特許第5794566号(P5794566)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧 ▶ イマジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000002
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000003
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000004
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000005
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000006
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000007
  • 特許5794566-内燃機関の制御装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794566
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/38 20060101AFI20150928BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20150928BHJP
   F02B 31/02 20060101ALI20150928BHJP
   F02P 3/01 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   F02D41/38 B
   F02D9/02 R
   F02B31/02 J
   F02P3/01 A
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-145676(P2011-145676)
(22)【出願日】2011年6月30日
(65)【公開番号】特開2013-11247(P2013-11247A)
(43)【公開日】2013年1月17日
【審査請求日】2013年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504293528
【氏名又は名称】イマジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100155789
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100143063
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】戸田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 重夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/008521(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/035341(WO,A1)
【文献】 特開2005−240645(JP,A)
【文献】 特開2010−037948(JP,A)
【文献】 特開2010−216270(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113693(WO,A1)
【文献】 特開2009−036200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 41/40
F02D 43/00 〜 45/00
F02D 9/02
F02B 31/02
F02P 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮着火式内燃機関の1燃焼周期中に該内燃機関の1の気筒に対して、メイン噴射及び該メイン噴射に先立つ複数回の微少噴射を複数の噴孔が形成された燃料噴射弁に行わせる内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関には、前記微少噴射によって形成される燃料噴霧に電気エネルギを供給することで該燃料噴霧の着火を促進する機能を有する着火促進手段が備えられ、
前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの方向につなげるように、該複数回の微少噴射を前記燃料噴射弁に行わせる処理を行う燃焼制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃焼制御手段は、前記内燃機関の燃焼室のガス密度、前記燃料噴射弁の燃料噴射圧、前記微少噴射に割り当てられた燃料噴射量及び前記燃焼室に生じるスワールの回転速度のうち少なくとも1つに基づき、前記微少噴射の噴射回数及び該微少噴射の時間間隔を設定する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃焼制御手段は、前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によってつなげるように、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの回転速度を調節する処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
圧縮着火式内燃機関の1燃焼周期中に該内燃機関の1の気筒に対して、メイン噴射及び該メイン噴射に先立つ複数回の微少噴射を複数の噴孔が形成された燃料噴射弁に行わせる内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関には、前記微少噴射によって形成される燃料噴霧に電気エネルギを供給することで該燃料噴霧の着火を促進する機能を有する着火促進手段が備えられ、
前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの方向につなげるように、前記燃焼室に生じるスワールの回転速度を調節する処理を行う燃焼制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記着火促進手段は、前記内燃機関の燃焼室にプラズマを生成するプラズマ生成手段であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記プラズマ生成手段は、前記燃焼室に突出した電極を有し、該電極間の放電によって前記燃焼室にプラズマを生成することを特徴とする請求項5記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記プラズマ生成手段は、前記燃焼室に向かって電磁波を照射することで該燃焼室にプラズマを生成することを特徴とする請求項5又は6記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射から前記メイン噴射の前までに前記着火促進手段によって前記燃料噴霧に電気エネルギを供給する手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記複数の噴孔のそれぞれは、前記燃料噴射弁の中心軸線と直交する面上であって且つ該燃料噴射弁の周上に互いに間隔を空けて形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項10】
前記複数回の微少噴射の開始時点で前記燃焼室に生じるスワールにより活性種が拡散した状態になるように、前記複数回の微少噴射の前に前記プラズマ生成手段にプラズマを生成させることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項11】
前記複数回の微少噴射の燃料噴霧が存在している期間に、前記プラズマ生成手段に複数回プラズマを生成させることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火式内燃機関の1燃焼周期中に該内燃機関の1の気筒に対して、メイン噴射及び該メイン噴射に先立つ複数回の微少噴射を複数の噴孔が形成された燃料噴射弁に行わせる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、メイン噴射と、メイン噴射に先立つ複数回のパイロット噴射とからなる多段噴射を燃料噴射弁に行わせるものが知られている。詳しくは、パイロット噴射は、極微少な燃料が噴射されて燃焼することで、メイン噴射前の内燃機関の筒内温度を上昇させてメイン噴射後の着火時期の遅れを短縮させるものであり、窒素酸化物(NOx)の発生を抑制するとともに、燃焼に伴い発生する騒音(燃焼音)を低減する目的でなされるものである。一方、メイン噴射は、内燃機関のトルク生成に寄与して且つ多段噴射中の最大の噴射量を有するものである。
【0003】
ところで、内燃機関の燃焼状態の更なる改善を図るべく、下記特許文献2に見られるように、内燃機関の燃焼室に向かって電磁波を照射する技術も知られている。詳しくは、燃焼室内にアンテナを配置し、アンテナを用いて電磁波を照射することで、燃焼室にプラズマを生成させる。プラズマが生成されると、燃焼室にOHラジカル等が生成されるため、生成されたOHラジカル等と燃料噴霧とが結びつくこととなる。これにより、燃料噴霧の着火が促進され、内燃機関の燃焼状態の改善を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−299496号公報
【特許文献2】特開2009−287549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、燃料噴射弁の複数の噴孔からのパイロット噴射によって形成される複数の燃料噴霧のうち一部の燃料噴霧の燃焼が行われない等、パイロット噴射によって形成される燃料噴霧の燃焼が適切に行われない事態が生じ得る。これは、燃焼室において上記プラズマが局所的にしか生成されないことに起因して、互いに離間した複数の燃料噴霧のうち一部の燃料噴霧の着火を促進することができない等によるものである。こうした要因から燃料噴霧の燃焼が適切に行われない場合、その後メイン噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれの燃焼を適切に行わせることができず、内燃機関の燃焼状態が悪化するおそれがある。そして、この場合、燃焼音が増大するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の燃焼状態の悪化を好適に抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、圧縮着火式内燃機関の1燃焼周期中に該内燃機関の1の気筒に対して、メイン噴射及び該メイン噴射に先立つ複数回の微少噴射を複数の噴孔が形成された燃料噴射弁に行わせる内燃機関の制御装置において、前記内燃機関には、前記微少噴射によって形成される燃料噴霧に電気エネルギを供給することで該燃料噴霧の着火を促進する機能を有する着火促進手段が備えられ、前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの方向につなげるように、該複数回の微少噴射を前記燃料噴射弁に行わせる処理を行う燃焼制御手段を備えることを特徴とする。
【0009】
圧縮着火式内燃機関は通常、燃焼状態の悪化を抑制することを目的として、吸気行程において燃焼室に吸気が導入されることに伴い燃焼室にスワールを生じさせる機能を有している。ここで、噴孔からの微少噴射によって形成される燃料噴霧は、スワールに乗って燃焼室内を移動する。
【0010】
この点に鑑み、上記発明では、複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、スワールを利用しつつ複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって順次形成される燃料噴霧によってつなげるように、複数回の微少噴射を燃料噴射弁に行わせる処理を行う。この処理によれば、複数回の微少噴射のそれぞれによって形成される複数の燃料噴霧を1つにつなげることができる。すなわち、複数の噴孔のそれぞれについて時間的に隣接する微少噴射によって形成される燃料噴霧同士をつなげることで、初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のうち隣接する燃料噴霧の間を、初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって埋めることができる。このため、着火促進手段によって燃焼室に存在する燃料噴霧のいずれかの部分で着火が促進されれば、その後1つにつながった燃料噴霧全体に燃焼を伝播させることができる。これにより、複数回の微少噴射によって形成される燃料噴霧の燃焼を促進させることができ、内燃機関の燃焼状態の悪化を好適に抑制することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記燃焼制御手段は、前記内燃機関の燃焼室のガス密度、前記燃料噴射弁の燃料噴射圧、前記微少噴射に割り当てられた燃料噴射量及び前記燃焼室に生じるスワールの回転速度のうち少なくとも1つに基づき、前記微少噴射の噴射回数及び該微少噴射の時間間隔を設定する処理を行うことを特徴とする。
【0012】
燃焼室のガス密度や、燃料噴射弁の燃料噴射圧、上記燃料噴射量、スワール回転速度によれば、微少噴射によって形成される燃料噴霧の形状を把握することが可能となる。この点に鑑み、上記発明では、上記態様にて微少噴射の噴射回数と、微少噴射の時間間隔とを設定する。このため、複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によってつなげるような適切な燃料噴射制御を行うことができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記燃焼制御手段は、前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によってつなげるように、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの回転速度を調節する処理を行うことを特徴とする。
【0014】
上記発明では、複数回の微少噴射のそれぞれによって形成される複数の燃料噴霧を1つにつなげるための適切なスワール回転速度を実現することができる。
【0015】
請求項4記載の発明は、圧縮着火式内燃機関の1燃焼周期中に該内燃機関の1の気筒に対して、メイン噴射及び該メイン噴射に先立つ複数回の微少噴射を複数の噴孔が形成された燃料噴射弁に行わせる内燃機関の制御装置において、前記内燃機関には、前記微少噴射によって形成される燃料噴霧に電気エネルギを供給することで該燃料噴霧の着火を促進する機能を有する着火促進手段が備えられ、前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、該複数回の微少噴射のうち初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって、前記内燃機関の燃焼室に生じるスワールの方向につなげるように、前記燃焼室に生じるスワールの回転速度を調節する処理を行う燃焼制御手段を備えることを特徴とする。
【0016】
上記発明では、燃焼状態の悪化を抑制することを目的として、吸気行程において燃焼室に吸気が導入されることに伴い燃焼室に生じるスワールの回転速度を調節可能となっている。ここで、噴孔からの微少噴射によって形成される燃料噴霧は、スワールに乗って燃焼室内を移動する。そして、燃料噴霧がスワールに乗って燃焼室内を移動する速度は、スワール回転速度によって変化する。
【0017】
この点に鑑み、上記発明では、スワール回転速度を調節することで、複数の噴孔のそれぞれについて時間的に隣接する微少噴射によって形成される燃料噴霧同士をつなげ、複数回の微少噴射のそれぞれによって形成される複数の燃料噴霧を1つにつなげる。すなわち、初回の微少噴射によって形成される燃料噴霧のうち隣接する燃料噴霧の間を、初回以降の微少噴射によって形成される燃料噴霧によって埋める。このため、着火促進手段によって燃焼室に存在する燃料噴霧のいずれかの部分で着火が促進されれば、その後1つにつながった燃料噴霧全体に燃焼を伝播させることができる。これにより、複数回の微少噴射によって形成される燃料噴霧の燃焼を促進させることができ、内燃機関の燃焼状態の悪化を好適に抑制することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記着火促進手段は、前記内燃機関の燃焼室にプラズマを生成するプラズマ生成手段であることを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記プラズマ生成手段は、前記燃焼室に突出した電極を有し、該電極間の放電によって前記燃焼室にプラズマを生成することを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項5又は6記載の発明において、前記プラズマ生成手段は、前記燃焼室に向かって電磁波を照射することで該燃焼室にプラズマを生成することを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記複数回の微少噴射のうち初回の微少噴射から前記メイン噴射の前までに前記着火促進手段によって前記燃料噴霧に電気エネルギを供給する手段を更に備えることを特徴とする。
【0022】
上記発明では、微少噴射によって形成される燃料噴霧の着火を促進させるための適切な時期に、着火促進手段によって燃料噴霧に電気エネルギを供給することができる。
【0023】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記複数の噴孔のそれぞれは、前記燃料噴射弁の中心軸線と直交する面上であって且つ該燃料噴射弁の周上に互いに間隔を空けて形成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項10記載の発明は、請求項5〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記複数回の微少噴射の開始時点で前記燃焼室に生じるスワールにより活性種が拡散した状態になるように、前記複数回の微少噴射の前に前記プラズマ生成手段にプラズマを生成させることを特徴とする。
【0025】
上記発明では、燃焼室において燃料の濃度が薄い領域が存在しても、既に燃焼が開始されている領域(既燃領域)から燃焼を伝播させることができる。
【0026】
請求項11記載の発明は、請求項5〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記複数回の微少噴射の燃料噴霧が存在している期間に、前記プラズマ生成手段に複数回プラズマを生成させることを特徴とする。
【0027】
上記発明では、複数回の微少噴射によって形成される燃料噴霧を確実に燃焼させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
図2】一実施形態にかかる燃料噴射弁及び放電器の配置態様を示す図。
図3】一実施形態にかかるパイロット分割噴射処理の手順を示すフローチャート。
図4】一実施形態にかかる燃料噴霧の形成態様を示す図。
図5】一実施形態にかかるパイロット分割噴射処理の一例を示す図。
図6】一実施形態にかかるパイロット分割噴射処理の効果を示すタイムチャート。
図7図6の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明にかかる制御装置を車載蓄圧式燃料噴射システムに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0031】
図示されるエンジン10は、圧縮着火式内燃機関(ディーゼル機関)である。詳しくは、エンジン10は、吸気・圧縮・膨張・排気行程を1燃焼周期(720℃A)とする4ストローク多気筒エンジンである。
【0032】
エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、吸入される空気量(新気量)を検出するエアフローメータ14、吸気の温度を検出する吸気温センサ16、更にはDCモータ等のアクチュエータによって開度が調節される電子制御式の吸気絞り弁18が設けられている。
【0033】
吸気通路12のうち吸気絞り弁18の下流側は、吸気マニホールド20を介してエンジン10の各気筒の燃焼室22とつながっている。吸気マニホールド20には、この通路を流れる吸気の圧力を検出する吸気圧センサ24と、燃焼室22に気流を生じさせる気流制御弁26とが設けられている。詳しくは、気流制御弁26は、吸気行程において燃焼室22に吸気が導入されることに伴い生じるスワールの回転速度を調節可能な電子制御式の弁体である。
【0034】
エンジン10のシリンダヘッド28には、コモンレール30から供給される燃料を燃焼室22に直接噴射供給する電子制御式の燃料噴射弁32が気筒毎に設けられている。詳しくは、燃料噴射弁32には複数の噴孔が形成され、これら噴孔から燃料が噴射される。ここで、コモンレール30は、燃料ポンプ34から圧送された燃料を高圧状態で蓄える蓄圧容器である。また、燃料ポンプ34は、図示しない電子制御式の弁体を備え、この弁体が通電操作されることでコモンレール30への燃料圧送量が調節され、コモンレール30内の燃料圧力であるレール圧(燃料噴射弁32の燃料噴射圧)を調節可能な機器である。なお、コモンレール30には、レール圧を検出する燃圧センサ36が設けられている。
【0035】
上記シリンダヘッド28には、さらに、放電器38が気筒毎に設けられている。詳しくは、放電器38は、その先端に一対の電極を備えて構成され、先端が燃焼室22に突出するように配置されている。
【0036】
放電器38には、放電器38の電極間に放電させるための放電コイル40が電気的に接続されている。放電コイル40は、図示しない車載バッテリを電力供給源として上記電極間に高電圧を印加することで、これら電極間に設けられる間隙に放電させるための機器である。なお、放電コイル40としては、例えば、特開2009−41506号公報の図1の構成(点火コイル)を採用すればよい。
【0037】
エンジン10の各気筒には、複数(2つ)個ずつ吸気ポート42及び排気ポート44のそれぞれが設けられている。吸気ポート42及び排気ポート44のそれぞれは、吸気バルブ46及び排気バルブ48のそれぞれによって開閉される。ここでは、吸気バルブ46の開弁によって燃焼室22に導入された吸気と、燃料噴射弁32により噴射供給された燃料との混合気が、燃焼室22の圧縮により着火され燃焼に供される。そして、燃焼によって発生したエネルギは、ピストン50を介して、エンジン10の出力軸(クランク軸52)の回転エネルギとして取り出される。燃焼に供された混合気は、排気バルブ48の開弁によって排気として排気通路54に排出される。
【0038】
なお、燃焼室22には、排気通路54と吸気通路12とを接続する図示しないEGR通路を介して、燃焼室22から排出される排気の一部がEGRとして吸気通路12に還流される。EGR量は、EGR通路の流路面積を調節する図示しない電子制御式の弁体によって調節される。本実施形態では、以降、新気及びEGRを併せて吸気と称すこととする。
【0039】
次に、図2を用いて、本実施形態にかかる燃料噴射弁32及び放電器38の配置態様について説明する。詳しくは、図2は、先の図1において燃料噴射弁32をα方向から見た場合(燃料噴射弁32の中心軸線Lと直交する面を燃料噴射弁32の先端側から見た場合)における図である。
【0040】
図示されるように、燃料噴射弁32には、その周上に複数の噴孔32a(図中、4つの噴孔を例示)が間隔を空けて形成されている。より具体的には、複数の噴孔32aが、燃料噴射弁32の中心軸線と直交する面上であって且つ燃料噴射弁32の周上に略等間隔に形成されている。このため、これら噴孔32aから噴射された各燃料噴霧sprayの軌跡は、燃料噴射弁32の外周に対して放射状に略等間隔に伸びるものとなる。これら燃料噴霧sprayのうち1つが放電器38の電極近傍を通過するように、燃料噴射弁32及び放電器38が配置されている。
【0041】
なお、放射状に伸びた燃料噴霧のそれぞれは、燃焼室22に生じるスワールに乗ってその後変形しながら移動することとなる。より具体的には、燃焼室22において燃料噴射弁32の中心軸線と直交する方向に関して上記中心軸線から外側に離れるほど、燃料噴霧がスワールの方向に延びるように移動する距離が長くなる傾向にある。これは、燃料噴霧先端の液滴は噴射されてから先端に到達するまで、より長時間スワールにさらされ、スワールの方向への移動量が大きくなるためである。
【0042】
図1の説明に戻り、電子制御装置(ECU56)は、蓄圧式燃料噴射システムの各種制御に必要な各種アクチュエータを操作する制御装置である。ECU56は、ドライバのアクセル操作量を検出するアクセルセンサ58や、エンジン10を冷却する冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ60、クランク軸52の回転角度位置を検出するクランク角度センサ62、エアフローメータ14、吸気温センサ16、吸気圧センサ24、更には燃圧センサ36の検出信号等を逐次入力する。ECU56は、これらの入力信号に基づき、レール圧を目標圧に制御すべく燃料ポンプ34を通電操作する燃圧制御処理や、燃料噴射弁32による燃料噴射制御処理、気流制御弁26によるスワール制御処理、更には放電コイル40によるプラズマ生成処理等のエンジン10の燃焼制御処理を行う。
【0043】
上記燃料噴射制御処理について説明すると、本実施形態では、1燃焼周期(720℃A)中に1の気筒に燃料噴射弁32から複数回燃料を噴射供給(多段噴射)すべく、燃料噴射弁32を通電操作する処理を行う。詳しくは、上記多段噴射としてパイロット噴射及びメイン噴射を行う。ここで、メイン噴射は、パイロット噴射の後、圧縮上死点直前又は圧縮上死点近傍においてなされ、エンジン10のトルク生成に寄与して且つ多段噴射中の最大の噴射量を有するものである。
【0044】
一方、パイロット噴射は、メイン噴射に先立ち、圧縮行程(の後半)において極微少な燃料が噴射されて燃焼することで、メイン噴射前のエンジン筒内温度(燃焼室22の温度)を上昇させて、メイン噴射後の着火時期の遅れを短縮させるものである。詳しくは、パイロット噴射によって形成される燃料噴霧を燃焼させると、燃焼室22の温度が上昇する。燃焼室22の温度が上昇すると、その後のメイン噴射によって形成される燃料噴霧の着火タイミングが早くなり(着火遅れ期間が短くなり)、メイン噴射によって燃焼室22に供給された燃料の蒸発量が少なくなる。これにより、メイン噴射によって形成される燃料噴霧と吸気との混合気の燃焼(予混合燃焼)を緩慢にすることができ、燃焼室22の圧力上昇度合いの低下によって燃焼に伴い発生する騒音(燃焼音)の増大を抑制するとともに、窒素酸化物(NOx)の発生を抑制する。
【0045】
上記燃料噴射制御処理について更に説明すると、まず、アクセルセンサ58の出力値に基づくアクセル操作量と、クランク角度センサ62の出力値に基づくエンジン回転速度とに基づき、エンジン要求トルクの生成を実現するために1燃焼周期において要求される燃料噴射弁32からの燃料噴射量(要求噴射量)を算出する。次に、要求噴射量を、パイロット噴射及びメイン噴射のための噴射量に分割し、これら各噴射量を燃料噴射弁32に対する噴射量の指令値(指令噴射量)とする。また、要求噴射量、エンジン回転速度及び水温センサ60の出力値に基づく冷却水温等からパイロット噴射の終了タイミングとメイン噴射の開始タイミングとの間の時間間隔(インターバル)を算出する。そして、燃圧センサ36の出力値に基づくレール圧、指令噴射量及びインターバル等に基づき、多段噴射を実施するための燃料噴射弁32に対する指令噴射時期を算出する。そして、指令噴射時期に基づき燃料噴射弁32を通電操作することで、要求噴射量に応じた量の燃料を噴孔32aから噴射させる。
【0046】
上記スワール制御処理は、スワール回転速度を、エンジン10の運転状態に応じた適切な速度に制御すべく、気流制御弁26を通電操作する処理である。なお、エンジン10の運転状態に応じたスワール回転速度は、エンジン10の燃焼状態を良好にするとの観点から、実験等により予め定められるものである。また、スワール回転速度は、例えば、気流制御弁26の操作状態及び吸気圧センサ24によって検出される吸気圧に基づき推定すればよい。
【0047】
上記プラズマ生成処理は、燃料噴霧の自己着火を促進し、燃焼状態を良好にするために設けられる処理である。つまり、放電器38の電極間の間隙に放電させると、電極間の気体がプラズマ状態とされることに起因して、電極間の近傍においてOHラジカル等が生成される。そして、生成されたOHラジカル等と燃料噴霧とが結びつくと、燃料噴霧の着火が促進される。
【0048】
ところで、パイロット噴射によって形成されて且つ燃焼室22において互いに離間した4つの燃料噴霧のうち一部の燃料噴霧のみの燃焼が行われる等、パイロット噴射によって形成された燃料噴霧の燃焼を適切に行うことが困難となることがある。この要因としては、放電器38によるプラズマ生成が局所的にしか行われないことが挙げられる。
【0049】
また、燃焼音等の低減のためにエンジン10の低圧縮比化を図ったり、燃焼室22に供給されるEGRが多くなったりすることも要因として挙げられる。これは、低圧縮比化を図ったり、EGRが多くなったりすると、燃焼室22の温度が低下する傾向にあることによるものである。
【0050】
ここで、パイロット噴射によって形成される燃料噴霧を適切に燃焼させる手法としては、例えば、噴孔32aの数や位置に合わせて、放電器38の電極間の距離を長くしたり、放電器38を複数設けたりする手法も考えられる。しかしながら、電極間の距離を長くしたり、放電器38の設置数を多くしたりすると、プラズマ生成に要する電気エネルギ及びコストが増大することが懸念される。
【0051】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、パイロット噴射を更に複数回の微少噴射に等分割し、等分割された複数回の微少噴射(微少分割噴射)のうち初回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、スワールを利用しつつ、複数回の微少分割噴射のうち初回以降の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧によってつなげるように、複数回の微少分割噴射を燃料噴射弁32に行わせる処理(パイロット分割噴射処理)を行う。
【0052】
図3に、本実施形態にかかるパイロット分割噴射処理の手順を示す。この処理は、ECU56によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
【0053】
この一連の処理では、まずステップS10において、燃焼室22に供給される吸気量と、パイロット噴射時期とに基づき、パイロット噴射時における燃焼室22の密度(上記噴射時の筒内のガス密度:以下、噴射時筒内密度と称す)を算出する。ここで、噴射時筒内密度は、燃焼室22に充填される吸気量が多いほど高くなる傾向にある。なお、パイロット噴射時期とは、上記燃料噴射制御処理によって算出された指令噴射時期のうちパイロット噴射に対応する時期のことである。
【0054】
ちなみに、噴射時筒内密度は、具体的には例えば、パイロット噴射時期と関係付けられた噴射時筒内密度が規定されるマップを用いて算出すればよい。ここで、噴射時筒内密度とパイロット噴射時期とを関係付けることができるのは、ピストン50の上昇に伴い高くなる燃焼室22の密度とクランク軸52の回転角度位置とが関係付けられ、また、パイロット噴射時期とクランク軸52の回転角度位置とが関係付けられるからである。また、吸気量は、例えば、エアフローメータ14によって検出された新気量と、燃焼室22に供給されるEGR量とに基づき算出すればよい。より具体的には、上記吸気量は、新気量及びEGR量の加算値として算出すればよい。
【0055】
続くステップS12では、以下の(A)〜(D)のパラメータに基づき、複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれを、複数回の微少分割噴射のうち初回以降の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧によってつなげるように、パイロット噴射の分割数(微少分割噴射の実施回数)、及び先の微少分割噴射の終了タイミングと後の微少分割噴射の開始タイミングとの間の時間間隔(微少分割噴射インターバル)を算出する。
【0056】
(A)噴射時筒内密度:図4(a)に示すように、噴射時筒内密度が高いほど、燃料噴霧sprayの広がりが妨げられることで、燃料噴霧sprayの広がりが小さくなる傾向にある。このため、噴射時筒内密度が高いほど、互いに隣接する噴孔32aのそれぞれに対応する微少噴射によって形成された燃料噴霧同士の間隔が広くなる傾向にある。こうした傾向に鑑みれば、複数の微少分割噴射によって形成された複数の燃料噴霧を1つにつなげるべく、噴射時筒内密度が高いほど、例えば、パイロット噴射の分割数を多くしたり、微少分割噴射インターバルを短くしたりすればよい。これにより、複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧について、隣接する燃料噴霧の間を埋めるように、初回以降の微少分割噴射を行うことができる。
【0057】
(B)燃料噴射弁32の燃料噴射圧:同図(a)に示すように、燃料噴射弁32の燃料噴射圧が高いほど、燃料噴霧sprayの広がりが大きくなる傾向にある。このため、燃料噴射圧が高いほど、互いに隣接する噴孔32aのそれぞれに対応する微少噴射によって形成された燃料噴霧同士の間隔が狭くなる傾向にある。こうした傾向に鑑みれば、上記複数の燃料噴霧を1つにつなげるべく、燃料噴射圧が低いほど、例えば、パイロット噴射の分割数を多くしたり、微少分割噴射インターバルを短くしたりすればよい。なお、燃料噴射弁32の燃料噴射圧は、燃圧センサ36の出力値に基づき算出すればよい。
【0058】
(C)要求噴射量のうちパイロット噴射に割り当てられた燃料噴射量(以下、燃料噴射量):同図(a)に示すように、燃料噴射量が多いほど、燃料噴霧の広がりが大きくなる傾向にある。このため、燃料噴射量が多いほど、互いに隣接する噴孔32aのそれぞれに対応する微少噴射によって形成された燃料噴霧同士の間隔が狭くなる傾向にある。こうした傾向に鑑みれば、上記複数の燃料噴霧を1つにつなげるべく、燃料噴射量が少ないほど、例えば、パイロット噴射の分割数を多くしたり、微少分割噴射インターバルを短くしたりすればよい。
【0059】
(D)スワール回転速度:同図(b)に示すように、スワール回転速度が高いほど、噴孔32aからの噴射燃料によって形成された燃料噴霧sprayの単位時間あたりの移動量が大きくなる傾向にある。こうした傾向に鑑みれば、各噴孔32aのそれぞれについて、複数回の分割微少噴射によって順次形成される燃料噴霧を1つにつなげるべく、スワール回転速度が高いほど、例えば微少分割噴射インターバルを短くすればよい。
【0060】
なお、パイロット噴射の分割数及び微少分割噴射インターバルは、例えば、噴射時筒内密度、燃料噴射圧、燃料噴射量及びスワール回転速度と関係付けられた上記分割数及び微少分割噴射インターバルが規定されたマップを用いて算出すればよい。ここで、上記マップは、モデル等を用いた計算や、実験によって予め作成されるものである。
【0061】
また、複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧中の可燃混合気領域のそれぞれが、複数回の微少分割噴射のうち初回以降の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧中の可燃混合気領域によってつながるように、上記分割数及び微少分割噴射インターバルを算出するのが望ましい。ここで、可燃混合気領域とは、先の図4(a)に示すように、燃料噴霧のうち、燃料と空気との比が着火・燃焼に適した比となる領域のことをいう。なお、燃料噴霧は、その中心に近づくほど燃料の濃度が濃いものとなる。
【0062】
図3の説明に戻り、上記ステップS12の処理によってパイロット噴射の分割数及び微少分割噴射インターバルの算出が完了すると、微少分割噴射のそれぞれが実施される1燃焼サイクル中における時期(微少噴射時期)が定まり、ステップS14において、微少分割噴射時期に基づき、プラズマ生成処理によってプラズマを生成する時期を算出する。本実施形態では、複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射からメイン噴射の前までの期間にプラズマを生成する。
【0063】
続くステップS16では、パイロット分割噴射処理を含む燃料噴射制御処理、プラズマ生成処理、及びエンジン10の運転状態に基づくスワール制御処理を行う。
【0064】
なお、ステップS16の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0065】
図5に、本実施形態にかかるパイロット分割噴射処理時におけるプラズマ生成時期の設定態様の一例を示す。なお、図5では、パイロット噴射の分割数を3としている。
【0066】
まず、図5(A)を用いて、プラズマ生成時期を最後(3発目)の微少分割噴射時に設定する場合について説明する。
【0067】
図示される例では、燃焼室22にスワールが生じる状況下、1発目の微少分割噴射がなされた後、各噴孔32aに対応する1発目及び2発目の微少分割噴射のそれぞれによって形成された燃料噴霧同士が重なるように2発目の微少分割噴射がなされる。その後、各噴孔32aに対応する2発目及び3発目の微少分割噴射のそれぞれによって形成された燃料噴霧同士が重なるように3発目の微少分割噴射がなされることで、3回の微少分割噴射のそれぞれによって形成された燃料噴霧が1つにつながる。
【0068】
このような状況下、3発目の微少分割噴射がなされた直後においてプラズマが生成されると、燃料噴霧の一部の燃焼が開始される。そして、1つにつながった燃料噴霧全体へと燃焼が伝播される。
【0069】
次に、同図(B)を用いて、プラズマ生成時期を2発目の微少分割噴射時に設定する場合について説明する。
【0070】
図示される例では、2発目の分割噴射がなされた直後にプラズマが生成される。これにより、1発目に対応する燃料噴霧が着火され、同燃料噴霧に隣接する2発目に対応する燃料噴霧へと燃焼が伝播される。そしてその後、3発目の微少分割噴射がなされることで、3回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧が1つにつながり、既に燃焼が開始されている領域(既燃領域)から燃焼が伝播される。
【0071】
続いて、同図(C)を用いて、プラズマ生成時期を最初の微少分割噴射時に設定する場合について説明する。
【0072】
図示される例では、1発目の微少分割噴射がなされた直後にプラズマが生成されることで、1発目に対応する燃料噴霧が着火される。そして、その後2発目の微少分割噴射によって形成された燃料噴霧が1発目に対応する燃料噴霧とつながることで、既燃領域から燃焼が伝播される。そして、その後3発目の微少分割噴射がなされると、3回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧が1つにつながることで、燃焼が更に伝播される。
【0073】
図6に、パイロット分割噴射処理の効果を示す。詳しくは、図6(a)に、燃料噴射弁32への噴射指令の推移を示し、図6(b)に、熱発生率の推移を示す。なお、図中、熱発生率とは、燃焼室22における燃料の燃焼によって生じる単位時間あたりの熱量のことをいう。
【0074】
図示されるように、時刻t1〜t2においてパイロット分割噴射処理を行う場合、パイロット噴射によって形成された燃料噴霧を均一に燃焼させることができる。このため、熱発生率が大きくなり、燃焼室22の温度が高くなる(図7参照)。そして、圧縮上死点となる時刻t3の後、メイン噴射によって燃焼室22に供給された燃料が燃焼に供される。ここでは、パイロット分割噴射処理によって燃焼室22の温度が上昇していることから、燃焼が緩慢となり、燃焼音が低減される。
【0075】
これに対し、パイロット分割噴射処理が行われない従来技術では、パイロット噴射によって形成された燃料噴霧を適切に燃焼させることができず、燃焼室22の温度を適切に上昇させることができない。このため、その後メイン噴射に伴う急激な燃焼によって燃焼音が大きく増大することとなる。
【0076】
このように、本実施形態では、パイロット分割噴射処理を行うことで、燃焼状態の悪化を好適に抑制することができる。
【0077】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0078】
(1)噴射時筒内密度、燃料噴射弁32の燃料噴射圧、燃料噴射量及びスワール回転速度に基づき、複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれが、複数回の微少分割噴射のうち初回以降の微少分割噴射によって形成される燃料噴霧によってつながるように、微少噴射時期を算出した。そして、算出された微少分割時期に基づくパイロット分割噴射処理を行った。これにより、パイロット噴射によって形成される燃料噴霧の燃焼状態を良好にすることができ、ひいてはエンジン10の燃焼状態の悪化を好適に抑制することができる。したがって、燃焼音の増大を好適に抑制することができる。
【0079】
さらに、パイロット分割噴射処理によれば、放電器38の設置位置や数によらず、エンジン10の燃焼状態の悪化を抑制することもできる。
【0080】
(2)複数回の微少分割噴射のうち初回の微少分割噴射からメイン噴射の前までの期間に放電器38によってプラズマを生成させた。これにより、パイロット噴射によって形成された燃料噴霧の着火を適切に促進させることができる。
【0081】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0082】
・パイロット噴射によって形成された燃料噴霧の着火を促進させる手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、燃焼室22に向かって電磁波を照射する照射手段を備え、照射手段から燃焼室22に向かって電磁波を照射することでプラズマを生成させ、燃料噴霧の着火を促進させてもよい。ここで、照射手段としては、具体的には、例えば、燃焼室22に突出した電磁波の照射源(アンテナ)を備えて構成される電磁波照射装置や、電磁波照射機能を有する放電器が挙げられる。なお、燃焼室22において上記照射源に近いほど、プラズマが生成されやすくなる傾向にある。
【0083】
ちなみに、電磁波の照射領域内において放電器38の電極間に放電させてもよい。この放電がトリガとなってプラズマの生成が促進されるため、燃料噴霧の着火の更なる促進が期待できる。
【0084】
また、電気エネルギの供給によって燃料噴霧の着火を促進させる手法としては、プラズマを生成させる手法に限らない。例えば、通電によって燃焼室22に熱を発生させる発熱手段を備え、発熱手段の発熱によって燃料噴霧の着火を促進させてもよい。ここで、発熱手段としては、例えば、通電によって発熱する電熱器(例えば、グロープラグ)等が挙げられる。
【0085】
・スワール制御処理手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、噴射時筒内密度、燃料噴射弁32の燃料噴射圧及び燃料噴射量と関係付けられた目標スワール回転速度が規定されるマップを用いて目標スワール回転速度を算出し、目標スワール回転速度にスワール回転速度の推定値を制御すべく、気流制御弁26を通電操作する処理としてもよい。ここで、目標スワール回転速度は、複数回の微少分割噴射によって形成される複数の燃料噴霧を1つにつなげる観点から設定される値であり、パイロット噴射の分割数及び微少分割噴射インターバルとともに、予め実験等により適合されることとなる。
【0086】
・上記実施形態では、複数回の微少噴射によって形成される複数の燃料噴霧を1つにつなげるために、微少分割噴射時期を調節する手法を採用したがこれに限らない。例えば、スワール回転速度のみを調節する手法を採用してもよい。この手法は、例えば、エンジン10の運転状態(アクセル操作量及びエンジン回転速度等)に応じてメイン噴射に先立つ微少噴射の回数及び微少噴射同士の時間間隔が算出される基準となる制御ロジックが既にある場合、この制御ロジックを流用しつつ、複数回の微少噴射によって形成された複数の燃料噴霧を1つにつなげるために有効な手法である。
【0087】
詳しくは、例えば、エンジン10の運転状態に基づき、複数の噴孔からの複数回の微少噴射によって形成される燃料噴霧について、互いに隣接する燃料噴霧同士がつながらないと予測される場合、スワール回転速度をやや低下させればよい。これにより、隣接する燃料噴霧同士の間隔を縮めることができ、これら燃料噴霧をつなげることができると考えられる。
【0088】
・噴射時筒内密度や燃料噴射弁32の燃料噴射圧等に基づくパイロット噴射の分割数や微少分割噴射インターバルの算出手法としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、複数の微少分割噴射によって形成された複数の燃料噴霧を1つにつなげることが可能な限りは、噴射時筒内密度が高かったり、燃料噴射圧が低かったり、燃料噴射量が少なかったりするほど、パイロット噴射の分割数を少なくしたり、微少分割噴射インターバルを長くしたりしてもよい。こうした設定手法は、具体的には、噴射時筒内密度及び燃料噴射圧等をパラメータとして予めモデルによる計算や実験を行うことによって、噴射時筒内密度及び燃料噴射圧等と関係付けられたパイロット噴射の分割数及び微少分割噴射インターバルを定めることによって実現することができる。更に、例えば、上記複数の燃料噴霧を1つにつなげることが可能な限りは、パイロット噴射の分割数及び微少分割噴射インターバルのうち一方を固定し、他方を調節可能な制御ロジックを採用してもよい。
【0089】
・上記実施形態では、燃料噴射弁を各気筒に1つ設ける構成としたがこれに限らず、各気筒に複数(2つ)設ける構成としてもよい。この場合、各燃料噴射弁からのパイロット噴射によって形成される燃料噴霧のそれぞれが燃焼室において互いに離間する噴射態様となるならば、パイロット分割噴射処理の適用が有効であると考えられる。
【0090】
・上記実施形態では、パイロット噴射に割り当てられる燃料量を等分割して複数回の微少噴射のそれぞれに割り当てたがこれに限らない。例えば、複数回の微少噴射のそれぞれに割り当てられる燃料量を相違させてもよい。
【0091】
・上記実施形態では、筒内密度を吸気量等に基づき算出したがこれに限らない。例えば、燃焼室22に筒内圧を直接検出するセンサを備え、このセンサによって検出された筒内圧に基づき筒内密度を算出してもよい。
【0092】
・上記実施形態では、燃料噴射弁の燃料噴射圧としてレール圧を用いたがこれに限らない。例えば、燃料噴射弁に燃料噴射圧を検出するセンサを備え、このセンサの検出値を用いてもよい。
【0093】
・上記実施形態において、パイロット噴射の開始時点で、OHラジカル等の活性種がスワールにより燃焼室22に拡散した状態になるように、パイロット噴射に先立って、放電器38の電極間にプラズマを生成してもよい。この場合、燃焼室22において燃料の濃度が薄い領域が存在しても、既燃領域から燃焼を伝播させることができる。パイロット噴射前のプラズマを生成するタイミングは、スワールの回転速度に基づき決定され、スワールの回転速度が遅いほど早いタイミングとなる。なお、パイロット噴射の開始時点において燃焼室22の活性種が多くなるように、パイロット噴射に先立って、複数回プラズマを生成してもよい。
【0094】
・上記実施形態において、スワールの回転速度が速いほど、プラズマを生成する際に放電器38の電極間に供給する単位時間当たりの電気エネルギを多くしてもよい。この場合、スワールによりプラズマが吹き消されることを防止することができる。
【0095】
・上記実施形態において、パイロット噴射の際に複数回プラズマを生成してもよい。この場合、パイロット噴射時の燃料を確実に燃焼させることができる。なお、プラズマを生成するタイミングに応じて、放電器38の電極間に供給する単位時間当たりの電気エネルギを変化させてもよい。例えば、プラズマを生成するタイミングにおける放電器38の電極間の燃料の濃度が薄いほど、前記電気エネルギを多くしてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…エンジン、22…燃焼室、26…気流制御弁、30…コモンレール、32…燃料噴射弁、32a…噴孔、38…放電器、56…ECU(内燃機関の制御装置の一実施形態)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7