特許第5794573号(P5794573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5794573陰イオン交換樹脂、および該陰イオン交換樹脂を含む燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794573
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】陰イオン交換樹脂、および該陰イオン交換樹脂を含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20150928BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20150928BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20150928BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20150928BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150928BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20150928BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08G65/48
   C08J5/22 104
   C08J7/12 ZCEZ
   H01M4/86 B
   H01M8/02 P
   H01M8/10
   H01B1/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-553720(P2011-553720)
(86)(22)【出願日】2010年11月29日
(86)【国際出願番号】JP2010071290
(87)【国際公開番号】WO2011099213
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2013年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-28599(P2010-28599)
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 第50回電池討論会 講演要旨集(発行者:(社)電気化学会電池技術委員会、発行日:平成21年11月30日)に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政廣
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】松野 宗一
【審査官】 大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−197220(JP,A)
【文献】 特開2007−186653(JP,A)
【文献】 特開2010−047751(JP,A)
【文献】 Manabu Tanaka, Masaki Koike, Kenji Miyatake, and Masahiro Watanabe,Anion Conductive Aromatic Ionomers Containing Fluorenyl Groups,Macromolecules,2010年 2月16日,Volume 43, Issue 6,pp. 2657-2659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00 − 67/04
C08J 5/00 − 5/02
C08J 5/12 − 5/22
H01B 1/00 − 1/24
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)主鎖に、芳香族基とエーテル基とを含む繰り返し単位を含み、
B)前記繰り返し単位は、芳香族基と陰イオン交換基とが導入された側鎖を有し、
前記側鎖は、下記式(1):
【化1】
(式中、Xは陰イオン交換基であり、mとnは、それぞれ0以上の整数であり、m+n≧1であって、Xはフルオレニル構造あたり1個以上導入され、フルオレニル構造を形成するそれぞれの芳香環に複数導入されていても、どちらか一方の芳香環に導入されていてもよい。)
のフルオレニル構造を含む陰イオン交換樹脂。
【請求項2】
陰イオン交換樹脂が、陰イオン交換基を含む親水部ブロックと、疎水部ブロックとからなるブロック共重合体であり、
疎水部ブロックにおいて、繰り返し単位あたりの陰イオン交換基の個数が親水部ブロックの10分の1以下であることを特徴とする請求項1に記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項3】
前記疎水部ブロックが、主鎖に芳香族基を含んだ繰り返し単位からなる請求項2に記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項4】
前記繰り返し単位中に導入された陰イオン交換基の数が、繰り返し単位あたり0.7個以上である請求項1〜3のいずれかに記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項5】
前記陰イオン交換基が、4級アンモニウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項6】
イオン交換容量が0.7meq./g以上である請求項1〜のいずれかに記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の陰イオン交換樹脂を含む高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の陰イオン交換樹脂を含む燃料電池用触媒層。
【請求項9】
請求項に記載の高分子電解質膜、及び/又は、請求項に記載の燃料電池用触媒層を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ型燃料電池などに用いられる陰イオン交換樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール、ヒドラジン等の水素含有燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。中でも、電解質として高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池は、運転温度が比較的低いこと、小型化軽量化が容易であることから、家庭用自動車用などの用途に対して積極的な研究が行われている。
【0003】
従来より研究されている固体高分子形燃料電池の多くは、高分子電解質膜として陽イオン交換樹脂を使うものが多い。この理由として、高分子電解質膜としてパーフルオロフッ素系と呼ばれるナフィオン(登録商標)などの優れた材料の存在、使用する白金などの触媒の活性が優れることなどが挙げられる。しかしこの高分子電解質膜として陽イオン交換樹脂を使う固体高分子形燃料電池は、酸性度の高い状態で耐久性のある白金などの貴金属触媒を使う必要があり、コスト、資源などの問題により改善が求められていた。
【0004】
これに対し近年、高分子電解質膜として陰イオン交換樹脂を使うものが多く報告されている。この、高分子電解質膜として陰イオン交換樹脂を使う、いわゆるアルカリ型燃料電池は、前述の触媒として必ずしも貴金属を使う必要が無く期待される技術の一つである。しかし、陰イオン交換樹脂を高分子電解質膜として使用するためには、高いイオン伝導度、燃料遮断性、発電雰囲気での化学的耐久性、機械強度等が求められるが、これらを満足するものは無かった。特許文献1には、ポリスチレンをベースとして陰イオン交換基として4級アンモニウム塩を導入したものが、特許文献2にはポリスルホン系樹脂に陰イオン交換基として4級アンモニウム塩を導入したものが示されている。しかしながら、これらの材料は、先述の求められる特性、特にイオン伝導度が不十分であり改善が求められていた。一方で、非特許文献1には、ブロック型のポリスルホン構造を持つ陰イオン交換樹脂が示されている。しかしながら、主鎖にアルキル基を介しイオン交換基が導入された構造では、特にイオン伝導度が不十分であり改善が求められていた。
【0005】
また、従来の陰イオン交換樹脂のイオン伝導度に関しては、特許文献2および非特許文献2〜5に示されているとおり、測定条件純水中室温〜30℃で、約2〜35mS/cmである。この値はアルカリ型燃料電池の電解質膜として用いることはできるものの、アルカリ型燃料電池の性能改善のためには更なる向上が求められ、また機械強度や高次構造制御などを考慮すると本発明で示すような設計の自由度の高い構造が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−119872号公報
【特許文献2】特開2003−96219号公報
【特許文献3】特願2009−129881号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science 140(1998)195−203
【非特許文献2】Chemistry of Materials 20(2008)2566−2573
【非特許文献3】Journal of Power Sources 190(2009)285−292
【非特許文献4】Journal of Power Sources 193(2009)541−546
【非特許文献5】Journal of Membranes Science 329(2009)236−245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、例えばアルカリ型燃料電池の高分子電解質として、優れた材料を提供することを課題とする。すなわち、高いイオン伝導度と燃料遮断性を持ち、耐久性に優れる陰イオン交換樹脂を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、A)主鎖に、芳香族基とエーテル基とを含む繰り返し単位を含み、
B)前記繰り返し単位は、芳香族基と陰イオン交換基とが導入された側鎖を有することを特徴とする陰イオン交換樹脂に関する。
【0010】
陰イオン交換樹脂が、陰イオン交換基を含む親水部ブロックと、陰イオン交換基を実質含まない疎水部ブロックとからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0011】
前記疎水部ブロックが、主鎖に芳香族基を含んだ繰り返し単位からなることが好ましい。
【0012】
前記繰り返し単位中に導入された陰イオン交換基の数が、繰り返し単位あたり0.7個以上であることが好ましい。
【0013】
前記陰イオン交換基が、4級アンモニウム塩であることが好ましい。
【0014】
前記芳香族基と陰イオン交換基とが導入された側鎖が、下記式(1):
【化1】
(式中、Xは陰イオン交換基であり、mとnは、それぞれ0以上の整数であり、m+n≧1であって、Xはフルオレニル構造あたり1個以上導入され、フルオレニル構造を形成するそれぞれの芳香環に複数導入されていても、どちらか一方の芳香環に導入されていてもよい。)
のフルオレニル構造を含むことが好ましい。
【0015】
イオン交換容量が0.7meq./g以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする高分子電解質膜、前記陰イオン交換樹脂を含むことを特徴とする、燃料電池用触媒層に関し、さらに、本発明は、前記高分子電解質膜、及び/又は、前記燃料電池用触媒層を含むことを特徴とする、燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高いイオン伝導度と燃料遮断性を持ち、耐久性に優れる陰イオン交換樹脂を提供することができる。また、この陰イオン交換樹脂を高分子電解質膜、電極形成用バインダーに用いることによって、性能の高いアルカリ型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例1で合成した陰イオン交換樹脂のNMRチャートである。
図2図2は、実施例2で合成した陰イオン交換樹脂のNMRチャートである。
図3図3は、実施例1および2で合成した陰イオン交換樹脂の引っ張り試験SS(Strain−Stress)カーブである。
図4図4は、実施例1、2、4で合成した陰イオン交換樹脂のイオン伝導度温度依存性である。
図5図5は、実施例5で合成した陰イオン交換樹脂のNMRチャートである。
図6図6は、実施例5〜8で合成した陰イオン交換樹脂のイオン伝導度と燃料透過率の関係を表したグラフである。
図7図7は、実施例5で合成した陰イオン交換樹脂膜を用いて発電試験を行った結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0020】
<1.本発明の陰イオン交換樹脂>
本発明の陰イオン交換樹脂は、
A)主鎖に、芳香族基とエーテル基とを含む繰り返し単位を含み、
B)前記繰り返し単位は、芳香族基と陰イオン交換基とが導入された側鎖を有することを特徴とする。
【0021】
陰イオン交換樹脂は、陰イオン交換基を含む親水部ブロックと、陰イオン交換基を実質含まない疎水部ブロックとからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0022】
ここで、陰イオン交換基とは、水酸化物イオン、塩化物イオンなどの陰イオンを交換する能力がある官能基である。例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、3級スルホニウム塩、4級ボロニウム塩などであり、構造を例示すれば下記式群(2)となる。
【0023】
【化2】
【0024】
(R、R、R、Rは、それぞれ独立にH、あるいはメチル基、エチル基、メチレン基、エチレン基などの炭化水素基、もしくは水酸基等の官能基を有する炭化水素基、ベンジル基等の芳香族アルキレン基であり、少なくとも1つはアルキレン基等の2価の基である。)
【0025】
このような塩が官能基として高分子に導入されることで、陰イオン交換樹脂としての性能が発現される。これらの中でも、合成の容易さと得られる陰イオン交換樹脂の特性などから、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩が好ましい。この中でも、特にイオン伝導度の点から、4級アンモニウム塩が好ましい。
【0026】
ここで、繰り返し単位中の陰イオン交換基の数は、繰り返し単位あたり平均0.7個以上が好ましく、0.9個以上がより好ましく、1.0個以上がさらに好ましい。繰り返し単位中の個数がこれより少ないと、十分なイオン伝導度が発現しないことがある。また、側鎖に導入された陰イオン交換基に加え、主鎖にも陰イオン交換基が導入されていることは、イオン伝導度発現の点から好ましい。このように、イオン交換基が高い密度で導入されている構造は、本発明の陰イオン交換樹脂において重要な特性である優れたイオン伝導度のために好ましい。
【0027】
本発明の陰イオン交換樹脂は、ブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体とは、ある繰り返し単位からなるブロックと、これとは異なる繰り返し単位からなるブロックとからなる重合体である。それぞれのブロックの長さは、繰り返し単位で3以上、好ましくは5以上必要である。これよりも繰り返し単位数が小さいと、ブロック共重合体としての効果が発現しにくくなり、本発明の効果の一つである耐久性が低くなる可能性がある。なお、繰り返し単位の上限は特に限定されないが、100個以下が好ましい。100を超えると、溶解性が悪くなり、ブロック同士を重合するブロック化反応が進行しない可能性がある。本発明の陰イオン交換樹脂は、陰イオン交換基が導入された繰り返し単位と、陰イオン交換基が導入されていない繰り返し単位とが無秩序に構成されるランダム共重合体のほか、それぞれの繰り返し単位からなるオリゴマーから構成されるブロック共重合体、グラフト共重合体などの構成をとりうる。
【0028】
本発明の陰イオン交換樹脂は、少なくとも2種類以上のブロックからなり、そのうちの少なくとも1種類が陰イオン交換基を含む、つまり親水部ブロックであることが好ましいが、親水部ブロックを構成する繰り返し単位辺りの陰イオン交換基の個数は、0.7個以上が好ましく、0.9個以上がより好ましく、1.0個以上がさらに好ましい。親水部ブロックを構成する繰り返し単位辺りの陰イオン交換基の数がこれより少ないと、高いイオン伝導度が発現しない可能性がある。また、陰イオン交換基を実質含まない疎水部ブロックとは、基本的には陰イオン交換基が存在しない設計であり、存在していても繰り返し単位辺りの陰イオン交換基の個数が親水部ブロックの10分の1以下、好ましくは20分の1以下ということである。なお、親水部ブロックを構成する繰り返し単位辺りの陰イオン交換基の個数の上限は特に限定されないが、4個以下が好ましい。4個を超えると、膜が水溶性になったり、脆くなる可能性がある。
【0029】
また、本発明の陰イオン交換樹脂は、繰り返し単位が、芳香族基と陰イオン交換基とが導入された側鎖を持つことで、本発明の目的の一つである、高いイオン伝導度が得られる。このような構造の好適な例として、陰イオン交換基が導入されたフェニル基、フルオレニル基などが挙げられる。これらはそれぞれ下記一般式(3)および(1)で示されるものであり、高いイオン伝導度に加え、合成が容易であり好ましい。なかでも陰イオン交換基が導入されたフルオレニル基は、化学的耐久性も優れ、さらに好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
(式中Xは陰イオン交換基を示す。Xは複数導入されていてもよい。)
【0032】
【化4】
【0033】
(式中、Xは陰イオン交換基であり、mとnは、それぞれ0以上の整数であり、m+n≧1であって、Xはフルオレニル構造あたり1個以上導入され、フルオレニル構造を形成するそれぞれの芳香環に複数導入されていても、どちらか一方の芳香環に導入されていてもよい。)
【0034】
また、本発明の陰イオン交換樹脂は、主鎖に芳香族基とエーテル基とを含んだ繰り返し単位を有しており、このような構造を有することで、化学的耐久性が向上する。このような主鎖を有する構造とは、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして広く知られるものであり、ポリエーテル、ポリエーテルスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホンケトン、ポリエーテルイミド、ポリエステルなどが挙げられる。これらは、主鎖中にフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基などの芳香族基を持つことから高い耐熱性や化学的耐久性を持ち、また、エーテル基を持つことから熱可塑性や溶媒溶解性などの良好な加工性を併せ持つ。このような主鎖の中でも、合成の容易さやイオン交換基の導入のしやすさから、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンスルホンが好ましい。
【0035】
このような主鎖を構成する繰り返し単位の具体的な例としては、下記一般式群:
【化5】
(式中、Arは2価の芳香族を含む基を示し、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ジフェニルフルオレン基またはその誘導体や、下記式:
【化6】
などが例示される。繰り返し単位中複数あるArはそれぞれが同一でも異なっていても良く、またそれぞれの繰り返し単位中のArはそれぞれが同一でも異なっていても良い。)
に示す構造が例示される。
【0036】
上記主鎖を構成する繰り返し単位の中でも、合成の容易さやイオン交換基の導入のしやすさから、下記一般式群:
【化7】
(式中、Arは上記と同じ。)
に示す構造が好ましい。また、Arは例示の中でもモノマーの入手のしやすさなどからフェニレン基、ジフェニルフルオレン基が好ましい。
【0037】
本発明の陰イオン交換樹脂がブロック共重合体であって、親水部ブロックまたは疎水部ブロックが、主鎖に芳香族基を含んだ繰り返し単位からなる場合、芳香族基を含んだ繰り返し単位は、各ブロック中に50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明の陰イオン交換樹脂は従来公知の方法で作製することができるが、高分子の重合方法については、重縮合反応が簡便であり好適に適応しうる。重縮合反応については、従来公知の一般的な方法(「新高分子実験学3 高分子の合成法・反応(2)縮合系高分子の合成」p.7−57、p.399−401、(1996)共立出版株式会社)、(J.Am.Chem.Soc.,129,,3879−3887(2007))、(Eur.Polym.J.,44,4054−4062(2008))に示されるように、例えばジハロゲン化化合物とジオール化合物を塩基性化合物の存在下で反応させる方法がある。
【0039】
この例の重縮合反応は、極性非プロトン溶媒中で行われる。好ましい極性非プロトン性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ピリジン、N−メチルピロリドン、N−シクロヘキシルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドである。N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドが特に好ましい。2種類またはそれ以上の極性非プロトン溶媒を、混合物として使用してもよい。
【0040】
非極性、脂肪族、脂環式または好ましくは芳香族溶媒、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼン、などと極性非プロトン性溶媒の混合物も使用できる。この場合、極性非プロトン性溶媒の体積比は、50%以上が好ましい。
【0041】
重縮合反応は、塩基性化合物を添加してもよい。好ましい塩基性化合物は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物;リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸塩である。特に、炭酸カリウムが好ましい。
【0042】
塩基性化合物の量は、反応されるジヒドロキシ芳香族化合物の量に依存する。炭酸塩化合物の場合、反応混合物中に存在する水酸基の量と同量以上が好ましく、より好ましくは1.2倍過剰以上の化合物が使用される。反応温度は50〜300℃であり、特に、100〜200℃が反応性と簡便な反応設備を用いることができ好ましい。
【0043】
本発明の陰イオン交換樹脂が、ブロック構造を持つ場合、ブロック構造の作製方法は一般的なブロック構造の作製方法が適応できる。すなわち、予め数種類のオリゴマーを重合しておき、これらを連結する方法、1種類のオリゴマーを重合しておき、これとオリゴマーよりも過剰のモル比のモノマーとを重合する方法などである。
【0044】
本発明の陰イオン交換樹脂の分子量は、数平均分子量で10,000〜300,000の範囲が好ましく、30,000〜150,000の範囲が合成の容易さと溶媒への溶解度のバランスからさらに好ましい。機械強度や水分に対する膨潤の抑制のために、架橋の導入などの化学的変性も本発明の範疇である。架橋の方法については、従来の技術が適応しうるが、例えばアルキル基による主鎖を構成する芳香族基同士の架橋、4級アンモニウム塩を介した架橋などが例示できる。
【0045】
陰イオン交換基の導入については、従来公知の方法が用いられる。代表的な例としては、陰イオン交換基を持たない高分子に陰イオン交換基を導入する方法、陰イオン交換基あるいはその前駆体が導入されたモノマーを重合し、陰イオン交換基が導入された高分子、つまり陰イオン交換樹脂を得る方法がある。取得の容易さから、陰イオン交換基を持たない高分子を予め合成しておき、これに陰イオン交換基を導入する方法が好ましい。このような方法の一例として、クロロメチル化と4級アンモニウム化、塩基処理の方法について詳細に説明する。
【0046】
クロロメチル化反応は、一般に非芳香族ハロゲン系溶媒中、クロロメチル化剤を用いて行われる。この際使用される非芳香族ハロゲン系溶媒として、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどが挙げられる。中でも溶解性および適当な沸点を有することから1,1,2,2−テトラクロロエタンが最も好ましい。クロロメチル化剤としては、クロロメチルメチルエーテル、メトキシアセチルクロリド、クロロメチルクロロスルファートなどが挙げられ、中でも取得の容易さ、反応制御のしやすさからクロロメチルメチルエーテルが好ましい。クロロメチル化反応においては、触媒としてルイス酸を添加することが望ましい。ルイス酸として塩化スズ、塩化アルミニウム、塩化亜鉛などが適しているが、なかでも反応進行が温和で架橋反応等の副反応が少ない塩化亜鉛が最も好ましい。触媒当量としては高分子繰り返し単位に対し0.1〜10当量、好ましくは0.5〜2当量である。また、助触媒として塩化チオニル、四塩化シリコン、四塩化チタン、五酸化二リンなどを用いてもよい。目的とするクロロメチル基導入量の達成と架橋反応等の副反応の抑制は反応条件を厳密に制御することで可能である。反応条件として、高分子溶液濃度、クロロメチルメチルエーテル当量、反応温度、反応時間等が重要である。高分子溶液濃度は粘度および反応性を考慮して、0.01〜0.5繰り返し単位モル/L、好ましくは0.02〜0.1繰り返し単位モル/Lである。クロロメチルメチルエーテルは高分子繰り返し単位に対し過剰量である1〜100当量、好ましくは25〜50当量である。反応温度は反応の進行性と副反応の抑制を考慮して20〜60℃が適しており、好ましくは35〜40℃である。反応時間は、高分子構造により反応性が異なるため一概に規定できないが、概ね24〜168時間である。目的とする導入量を設定し、反応の進行を核磁気共鳴装置(以下NMRと略すことがある)などにより反応の進行状態をモニタリングすれば、最適な反応時間を見出すことが可能である。なお、反応に用いた試薬、溶媒等は、反応終了後の沈澱精製、ろ過、減圧乾燥等により容易に除去可能である。精製後、得られた高分子は1,1,2,2−テトラクロロエタン等の溶媒に再溶解させ、平坦なガラス板上にキャスト製膜、あるいはその他の手法で製膜することで、透明または半透明で強靭な前駆膜を得ることができる。
【0047】
4級アンモニウム化反応は、キャスト製膜により得られた前駆膜をアミン類、特に3級アミン類の溶液に浸漬させることで行うことも可能である。3級アミン類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノー2,3−プロパノール、メチルジエタノールアミン、ピリジンなどが挙げられ、なかでも塩基性度の高く4級化反応が定量的に早く進行するトリメチルアミンが最も好ましい。アミン類の溶媒としては、純水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどが挙げられ、その濃度は20〜40wt%程度が好ましい。クロロメチル化高分子膜の4級アンモニウム化の反応時間は長時間が必要であり、室温では定量的な4級化が確認されている48時間以上が好ましい。
【0048】
上記方法の4級アンモニウム化反応により得られた高分子膜は、対イオンとして塩化物イオンを有しており、より高いアニオン導電率を達成するため、イオン移動度がより高い水酸化物イオンへの交換が望ましい。水酸化物イオンへの対イオン交換は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの塩基性水溶液中で容易に行われる。塩化物イオンを対イオンとして有する4級アンモニウム膜を、1mol/L程度の塩基溶液中に室温48時間以上浸漬させることで、定量的に対イオンを水酸化物イオンに交換することが可能である。
【0049】
なお、対イオンとして、上記例示では塩化物イオン、水酸化物イオンを示したが、イオン交換樹脂の特性上この対イオンはさまざまな種類をとりうる。たとえば空気中に長時間放置すれば、炭酸イオンと塩を形成し、アルカリ雰囲気にすれば水酸化物イオンとの塩となる。このように、対イオンは雰囲気によって変化しうるが、陰イオン交換樹脂としては実質的には同じものである。なお、アルカリ型燃料電池としての使用の際には対イオンは水酸化物イオンが好ましい。
【0050】
本発明の陰イオン交換樹脂は、上記繰り返し単位と、そのほかの繰り返し単位からなるランダム共重合体でも良いし、上記繰り返し単位からなるオリゴマーと、そのほかの繰り返し単位からなるオリゴマーとからなるブロック共重合体でも良い。
【0051】
また、本発明の陰イオン交換樹脂のイオン交換容量(以下IECと略すことがある)は、0.7〜3.5[meq./g]の範囲が陰イオン交換樹脂としての性能を持ち好ましく、0.8〜3.0[meq./g]の範囲、さらには1.0〜3.0[meq/g]の範囲が機械的強度とのバランスに優れさらに好ましい。アルカリ型燃料電池用電解質膜として用いる際は、機械的強度が発電性能の点から重要であり、この場合は0.8〜2.5[meq./g]の範囲、さらには1.0〜2.0[meq/g]の範囲が特に好ましいと言える。
【0052】
<2.本発明の高分子電解質膜>
本発明の高分子電解質膜は、本発明の陰イオン交換樹脂を含んでなるものである。すなわち、本発明の高分子電解質膜は本発明の陰イオン交換樹脂を適正な方法で製膜したものである。この製膜方法は特に限定せず、陰イオン交換樹脂溶液を平板上にキャストするキャスト法、ダイコータ、コンマコータ等により平板上に溶液を塗布する方法、溶融した陰イオン交換樹脂を延伸等する方法などの一般的な方法が採用できる。さらに、電解質膜を得た後に、分子配向などを制御するため二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理を施しても構わない。さらに、フィルムの機械強度を上げるために各種フィラーを添加したり、ガラス織布や不織布、多孔質体などの補強材とプレスにより複合化させることも本発明の範囲である。不織布や多孔質体に本発明の陰イオン交換樹脂を含浸させ膜状に成型することもできる。また、製膜時に適当な化学的処理を施してもよい。例えば、膜の強度を上げるための架橋、イオン伝導度を挙げるためのイオン性化合物の添加、微量の多価金属イオンの添加などである。いずれにしても、本発明にかかる陰イオン交換樹脂を用いて、従来公知の技術と組み合わせて製造する高分子電解質膜は、本発明の範疇である。また、本発明の高分子電解質膜において、通常用いられる各種添加剤、例えば相溶性向上のための相溶化剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成型加工における取り扱いを向上するための帯電防止剤や滑剤などは、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることが可能である。
【0053】
本発明の高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、高分子電解質膜のイオン抵抗を低減することを考慮した場合、膜の厚みは薄い程よい。一方、高分子電解質膜の燃料遮断性やハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性などを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下、さらには5μm以上200μm以下が好ましい。上記高分子電解質膜の厚さがこの範囲内であれば、製造が容易となり、かつ加工時や乾燥時にもシワが発生しにくい。また、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。
【0054】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜のIECは、陰イオン交換樹脂のIECにより調整すればよい。高分子電解質膜として、たとえば電解質以外の材料を含む場合は、それによって膜としてのIECは低下するので、例えば電解質のIECは高めに設定するなど、適宜調整しうる。なお、膜としての好ましいイオン交換容量は、0.8〜3.5[meq./g]であり、さらに好ましくは0.8〜2.0[meq./g]である。これら下限よりイオン交換容量が小さいと、好ましいイオン伝導度が発現しなくなる可能性があり、これら上限より大きいと、機械強度が低下し、十分な強度を持てない可能性がある。この高分子電解質膜は、本発明の高分子電解質を単独で用いるほか、その他の高分子電解質等、高分子非電解質と混合して用いてもよい。
【0055】
<3.燃料電池用触媒層>
本発明の燃料電池用触媒層は、本発明の陰イオン交換樹脂を、電極形成用バインダーとして含んでなる燃料電池用触媒層である。燃料電池用触媒層は、一般に金属を含む触媒、導電性の触媒担持体、そして電極形成用バインダーである陰イオン交換樹脂、その他添加物からなる。本発明の燃料電池用触媒層は、その他材料や製法は従来公知のものが使用できる。これらについては、後述の本発明のアルカリ型燃料電池において挙げた例示を参考にできる。
【0056】
<4.アルカリ型燃料電池>
本発明のアルカリ型燃料電池は、本発明の陰イオン交換樹脂を含んでなる燃料電池である。このとき、高分子電解質膜として、または電極形成用バインダーとして、またはこの両方として含んでいても良い。アルカリ型燃料電池とは、陰イオン交換樹脂などの陰イオン交換体により隔てられた燃料極と酸化剤極とから構成される燃料電池の一種であり、特徴は陰イオン交換体中を水酸化物イオンが移動し、外部回路の通電、すなわち発電状態を作り出すものである。ここで酸化剤は酸素や空気が用いられ、燃料としては水素の他、アルコールやヒドラジンなどの水素含有物質が用いられる。
【0057】
本発明のアルカリ型燃料電池は、従来公知のものである。具体的な実施の方法としては、特開平11−135137号公報、特開2009−9769号公報、特開2009−26665号公報、特開2006−244961号公報等で公知になっているアルカリ型燃料電池の高分子電解質膜、または電極形成用バインダーとして使用可能である。これらの公知文献に基づけば、当業者であれば、本発明の陰イオン交換樹脂を用いて容易にアルカリ型燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0059】
実施例1
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
再結晶精製したフルオロフェニルスルホン(2.54g、東京化成工業(株)製)、ジフルオロベンゾフェノン(2.18g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(7.00g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(120ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.80g、関東化学(株)製)とトルエン(12ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を7.4g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は6万程度、重量平均分子量は22万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、目的構造が得られていることをNMR測定により確認した。
【0060】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(2.96ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、35℃で168時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり1.80個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテル膜を得た。
【0061】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた高分子電解質膜の厚みは、約50μmであり、IECは2.54meq/gと算出された。
【0062】
得られた実施例1の構造を下記式(4)に、NMRチャートを図1に示す。
【0063】
【化8】
【0064】
(式中、繰り返し単位横の添え字50は繰り返し単位の比率を示す。式中、繰り返し単位の陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は1.80個である。)
【0065】
実施例2
ポリ(アリーレンエーテルデカフルオロビフェニル)は以下の通り合成した。デカフルオロビフェニル(4.00g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(7.00g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(120ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.80g、関東化学(株)製)とトルエン(12ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。反応後、実施例1と同様に精製、評価した。得られたポリマーの数平均分子量は6万程度、重量平均分子量は23万程度であった。次に、実施例1と同様の条件でクロロメチル化反応を行い、96時間の反応で繰り返し単位あたり1.17個のクロロメチル基を導入した。続いて、実施例1と同様にキャスト製膜、4級アンモニウム化反応、塩基処理を行い、目的とする4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。得られた膜の厚みは、約55μmであり、IECは1.56meq/gとなった。
【0066】
得られた実施例2の構造を下記式(5)に、NMRチャートを図2に示す。
【0067】
【化9】
【0068】
(式中、繰り返し単位横の添え字nは繰り返し単位の数を示す。式中、陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は1.17個である。)
【0069】
実施例3
IECの異なる4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得るため、異なる条件でポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)のクロロメチル化反応を実施した。ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(1.85ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、40℃で72時間反応させた。結果、クロロメチル基導入量は繰り返し単位あたり1.35個と算出された。得られたクロロメチル化ポリエーテルを実施例1と同様に4級アンモニウムへと誘導し、塩基処理を経て、高分子電解質膜の厚みが約50μmであり、IEC2.08meq/gの4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。
【0070】
実施例4
IECの異なる4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得るその他の方法として、反応時間で制御した。実施例1と同一条件で反応時間のみ120時間としてポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)のクロロメチル化を行った。結果、クロロメチル基導入量は繰り返し単位あたり1.24個と算出された。得られたクロロメチル化ポリエーテルを実施例1と同様に4級アンモニウムへと誘導し、塩基処理を経て、高分子電解質膜の厚みが約70μmであり、IEC1.88meq/gの4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。
【0071】
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜について、特性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0072】
(イオン交換容量の測定)
4級アンモニウム化ポリエーテル膜のイオン交換容量は以下の2種類の滴定により算出した。対イオンとして水酸化物イオンを有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、50mg程度に切り出して秤量し、飽和食塩水に室温で一晩浸漬させることで塩交換した。続いて、純水を用いて希釈した後、0.01Mの塩酸を用いて滴定を行った。自動滴定装置(KEM社製AT510)を用いて中和点を判断し、中和に要した塩酸量よりイオン交換容量を算出した。また、塩化物イオンを対イオンとして有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、硝酸ナトリウムにより塩交換をした。続いて、クロム酸カリウムを指示薬としてビュレットを用いて硝酸銀水溶液を滴下し、その赤褐色の沈澱が生じた点を中和点として、中和に要した硝酸銀水溶液量よりイオン交換容量を算出した。
【0073】
(繰り返し単位あたりの陰イオン交換基導入個数の算出)
クロロメチル化反応により得られたポリマーのH−NMR測定を行い、積分値の比よりクロロメチル基あるいはアンモニウム基の導入個数を算出した。具体的には、ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の反応前後で変化しないシグナルピーク(スルホンおよびケトンのオルト位プロトン、フルオレンの4、5位)とクロロメチル基中のメチレンピーク、あるいはアンモニウム基に隣接したメチルとメチレンの積分比より導入個数を算出した。
【0074】
(イオン伝導度の測定)
塩基処理した4級アンモニウム化ポリエーテル膜を1cm×3cm角に切りだし、4本の金線を有するPEEK製4端子ホルダー上にセット(中央電極間距離1cm)、4端子を有さない別のホルダーと挟み込み、ホルダーごと温度を任意に調整した純水中に浸漬させた。純水温度を目的温度になるように調整し、静置後、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製Solartron1255B)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。一定電圧下、周波数1−100000Hzの範囲で走引し、得られたナイキストプロットと膜の物理定数からイオン伝導度を算出した。図4に、実施例1、2、4で合成した陰イオン交換樹脂のイオン伝導度温度依存性を示す。
【0075】
(破断強度の測定)
恒温恒湿槽内に設置した引張り試験機((株)島津製作所製AGS−J500N)により測定した。このときサンプル形状はダンベル型(DIN−53504−S3)とし、引張り速度は10mm/minとした。また恒温恒湿層は80℃、60%RHに設定し、サンプルは約2時間保持した。図3に、実施例1および2で合成した陰イオン交換樹脂の引っ張り試験SS(Strain−Stress)カーブを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に、実施例1〜4の特性を示す。本発明の陰イオン交換樹脂は、公知技術の陰イオン交換樹脂に対し優れたイオン伝導度を持つことがわかる。また、破断強度に関しても、陽イオン交換樹脂として一般に用いられるナフィオン(登録商標)の19.0MPaに対し高い値を持つことがわかる。
【0078】
以上から、本発明の陰イオン交換樹脂は、優れたイオン伝導度と機械強度を兼ね備え、アルカリ型燃料電池の材料として優れていることが分かった。
【0079】
実施例5
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)は、親水性オリゴマーと疎水性オリゴマーのマルチブロック共重合により得た。まず、下記の手順で親水性オリゴマーを合成した。ジフルオロベンゾフェノン(3.00g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(4.65g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(40ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(4.59g、関東化学(株)製)とトルエン(10ml、関東化学(株)製)を加え、140℃で2時間、165℃で2時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることで親水性オリゴ(アリーレンエーテルスルホン)を6.9g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は5300、重量平均分子量は13100であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より親水成分の鎖長yが目的の8程度であることを確認した。
【0080】
次に、下記の手順で疎水性オリゴマーを合成した。ジフルオロベンゾフェノン(2.00g、東京化成工業(株)製)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(1.50g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ジメチルアセトアミド(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(2.42g、関東化学(株)製)とトルエン(7ml、関東化学(株)製)を加え、150℃で1.5時間、170℃で1.5時間反応させた。
【0081】
続いて、上記であらかじめ合成した親水性オリゴマー(4.26g)を加え、さらに170℃で2時間反応させた。反応終了後、希塩酸中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水、メタノール/塩酸およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでマルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を5.8g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は9万程度、重量平均分子量は18万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xが8程度、親水部鎖長yが8程度として得られていることを確認した。
【0082】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、45℃で144時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり2.78個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約60μmであった。
【0083】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ブロックポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.93meq./gと算出された。得られた実施例5の陰イオン交換樹脂の構造を下記式(6)に、NMRチャートを図5に示す。
【0084】
【化10】
【0085】
(式中、x、yはそれぞれ繰り返し単位の数で、本実施例ではそれぞれ約8、8である。式中、親水部ブロックの繰り返し単位の陰イオン交換基である4級アンモニウム塩を含んだ基は、表現上4個示されているが、実際は平均2.78個である。)
【0086】
実施例6
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
実施例5と同様の親水性オリゴマーおよび疎水性オリゴマーの合成、マルチブロック共重合反応を用いた。なお、得られたポリマーの数平均分子量は5万程度、重量平均分子量は10万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xが16程度、親水部鎖長yが11程度として得られていることを確認した。
【0087】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、35℃で96時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.0g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり1.78個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約60μmであった。
【0088】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
実施例5と同様の4級アンモニウム化反応、塩基処理を行った。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.32meq./gと算出された。得られた実施例6の陰イオン交換樹脂の構造は式(6)と同様である。
【0089】
実施例7
<ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
実施例1と同様の親水性オリゴマーおよび疎水性オリゴマーの合成、マルチブロック共重合反応を用いた。なお、得られたポリマーの数平均分子量は9万程度、重量平均分子量は18万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、NMR測定より目的の構造、すなわち疎水部鎖長xおよび親水部鎖長yがそれぞれ8程度として得られていることを確認した。
【0090】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
マルチブロック型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(18.6ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(6.19ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.116g、関東化学(株)製)を加え、35℃で125時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.1g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり0.92個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ブロックポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約80μmであった。
【0091】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
実施例1と同様の4級アンモニウム化反応、塩基処理を行った。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは0.89meq./gと算出された。得られた実施例7の陰イオン交換樹脂の構造は式(6)と同様で、ただし繰り返し単位の数x、yはそれぞれ7.6、8.5であった。
【0092】
実施例8
<ランダム型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)の合成>
再結晶精製したフルオロフェニルスルホン(1.40g、東京化成工業(株)製)、ジフルオロベンゾフェノン(1.20g、東京化成工業(株)製)、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(3.85g、東京化成工業(株)製)を脱水処理したN,N−ヂメチルアセトアミド(60ml、関東化学(株)製)に溶解させ、炭酸カリウム(3.79g、関東化学(株)製)とトルエン(6ml、関東化学(株)製)を加え、145℃で3時間、160℃で1時間反応させた。続いて、純水中に沈澱精製し、析出物をろ過、回収し、純水およびメタノール中で繰り返し洗浄、ジクロロメタン/アセトン混合溶媒中で精製を行った後、12時間加熱真空乾燥させることでポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)を4.8g程度得た。得られたポリマーの数平均分子量は4万程度、重量平均分子量は8万程度であった(ゲルパーミエーショオンクロマトグラフィーにて測定)。また、目的構造が得られていることをNMR測定により確認した。
【0093】
<クロロメチル化反応、キャスト製膜>
ランダム型ポリ(アリーレンエーテルスルホンケトン)1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン(20ml、関東化学(株)製)に溶解させ、クロロメチルメチルエーテル(2.78ml、関東化学(株)製)、THF(1ml)に溶解させた塩化亜鉛(0.125g、関東化学(株)製)を加え、35℃で78時間反応させた。反応終了後、メタノールに沈澱精製し、メタノール中で繰り返し洗浄後、析出物をろ過、回収し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテルを1.0g程度得た。クロロメチル基導入量は、NMR測定のプロトン積分比から算出し、この反応における導入量は、繰り返し単位当たり0.92個であった。続いて、得られたクロロメチル化ポリエーテル1gを1,1,2,2−テトラクロロエタン16mlに溶解させ、平坦なガラス板上にキャストし、常圧下60℃で溶媒を乾燥させた。得られた透明かつ強靭な膜を純水、メタノール中で洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることでクロロメチル化ポリエーテル膜を得た。得られた高分子電解質膜の厚みは、約70μmであった。
【0094】
<4級アンモニウム化反応、塩基処理>
クロロメチル化ポリエーテル膜を30wt%トリメチルアミン水溶液(100ml、関東化学(株)製)に室温48時間浸漬させ、4級アンモニウム化反応を行った。反応終了後、純水で繰り返し洗浄し、続いて1mol/L水酸化ナトリウム水溶液中に室温48時間浸漬させ、対イオンを塩化物イオンから水酸化物イオンへと交換した。塩基処理後、純水で繰り返し洗浄し、12時間加熱真空乾燥させることで4級アンモニウム化ポリエーテル膜を得た。4級アンモニウム化反応および塩基処理は定量的に進行し、得られた膜のIECは1.46meq./gと算出された。
【0095】
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜について、特性を評価した。方法は以下のとおりである。
【0096】
(イオン交換容量の測定)
上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜のイオン交換容量は以下の2種類の滴定により算出した。対イオンとして水酸化物イオンを有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、50mg程度に切り出して秤量し、飽和食塩水に室温で一晩浸漬させることで塩交換した。続いて、純水を用いて希釈した後、0.01Mの塩酸を用いて滴定を行った。自動滴定装置(KEM社製AT510)を用いて中和点を判断し、中和に要した塩酸量よりイオン交換容量を算出した。また、塩化物イオンを対イオンとして有する4級アンモニウム化ポリエーテル膜は、硝酸ナトリウムにより塩交換をした。続いて、クロム酸カリウムを指示薬としてビュレットを用いて硝酸銀水溶液滴下し、その赤褐色の沈澱が生じた点を中和点として、中和に要した硝酸銀水溶液量よりイオン交換容量を算出した。
【0097】
(繰り返し単位辺りの陰イオン交換基導入個数の算出)
クロロメチル化反応により得られたポリマーのH−NMR測定を行い、積分値の比よりクロロメチル基あるいはアンモニウム基の導入個数を算出した。具体的には、クロロメチル化反応前後で変化しない7.8ppm付近の親水部ビフェニルスルホン骨格中のプロトン積分値と、4.6ppm付近のクロロメチル基のメチレンプロトン積分値の比から、クロロメチル基の導入個数を算出した。同様に、4級アンモニウム化反応後のポリマーにおいても、8.2−7.4ppm付近のプロトン積分値とアンモニウム基中のメチレン(5.9ppm付近)および末端メチル(3.0ppm付近)のプロトン積分比から、アンモニウム基の導入個数を算出した。
【0098】
(イオン伝導度の測定)
塩基処理した上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜を1cm×3cm角に切りだし、4本の金線を有するPEEK製4端子ホルダー上にセット(中央電極間距離1cm)、4端子を有さない別のホルダーと挟み込み、ホルダーごと温度を任意に調整した純水中に浸漬させた。純水温度を目的温度になるように調整し、静置後、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製Solartron1255B)を用いて、交流インピーダンス測定を行った。一定電圧下、周波数1−100000Hzの範囲で走引し、得られたナイキストプロットと膜の物理定数からイオン導電率を算出した。イオン導電率は高いほうが好ましい。
【0099】
(燃料透過率の測定)
アルカリ型燃料電池に用いられる燃料の一つとして、ヒドラジン水溶液が挙げられる。本測定では、燃料をヒドラジンと想定し、上記実施例の陰イオン交換樹脂からなる高分子電解質膜の燃料透過率を以下の方法で測定した。
【0100】
透過試験用H型セルに、約4cm×4cmの大きさに切り出した高分子電解質膜を挟み、止め具のねじをしっかりと締めた。セルの片側に10wt%ヒドラジン水溶液、片側に超純水を、気泡が入らないように注入した。それぞれのセル内に撹拌子を入れ、フタを取り付けた後30℃に設定した撹拌ホットプレートに載せ、撹拌を開始した。1時間おきに5時間まで超純水側の溶液をシリンジで1mLスクリュー管に採取し、超純水1mLを超純水側のセルに追加した。1時間おきに採取した溶液を超純粋にて100倍希釈し、イオンクロマトグラフィで濃度を測定した。算出した濃度の経時変化から傾き(g/h)を出し、膜厚をかけて面積で除することにより燃料透過率を得た。燃料透過率は、低いほうが燃料遮断性が高くなるために好ましい。
【0101】
(耐ヒドラジン性)
アルカリ型燃料電池の燃料の一種であるヒドラジン水溶液に対する耐久性を、以下方法で評価した。1cm×4cm程度に切り出した膜サンプル(膜厚50μm程度)を耐圧ガラス容器に入れ、10wt%ヒドラジン水溶液30mlを加えて密閉し、80℃で24時間浸漬させた。評価は、耐久試験後膜としてのフィルム形状を維持している場合は○、フィルム形状を維持しておらず回収が困難な場合は×とした。
【0102】
以上、実施例5〜8の膜の評価結果を表2に、実施例と比較例のイオン伝導度と燃料透過率の関係を図6に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から、本発明の実施例の膜は、公知技術の陰イオン交換樹脂に対し優れたイオン伝導度を持つことがわかる。また、図6より、これら膜のイオン伝導度と燃料透過率の関係より、この特性はトレードオフの関係にあることが分かる。
【0105】
一方、耐ヒドラジン性に関しては、実施例の膜が高いイオン交換容量であっても比較例の膜よりも優れていることが分かる。以上から、本発明の陰イオン交換樹脂は、高いイオン伝導度と燃料遮断性を持ち、かつ、耐久性に優れることが分かり、また、アルカリ型燃料電池の材料として優れていることが分かった。
【0106】
(本発明の陰イオン交換樹脂膜を用いたアルカリ型燃料電池の評価)
実施例5の陰イオン交換樹脂膜を用いて、Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,8024−8027を参考に発電試験を行った。触媒層の構成は前記文献table 2のsampleCとし、発電条件は前記文献のサポーティングインフォメーション、Figure S1で、セル温度を80℃として行った。結果を図7に示す。本発明の陰イオン交換樹脂膜を用いたMEAは、出力密度約160mW/cmとアルカリ型燃料電池としては高い値を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7