(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示されているサーマルヘッドにおいて、紙当たりを向上させるための凸部は、複数の発熱抵抗体を横断するように一体的に形成されているため、以下の不都合がある。
(1)発熱された熱は凸部の下方向だけでなく、凸部の左右方向(複数の発熱抵抗体の配列方向)へも逃げてしまい、サーマルヘッドの熱効率を低下させてしまう。
【0006】
(2)感熱紙やインクリボン等への圧接力は常に高い状態で密着しているため、長期間の放置(駆動しない状態)や、高温で溶融された記録メディアの発色層が急激に冷却されることで固着(スティッキング)が発生し、サーマルヘッドが駆動できなくなる場合がある。
【0007】
(3)感熱紙やインクリボン等に異物(砂粒や紙粉等)が付着した場合、強い圧接力により凸部と擦られて排出されるため、保護膜層を著しく摩耗させてしまう。また、凸部近傍に異物が堆積するため、熱容量が増加して印字品質の低下が生じてしまう。さらに、感熱紙の場合は、印字面に引っ掻き傷を付けてしまう。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、熱効率を向上するとともに、印字品質および信頼性を向上することができるサーマルヘッドおよびこれを備えるプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、
その表面に、複数の凸部が
前記表面に沿う方向に間隔をあけ
て形成された基板と、該基板の表面における各前記凸部を跨ぐ位置に設けられた複数の発熱抵抗体と、該複数の発熱抵抗体の両側にそれぞれ設けられた一対の電極とを備え、
前記表面に沿う方向に隣接する前記凸部の間に凹部がそれぞれ形成され、
前記凸部の、前記基板の厚さ方向における縦断面形状が、台形であり、前記凸部の、前記基板の表面に沿う方向における横断面形状が、矩形であり、前記凸部の、前記基板の厚さ方向の高さが、前記電極の厚さ以上であるサーマルヘッドである。
【0010】
本発明に係るサーマルヘッドは、基板の表面において、発熱抵抗体の両側の一対の電極間に凸部が形成されている。これにより、凸部の表面上に形成された発熱抵抗体(発熱部)と、発熱抵抗体の両端に設けられた電極との段差を小さくすることができ、発熱部表面と感熱紙との間の空気層を小さくすることができる。したがって、本発明に係るサーマルヘッドによれば、発熱抵抗体により発生させた熱を感熱紙に効率的に伝達することができ、サーマルヘッドの熱効率を向上して印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。
【0011】
この場合において、本発明に係るサーマルヘッドによれば、隣接する凸部の間に凹部がそれぞれ形成されているため、凸部における発熱抵抗体の配列方向への熱の逃げを抑えることができ、さらに熱効率を向上することができる。
【0012】
また、凸部を部分的に形成することで、発熱部と感熱紙あるいはインクリボンとの接触が部分的になるため、サーマルヘッドが固着してしまった場合にも、従来のサーマルヘッドよりも少ない力で固着を解除することができ、サーマルヘッドの信頼性を向上することができる。
【0013】
また、感熱紙やインクリボンの送りと共に巻き込まれた空気は、隣接する凸部の間の凹部を通り抜けるため、この空気と共に異物(砂粒や紙粉等)も凹部を通過する。これにより、異物の発熱部(凸部)への付着を防止して、印字面における傷等の発生を防止して印字品質を向上するとともに、保護膜層の摩耗を防止することができ、サーマルヘッドの耐久性を向上することができる。
【0014】
さらに、感熱紙やインクリボン等への総接触面積が小さくなるため、従来のサーマルヘッドと同じ接触圧力(単位面積当たり)とする場合には、プラテンローラからの荷重を下げることができる。ここで、摩擦力は接触面積によらないため(クーロンの摩擦法則)、以下の式に示すように、感熱紙やインクリボン等への摩擦力を低下させることができ、紙送りトルクを小さくすることができる。
摩擦力F=摩擦係数μ×プラテンローラからの荷重N
これにより、紙送り走行音の低減や、駆動モーターの低消費電力化あるいは小型化を図ることができる。
【0015】
上記のサーマルヘッドにおいて、前記基板の裏面に積層状態に接合される支持基板を備え、前記基板と前記支持基板の少なくとも一方に、前記発熱抵抗体に対応する領域に空洞部が形成されていることとしてもよい。
支持基板と基板の少なくとも一方に形成された空洞部は、発熱抵抗体に対応する領域に形成されており、発熱抵抗体から発生した熱を遮断する断熱層として機能する。したがって、このような空洞部を設けることで、発熱抵抗体から発生した熱が、基板を介して支持基板へ伝わって放散してしまうことを抑制することができ、発熱抵抗体から発生した熱の利用率、すなわちサーマルヘッドの熱効率を向上することができる。
【0016】
上記のサーマルヘッドにおいて、前記空洞部が、各前記発熱抵抗体に対応して複数形成されていることとしてもよい。
このように発熱抵抗体に対応して空洞部をそれぞれ形成することで、各発熱抵抗体から発生した熱をそれぞれ遮断することができ、効果的にサーマルヘッドの熱効率を向上することができる。また、サーマルヘッド全体における空洞部の総面積を小さくすることができるので、サーマルヘッドの強度を向上することができる。
【0017】
上記のサーマルヘッドにおいて、前記空洞部が、複数の前記発熱抵抗体に対応する領域を連通するように形成されていることとしてもよい。
このように空洞部を連通構造とすることで、空洞部を容易に形成することができ、簡易的な製造方法で熱効率の高いサーマルヘッドを製造することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0018】
上記のサーマルヘッド
の参考例において、前記凸部が、流線型に形成されていることとしてもよい。また、上記のサーマルヘッド
の参考例において、前記凸部が、多角形に形成されていることとしてもよい。
隣接する凸部の間の凹部における空気の流れがよりスムーズになるように、凸部を流線型や多角形に形成することで、凹部における異物の通り抜けもスムーズに行うことができ、凸部近傍における異物の堆積を効果的に防止することができる。
【0019】
本発明の第2の態様は、上記のサーマルヘッドと、該サーマルヘッドの前記発熱抵抗体に感熱記録媒体を押し付けながら送り出す加圧機構とを備えるプリンタである。
このようなプリンタによれば、上記のサーマルヘッドを備えているため、基板の強度を確保しつつ、サーマルヘッドの熱効率を向上して印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。これにより、少ない電力で感熱記録媒体に印刷することができ、バッテリーの持続時間を長期化させることができる。さらに、加圧機構からの荷重を小さくすることができ、紙送り走行音の低減や、駆動モーターの低消費電力化あるいは小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱効率を向上するとともに、印字品質および信頼性を向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係るサーマルヘッド1およびサーマルプリンタ10について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド1は、例えば
図1に示すようなサーマルプリンタ10に用いられており、印刷データに基づいて複数の発熱素子を選択的に駆動することによって感熱紙12等の印刷対象物に印刷を行うものである。
【0023】
サーマルプリンタ10は、本体フレーム11と、中心軸が水平に配置されるプラテンローラ13と、プラテンローラ13の外周面に対向して配置されるサーマルヘッド1と、サーマルヘッド1を支持している放熱板(図示略)と、プラテンローラ13とサーマルヘッド1との間に感熱紙12を送り出す紙送り機構17と、サーマルヘッド1を感熱紙12に対して所定の押圧力で押し付ける加圧機構19とを備えている。
【0024】
プラテンローラ13には、加圧機構19の作動により、サーマルヘッド1および感熱紙12が押し付けられるようになっている。これにより、プラテンローラ13からの反力が感熱紙12を介してサーマルヘッド1に加えられるようになっている。
放熱板は、例えば、アルミ等の金属、樹脂、セラミックスまたはガラス等からなる板状部材であり、サーマルヘッド1の固定および放熱を目的とするものである。
【0025】
サーマルヘッド1は、
図2に示すように、発熱抵抗体7および電極8が、矩形状の支持基板3の長手方向に複数配列されている。矢印Yは、紙送り機構17による感熱紙12の送り方向を示している。また、支持基板3の表面には、支持基板3の長手方向に延びる矩形状の凹部2が形成されている。
【0026】
図2のA−A矢視断面図が
図3に、
図2のB−B矢視断面図が
図4にそれぞれ示されている。
サーマルヘッド1は、
図3に示すように、支持基板3と、支持基板3の上端面(表面)に接合された上板基板5と、上板基板5上に設けられた発熱抵抗体7と、発熱抵抗体7の両側に設けられた一対の電極8と、発熱抵抗体7および電極8を覆い、これらを磨耗や腐食から保護する保護膜9とを有している。
【0027】
支持基板3は、例えば、300μm〜1mm程度の厚さを有するガラス基板やシリコン基板等の絶縁性の基板である。支持基板3の上端面(表面)、すなわち上板基板5との境界面には、支持基板3の長手方向に延びる矩形状の凹部2が形成されている。この凹部2は、例えば、深さ1μm〜100μm、幅50μm〜300μm程度の溝である。
【0028】
上板基板5は、例えば厚さ10μm〜100μm程度のガラス材質によって構成されており、発熱抵抗体7から発生した熱を蓄える蓄熱層として機能する。この上板基板5は、凹部2を密閉するように支持基板3の表面に積層状態に接合されている。上板基板5によって凹部2が覆われることにより、上板基板5と支持基板3との間には空洞部4が形成されている。
【0029】
空洞部4は、全ての発熱抵抗体7に対向する連通構造を有しており、発熱抵抗体7から発生した熱が、上板基板5から支持基板3へ伝わることを抑制する中空断熱層として機能する。空洞部4を中空断熱層として機能させることで、発熱抵抗体7の下方の上板基板5を介して支持基板3に伝わる熱量よりも、発熱抵抗体7の上方へ伝わって印字等に利用される熱量を大きくすることができ、サーマルヘッド1の熱効率の向上することができる。
【0030】
発熱抵抗体7は、上板基板5の上端面において、それぞれ凹部2を幅方向に跨ぐように設けられ、凹部2の長手方向に所定の間隔をあけて配列されている。すなわち、各発熱抵抗体7は、上板基板5を介して空洞部4に対向して設けられ、空洞部4上に位置するように配置されている。
【0031】
電極8は、発熱抵抗体7に電流を供給して発熱させるためのものであり、各発熱抵抗体7の配列方向に直交する方向の一端に接続される共通電極8Aと、各発熱抵抗体7の他端に接続される個別電極8Bとから構成されている。共通電極8Aは、全ての発熱抵抗体7に一体的に接続され、個別電極8Bは個々の発熱抵抗体7にそれぞれ接続されている。
【0032】
個別電極8Bに選択的に電圧を印加すると、選択された個別電極8Bとこれに対向する共通電極8Aとが接続されている発熱抵抗体7に電流が流れ、発熱抵抗体7が発熱するようになっている。この状態で、加圧機構19の作動により、発熱抵抗体7の発熱部分を覆う保護膜9の表面部分(印字部分)に感熱紙12を押し付けることで、感熱紙12が発色して印字されるようになっている。
【0033】
なお、各発熱抵抗体7のうち実際に発熱する部分(発熱部7A)は、発熱抵抗体7に電極8A,8Bが重なっていない部分、すなわち、発熱抵抗体7のうち共通電極8Aの接続面と個別電極8Bの接続面との間の領域であって、空洞部4のほぼ真上に位置する部分である。
【0034】
また、上板基板5には、
図3に示すように、発熱抵抗体7が設けられる上端面(表面)において、共通電極8Aと個別電極8Bとの間に凸部20が形成されている。凸部20は、台形の縦断面形状および矩形状の横断面形状を有しており、平坦な先端面21と、先端面21の両端において先端面21に向かって漸次先細となるように傾斜して形成された側面22とを有している。
【0035】
凸部20は、上板基板5の上端側(表面)において、支持基板3に形成された凹部2に対応する領域内に形成されている。なお、凸部20の高さは、例えば0.5μm〜3μm程度であり、電極8の厚さ以上の高さに形成されている。
凸部20は、
図4に示すように、発熱抵抗体7の配列方向に間隔をあけて複数形成されている。また、隣接する凸部20の間には、それぞれ凹部30が形成されている。
【0036】
ここで、比較例として、従来のサーマルヘッド100の構成について以下に説明する。
従来のサーマルヘッド100は、
図22に示すように、上板基板50の上端側(表面)に凸部が設けられていないため、発熱抵抗体7と電極8との間に電極8の厚さ分だけ段差が生じる。これにより、発熱抵抗体7および電極8の上に形成された保護膜9の表面においても、上記の段差に対応する位置(
図22に示す領域A)に段差が生じる。
【0037】
その結果、プラテンローラ13により感熱紙12をサーマルヘッド100表面に押し付けた際、発熱抵抗体7と電極8との段差によって、感熱紙12とサーマルヘッド100表面の間に空気層101が生じる。この空気層101は、発熱抵抗体7により発生させた熱を感熱紙12へ伝達する際の妨げとなり、サーマルヘッド100の熱効率を低下させてしまうという不都合がある。
【0038】
これに対して、本実施形態に係るサーマルヘッド1は、
図3に示すように、上板基板5の表面において、発熱抵抗体7の両側の一対の電極8間に凸部20が形成されている。これにより、凸部20の表面上に形成された発熱抵抗体7(発熱部7A)と、発熱抵抗体7の両端に設けられた電極8との段差を小さくすることができ、発熱部7A表面と感熱紙12との間の空気層を小さくすることができる。したがって、本実施形態に係るサーマルヘッド1によれば、発熱抵抗体7により発生させた熱を感熱紙12に効率的に伝達することができ、サーマルヘッド1の熱効率を向上して印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。
【0039】
この場合において、本実施形態に係るサーマルヘッド1によれば、隣接する凸部20の間に凹部30がそれぞれ形成されているため、凸部20における発熱抵抗体7の配列方向への熱の逃げを抑えることができ、さらに熱効率を向上することができる。
【0040】
また、凸部20を部分的に形成することで、発熱部7Aと感熱紙12あるいはインクリボンとの接触が部分的になるため、サーマルヘッド1が固着してしまった場合にも、従来のサーマルヘッド1よりも少ない力で固着を解除することができ、サーマルヘッド1の信頼性を向上することができる。
【0041】
また、感熱紙12やインクリボンの送りと共に巻き込まれた空気は、隣接する凸部20の間の凹部30を通り抜けるため、この空気とともに異物(砂粒や紙粉等)も凹部30を通過する。これにより、異物の発熱部7Aへの付着を防止して、印字面における傷等の発生を防止して印字品質を向上するとともに、保護膜層9の摩耗を防止することができ、サーマルヘッド1の耐久性を向上することができる。
【0042】
さらに、感熱紙12やインクリボン等への総接触面積が小さくなるため、従来のサーマルヘッド1と同じ接触圧力(単位面積当たり)とする場合には、加圧機構19(プラテンローラ13)からの荷重を下げることができる。ここで、摩擦力は接触面積によらないため(クーロンの摩擦法則)、以下の式に示すように、感熱紙12やインクリボン等への摩擦力を低下させることができ、紙送りトルクを小さくすることができる。
摩擦力F=摩擦係数μ×プラテンローラ13からの荷重N
これにより、紙送り走行音の低減や、駆動モーターの低消費電力化あるいは小型化を図ることができる。
【0043】
また、支持基板3に形成された空洞部4は、発熱抵抗体7に対応する領域に形成されており、発熱抵抗体7から発生した熱を遮断する断熱層として機能する。したがって、このような空洞部4を設けることで、発熱抵抗体7から発生した熱が、上板基板5を介して支持基板3へ伝わって放散してしまうことを抑制することができ、発熱抵抗体7から発生した熱の利用率、すなわちサーマルヘッド1の熱効率を向上することができる。
【0044】
また、空洞部4を、複数の発熱抵抗体7に対応する領域を連通するように形成とすることで、空洞部4を容易に形成することができ、簡易的な製造方法で熱効率の高いサーマルヘッド1を製造することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0045】
なお、空洞部4(凹部2)は、
図5に示すように、各発熱抵抗体7に対応して複数形成することとしてもよい。
このように発熱抵抗体7に対応して空洞部4をそれぞれ形成することで、各発熱抵抗体7から発生した熱をそれぞれ遮断することができ、効果的にサーマルヘッド1の熱効率を向上することができる。また、サーマルヘッド1全体における空洞部4の総面積を小さくすることができるので、サーマルヘッド1の強度を向上することができる。
【0046】
以上のように、上記のようなサーマルヘッド1を備えたサーマルプリンタ10によれば、サーマルヘッド1の熱効率を向上して印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。これにより、少ない電力で感熱紙12に印刷することができ、バッテリーの持続時間を長期化させることができる。また、上板基板5の破損による故障を防止して装置としての信頼性を向上させることができる。
【0047】
[変形例]
以下に、本実施形態に係るサーマルヘッド1の変形例について説明する。
前述した第1の実施形態に係るサーマルヘッド1において、凸部20は、
図6に示すような矩形状の横断面形状であるものとして説明したが、これに代えて、凸部20を
図7から
図15に示すような横断面形状で構成することとしてもよい。
【0048】
具体的には、
図7に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に頂点を向けて配置した三角形の横断面形状で構成することとしてもよい。また、
図8に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に短軸を配置した長円の横断面形状で構成することとしてもよい。
【0049】
また、
図9に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に鋭角の頂点を向けて配置した五角形の横断面形状で構成することとしてもよい。また、
図10に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に対角線を配置した菱形の横断面形状で構成することとしてもよい。また、
図11に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に短軸を配置した楕円の横断面形状で構成することとしてもよい。
【0050】
また、
図12に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に対向する2辺を配置した八角形の横断面形状で構成することとしてもよい。また、
図13に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の長手方向に長軸を配置した長円の横断面形状で構成することとしてもよい。
【0051】
また、
図14に示すように、凸部20を、発熱抵抗体7の幅方向(長手方向に直交する方向)に対向する2辺を配置した六角形の横断面形状で構成することとしてもよい。また、
図15に示すように、凸部20を、円形の横断面形状で構成することとしてもよい。
【0052】
凸部20の凹断面形状は、上記に限定されるものではなく、多角形や流線型やその組合せとしてもよい。
隣接する凸部20の間の凹部30における空気の流れがよりスムーズになるように、凸部20を多角形や流線型やその組合せとすることで、凹部30における異物の通り抜けもスムーズに行うことができ、凸部20近傍における異物の堆積を効果的に防止することができる。
【0053】
[製造方法]
以下に、前述の第1の実施形態に係るサーマルヘッド1の製造方法について、
図16を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るサーマルヘッド1の製造方法は、
図16に示すように、支持基板3の表面に開口部(凹部2)を形成する凹部形成工程S1と、凹部2が形成された支持基板3の表面に上板基板5の裏面を積層状態に接合する接合工程S2と、支持基板3に接合された上板基板5を薄板化する薄板化工程S3と、支持基板3に接合された上板基板5の表面に凸部20を形成する凸部形成工程S4と、上板基板5の表面において空洞部4に対応する領域に発熱抵抗体7を形成する発熱抵抗体形成工程S5と、発熱抵抗体7の両端に電極8を形成する電極形成工程S6と、電極8の上に保護膜9を形成する保護膜形成工程S7とを備えている。以下、上記の各工程について具体的に説明する。
【0054】
凹部形成工程S1では、支持基板3の上端面(表面)において、上板基板5の発熱抵抗体7を設ける領域に対応する位置に凹部2を形成する。凹部2は、例えば、支持基板3の表面に、サンドブラスト、ドライエッチング、ウェットエッチング、レーザ加工等を施すことによって形成する。
【0055】
支持基板3にサンドブラストによる加工を施す場合には、支持基板3の表面にフォトレジスト材を被覆し、フォトレジスト材を所定パターンのフォトマスクを用いて露光して、凹部2を形成する領域以外の部分を固化させる。その後、支持基板3の表面を洗浄して固化していないフォトレジスト材を除去することで、凹部2を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスク(図示略)が得られる。この状態で、支持基板3の表面にサンドブラストを施し、1〜100μmの深さの凹部2を形成する。凹部2の深さは、例えば、10μm以上で、支持基板3の厚さの半分以下とするのが好ましい。
【0056】
また、ドライエッチングやウェットエッチング等のエッチングによる加工を施す場合には、上記サンドブラストによる加工と同様に、支持基板3の表面の凹部2を形成する領域にエッチング窓が形成されたエッチングマスクを形成する。そして、この状態で支持基板3の表面にエッチングを施すことで、1〜100μmの深さの凹部2を形成する。
【0057】
このエッチング処理には、例えば、フッ酸系のエッチング液等を用いたウェットエッチングのほか、リアクティブイオンエッチング(RIE)やプラズマエッチング等のドライエッチングが用いられる。なお、参考例として、支持基板が単結晶シリコンの場合には、水酸化テトラメチルアンモニウム溶液、KOH溶液、または、フッ酸と硝酸の混合液等のエッチング液等によるウェットエッチングが行われる。
【0058】
次に、接合工程S2では、例えば厚さ約500μm〜700μmのガラス基板である上板基板5の下端面(裏面)と、凹部2が形成された支持基板3の上端面(表面)とを、高温融着や陽極接合によって接合する。この際、支持基板3と上板基板5とは乾燥状態で接合され、この接合された接合基板は、例えば200℃以上軟化点以下の温度で熱処理が行われる。
支持基板3と上板基板5とを接合することで、支持基板3に形成された凹部2が上板基板5によって覆われ、支持基板3と上板基板5との間に空洞部4が形成される。
【0059】
ここで、上板基板として100μm以下の厚さのものは、製造やハンドリングが困難であり、また、高価である。そこで、当初から薄い上板基板5を直接支持基板3に接合する代わりに、接合工程において製造やハンドリングが容易な厚さの上板基板5を支持基板3に接合した後、薄板化工程において上板基板5を所望の厚さに加工する。
【0060】
次に、薄板化工程S3では、上板基板5の上端面(表面)側を、機械研磨することで薄板加工を行うことで、上板基板5を例えば約1μm〜100μmの厚さに加工する。なお、薄板化加工は、ドライエッチングやウェットエッチング等を施すことによって行うこととしてもよい。
【0061】
次に、凸部形成工程S4では、ドライエッチングやウェットエッチング等を施すことによって、上板基板5の上端面(表面)において支持基板3に形成された凹部2に対応する領域に、凸部20を形成する。なお、この凸部形成工程S4は、薄板化工程と同時に行うこととしてもよい。すなわち、前述の薄板化工程において、凸部20を形成する領域をレジスト材で被覆し、ドライエッチングやウェットエッチング等によって、上板基板5の薄板化と同時に凸部20を形成することとしてもよい。
【0062】
次に、上板基板5上に発熱抵抗体7、共通電極8A、個別電極8B、および、保護膜9が順次形成される。
具体的には、発熱抵抗体形成工程S5では、スパッタリングやCVD(化学気相成長法)、または、蒸着等の薄膜形成法を用いて上板基板5上にTa系やシリサイド系等の発熱抵抗体材料の薄膜を成膜する。発熱抵抗体材料の薄膜をリフトオフ法やエッチング法等を用いて成形することにより、所望の形状の発熱抵抗体7が形成される。
【0063】
次に、電極形成工程S6では、上板基板5上にAl、Al−Si、Au、Ag、Cu、Pt等の配線材料をスパッタリングや蒸着法等により成膜する。そして、この膜をリフトオフ法やエッチング法を用いて形成したり、配線材料をスクリーン印刷した後に焼成したりするなどして、所望の形状の共通電極8Aおよび個別電極8Bを形成する。なお、発熱抵抗体7および電極8A,8Bにおけるリフトオフもしくはエッチングのためのレジスト材のパターニングでは、フォトマスクを用いて、フォトレジスト材をパターンニングする。
【0064】
次に、保護膜形成工程S7では、上板基板5上にSiO
2、Ta
2O
5、SiAlON、Si
3N
4、ダイヤモンドライクカーボン等の保護膜材料をスパッタリング、イオンプレーティング、CVD法等により成膜して、保護膜9を形成する。これにより、
図3に示されるサーマルヘッド1が製造される。
【0065】
このようなサーマルヘッド1の製造方法によれば、支持基板3と上板基板5との間に空洞部4が形成されるとともに、発熱抵抗体7の両端に形成された電極8層の間に凸部20が形成されたサーマルヘッド1を製造することができる。これにより、上記のように、サーマルヘッド1の熱効率を向上して印刷に必要なエネルギー量を低減することができる。
【0066】
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態に係るサーマルヘッド1およびサーマルプリンタ10について、図面を参照して説明する。本実施形態に係るサーマルヘッド1が前述した第1の実施形態に係るサーマルヘッド1と異なる点は、サーマルヘッド1に空洞部を設けずに1枚の基板6で構成した点である。以降では、前述した第1の実施形態に係るサーマルヘッド1と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0067】
本実施形態に係るサーマルヘッド1は、
図17に示すように、発熱抵抗体7および電極8が、矩形状の基板6の長手方向に複数配列されている。矢印Yは、紙送り機構17による感熱紙12の送り方向を示している。
【0068】
図17のA−A矢視断面図が
図18に、
図17のB−B矢視断面図が
図19にそれぞれ示されている。
サーマルヘッド1は、
図18に示すように、基板6と、基板6の上端面(表面)に設けられた発熱抵抗体7と、発熱抵抗体7の両側に設けられた一対の電極8と、発熱抵抗体7および電極8を覆い、これらを磨耗や腐食から保護する保護膜9とを有している。
【0069】
基板6は、例えば、300μm〜1mm程度の厚さを有するガラス基板やシリコン基板、セラミックス等の絶縁性の基板である。
基板6には、発熱抵抗体7が設けられる上端面(表面)において、共通電極8Aと個別電極8Bとの間に凸部20が形成されている。凸部20は、台形の縦断面形状を有しており、平坦な先端面21と、先端面21の両端において先端面21に向かって漸次先細となるように傾斜して形成された側面22とを有している。
【0070】
凸部20は、
図19に示すように、発熱抵抗体7の配列方向に間隔をあけて複数形成されている。また、隣接する凸部20の間には、それぞれ凹部30が形成されている。
なお、凸部20は、
図18および
図19に示すように、基板6と同じ材料で一体的に形成されていることとしてもよいが、
図20および
図21に示すように、基板6と凸部20とを異なる材料で形成し、例えばセラミックス製の基板6上にガラス製の凸部20を形成することとしてもよい。
【0071】
発熱抵抗体7は、基板6の上端面において、それぞれ凸部20を基板6の幅方向に跨ぐように設けられ、基板6の長手方向に所定の間隔をあけて複数配列されている。
電極8は、発熱抵抗体7に電流を供給して発熱させるためのものであり、各発熱抵抗体7の配列方向に直交する方向の一端に接続される共通電極8Aと、各発熱抵抗体7の他端に接続される個別電極8Bとから構成されている。共通電極8Aは、全ての発熱抵抗体7に一体的に接続され、個別電極8Bは個々の発熱抵抗体7にそれぞれ接続されている。
【0072】
上記構成を有する本実施形態に係るサーマルヘッド1によれば、空洞部による断熱効果以外については前述した第1の実施形態に係るサーマルヘッド1と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態に係るサーマルヘッド1によれば、
図16における、支持基板3の表面に凹部を形成する凹部形成工程S1と、凹部2が形成された支持基板3の表面に上板基板5の裏面を積層状態に接合する接合工程S2とが不要となるため、容易に熱効率の高いサーマルヘッド1を製造することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0073】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、凸部20は、台形の縦断面形状を有していることとして説明したが、その先端面21に発熱抵抗体7を形成することができればよく、例えば矩形等の縦断面形状としてもよい。
【0074】
また、第1の実施形態において、支持基板3の長手方向に矩形状の凹部2を設けることで空洞部4を形成したが、これに代えて、上板基板5の長手方向に矩形状の凹部2を設けることで空洞部4を形成してもよい。または、支持基板3と上板基板5の両方に凹部2を設けることで空洞部4を形成してもよい。