特許第5794589号(P5794589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5794589-色素増感太陽電池及び増感色素 図000039
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794589
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池及び増感色素
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   H01G9/20 113C
   H01G9/20 113A
   H01G9/20 113B
   H01G9/20 113D
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-530076(P2013-530076)
(86)(22)【出願日】2012年8月24日
(86)【国際出願番号】JP2012071505
(87)【国際公開番号】WO2013027838
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2014年3月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-183404(P2011-183404)
(32)【優先日】2011年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】韓 礼元
(72)【発明者】
【氏名】イスラム アシュラフル
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−278112(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/082061(WO,A1)
【文献】 Huajie Chen, Hui Huang, Xianwei Huang, John N. Clifford, Amparo Forneli, Emilio Palomares, Xiaoyan Z,High Molar Extinction Coefficient Branchlike Organic Dyes Containing Di(p-tolyl)phenylamine Donor fo,J. Phys. Chem. C,2010年,Vol.114, No.7,pp.3280-3286
【文献】 Se Woong Park, Kyung-In Son, Min Jae Ko, Kyungkon Kim, Nam-Gyu Park,Effect of donor moiety in organic sensitizer on spectral response, electrochemical and photovoltaic,Synthetic Metals,2009年,Vol.159, No.23-24,pp.2571-2577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
C09B 23/00
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)を設けた、色素増感太陽電池。
(a)導電性支持体。
(b)多孔性半導体層。
(c)前記多孔性半導体層に吸着され、分子サイズが異なるとともに、少なくとも一方は分子内に少なくとも一つのアルキル側鎖を有する二種類の増感色素であり、前記二種類の増感色素のうちの分子サイズの小さい方の増感色素は以下の式(1)によって表わされる有機色素である。
【化1】
(式中R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜18個のアルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、または脂環式アミノ基で、π−スペーサーは置換されていても良い2価のフェニレン基または芳香族複素環基を表す。)
(d)キャリア輸送層。
(e)対極。
【請求項2】
〜Rの少なくとも一つが、炭素数が〜16個であるアルキル側鎖部分を有するアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、または脂環式アミノ基である、請求項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記アルキル側鎖部分はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、ネオペンチル基、ネオヘキシル基、ネオへプチル基、ネオオクチル基、sec−ブチル基、sec−ペンチル基、sec−ヘキシル基、sec−ヘプチル基、sec−オクチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、および1,1,3,3−テトラメチルブチル基からなる群から選択される、請求項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記脂環式アミノ基はピロリジンまたはピペリジンである、請求項またはに記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記芳香族複素環基は下式(2)中の何れかの構造である、請求項からの何れかに記載の色素増感太陽電池。
【化2】
【請求項6】
前記二種類の増感色素のうちの一方はルテニウムピリジン錯体である、請求項1からの何れかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記二種類の増感色素のうちの一方はターピリジン系ルテニウム錯体である、請求項1からの何れかに記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に関するものであり、更に詳しくは、高い光電変換効率を有する色素増感太陽電池及び増感色素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化などの地球環境問題の観点から化石燃料に代わるクリーンなエネルギー源として、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換できる太陽電池が注目されている。
【0003】
太陽光を効率よく電気に変換できる太陽電池で、現在実用化されているものとしては、住宅用の単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及びテルル化カドミウムやセレン化インジウム銅等の無機系太陽電池が挙げられる。これらの無機系太陽電池の欠点としては、例えば、シリコン系では非常に純度の高いものが要求され、精製の工程は複雑でプロセス数が多く、製造コストが高いことが挙げられる。
【0004】
これに対して、新しいタイプの太陽電池として、1991年にグレッツェルらのグループにより、色素増感太陽電池が公開され、安価で高効率な太陽電池として期待されている(非特許文献1)。グレッツェルセルは、2枚のガラス等の光透過性基板上にそれぞれ形成された透明電極と対極との間に、増感色素を吸着した酸化チタンなどの多孔性半導体層とキャリア輸送層が積層されている。太陽光は光透過性基板から入射し、透明電極を通過して半導体層に達し、増感色素を励起する。発生した励起電子は半導体層を経由して透明電極に移動し、さらに、外部電気回路を経由して対極に戻り、電池内のキャリア輸送層中のイオンにより運ばれて、酸化状態にある色素に戻る。このような太陽光による色素の励起電子の発生に始まる電子移動が繰り返されることにより、太陽光エネルギーが電気エネルギーに変換される。増感色素としては、ルテニウムピリジン錯体が用いられ、ビピリジン錯体のN719、N3、ターピリジン錯体のブラックダイ等がある。N719は波長300〜730nm、ブラックダイで300〜860nmの広範囲の吸収波長領域を有するが、全般にモル吸光係数は低く、光電変換効率も9%程度にとどまっている。
【0005】
一般に色素増感太陽電池の光電変換効率を高めるためには、紫外光から赤外光までの広範囲な波長の太陽光を利用できるように増感色素が吸収する光の波長帯を広げたり、あるいは半導体表面への増感色素の吸着量を増やしてより多くの光を吸収する、等の方策を採用することがある。前者の方策の例としては、吸収ピーク波長の異なる二種類以上の増感色素、あるいは、異なる吸収波長領域で最大の対入射光量子収率を示す二種類以上の増感色素を選択し、それらを混合して半導体表面に吸着させるか、異なる色素を層状に積層させて吸着させることにより、増感色素の吸収波長帯を広げる技術が公開されている(特許文献1〜4)。後者の例としては、同系の有機色素で類似構造を有するが分子サイズが異なる二種類の色素を混合して半導体表面に吸着させるものが提案されている。このようにすると、サイズの大きい色素が吸着した隙間を埋めるように、サイズの小さい色素が吸着される。類似構造のため分子間で特異な凝集構造が形成され、半導体表面に色素が密に吸着される。別の例として、吸収ピーク波長と分子量の異なる二種類の色素を混合して半導体に吸着させると、同様に分子量の大きい色素が吸着した隙間に分子量の小さい色素が吸着される。このように色素の吸着量を増加させると、半導体表面の色素で覆われていない部分が減少し、増感色素から半導体に注入された電子が半導体表面に接触しているキャリア輸送層に流れる逆電流を低減できる効果も期待できるとされている(特許文献4、5)。しかし、上述の方策を採用した従来の色素増感太陽電池の光電変換効率は7〜9%程度であり、増感色素としてルテニウムピリジン錯体を単独で使用した場合の効率とあまり変わりがなく、混合吸着する二種類の色素のそれぞれの特性の相加効果、あるいは、相乗効果が得られていない。最近、ルテニウムピリジン錯体のブラックダイと有機色素D−131を混合吸着させた色素増感太陽電池で、優れた光電変換効率(11.0%)を示すことが報告された(非特許文献2)。しかし、ブラックダイを単独で用いた色素増感太陽電池の公認光電変換効率(11.1%)を超えることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−268892号公報
【特許文献2】特開2003−249279号公報
【特許文献3】特開2006−107885号公報
【特許文献4】特開2006−278112号公報
【特許文献5】特開2009−212035号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B. O’Regan, M. Graetzel, Nature, 353, pp. 737-740 (1991).
【非特許文献2】R. Y. Ogura, et al., Appl. Phys. Lett. 94, 073308 (2009).
【非特許文献3】C. Kim, et al., J. Org. Chem. 73, pp. 7072-7079 (2008).
【非特許文献4】C. Li, et al., ChemSusChem 1, pp. 615-618 (2008).
【非特許文献5】K. R. Justin Thomas, et al., Chem. Mater. 20, pp. 1830-1840 (2008).
【非特許文献6】D. P. Hagberg, et al., J. Am. Chem. Soc. 130, pp. 6259-6266 (2008).
【非特許文献7】S. Ito, et al., Adv. Mater. 18, pp. 1202-1205 (2006); T. Horiuchi, et al., J. Am. Chem. Soc. 126, pp. 12218-12219 (2004).
【非特許文献8】W. H. Liu, et al., Chem. Commun. pp. 5152-5154 (2008).
【非特許文献9】S. Kim, et al., Tetrahedron 63, pp. 11436-11443 (2007).
【非特許文献10】M.Gratzel, et al., Chem. Eur. J. 16, pp. 1193-1201 (2010).
【非特許文献11】Z-S. Wang, et al., Chem. Mater. 20, pp. 3993-4003 (2008).
【非特許文献12】Nam-Gyu Park, et al., Synthetic Metals. 159, pp 2571-77 (2009).
【非特許文献13】T.Dentani, et.al., New J. Chem., 33, pp. 93-101 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、二種類の色素を半導体に混合吸着させると、色素分子間で相互作用が働き、色素分子が会合して、太陽光で励起された電子が半導体の伝導帯に届く前に、別の色素に流れて、正孔と再結合したりして、励起電子が半導体に移動する経路が乱され、かえって変換効率が低下する例が多い。本発明の目的は、二種類の色素を半導体に混合吸着させた場合、それぞれの特性が活かせるような色素の組合せを選択し、光電変換効率が優れた色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、以下の(a)〜(e)を設けた、色素増感太陽電池が与えられる。
(a)導電性支持体。
(b)多孔性半導体層。
(c)前記多孔性半導体層に吸着され、分子サイズが異なるとともに、少なくとも一方は分子内に少なくとも一つのアルキル側鎖を有する二種類の増感色素であり、前記二種類の増感色素のうちの分子サイズの小さい方の増感色素は以下の式(1)によって表わされる有機色素である。
【化1】
(式中R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜18個のアルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、または脂環式アミノ基で、π−スペーサーは置換されていても良い2価のフェニレン基または芳香族複素環基を表す。)
(d)キャリア輸送層。
(e)対極。
【0013】
また、前記二種類の増感色素のうちの分子サイズの小さい方の分子量は400以下であってよい。
【0014】
ここで、上述の全ての側面において、前記二種類の増感色素の少なくとも一方は分子内に少なくとも一つのアルキル側鎖を有してよい。
【0016】
た、R〜Rの少なくとも一つが、炭素数が〜16個であるアルキル側鎖部分を有するアルコキシ基、ジアルキルアミノ基、または脂環式アミノ基であってよい。
【0017】
また、前記アルキル側鎖部分はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、ネオペンチル基、ネオヘキシル基、ネオへプチル基、ネオオクチル基、sec−ブチル基、sec−ペンチル基、sec−ヘキシル基、sec−ヘプチル基、sec−オクチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、および1,1,3,3−テトラメチルブチル基からなる群から選択されてよい。
【0018】
また、前記脂環式アミノ基はピロリジンまたはピペリジンであってよい。
【0019】
また、前記芳香族複素環基は下式中の何れかの構造である
【0020】
【化2】
また、前記二種類の増感色素のうちの一方はルテニウムピリジン錯体であってよい。
【0021】
また、前記二種類の増感色素のうちの一方はターピリジン系ルテニウム錯体であってよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、二種類の特性が異なる色素を半導体に混合吸着させることにより、広範囲の波長の太陽光を吸収できて、色素分子間の相互作用を抑制し、半導体表面に吸着する色素の密度を大きくし、更に、色素のLUMO、HOMO準位と半導体の伝導帯とのエネルギーギャプを大きくすることにより、励起電子を半導体の伝導帯に効率よく移動させ、また、伝導帯からキャリア輸送層や色素のLUMO、HOMOへ流れる逆電流が抑制される。その結果、多孔性半導体層に二種類の色素を混合吸着させた色素増感太陽電池の光電変換効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の色素増感太陽電池の構造を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者らは、色素増感太陽電池において、多孔性半導体表面に分子サイズの異なる二種類の色素を混合吸着させた場合、それぞれの特性が活かされる色素の組合せを求めて鋭意研究を行った結果、ルテニウムピリジン錯体と一定の条件を満たす有機色素の組合せが、色素増感太陽電池の優れた光電変換効率をもたらすことを見出した。
【0030】
日本板硝子社製のSnO膜付きガラスの透明導電側に、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、Ti nanoxide T/SP)をスクリーン印刷により、20μm程度の膜厚、5mm×5mm程度の面積で、透明導電膜の上に塗布して、100℃で30分間予備乾燥した後、大気雰囲気中で500℃で2時間焼成することで、多孔性半導体層として膜厚20μmの酸化チタン膜を作製した。スクリーニングする色素を濃度2×10−4Mとデオキシコール酸を濃度2×10−2Mとなるようにエタノールに溶解して、吸着用溶液を調製した。この溶液に上記ガラス板を24時間浸漬させることにより、多孔性半導体層に色素を吸着させた。上記、ガラス基板に白金膜を1μm蒸着することにより対極を作製し、色素を吸着させた多孔性半導体層とを向かい合わせ、間に短絡防止のための熱圧縮フィルムスペーサーを挟んで密着封装した。その後、両極の隙間に電解液であるヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(0.6M)、ヨウ化リチウム(0.1M)、ヨウ素(0.05M)、及び4−tert−ブチルピリジン(0.5M)のアセトニトリル溶液を注入してキャリア輸送層を形成することで、太陽電池を作製した。得られた太陽電池に、100mWcm−2の強度の光(AM1.5,ソーラーシミュレーター)を照射して、電流−電圧特性を測定した。この色素増感太陽電池で開放電圧が高い色素(例えば0.65V以上)を使用すると、半導体の伝導帯と色素のLUMO準位とHOMO準位のエネルギーギャップが大きくなるため、色素から半導体に注入された電子が色素に戻る逆電流を抑制することができる。また、分子サイズの異なる色素と混合して吸着させた色素増感太陽電池においても、同様の効果で開放電圧が増加し、光電変換効率も向上することが期待される。選ばれた色素と分子サイズの異なる色素とを多孔性半導体に混合吸着させ、光電変換特性を測定し、それぞれの色素の特性が活かされる組合せを探索した。その結果、二種類の分子サイズの異なる色素を混合吸着させた色素増感太陽電池で、光電変換特性の開放電圧に混合吸着させる色素の相加効果が表れるようにするためには、少なくとも一方の色素は分子内に少なくとも一つのアルキル側鎖を有するようにすればよいことを見出した。あるいは、分子サイズの小さい方の色素の分子量が400以下であるようにしてもよいことを見出した。更に、それぞれの色素が単独で示す開放電圧が0.6V以上であるようにしてもよく、特に0.65V以上が好ましいことも見出した。
【0031】
分子サイズの異なる二種類の増感色素の内の一方の色素(以下、増感色素Iと称する)はルテニウムピリジン錯体が好ましく、ビピリジン錯体のN3(式(3))、N719(式(4))及びターピリジン錯体のブラックダイ(式(5))がより好ましい。
【0032】
【化3】
【0033】
【化4】
【0034】
【化5】
また、分子サイズが異なる二種類の色素の内の、開放電圧0.65V以上を示す、ルテニウム錯体ではない有機色素(以下、増感色素IIと称する)として、例えば、以下に示す(式(6))の化合物(非特許文献3)、(式(7))の化合物(非特許文献4)、(式(8))の化合物(非特許文献5)、(式(9))式の化合物(非特許文献6)、(式(10))の化合物(非特許文献7)、(式(11))の化合物(非特許文献8)、(式(12))の化合物(非特許文献9)、(式(13))の化合物(非特許文献10))、(式(14))の化合物(非特許文献11)、式(15)の化合物(非特許文献13)等が挙げられる。
【0035】
【化6】
【0036】
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
【化15】
前記有機色素(増感色素II)で、分子内に少なくとも一つのアルキル側鎖を有している色素については、そのアルキル側鎖は直鎖あるいは分枝したアルキル基(例えば、上記(式(7))、(式(12))及び(式(13))の化合物)、アルコキシ基(例えば、上記(式(6))及び(式(9))の化合物)、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基として色素の母核に結合していて、また、アルキル鎖の中にエーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合があっても良い。炭素数は1〜18個で、3〜16個が好ましく、4〜8個が特に好ましい。アルキル側鎖の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、ネオペンチル基、ネオヘキシル基、ネオへプチル基、ネオオクチル基、sec−ブチル基、sec−ペンチル基、sec−ヘキシル基、sec−ヘプチル基、sec−オクチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等のアルキル基、また、前記アルキル基を有するアルコキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0045】
このようなアルキル側鎖は色素間の会合を防ぎ、また、半導体表面とキャリア輸送層の間に疎水性の層が形成され、キャリア輸送層中の電解質が侵潤しにくくなることで、半導体とキャリア輸送層の間に流れる逆電流を抑制することができる。
【0046】
また、分子サイズの小さい方の色素として、開放電圧0.65V以上であり、分子内にアルキル側鎖を有し、かつ分子量が400以下であってよい有機色素が挙げられるが、その例として、一般式(式(16))で表される有機色素がある。
【0047】
【化16】
この増感色素IIは、半導体表面に強固に吸着させるために、分子内にアンカー基としてカルボキシル基、補助基としてニトリル基を有する2−シアノアクリル酸をアクセプター部位とする、一般式(式(16))で表わされる[ドナー部位−(π−スペーサー)−アクセプター部位]型の有機色素で、式中R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜18個のアルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、脂環式アミノ基で、それぞれの官能基のアルキル側鎖部分の炭素数は4〜16個が好ましい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソへプチル基、イソオクチル基、ネオペンチル基、ネオヘキシル基、ネオへプチル基、ネオオクチル基、sec−ブチル基、sec−ペンチル基、sec−ヘキシル基、sec−ヘプチル基、sec−オクチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等のアルキル基が挙げられる。また、脂環式アミノ基の例としては、ピロリジン、ピペリジン等が挙げられる。また、官能基としては、アルコキシ基やジアルキルアミノ基が好ましい。
【0048】
π−スペーサー部分は置換されていても良い2価のフェニレン基、チオフェン、チアゾール等の芳香族複素環基を表す。その具体例を以下に示す。
【0049】
【化17】
上記、一般式(式(16))で表わされる増感色素IIは、分子量は400以下であってよく、分子サイズの大きい色素(つまり増感色素I)が半導体表面に吸着してできる隙間を埋めて吸着できるほどに分子サイズを小さくすることができる。また、色素のLUMOがカルボキシル基の近位、アクリル酸部分にあり、HOMOは末端のフェニル基部分にある。従って、励起状態での電子分布は、カルボキシル基の近位で電子密度が最高になり、励起電子が半導体に効率的に注入される。また、開放電圧が高い色素では、LUMO準位、HOMO準位と半導体の伝導帯準位とのエネルギーギャップが大きくなり、色素から半導体に注入された励起電子が色素のLUMOやHOMOに戻る逆電流を防止できる。また、分子サイズの異なる二種類の色素を半導体に吸着すると、サイズの大きい色素が吸着した隙間に小さい色素がはまり込む形で吸着されるために、半導体表面の色素で被膜されていない部分が減少し、色素から注入された励起電子が半導体表面からキャリア輸送層に流れる逆電流が抑制される。更に、分子内のカルボキシル基から離れた末端のフェニル基上に疎水性のアルキル側鎖を結合すると、半導体表面とキャリア輸送層との間にアルキル側鎖による疎水性の層が形成され、水溶性の電解質は半導体表面に侵潤しづらくなり、逆電流が抑制される。この選択した二種類の色素間で相互作用のないことが、二種類の色素を混合吸着させた半導体のUV−VISスクペクトルで、それぞれ単独で吸着させた色素の吸収ピークが観測されることから確認された。その結果、選択された二種類の色素を混合吸着した半導体電極を有する色素増感太陽電池は、それぞれの色素の相乗効果で、優れた光電変換効率を示すことができた。
【0050】
本発明の一般式(式(16))で表わされる色素の合成方法に特に制限はないが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基で置換されたベンゼンのボロン酸と5−ブロモチオフェン−2−カルボアルデヒドとを、鈴木反応によりクロスカップリングさせ、次に、Knoevenagel反応でアルデヒドとシアノ酢酸を縮合させることにより合成できる。または、前記の置換ベンゼンのブロム化体と2−チオフェンボロン酸とを、鈴木反応によりクロスカップリングさせ、次に、Vilsmeier反応でホルミル基を導入し、最後に、Knoevenagel反応でアルデヒドとシアノ酢酸を縮合させても合成できる。
【0051】
以下に、本発明の色素増感太陽電池の各構成要素について説明する。
【0052】
本発明の色素増感太陽電池は、導電性支持体上に、増感色素を吸着した多孔性半導体層、キャリア輸送層、対極が順次積層されて構成され、前記増感色素は異なる二種類の色素からなり、多孔性半導体は酸化チタンからなることを特徴とする。
【0053】
(導電性支持体について)
本発明で用いられる導電性支持体としては、金属のように支持体自体が導電性を有するものでよい。あるいは、表面に導電層を有するガラス、プラスチック等の支持体を利用することもできる。後者の場合、導電層の好ましい導電材料としては、金、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム等の金属、導電性カーボン、またはインジウム−スズ酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等があり、これらの導電材料を用いて導電層を支持体上に通常の方法で形成することができる。これらの導電層の膜厚は0.02〜5μm程度が好ましい。導電性支持体としては表面抵抗が低い程良く、表面抵抗は40Ω/sq以下であることが好ましい。導電性支持体を受光面とする場合、透明であることが好ましい。また、導電性支持体の膜厚は、光電変換層に適当な強度を付与することができるものであれば特に限定されない。これらの点および機械的な強度を考慮すると、酸化スズにフッ素をドープしたものからなる導電層をソーダ石灰フロートガラスからなる透明性基板上に積層したものを代表的な支持体として使用できる。
【0054】
また、コストや柔軟性等を考慮する場合には、透明ポリマーシート上に上記導電層を設けたものを用いても良い。透明ポリマーシートとしては、テトラアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、フェノキシ樹脂等がある。また、透明性基板の抵抗を下げるために金属リード線を加えても良い。金属リード線の材質としては、白金、銅、アルミニウム、インジウム、ニッケル等が好ましい。金属リード線は透明基板にスパッタ、蒸着等で設置し、その上に酸化スズ、ITO等の透明導電膜を設けても良い。
【0055】
(半導体層)
多孔性半導体層は半導体微粒子の集合体からなり、半導体微粒子としては、一般に光電変換材料に使用されるものであればどのようなものでも使用できる。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ニッケル、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化亜鉛、リン化インジウム、銅−インジウム硫化物等の単独又は組み合わせが挙げられる。その中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ニオブが好ましく、安定性及び安全性の点から、酸化チタンが特に好ましい。
【0056】
後述する本発明の実施例では、半導体微粒子の材料として、酸化チタンを使用した。結晶酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型の二種類の結晶形があり、その製法や熱履歴により何れの形も取り得るが、これらの混合体が一般的である。半導体微粒子の材料としては、光触媒活性の点からアナターゼ型の方が好ましく、混合体でもアナターゼ型の含有率が90%以上のものが好ましい。アナターゼ型酸化チタンは市販の粉末、ゾル、スラリーでもよいし、あるいは、各種文献に記載されている公知の方法によって所定の粒径のものを作製しても良い。半導体微粒子の粒径に特に制限はないが、微粉末(平均粒径が1nm〜1μm)が好ましい。また、二種類以上の粒径の異なる粒子を混合して用いても良い。この場合、平均粒径の比率は10倍以上の差がある方が良い。粒径の大きい粒子(好ましくは100〜500nm)は、入射光を散乱させ、量子収率を上げる効果がある。また、粒径の小さい粒子(好ましくは5〜50nm)は、吸着点をより多くし色素吸着を良くする効果がある。
【0057】
多孔性半導体層の形成方法としては、特に限定されず、公知の方法を利用して良い。例えば、透明導電膜上に半導体微粒子を含有する縣濁液を塗布し、乾燥および焼成する方法が挙げられる。半導体微粒子を縣濁する溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、イソプロピルアルコール、イソプロピルアルコール−トルエン混合溶媒、水等が挙げられる。また、縣濁液の代わりに、市販の酸化チタンペーストを用いても良い。基板への塗布は、公知のディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷など様々な方法により行うことができる。乾燥および焼成の温度、時間、雰囲気等は、基板と半導体微粒子の種類に応じて、それぞれ調整できる。通常は、大気圧下、40〜700℃で、10分〜10時間程度で行われる。また、塗布、乾燥、焼成の工程を2回以上繰り返しても良い。
【0058】
多孔性半導体層は多くの色素を吸着できるように、表面積が大きく、半導体層の厚みも大きい方が、坦持色素量が増えて好ましい。しかしこの表面積が大きくなると、注入した電子の拡散距離が増すため、電荷再結合によるロスも大きくなる。従って、表面積は、10〜200m/g程度で、厚さは0.1〜100μm程度が好ましい。
【0059】
(増感色素の吸着法)
増感色素を多孔性半導体に吸着させる方法としては、増感色素を溶解した溶液中に半導体電極を浸漬させる方法が一般的である。色素溶液の溶媒としては、アルコール、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤が挙げられ、溶解性を上げるために、二種類以上の溶剤を混合しても良い。溶媒中の色素濃度は、増感色素や溶媒の種類に応じて適宣調整するが、0.01〜10mM程度が好ましい。また、必要に応じて、色素分子の会合を低減するためにデオキシコール酸などを添加しても良い。浸漬時間は使用する増感色素、溶媒の種類、溶液の濃度等に応じて適宣調整するが、2〜50時間が好ましく、浸漬の際の温度としては10〜50℃が好ましい。浸漬は、一回でも良いし、複数回行っても良い。また、色素の吸着量が多い場合、半導体に直接結合していない色素は太陽電池のキャリア輸送層に遊離してきて光電変換効率の低下の原因になるので、色素溶液に浸漬した後、有機溶剤で洗浄して、未吸着の色素を除去するのが好ましい。洗浄剤としては、比較的揮発性の高いメタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。また、洗浄により余分な色素を除去した後、色素の吸着状態をより安定にするために半導体の表面を有機塩基性化合物で処理して、未吸着色素の除去を促進しても良い。有機塩基性化合物としては、ピリジン、キノリンなどの誘導体が挙げられる。これらの化合物が液体の場合にはそのまま用いても良いが、固体の場合には色素溶液と同じ溶剤に溶解して用いても良い。
【0060】
本発明においては、多孔性半導体に二種類の色素を混合吸着させるが、吸着方法としては、二種類の色素を同一の溶媒に溶解させた色素溶液を調製し、半導体電極を浸漬させる方法、一種類の色素を溶解した色素溶液に半導体電極を浸漬させた後に、もう一つの色素を溶解した色素溶液に浸漬する方法等がある。後者の別々に色素を吸着させる方法では、最初に分子サイズの大きい色素を吸着させて、その後、分子サイズの小さい色素を吸着させるのが好ましい。
【0061】
(キャリア輸送層)
キャリア輸送層は、電子、正孔、イオンを輸送できる導電性材料を含有する。このような導電性材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミン等の正孔輸送材料;テトラニトロフロレノン等の電子輸送材料;ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性ポリマー、液体電解質、高分子電解質等のイオン導電体;ヨウ化銅、チオシアン酸銅などの無機P型半導体が挙げられる。
【0062】
上記の導電性材料の中でも、イオンを輸送できるイオン導電体が好ましく、更には酸化還元性電解質を含む液体電解質が特に好ましい。このような酸化還元性電解質としては、一般に、電池や太陽電池等において使用することができるものであれば特に限定されない。具体的には、I/I系、Br/Br系、Fe/Fe系、キノン/ハイドロキノン系等の酸化還元種を含有させたものなどがある。例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウムなどの金属ヨウ化物とヨウ素との組合せ、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージドなどのテトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素との組合せ、並びに臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウムなどの金属臭化物と臭素との組合せが好ましく、これらの中でもヨウ化リチウムとヨウ素との組合せが特に好ましい。
【0063】
キャリア輸送層に液体電解質を使用する場合、その溶剤としては、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、アセトニトリルなどのニトリル化合物、エタノールなどのアルコール類、水や非プロトン極性物質などを使用することができるが、これらのなかでも、カーボネート化合物やニトリル化合物が特に好ましい。また、これらの溶剤は二種類以上混合して用いることもできる。また、液体電解質中の電解質濃度は0.1〜1.5Mが好ましく、特に0.1〜0.7Mが好ましい。
【0064】
また、液体電解質には、種々の添加剤が含まれていても良い。添加剤としては、従来から用いられている4−tert−ブチルピリジン等の含窒素芳香族化合物、あるいはジメチルプロピルイミダゾリウムヨージド等のイミダゾリウム塩が挙げられ、これらの添加剤を0.1〜1.5M程度の濃度で液体電解質に添加しても良い。
【0065】
(対極)
対極は色素増感半導体電極とともに一対の電極を構成し得るものであり、通常、支持基板上に導電層、触媒層が半導体電極側に向かって積層されて形成される。支持基板としては、太陽電池の基盤として使用できる透明または不透明の基盤が挙げられる。導電層の材料としては、N型またはP型の元素半導体(例えば、シリコン、ゲルマニウム等)、化合物半導体(例えば、GaAs、InP、ZnSe、CsS等)、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ITO、SnO、CuI、ZnO等の透明導電材料が挙げられる。これらの導電層は常法により支持基板上に形成でき、膜厚は0.1〜1.0μm程度が適当である。触媒層の材料としては、白金、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。白金の場合、スパッタ、塩化白金酸の熱分解、電着等の方法により、導電層の上に形成できる。また、酸化還元の触媒効果を向上させる目的で、半導体電極に面している側は微細構造で表面積が増大していることが好ましく、例えば、白金であれば白金黒状態に、カーボンであれば多孔質状態になっていることが好ましい。
【0066】
(スペーサー)
対極と多孔性半導体層との接触を防止するために、その間にスペーサーを挿入しても良い。スペーサーとしては、ポリエチレン等の高分子フィルムが用いられる。このフィルムの膜厚は10〜50μm程度が適当である。
【0067】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0069】
[合成例1] 増感色素II-1、II-2、II-3、II-4の合成
(1) II-1 [2-シアノ-3-(5-(2,4-ジメトキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
【0070】
【化18】
5-(2,4-ジメトキシフェニル)チオフェン-2-カルバルデヒド (1)
2,4-ジメトキシフェニルボロン酸(972 mg, 5.34 mmol)、5-ブロモチオフェン-2-カルボキサルデヒド(874 mg, 4.57 mmol)とPd(PPh3)4(135 mg)をトルエンとエタノールの混合溶媒(80 ml / 40 ml)に溶解する。そこに、炭酸カリウム(2 g)の水溶液(15 ml)を加え、反応混液をアルゴン雰囲気下24時間加熱還流する。水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン= 2/1)で精製し、アルデヒド(1)を得た。(1090 mg, 96%)
1H NMR(600 MHz, CDCl3): δ9.88 (s, 1H), 7.70 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.65 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 7.49 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.58 (dd, J= 8.4 and 2.4 Hz, 1H), 6.55 (d, J= 2.4 Hz, 1H), 3.95 (s, 3H), 3.86 (s, 3H).
【0071】
2-シアノ-3-(5-(2,4-ジメトキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸(II-1)
アルデヒド(1)(1085 mg, 4.37 mmol)とシアノ酢酸(372 mg, 4.37 mmol)をアセトニトリル(50 ml)に溶解し、ピペリジン(0.35 ml)を加え、アルゴン雰囲気下24時間加熱還流する。反応混液を2N HClで酸性にし、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、II-1を赤色固体で得た。(161 mg, 11%)
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.44 (s, 1H), 7.96 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.86 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 7.75 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.76 (d, J= 2.4 Hz, 1H), 6.70 (dd, J= 8.4 and 2.4 Hz, 1H), 3.97 (s, 3H), 3.86 (s, 3H).
Exact mass calculated for C16H12NO4S [M-1]-314.0493, observed 314.0498.
UV/VIS (EtOH): λmax = 393 nm (ε 28,400)
【0072】
(2) II-2 [2-シアノ-3-(5-(4-メトキフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
合成例1 (1) 増感色素II-1の合成例の、2,4-ジメトキシフェニルボロン酸の代りに4-メトキシフェニルボロン酸を用いて、同様の合成法により、増感色素II-2を合成した。
【0073】
【化19】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.47 (s, 1H), 7.99 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.75 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.66 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.06 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 3.82 (s, 3H).
UV/VIS (EtOH): λmax = 382 nm (ε 32,700)
【0074】
(3) II-3 [2-シアノ-3-(5-フェニルチオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
合成例1 (1) 増感色素II-1の合成例の、2,4-ジメトキシフェニルボロン酸の代りにフェニルボロン酸を用いて、同様の合成法により、増感色素II-3を合成した。
【0075】
【化20】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.51 (s, 1H), 8.03 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.80 (d, J= 7.2 Hz, 2H), 7.78 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.52 (t, J= 7.2 Hz, 2H), 7.46 (t, J= 7.2 Hz, 1H).
UV/VIS (EtOH): λmax = 365 nm (ε 31,500)
【0076】
(4) II-4 [2-シアノ-3-(5-(4-ジメチルアミノフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
合成例1 (1) 増感色素II-1の合成例の、2,4-ジメトキシフェニルボロン酸の代りに4-ジメチルアミノフェニルボロン酸を用いて、同様の合成法により、増感色素II-4を合成した。
【0077】
【化21】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.41 (s, 1H), 7.94 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.63 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.56 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.79 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 2.99 (s, 6H)
UV/VIS (EtOH): λmax = 424 nm (ε 27,600)
【0078】
[合成例2] 増感色素II-5、II-6、II-7、II-8、II-9の合成
(1) II-5 [2-シアノ-3-(5-(4-オクチルオキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
【0079】
【化22】
5-(4-オクチルオキシフェニル)チオフェン-2-カルバルデヒド (3)
4-ブロモフェノール(1.0 g, 5.78 mmol)、1-ヨードオクタン(1.67 g, 6.94 mmol)と炭酸カリウム(4.0 g, 29 mmol) をDMF(40 ml) に溶解し、24時間加熱還流する。反応混液に水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製し、ブロミド(2)(1.48 g)を得た。
【0080】
ブロミド(2)(500 mg, 1.75 mmol)、5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸(230 mg, 1.47 mmol)とPdCl2(dppf) (53 mg)をトルエンとメタノールの混合溶媒(40 ml / 20 ml)に溶解し、炭酸カリウム(1.5 g)の水溶液(10 ml)を加えて、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液に水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製し、アルデヒド(3)を得た。(140 mg, 23%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ9.86 (s, 1H), 7.71 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.60 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.29 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 6.94 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 4.00 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.46 (m, 2H), 1.38-1.25 (m, 8H), 0.89 (t, J= 6.6 Hz, 3H).
【0081】
2-シアノ-3-(5-(4-オクチルオキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸(II-5)
アルデヒド(3)(140 mg, 0.44 mmol)とシアノ酢酸(40 mg, 0.47 mmol)をアセトニトリル(30 ml)に溶解し、ピペリジン(0.1 ml)を加え、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液を2N HClで酸性化し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出する。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、II-5を橙色固体として得た。(115 mg, 68%)
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.47 (s, 1H), 7.99 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.73 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.66 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.04 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 4.03 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.73 (m, 2H), 1.42 (m, 2H), 1.35-1.29 (m, 8H), 0.86 (t, J= 6.6 Hz, 3H).
Exact mass calculated for C22H24NO3S [M-1]-382.1482, observed 382.1488.
UV/VIS (EtOH): λmax = 384 nm (ε 30,100)
【0082】
(2) II-6 [2-シアノ-3-(5-(2,4-ジブトキシフェニル)チオフェン-2-イル) アクリル酸]の合成
4-ブロモレソルシノールと1-ヨードブタンから、1-ブロモ-2,4-ジブトキシベンゼンを調製し、合成例2 (1) 増感色素II-5の合成例と同様の合成法により増感色素II-6を合成した。
【0083】
【化23】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.16 (s, 1H), 7.73 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 7.72 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 7.64 (d, J= 3.6 Hz, 1H), 6.70 (d, J= 1.8 Hz, 1H), 6.64 (dd, J= 8.4 and 1.8 Hz, 1H), 4.14 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 4.04 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.87 (m, 2H), 1.71 (m, 2H), 1.53 (m, 2H), 1.45 (m, 2H), 0.96 (t, J= 7.2 Hz, 3H), 0.95 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
UV/VIS (EtOH): λmax = 396 nm (ε 30,200)
【0084】
(3) II-7 [2-シアノ-3-(5-(2,4-ジオクチルオキシフェニル)チオフェン-2-イル) アクリル酸]の合成
4-ブロモレソルシノールと1-ヨードオクタンから、1-ブロモ-2,4-ジオクチルオキシベンゼンを調製し、合成例2 (1) 増感色素II-5の合成例と同様の合成法により増感色素II-7を合成した。
【0085】
【化24】
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.32 (s, 1H), 7.84 (d, J= 3.0 Hz, 1H), 7.69 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 7.56 (d, J= 3.0 Hz, 1H), 6.56 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 6.54 (s, 1H), 4.11 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 4.00 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 1.99 (m, 2H), 1.81 (m, 2H), 1.53 (m, 2H), 1.49 (m, 2H), 1.43-1.23 (m, 16H), 0.88 (m, 6H).
Exact mass calculated for C30H40NO4S [M-1]- 510.2684, observed 510.2690.
UV/VIS (EtOH): λmax = 395 nm (ε26,100)
【0086】
(4) II-8 [3-(5-(2,4-ビス(ヘキサデシルオキシ)フェニル)チオフェン-2-イル)-2-シアノアクリル酸]の合成
4-ブロモレソルシノールと1-ヨードヘキサデカンから、1-ブロモ-2,4-ビス(ヘキサデシルオキシ)ベンゼンを調製し、合成例2 (1) 増感色素II-5の合成例と同様の合成法により増感色素II-8を合成した。
【0087】
【化25】
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.26 (s, 1H), 7.77 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.66 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 7.52 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.54 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 6.52 (s, 1H), 4.09 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 3.99 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.96 (m, 2H), 1.80 (m, 2H), 1.51 (m, 2H), 1.46 (m, 2H), 1.40-1.20 (m, 48H), 0.88 (m, 6H).
Exact mass calculated for C46H72NO4S [M-1]-734.5188, observed 734.5198.
UV/VIS (EtOH): λmax = 392 nm (ε 26,900)
【0088】
(5) II-9 [3-(5-(4-ブトキシフェニル)チオフェン-2-イル)-2-シアノアクリル酸]の合成
1-ブロモ-4-ブトキシベンゼンから、合成例2 (1) 増感色素II-5の合成例と同様の合成法により増感色素II-9を合成した。
【0089】
【化26】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.23 (s, 1H), 7.80 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.68 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.57 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.03 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 4.02 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.71 (qui, J= 6.6 Hz,2H), 1.45 (sex, J= 7.2 Hz, 2H), 0.94 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
Exact mass calculated for C18H16NO3S [M-1]- 326.0856, observed 326.0859.
UV/VIS (DMSO): λmax = 377 nm (ε 25,600)
【0090】
[合成例3] 増感色素II-10、II-11の合成
(1) II-10 [2-シアノ-3-(5-(4-ジブチルアミノフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
【0091】
【化27】
5-(4-ジブチルアミノフェニル)チオフェン-2-カルバルデヒド (5)
N,N-ジブチルアニリン(5.0 g, 24.3 mmol)のDMF(50 ml)溶液にNBS(4.3 g, 24.3 mmol) を加え、室温で1.5時間撹拌する。反応溶液に水を加え、反応生成物をジクロロメタンで抽出する。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ヘキサン)で精製し、油状物質のブロミド(4)(6.17 g)を得た。
【0092】
ブロミド(4)(1.5 g, 5.28 mmol)、5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸(0.69 g, 4.4 mmol)とPd(PPh3)4(150 mg)をトルエンとエタノールの混合溶媒(80 ml / 40 ml)に溶解し、炭酸カリウム(2 g)の水溶液(15 ml)を加え、アルゴン雰囲気下で24時間加熱還流する。反応混液に水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製し、アルデヒド(5)を得た。(424 mg, 28%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ9.81 (s, 1H), 7.77 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 7.53 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 7.21 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 6.64 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 3.31 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 1.57 (m, 4H), 1.38 (m, 4H), 0.97 (t, J = 7.2 Hz, 6H).
【0093】
2-シアノ-3-(5-(4-ジブチルアミノフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸 (II-10)
アルデヒド(5)(424 mg, 1.34 mmol)とシアノ酢酸(114 mg, 1.34 mmol)をアセトニトリル(30 ml)に溶解し、ピペリジン(0.1 ml)を加えて、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液を2N HClで酸性化し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、II-10を暗赤色固体で得た。(148 mg, 29%)
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.39 (s, 1H), 7.92 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.58 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.51 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.71 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 3.34 (t, J= 7.2 Hz, 4H), 1.52 (m, 4H), 1.33 (m, 4H), 0.92 (t, J= 7.2 Hz, 6H).
Exact mass calculated for C22H25N2O2S [M-1]- 381.1642, observed 381.1649.
UV/VIS (EtOH): λmax = 438 nm (ε20,500)
【0094】
(2) II-11 [2-シアノ-3-(5-(4-ジオクチルアミノフェニル)チオフェン-2-イル) アクリル酸]の合成
アニリンと1-ヨードオクタンから、N,N-ジオクチルアニリンを調製し、合成例3 (1) 増感色素II-10の合成例と同様の合成法により増感色素II-11を合成した。
【0095】
【化28】
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.28 (s, 1H), 7.72 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.58 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 7.27 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.63 (d, J= 9.0 Hz, 2H), 3.32 (t, J= 7.2 Hz, 4H), 1.61 (m, 4H), 1.42-1.22 (m, 20H), 0.89 (t, J= 7.2 Hz, 6H).
Exact mass calculated for C30H41N2O2S [M-1]- 493.2894, observed 493.2901.
UV/VIS (EtOH): λmax = 438 nm (ε31,600)
【0096】
[合成例4] 増感色素II-12、II-13、II-14の合成
(1) II-12 [2-シアノ-3-(5-(4-ジブチルアミノフェニル)-4-オクチルチオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
【0097】
【化29】
5-(4-ジブチルアミノフェニル)-4-オクチルチオフェン-2-カルバルデヒド (8)
ブロミド(4)(1000 mg, 3.52 mmol)をアルゴン雰囲気下、無水THF(100 ml)に溶解し、−78℃に冷却してから、n-ブチルリチウムの15% ヘキサン溶液(2.6 ml, 4.22 mmol) を滴下し、滴下終了後、−78℃で更に2時間撹拌する。2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(851 mg, 4.58 mmol)を滴下し、24時間撹拌を続けながら反応温度を室温に戻す。反応混液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮し、ボロン酸(6)(1095 mg , 3.3 mmol)を得た。このボロン酸(6)、2-ブロモ-3-オクチルチオフェン(1092 mg, 3.97 mmol)、及びPd(PPh3)4(114 mg)をトルエン(100 ml)に溶解し、炭酸カリウム(5 g)の水溶液(20 ml)を加え、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液に水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/2)で精製し、チオフェン(7)(900mg, 2.25 mmol)を得た。このチオフェン(7)をDMFに溶解させ、0℃に冷却し、オキシ塩化リン(863 mg, 5.63 mmol)を滴下し、アルゴン雰囲気下、70℃で4時間撹拌する。反応混液を2N NaOHで中和し、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製し、アルデヒド(8)を得た。(720 mg , 43%)
1H NMR (600 MHz, An-d6):δ9.85 (s, 1H), 7.84 (s, 1H), 7.35 (d, J= 8.4 Hz, 2H), 6.78 (d, J= 8.4 Hz, 2H), 3.40 (t, J= 7.8 Hz, 4H), 2.74 (t, J= 7.8 Hz, 2H), 1.67 (m, 2H), 1.62 (m, 4H), 1.44〜1.22 (m, 14H), 0.97 (t, J= 7.2 Hz, 6H), 0.87 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
【0098】
2-シアノ-3-(5-(4-ジブチルアミノフェニル)-4-オクチルチオフェン-2-イル)アクリル酸 (II-12)
アルデヒド(8)(720 mg, 1.68 mmol) とシアノ酢酸(143 mg, 1.68 mmol)をアセトニトリル(30 ml)に溶解し、ピペリジン(0.1 ml)を加え、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応溶液に2N HClを加えてから、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、赤褐色固体のII-12を得た。 (580 mg, 70%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.24 (s, 1H), 7.63 (s, 1H), 7.35 (d, J= 7.8 Hz, 2H), 6.65 (d, J= 7.8 Hz, 2H), 3.31 (t,, J= 7.2 Hz, 4H), 2.69 (m, 2H), 1.60 (m, 6H), 1.38 (m, 4H), 1.26 (m, 10H), 0.98 (t, J= 7.2 Hz, 6H), 0.87 (t, J= 7.2 Hz, 3H). Exact mass calculated for C30H41N2O2S [M-1]-493.2894, observed 493.2904. UV/VIS (EtOH): λmax = 280, 412 nm (ε 16,000, 18,500)
【0099】
(2) II-13 [2-シアノ-3-(2-(2,4-ジブトキシフェニル)チアゾール-5-イル) アクリル酸]の合成
1-ブロモ-2,4-ジブトキシベンゼンと2-ブロモチアゾールから、合成例4 (1) 増感色素II-12の合成例と同様の合成法により、増感色素II-13を合成した。
【0100】
【化30】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.33 (s, 1H), 8.25 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 8.20 (s, 1H), 6.76 (d, J= 1.8 Hz, 1H), 6.71 (dd, J= 9.0 and 1.8 Hz, 1H), 4.24 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 4.08 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.91 (m, 2H), 1.73 (m, 2H), 1.58 (m, 2H), 1.46 (m, 2H), 0.97 (t, J= 7.2 Hz, 3H), 0.95 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
Exact mass calculated for C21H23N2O4S [M-1]- 399.1384, observed 399.1389.
UV/VIS (EtOH): λmax = 386 nm (ε18,200)
【0101】
(3) II-14 [2-シアノ-3-(5-(2,4-ジブトキシフェニル)-4-オクチルチオフェン-2-イル) アクリル酸]の合成
1-ブロモ-2,4-ジブトキシベンゼンから、合成例4 (1) 増感色素II-12の合成例と同様の合成法により、増感色素II-14を合成した。
【0102】
【化31】
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.31 (s, 1H), 7.79 (s, 1H), 7.19 (d, J= 8.4 Hz, 1H), 6.67 (d, J= 1.8 Hz, 1H), 6.60 (dd, J= 8.4 and 1.8 Hz, 1H), 4.02 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 3.99 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 2.44 (t, J=7.8 Hz, 2H), 1.72 (m, 2H), 1.61 (m, 2H), 1.46 (m, 4H), 1.35 (m, 2H), 1.21 (m, 2H), 1.15 (m, 8H), 0.95 (t, J= 7.2 Hz, 3H), 0.85 (t, J= 7.2 Hz, 3H), 0.83 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
Exact mass calculated for C30H40NO4S [M-1]- 510.2684, observed 510.2687.
UV/VIS (EtOH): λmax = 360 nm (ε23,200)
【0103】
[合成例5] 増感色素II-15 [2-シアノ-3-(5-(2,4,6-トリメトキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸]の合成
【0104】
【化32】
5-(2,4,6-トリメトキシフェニル)チオフェン(9)
塩化亜鉛(136 mg, 1.12 mmol)を無水THF(20 ml)に溶解した溶液をアルゴン雰囲気下、室温で撹拌し、その溶液中に2-チエニルマグネシウムブロミドの1.0M THF溶液(419 mg, 2.24 mmol)を滴下する。滴下終了後、室温で更に30分間撹拌してジチオフェン-2-イル亜鉛溶液を調製する。 その溶液中に、2-ブロモ-1,3,5-トリメトキシベンゼン(394 mg, 1.59 mmol)、1-メチル-2-ピロリドン(3 ml)とPdCl2(dppf)(39 mg)を無水ジオキサン(20 ml)に溶解した溶液を滴下する。反応混液をアルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液に1N HClを加えてから、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン= 1/1)で精製し、カップリング生成物(9)を得た。(132 mg, 47%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 7.33 (dd, J= 5.4 and 1.2 Hz, 1H), 7.30 (dd, J= 3.6 and 1.2 Hz, 1H), 7.07 (dd, J= 5.4 Hz, 3.6Hz, 1H), 6.22 (s, 2H), 3.85 (s, 3H), 3.81 (s, 6H).
【0105】
2-シアノ-3-(5-(2,4,6-トリメトキシフェニル)チオフェン-2-イル)アクリル酸(II-15)
カップリング生成物(9)(132 mg , 0.53 mmol)のDMF(10 ml)溶液を0℃に冷却し、オキシ塩化リン(201 mg, 1.31 mmol)をゆっくりと加える。反応混液をアルゴン雰囲気下、70℃に2時間加熱する。反応混液を1N NaOHで中和し、水を加えて、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮して、アルデヒド(10)(140 mg)を得た。このアルデヒドとシアノ酢酸(42 mg, 0.50 mmol) をアセトニトリル(30 ml) に溶解し、ピペリジン(0.1 ml)を加え、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液を2N HCl で酸性化してから、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、II-15を赤色固体として得た。(123 mg, 67%)
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ 8.40 (s, 1H), 7.91 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.65 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.40 (s, 2H), 3.86 (s, 9H).
Exact mass calculated for C17H14NO5SNa [M+Na]+ 368.0569 , observed 368.0559 .
UV/VIS (EtOH): λmax = 389 nm (ε18,700)
【0106】
[合成例6] 増感色素II-16 [2-(5-((5-(2,4-ジブトキシフェニル)チオフェン-2-イル)メチレン)-4-オキソ-2-チオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸]の合成
【0107】
【化33】
5-(2,4-ジブトキシフェニル)チオフェン-2-カルバルデヒド (12)
4-ブロモレソルシノール(2.0 g , 10.6 mmol)、1-ヨードブタン(5.1 g, 27.5 mmol)、炭酸カリウム(16 g, 58 mmol)をDMF(80 ml)に溶解し、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応混液に水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ヘキサン/ジクロロメタン= 2 / 1)で精製し、油状物質のブロミド(11)(3.0 g)を得た。
【0108】
ブロミド(11)(694 mg, 2.31 mmol)、5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸(300 mg, 1.92 mmol)、及びPdCl2(dppf)(70 mg)をトルエンとメタノールの混合溶媒(40 ml/20 ml)に溶解し、炭酸カリウム(2 g)の水溶液(10 ml)を加え、アルゴン雰囲気下、24時間加熱還流する。反応溶液に水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製し、アルデヒド(12)を得た。(370 mg, 58%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 9.88 (s, 1H), 7.70 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.63 (d, J= 7.8 Hz, 1H), 7.49 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.55 (d, J= 7.8 Hz, 1H), 6.55 (s, 1H), 4.11 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 4.01 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.92 (m, 2H), 1.79 (m, 2H), 1.56 (m, 2H), 1.52 (m, 2H), 1.00 (t, J= 7.8 Hz, 3H), 0.99 (t, J= 7.8 Hz, 3H).
【0109】
2-(5-((5-(2,4-ジブトキシフェニル)チオフェン-2-イル)メチレン)-4-オキソ-2-チオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸 (II-16)
アルデヒド(12)(310 mg, 0.93 mmol)とロダニン-3-酢酸(178 mg, 0.93 mmol)をアセトニトリル(30 ml)に溶解し、ピペリジン(0.1 ml)を加え、アルゴン雰囲気下で24時間加熱還流する。反応混液を2N HClで酸性化してから、水を加え、ジクロロメタンで抽出し、抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮する。残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィ一(ジクロロメタン→メタノール)で精製し、赤色固体のII-16を得た。(370 mg, 78%)
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6):δ8.14 (s, 1H), 7.90 (d, J= 9.0 Hz, 1H), 7.80 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 7.77 (d, J= 4.2 Hz, 1H), 6.72 (d, J= 2.4 Hz, 1H), 6.65 (dd, J= 9.0 and 2.4 Hz, 1H), 4.69 (s, 1H), 4.21 (t, J= 6.0 Hz, 2H), 4.05 (t, J= 6.6 Hz, 2H), 1.95 (m, 2H), 1.73-1.68 (m, 4H), 1.45 (q, J= 7.2 Hz, 2H), 1.07 (t, J= 7.2 Hz, 3H), 0.95 (t, J= 7.2 Hz, 3H).
Exact mass calculated for C24H26NO5S3[M-1]- 504.0979, observed 504.0985.
UV/VIS (EtOH): λmax = 467 nm (ε 41,200)
なお、一般式(1)ではアクセプター部位をシアノアクリル酸に固定しているが、色素II-16では、上掲の化学構造式からわかるように、アクセプター部位がロダニン-酢酸である。このように、一般式(1)のシアノアクリル酸をロダニン-酢酸で置き換えても、後述する表1に示すように他の色素との組み合わせにより高い変換効率を発揮する。
【0110】
[実施例1]
・多孔性半導体層の作製
日本板硝子社製のSnO膜付きガラスの透明導電側に、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、Ti nanoxide T/SP)をスクリーン印刷により、20μm程度の膜厚、5mm×5mm程度の面積で、透明導電膜の上に塗布した。更に、CCIC社製PST 400をその上に塗布する(5μm)。得られた塗膜を、100℃で30分間予備乾燥した後、大気雰囲気中で500℃で2時間焼成することで、多孔性半導体層として膜厚25μmの酸化チタン膜を得た。
【0111】
・増感色素の吸着
増感色素Iとして、精製したブラックダイ(BD)(純度99%)を濃度2×10−4M、また、増感色素IIとして、増感色素II-1を濃度2×10−4Mとなるようにエタノールに溶解した。この溶液に、デオキシコール酸を濃度2×10−2Mとなるように加えて溶解させ、増感色素IとIIの混合吸着用溶液を調製した。この溶液に上記ガラス板を24時間浸漬させることにより、多孔性半導体層に色素を吸着させた。
【0112】
・太陽電池作製
図1にその構造を模式的に示す太陽電池を作成した。具体的には、先ず透明導電膜を備えたガラス基板である支持基板5上に対極導電層6として、白金膜を1μm蒸着することにより、支持基板5及び対極導電層6から構成される対極9を形成した。この対極9と上記の色素を吸着させた多孔性半導体層3、透明導電成膜2及び支持基板1からなる半導体電極とを向かい合わせ、間に短絡防止のための熱圧縮フィルムスペーサーを挟んで重ね合わせて密着封装して、図中の漏洩防止剤7で表される部材を形成する。その後、両極の隙間に電解液であるヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(0.6M)、ヨウ化リチウム(0.1M)、ヨウ素(0.05M)、及び4−tert−ブチルピリジン(0.5M)のアセトニトリル溶液を注入してキャリア輸送層4を形成することで、太陽電池を作製した。
【0113】
得られた太陽電池に、100mWcm−2の強度の光(AM1.5,ソーラーシミュレーター)を照射して、電流−電圧特性を測定した。
【0114】
得られた光電変換特性(短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、形状因子(FF)、光電変換効率)の結果を表1Aに示す。
【0115】
[実施例2]
増感色素IIに増感色素II−2〜16、式(6)、式(7)、式(8)、式(10)、式(12)、式(14)、式(15)の化合物を用いて、実施例1と同様にして、太陽電池を作製し、光電変換特性を測定した。結果を表1Aに示す。
【0116】
[比較例1]
増感色素として、精製したブラックダイ(BD)(純度99%)を濃度2×10−4M、また、デオキシコール酸を濃度2×10−2Mとなるようにエタノールに溶解して、吸着用溶液を調製した。実施例1と同様にして作製した多孔性半導体層のガラス板を、上記の吸着溶液に浸漬して、色素を吸着させ、実施例1と同様にして、太陽電池を作製し、光電変換特性を測定した。結果を表1Bに示す。
【0117】
[比較例2]
増感色素として増感色素II−1〜16、式(6)、式(7)、式(8)、式(10)、式(12)、式(14)、式(15)の化合物を用いて、比較例1と同様にして、太陽電池を作製し、光電変換特性を測定した。結果を表1Bに示す。
【0118】
【表1A】
【0119】
【表1B】
表1A,Bの結果から、ブラックダイと特定の条件を満たす有機色素として選ばれた色素を混合して吸着させた色素増感太陽電池では、ブラックダイを単独で吸着させたものに比較して、光電変換効率が飛躍的に向上している。この主因は、電流密度のみならず、開放電圧の増大が寄与している。また、一般式である式(1)で示される有機色素では、より高い開放電圧を示していて、ドナー部位のベンゼン環に長鎖のアルコキシ基、ジアルキルアミノ基を結合させたものが、高い開放電圧そして優れた変換効率を示している。これは分子サイズの大きいブラックダイが半導体表面に吸着してできる色素間の隙間を埋めるように、分子サイズの小さい有機色素が吸着して、半導体表面の色素で被膜されていない部分を減少させることにより、色素から半導体に注入された励起電子が、半導体表面に接しているキャリア輸送層に流れる逆電流を抑制するのと同時に、疎水性のアルキル基で形成される半導体表面とキャリア輸送層との間のバリアーで電解質が半導体表面に接近できなくなって、更に逆電流が抑制される効果が、開放電圧を上げ、光電変換効率を飛躍的に向上させたと考えられる。また、分子量が大きく分子内にアルキル側鎖を有する有機色素では、高い開放電圧を示している。これは、アルキル側鎖が色素分子間の会合を抑制するのと同時に、上述のようにアルキル基で形成される疎水性の層で電解質が半導体表面へ侵潤するのを抑制する効果が働いていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上詳細に説明したように、本発明によればこれまでにない高い光電変換効率を有する色素増感太陽電池を得ることができるので、本発明は産業上多大な貢献をなし得るものである。
【符号の説明】
【0121】
1 支持基板
2 透明導電性膜
3 多孔性半導体層
4 キャリア輸送層
5 支持基板
6 対極導電層
7 漏洩防止剤
8 透明導電性支持体
9 対極
図1