【実施例】
【0051】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0052】
(1)油滴の安定性
水に分散した置換チオフェンの油滴の安定性を調査するため、以下の実験を行った。
【0053】
実験1
ガラス容器に水50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、第1分散工程として、周波数20kHz、出力44W/cm
2の超音波を5分間照射し、乳濁分散液を得た。この乳濁分散液に、第2分散工程として、さらに周波数1.6MHz、出力16W/cm
2の超音波を5分間照射し、第1の透明分散液を得、次いでさらに周波数2.4MHz、出力7W/cm
2の超音波を5分間照射し、第2の透明分散液を得た。
【0054】
乳濁分散液、第1の透明分散液、及び、第2の透明分散液のそれぞれについて、25℃で、動的光散乱法によりEDOT油滴のサイズ(直径)を測定し、電気泳動光散乱法によりゼータ電位を測定し、さらにpHを測定した。結果を表1に示す。第1分散工程に続いて第2分散工程を実施すると、油滴の平均サイズが大幅に減少し、pHが低下し、ゼータ電位の絶対値が大きくなった。また、第2分散工程を周波数及び出力が異なる超音波を使用して2回行うと、油滴の平均サイズがさらに減少し、pHがさらに低下し、ゼータ電位の絶対値がさらに大きくなった。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、油滴の反発力が強くなり、したがって油滴の安定性が高くなるが、表1の結果より、第1分散工程に続いて第2分散工程を実施することにより、油滴の凝集が阻害された安定な分散液が得られ、第2分散工程を2回実施することにより、油滴の凝集がさらに阻害されたさらに安定な分散液が得られたことがわかる。本発明の重合液の透明性が長時間維持されるのは、このゼータ電位の絶対値の増加に起因していると考えられる。
【0055】
【表1】
【0056】
実験2
0.14gのEDOTに代えて0.144gの3,4−ジメトキシチオフェン(濃度0.02M)を使用し、実験1の手順を繰り返した。乳濁分散液、第1の透明分散液、及び、第2の透明分散液のそれぞれについて測定した油滴の平均サイズ、ゼータ電位、及びpHの値を表2に示す。表2から、3,4−ジメトキシチオフェンを水に分散させた分散液においても、EDOTを水に分散させた分散液の場合と同様に、第1分散工程に続いて第2分散工程を実施することにより、油滴の凝集が阻害された安定な分散液が得られ、第2分散工程を2回実施することにより、油滴の凝集がさらに阻害されたさらに安定な分散液が得られたことがわかる。
【0057】
【表2】
【0058】
(2)重合液の調製
実施例1
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0059】
実施例2
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0060】
実施例3
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数15kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数2.4MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0061】
実施例4
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数200kHz、出力50W/cm
2の超音波を30分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数2.4MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0062】
実施例5
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.0MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0063】
実施例6
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数4.0MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0064】
比較例1
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水相から相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。
【0065】
比較例2
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数10kHz、出力8W/cm
2の超音波を5分間照射したが、EDOTの油滴が水中に高分散状態で存在している乳濁分散液が得られず、EDOTの一部が容器底部に残留していた。この液に、周波数2.4MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したが、分散液は乳濁していた。
【0066】
比較例3
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数250kHz、出力50W/cm
2の超音波を30分間照射したが、EDOTの油滴が水中に高分散状態で存在している乳濁分散液が得られず、EDOTの一部が容器底部に残留していた。この液に、周波数2.4MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したが、分散液は乳濁していた。
【0067】
比較例4
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数800kHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したが、分散液は乳濁していた。
【0068】
比較例5
ガラス容器に濃度1Mの過塩素酸リチウム水溶液50mLを導入し、この液にEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数5MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間照射したが、分散液は乳濁していた。
【0069】
実施例1、実施例2、及び比較例1の重合液について、超音波分散直後に、25℃で動的光散乱法によりEDOT油滴のサイズを測定した。
図1に、油滴サイズの分布を示す。ライン1は実施例1の重合液の測定結果を、ライン2は実施例2の重合液の測定結果を、ライン3は比較例1の重合液の測定結果をそれぞれ示す。いずれの重合液においても、油滴サイズの分布が狭く、EDOT油滴の平均サイズは、実施例1の重合液においては79.2nm、実施例2の重合液においては187nm、比較例1の重合液においては335nmであった。また、実施例1の重合液では、全数の99.6%の油滴が250nm以下の直径を有しており、全数の84.2%の油滴が100nm以下の直径を有していた。実施例2の重合液では、全数の95.7%の油滴が250nm以下の直径を有していたが、100nm以下の直径を有する油滴は存在しなかった。これに対し、比較例1の重合液では、全ての油滴が250nmを超える直径を有していた。また、0.14gのEDOTに代えて0.144gの3,4−ジメトキシチオフェンを使用して実施例1の手順を繰り返したが、実施例1の重合液と同様に透明な分散液が得られ、この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。
【0070】
(3)電解重合1:密度及び電導度の測定
実施例7
実施例1の重合液に、作用極としての2cm×2cmの面積を有する白金電極、対極としての4cm×4cmの面積を有する白金電極、及び参照電極としての飽和カロメル電極を導入し、1.4Vで定電位電解重合を行った。通電電荷量は、0.2C/cm
2に規制した。重合後のPEDOTフィルムをエタノールで洗浄した後、常温で2時間放置することにより乾燥した。得られたPEDOTフィルムについて、膜厚を段差計により測定し、通電電荷量から概算した重量と実測した膜厚から、概算密度を算出した。さらに、4探針法により電導度を測定した。膜厚、概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0071】
実施例8
実施例1の重合液の代わりに実施例2の重合液を使用し、実施例7の手順を繰り返した。膜厚、概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0072】
比較例6
実施例1の重合液の代わりに比較例1の重合液を使用し、実施例7の手順を繰り返した。膜厚、概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0073】
比較例7
実施例1の重合液の代わりに、濃度1Mの過塩素酸テトラブチルアンモニウムを溶解したアセトニトリル50mLにEDOTを0.14g(濃度0.02M)溶解させた重合液を用いて、実施例7の手順を繰り返した。膜厚、概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0074】
比較例8
実施例1の重合液の代わりに、濃度0.1Mのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを溶解した水溶液50mLにEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射した重合液を用いて、実施例7の手順を繰り返した。膜厚、概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0075】
比較例9
実施例1の重合液の代わりに、濃度0.1Mのポリスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解した水溶液50mLにEDOTを0.14g(濃度0.02M)添加し、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射した重合液を用いて、実施例7の手順を繰り返した。膜厚、算出した概算密度、及び電導度の値を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3から明らかなように、透明分散液を重合に用いた実施例7,8のPEDOTフィルムは、乳濁分散液を重合に用いた比較例6のPEDOTフィルムに比較して、大幅に増大した密度と大幅に増大した電導度を有している。また、実施例7と実施例8の比較から、第2分散工程を2回行い、透明分散液中のEDOT油滴のサイズを小さくするほど、高密度のフィルムが得られ、電導度が増大することがわかった。特に、EDOTの油滴数の84.2%が100nm以下の直径を有する重合液を用いた実施例7のPEDOTフィルムは、極めて高い電導度を示した。さらに、実施例7,8のPEDOTフィルムは、従来の界面活性剤を含む水性重合液を用いた比較例8,9のPEDOTフィルムに比較して、同等以上の密度を示す上に、極めて高い電導度を示した。
【0078】
実施例7,8のPEDOTフィルムは、従来のアセトニトリルを溶媒とした重合液を用いた比較例7のPEDOTフィルムと比較して、密度は同等以上であったが、電導度の値については、実施例8のPEDOTフィルムは比較例7のPEDOTフィルムに及ばなかった。これは、重合過程で生成するオリゴマー(プレポリマー)がアセトニトリルには溶解するが水には溶解しないため、水媒体中でのポリマーの鎖伸長が抑制され、その結果、実施例7,8のPEDOTの重合度が比較例7のPEDOTの重合度より低くなることが影響していると思われる。また、実施例1の重合液に代えて0.144gの3,4−ジメトキシチオフェンの油滴を含む透明分散液を用いて実施例7の手順を繰り返したが、実施例7と略同一の電導度を示すポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)のフィルムが得られた。
【0079】
(4)電解重合2:電導度の熱安定性
PEDOTフィルムについて150℃での熱エージングを行うことにより、電導度の熱安定性を評価した。この際、PEDOTフィルムを積層するための基体として、ITOガラス電極のような表面酸素を多く含む基体を使用すると、熱エージングの過程で基体上の酸素がPEDOTフィルムに移動し、この酸素がPEDOTフィルムの熱劣化を引き起こす可能性があることから、PEDOTフィルムを積層するための基体として、表面酸素をほとんど有しないエポキシ樹脂層を表面に備えた基体を使用した。
【0080】
実施例9
投影面積1×1cm
2に打ち抜いたアルミニウム箔の表面にエポキシ樹脂を塗布することにより、表面に絶縁層を有する基体を得た。この基体を、20質量%のEDOTを含むエタノール溶液に浸漬し、室温で乾燥した後、さらに酸化剤であるパラトルエンスルホン酸鉄(III)を20質量%の濃度で含むエタノール溶液に浸漬し、室温で乾燥後、高温処理した。この化学酸化重合工程を繰り返し、基体のエポキシ樹脂層上にPEDOTの化学重合膜を形成した。
【0081】
実施例1の重合液に、作用極としての上記化学重合膜を備えた基体、対極としての4cm×4cmの面積を有する白金電極、及び参照電極としての飽和カロメル電極を導入し、0.5mA/cm
2の電流条件で定電流電解重合を行った。通電電荷量は、0.2C/cm
2に規制した。得られた電解重合膜と化学重合膜との複合層を有する基体をエタノールで洗浄した後、160℃で30分放置することにより乾燥した。
【0082】
基体上のPEDOT複合層について、4探針法により電導度を測定した。次いで、この複合層を有する基体について大気中、150℃にて熱エージングを行い、100時間後、200時間後、及び300時間後に電導度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0083】
比較例10
投影面積1×1cm
2に打ち抜いたアルミニウム箔の表面にエポキシ樹脂を塗布することにより、表面に絶縁層を有する基体を得た後、実施例9と同様の方法によりエポキシ樹脂層上にPEDOTの化学重合膜を形成した。この基体上のPEDOT化学重合膜について、4探針法により電導度を測定した。次いで、この化学重合膜を有する基体について大気中、150℃にて熱エージングを行い、100時間後、200時間後、及び300時間後に電導度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
比較例10のPEDOT化学重合膜の電導度は、150℃の高温を経験することにより急速に低下し、150℃の温度を300時間経験した後には、電導度が初期値の1.25×10
−4倍にまで低下した。これに対し、実施例9のPEDOT複合層の150℃の温度を300時間経験した後の電導度は初期値の7.5×10
−2倍であり、本発明のPEDOTフィルムが熱安定性に優れていることがわかる。
【0086】
(5)電解重合3:電気容量の測定
実施例10
実施例1の重合液に、作用極としての表面積0.06cm
2の白金ロッド電極、対極としての4cm×4cmの面積を有する白金電極、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、50μA/cm
2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。通電電荷量は、50mC/cm
2である。重合後の作用極を水及びエタノールで洗浄した後、30分常温で放置することにより乾燥した。次いで、乾燥後の作用極を濃度1Mの硫酸ナトリウム水溶液に導入し、電圧範囲0V〜0.6V、走査速度10mV/秒の条件下でサイクリックボルタモグラムの測定を行い、PEDOTフィルムの電気化学容量を測定した。結果を表5に示す。
【0087】
比較例11
実施例1の重合液の代わりに比較例1の重合液を使用し、実施例10の手順を繰り返した。結果を表5に示す。
【0088】
比較例12
実施例1の重合液の代わりに、比較例7で用いた重合液を使用し、実施例10の手順を繰り返した。結果を表5に示す。
【0089】
比較例13
実施例1の重合液の代わりに、比較例8で用いた重合液を使用し、実施例10の手順を繰り返した。結果を表5に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
実施例10、比較例11の界面活性剤を含まない水性重合液から得られたPEDOTフィルムは、比較例12のアセトニトリルを溶媒とした重合液を用いたPEDOTフィルムには及ばないものの、比較例13の界面活性剤を含む水性重合液から得られたPEDOTフィルムより高い電気化学容量を示した。また、実施例10及び比較例11の比較から、透明分散液を重合に用いたPEDOTフィルムは、乳濁分散液を重合に用いたPEDOTフィルムよりも、大きな電気化学容量を有することがわかった。
【0092】
(6)電解重合4:PEDOTフィルムの吸光度及びSEM写真
実施例11
実施例1の重合液に、作用極としての1cm×1cmの面積を有するITOガラス電極、対極としての4cm×4cmの面積を有する白金電極、及び参照電極としての飽和カロメル電極を導入し、1.4Vで定電位電解重合を行った。通電電荷量は、0.2C/cm
2に規制した。重合後のPEDOTフィルムをエタノールで洗浄した後、常温で2時間放置することにより乾燥した。次いで、乾燥後のPEDOTフィルムを備えたITOガラス電極について、可視紫外分光光度計を用いて吸光度を測定した。ITOガラス電極のみについても測定し、ブランクとした。また、ITOガラス電極上のPEDOTフィルムのSEM写真を倍率1000倍及び5000倍で撮影した。
【0093】
実施例12
実施例1の重合液の代わりに実施例2の重合液を使用し、実施例11の手順を繰り返した。
【0094】
比較例14
実施例1の重合液の代わりに比較例1の重合液を使用し、実施例11の手順を繰り返した。
【0095】
比較例15
実施例1の重合液の代わりに、比較例7で用いた重合液を使用し、実施例11の手順を繰り返した。
【0096】
図2は、実施例11,12及び比較例14,15のPEDOTフィルムを備えたITOガラス電極についての、可視紫外領域における吸光度を示した図である。ライン4は実施例11における結果を、ライン5は実施例12における結果を、ライン6は比較例14における結果を、ライン7は比較例15における結果を示す。実施例11,12におけるPEDOTフィルムは、比較例14,15におけるPEDOTフィルムより低い吸光度を有しており、透明性に優れていることが分かる。また、実施例11,12の比較から、第2分散工程を2回行い、透明分散液中のEDOT油滴のサイズを小さくするほど、フィルムの透明性が向上することがわかった。
【0097】
また、界面活性剤を含まない水性重合液を用いた実施例11,12及び比較例14におけるPEDOTフィルムは、従来のアセトニトリルを溶媒とした重合液を用いた比較例15のPEDOTフィルムと比較して、短波長側に吸収ピークを有しているが、これは、上述したように、重合過程で生成するオリゴマー(プレポリマー)がアセトニトリルには溶解するが水には溶解しないため、水媒体中でのポリマーの鎖伸長が抑制され、その結果、実施例11,12及び比較例14におけるPEDOTの重合度が比較例15におけるPEDOTの重合度より低くなるためであると思われる。
【0098】
図3は実施例11におけるPEDOTフィルムのSEM写真であり、
図4は比較例14におけるPEDOTフィルムのSEM写真であり、
図5は比較例15におけるPEDOTフィルムのSEM写真である。各図において、a)は倍率1000倍の写真であり、b)は倍率5000倍の写真である。
【0099】
図3と
図4から、界面活性剤を含まない水性重合液から、球状粒子が緻密に充填されたPEDOTフィルムが得られていることがわかる。また、重合液中のモノマー油滴のサイズが小さいほど、PEDOTの粒子サイズが小さく、重合液中のモノマー油滴のサイズとPEDOTの粒子サイズとは略同等であった。本発明では、この緻密な粒子が充填されたフィルムが得られ、このことがフィルムの高い電導度、高い電気化学容量と、透明性とをもたらしているものと考えられる。
【0100】
アセトニトリルを溶媒とした重合液から得られたPEDOTフィルムのSEM写真(
図5)から、PEDOT粒子が一部アセトニトリルに溶解している様子が観察された。このことが、PEDOTフィルムの透明性を低下させている原因であると思われる。また、実施例1の重合液に代えて0.144gの3,4−ジメトキシチオフェンの油滴を含む透明分散液を用いて実施例11の手順を繰り返し、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)のフィルムを備えたITOガラス電極について、可視紫外分光光度計を用いて吸光度を測定したが、実施例11と略同一の吸光度を示す導電性ポリマーフィルムが得られた。
【0101】
(7)電解重合5:自立性PEDOTフィルムの光透過率
実施例13
実施例1の重合液に、作用極としての1cm×3cmの面積を有するITOガラス電極、対極としての2cm×2cmの面積を有する白金電極、及び参照電極としての飽和カロメル電極を導入し、1.4Vで定電位電解重合を行った。通電電荷量は、0.05C/cm
2に規制した。重合後のPEDOTフィルムをアセトニトリルで洗浄した後、減圧下で乾燥した。次いで、PEDOTフィルムをITOガラス電極から剥離し、得られた自立性フィルムの光透過率を可視紫外分光光度計により測定した。
【0102】
比較例16
実施例1の重合液の代わりに比較例1の重合液を使用し、実施例13の手順を繰り返した。
【0103】
比較例17
実施例1の重合液の代わりに、比較例7で用いた重合液を使用し、実施例13の手順を繰り返した。
【0104】
図6は、実施例13及び比較例16,17の自立性PEDOTフィルムについての、可視紫外領域における透過率を示した図である。ライン8は比較例17における結果を、ライン9は比較例16における結果を、ライン10は実施例13における結果を示す。実施例13のPEDOTフィルムは、比較例16,17のPEDOTフィルムより高い光透過率を有しており、透明性に優れていることが分かる。実施例13のPEDOTフィルムは主に100nm以下のPEDOT粒子から構成されているため、可視光が散乱することなく容易に透過する。
【0105】
(8)電解重合6:透明ガラスPEDOT導電膜の熱安定性
実施例14
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.140g(濃度0.02M)添加し、EDOTが水と相分離した液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。この液は、常温で2日間放置しても、透明な状態を保っていた。この液に、ボロジサリチル酸アンモニウムを0.08Mの濃度で溶解させ、重合液を得た。
【0106】
得られた重合液に、作用極としての1cm
2の面積を有するITO電極、対極としての4cm
2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm
2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、透明ガラスPEDOT導電膜を得た。
【0107】
実施例15
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOTを0.210g(濃度0.03M)添加し、EDOTが水と相分離している液を得た。この液に、周波数20kHz、出力22.6W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、水にEDOTが油滴として分散した乳濁分散液が得られた。この乳濁分散液に、周波数1.6MHz、出力22W/cm
2の超音波を5分間、次いで周波数2.4MHz、出力7.1W/cm
2の超音波を5分間照射したところ、透明分散液が得られた。次いで、この液に、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを0.08Mの濃度で溶解させ、重合液を得た。
【0108】
得られた重合液に、作用極としての1cm
2の面積を有するITO電極、対極としての4cm
2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm
2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、透明ガラスPEDOT導電膜を得た。
【0109】
実施例14,15の重合液で使用した支持電解質については、事前に界面活性剤として作用しうるかを以下の方法により確認した。水に各実施例で使用した量のEDOTと支持電解質とを添加し、機械的に撹拌した後、静置した。その結果、速やかに水とEDOTが相分離し、これらの支持電解質が界面活性剤として作用していないことが確認された。
【0110】
比較例18
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、この液にEDOT0.14g(濃度0.02M)と、スルホン酸塩基を有する界面活性剤であるブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム1.08g(濃度0.08M)とを添加し、25℃で60分間攪拌して重合液を得た。得られた重合液に、作用極としての1cm
2の面積を有するITO電極、対極としての4cm
2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、10μA/cm
2の条件で定電流電解重合を60秒間行った。重合後の作用極をメタノールで洗浄した後、150℃で30分間乾燥し、透明ガラスPEDOT導電膜を得た。
【0111】
比較例19
1cm
2の面積を有するITO電極上に、市販のPEDOTとポリスチレンスルホン酸(PSS)との複合体を含むディスパージョン(商品名バイトロンP、スタルク社製)の100μLをキャストし、5000rpmの回転数で30秒間スピンコートを行った。次いで、150℃で30分間乾燥し、透明ガラスPEDOT導電膜を得た。
【0112】
実施例14,15及び比較例18,19の透明ガラスPEDOT導電膜の電気化学的活性をサイクリックボルタモグラムにより評価した。電解液としての1Mの硫酸ナトリウムを溶解した水溶液に、作用極としての実施例14,15及び比較例18,19のいずれかの透明ガラスPEDOT導電膜、対極としての4cm
2の面積を有する白金メッシュ、及び参照電極としての銀−塩化銀電極を導入し、走査電位範囲を−0.4〜+0.6Vとし、走査速度を10mV/sとして評価した。次いで、透明ガラスPEDOT導電膜を電解液から取り出し、洗浄後、空気中、150℃で330時間熱エージングを行い、再度電気化学的活性をサイクリックボルタモグラムにより評価した。
【0113】
図7〜10に、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを示す。
図7は、実施例14(ボロジサリチル酸ナトリウム使用)の透明ガラスPEDOT導電膜のサイクリックボルタモグラムを示しており、
図8は、実施例15(ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウム使用)の透明ガラスPEDOT導電膜のサイクリックボルタモグラムを示しており、
図9は、比較例18(ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム使用)の透明ガラスPEDOT導電膜のサイクリックボルタモグラムを示しており、
図10は、比較例19(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム使用)の透明ガラスPEDOT導電膜のサイクリックボルタモグラムを示している。(A)は初期のサイクリックボルタモグラム、(B)は熱エージング後のサイクリックボルタモグラムである。
【0114】
初期のサイクリックボルタモグラムを参照すると、比較例19の透明ガラスPEDOT導電膜は、他の導電膜に比較して電流応答が著しく小さく、電気化学的活性に乏しいものであることがわかる。また、熱エージング前後のサイクリックボルタモグラムを参照すると、実施例14,15の透明ガラスPEDOT導電膜は、比較例18,19の透明ガラスPEDOT導電膜に比較して、熱経験による電流応答の減少が著しく小さいことがわかる。したがって、本発明のPEDOT導電膜が、電気化学的活性に優れ、耐熱性にも優れることがわかった。
【0115】
従来、水難溶性のEDOTの水中濃度を高めるために、スルホン酸基又はスルホン酸塩基を有するアニオン系界面活性剤が支持電解質として多用されており、また、これらの界面活性剤のアニオンがドープされたPEDOTフィルムが、ドーパントの嵩高さにより脱ドープが抑制されるため、熱耐久性に優れることが報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例14,15の導電膜は、比較例18の導電膜(ドーパント;ブチルナフタレンスルホン酸イオン)及び比較例19の導電膜(ドーパント;ポリスチレンスルホン酸イオン)より、さらに優れた耐熱性を有していた。特に、支持電解質としてビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド酸ナトリウムを含む重合液から得られた実施例15の導電膜は、極めて優れた熱安定性を示した。