を阻害することにより、IFN-α mRNAおよびIFN-αタンパク質の発現を抑制することができる。したがって、上記IFN-α発現抑制物質を含有する医薬は、例えば、乾癬、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、クローン病、非ホジキン型リンパ腫の予防および/または治療に有用である。
【0053】
上記のスクリーニング法により選択された物質を含有する医薬は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは非ヒト哺乳動物(例、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例、吸入投与、血管内投与、皮下投与など)に投与することができる。投与に用いられる医薬組成物としては、選択された物質と薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってよい。
【0054】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、エアロゾル剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含してもよい。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、選択されたIFN-α発現増強または抑制物質を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。エアロゾル製剤はジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などのような圧縮された許容しうる抛射薬内に入れることができる。あるいはネブライザーやアトマイザーのような非圧縮性製剤用医薬品して製剤化してもよい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記IFN-α発現増強または抑制物質を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されても良い。
【0055】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していても良い。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0056】
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、エアロゾル剤、坐剤が挙げられる。IFN-α発現増強または抑制物質は、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mg含有されていることが好ましい。
【0057】
上記のIFN-α発現増強または抑制物質を含有する上記医薬の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人の急性C型肝炎の予防および/または治療に使用する場合には、IFN-α発現増強物質を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1回〜数回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。また、例えば、成人の乾癬の予防および/または治療に使用する場合には、IFN-α発現抑制物質を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1回〜数回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0059】
(材料と方法)
1. 細胞培養
ヒトBリンパ芽球細胞株のNamalwa細胞(ATCC CRL-1432)を、ウシ胎児血清 (FCS; GIBCO)を10%含むRPMI1640培地(Wako) (R10)を用い、37℃, 5% CO2条件下で培養した。
【0060】
2. 細胞感染に用いるウイルスの準備と力価の測定
孵化鶏卵(10日齢)の漿尿膜腔に10,000倍希釈したSendai virus (SeV) (5,120 HA units/ ml)を200μl接種し、35℃で72時間感染後、4℃で一夜冷蔵した。この感染孵化鶏卵から回収した漿尿液中のSeVの力価を、初日ヒナ赤血球を用いた赤血球凝集試験により測定した。
【0061】
3. アンチセンスRNA (asRNA)発現プラスミドの作製
ヒトIFN-α1遺伝子 (WT; nt 1-876 (配列番号1に示される塩基配列の塩基番号に相当))並びにそのタンパク質コーディング領域の5’側断片 (ED7; nt 68-487)を、それぞれphuIFN-α1 (Kimura et al., JCS, 117: 2259, 2004)、phuIFN-α1/ED7発現ベクターからHindIII/XbaI断片として切り出した。また、CSS+断片 (nt: 182-488)、CSS断片(nt: 208-452)、SL2断片 (nt:308-434)、BSL断片(nt: 322-352)は、phuIFN-α1プラスミドDNAから、PCR反応によりHindIII/XbaI断片として増幅、作製した。これらを、CMV immediate early regionプロモーターを用いた発現ベクターpCG-BLのXbaI/HindIIIクローニングサイトにアンチセンス方向に挿入し、それぞれヒトIFN-α1/WT asRNA、IFN-α1/ED7 asRNA、IFN-α1/CSS+ asRNA、IFN-α1/CSS asRNA、IFN-α1/SL2 asRNA、IFN-α1/BSL asRNAをそれぞれ発現する、phuIFN-α1R、pIFN-α1/ED7R、pIFN-α1/CSS+R、pIFN-α1/CSSR、pIFN-α1/SL2R、pIFN-α1/BR発現ベクターとした。
【0062】
4. DNAトランスフェクションによるasRNAのノックダウン (KD)と過剰発現ならびにRNAトランスフェクションによるasRNA機能中心の過剰発現
asRNAのノックダウンにあたっては、実験前日に培養Namalwa細胞を、6-ウエルプレート(Nunc)に3 x 106 cells/2 ml/wellとなるように播種し、37℃, 5% CO2条件下で24時間培養した。その後、室温で150 x g, 4分間遠心沈澱させ、必要ウエル数分相当のNamalwa細胞を回収した。この細胞沈渣をウエル数x 1 mlのR10に浮遊後、30 μl/3 x 106cellsのMAT-S Immobilizer (IBA; 7-2002-100)を添加し、5分毎に撹拌しながら、室温で15分間反応させた。その後、6-ウエルプレートを必要枚数使い、R10培地を予めウエルあたり1 ml宛分注したそれぞれのウエルに対しImmobilizerを吸着させたNamalwa細胞浮遊液各1 mlを分注し、専用のマグネットプレート (IBA 7-2004-000)上に室温で、20分間留置した。この間に、3 x 106 cellsあたりセンスオリゴヌクレオチド(hIFN-α1/Se1)3 μgを含むRPMI1640 200 μlをMAT-A Reagent (IBA 7-2001-100) 3 μlに加え、混和後、室温で15分間留置し、トランスフェクション ミックスを作製した。所定の時間が経過したマグネットプレート上のImmobilizer吸着のNamalwa細胞に対し、このトランスフェクション ミックスを各ウエル毎に加え、10分間静置したのち、CO2インキュベーターに移し、37℃で6時間培養した。但し、センスオリゴヌクレオチドによるasRNA KD効果の特異性を検討する場合には、hIFN-α1/Se1に加えて、hIFN-α1/Se2, Se3, Se4, NSe1, NSe2も使用し、細胞への添加後48時間迄培養したが、これらの細胞にはウイルスを感染させなかった。
[センスオリゴヌクレオチド]
hIFN-α1/Se1: 5’-C*C*A*GCAGATCTTCAACC*T*C*T-3’(配列番号3)
hIFN-α1/Se2: 5’-A*T*C*TTCAACCTCTTTAC*C*A*C-3’(配列番号4)
hIFN-α1/Se3: 5’-G*A*T*GAGGACCTCCTAGA*C*A*A-3’(配列番号5)
hIFN-α1/Se4: 5’-G*A*C*CTCCTAGACAAATT*C*T*G-3’(配列番号6)

[陰性対照センスオリゴヌクレオチド]
hIFN-α1/NSe1: 5’-A*A*T*CTCTCCTTCCTCCT*G*T*C-3’(配列番号7)
hIFN-α1/NSe2: 5’-C*C*A*GGAGGAGTTTGATG*G*C*A-3’(配列番号14)
(*はS化したヌクレオチドを示す。)
asRNAの過剰発現にあたっては、前日に播種し、24時間培養したNamalwa細胞に対し、上記3に述べた各種asRNA発現ベクター0.5 μgに2.5 μgのpUC12を加え、計3 μgにしたプラスミドDNAミックスを先に述べたようにして導入し、37℃で20時間培養した。
これらのasRNA発現ベクター導入によるIFN-α1 mRNAの発現量の変化の検討からIFN-α1 asRNA機能ドメインをマッピング(下記結果9、図6参照)した。得られた結果を検証する目的で、機能ドメインの中心となるIFN-α1 mRNAのCSS二次構造中BSL領域に対応するアンチセンスRNAシークエンスを持つ下記のアンチセンスリボオリゴヌクレオチドをNamalwa細胞に導入し、37℃で6時間培養した。
IFNA1/346-322ORN: 5’-U(M*)G(M*)U(M*)G(M*)G(M*)U(M*)A(M*)A(M*)A(M*)G(M*)A(M*)G(M*)G(M*)U(M*)U(M*)G(M*)A(M*)A(M*)G(M*)A(M*)U(M*)C(M*)U(M*)G(M*)C(M)-3’(配列番号28)
陰性対照:IFNA1/224-205 ncORN: 5’-G(M*)A(M*)C(M*)A(M*)G(M*)G(M*)A(M*)G(M*)G(M*)A(M*)A(M*)G(M*)G(M*)A(M*)G(M*)A(M*)G(M*)A(M*)U(M*)U(M)-3’(配列番号29)
(*: S化、M: 2’-o-Me化したヌクレオチドを示す。)
【0063】
5. Namalwa細胞へのSeV感染
上述のセンスオリゴヌクレオチド、asRNA発現プラスミドまたはアンチセンスリボオリゴヌクレオチドのトランスフェクションにより、asRNAの発現をノックダウンあるいは過剰発現、さらにはasRNAの機能中心を過剰発現するNamalwa細胞 (asRNA-minus、asRNA-overexpressedならびにasORN) (6-ウエルプレートで、1ウエルあたり3 x 106 cells)または同一細胞数で何も導入していないNamalwa細胞 (mock)をそれぞれ、室温で150 x g, 4分間、2回遠心・洗浄し、最終沈渣を2 mlのRPMI1640に再浮遊した。その後SeVを50 HA units/106 cellsの割合で加え、室温で1時間感染させた。終了後、再度室温で150 x g, 4分間、2回遠心・洗浄し、3 x 106cells/2 ml/wellとなるようにR10培地に浮遊後、6-ウエルプレートに再度播種した。各感染細胞は37℃で静置培養し、0, 1, 3, 6, 12, 24, 30, 36及び48時間経過後に回収し、以下のRNA抽出、精製実験に供した。
また、asRNAのノックダウンあるいは過剰発現による同RNAの安定性に対する影響を検討する目的で、SeV感染後一定時間を経過したノックダウンあるいは過剰発現細胞に対しActinomycin D (ActD) (Sigma A9415)を0.75あるいは1 μg/mlになるよう添加し、所定に時間の経過後、下記の細胞総RNA分画の抽出に供した。
【0064】
6. 細胞総RNA分画あるいは核RNA分画ならびに細胞質RNA分画の抽出並びに各種酵素を用いたRNAの精製
6-a. 細胞総RNA分画の抽出
上記所定の時間経過後、asRNA-minus/感染細胞またはasRNA-overexpressed/感染細胞並びにmock/感染細胞を回収し、4℃で150 x g, 4分間遠心後、各細胞沈渣に対しTRIzol (Invitrogen; 15596-018) 1 mlを加えた。TRIzol中でピペッティングにより細胞を溶解後、室温で5分間留置した。その後、クロロフォルム (Wako; 試薬特級、 038-02606)0.2 mlを加え、15秒間用手にて震盪混和後、室温に再度2-3分間静置した。続いて、4℃にて12,000 x g, 15分間遠心分離した。この操作により試料は三層に分離したので、最上層の無色の水層(約600 μl)から400 μlを新しい滅菌済み1.5 ml微量遠心チューブに分取した。このチューブに、使用したTRIzol 1 mlあたり0.5 mlのイソプロピルアルコール (Wako; 試薬特級)を加え転倒混和し、室温に10分間留置後、再度4℃にて12,000 x g, 10分間遠心した。上清を吸引、除去し、RNA沈渣に1 mlの75%エチルアルコールを加えた。4℃にて7,500 x g, 5分間遠心し、上清を吸引、除去後、1 mlの99.5%エチルアルコール (Wako; 試薬特級)を加え、再度4℃にて7,500 x g, 5分間遠心した。上清を吸引、除去後、沈渣を風乾し、滅菌再蒸留水に溶解した。このRNA溶液に対し、滅菌再蒸留水を最終210 μlになるように添加後、20 mg/mlのグリコーゲン (Roche Applied Science; 901 393)を1 μl, 7.5 Mの酢酸アンモニウム(Wako; 分子生物学用01820485)を1/2溶加え、撹拌後2.5溶の99.5%エチルアルコールを添加し、4℃にて10分間留置した。その後、4℃, 15,300 x gにて30分間遠心し、得られたRNA沈渣を上述のように75%, 99.5%のエチルアルコールで洗浄、風乾後、50 μlのTE8.0(10 mM Tris・HCl, pH 8.0/ 0.1 mM EDTA)に溶解し、以下の酵素反応に供する迄-20℃に保存した。
【0065】
6-b. 核RNA分画ならびに細胞質RNA分画の抽出
asORNあるいはncORNを導入し、SenVの感染後24時間を経過したNamalwa細胞を回収し、細胞沈渣を490 μlのTNMバッファー(10 mM Tris-HCl, pH 7.4/10 mM NaCl, 3 mM MgCl2, 0.1 mM EDTA, 0.4 units RNase inhibitor, 1 mM DTT)に浮遊させた。その後10% NP-40を10 μl加え(最終濃度0.2%)、先太のチップを使ってピペッティング後、5分間氷冷した。次いで、4℃において500 x g、5分間で遠沈後、上清400 μlに対しTRIzol 1.2 mlを加え、細胞質RNA分画用試料とした。続いて、TNMバッファー400 μlを用いて、4℃において800 x gで1分間遠沈し、これを三回繰り返した。最終核沈渣物に対しTRIzol 0.7 mlを加え、核RNA分画用試料とした。その後、6-aに記したように細胞質RNA分画ならびに核RNA分画を租抽出した。
【0066】
6-c. プロテアーゼ消化
上述の粗抽出した細胞総RNA、細胞質並びに核RNAにProteinase K (PCR grade; Roche Applied Science, 03115 887 001) 20μgを加え、Tris/SDS buffer (100 mM Tris-HCl, pH 7.4/ 50 mM EDTA, 2.5% SDS) 100μl中で、37℃, 15分間混入するNamalwa細胞由来のタンパク質成分を消化した。その後RNase-freeのTE8.0飽和フェノール(日本ジーン、319-90093):クロロフォルム:イソアミルアルコール (Wako; 試薬特級; 135-12015)=25:24:1混合液 (PCIAA)を1容加え、4℃で15,300 x g, 2分間遠心した。分取した水層のRNA溶液に対し、イソアミルアルコール=24:1混合液 (CIAA)をさらに1容加え同様に遠心後、6-aで行ったと同様に水層中の細胞総RNAを塩析し、RNA沈渣を50μlのTE8.0に溶解した。
【0067】
6-d. DNase I 消化
この細胞総RNA溶液に対し、TURBO DNA-freeTM Kit (Applied Biosystems, AM1907) 添付のTURBO DNase 2単位を加え、添付のバッファー100 μl中で、37℃, 30分間混入するゲノムDNAを消化した。その後、同酵素をさらに2単位追加し、計60分間経過後に添付のDNase Inactivation Reagentを10 μl加え、十分に撹拌後、室温に2分間放置し、酵素反応を停止させた。その後、4℃にて、9,100 x gで2分間遠心し、上清中の細胞総RNAを6-aで行ったと同様に塩析させた。mock/感染細胞並びにasRNA-minus/感染細胞またはasRNA-overexpressed/感染細胞由来のRNA沈渣を各々60 μl並びに30 μlのTE8.0に溶解し、260, 280, 320 nmの吸光度の測定から、RNA濃度並びにフェノールとタンパク質成分の混入度を測定した。精製したRNA標品のA260/A280比は常に1.95-2.05であり、A320値は0.006以下であった。
【0068】
6-e. ポリA鎖の有無に基づく精製RNAの分画
PolyATract mRNA isolation system (Promega)を用いて、ビオチン化オリゴ(dT)プライマーとストレプトアビジン標識磁性粒子への吸着を指標に、上記のDNaseI処理を施したRNA標品のうち、mock/感染細胞(24時間)由来の細胞総RNAから、ポリA鎖を有するmRNA画分とポリA鎖を有さないRNA画分を分画した。
【0069】
7. 逆転写反応並びにPCR
7-a. 逆転写反応
前項で精製したasRNA-minus/感染またはasRNA-overexpressed/感染並びにmock/感染の全細胞RNA、あるいはポリA鎖陽性または陰性のRNA画分各2 μgに対し最終14 μlとなるように滅菌再蒸留水を加えた(但し、ポリA鎖陽性RNAは、26.2 ngの同RNAに対して1973.8 ngの大腸菌tRNAを加えて、全量を2 μgとした)。続いて、IFN-α1 mRNAの逆転写用に、2 μMのプラス鎖特異的なhIFN-α1/R2 primerを、IFN-α1またはIFN-α1/ED7 asRNA の逆転写用に2 μMのマイナス鎖特異的なhIFN-α1/5UF1 primer、hIFN-α1/F1 primerまたはhIFN-α1/F1A primerを各1 μl加え、70℃で10分間保温後、4℃に留置した。これらのRNA溶液に対し、5倍濃度の逆転写酵素バッファー(東洋紡、TRT-1B)を5 μl、100 mM dNTPsを25 μl、滅菌再蒸留水1.2 μl、RNase阻害剤(RNase OUT; invitrogen、10777-019)0.3 μl、逆転写酵素(ReverTra Ace; 東洋紡、TRT-101) 1 μlを各々加え、47℃で30分間逆転写反応を進めた。その後、70℃に15分間保温し酵素を失活させた後に4℃に留置した。次いで、上述の逆転写酵素バッファーで5単位/μlとなるように希釈したRNaseH (TakaraBio, 2150A)を1 μl添加し、37℃、20分間鋳型RNAを消化後、前記のように作製したcDNAを塩析した。得られたcDNA沈渣は、mRNA由来を40 μl、asRNA由来は20 μlのTE8.0に溶解した。
[逆転写用プライマー]
プラス鎖特異的プライマー(IFN-α1 mRNAの逆転写用)
hIFN-α1/R2: 5’-GGATCTCATGATTTCTGCTCTGAC-3’(配列番号8)
マイナス鎖特異的プライマー(IFN-α1 asRNAの逆転写用)
hIFN-α1/5UF1: 5’-GAACCTAGAGCCCAAGGTTCAGAG-3’(配列番号9)
hIFN-α1/F1: 5’-TGGTGCTCAGCTGCAAGTCAAGC-3’(配列番号10)
hIFN-α1/F1A: 5’-CTCTCTGGGCTGTGATCTCCCTG-3'(配列番号11)
変異IFN-α1 asRNA特異的プライマー
bglR1: 5’-ACAACACCCTGAAAACTTTGC-3’(配列番号12)
18S rRNA逆転写用ランダムプライマー
nonadeoxyribonucleotide mixture; pd(N)9 (Takara, 3802)
【0070】
7-b. PCRと Agarose gel 電気泳動
7-aで得たcDNA溶液の各2 μlに対し、滅菌再蒸留水29.6 μl, 10倍濃度のGene taqバッファー(日本ジーン、314-02873)を4 μl、2.5 mMのdNTPsを3.2 μl、100 μMのForwardprimerとReverse primer を各0.4 μl加えた。次に、0.2 μlのanti-Taq high (東洋紡、TCP-101)と0.2 μlのtaq polymerase (Gene taq;日本ジーン、314-02873)を混和後、室温で5分間保温し、この混合液0.4 μlを各サンプルに添加後、DNA Engine PTC-0200G (Bio-Rad)を用いて、PCRを以下のように行った。
1サイクル: 95℃, 1分
22-38サイクル: 95℃, 15秒/72℃, 1分 (1サイクル毎に、95℃ から0.3℃ずつプライマーアニール温度を順次降下させる)
1サイクル: 72℃, 30秒
[使用プライマー]
IFN-α1 mRNA由来のcDNA用:
IFN-α1/F2B: 5’-CTCTACCAGCAGCTGAATGACTT-3’(配列番号13)
IFN-α1/R2: 5’-GGATCTCATGATTTCTGCTCTGAC-3’(配列番号8)

asRNA由来のcDNA用:
IFN-α1/5UF1B:5’-ATCTCAGCAAGCCCAGAAGTATC-3’(配列番号15)
IFN-α1/R0: 5’-GAGATTCTGCTCATTTGTGCCAG-3’(配列番号16)

IFN-α1/F1B: 5’-CTGGGCTGTGATCTCCCTGAGAC-3’(配列番号17)
IFN-α1/R1: 5’-AGAGATGGCTGGAGCCTTCTG-3’(配列番号18)

IFN-α1/3UF1:5’-TGAAAACAATTCTTATTGACTCATAC-3’(配列番号19)
IFN-α1/3UR3: 5’-CAGTGTAAAGGTGCACATGACG-3’(配列番号20)

IFN-α1/DF1: 5’-GGAACTTCCTGTATGTGTTCATTC-3’(配列番号21)
IFN-α1/DR2: 5’-ATACAACCTGGTTTAGAGAAAGGTC-3’(配列番号22)

IFN-α1/DF2: 5’-GACCTTTCTCTAAACCAGGTTGTAT-3’(配列番号23)
IFN-α1/DR3: 5’-GCTCCTTCTTCTCATAGTATTTAGG-3’(配列番号24)

IFN-α1 mRNAおよびasRNA由来の各cDNA量の同時比較定量用(下記の両プライマーペアを用いてそれぞれのcDNA量を定量し両cDNA量を比較するとともに、定量結果に使用したプライマーペアの違いによる結果の食い違いがない事を確認する):
IFN-α1/F2B: 5’-CTCTACCAGCAGCTGAATGACTT-3’(配列番号13)
IFN-α1/R2: 5’-GGATCTCATGATTTCTGCTCTGAC-3’(配列番号8)

IFN-α1/F1B: 5’-CTGGGCTGTGATCTCCCTGAGAC-3’(配列番号17)
IFN-α1/R1: 5’-AGAGATGGCTGGAGCCTTCTG-3’(配列番号18)

変異IFN-α1 asRNA由来のcDNA用:
RseF1: 5’-GTAAAGAGGTTGAAGATCTGC-3’(配列番号25)
bglR1: 5’-ACAACACCCTGAAAACTTTGC-3’(配列番号12)

18S rRNA由来のcDNA用:
18S-F: 5’-CTTAGAGGGACAAGTGGCG-3’(配列番号26)
18S-R: 5’-ACGCTGAGCCAGTCAGTGTA-3’(配列番号27)
各精製RNA試料濃度を検定するための内部標準として増幅した18S rRNA由来のcDNAは22サイクル、IFN-α1 mRNA由来のcDNAは35+αサイクル、asRNA由来のcDNAは37+αサイクル増幅し、PCR産物は3% アガロース(アガロースS;日本ジーン、312-01193)による電気泳動で解析した。
尚、mRNA画分又はasRNA画分に混入するゲノムDNA由来の増幅シグナルを検出する目的で、逆転写反応に用いたmock/感染、asRNA-minus/感染並びにasRNA-overexpressed/感染の各細胞に由来する全細胞RNAを各々100 ng又は200 ng使用して同様にPCRを行った。
また、リアルタイムPCR法により、上記の各cDNA量を定量した。cDNAの増幅と定量解析には、THUNDERBIRDTM SYBR(登録商標)qPCR Mix (東洋紡、QPS-201)とChromo 4 real-time解析システム (Bio-Rad)を使用した。得られたIFN-α1 mRNA及びIFN-α1 asRNAのCT値は、2-AACT法により、18S rRNAのCT値を用いて標準化後、陰性対象のサンプルに対する相対量(Relative IFN-α1 mRNA expression またはRelative IFN-α1 asRNA expression)で表した。
【0071】
8. IFN-α1 mRNA並びにasRNAの発現に及ぼすActive Hexose correlated Compound (AHCC)の効果判定
AHCC(アミノアップ化学)0.5 mg/ml存在下に培養したNamalwa細胞に、上記5のようにSeVを感染させた。感染0、12、24時間後に細胞を回収し、上記6で述べたようにして、細胞総RNA分画を抽出した。このRNA画分を使用して、IFN-α1 asRNAとIFN-α1 mRNAの発現に及ぼすAHCCの影響を、AHCC未添加細胞と比較、検討した。
【0072】
9. ELISAによるhIFN-αタンパク質の定量
asRNAの発現の変動がIFN-αタンパク質発現に与える影響を検討する目的で、SenVを感染させてIFN-α1 mRNAの発現を誘導した上記のNamalawa細胞培養上清を回収し、上清中に遊離したIFN-αタンパク質をヒトインターフェロン-α ELISAキット(PBL Biomedical Laboratories, #41100-4)を用いて定量した。具体的には、添付のヒト精製IFN-αを適宜に希釈して作製した0-500 pg/ml溶液と各時間毎に回収した培養上清の希釈液を、キット添付の抗IFN-α特異抗体を吸着させた96ウエルプレートに一定量添加後添付試薬を用いて呈色反応させ、450 nmの吸光度を各々測定した。既知濃度のIFN-αタンパク質の吸光度の測定結果から作製した検量線を用い、各時間毎の回収サンプルの吸光度から培養上清中に分泌されたIFN-αタンパク質量を算出した。
【0073】
(結果)
1.ヒトIFN-α1遺伝子 (IFNA1)に由来する内因性asRNAの存在の同定
上述のmock/感染細胞から24時間を経過後に回収した細胞総RNA分画を用い、マイナス鎖特異的プライマーの5UF1およびF1を用いて、それぞれ個別にIFN-α1 asRNAからcDNAを逆転写した。それぞれのcDNAはRT1 (nt: 2より開始)、RT2 (nt: 102より開始)と名付け、図1A中に示す。続いて、PCRプライマーペアとして、5UF1B (nt: 32-54; 5’非翻訳領域に相当する)/R0 (nt: 210-188; タンパク質コーディング領域に相当する)、F1B (nt: 131-153; タンパク質コーディング領域に相当する)/R1 (nt: 301-281; タンパク質コーディング領域に相当する)、3UF1 (nt: 652-677; 3’非翻訳領域に相当する)/3UR3 (nt: 839-818; 3’非翻訳領域に相当する)、DF1 (IFNA1遺伝子ポリA鎖付加部位よりnt: 40-63下流領域に相当する)/DR2 (IFNA1遺伝子ポリA鎖付加部位よりnt: 188-164下流領域に相当する)、DF2 (IFNA1遺伝子ポリA鎖付加部位よりnt: 164-188下流領域に相当する)/DR3 (IFNA1遺伝子ポリA鎖付加部位よりnt: 326-302下流領域に相当する)を用い、RT1、RT2の各cDNAを増幅した。各PCR 産物を5’側から、PCR1、PCR2、PCR3、PCR4、PCR5と名付け、IFNA1遺伝子上の相当する位置を図1A中に示す。提示したPCRの結果から、RT1 cDNAは、最下流に位置するDF2/DR3を除く、他の全てのプライマー対において増幅された。これに対し、nt: 102から逆転写されたRT2 cDNAにおいては、DF2/DR3プライマー対で増幅されるPCR5に加えて、逆転写開始点より上流に位置するPCR1(5UF1B/R0)においても増幅産物は確認できなかった(図1A)。以上の結果から、IFN-α1 asRNAは、同遺伝子のpolyA付加部位 (nt: 877)より188塩基から326塩基下流領域において転写が開始され、IFNA1遺伝子上少なくともnt: 2までに到る、IFN-α1 mRNAの全長を含む領域にわたることが示された。
さらに、ポリA鎖陽性mRNA分画を用いたIFN-α1 asRNAに対するRT-PCR結果から、同RNAにはポリA鎖が存在することが明らかになった(図1B)。続いて、SenV感染24時間を経過したNamalwa細胞において、誘導されたIFN-α1 mRNAとIFN-α1 asRNAをリアルタイムPCR法により比較定量した。その結果、IFN-α1 asRNA量は、SenV感染による発現誘導のピーク時(24時間、図3A参照)において、IFN-α1 mRNA発現の3-3.7%相当量しか発現していなかった。又、両者の定量値は、使用したプライマーペアの異同により影響されなかった。
【0074】
2.IFN-α1 mRNAの核外輸送と発現を調節するRNA二次構造
これまでの研究から、核内で転写、プロセッシングを受けたIFN-α1 mRNAが核外輸送されるにあたっては、同mRNA上の輸送責任領域(CSS; nt: 208-452)が形成する二つのステムループ (SL1, SL2)からなるRNA二次構造が核外輸送因子により認識されることが必要な事を明らかにした(Kimura et al., Medical Mol. Morphol.,43:145, 2010)。中でも、SL2構造が必須であり、本ステムループ領域を削除したmRNA変異体 (IFN-α1 mRNA/ΔSL2)は核外輸送されず、核内への滞留が認められた(図2A、パネルC)。一方、SL1領域の削除は変異体mRNA(IFN-α1 mRNA/ΔSL1)の核外輸送に影響を与えなかった(図2A、パネルB)。興味深いことに、SL2領域中のBulged SL(nt: 322-352)領域を削除した場合、変異体mRNA (IFN-α1 mRNA/ΔBSL)の発現低下が観察 (図2A、パネルD) されたことから、本領域がIFN-α1 mRNAの転写および/あるいは安定性の調節に関わる可能性が示唆された。
【0075】
3.IFN-α1 mRNAの核外輸送責任領域に対するセンスオリゴヌクレオチドによるasRNA発現の阻害とその特異性の検討
上記2.(図2A、パネルD)の結果を踏まえ、CSS二次構造中Bulged SL構造とasRNAの相互作用ならびにasRNAによるIFN-α1 mRNA発現調節への関与の可能性を検討する目的で、Bulged SL構造を形成する遺伝子配列に相同なセンスオリゴヌクレオチド (図2B; Se1, Se2)を作製し、Namalwa細胞に導入した。合わせて、SL2領域を構成する他のステムループ構造とIFN-α1 asRNAの相互作用を検討する目的で、センスオリゴヌクレオチドSe3, Se4を作製し、同様にNamalwa細胞に導入した。図2Bに、導入後6-48時間のIFN-α1 asRNA発現の解析結果を示す。導入前(0時間)と比較し、Bulged SL領域のループ構造に対して作製したセンスオリゴヌクレオチドSe1, Se2を導入した細胞においてのみ、asRNA発現の阻害(ノックダウン、KD)が観察され、その抑制効果はSe1導入細胞において48時間継続した(図2B, Se1)が、Se2の場合、導入後24時間で初めて確認され、48時間では既に消失していた (図2B, Se2)。一方、CSS二次構造中、基部並びにSL1領域のRNA二本鎖構造を形成する遺伝子配列から作製したセンスオリゴヌクレオチド (図2B、NSe1, NSe2)を導入した場合には、IFN-α1 asRNAの発現抑制効果は全く認められなかった(図2B、Nse1, Nse2)。
【0076】
4.asRNAのノックダウンがIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす効果
Se1を導入したSenV感染Namalwa (asRNA-minus/感染)細胞ならびに未導入感染(mock/感染) 細胞において、発現したIFN-α1 asRNAとmRNAシグナルを、感染後経時的に鎖特異的RT-PCR法で解析した。その結果を図3Aに、Realtime PCR法による定量結果を図3Bに示す。
mock/感染細胞においては、IFN-α1 asRNAは、ウイルス感染前に既に認められ(図3A、KD (-)/IFN-α1 asRNA, 0hr; 図3B、IFN-α1 asRNA, KD (-), 0hr)、Namalwa細胞において構成的に発現していることが確認された。このasRNAの発現は、SenV感染後24時間まで増大し(図3A、KD (-)/IFN-α1 asRNA)、0時間の発現量の約5倍に達した後(図3B、IFN-α1 asRNA, KD (-))漸減した。一方、asRNA-minus/感染細胞においては、asRNAの発現はSe1センスオリゴヌクレオチドの導入により著明に阻害されているのが確認できたが、感染によりその発現は急速に回復し、感染6時間後に対照細胞の発現レベルを超え、24時間後に0時間発現量の約23倍量の発現を見たのち急速に減衰した(図3A、KD (+)/IFN-α1 asRNA; 図3B、IFN-α1 asRNA, KD (+))。
Mock/感染細胞において、IFN-α1 mRNAもasRNAと同様、感染前において低レベルの構成的発現が確認されたが、その発現レベルはウイルス感染に伴い急速に増大し、12時間後に0時間の35倍のレベルに到達したが、その後漸減した (図3A、KD (-)/IFN-α1 mRNA; 図3B、IFN-α1 mRNA, KD (-))。一方、asRNA-minus/感染細胞においては、mRNAの発現は感染後24時間まで増加し、mock/感染細胞を上回る0時間の約76倍量のレベルに到達したのち急減した。asRNA-minus/感染細胞においてその減少は速やかで、感染後36時間には既にmock/感染細胞の発現レベルを下回った(図3A、KD (+)/IFN-α1 mRNA; 図3B、IFN-α1 mRNA, KD (+))。
【0077】
5.IFN-α1 asRNAのノックダウンによるmRNAの不安定化効果
上記4 (図3A, B) の実験結果から、asRNAによるIFN-α1 mRNAの発現調節の機作として同mRNAの安定化が示唆されたことから、asRNA-minus/感染細胞におけるIFN-α1 mRNAの半減期を、mock/感染細胞における値と比較・検討することを考えた。この目的で、両細胞に対しSenV感染12時間後にRNA転写阻害剤であるActinomycin Dを添加し、その後30分並びに1から4時間経過後に、IFN-α1 asRNAのノックダウンがIFN-α1 mRNAの分解に及ぼす影響を検討した。
asRNA-minus/感染細胞において、IFN-α1 mRNAの分解動態は、y = -0.369log(x)+0.489の近似式で表される分解曲線で近似された (図3C, KD (+))。一方、mock/感染細胞におけるIFN-α1 mRNAの分解動態に対する近似式は、y = -0.097x + 0.996であった。したがって、Actinomycin D添加後0.5-4時間に得られたIFN-α1 mRNAの発現量の変化から、その半減期を計算すると、mock/感染細胞における半減期が5.11時間であるのに対し、asRNA-minus/感染細胞では0.93時間と著明に短縮していた。すなわち、asRNAのノックダウンにより、IFN-α1 mRNAが半減するのに必要な時間はほぼ18%に短縮しており、その著しい不安定化が明らかであった。
【0078】
6.AHCCがIFN-α1 asRNA並びにIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす影響
AHCCがIFN-α1 asRNA並びにIFN-α1 mRNAの発現に及ぼす影響を検討する目的で、AHCCを0.5 mg/ml含む培養液で培養したNamalwa細胞にSeVを感染させ、誘導されるIFN-α1 asRNA並びに同mRNAの発現動態を対照細胞における発現動態と比較した。その結果、AHCCはNamalwa細胞におけるIFN-α1 asRNAの構成的な発現を強く阻害する(図4A; AHCC(+)/IFN-α1 asRNA, 0hr)のみならず、ウイルス感染により誘導される経時的な発現量の増加も抑制した(図4A; AHCC(+)/AHCC(-), IFN-α1 asRNA/12-24hr)。AHCCによる抑制効果は、IFN-α1 mRNAの発現においても同様に観察され、その発現量は、SenV感染後0-24時間の全経過時間において、AHCC(-)細胞に比較し減少した(図4A; AHCC (+)/AHCC(-), IFN-α1 mRNA/0-24hr)。この結果、AHCC (+)細胞において培養上清に遊離されたIFN-α1タンパク質量は、ウイルス感染後12時間でAHCC (-)細胞の18.6%、また24時間では75%に減少していた(図4B)。
【0079】
7.IFN-α1/WT asRNAの過剰発現によるIFN-α1 mRNAの発現増大効果
上記5(図3C)の結果から考えられたIFN-α1 asRNAによる同mRNAの安定化効果をさらに検証する目的で、IFN-α1/WT asRNA発現プラスミドを予め導入したSenV感染Namalwa (Overexpression (+)/感染)細胞ならびに未導入感染 (Overexpression (-)/感染)細胞を用いて、ウイルス感染により誘導されるIFN-α1 asRNAとmRNAシグナルを経時的に比較検討した。その結果を図5Aに、Realtime PCR法による定量結果を図5Bに示す。Overexpression(-)/感染細胞において、IFN-α1 asRNAの発現は、前記(図3A、KD (-)/IFN-α1 asRNA;図3B、IFN-α1 asRNA, KD (-); 図4A、AHCC (-)/IFN-α1 asRNA)と同様、SenV感染後24時間まで継続して増大した(図5A、Overexpression (-)/IFN-α1 asRNA)。一方、Overexpression (+)/感染細胞においては、asRNAの発現はウイルス感染前よりOverexpression(-)細胞における24時間レベルを上回り、この発現レベルは感染後24時間迄維持された(図5A、Overexpression (+)/IFN-α1 asRNA)。
IFN-α1 mRNAの発現は、Overexpression (-)/感染細胞においては、前記 (図3A、KD (-)/IFN-α1 mRNA; 図3B、IFN-α1 mRNA, KD (-); 図4A、AHCC (-)/IFN-α1 mRNA) と同様、ウイルス感染に伴い急速に増大し、12時間後にピークに達した後漸減した(図5A、Overexpression (-)/IFN-α1 mRNA; 図5B、Overexpression (-))。これに対し、IFN-α1/WT asRNAを過剰発現した場合、IFN-α1 mRNAの発現は感染開始時点で、既にOverexpression (-)細胞におけるレベルの15倍に達していたが、感染の進行に伴い相対比は減少するものの、感染後24時間までその発現量は増加し続け、Overexpression (-)/感染細胞における発現量の約2倍のレベルになった (図5B、Overexpression (+)/(-))。
【0080】
8.IFN-α1/WTasRNAの過剰発現によるIFN-α1 mRNAの安定化効果
上記7(図5A, B)の実験で観察された、IFN-α1/WT asRNAの過剰発現によるIFN-α1 mRNAの発現量の増加のメカニズムを知る目的で、Overexpression (+)/感染細胞とOverexpression (-)/感染細胞におけるIFN-α1 mRNAの半減期を比較・検討することを考えた。この目的で、両細胞に対しSenV感染6時間後にActinomycin Dを添加し、その後30分ならびに1から4時間経過後に、IFN-α1/WT asRNAの過剰発現がIFN-α1 mRNAの分解に及ぼす影響を解析した。
Overexpression (+)/感染細胞において、IFN-α1 mRNAの分解動態は、y = -0.067x+1.059の近似式で表される分解曲線で近似された (図5C、Overexpression (+))。一方、Overexpression (-)/感染細胞におけるIFN-α1 mRNAの分解動態に対する近似式は、y = -0.182x + 1.081であった (図5C、Overexpression (-))。従って、Actinomycin D添加後0.5-4時間に得られたIFN-α1 mRNAの発現量の変化からその半減期を計算すると、Overexpression (-)/感染細胞における半減期が2.76時間であるのに対し、Overexpression (+)/感染細胞では8.12時間と著明に延長していた。すなわち、asRNAの過剰発現により、IFN-α1 mRNAの寿命は約3倍に延長され、その著しい安定化作用は明らかであった。
【0081】
9.IFN-α1 mRNAを安定化する同asRNAの機能中心の決定
上記5(図3C)および8(図5C)で証明したIFN-α1 asRNAの同mRNA安定化作用が、asRNA上のどの部位に由来するかを知る目的で、IFN-α1 mRNAのCSS二次構造中、安定化に寄与することが報告済みのSL2領域、BSL構造 (図2) のアンチセンスシークエンス (図6A/BSL) を中心に、5’と3’方向に塩基配列を順次延長し、図6Aに示す各種変異IFN-α1 asRNAを発現するプラスミドベクターを作製した。それぞれの変異asRNA発現ベクターを導入したNamalwa細胞にSenVを感染させ、24時間後のIFN-α1 mRNAの発現量を計測した結果を、図6A/IFN-α1 mRNAと図6Bに示す。Mock/感染細胞 (図6A/C) におけるIFN-α1 mRNAの発現量は、WT asRNAの共発現により、図5と同様、2.3倍に増加するのに対し、最大の増加を達成したのは、CSSのSL2領域のアンチセンスRNAを共発現した場合で、その発現量は対照の3.1倍であった (図6A/ IFN-α1 mRNA; 図6B)。
【0082】
10.IFN-α1 asRNAの機能中心シークエンスを持つアンチセンスリボオリゴヌクレオチドによるIFN-α1 mRNAの発現増大効果と細胞内の効果発現部位の決定
図6で示したIFN-α1 asRNAの機能中心のマッピング結果を検証する目的で、IFN-α1 mRNA CSS二次構造中のBSL領域に対応するアンチセンス鎖シークエンスからなるアンチセンスリボオリゴヌクレオチド (IFNA1/346-322ORN; 図7AのasORN)を作製し、そのIFN-a1 mRNA発現調節効果を解析した。陰性対照としては、asRNA発現のノックダウン実験 (上記3、図2) において陰性対照(Nse1)として用いた、CSS RNA二次構造の基部二本鎖を形成するシークエンスに由来するアンチセンスリボオリゴヌクレオチド(IFNA1/224-205 ncORN; 図7AのncORN)を用いた。その結果、アンチセンスリボオリゴヌクレオチドは双方とも、IFN-α1 asRNAの発現に影響せず、その発現動態、発現量は、mockトランスフェクション/SeV感染細胞と同様であった(図7B; IFN-α1 asRNA)。これに対し、IFN-α1 mRNAの発現は、機能中心シークエンスを有するアンチセンスリボオリゴヌクレオチド(IFNA1/346-322ORN)を導入した場合においてのみ増加し(図7B; IFN-α1 mRNA, asORN)、感染開始時点で、IFNA1/224-205 ncORNを導入した場合(図7B; IFN-α1 mRNA, ncORN)の約5倍、mockトランスフェクション(図7B;IFN-α1 mRNA, mock Tfx)の約3倍量が発現していた。感染の進行に伴い相対比は減少するものの、感染後24時間までその発現量は増加し続け、最終的にIFNA1/224-205 ncORN導入細胞ならびにmockトランスフェクション細胞の約2倍量が発現した(図7B)。このasORNによるIFN-a1 mRNA量増大効果の細胞内発現部位を決定する目的で、asORNを導入し、SenVを感染させたNamalwa細胞を24時間経過後に回収し、その核RNA分画と細胞質RNA分画を解析した。その結果、asORNを導入した細胞の細胞質においてのみ、IFN-α1 mRNAの発現量が、ncORN導入細胞ならびにmock細胞に比較し約2倍に増大していた(図7C/D, IFN-α1 mRNA, Total/Cytoplasmic asORN)。同細胞においても、核内ではそのような発現量の変動は観察されなかった(図7C/D, IFN-α1 mRNA, Nuclear asORN/ncORN/mock)。またasORN導入細胞、ncORN導入細胞を問わず、 IFN-α1 asRNAの発現量は核、細胞質共に変化は認められなかった(図7C/D, IFN-α1 asRNA, Total/Cytoplasmic/Nuclear asORN/ncORN/mock)。
【0083】
以上の結果から、IFN-α1 asRNAはIFNA1遺伝子上nt: 434-308(さらには、BSL領域のnt: 346-322)に存在する機能中心を介して転写後性に、しかも細胞質においてIFN-α1 mRNAを安定化し、その発現調節を担っていることが示された。この事実は、asRNAの発現をノックダウンするSe1センスオリゴヌクレオチドやasRNA機能中心に由来するアンチセンスリボオリゴヌクレオチドの投与によるIFN-α1 mRNAの発現制御の可能性を強く示唆しており、新たなINF-αタンパク質発現モジュレーターの開発につながるものと期待される。
【0084】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。したがって、本発明は添付の「請求の範囲」の精神および範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
本出願は、2009年10月16日及び2010年5月7日付でそれぞれ日本国に出願された特願2009-239801及び特願2010-107544を基礎としており、それらの内容は全て本明細書に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のアンチセンスヌクレオチドは、IFN-α発現増強剤として、ウイルス感染症や癌などの予防および/または治療に有用である。一方、本発明のセンスオリゴヌクレオチドは、IFN-α発現調節剤として、IFN-αの過剰産生に起因する疾患や病態の予防および/または治療に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]