(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794535
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】アスベスト含有材の除去方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-59116(P2012-59116)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-194356(P2013-194356A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】布施 幸則
(72)【発明者】
【氏名】川口 正人
(72)【発明者】
【氏名】太田 達見
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−048969(JP,A)
【文献】
特開2010−222786(JP,A)
【文献】
特開2008−255655(JP,A)
【文献】
特開2011−196169(JP,A)
【文献】
特開2012−017607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に付着しているアスベスト含有材をその基材から除去するアスベスト含有材の除去方法であって、
所定の剥離液を含む高圧液体をガンを用いて前記基材に達するまで噴出させてそのアスベスト含有材内に切り込みを生成し、かつ、そのガンを前記アスベスト含有材の表面上を縦横に移動させて、その生成される切り込みにより前記アスベスト含有材に所定大きさのブロックを形成し、生成された前記切り込みから前記剥離液を前記基材と前記アスベスト含有材との接触面に浸透させ、
生成された前記切り込みに所定の工具を挿入して前記ブロックを基材から切り離すことを特徴とするアスベスト含有材の除去方法。
【請求項2】
前記剥離液は、有機酸が使用されることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【請求項3】
前記ブロックは、一辺の長さが50〜200mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【請求項4】
前記ガンから噴出される高圧液体の注入圧は、前記アスベスト含有材に対する貫入抵抗の2〜10倍であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【請求項5】
前記ガンから噴出される高圧液体は、前記アスベスト含有材の表面に対する鉛直線を基準にして5〜50度の角度で噴出されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアスベスト含有
材の除去方法に係り、特に、基材に付着しているアスベスト含有
材を効果的に除去できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等のアスベスト含有材の除去方法としては、バールやケレン棒等の剥離工具によって基材からアスベスト含有材を粗落しする作業後、ブラシ等の研磨工具を用いてセメント成分を主体とする残留付着物を削ぎ取る作業により行われている。
【0003】
上述のケレン棒等の剥離工具を用いるアスベスト含有材の除去は、その除去作業の際、入念な飛散防止手段を講ずる必要があるだけでなく、剥離作業及び研磨作業を必要としているので作業員の負担が大きくなるという問題点を有している。このような問題点を解決するために、特許文献1では、基材とアスベスト含有
材との間に酸性液からなる剥離液を注入するアスベスト含有材の除去方法が提案されている。
【0004】
上記提案に係るアスベスト含有材の除去方法は、手持ち可能な酸性液の注入具を用いて、アスベスト含有材と基材との接着面付近に酸性液を注入するようにしたことを特徴としている。このように、注入具を用いて基材とアスベスト含有材との接着面に酸性液を注入することで、基材と接合しているアスベスト含有材の接触面が酸により分解・溶解される。これによりアスベスト含有材は基材から容易に剥離するので、アスベスト含有材を効果的に除去することができるという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−185182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1で提案されているアスベスト含有材の除去方法は、アスベスト含有材の表面からそのアスベスト含有材と基材との間に酸性液からなる剥離液を注入具を用いて注入する以外に、基材からアスベスト含有材を効率よく剥離させるためには、アスベスト含有材を所定の大きさのブロックとなるように、電動鋸等の切削工具を用いて切り込みを入れる必要があった。このため、上記特許文献1で提案されているアスベスト含有材の除去方法の特徴を活かしつつ、さらに効果的なアスベスト含有材の除去方法が求められており、その点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記要望に応えるためになされたものであって、その目的は、剥離液の注入とブロック形成とを同時に行えるアスベスト含有材の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアスベスト含有材の除去方法は、上記目的を達成するために、基材に付着しているアスベスト含有材をその基材から除去するアスベスト含有材の除去方法であって、 所定の剥離液を含む高圧液体をガンを用いて基材に達するまで噴出させてそのアスベスト含有材内に切り込みを生成し、かつ、そのガンをアスベスト含有材の表面上を縦横に移動させて、その生成される切り込みによりアスベスト含有材に所定大きさのブロックを形成し、生成された切り込みから剥離液を基材とアスベスト含有材との間の接触面に浸透させ
、生成された切り込みに所定の工具を挿入してブロックを基材から切り離すことを特徴としている。
【0009】
上記構成からなるアスベスト含有材の除去方法は、アスベスト含有材上を縦横に移動されるガンから、すなわち、格子状に移動されるガンから剥離液を含む高圧液体が噴出されるので、アスベスト含有材が所定大きさのブロックに形成される。このように、アスベスト含有材への剥離液の注入とアスベスト含有材に対するブロック形成とを同時に行えるので、短時間で、かつ、効率よくアスベスト含有材の除去を行うことができる。
この場合、形成されたブロックは基材とアスベスト含有材との間の接触面に剥離液が浸透しているので、生成された切り込みに工具を挿入することで、それらブロックを適宜なタイミングで基材から切り離して除去することが可能である。
【0010】
本発明に係るアスベスト含有材の除去方法は、
剥離液は、有機酸が使用されることが好ましい。
【0012】
本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、ブロックは、一辺の長さが50〜200mmであることが好ましい。
【0013】
上記構成からなるアスベスト含有材の除去方法によれば、切り込みによってブロックは一辺の長さが50〜200mmに形成されるので、その後のブロックの剥離を容易にすることができる。
【0014】
本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、ガンから噴出される高圧液体の注入圧は、アスベスト含有材に対する貫入抵抗の2〜10倍であることが好ましい。
【0015】
この場合、ガンから噴出される高圧液体の注入圧はアスベスト含有材に対する貫入抵抗の2〜10倍とすることができるので、効果的に高圧液体をアスベスト含有材に注入することができる。
【0016】
本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、ガンから噴出される高圧液体は、前記アスベスト含有材の表面に対する鉛直線を基準にして5〜50度の角度で噴出されることが好ましい。
【0017】
上記構成からなるアスベスト含有材の除去方法によれば、ガンから噴出される高圧液体はアスベスト含有材の表面に対する鉛直線を基準にして5〜50度の角度で噴出されるので、噴出する高圧液体の跳ね返りや液だれが生じるのを抑えることができ、効率よくアスベスト含有材に切り込みを生成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアスベスト含有材の除去方法によれば、アスベスト含有材への剥離液の注入とアスベスト含有材のブロック形成とを同時に行えるので、短時間で、かつ、効率よくアスベスト含有材の除去を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の実施状態の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、この実施の形態により限定されるものではなく、また、下記の実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一ものも含まれる。
【0021】
図1に示すように、本発明の実施の形態では、鉄材等からなる基材1の表面には、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等のアスベスト含有材2が付着されている。
【0022】
ガン3は、所定の剥離液を含む高圧液体Wがアスベスト含有材2の表面に向けて噴出されるように構成されている。この高圧液体Wの噴出作業は、作業員がガン3を手にしてアスベスト含有材2の表面上を格子状に移動して行われる(
図1の矢印参照)。このガン3を格子状に移動させることについては、後に、
図2を用いて詳述する。
【0023】
剥離液は、例えば酒石酸のような有機酸を使用することができるが、基材1とアスベスト含有材2との接触面Tにおける付着状態によって適宜選択される。したがって、例えば、基材1とアスベスト含有材2との付着が接着剤や塗料が関係しているときは、これらを溶解することのできる有機溶剤等の所定の剥離液が使用される。また、剥離液は、原液そのまま、あるいは所定の溶液で希釈して高圧液体Wとされる。
【0024】
剥離液を含む高圧液体Wの圧力(注入圧)は、ガン3から噴出された高圧液体Wが基材1の面に達するように決定されている。この圧力は、アスベスト含有材2への貫入抵抗の2〜10倍の範囲であればよく、使用される高圧液体Wの使用量を減らす観点から3倍程度で十分であることが実験的に確認されている。したがって、例えば、アスベスト含有材2への貫入抵抗が7MPaの場合は、剥離液を含む高圧液体Wの圧力は20MPa程度とされる。
【0025】
ガン3から噴出される高圧液体Wの直径は、ガン3のノズル径によって決められるが、そのノズル径はφ0.4〜0.6mmの範囲であると、ガン3から噴出された高圧液体Wが基材1の面に切断力を維持しながら達することが実験的に確認されている。
【0026】
ガン3から噴出される高圧液体Wのアスベスト含有材2の表面に対する噴出角度θは、アスベスト含有材2の表面に対する鉛直線Oを基準にして5〜50度の角度とされることが実験的に確認されている。この噴出角度θが0度の場合は、高圧液体Wの跳ね返り、いわゆる液だれが大きくなって高圧液体Wの有効利用が減少し、50度を超えると高圧液体Wが基材1の面に達しにくくなるおそれがある。なお、
図1では省略されているが、ガン3の先端側には、高圧液体Wの跳ね返り液が作業員にかからないようにカバーが設けられている。
【0027】
ガン3には、図示しないポンプを介して剥離液を含む高圧液体Wが供給されるように構成されている。そして、そのガン3が
図1の矢印に示されるように、アスベスト含有材2の表面に沿って移動されると、ガン3から噴出された高圧液体Wが基材1の接触面Tに達し、その達した後には、後述する
図2に示されるアスベスト含有材2をブロック状に区分する切り込み4が形成される。また、基材1の面に達した高圧液体Wは、基材1の面とアスベスト含有材2の面との間の接触面Tに浸透し、基材1との接触面Tに対するアスベスト含有材2の付着力が弱められる。
【0028】
以下、
図2(a)〜(f)を用いて、本実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の工程について説明する。
【0029】
図2(a)は、アスベスト含有材の除去方法を実施する前の状態を示している。そして、
図2(b)は、ガン3を用いてアスベスト含有材2に縦方向に所定の間隔を保って切り込み4が生成され、生成された切り込み4から剥離液を接触面T(
図1)に浸透させる。
図2(c)は、縦方向の切り込み4の生成が完了した状態を示している。
【0030】
図2(d)は、縦方向の切り込み4の生成が完了した後、ガン3を用いてアスベスト含有材2に横方向に所定の間隔を保って切り込み4が生成され、生成された切り込み4から剥離液を接触面T(
図1)に浸透させる。
図2(e)は、横方向の切り込み4の生成が完了した状態を示している。
【0031】
上述の縦方向の切り込み4及び横方向の切り込み4により、アスベスト含有材2は所定の大きさのブロックBに区分される。図示の例では正方形のブロックBに区分される。1つのブロックBの大きさは、一辺の長さが50〜200mmであると、その後の剥離作業が容易に行われることが実験的に確認されている。なお、図示の例では、ブロック形状は正方形であるが、これを長方形や菱形の他の形状にしてもよい。一辺の長さが50〜200mmであれば、いずれの形状でもよい。
【0032】
図2(f)は、ブロックBに区分されたアスベスト含有材2を工具5を用いて基材1から剥がしている状態を示している。工具5としては、周知のケレン棒のように、先端部が先細りになっていて、その先端部を切り込み4に挿入できる形状を呈しているものが採用できる。なお、基材1の面に達した高圧液体Wが、基材1の面とアスベスト含有材2の面との間の接触面Tに浸透して基材1の面からアスベスト含有材2が離れやすくなっているので、特に、アスベスト含有材2が天井に設けられている場合などでは、ブロックBを自然に落下させるようにしてもよい。
【0033】
上記構成からなるアスベスト含有材の除去方法では、基材1とアスベスト含有材2との間への剥離液(W)の注入と、アスベスト含有材2のブロック形成とを同時に行えるので、アスベスト含有材2の除去を短時間で、かつ、効率よく行うことができる。
【0034】
次に、
図3に示す表を用いて実験例について説明する。この実験においては、本発明によるアスベスト含有材の除去方法の他に、4つの比較例が示されている。
【0035】
実験に供した資料は、表中のイメージ図に示す通り全て同様であり、また、概要中の「従来工法」は、上述した背景技術の項で説明した剥離工具を用いる方法と同じ方法であり、「酸注入」は、注射器を用いて酒石酸からなる有機酸の剥離液を基材とアスベスト含有材との間に注入することを示し、そして、「水筋」は、剥離液を含まない高圧水で切り込みを形成してアスベスト含有材の表面をブロック状に区分することを示している。
【0036】
表中の「開発者主観」は本発明の発明者を含む開発者の感想であり、また、「職人主観」は実際の現場で除去作業を行う作業員の感想であって、最も優れているものから順に「◎」、「○」、「△」、「×」を付している。これらの者の感想から明らかなように、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法が作業時間、粉じんの飛散状態等から最も優れていることが分かる。
【0037】
以上、本発明による接合構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態の接合構造では工具5を用いて積極的にブロックBを剥がしても良いし、自然に落下させても良いとしているが、本発明では切り込みを生成したときにはブロックが剥がれ易くなっているので、適宜なタイミングで工具を用いてブロックを基材から切り離して除去することができる。
【0038】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 基材
2 アスベスト含有材
3 ガン
4 切り込み
5 工具
B ブロック
O 鉛直線
T 接触面
W 高圧液体(剥離液)