【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<スクラレオールの分離精製>
以下の手順で、抵抗性が誘発されたタバコよりスクラレオールを分離精製した。
立枯病菌8266株を接種し2日間培養した新鮮重10kgのタバコ葉を40Lの80%アセトン中で4℃で24時間浸漬抽出した。抽出物をろ過し、ろ液を濃縮後に得られた水層を塩酸でpH3に調整し、等量の酢酸エチルで3回抽出した。抽出後の酢酸エチル層を等量の5%炭酸水素ナトリウムで2回抽出し、抽出後の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層を予めシリカゲル(Wakogel C-200;和光化学株式会社)を充填したガラスカラム(3cm内径×50cm長)に添加し、10%酢酸エチルを含むヘキサンをカラム内に流した。溶出した画分を回収し濃縮後、C
18 Sep-Pak Vacカートリッジ(Waters)に添加、20%蒸留水を含むメタノールで溶出した。溶出液を回収し濃縮後、高速液体クロマトグラフィーにより分離した。分離条件は、CAPCELL PAK C
18カラム(10mm内径×15cm長;Shiseido)を用い、60分間のアセトニトリル濃度の25%から100%のリニアグラジェントを流速6mL/分である。この条件下で保持時間55〜60分に溶出される画分を回収し濃縮後、再び高速液体クロマトグラフィーにより分離した。分離条件は、CAPCELL PAK C
18カラム(4.6mm内径×25cm長;Shiseido)を用い、90%アセトニトリル、流速6mL/分であり、本条件下で保持時間11.1分に現れるピーク画分にスクラレオールが含まれる。
【0029】
スクラレオールの植物病害の抑制効果を確認するため、以下の実施例1〜7の実験を行った。
【0030】
実施例1
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得た。
次いで、予め養液中で水耕栽培した4週齢のタバコ苗(サムスンNN)に対して、養液に上記のごとく得られた薬剤をスクラレオールが100μMになるように添加し、2日間水耕栽培した。その後、苗の根に、1mLあたり10
8個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコ苗に対して立枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図1に、立枯病菌接種7日後のタバコ苗の写真を示す。図中の白線は2cmの長さであることを示す。スクラレオールを養液に注入することで立枯病の発生を抑えることができた。
【0031】
実施例2
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したタバコ苗(品種名:サムスンNN)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり10
8個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコ苗に対して立枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図2に、立枯病菌接種7日後のタバコ植物の写真を示す。図中の白線は10cmの長さであることを示す。スクラレオールは土壌栽培したタバコの立枯病の発生に対しても防除効果を示した。
【0032】
実施例3
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度50、75、100μMになるよう希釈した。次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したトマト植物(品種名:ポンデローザ)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり10
8個のコロニーを形成するのに等しい量の青枯病菌8107株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したトマト植物に対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図3に、スクラレオール濃度100μMの薬剤を使用した青枯病菌接種6日後のトマト植物の写真を示す。図中の白線は10cmの長さであることを示す。
また、
図4に各スクラレオール濃度の薬剤を使用した場合の青枯病菌接種後の日数と、病徴指数の関係を示す。なお、病徴指数(発病指数)とは、病気によって引き起こされる被害の程度を意味する。すなわち、数値が高いほど病気の被害がひどいことを意味する。
75μM以上の濃度で養液もしくは土壌に直接投与することで青枯病の発生を顕著に抑えることができた。
【0033】
実施例4
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したシロイヌナズナ苗(品種名:コロンビア)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり10
8個のコロニーを形成するのに等しい量の青枯病菌RS1000株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したシロイヌナズナ植物に対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図5に、青枯病菌接種7日後のシロイヌナズナ苗の写真を示す。
スクラレオールは土壌栽培したシロイヌナズナの青枯病の発生に対しても防除効果を示した。
【0034】
実施例5
<青枯病菌への抗菌活性>
スクラレオールの青枯病菌への抗菌活性の有無を確認するために以下の実験を行った。
100μMスクラレオールもしくは対照として0.1%メタノールを含む寒天培地に青枯菌8225株を接種、培養した。接種後1日目の写真。
図6に接種後1日目の写真を示す。両者には明確な差は確認できず、スクラレオール自体は青枯病菌に対する抗菌活性を示さなかった。
【0035】
実施例6
<キュウリ灰色かび病に対する防除効果>
青枯病以外の病気に対するスクラレオールの防除効果を調べるために、以下の実験を行った。
まず、適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。次いで、予め肥料土壌を添加した5.5cmプラスチックポット中で育てた子葉期のキュウリ(品種:相模半白)に対して、100μMスクラレオールもしくは対照区として水のみを1ポットあたり10mLの割合で土壌中に灌注した。
スクラレオール灌注2日目に、灰色かび病菌(Botrytis cinerea 26-1株)の胞子を滅菌水で8倍希釈したPDB培地に懸濁し、胞子懸濁液(展着剤非加用、1mLあたり1×10
5胞子)を作製し、得られた胞子懸濁液をハンドスプレーヤーで上記植物体全体に噴霧接種し、20℃の湿室内で調査時まで管理した。
接種4日後に、子葉における発病程度を以下の基準に従って指数調査し、発病度及び防除価を算出した。
調査基準: 0:発病なし
1:病斑面積5%未満
2:病斑面積5%以上25%未満
3:病斑面積25%以上50%未満
4:病斑面積50%以上
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×4)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100
表1にキュウリ灰色かび病に対するスクラレオールの防除価を示す。なお、防除価の数値が高いほど防除効果が高いことを示す。すなわち、防除価0は全く防除できず病気が発生したこと、防除価100は病気を完全に防除できたことを示す。スクラレオールは、完全ではないが中程度の防除効果を示した。
【0036】
実施例7
<イネ種子伝染性病害に対する防除効果>
青枯病以外の病気に対するスクラレオールの防除効果を調べるために、以下の実験を行った。
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が100mMの薬剤を得、水によって100、200、400μMの濃度になるように希釈した。
次いで、イネ苗立枯細菌病感染籾「コシヒカリ」、イネもみ枯細菌病感染籾「コシヒカリ」、イネばか苗病感染籾「短銀坊主」をプラスチックポットに入れ、体積比で2倍量の水を加え、籾を完全に浸漬させ、15℃で5日間培養した。ポット中の水を捨て、体積比で等量の上記希釈スクラレオールもしくは対照区として水のみをポットに新たに注入し、発芽を促すために30℃に移し、24時間培養した。次いで、ポットから籾をとりだし、宇部培土に播種し、30℃で引き続き培養した。培養後、葉が出た苗について下記(1)〜(3)の調査を行った。
(1)イネ苗立枯細菌病
イネ苗立枯細菌病に関しては、各区の全苗について下記病徴指数(発病指数)に従って調査し、発病度及び発病苗率を求め、発病度から防除価を算出した。
(病徴指数)
0:健全
1:第3葉白化苗
2:第2葉白化苗
3:第1葉白化苗
4:出芽枯死苗
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×4)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100
(2)イネもみ枯細菌病
イネもみ枯細菌病に関しては、各区の全苗について下記病徴指数(発病指数)に従って調査し、発病度及び発病苗率を求め、発病度から防除価を算出した。
(病徴指数)
0:健全
1:第2葉の白化、強い矮化
2:第2葉の白化、第2葉抽出不良
3:枯死あるいは枯死寸前
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×3)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100
(3)イネばか苗病
イネばか苗病に関しては、各区の全苗について健全苗数、又はばか苗病発病苗数を調査し、ばか苗病発病苗率から防除価を算出した。
【0037】
表1にイネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネばか苗病に対するスクラレオールの防除価を示す。なお、防除価の数値が高いほど防除効果が高いことを示す。すなわち、防除価0は全く防除できず病気が発生したこと、防除価100は病気を完全に防除できたことを示す。スクラレオールは、上記3つの病害に対して高程度の防除効果を示した。
【0038】
【表1】
【0039】
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの植物病害の抑制効果を確認するため、以下の実施例8、9の実験を行った。
【0040】
実施例8
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールはタバコより精製した。精製法は非特許文献(The Plant Cell, Volume 15, Page: 863-873 DOI: 10.1105/tpc.010231)に記載の方法に準じた。
適量の(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの濃度が100mMの薬剤を得た。
次いで、予め約1カ月間土壌中で栽培したタバコ(品種名:サムスンNN)に対して、養液に上記のごとく得られた薬剤を(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールが100μMになるように添加し、2日間水耕栽培した。その後、タバコ植物体の根に、1mLあたり10
8個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種した。接種1週間目に茎を回収し、乳鉢を用いて適当量の滅菌蒸留水中で摩砕後、摩砕液を適当量の滅菌蒸留水で希釈した。希釈液を50ppmのテトラゾリウムクロライドを含むCPG培地(1%バクトペプトン、0.05%グルコース、0.001%カザミノ酸、0.9%寒天)上に拡げ、30℃で2〜3日間培養し、中心部がピンク状のコロニーを計測した。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコに対して立枯病菌を接種し、同様の検定を行った。
図7に、立枯病菌接種7日後の立枯病菌の増殖の程度を示す。(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオール処理したタバコでは、立枯病菌の増殖が抑制されていることが判明した。
【0041】
実施例9
<立枯病菌への抗菌活性>
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの青枯病菌への抗菌活性の有無を確認するために以下の実験を行った。
100μM(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールもしくは対照として0.1%メタノールを含む寒天培地に立枯病菌8225株を接種、培養した。
図8に接種後1日目の写真を示す。両者には明確な差は確認できず、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオール自体は立枯病菌に対する抗菌活性を示さなかった。