【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0059】
実施例1
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
再結晶精製したフルオロフェニルスルホン(2.54g、東京化成工業(株)製)、ジフルオロベンゾフェノン(2.18g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(7.00g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(120ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.80g、関東化学(株)製)とトルエン(12ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を7.4g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は6万程度、重量平均分子量は22万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、目的構造が得られていることをNMR測定により確認した。
【0060】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(2.96ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、35℃で168時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり1.80個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテル膜を得た。
【0061】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた高分子電解質膜の厚みは、約50μmであり、IECは2.54meq/gと算出された。
【0062】
得られた実施例1の構造を下記式(4)に、NMRチャートを
図1に示す。
【0063】
【化8】
【0064】
(式中、繰り返し単位横の添え字50は繰り返し単位の比率を示す。式中、繰り返し単位の陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は1.80個である。)
【0065】
実施例2
ポリ(アリーレンエーテルデカフルオロビフェニル)は以下の通り合成した。デカフルオロビフェニル(4.00g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(7.00g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(120ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.80g、関東化学(株)製)とトルエン(12ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。反応後、実施例1と同様に精製、評価した。得られたポリマーの数平均分子量は6万程度、重量平均分子量は23万程度であった。次に、実施例1と同様の条件でクロロメチル化反応を行い、96時間の反応で繰り返し単位あたり1.17個のクロロメチル基を導入した。続いて、実施例1と同様にキャスト製膜、4級アンモニウム化反応、塩基処理を行い、目的とする4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。得られた膜の厚みは、約55μmであり、IECは1.56meq/gとなった。
【0066】
得られた実施例2の構造を下記式(5)に、NMRチャートを
図2に示す。
【0067】
【化9】
【0068】
(式中、繰り返し単位横の添え字nは繰り返し単位の数を示す。式中、陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は1.17個である。)
【0069】
実施例3
IECの異なる4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得るため、異なる条件でポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)のクロロメチル化反応を実施した。ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(1.85ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、40℃で72時間反応させた。結果、クロロメチル基導入量は繰り返し単位あたり1.35個と算出された。得られたクロロメチル化ポリエーテルを実施例1と同様に4級アンモニウムへと誘導し、塩基処理を経て、高分子電解質膜の厚みが約50μmであり、IEC2.08meq/gの4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。
【0070】
実施例4
IECの異なる4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得るその他の方法として、反応時間で制御した。実施例1と同一条件で反応時間のみ120時間としてポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)のクロロメチル化を行った。結果、クロロメチル基導入量は繰り返し単位あたり1.24個と算出された。得られたクロロメチル化ポリエーテルを実施例1と同様に4級アンモニウムへと誘導し、塩基処理を経て、高分子電解質膜の厚みが約70μmであり、IEC1.88meq/gの4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。
【0071】
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜について、特性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0072】
(イオン交換容量の測定)
4級アンモニウム化ポリエーテル膜のイオン交換容量は以下の2種類の滴定により算出した。対イオンとして水酸化物イオンを有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、50mg程度に切り出して秤量し、飽和食塩水に室温で一晩浸漬させることで塩交換した。続いて、純水を用いて希釈した後、0.01Mの塩酸を用いて滴定を行った。自動滴定装置(KEM社製AT510)を用いて中和点を判断し、中和に要した塩酸量よりイオン交換容量を算出した。また、塩化物イオンを対イオンとして有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、硝酸ナトリウムにより塩交換をした。続いて、クロム酸カリウムを指示薬としてビュレットを用いて硝酸銀水溶液を滴下し、その赤褐色の沈澱が生じた点を中和点として、中和に要した硝酸銀水溶液量よりイオン交換容量を算出した。
【0073】
(繰り返し単位あたりの陰イオン交換基導入個数の算出)
クロロメチル化反応により得られたポリマーの
1H−NMR測定を行い、積分値の比よりクロロメチル基あるいはアンモニウム基の導入個数を算出した。具体的には、ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の反応前後で変化しないシグナルピーク(スルホンおよびケトンのオルト位プロトン、フルオレンの4、5位)とクロロメチル基中のメチレンピーク、あるいはアンモニウム基に隣接したメチルとメチレンの積分比より導入個数を算出した。
【0074】
(イオン伝導度の測定)
塩基処理した4級アンモニウム化ポリエーテル膜を1cm×3cm角に切りだし、4本の金線を有するPEEK製4端子ホルダー上にセット(中央電極間距離1cm)、4端子を有さない別のホルダーと挟み込み、ホルダーごと温度を任意に調整した純水中に浸漬させた。純水温度を目的温度になるように調整し、静置後、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製Solartron1255B)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。一定電圧下、周波数1−100000Hzの範囲で走引し、得られたナイキストプロットと膜の物理定数からイオン伝導度を算出した。
図4に、実施例1、2、4で合成した陰イオン交換樹脂のイオン伝導度温度依存性を示す。
【0075】
(破断強度の測定)
恒温恒湿槽内に設置した引張り試験機((株)島津製作所製AGS−J500N)により測定した。このときサンプル形状はダンベル型(DIN−53504−S3)とし、引張り速度は10mm/minとした。また恒温恒湿層は80℃、60%RHに設定し、サンプルは約2時間保持した。
図3に、実施例1および2で合成した陰イオン交換樹脂の引っ張り試験SS(Strain−Stress)カーブを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に、実施例1〜4の特性を示す。本発明の陰イオン交換樹脂は、公知技術の陰イオン交換樹脂に対し優れたイオン伝導度を持つことがわかる。また、破断強度に関しても、陽イオン交換樹脂として一般に用いられるナフィオン(登録商標)の19.0MPaに対し高い値を持つことがわかる。
【0078】
以上から、本発明の陰イオン交換樹脂は、優れたイオン伝導度と機械強度を兼ね備え、アルカリ型燃料電池の材料として優れていることが分かった。
【0079】
実施例5
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)は、親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーのマルチブロック共重合により得た。まず、下記の手順で親水性オリゴマーを合成した。ジフルオロベンゾフェノン(3.00g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(4.65g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(40ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(4.59g、関東化学(株)製)とトルエン(10ml、関東化学(株)製)を加え、140℃で2時間、165℃で2時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることで親水性オリゴ(アリーレンエーテルスルホン)を6.9g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は5300、重量平均分子量は13100であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より親水成分の鎖長yが目的の8程度であることを確認した。
【0080】
次に、下記の手順で疎水性オリゴマーを合成した。ジフルオロベンゾフェノン(2.00g、東京化成工業(株)製)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(1.50g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(2.42g、関東化学(株)製)とトルエン(7ml、関東化学(株)製)を加え、150℃で1.5時間、170℃で1.5時間反応させた。
【0081】
続いて、上記であらかじめ合成した親水性オリゴマー(4.26g)を加え、さらに170℃で2時間反応させた。反応終了後、希塩酸中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水、メタノール/塩酸およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでマルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を5.8g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は9万程度、重量平均分子量は18万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xが8程度、親水部鎖長yが8程度として得られていることを確認した。
【0082】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、45℃で144時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり2.78個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約60μmであった。
【0083】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ブロックポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.93meq./gと算出された。得られた実施例5の陰イオン交換樹脂の構造を下記式(6)に、NMRチャートを
図5に示す。
【0084】
【化10】
【0085】
(式中、x、yはそれぞれ繰り返し単位の数で、本実施例ではそれぞれ約8、8である。式中、親水部ブロックの繰り返し単位の陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は平均2.78個である。)
【0086】
実施例6
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
実施例5と同様の親水性オリゴマーおよび疎水性オリゴマーの合成、マルチブロック共重合反応を用いた。なお、得られたポリマーの数平均分子量は5万程度、重量平均分子量は10万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xが16程度、親水部鎖長yが11程度として得られていることを確認した。
【0087】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、35℃で96時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.0g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり1.78個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約60μmであった。
【0088】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
実施例5と同様の4級アンモニウム化反応、塩基処理を行った。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.32meq./gと算出された。得られた実施例6の陰イオン交換樹脂の構造は式(6)と同様である。
【0089】
実施例7
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
実施例1と同様の親水性オリゴマーおよび疎水性オリゴマーの合成、マルチブロック共重合反応を用いた。なお、得られたポリマーの数平均分子量は9万程度、重量平均分子量は18万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xおよび親水部鎖長yがそれぞれ8程度として得られていることを確認した。
【0090】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、35℃で125時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり0.92個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約80μmであった。
【0091】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
実施例1と同様の4級アンモニウム化反応、塩基処理を行った。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは0.89meq./gと算出された。得られた実施例7の陰イオン交換樹脂の構造は式(6)と同様で、ただし繰り返し単位の数x、yはそれぞれ7.6、8.5であった。
【0092】
実施例8
<ランダム型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
再結晶精製したフルオロフェニルスルホン(1.40g、東京化成工業(株)製)、ジフルオロベンゾフェノン(1.20g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(3.85g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ヂメチルアセトアミド(60ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.79g、関東化学(株)製)とトルエン(6ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を4.8g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は4万程度、重量平均分子量は8万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、目的構造が得られていることをNMR測定により確認した。
【0093】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
ランダム型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(2.78ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、35℃で78時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.0g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり0.92個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約70μmであった。
【0094】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.46meq./gと算出された。
【0095】
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜について、特性を評価した。方法は以下のとおりである。
【0096】
(イオン交換容量の測定)
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜のイオン交換容量は以下の2種類の滴定により算出した。対イオンとして水酸化物イオンを有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、50mg程度に切り出して秤量し、飽和食塩水に室温で一晩浸漬させることで塩交換した。続いて、純水を用いて希釈した後、0.01Mの塩酸を用いて滴定を行った。自動滴定装置(KEM社製AT510)を用いて中和点を判断し、中和に要した塩酸量よりイオン交換容量を算出した。また、塩化物イオンを対イオンとして有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、硝酸ナトリウムにより塩交換をした。続いて、クロム酸カリウムを指示薬としてビュレットを用いて硝酸銀水溶液滴下し、その赤褐色の沈澱が生じた点を中和点として、中和に要した硝酸銀水溶液量よりイオン交換容量を算出した。
【0097】
(繰り返し単位辺りの陰イオン交換基導入個数の算出)
クロロメチル化反応により得られたポリマーの
1H−NMR測定を行い、積分値の比よりクロロメチル基あるいはアンモニウム基の導入個数を算出した。具体的には、クロロメチル化反応前後で変化しない7.8ppm付近の親水部ビフェニルスルホン骨格中のプロトン積分値と、4.6ppm付近のクロロメチル基のメチレンプロトン積分値の比から、クロロメチル基の導入個数を算出した。同様に、4級アンモニウム化反応後のポリマーにおいても、8.2−7.4ppm付近のプロトン積分値とアンモニウム基中のメチレン(5.9ppm付近)および末端メチル(3.0ppm付近)のプロトン積分比から、アンモニウム基の導入個数を算出した。
【0098】
(イオン伝導度の測定)
塩基処理した上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜を1cm×3cm角に切りだし、4本の金線を有するPEEK製4端子ホルダー上にセット(中央電極間距離1cm)、4端子を有さない別のホルダーと挟み込み、ホルダーごと温度を任意に調整した純水中に浸漬させた。純水温度を目的温度になるように調整し、静置後、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製Solartron1255B)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。一定電圧下、周波数1−100000Hzの範囲で走引し、得られたナイキストプロットと膜の物理定数からイオン導電率を算出した。イオン導電率は高いほうが好ましい。
【0099】
(燃料透過率の測定)
アルカリ型燃料電池に用いられる燃料の一つとして、ヒドラジン水溶液が挙げられる。本測定では、燃料をヒドラジンと想定し、上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜の燃料透過率を以下の方法で測定した。
【0100】
透過試験用H型セルに、約4cm×4cmの大きさに切り出した高分子電解質膜を挟み、止め具のねじをしっかりと締めた。セルの片側に10wt%ヒドラジン水溶液、片側に超純水を、気泡が入らないように注入した。それぞれのセル内に撹拌子を入れ、フタを取り付けた後30℃に設定した撹拌ホットプレートに載せ、撹拌を開始した。1時間おきに5時間まで超純水側の溶液をシリンジで1mLスクリュー管に採取し、超純水1mLを超純水側のセルに追加した。1時間おきに採取した溶液を超純粋にて100倍希釈し、イオンクロマトグラフィで濃度を測定した。算出した濃度の経時変化から傾き(g/h)を出し、膜厚をかけて面積で除することにより燃料透過率を得た。燃料透過率は、低いほうが燃料遮断性が高くなるために好ましい。
【0101】
(耐ヒドラジン性)
アルカリ型燃料電池の燃料の一種であるヒドラジン水溶液に対する耐久性を、以下方法で評価した。1cm×4cm程度に切り出した膜サンプル(膜厚50μm程度)を耐圧ガラス容器に入れ、10wt%ヒドラジン水溶液30mlを加えて密閉し、80℃で24時間浸漬させた。評価は、耐久試験後膜としてのフィルム形状を維持している場合は○、フィルム形状を維持しておらず回収が困難な場合は×とした。
【0102】
以上、実施例5〜8の膜の評価結果を表2に、実施例と比較例のイオン伝導度と燃料透過率の関係を
図6に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から、本発明の実施例の膜は、公知技術の陰イオン交換樹脂に対し優れたイオン伝導度を持つことがわかる。また、
図6より、これら膜のイオン伝導度と燃料透過率の関係より、この特性はトレードオフの関係にあることが分かる。
【0105】
一方、耐ヒドラジン性に関しては、実施例の膜が高いイオン交換容量であっても比較例の膜よりも優れていることが分かる。以上から、本発明の陰イオン交換樹脂は、高いイオン伝導度と燃料遮断性を持ち、かつ、耐久性に優れることが分かり、また、アルカリ型燃料電池の材料として優れていることが分かった。
【0106】
(本発明の陰イオン交換樹脂膜を用いたアルカリ型燃料電池の評価)
実施例5の陰イオン交換樹脂膜を用いて、Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,8024−8027を参考に発電試験を行った。触媒層の構成は前記文献table 2のsampleCとし、発電条件は前記文献のサポーティングインフォメーション、Figure S1で、セル温度を80℃として行った。結果を
図7に示す。本発明の陰イオン交換樹脂膜を用いたMEAは、出力密度約160mW/cm
2とアルカリ型燃料電池としては高い値を示している。