【実施例】
【0019】
図1は、地震により被災し、解体対象となった鉄筋コンクリート構造建物1の上層の鉄骨構造部2に、本発明の構造物解体ユニット10を吊り込んで瓦礫4の処理作業を行っている状態を示した作業状態図である。同図に示したように、外観上、下層の鉄筋コンクリート構造建物1には大きな損害は見られないが、上層の鉄骨構造部2では、籠状に残った骨組鉄骨3は自立した状態にあるが、鉄筋コンクリート造屋根スラブ、各階の鉄筋コンクリートスラブは全て損壊して当初位置から抜け落ち、鉄筋コンクリート構造部1の最上部フロア5に大量の瓦礫4として堆積した状態にある。以後、この大量の瓦礫4の分断、破砕を行う作業がこの鉄筋コンクリート造建物1の最上部フロア5で行われる。このため、この最上部フロア5を、本明細書では「作業フロア5」と記す。
【0020】
同図には、この作業フロア5に堆積した大量の瓦礫4上に、本発明の構造物解体ユニット10が設置された状態が示されている。この構造物解体ユニット10の主構造体となる作業プラットフォーム11は、
図4に示したように、建物1近くの地上に配備された大型のクローラクレーン40によって吊持され、外壁が損壊して鉄骨3のみで籠状をなした鉄骨構造部2内に吊り込まれ、後述する脚部12の長さ調整により作業床11aの水平が保持された状態にある。同図に示したように、この状態で作業プラットフォーム11に搭載された解体用のマニプレータ20によって瓦礫4の破砕作業が進められる。
【0021】
作業プラットフォーム11は、
図1に示したように、作業床11aが水平を保持するように、クレーン40(
図4)のフック41から吊り下げられた吊り下げビーム42を介して吊り下げ位置が保持されている。後述するように、作業プラットフォーム11を支える各脚部12には伸縮可能なシリンダ状の伸縮フット13が組み込まれており、この伸縮フット13の下端ベース14が瓦礫4上に接地して作業プラットフォーム11全体の水平状態をサポートしている。このとき各脚部12には作業プラットフォーム11および作業プラットフォーム11に搭載されているマニプレータ20、発電機31等の設備の荷重がほとんど作用しないように、吊り下げビーム42の吊り下げ位置(高さ)がクレーン操作により制御されている。なお、この吊り下げビーム42上には旋回用ファン43が搭載されている。この旋回用ファン43の正逆回転の制御を行うことにより、吊り下げビーム42を所定角度だけ平面旋回させ、その旋回角度を位置保持させることができる。よって、作業プラットフォーム11を
図1のように、鉄骨内に吊り込んで脚部12のベースを接地させる際に、作業床11aの平面(X,Y方向:
図2)方向を正確に制御できる。
【0022】
図1には、構造物解体ユニット10に搭載されたマニプレータ20により、コンクリート塊6の吊り上げと、コンクリート塊6に連なる鉄筋7を切断している状態が示されている。このように、破壊して作業フロア5上に落下して堆積したスラブコンクリートのコンクリート塊6はむき出しの多数の鉄筋7で連続した状態にある。そこで、コンクリート塊6を搬出可能な大きさの破砕片とするために、コンクリート塊6を繋ぐように絡まっている鉄筋7を切断する必要がある。この作業のためにマニプレータ20の先端のアタッチメント25として、コンクリート塊を掴みあげるグラブ25aや、鉄筋カッタ25b等が取り付けられている(
図2各図)。マニプレータ20およびアタッチメント25の操作は、後述するように、作業プラットフォーム11下の作業空間16内の映像情報をもとに、地上の操作司令室44(
図4)内のオペレータによる遠隔操作によって行われる。
【0023】
これらの瓦礫4の鉄筋7の切断、コンクリート塊6の破砕等の作業は、作業プラットフォーム11下の作業空間16で行われるが、作業時に発生する粉塵が外部に飛散しないように、作業プラットフォーム11の下の空間はカバー15で覆われている。また、後述するように作業時に発生する粉塵は、作業プラットフォーム11に設備された集塵機33によってHEPAフィルタ35を介して排気中から除塵される。
【0024】
以下、構造物解体ユニット10の構成について、
図2を参照して詳述する。
図2各図では上述した吊り下げビーム42(
図1)は省略されているが、各図においても、構造物解体ユニット10は図示しない吊り下げビームを介してクレーンにより吊持されている。
図2(a)は構造物解体ユニット10の正面図、
図2(b)は同側面図である。各図に示すように、作業床11上には発電機31、各機器の制御ユニット32、集塵機33が配備されている。発電機31はガソリンで駆動し、作業プラットフォーム11上で動作する電動機器、たとえばマニプレータ20の移動、各アームの伸縮、アタッチメント25の各動作の電源となる。制御ユニット32は、作業プラットフォーム11の位置情報、作業プラットフォーム11の各脚部12に作用する荷重情報、荷重に応じた脚部12の伸縮情報、マニプレータ20、アタッチメント25に組み込まれている動作情報やリミッタによる警告情報等を収集し、クレーン40のアンテナ(図示せず)等を介して無線、有線により、後述する操作司令室44への信号送出部の役割や、操作司令室44側からの操縦指令を制御する役割を果たす。集塵機33は、側面カバー15で覆われた作業空間16で破砕作業等で発生する粉塵をフィルタろ過して排気する。本実施例では、交換可能なHEPAフィルタ35が集塵機33内に組み込まれている。
【0025】
本実施例では、
図2(b)に示したように、作業プラットフォーム11下面に3本の吊りレール22が取り付けられている。各吊りレール22はモータ駆動の横行装置23の走行用レールとして機能し、横行装置23は、
図2(a)に示したように、作業プラットフォーム11の長手方向を、吊りレール22に沿って往復走行することができる。各横行装置23の下面にはマニプレータ20の基部がジョイント20aを介して連結されている。各マニプレータ20は、
図2(a)に示したように、下端に各種のアタッチメント25を装着可能なアーム本体21を有し、このアーム本体21は付属するシリンダロッド24の伸縮および図示しないギヤドモータの動作により旋回、揺動、伸張動作が行える。各マニプレータ20と、そのアタッチメント25は、作業空間16内を常時撮影しているCCDカメラ26から送られる映像をもとに、地上の操作
司令室44(
図4)のオペレータによって遠隔操作される。アタッチメント25としては、必要に応じてコンクリートを把持するグラブ25a、鉄筋カッタ25b、コンクリート破砕ピック25c等を取り付けることができる。アタッチメント25で行う作業内容によっては、アタッチメント25の動作に連動して撮影可能なCCDカメラ(図示せず)をアタッチメント25に装備して作業部位の詳細映像を取得することも好ましい。
【0026】
図3は、大型のクローラクレーン40を用いて構造物解体ユニット10を地上に降ろした準備ないし待機状態を示している。この状態で、たとえば発電機31の燃料補給や、機器の交換、修理を行うことができる。
図4は、クローラクレーン40で構造物解体ユニット10を鉄骨構造部2内に吊り込んだ状態を示している。
図4に示したように、構造物解体ユニット10を吊持しているクレーン側には構造物解体ユニット10の荷重変化を把握するために、ロードセル(図示せず)が装備されている。このロードセルを介して構造物解体ユニット10の荷重変化が検出される。クレーン側での荷重管理は、クレーンオペレータの手動操作または自動制御によって、あらかじめ設定した管理荷重範囲内で行える。この荷重の管理範囲は、たとえば構造物解体ユニット10の総重量から各マニプレータ20が動作した際に、構造物解体ユニット10が過度に傾いたり、振れない程度の反力を作業床11aに伝えるための荷重を差し引いた値を想定している。また作業床11aをサポートする各脚部12に生じる軸力と伸縮フット13の伸縮量は自動的に検出され、構造物解体ユニット10の作業床11aは、常時ほぼ水平状態を保持するように制御される。
【0027】
作業プラットフォーム11下の作業空間16内や各マニプレータ20に装着されたCCDカメラ等の映像信号や、作業床11a上の設備状態信号や各マニプレータ20の遠隔操作信号は、
図6に模式的に示したように、作業プラットフォーム11上の制御ユニット32の信号送信部のアンテナ32aと、クレーンジブ先端に取り付けたアンテナ40aとの間において無線によって送受信され、このアンテナ40aからクレーン操作室40cへはクレーンブーム40bを介して有線で信号伝達される。このように、鉄骨構造2内に設置された作業プラットフォーム11上の制御ユニット32と見通しの利くクレーンジブの先端のアンテナ40aとの間で無線信号の送受を行うようにしたことにより、無線伝送の信頼性、伝送速度の向上を図ることができる。これにより、瓦礫処理を行っている現場の詳細な情報を操作側に送ることができ、また操作側からは、作業プラットフォーム11に搭載された各種マニプレータ20及びそれぞれのアタッチメント25(
図2各図)による複雑な作業を行うための操作情報を送ることができる。
【0028】
また、クレーン40と離れた位置に設けられる操作司令室44とは有線、無線のいずれでも信号伝達は可能である。このように、作業プラットフォーム11に搭載されたマニプレータ20およびアタッチメント25操作は、
図4に示したように、地上の操作司令室44で得られた現場情報(後述する)信号に基づいて遠隔操作にて行われる。この操作司令室44としては、たとえば
図4に示したような仮設ハウスや、その他移動可能な車輌等を利用することができる。
【0029】
図5各図は、瓦礫4の分断、破砕及び解体対象となる鉄骨部2の平面に対して、2種類の平面積からなる構造物解体ユニット10での作業(移動)形態を示している。
図5(a)に模式的に示した作業プラットフォーム11の平面は、
図2各図に対応した縦横比が2:1の長方形からなり、その長さは、対象となる鉄筋コンクリート建物1に配置された柱梁の芯距離の倍数に合わせた。そして、作業プラットフォーム11を設置する際は、作業プラットフォーム11の脚部12がなるべく柱ないしは梁上に位置するように計画する。これにより、下層の鉄筋コンクリート造建物1への負担荷重の軽減を図ることができる。同図(b)は、作業プラットフォーム11をほぼ正方形としたもので、この規模の作業プラットフォーム11の場合、荷重増および各脚部12の長さの差が大きくなることが予想されるが、対象となる建物における作業プラットフォーム11の移動、設置調整作業回数を減少させることができ、トータルの作業効率が向上する。
【0030】
図6は、上述した作業フロア5上での瓦礫4の分断、破砕作業において、作業プラットフォーム11の位置情報、作業プラットフォーム11に搭載されたマニプレータ20、マニプレータ20に装着されたアタッチメント25による操作、搭載された各装置の情報の送受と、各種情報によるオペレータが行う操作指令との関係、操作指令のための情報授受の状況を示した構成ブロック図である。
【0031】
上述したように、作業プラットフォーム11を対象建物の所定位置に設置するためには、
図6に示したように、作業プラットフォーム11には(
図6,
図7においてはPF(Plat Form)と略記している。)の平面中心座標(Xc,Yc)と高さ座標(Zc)、作業プラットフォーム11の四隅の高さ座標(Z1〜Z4)を検知可能な位置センサが搭載されている。また、作業プラットフォーム11の脚部12には、伸縮フット13の伸長量、各脚部12の負担荷重情報を取得可能なセンサを組み込むことが好ましい。収集データは連続計測が可能で、各データは作業プラットフォーム11上の制御ユニット32から無線により、クレーン側の受信部に連続送信できる。
【0032】
また、作業プラットフォーム11下の作業空間16には複数台のCCDカメラ26(
図2(a))が据え付けられており、各CCDカメラ26によって作業空間16内でのアタッチメント25の作業状況等が作業空間情報として、操作司令室44に送信され、モニター映像による遠隔操作情報がリアルタイムに得られる。オペレータはこのモニター映像を確認して操縦桿操作等によって対象物に対するマニプレータ20、アタッチメント25の正確な遠隔操作を行うことができる。
【0033】
その他、運転設備情報として、発電機31の燃料計による残量情報、フィルタ排気効率変化情報等を司令室側に発信することができる。これらの情報により、燃料補給時期、集塵機33内のHEPAフィルタ35の交換時期等を正確に知ることができる。
【0034】
図7は、本発明の構造物解体ユニット10を用いた瓦礫4の分断、破砕作業の工程から最終的に鉄骨構造部2の解体までの総合作業工程を示したフローチャートである。以下、構造物解体ユニット10による作業を含め、最終的な鉄骨部の解体までの作業手順について、簡単に説明する。
【0035】
構造物解体ユニット10としての作業プラットフォーム11を、対象建物2内に吊り込んで設置するために、当初、カバー(図示せず)で覆われていた鉄骨3の側面と屋根のうち、屋根カバーのみを撤去する。そして
図3,
図4に示したように、大型のクローラクレーン等の揚重機40により、作業フロア5の瓦礫4上に作業プラットフォーム11(PF)を吊り上げ、クレーン操作及び吊り上げビーム42の旋回ファン43による旋回動作によって作業プラットフォーム11の平面位置調整を行う(
図1,
図4)。その後、作業プラットフォーム11の水平状態を保持させて、各脚部12の伸縮フット13の長さ調整を行って各脚部12の下端ベース14を瓦礫4上に接地させる。このとき作業プラットフォーム11の脚部12の周囲にはカバー15が取り付けられ、作業プラットフォーム11下に作業空間16が形成される。
【0036】
この作業空間16内で、作業プラットフォーム11に搭載されたマニプレータ20を操作させることにより、鉄筋7でつながっているコンクリート塊6を破砕しながら、露出した鉄筋7を切断し、外部に搬出可能な程度の大きさのコンクリート破砕片になるよう、瓦礫4の分断、破砕処理を行う(
図1)。この間、作業空間16内で発生した粉塵は、集塵機33に備えたHEPAフィルタ35を介して除去し、清浄空気を排気する。設置された作業空間16内での瓦礫4のコンクリート破砕が完了したら、隣接した位置に作業プラットフォーム11を移動させ、同様の工程によって瓦礫処理を行う。
【0037】
最終的に作業フロア5全体での瓦礫処理が完了したら、作業プラットフォーム11を地上に吊り下ろすとともに、鉄筋コンクリート建物1の作業フロア5上と、作業フロア5から張り出した一部に構台を設置し、小片化した瓦礫、鉄筋を地上に降ろす準備を行う。作業フロア5上の構台を荷下ろしスペースとして利用し、瓦礫の搬出に用いるコンテナを配備する。構台上では、クレーンバケットあるいは搬送可能な重機を用いて、コンテナに瓦礫を積み込む。そして瓦礫が積載されたコンテナをクレーンで吊り下ろす。このコンテナは瓦礫の状況にもよるが、搬送時に外部に粉塵等が飛散しない蓋付き容器等を用いることが好ましい。
【0038】
瓦礫の荷下ろしの進行と並行して鉄骨建物内に残置されている、損壊した天井クレーンや大型機械設備の解体撤去を行う。そのとき必要に応じて、作業プラットフォーム11(
図2)の一部を改造して、作業フロア5上に搬入して解体用作業プラットフォームとして用いることも好ましい。最終的に、クレーン40を利用しながら外壁鉄骨3を切断解体し、上部建物としての鉄骨構造部2を完全に撤去することができる。
【0039】
なお、荷下ろしした瓦礫に汚染物質が含まれているような場合には、必要な除染工程を経て、所定の仮置き施設に貯蔵することが好ましい。
【0040】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。