特許第5794635号(P5794635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794635
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20150928BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   H05B6/12 308
   H05B6/44
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-7959(P2012-7959)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-149419(P2013-149419A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】松永 和久
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 慶喜
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/101202(WO,A1)
【文献】 特開2010−282782(JP,A)
【文献】 特開2009−231255(JP,A)
【文献】 特開2010−257996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/12
H05B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱コイルに高周波電流を通流して被加熱物に渦電流を生じさせることにより前記被加熱物を加熱する誘導加熱装置において、
前記加熱コイルを、
中心軸が被加熱物の底面に直交するように配置される中央コイルと、
前記中央コイルと同一平面上で前記中央コイルの周囲に均等に配置された複数の単位周辺コイルを、前記複数の単位周辺コイルが互いに隣接する部分における各単位周辺コイルの電流方向が同一となるよう直列に接続してなる周辺コイルと、
により構成し、
前記中央コイル及び前記周辺コイルに、時分割にて交互に交流電力を供給することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載した誘導加熱装置において、
前記中央コイルの中心軸と複数の単位周辺コイルの中心軸とが平行であることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した誘導加熱装置において、
前記単位周辺コイルの中心部に磁性体コアを配置したことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、
前記中央コイルまたは前記単位周辺コイルを、複数層に積層して構成したことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、
前記中央コイル及び前記単位周辺コイルの平面形状を、被加熱物の底面の平面形状に適合するように形成したことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、
前記中央コイルを複数に分割して形成したことを特徴とする誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁調理器等に適用される誘導加熱装置に関し、詳しくは、複数の加熱コイルを備えた誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の加熱コイルを備えた従来の電磁調理器としては、例えば、特許文献1,2に記載されたものが知られている。
図13は、特許文献1に記載された電磁調理器の誘導加熱部を示す平面図であり、10は内側コイル部10a及び外側コイル部10bからなる中央コイル、20a,20b,20c,20dは中央コイル10と同一平面上でその周囲に配置された周辺コイルである。図示されていないが、中央コイル10及び周辺コイル20a〜20dの上方(紙面の手前)には、調理鍋などの被加熱物が載置されるトッププレートが配置されており、中央コイル10及び周辺コイル20a〜20dに高周波電流を流すことで被加熱物の底面に渦電流を流し、そのジュール熱により被加熱物が加熱されるようになっている。
【0003】
図13において、周辺コイル20a,20b,20c,20dと中央コイル10との間に相互インダクタンスによる電磁結合があるため、周辺コイル20a,20b,20c,20dの中央コイル10に隣接する部分における電流方向が同一になるように、各コイルに個別に高周波電流が供給される。すなわち、図13において、Aは周辺コイル20a,20b,20c,20dの電流通流方向、Bは中央コイル10(外側コイル部10b)の電流通流方向である。
この従来技術においては、複数の周辺コイルを設けて中央コイル10の半径方向外側における被加熱物の発熱効率を増大させることで、温度分布の均一化を図っている。
【0004】
また、図14は、特許文献2に記載された電磁調理器の主要部を示す側面図であり、11は内側コイル、21は内側コイル11と同心状に配置された外側コイル、40は制御回路、50A,50Bは内側コイル11及び外側コイル21に高周波電流を流すための高周波電力発生回路、60はトッププレートである。
この従来技術では、内側コイル11及び外側コイル21に時分割で高周波電流を流すことにより、調理鍋の種類や底面の平面形状等に応じて全体的な加熱パターンを種々調節可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−90798号公報(段落[0015]〜[0022]、図1図4等)
【特許文献2】特許第2978069号公報(段落[0010]〜[0018]、図1図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された従来技術では、周辺コイル20a,20b,20c,20dの相互間の領域30a,30b,30c,30d(図13参照)において、隣り合う高周波電流が逆方向に流れるため、各コイルから発生する磁束が相互に打ち消し合ってしまい、被加熱物に対する加熱能力が低下するという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載された従来技術において、内側コイル11と外側コイル21との間には相互インダクタンスによる電磁結合があるため、通電するコイルの高周波電流の大きさによっては、他方のコイルにも電磁誘導により高周波電流が流れることになる。この場合、各コイル11,21を切り替えて交互に給電するには供給電圧の周波数を合わせたり同期をとる必要があるが、一般的には、誘起された高周波電流が減衰するまでにある程度の時間を要するため、一方のコイルから他方のコイルへ短時間で切り替えて給電することが困難であった。また、このように切替時間が長くなると、被加熱物の温度低下による熱効率の低下を招くという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の解決課題は、中央コイルと周辺コイルとの間の相互インダクタンスを小さくし、両コイル間の電磁的結合を弱くして各コイルへの給電を短時間で切り替え可能とした誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、加熱コイルに高周波電流を通流して被加熱物に渦電流を生じさせることにより前記被加熱物を加熱する誘導加熱装置において、
前記加熱コイルを、
中心軸が被加熱物の底面に直交するように配置される中央コイルと、
前記中央コイルと同一平面上で前記中央コイルの周囲に均等に配置された複数の単位周辺コイルを、前記複数の単位周辺コイルが互いに隣接する部分における各単位周辺コイルの電流方向が同一となるよう直列に接続してなる周辺コイルと、
により構成し、
前記中央コイル及び前記周辺コイルに、時分割にて交互に交流電力を供給するものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した誘導加熱装置において、前記中央コイルの中心軸と複数の単位周辺コイルの中心軸とが平行であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した誘導加熱装置において、前記単位周辺コイルの中心部に磁性体コアを配置したことを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、前記中央コイルまたは前記単位周辺コイルを、複数層に積層して構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、前記中央コイル及び前記単位周辺コイルの平面形状を、被加熱物の底面の平面形状に適合するように形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか1項に記載した誘導加熱装置において、
前記中央コイルを複数に分割して形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中央コイルと、その周囲に配置される複数の単位周辺コイルの直列接続回路からなる周辺コイルと、によって加熱コイルを構成し、これらの中央コイル及び周辺コイルに、時分割にて交互に交流電力を供給することにより、被加熱物の底面の温度分布を均一化しながら被加熱物を加熱することができる。
特に、二つの単位周辺コイルが隣接する部分における各コイルの電流方向が同一になるように複数の単位周辺コイルを直列接続することにより、特許文献1のような磁束の打ち消し合いを防ぎ、加熱効率を高めることができる。
また、中央コイルと単位周辺コイルとの間の相互インダクタンスを小さくすることにより、一方のコイルに給電したときに他方のコイルに誘導される高周波電流を低減することができ、両コイルを用いて交互に給電する際の迅速な切り替えを可能として被加熱物の温度低下を防止できる等の効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態における加熱コイルの平面図及び誘導加熱装置の主要部の断面図である。
図2】第1実施形態における中央コイル用のインバータ部の回路構成を、中央コイル及び周辺コイルと共に示した回路図である。
図3】第1実施形態における周辺コイル用のインバータ部の回路構成を、中央コイル及び周辺コイルと共に示した回路図である。
図4】第1実施形態における中央コイルによる加熱動作と周辺コイルによる加熱動作との状態遷移を示す説明図である。
図5】第1実施形態において、単位周辺コイルに高周波電流を流した場合に中央コイルに誘導される高周波電流を模式的に示した説明図である。
図6】第1実施形態において、中央コイルに高周波電流を流した場合に単位周辺コイルに誘導される高周波電流を模式的に示した説明図である。
図7】第1実施形態における中央コイル及び周辺コイルの自己インダクタンス、両コイルを和動接続した場合及び差動接続した場合の合成インダクタンス、並びに、両コイルの相互インダクタンスの測定結果を示す図である。
図8】第1実施形態により中央コイルと周辺コイルとに時分割で交互に給電して被加熱物を加熱した場合の温度分布を示す図である。
図9】本発明の第2実施形態を示す主要部の説明図である。
図10】本発明の第3実施形態を示す主要部の説明図である。
図11】本発明の第4実施形態における加熱コイルの平面図及び温度分布図である。
図12】本発明の第5実施形態における加熱コイルの平面図及び中央コイルによる温度分布図である。
図13】特許文献1に記載された従来技術の主要部を示す平面図である。
図14】特許文献2に記載された従来技術の主要部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電磁調理器用誘導加熱装置の主要部を示すもので、図1(a)は加熱コイルの平面図、図1(b)は図1(a)のX−X断面に相当する誘導加熱装置の主要部の断面図である。
【0018】
図1において、1はリッツ線を渦巻状に巻いた中央コイルであり、その周囲には、中央コイル1と同一平面上に、リッツ線を渦巻状に巻いた単位周辺コイル2a〜2lが均等に配置されている。これらの単位周辺コイル2a〜2lはすべて直列に接続されており、図1(b)では単位周辺コイル2a〜2lの直列接続回路の全体を周辺コイル2として示している。なお、単位周辺コイルの数は特に限定されず、中央コイル1の周囲に均等に配置可能であれば任意の複数でよい。
中央コイル1は、その中心軸が被加熱物の底面に直交するように配置されており、中央コイル1の中心軸と単位周辺コイル2a〜2lの中心軸とは平行になっている。これらの中央コイル1及び周辺コイル2により、加熱コイルが構成されている。
【0019】
4aは中央コイル1に交流電力を供給して高周波電流を流すためのインバータ部、4bは周辺コイル2に交流電力を供給して高周波電流を流すためのインバータ部である。インバータ部4a,4bは誘導加熱電源3に接続されており、誘導加熱電源3に内蔵された制御回路によって各インバータ部4a,4bを時分割で交互に駆動することで、中央コイル1及び周辺コイル2に高周波電流が時分割で交互に流れるようになっている。
なお、5は中央コイル1及び周辺コイル2の上方に配置されたトッププレート、6はトッププレート5に載置される調理鍋等の被加熱物である。
【0020】
図2図3は、インバータ部4a,4bの回路構成を中央コイル1及び周辺コイル2と共に示した回路図であり、図2ではインバータ部4aの出力電流経路を、図3ではインバータ部4bの出力電流経路を併せて図示してある。
図2図3に示すように、中央コイル1用のインバータ部4aはスイッチ部41〜44からなるフルブリッジ回路により構成され、周辺コイル2用のインバータ部4bはスイッチ部41,42,45,46からなるフルブリッジ回路により構成されており、インバータ部4a,4bはスイッチ部41,42からなる1個の上下アームを共用している。スイッチ部41〜46は、何れも還流ダイオードが逆並列に接続されたIGBT等のスイッチング素子にコンデンサを並列に接続して構成されており、スイッチ部43,44同士の接続点とスイッチ部45,46同士の接続点との間に、コンデンサ7,8を介して中央コイル1と周辺コイル2とが直列に接続されている。なお、スイッチ部41,42同士の接続点は、中央コイル1と周辺コイル2との接続点に接続されている。
【0021】
図2(a),(b)に示すように、インバータ部4aはスイッチ部41,44及びスイッチ部42,43を交互にオン、オフさせて中央コイル1に高周波電流を通流させ、図3(a),(b)に示すように、インバータ部4bはスイッチ部41,46及びスイッチ部42,45を交互にオン、オフさせて周辺コイル2に高周波電流を通流させる。
図2(a),(b)に示した中央コイル1による加熱動作と、図3(a),(b)に示した周辺コイル2による加熱動作とは、前述した誘導加熱電源3内の制御回路により交互に実行される。
【0022】
図4は、中央コイル1による加熱動作と周辺コイル2による加熱動作との間の状態遷移を示す説明図である。
図4において、まず、誘導加熱電源3の停止中は給電開始指令の入力待ちで待機している(ステップS1)。誘導加熱電源3に給電開始指令が入力されると、中央コイル1用のインバータ部4aを駆動させるため、インバータ部4bと共通するスイッチ部41,42も含めて制御回路からオン信号を送ることにより、図2(a),(b)に示した経路で中央コイル1に高周波電流が流れる(ステップS2)。そして、予め設定された動作時間を監視しながら、その時間を経過するまで中央コイル1への給電を継続する。
【0023】
次に、中央コイル1の動作時間が経過したら、図4のステップS2,S1間の加熱停止処理を経てインバータ部4aの駆動を停止し、中央コイル1に通流している高周波電流を遮断すると共に、誘導された高周波電流が周辺コイル2に流れていないかを確認し、周辺コイル2への給電可否を判断する(ステップS3)。
ステップS3において周辺コイル2への給電が可能と判断されれば、直ちに周辺コイル2用のインバータ部4bを駆動することにより、図3(a),(b)に示した経路で周辺コイル2に高周波電流を流し、周辺コイル2による加熱動作に移行する(ステップS4)。そして、前記同様に予め設定された動作時間を監視しながら、その時間を経過するまで周辺コイル2への給電を継続する。
なお、ステップS3において周辺コイル2への給電が不可と判断された場合には、ステップS3,S1間の加熱停止処理を経てインバータ部4bを停止状態のままで維持する。
【0024】
周辺コイル2による加熱動作を行った場合、周辺コイル2の動作時間が経過したら、ステップS4,S1間の加熱停止処理を経てインバータ部4bの駆動を停止し、周辺コイル2に通流している高周波電流を遮断すると共に、誘導された高周波電流が中央コイル1に流れていないかを確認し、中央コイル1への給電可否を判断する(ステップS5)。
なお、ステップS5において中央コイル1への給電が不可と判断された場合には、ステップS5,S1間の加熱停止処理を経てインバータ部4aを停止状態のままで維持する。
上記のような状態遷移制御を繰り返す(ステップS2→S3→S4→S5→S2→……)ことにより、中央コイル1と周辺コイル2との間で時分割にて交互に給電することが可能となる。
【0025】
図5は、周辺コイル2(一例として単位周辺コイル2a,2b,2c)に高周波電流を流した場合に中央コイル1に誘導される高周波電流を模式的に示した説明図である。
周辺コイル2に高周波電流を流した場合、単位周辺コイル2a,2b,2cには、互いに隣接する部分において図5に示す矢印のように同方向で高周波電流が流れるように各コイルを直列接続し、配置する。このとき、単位周辺コイル2a,2b,2cから発生する磁束は被加熱物6以外に中央コイル1にも鎖交するが、中央コイル1は単一の加熱コイルであり、個々の単位周辺コイル2a,2b,2cを流れる高周波電流によって中央コイル1に誘導される高周波電流(図5に破線にて示す)は互いに打ち消し合うため、中央コイル1に流れる高周波電流を抑制することができる。
【0026】
一方、図6は、中央コイル1に高周波電流を流した場合に単位周辺コイル2a,2b,2cに誘導される高周波電流を模式的に示した説明図である。
中央コイル1に高周波電流が流れると、中央コイル1から発生する磁束が単位周辺コイル2a,2b,2cに鎖交して高周波電流(図6に破線にて示す)が流れようとするが、図5に示したように、単位周辺コイル2a,2b,2cは互いに隣接する部分において高周波電流が同方向に流れるように直列接続されているため、図6に破線で示す高周波電流は互いに打ち消し合うことになり、単位周辺コイル2a,2b,2cに流れる高周波電流を抑制することができる。
【0027】
ここで、図7は、中央コイル1及び周辺コイル2の自己インダクタンス(図7(1))、中央コイル1と周辺コイル2とを和動接続した場合の合成インダクタンス(図7(2))、中央コイル1と周辺コイル2とを差動接続した場合の合成インダクタンス(図7(3))、及び、中央コイル1と周辺コイル2との相互インダクタンスの各測定結果を示しており、負荷条件として、コイルが空心の場合と直径を種々変化させた場合についてまとめたものである。
なお、図7において、Lは中央コイル1の自己インダクタンス、Lは周辺コイル2の自己インダクタンス、Mは相互インダクタンスである。
図7によれば、各コイル1,2の自己インダクタンスL,Lに対し、相互インダクタンスMの占める割合は約0.42〜0.59%であり、このように相互インダクタンスMを小さくすることによって各コイル1,2間の電磁的な結合を弱め、一方のコイルから他方のコイルに誘導される高周波電流を抑制することができる。
【0028】
次に、図8は、第1実施形態により中央コイル1と周辺コイル2とに時分割で交互に給電して被加熱物6を加熱した場合の温度分布を示す図であり、図8(a)は被加熱物6の底面に相当する平面図、図8(b)は図8(a)のY−Y断面に相当する誘導加熱装置の断面図である。なお、図8(a)では、中央コイル1及び単位周辺コイル2a〜2lの配置を透視的に示している。これらの図において、ハッチング部分は加熱部分を示す。
【0029】
前述したように、中央コイル1と周辺コイル2との間では、一方のコイルから発生した磁束が他方のコイルに影響することが少なく、相互インダクタンスが小さい。このため、中央コイル1に給電しているときに周辺コイル2による加熱範囲にある被加熱物6を加熱することがなく、逆に、周辺コイル2に給電しているときに中央コイル1による加熱範囲にある被加熱物6を加熱することもない。
このため、図8(a)に示すように、中央コイル1は直上にある被加熱物6のみを加熱する。また、周辺コイル2は、直上にある被加熱物6を加熱すると共に、図5に示したように互いに隣接する単位周辺コイルの相互間では磁束が強め合うことから、この部分(図8(a)におけるP部)も加熱することになる。なお、図8(a)におけるP部は余り加熱されない部分であるが、加熱部分の総面積に比べれば特に問題になることはない。
【0030】
上記のように、この実施形態においては、中央コイル1及び周辺コイル2への供給電力や給電時間を制御することにより、被加熱物6を特許文献1,2等の従来技術よりも均一に温度ムラなく加熱することができる。また、一方のコイルから他方のコイルに誘導される高周波電流を抑制することができるので、コイル相互間の給電の切り替えを短時間で行うことが可能である。
【0031】
図9は、本発明の第2実施形態を示す主要部の説明図であり、図9(a)は単位周辺コイル2a〜2lの平面図、図9(b)は図9(a)の中央断面に相当する誘導加熱装置の縦断面図である。
第1実施形態のように、1つの周辺コイル2を複数の単位周辺コイル2a〜2lの直列接続回路によって構成する場合、例えば特許文献2の如く単一の円環状の周辺コイルを用いる場合に比べて、周辺コイル2から発生した磁束のうち被加熱物6と鎖交する磁束量が減り、加熱効率が悪くなるおそれがある。従って、加熱効率を向上させるには、単位周辺コイル2a〜2lへの供給電力を増加せざるを得ない。
【0032】
上記の問題を解消するためには、図9に示すように、単位周辺コイル2a〜2lの中心部に強磁性体コア、例えばフェライトコア9を配置すれば良い。これにより、単位周辺コイル2a〜2lから発生する下方及び側方への漏れ磁束が中心部のフェライトコア9に集約されるので、単位周辺コイル2a〜2lと被加熱物6との磁気的結合を強めることができる。よって、周辺コイルへの供給電力を増加させる方法によらず、被加熱物6を効率よく加熱することが可能である。
【0033】
次に、図10は本発明の第3実施形態を示す主要部の説明図である。
図10(a),(b)に示す加熱コイル(中央コイル1または単位周辺コイル2a〜2l)を複数層に積層すると、加熱コイルから発生する磁界強度が大きくなる。すなわち、磁界強度をH、加熱コイルの巻数をN、加熱コイルに流れる高周波電流をI、加熱コイルの半径をrとすると、H=NI/2rにて表すことができ、被加熱物6に供給される電力は、抵抗×(NI/2r)となる。
従って、被加熱物6の抵抗が一定であり、供給電力を従来の誘導加熱装置と同等とした場合、図10(c)のように複数層に積層することにより増加させた巻数Nに反比例して、高周波電流Iを小さくすることができる。これにより、加熱コイルを構成するリッツ線や誘導加熱装置の冷却装置を小容量化、簡素化し、製品全体の低価格化を達成することができる。
【0034】
図11は本発明の第4実施形態を示すもので、加熱コイルの平面図(図11(a))、及び、被加熱物6の底面における温度分布図(図11(b))である。
この実施形態によれば、複数の単位周辺コイル2a〜2lの平面形状を例えば四角形にすることによって前述の図8におけるP部分のように加熱されにくい部分をなくし、被加熱物6の底面の温度分布を一層、均一化することができる。
【0035】
更に、図12は本発明の第5実施形態を示すもので、加熱コイルの平面図(図12(a))、及び、被加熱物6の底面における中央コイルによる温度分布図(図12(b))である。
前述した第1〜第4実施形態では、中央コイル1を単一の加熱コイルによって構成することを想定しているが、被加熱物6の形状や温度分布に応じて、図12(a)に示すように複数に分割した単位中央コイル1a〜1fを直列に接続して一つの中央コイル1を構成してもよい。
【0036】
これにより、単一の加熱コイルでは加熱しにくかった中心部(図12(b)におけるP部分)に、複数の単位中央コイル1a〜1fから発生した磁束を集約させることができ、被加熱物6の底面を万遍なく加熱することができる。なお、図12(b)における単位中央コイルの相互間のP部分では、図8(a)におけるP部分と同じ原理によって十分な加熱効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0037】
1:中央コイル
1a〜1f:単位中央コイル
2:周辺コイル
2a〜2l:単位周辺コイル
3:誘導加熱電源
4a,4b:インバータ部
5:トッププレート
6:被加熱物
7,8:コンデンサ
9:フェライトコア
41〜46:スイッチ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14