特許第5794737号(P5794737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5794737-人工芝 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794737
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】人工芝
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   E01C13/08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-148292(P2012-148292)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-9538(P2014-9538A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2013年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000234122
【氏名又は名称】萩原工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中前 博文
(72)【発明者】
【氏名】田中 克往
(72)【発明者】
【氏名】西川 知幸
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 孝志
(72)【発明者】
【氏名】舩越 規夫
(72)【発明者】
【氏名】三宅 啓介
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−105010(JP,A)
【文献】 特開2010−265593(JP,A)
【文献】 特開2007−162144(JP,A)
【文献】 特開2010−229578(JP,A)
【文献】 特開2007−031876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布にパイルが植設された人工芝において、前記パイルは、密度が0.900〜0.940の直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)からなる結晶性プラスチックを一軸延伸加工して、結晶配向度を0.75〜0.90とし、かつ、引張弾性率を150〜350N/mmとした扁平なフィラメント糸からなることを特徴とする人工芝。
【請求項2】
前記パイルの結晶配向度を0.75〜0.85としたことを特徴とする請求項1に記載の人工芝。
【請求項3】
前記パイルの断面の短軸方向の長さをH、長軸方向の長さをWとして、前記パイルの扁平率(W/H)が3.0〜7.0であることを特徴とする請求項2に記載の人工芝。
【請求項4】
前記パイルの断面の短軸方向の長さHが、180〜350μmであることを特徴とする請求項3に記載の人工芝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布にパイルが植設された人工芝において、さらに詳しく言えば、パイルの耐久性の向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パイル間に充填材を充填した人工芝は、天然芝に近い特性を持つ人工芝サーフェイスとして、サッカーやラグビー、野球場などの各種運動競技施設に普及している。また最近では、全天候型である特徴を生かして、学校のグラウンド用として用いられることも年々増えており、人工芝の稼働率が高められてきている。
【0003】
この種の人工芝の1つとして、パイル長を従来の人工芝に比べて長く設定した、いわゆるロングパイル人工芝が知られている。ロングパイル人工芝は、長いパイルの間にゴムチップを充填し、パイル先端の露出を長くすることで、天然芝に近い性状を再現でき、人気がある。
【0004】
ところで、人工芝の表面には、ゴム底の運動靴から各種競技用スパイク等の様々な靴によって負荷がかけられるため、稼働率の向上に伴い、様々な靴底との摩擦による摩耗や繰り返し荷重によってパイルが捩れたり折れたりしやすく、それが原因でパイルの先端がフィブリル化(小繊維化)する。
【0005】
そこで、従来の人工芝用パイルは、上述したフィブリル化を防止するため、耐摩耗性のよいポリプロピレンや高密度ポリエチレンが好まれて採用されていた。例えば特許文献1,2参照。
【0006】
しかしながら、ロングパイル人工芝では、従来の砂入り人工芝がフィブリル化する破壊構造とは違い、長く突出したパイルが繰り返し踏みしめられ、ねじり応力が加えられることによって、パイルの屈曲や座屈を破壊起点とした裂けや割れが原因となってフィブリル化が起きる。
【0007】
また、特に稼働率の高い人工芝では、フィブリル化の進行によって、芝先が千切れて、プレー性への影響が懸念されるばかりでなく、衣服や靴に千切れたパイルが静電気によって付着して不快である。さらには、千切れたパイルがフィールド外に持ち出されるので、フィールド周りが汚れるなど、管理者側にとっても問題を生じていた。
【0008】
さらに、従来の人工芝用パイルは、一般的に5〜7倍程度の延伸加工が施されており、引張強度は高い反面、耐久性は低く、上述したフィブリル化を防ぐことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−184811号公報
【特許文献2】特開平11−269811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、長期にわたってフィブリル化せず、安定した耐久性を有する人工芝を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明は、基布にパイルが植設された人工芝において、前記パイルは、密度が0.900〜0.940の直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)からなる結晶性プラスチックを一軸延伸加工して、結晶配向度を0.75〜0.90(より好ましくは0.75〜0.85)とし、かつ、引張弾性率を150〜350N/mmとした扁平なフィラメント糸からなることを特徴としている。
【0012】
より好ましい態様として、前記パイルの断面の短軸方向の長さをH、長軸方向の長さをWとして、前記パイルの扁平率(W/H)が3.0〜7.0である。なお、本発明において、「断面」とは、パイルの長さ方向に対して直交する断面をいう。
【0013】
より好ましい態様として、前記パイルの断面の短軸方向の長さHが、180〜350μmである。
【発明の効果】
【0016】
これによれば、結晶性プラスチックを一軸延伸加工して、結晶配向度が0.75〜0.90(より好ましくは0.75〜0.85)の扁平なフィラメント糸をパイルに用いることで、パイルの柔軟性を高めることができ、長期間にわたってフィブリル化することなく、安定した耐久性を有することができる。
【0017】
また、前記パイルの断面の短軸方向の長さをH、長軸方向の長さをWとしたとき、前記パイルの扁平率(W/H)が3.0〜7.0であることにより、摩耗しにくくなり、その結果、フィブリル化の進行を防ぐことができる。
【0018】
さらには、前記パイルの断面の短軸方向の長さHが、180〜350μmであることにより、パイルの耐久性が良好となる。長さHが180μmよりも短い場合は、フィブリル化が発生しやすくなるため好ましくない。逆に、長さHが350μmよりも長い場合は、パイルが厚くなり、コスト高になるだけでなく、屈曲による曲げ癖がつきやすくなり、結果的に人工芝としてのしなやかさや外観を損なうため、好ましくない。
【0019】
また、前記パイルの引張弾性率が、150〜350N/mmであることにより、パイルの耐久性が良好となる。引張弾性率が150N/mm未満の場合は、弾性力が弱く、パイルが切れやすい上に加工性が悪くなるため好ましくない。逆に引張弾性率が350N/mm超の場合は、剛性が増すことで、曲げ癖や座屈しやすく、人工芝としての柔軟性を損なうため好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る人工芝を模式的に示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
図1(a)に示すように、この人工芝1は、シート状に形成された基布2に対し、所定間隔をもってパイル3が植設されたものからなり、基布2の裏面側には、パイル3の抜け止め用としてのバッキング剤4が塗布されている。
【0023】
基布2は、例えばポリプロピレン,ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂からなる平織り布が用いられるが、これ以外の織布であってもよく、本発明において、基布2の形態や材質は特に限定されない。
【0024】
パイル3は、結晶性プラスチック(結晶性ポリマーともいう)を一軸延伸加工して、結晶配向度を0.75〜0.90(より好ましくは、0.75〜0.85)とした扁平なフィラメント糸からなる。
【0025】
図1(b)を参照して、パイル3は、扁平なフィラメント糸からなり、パイル3の断面の短軸方向の長さをH、長軸方向の長さをWとしたとき、パイル3の扁平率(W/H)が3.0〜7.0の範囲内となるように形成されている。
【0026】
すなわち、扁平率が3.0〜7.0であることにより、摩耗しにくくなり、その結果、フィブリル化の進行を防ぐことができる。
【0027】
より好ましい態様としては、パイル3の断面の短軸方向の長さHが180〜350μm(より好ましくは、250〜300μm)である。すなわち、長さHが180μmよりも短い場合は、フィブリル化が発生しやすくなるため好ましくない。
【0028】
逆に、長さHが長い場合は、パイルが厚くなり、コスト高になるだけでなく、屈曲による曲げ癖がつきやすくなり、結果的に人工芝としてのしなやかさや外観を損なうため、好ましくない。
【0029】
さらに好ましい態様としては、パイル3の引張弾性率が150〜350N/mmである。すなわち、引張弾性率が150N/mm未満の場合は、弾性力が弱く、パイルが切れやすい上に加工性が悪くなるため好ましくない。
【0030】
逆に引張弾性率が350N/mm超の場合は、剛性が増すことで、曲げ癖や座屈しやすくなり、人工芝としての柔軟性を損なうため好ましくない。
【0031】
上述した各スペックを満たす材料として、本発明の結晶性プラスチックは、密度が0.900〜0.940の直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)が用いられる。なお、上述した各条件を満たすものであれば、それ以外の結晶性プラスチックが用いられてもよい。
【0032】
この例において、パイル3は、所定の繊度(デシテックス)の扁平フィラメント糸の単糸を基布2に植設したものからなるが、例えばこれらを複数本撚り合わせたものが用いられてもよく、上述した各スペックを満足すれば、その使用態様は特に限定されない。
【0033】
また、完成した人工芝1は、所定の基盤10上に敷設されたのち、パイル3間に充填材5としてゴムチップが充填されるが、本発明において、充填材5および基盤10の構成については、特に限定されず、仕様に応じて任意に変更されてよい。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の具体的な実施例について比較例とともに比較検討した。まず、以下の方法でパイルを作成した。
【0035】
〔パイルの作製〕
直鎖状低密度ポリエチレン樹脂組成物(密度0.926g/cm,MFR0.9g/10min)をφ60mmの押出機を使用して温度180℃で溶融押出し、30℃の水槽で冷却固化する。次に、ロール延伸法を用いて90〜100℃で一軸延伸加工したのち、90〜100℃の熱水槽内で弛緩熱処理を行い、繊度約1850デシテックスの人工芝糸を得た。
【0036】
〔人工芝の作製〕
上記方法で作製されたパイルを6本一束に撚り合わせて1本のパイルとし、5/16ゲージのタフティング機を用いてポリプロピレン製の平織り布にパイル高(基布から先端までのパイル長さ)60mmとなるように植設したのち、基布の裏面側に固形分として70%SBRラテックスを塗布量1100g/mで塗布し、105℃で高温乾燥して、人工芝を得た。
【0037】
次に、作製したパイルおよび人工芝について、以下の各方法によって測定および各種評価を行った。
【0038】
〔結晶配向度の測定〕
パイル原糸の表面をX線の照射方向に対して垂直になるように試料台にセットし、Bruker−AXS社製のX線回折機(型番:D8−DISCOVER−μHR−Hybrid)を使用して、以下の条件下でX線を照射し、得られた回折パターンのピークより得られる強度分布の半値幅から結晶配向度を算出した。
〔測定条件〕
X線源:CuKα線(多層ミラー仕様)
出力:50kV,22mA
検出器:シンチレーションカウンター
【0039】
〔引張弾性率の測定〕
パイル原糸を50mmの長さに切断し、引張試験機にチャック間30mmでセットしたのち、引張速度100mm/minでパイル原糸が破断するまで引っ張り、その引張荷重−ひずみ曲線(S−S曲線)を測定し、弾性変形領域における接線勾配から引張弾性率を算出した。
【0040】
〔耐久性の評価〕
人工芝をφ100mmの円盤状に切り出し、同径の有底なシリンダ容器の底に収納し、芝先が20mm露出する程度にゴムチップを充填する。シリンダ容器の内周面に沿って挿入可能な圧縮子により人工芝を荷重700Nで押圧する。圧縮子の先端には、靴底をイメージして格子状の凹凸を有する硬度60のウレタンゴムが取り付けられている。
【0041】
人工芝を圧縮子で押圧した状態で、回転速度25rpm,角度15°でシリンダ容器を往復回転させ、1往復を1回として10万カウントの耐久試験を実施した。実施後、人工芝のパイルを無作為に10本抽出し、亀裂が生じている本数を数え、発生本数が0本なら◎、1〜3本の場合は○、4本以上は×と判断した。
【0042】
〔加工性の評価〕
本実施形態において、加工性とは、人工芝のパイルの切断特性をいう。タフティング機にて人工芝にパイルを植設したのち、パイル長60mmとなるように、高さが均一にカットされ、かつ、ループ残りなどの不具合がないものを○、不具合が見られたものを×として、評価した。
【0043】
〔外観性状の評価〕
競技者10名による各人工芝と天然芝とを観察し、寸法形状および質感や景観が同等レベルであると、7名以上が感じたものを○、6名以下の場合を×として評価した。
〔総合評価〕
最後に、耐久性、加工性および外観性の総合的な評価を行った。評価方法は、上記の各評価において、全てにおいて○もしくは◎の場合を「○」とし、1つでも×があれば「×」とした。
【0044】
《実施例1》
〔結晶配向度〕 0.81
〔短軸長さH〕 0.235mm
〔長軸長さW〕 1.16mm
〔扁平率W/H〕 4.936
〔引張弾性率〕 190N/mm
〔耐久性〕 ◎
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ○
【0045】
《実施例2》
〔結晶配向度〕 0.75
〔短軸長さH〕 0.196mm
〔長軸長さW〕 1.37mm
〔扁平率W/H〕 6.990
〔引張弾性率〕 206N/mm
〔耐久性〕 ◎
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ○
【0046】
《実施例3》
〔結晶配向度〕 0.90
〔短軸長さH〕 0.243mm
〔長軸長さW〕 1.12mm
〔扁平率W/H〕 4.609
〔引張弾性率〕 273N/mm
〔耐久性〕 ○
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ○
【0047】
《実施例4》
〔結晶配向度〕 0.85
〔短軸長さH〕 0.271mm
〔長軸長さW〕 0.91mm
〔扁平率W/H〕 3.358
〔引張弾性率〕 301N/mm
〔耐久性〕 ◎
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ○
【0048】
〈比較例1〉
〔結晶配向度〕 0.92
〔短軸長さH〕 0.237mm
〔長軸長さW〕 1.11mm
〔扁平率W/H〕 4.684
〔引張弾性率〕 357N/mm
〔耐久性〕 ×
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ×
【0049】
〈比較例2〉
〔結晶配向度〕 0.91
〔短軸長さH〕 0.150mm
〔長軸長さW〕 1.80mm
〔扁平率W/H〕 12.000
〔引張弾性率〕 348N/mm
〔耐久性〕 ×
〔加工性〕 ○
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ×
【0050】
〈比較例3〉
〔結晶配向度〕 0.72
〔短軸長さH〕 0.220mm
〔長軸長さW〕 1.12mm
〔扁平率W/H〕 5.091
〔引張弾性率〕 195N/mm
〔耐久性〕 ○
〔加工性〕 ×
〔外観〕 ○
〔総合評価〕 ×
【0051】
実施例1〜4および比較例1〜3のまとめを表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
以上、実施例および比較例により、以下の知見を得た。すなわち、
・結晶配向度を抑えることで、柔軟性に富み、繰り返し座屈や捩れに対して有効である。
・結晶配向度が小さくなると、充填性で粘りが出てくるため、安定性が悪くなる。
・短軸長さ(厚み)が増すと、切断刃が入りにくくなるので、切断安定性が悪くなる。
【符号の説明】
【0054】
1 人工芝
2 基布
3 パイル
4 バッキング剤
5 充填材
10 基盤
図1