特許第5794634号(P5794634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794634
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F02F 5/00 20060101AFI20150928BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20150928BHJP
   F16J 9/22 20060101ALI20150928BHJP
   C23C 8/26 20060101ALI20150928BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   F02F5/00 A
   F02F5/00 F
   F02F5/00 Q
   F02F3/00 N
   F16J9/22
   C23C8/26
   C25D7/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-551939(P2011-551939)
(86)(22)【出願日】2011年1月28日
(86)【国際出願番号】JP2011051801
(87)【国際公開番号】WO2011093464
(87)【国際公開日】20110804
【審査請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-19357(P2010-19357)
(32)【優先日】2010年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 倫浩
(72)【発明者】
【氏名】秋元 直行
(72)【発明者】
【氏名】平石 巖
(72)【発明者】
【氏名】梶原 誠人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 篤
【審査官】 山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−113941(JP,A)
【文献】 特開2008−180218(JP,A)
【文献】 特開2008−241032(JP,A)
【文献】 特開2006−275269(JP,A)
【文献】 特開2002−295675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 5/00
C23C 8/26
C25D 7/00
F02F 3/00
F16J 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン用ピストンに装着するピストンリングであって、
当該ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2(JIS B0601:2001に準拠する)を、Rmr2(Rmr(Co),z)(ここで、Rmr(Co)は、指定された初期摩耗後の負荷長さ率(%)、zは、当該Rmr(Co)に相当する切断レベルCoからの深さ(μm)とする。)と表した場合において、
当該Rmr2が、下記数1に示す式(1)及び式(2)の各条件を満足し、且つ、当該Rmr2は、当該Rmr(Co)が0.5%であるときの前記zとの関係において、当該zをx軸、当該Rmr2をy軸とした座標系における、zが0.1μmと0.3μmとの各当該Rmr2のデータ点を結んだ直線の傾きが80以上であることを特徴とするピストンリング。
【数1】
【請求項2】
前記ピストンリングの上面及び下面の表面の十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)は、0.2μm〜2.0μmである請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
前記ピストンリングの上面及び下面には、硬質層が形成されており、当該硬質層におけるビッカース硬度(HV)が700HV0.1〜3000HV0.1である請求項1又は請求項に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記ピストンリングは、スチール製又は鋳鉄製であり、当該ピストンリングの上面及び下面に形成される硬質層が窒化処理層、クロムメッキ層、PVD処理層、CVD処理層又はDLC層のいずれか一つ又は二つ以上から選択された請求項1〜請求項のいずれかに記載のピストンリング。
【請求項5】
前記ピストンリングのピストン軸方向断面における形状が矩形形状、キーストン形状、又はハーフキーストン形状のいずれかである請求項1〜請求項のいずれかに記載のピストンリング。
【請求項6】
前記ピストンリングは、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンとの組合せとして用いられる請求項1〜請求項のいずれかに記載のピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ディーゼルエンジン用ピストンとの組合せとして用いられるピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
近年における自動車用エンジンの長寿命化及び燃費向上の市場要求に伴い、当該エンジンに用いられるピストンリングには、薄幅で軽く、低張力で摩擦ロスの少ないものが求められている。ここで、ピストンリングは、シリンダ内におけるピストンのスムーズな往復運動を実現し、高温な燃焼ガスをシールするためにピストンに装着される。ピストンリングが装着されたピストンは、シリンダ内で燃焼室を形成し、この燃焼室内の燃料の燃焼によって発生する爆発圧力がクランクシャフトの回転に換えられる。従って、ピストンに装着されるピストンリングには、当該燃焼室での爆発衝撃に耐えて、高温な燃焼ガスを長期間安定してシールする働きが求められる。仮に、ピストンリングによるこれらシール性の向上が図ることができない場合には、エンジン出力の低下やオイル消費の増大等を引き起こす原因となる。
【0003】
上述の耐衝撃性とガスシール性とを向上させるために、ピストンリングには、初期なじみの際の異常摩耗を避けることのできる材質や、ガスのブローバイ(吹き抜け)防止に効果的で、潤滑理論上にも適した形状のもの等、エンジンの特徴に応じた様々な種類が存在する。例えば、ディーゼルエンジン用ピストンは、近年の排ガス規制対策による内燃機関の燃焼圧力上昇化に伴い、ピストンへの負荷が増大しており、このような過酷な使用条件に耐え得る必要性から、ピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製となっている。従って、ピストンリング溝と同じ材質となるピストンリングを装着する際には、凝着摩耗が起こりやすい。
【0004】
当該凝着摩耗の発生を抑制するために、ディーゼルエンジン用ピストンに装着するピストンリングの形状は、その上面及び/又は下面側に当該ピストンリング溝と同一の傾斜角度を持たせた形状となっている。仮に、ピストンとピストンリングとの間で凝着摩耗が発生すると、ピストンリング上下面とピストンのピストンリング溝とのシール性が悪化し、エンジン出力の低下やオイル消費の増大等を引き起こす原因となる。
【0005】
上述の問題を回避すべく、例えば、特許文献1(特開2004−92714号)には、高出力エンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せについて開示されている。具体的には、特許文献1のピストンとピストンリングの組合せは、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製であるピストンに、少なくとも外周摺動面に硬質皮膜を形成した鋳鉄製のピストンリングを装着したものである。そして、特許文献1には、ピストンリングの材質を鋳鉄製とすることで、鋳鉄特有の黒鉛の存在により当該ピストンリングの上下面に凹凸が形成され、この凹凸が油溜まりに寄与し、また、黒鉛が自己潤滑物質として作用し、相手材であるスチール材質からなるピストンリング溝との間で凝着が起こるのを抑制することで、優れた耐久性を得る旨の開示がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−92714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に係るピストンとピストンリングの組合せは、ピストンリング上下面で凝着が起こるのを抑制するものである。このように、従来より、ピストンリング溝とピストンリング上下面との接触面における凝着摩耗の発生を抑制するための対策が採られてきた。しかし、特許文献1に係るピストンとピストンリングの組合せは、当該組合せの条件として、少なくともピストンリング溝の材質がスチールであるピストンと鋳鉄製のピストンリングとの組合せに双方の材質が限定されたものであるが、特許文献1のピストンリングは、少なくともピストンリング溝がスチール製のピストンに装着した場合、ピストンリング上下面の表面性状の観点から、凝着を十分に防止するための検討がなされていなかった。
【0008】
以上のことから、本件発明は、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製、又は鋳鉄製のディーゼルエンジン用ピストンに装着した場合において、凝着摩耗の発生を十分に抑制可能なピストンリングの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、ピストンリングのピストンリング溝側面に対向する上下面の表面性状を所定の条件を満たす形状とすることで、上述した課題を解決するに到った。以下、本件発明に関して説明する。
【0010】
本件発明に係るピストンリングは、ディーゼルエンジン用ピストンに装着するピストンリングであって、当該ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2(JIS B0601:2001に準拠する)を、Rmr2(Rmr(Co),z)(ここで、Rmr(Co)は、指定された初期摩耗後の負荷長さ率(%)、zは、当該Rmr(Co)に相当する切断レベルCoからの深さ(μm)とする。)と表した場合において、当該Rmr2が、下記数1に示す式(1)及び式(2)の各条件を満足し、且つ、当該Rmr2は、当該Rmr(Co)が0.5%であるときの前記zとの関係において、当該zをx軸、当該Rmr2をy軸とした座標系における、zが0.1μmと0.3μmとの各当該Rmr2のデータ点を結んだ直線の傾きが80以上であることを特徴とするピストンリング。
【数1】
【0011】
本件発明に係るピストンリングにおいて、前記ピストンリングの上面及び下面の表面の十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)は、0.2μm〜2.0μmであることが好ましい。
【0012】
本件発明に係るピストンリングにおいて、前記ピストンリングの上面及び下面には、硬質層が形成されており、当該硬質層におけるビッカース硬度(HV)が700HV0.1〜3000HV0.1であることが好ましい。
【0013】
本件発明に係るピストンリングは、前記ピストンリングが、スチール製又は鋳鉄製であり、当該ピストンリングの上面及び下面に形成される硬質層が窒化処理層、クロムメッキ層、PVD処理層、CVD処理層又はDLC層のいずれか一つ又は二つ以上から選択されたことが好ましい。
【0014】
本件発明に係るピストンリングは、前記ピストンリングのピストン軸方向断面における形状が矩形形状、キーストン形状、又はハーフキーストン形状のいずれかであることが好ましい。
【0015】
本件発明に係るピストンリングは、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンとの組合せとして用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係るピストンリングは、ピストンリングの上面及び下面における表面性状を本件発明において規定する負荷長さ率Rmr2の条件を満足することで、凝着摩耗が起こるのを十分に抑制し、オイル消費やブローバイガス量の増大を長期間抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本件発明に係るピストンリングをピストンリング溝に装着した状態を説明するために軸方向で切断して示した概略断面図である。
図2】粗さ曲線から作成される負荷曲線を用いて負荷長さ率Rmr2を説明する図である。
図3】本件発明の実施例及び比較例における、リング溝摩耗比とエンジン運転時間(hr)との関係を示したグラフである。
図4】本件発明の実施例及び比較例における、負荷長さ率Rmr2(Rmr(Co)=0.5%)と摩耗深さz(Co−Cn(μm))との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本件発明に係るピストンリングの好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながら本件発明をより詳細に説明する。
【0019】
図1は、本件発明に係るピストンリングをピストンリング溝に装着した状態を説明するために軸方向で切断して示した概略断面図である。図1に示すように、ピストンリング1は、ピストンリング溝内6に装着された状態で、シリンダ9とピストン5との数十ミクロン程度の隙間を埋めて、燃焼ガスをシールすると共に、ピストン5の往復運動により、シリンダ内壁面10に対して自己の持つ張力により押しつけられているピストンリングの摺動面4が油膜の厚みを適度にコントロールする。そして、ピストンリング1は、シリンダ内壁面10に油膜を介して接触しながらピストン5の往復運動(図中の矢印方向)にピストンリング1が追従することで、ピストンリング溝6内で上下運動が起こり、当該ピストンリング1の上面2,下面3と、ピストンリング溝の上面7,下面8との間で接触が繰り返される。この場合において、仮にスチール製のピストンリング溝内6にスチール製のピストンリングを用いるとすれば、ピストンリングの上面2,下面3と、ピストンリング溝6の上面7,下面8との接触部分において凝着摩耗が発生してしまう。
【0020】
図1からも、理解できるように、ピストンリングの上面2,下面3と、ピストンリング溝6の上面7,下面8との接触部分において凝着摩耗が発生すると、当該ピストンリング溝6の上面7,下面8に、ピストンリングの上面2又は下面3のどちらか一方の面が接した状態において隙間が生じてしまい、オイル消費やブローバイガス量の増大化を招いてしまう。従って、ピストンリング溝の上面7,下面8とこれに接触するピストンリング1の上面2,下面3の面粗度は重要な条件となる。なお、図1に示すピストンリング1は、所謂キーストンリングと呼ばれる種類でリング上下面に傾斜をつけた楔形の断面形状を備えたものであるが、本件発明のピストンリングの形状はこれに限定されるものではない。例えば、本件発明のピストンリングは、ピストンリングの下面側がシリンダ軸に対して略垂直に形成され上面側にのみ傾斜を設けた、所謂ハーフキーストンリングと呼ばれる種類の形状を備えたものや、矩形形状を備えたものであっても構わない。
【0021】
本件発明のピストンリングは、図1に示すピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2(JIS B0601:2001に準拠する)が、下記数1に示す式(1)及び(2)の条件を満足するものであることを特徴とする。
【数1】
【0022】
ここで、負荷長さ率Rmr2について図を用いて説明する。図2は、負荷長さ率Rmr2を説明するために、粗さ曲線から作成される負荷曲線を示した図である。なお、負荷曲線とは、粗さ曲線より各切断レベルでの負荷長さ率RmrをJIS B0601:2001に準拠して求め、当該負荷長さ率Rmr(%)を横軸とし、切断レベル(切断する高さ(単位:%又はμm))を縦軸として作成した曲線である。負荷長さ率Rmr2は、当該負荷曲線上において、指定された初期摩耗後の負荷長さ率Rmr(Co)(%)に相当する切断レベルCoから、深さz(=Co−Cn)μmだけ摩耗した後の負荷長さ率(%)をいい、この場合に「Rmr2(Rmr(Co),z)」として表記されるものである。
【0023】
本件発明のピストンリングは、その上面及び下面の粗さを小さくするという思想の中でも、当該上面及び下面を上記式(数1)に示す条件の表面性状とすることで、凝着を抑制する効果に関してより安定性を増す。仮に、ピストンリング溝の上面,下面と接触するピストンリングの上面,下面の表面粗さが大きい場合には、ピストンリングによるピストンリング溝に対する攻撃性が大きくなり、凝着摩耗が起こりやすくなる。本件発明のピストンリングは、その上面及び下面の表面性状について、負荷長さ率Rmr2を本件発明で規定する条件範囲内にすることで、ピストンリングによるピストンリング溝に対する攻撃性を小さくし、凝着摩耗の発生を十分に抑制することができる。従って、本件発明のピストンリングを採用することで、オイル消費やブローバイガス量の増大を効果的に抑制することができることとなる。
【0024】
また、本件発明のピストンリングにおいて、負荷長さ率Rmr2は、Rmr2(Rmr(Co),z)(ここで、指定された初期摩耗後の負荷長さ率(%)をRmr(Co)、当該Rmr(Co)に相当する切断レベルCoからの深さ(μm)をzとする。)として表すことができる。そして、この場合に、当該負荷長さ率Rmr2は、当該Rmr(Co)が0.5%であるときの当該zとの関係において、当該zをx軸、当該Rmr2をy軸とした座標系における、当該zが0.1μmと0.3μmとの各当該Rmr2のデータ点を結んだ直線の傾きが80以上であることを特徴とする
【0025】
本件発明のピストンリングの上面及び下面の表面性状は、負荷長さ率Rmr2について、Rmr(Co)が0.5%である場合を基準として条件の設定がされている。これは経験則上、Rmr(Co)が0.5%である場合を基準に条件の設定をすることで、ピストンリングによるピストンリング溝に対する攻撃性を小さくし、凝着摩耗の発生を十分に抑制する効果が安定して得られることによる。そして、本件発明のピストンリングは、その上面又は下面のRmr(Co)が0.5%であるときのzとの関係において、当該zをx軸、当該Rmr2をy軸とした座標系における、当該zが0.1μmと0.3μmとの各当該Rmr2のデータ点を結んだ直線の傾きaが80以上となる条件を満たすことがより好ましい。この条件を満足することで、ピストンリングの潤滑油の保持能力が著しく向上し、優れた耐摩耗性及び耐凝着性が得られるため、オイル消費やブローバイガス量の削減効果を更に発揮することができる。
【0026】
また、本件発明のピストンリングは、その上面及び下面の表面の十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)を、0.2μm〜2.0μmとすることが好ましい。このように、ピストンリングの上面及び下面の表面粗さを、上述した負荷長さ率Rmr2と併せて規定することで、ピストンリング溝上下面との接触面での摩擦損傷を極めて効果的に軽減化でき、ピストンリング摺動挙動の安定化を図ることができる。その結果、例え本件発明のピストンリングを、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンに装着した場合においても、オイル消費やブローバイガス量の増大を更に抑制することができることとなる。
【0027】
ここで、ピストンリングの上面及び下面の表面の十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)が、0.2μm未満の場合には、粗さ形状を形成するための設備導入に伴うコストの増加や、製品歩留まりの低下等の問題があるため好ましくない。また、ピストンリングの上面及び下面の表面の十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)が、2.0μmを超える場合には、表面の粗さが大きいが故に初期馴染み性も低下すると同時に、ピストンリングの上面及び下面の凸部が、接触するピストンリング溝の上下面に対して摩擦損傷させる可能性が高くなるため好ましくない。
【0028】
また、本件発明のピストンリングは、その上面及び下面に硬質層が形成されており、当該硬質層におけるビッカース硬度(HV)が700HV0.1〜3000HV0.1であることが好ましい。本件発明のピストンリングの上面及び下面に硬質層を形成することで、ピストンリングについて耐久性の向上を図ることができる。なお、当該硬質層の形成に伴い若干ピストンリングの表面粗さが大きくなり、ピストンとピストンリングとの接触面で起こる凝着摩耗に関しても僅かに影響が生じるものの、元々表面粗さを小さく設定している本件発明のピストンリングにおいては、特に問題のないレベルである。
【0029】
ここで、ピストンリングの上面及び下面に形成されている硬質層におけるビッカース硬度(HV)が700HV0.1未満の場合には、ピストンリングの耐久性の向上が十分に図れない。また、ピストンリングの上面及び下面に形成されている硬質層におけるビッカース硬度(HV)が3000HV0.1を超えると、ピストンリングの上面及び下面が硬くなり過ぎることになり、脆化して脆くなるため、耐衝撃特性に欠けるようになり好ましくない。
【0030】
また、本件発明のピストンリングは、スチール製又は鋳鉄製であり、当該ピストンリングの上面及び下面に形成される硬質層が窒化処理層、クロムメッキ層、PVD処理層、CVD処理層又はDLC層のいずれか一つ又は二つ以上から選択されたことが好ましい。このように、ピストンリングの上面及び下面に硬質層を形成することによって、スチール製又は鋳鉄製のピストンリングを、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンと組み合わせて使用しても、内燃機関として求められる長寿命化を図ることができる。なお、図1に示すように、当該硬質層11は、ピストンリングのピストンリング溝と接触する上面及び下面のみならず、シリンダ内壁面との摺動面を含む全表面に形成しても良い。このように、ピストンリングの全表面に硬質層11を形成することで、ピストンリング自体の耐久性が向上する。そして、以上に述べてきた硬質層11の表面には、クロムメッキ、複合クロムメッキ、複合メッキ、溶射、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)等の手法を用いた表面処理を更に施すこともできる。また、本件発明のピストンリングは、ダイアモンド ライク カーボン層(以下、「DLC層」と称する。)を、上述の窒化処理層、クロムメッキ層、又はPVD処理層を形成した上面及び下面の最外層に設けることができる。このDLC層は、摩擦係数が低い低摩擦材料として知られており、当該上面及び下面の硬質層が形成された上に更にDLC層を形成することで、ピストンリングの耐摩耗特性を飛躍的に向上させることができる。なお、図1に示すように、本件発明のピストンリングは、更なる耐久性の向上を図るべく、耐摩耗層12としてDLC層をリングの外周摺動面4に設けても良い。
【0031】
一般的に、ピストンリングは、トップリング及びセカンドリング、オイルリングを1セットとしてピストンに装着して用いられるものである。本件発明のピストンリングは、トップリングとセカンドリングのどちらに対しても好適に用いることができる。ちなみに、トップリング及びセカンドリングは、燃焼ガスとピストンからの熱を受けるため、耐熱性に優れた材質で、且つエンジン出力の低下や潤滑油消費量の増加が起きないように耐摩耗性、耐スカッフ性等を考慮した材質によって構成される。例えば、トップリングには、シリンダライナとの摺動面を窒化処理したマルテンサイト系ステンレス鋼製リング、シリンダライナとの摺動面にクロムメッキを施したSWOSC−V鋼製のリング等が広く用いられている。また、セカンドリングには、高級鋳鉄製リング又は合金鋳鉄製リングが採用され、特に高級鋳鉄製リングの摺動面にクロムメッキを施したものが多用される。
【0032】
また、本件発明のピストンリングは、軸方向断面における形状が矩形形状、キーストン形状、又はハーフキーストン形状のいずれかであることが好ましい。ここで、ピストンリングの軸方向断面における形状を矩形形状とした場合、高圧の燃焼ガスが燃焼室側からクランク側へ流出するブローバイガスを抑制できる。また、ピストンリングの軸方向断面における形状を、キーストン形状又はハーフキーストン形状のように、ピストンリングの上下面又は上面に傾斜を設けた形状とした場合、ピストンリング溝内におけるピストンリングの半径方向への動きにより、当該ピストンリングの傾斜を設けた上面又は下面が溝内に堆積したスラッジやカーボンに対して傾斜して当たり、これらスラッジ等を容易に破砕又は削ぎ落とすことができる。この結果、軸方向断面における形状がキーストン形状又はハーフキーストン形状のピストンリングを採用することで、ピストンリング溝内に堆積したスラッジ等がリングに固着又は膠着する所謂「スティック」が発生し、リングが動かなくなることを防止することができる。ちなみに、ピストンリングにスティックが発生することで、ピストンリングの折損が生じやすくなり、ブローバイガス量が増加する他、オイルコントロール機能が低下したり、更にはピストンに焼付きが生じる恐れもある。
【0033】
以上説明してきたように、本件発明のピストンリングは、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンとの組合せとして用いられることが好ましい。少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製であることで、内燃機関として求められる長寿命化を図ることができる。ちなみに、ピストンリング溝の材質としては、ニレジスト鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、JIS規格におけるクロム−モリブデン鋼(SCM415H、SCM418H、SCM420H、SCM425H、SCM435H、SCM440H、SCM445H、)等が好ましく用いられている。
【0034】
なお、本件発明のピストンリングは、その上面及び下面の表面性状について本件発明に規定する条件を満たすことによって、例え同じ材質のピストンリング溝を備えたピストンとの組合せにおいても、凝着摩耗を十分に抑制することができる。また、本件発明のピストンリング母材は、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンとの組合せにおいて、焼き付きを起こし難く、また熱膨張差も小さいため、ピストンリングのガスシール機能を低下させず、ブローバイガスの発生を効果的に防止することができる。
【0035】
以下、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
ピストンリング溝の摩耗量確認試験: 本摩耗量確認試験では、排気量が10000cc、6気筒ディーゼルエンジンの実機試験を行い、ピストンリングの上面及び下面の面性状において負荷長さ率Rmr2の異なるものでピストンリング溝の摩耗量に違いが生じるか否かの確認をトップリングが装着されるピストンリング溝について行った。
【0037】
なお、本摩耗量確認試験を実施するにあたり、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で回転数1800rpmで50時間行った。そして、ピストンリングの組み合わせは、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本構成とした。このときのトップリングは、17Cr鋼からなるキーストンリングとし、軸方向高さが3.5mm、径方向厚さが4.7mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。セカンドリングは、FCD材からなり、軸方向高さが2.5mm、径方向厚さが5.4mmのものを用いた。オイルリングは、軸方向高さ3.0mm、径方向厚さ2.35mmのものを用いた。
【0038】
トップリングを構成する17Cr鋼及びセカンドリングを構成するFCD700材に関して述べておく。ここで言う17Cr鋼は、炭素0.90質量%、ケイ素0.40質量%、マンガン0.30質量%、クロム17.5質量%、モリブデン1.10質量%、バナジウム0.12質量%、リン0.02質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備え、且つ、ガス窒化処理を施したものであり、外周摺動面にPVDを施したものである。すなわち、17Cr鋼は、JIS規格のSUS440B材に相当するものである。そして、ここで言うFCD材とは、炭素3.60質量%、ケイ素3.05質量%、マンガン0.65質量%、リン0.20質量%、硫黄0.02質量%、クロム0.10質量%、銅0.30質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるFCD700材相当のものである。
【0039】
また、オイルリング本体は、炭素0.65質量%、ケイ素0.38質量%、マンガン0.35質量%、クロム13.50質量%、モリブデン0.3質量%、リン0.01質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成の所謂13Cr鋼(JIS規格のSUS410材相当)を用い、且つ、ガス窒化処理を施しているものを用いた。
【0040】
また、本摩耗量確認試験を実施するにあたり、ピストンは、炭素0.41質量%、ケイ素0.2質量%、マンガン0.75質量%、リン0.02質量%、硫黄0.02質量%、クロム1.1質量%、モリブデン0.21質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成のDIN規格における42CrMo4(JIS規格のSCM440H)相当を用いた。
【0041】
そして、ピストンリング溝の上下面の粗さは、十点平均粗さRzJIS(JIS B 0601:2001)で2μm以下のものを使用した。
【0042】
上述した条件で、トップリングのピストンリング溝の摩耗量確認試験を行った結果を表1に示す。表1は、各エンジン運転時間毎のピストンリング溝の摩耗量をピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2を本件発明の条件範囲内の実施例試料と本件発明の条件範囲外の比較例試料(従来品に相当)とで確認を行った結果を示している。そして、この結果として、図3には、本件発明の実施例及び比較例における、リング溝摩耗比とエンジン運転時間(hr)との関係をグラフにて示す。ここで、リング溝摩耗比は、実施例試料の最大摩耗量を「1」として、これに対する相対比で表示している。
【0043】
なお、本摩耗量確認試験を実施するにあたり、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2は、ピストンリングの上面及び下面において、径方向を触針のRが2μmの触針式表面形状測定器を用いて測定した。
【0044】
[実施例と比較例との対比]
以下に、ピストンリング溝の摩耗量確認試験を行った結果を示す表1及び図3を参照しつつ、本件発明の実施例と、それに対する比較例との対比を行う。
【0045】
【表1】
【0046】
表1及び図3より、特に、エンジン運転時間が10時間までの所謂馴染み期間において、実施例試料と比較例試料とでピストンリング溝の摩耗量に大きな差が生じる結果となった。例えば、表1より、エンジン運転時間10時間経過後において、実施例試料を用いた場合のピストンリング溝摩耗比が0.67であるのに対し、比較例試料を用いた場合のピストンリング溝摩耗比が7.19と大きな差異が生じている。そして、エンジン運転時間50時間経過後においては、実施例試料を用いた場合のピストンリング溝摩耗比が1.00であるのに対し、比較例試料を用いた場合のピストンリング溝摩耗比が9.69となり、その差異が更に拡大している。この結果より、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2が本件発明の条件範囲を満足するピストンリングであれば、馴染み期間中においてピストンとの間に凝着摩耗が発生し難く、長時間経過しても優れた凝着摩耗の抑制効果が発揮されることが実証された。すなわち、この結果に基づけば、馴染み期間中におけるピストンリングの表面の凝着の発生を抑制することで、その後凝着の発生が顕著となるのを防ぎ、ピストンリング溝の摩耗の促進を抑えることができると考えることができる。
【0047】
以上をふまえ、ピストンリングの表面に凝着が起こるのを抑制するのに更に好ましい条件について以下に検討していく。
【0048】
馴染み期間におけるピストンリングの凝着発生確認試験: なお、本凝着発生確認試験を実施するにあたり、具体的な構成として、本件出願人が先に提供した特開2008−76132号に開示の「ピストンリングとピストンリング溝との双方又はいずれか一方の摩耗を評価する摩耗試験装置」を採用した。そして、本凝着発生確認試験において、駆動源の駆動周波数を33Hz、リング溝底温度を200℃になるように温度制御を行った。また、ガス圧を0.5MPaになるように制御した。そして、潤滑油を1ml/30secの供給量で30分間供給後、1時間経過する毎に潤滑油の供給量を少なくしながら潤滑油を継続して供給した。そして、本凝着発生確認試験を行う時間は、25時間とした。但し、試験開始から25時間に達する前に凝着の進行を意味するブローバイの増加する現象が起こり、ブローバイ量の測定が不能となった場合には、その時点で試験を終了した。
【0049】
そして、本凝着発生確認試験では、上述した条件で、それぞれピストンリングの表面性状に関して異なる6種類の試料を用いて試験を行った。このとき、ピストンリングは、上述したピストンリング溝の摩耗量確認試験と同様に、トップリング、セカンドリング、オイルリングを組み合わせたものを使用し、当該セカンドリング及びオイルリングに関しては当該摩耗量確認試験で使用したものと同一のものとした。また、本凝着発生確認試験を実施するにあたり、ピストン相当部に関しても、当該摩耗量確認試験で使用したものと同一のものとした。そして、本凝着発生確認試験で用いるトップリングに関しては、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2の条件を除き、当該摩耗量確認試験で使用したものと同じ寸法形状のものを用いた。
【0050】
本凝着発生確認試験では、トップリングの上面及び下面の表面性状について、負荷長さ率Rmr2(Rmr(Co)=0.5%)を基準として、深さz(Co−Cn(μm))におけるRmr2の数値(%)の関係と凝着発生との関連について調査した。ここで、負荷長さ率Rmr2について、Rmr(Co)が0.5%である場合を基準としたのは、既に述べたように、経験則上、ピストンリングによるピストンリング溝に対する攻撃性を小さくし、凝着摩耗の発生を十分に抑制する効果を安定して得ることができるためである。
【0051】
表2には、本凝着発生確認試験を実施するに際し、この摩耗試験装置を用いて行った凝着摩耗確認試験の結果を示す。また、図4は、表2のデータをグラフ化したものであって、各試料における、負荷長さ率Rmr2(Rmr(Co)=0.5%)と摩耗深さz(Co−Cn(μm))との関係を示したグラフである。なお、表2には、本凝着発生確認試験を行った結果について、凝着発生無しを「○」、変色発生を「△」、凝着発生を「×」として表示した。また、本凝着発生確認試験を行った結果の判定基準に関しては、全5回の試験の結果中ピストンリングの上下面に、1回でも凝着が発生した場合及び3回以上変色が発生した場合をNG、それ以外をOKとした。ここで、変色とは、ピストンリングの上下面の損傷により現れるものであり、凝着発生はしていないが、その前兆として考えられるものである。
【0052】
【表2】
【0053】
[凝着発生確認試験評価結果]
表2に示されるように、本凝着発生確認試験の結果、試料1〜試料3の判定は、OKとなり、試料4〜試料6の判定はNGとなった。ここで、試料1〜試料3のピストンリングに関しては、トップリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2が本件発明の条件範囲内となる表面性状を備えるものである。一方、試料4〜試料6のピストンリングに関しては、トップリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2が本件発明の条件範囲外となる表面性状を備えたものである。従って、この結果からも上記ピストンリング溝の摩耗量確認試験と同様に、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2が本件発明の条件範囲を満足するピストンリングであれば、ピストンとの間に凝着摩耗が発生し難いことが実証された。
【0054】
そして、表2より、試料1及び試料2に関しては、全5回の試験の内、トップリングの上下面に1回も凝着が発生しなかった。また、試料3及び試料4に関しては、全5回の試験の内、トップリングの上下面に1回も凝着が発生しなかったものの、変色の発生が見受けられた。また、試料5及び試料6に関しては、全5回の試験の内、ピストンリングの上下面に凝着の発生及び変色の発生が見受けられた。ここで、試料3に関しては、変色の発生が2回のためOK、試料4に関しては、変色の発生が3回のためNGとなっている。この結果をふまえ図4を参照すると、深さz(Co−Cn(μm))の増加に伴う表面負荷長さ率Rmr2の数値(%)の増加率の大きい試料ほど凝着発生の抑制効果の大きいことが分かる。すなわち、試料3と試料4とのデータからOKとNGとの臨界値を定めるにあたって、図4を参酌することができる。
【0055】
図4をみるに、判定がOKである試料1〜試料3と、判定がNGである試料4〜試料6との違いが顕著に現れる要素として、各試料の深さz(Co−Cn(μm))とRmr2(%)との関係のデータ点に対して描かれる近似曲線の形状を考慮することが好ましい。例えば、図4に示す、深さz(Co−Cn(μm))と、0.1〜0.3の範囲内のRmr2(%)との関係のデータ点の内、当該深さz(Co−Cn(μm))が0.1と0.3との各当該Rmr2のデータ点を結ぶ直線を引き、この直線の傾きを考慮することで、良好な性能を安定的に得ることができるようになる。表2には、当該zが0.1μmと0.3μmとの各Rmr2(%)のデータ点を結んだ直線の傾きの数値を示している。表2より、当該直線の傾きは、試料1が360、試料2が140、試料3が107、試料4が51、試料5が24、試料6が15である。すなわち、この結果より、試料1〜試料3の直線の傾きが、試料4〜試料6の直線の傾きよりも大きくなっているのが分かる。
【0056】
従って、図4を参酌して試料3と試料4とのデータからOKとNGとの臨界値を定める場合には、深さz(Co−Cn(μm))が0.1と0.3との各当該Rmr2のデータ点を結ぶ直線の傾きから判断することが好ましい。そして、Rmr2(%)の条件においてみれば、図4及び表2より、OKとNGとの臨界値は、試料3の条件と試料4の条件との中間に設定すべきと判断できる。よって、この直線の傾きに関しても、試料3の107という傾きと、試料4の51という傾きの中間に臨界的傾きがあると考えるのが妥当である。そして、発明者等の経験からしても、この直線の傾きが80以上となると良好な結果が得られることが判明している。即ち、本件発明に係るピストンリングの上下面の表面性状は、負荷長さ率Rmr2が、Rmr(Co)を0.5%としたときの、深さz(Co−Cn(μm))との関係において、当該深さzが0.1μmと0.3μmとの各当該Rmr2のデータ点を結んだ直線の傾きが80以上とすることが好ましい。なお、図4には、この傾きが80の直線をイメージできるように、Y=80X+b(bは、zが0.1μmのときの素材毎に定まる固有値である。)の直線(図中破線)を外挿している。
【0057】
なお、本凝着発生確認試験においては、試料であるトップリングの材質を、上述したピストンリング溝の摩耗量確認試験と同様の17Cr鋼の他、13Cr鋼(JIS規格のSUS410材相当)を用いた試験も行った。しかし、本凝着発生確認試験の結果、トップリングの材質が13Cr鋼の場合も、表2に示す17Cr鋼の場合と同様の結果が得られた。
【0058】
以上のことから、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2が本件発明の条件範囲内となる表面性状のピストンリングを用いた場合には、長時間経過しても優れた凝着摩耗の抑制効果を発揮することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本件発明のピストンリングは、ピストンリングの上面及び下面における表面の負荷長さ率Rmr2(JIS B 0601:2001に準拠する)が、(0.5%,0.3μm)≧20%、及び(0.5%,0.4μm)≧40%の各条件を満足したことで、少なくともピストンリング溝の材質がスチール製又は鋳鉄製のピストンに装着した場合において、凝着摩耗の発生を十分に抑制することができる。従って、本件発明のピストンリングを採用すれば、あらゆるエンジン回転域でオイル消費を減少させることができるため、ハイパワー仕様エンジン等幅広いニーズに応えることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ピストンリング
2 ピストンリング上面
3 ピストンリング下面
4 ピストンリング摺動面
5 ピストン
6 ピストン溝
7 ピストン溝上側面
8 ピストン溝下側面
9 シリンダ
10 シリンダ内壁面
11 硬質層
12 耐摩耗層
図1
図2
図3
図4