(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794753
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20150928BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20150928BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/58
H01M4/62 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2008-312339(P2008-312339)
(22)【出願日】2008年12月8日
(65)【公開番号】特開2010-108889(P2010-108889A)
(43)【公開日】2010年5月13日
【審査請求日】2011年9月9日
【審判番号】不服2014-8068(P2014-8068/J1)
【審判請求日】2014年5月1日
(31)【優先権主張番号】特願2008-252471(P2008-252471)
(32)【優先日】2008年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂下 拓志
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】川崎 卓
(72)【発明者】
【氏名】澤井 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 慎治
【合議体】
【審判長】
木村 孔一
【審判官】
小川 進
【審判官】
河本 充雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−35295(JP,A)
【文献】
特開2006−59584(JP,A)
【文献】
特開平10−92434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/136
H01M 4/58
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状炭素とカーボンブラックが連結されてなるカーボンブラック複合体であって、JIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であるカーボンブラック複合体と、一次粒径が10〜150nmであり、電気抵抗がJIS K 1469で規定されている手法にて測定した場合に、2〜10Ωcmとなるように表面に炭素膜がコートされているオリビン形リン酸鉄リチウム粒子とを含有してなる、リチウム二次電池用の正極であって、前記カーボンブラック複合体を1〜30質量%含有してなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記繊維状炭素が平均直径20nmのカーボンナノチューブであり、前記カーボンブラック複合体が2質量%であり、前記オリビン形リン酸鉄リチウムが90質量%含有してなることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記繊維状炭素が平均直径20nmのカーボンナノチューブと平均直径100nmの気相成長炭素繊維であり、前記カーボンブラック複合体が2質量%であり、平均粒径が80nm、前記電気抵抗が5Ωcmである前記オリビン形リン酸鉄リチウムを90質量%含有してなることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用正極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な材料を用いて負極を形成したリチウム二次電池は、金属リチウムを用いて負極を形成したリチウム電池に比べてデンドライドの析出を抑制することができる。そのため、電池の短絡を防止して安全性を高めた上で高容量なエネルギー密度の高い電池を提供できるという利点を有している。
近年ではこのリチウム二次電池のさらなる高容量化が求められる一方、パワー系用途の電池として電池抵抗の低減に伴う大電流充放電性能の向上が求められている。この点で従来では電池反応物質であるリチウム金属酸化物正極材や炭素系負極材自体の高容量化、またはこれら反応物質粒子の小粒径化、粒子比表面積や電池設計による電極面積の増加、さらにはセパレータの薄形化による液拡散抵抗の低減等の工夫がなされてきた。しかし、一方では小粒径化や比表面積の増加によりバインダーの増加を招き、結果として高容量化に逆行したり、さらには正・負極材が集電体である金属箔から剥離・脱落して電池内部短絡を生じ、電池の電圧低下や発熱暴走などのリチウム二次電池の安全性が損なわれることがあった。そこで箔との結着性増加させるためにバインダー種類を変更したりしていた(特許文献1)。また、リチウムイオン電池の大電流充放電化に対しては電極抵抗の低減を目的にカーボン導電材を用いて工夫するものがある(特許文献2,3,4)。
【0003】
しかしながら、これまでに提案されてきたバインダー変更と言う手段では、容量という観点では増大できるが、抵抗低減による大電流充放電特性の改善という点では不十分であり、ニカド電池やニッケル水素電池等の二次電池と比較して、リチウム二次電池の大きな性能障壁であった大電流充放電が必要とされる電動工具やハイブリッドカー用途への展開が困難である。また、大電流による充放電サイクルを繰り返すと正・負極材の膨張収縮により正・負極間粒子の導電パスが損なわれ、結果、早期に大電流が流せなくなる。一方、近年安全性とコスト重視の観点からリチウムイオン電池用の正極材としてオリビン形リン酸鉄リチウムが注目されつつあるが、この材料は材料自体の抵抗が大きく、その低抵抗化が大きな問題である(文献番号5,6)。
【特許文献1】特開平5−226004号公報
【特許文献2】特開2005−19399号
【特許文献3】特開2001−126733号
【特許文献4】特開2003−168429号
【特許文献5】特表2000−509193号
【特許文献6】特開平9−134724号
【特許文献7】WO/2007/013678
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このオリビン形リン酸鉄リチウムの低抵抗化と大電流充放電化に対処するためになされたもので、かつ大電流充放電を寿命中長きに渡って維持できるリチウム二次電池用の正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の二次電池用正極は、負極と正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、上記電極群が浸漬される電解液とを備えてなるリチウム二次電池において、繊維状炭素が平均直径5〜100nmのカーボンナノチューブであり、繊維状炭素とカーボンブラックが連結されてな
るカーボンブラック複合体であって、JIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であるカーボンブラック複合体と
、一次粒径が10〜150nmであり、電気抵抗がJIS K 1469で規定されている手法にて測定した場合に、2〜10Ωcmとなるように表面に炭素膜がコートされているオリビン形リン酸鉄リチウム粒子
とを含有してなる、リチウム二次電池用の正極であって、前記カーボンブラック複合体を1〜30質量%含有してなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極である。
【0006】
本発明の二次電池用正極は、負極と正極とが、セパレータを介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、上記電極群が浸漬される電解液とを備えてなるリチウム二次電池において、繊維状炭素が平均直径
20nmのカーボンナノチューブ、または、平均直径20nmのカーボンナノチューブと平均直径100nmの気相成長炭素繊維であり、繊維状炭素とカーボンブラックが連結されてなり、かつJIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であるカーボンブラック複合体
2質量%と粒径が
80nm、JIS K 1469で規定される電気抵抗が
5Ωcmであるオリビン形リン酸鉄リチウムを含有してなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の正極により電極内の電子伝導ネットワークが向上し、正極電極抵抗が低減され、大電流充放電が可能となる。
また、当該正極板は充放電中に正極粒子が膨張収縮しても、正極粒子と導電材との接触性が向上維持され、急激な容量や出力の低下防止を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリチウム二次電池用の正極は、導電材としてカーボンブラック複合体なるものを用いて、このカーボンブラック複合体は繊維状炭素とカーボンブラックとが連結結合されたものから構成されており、カーボンブラック複合体がJIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であることを特徴とする。さらに当該複合体がオリビン形リン酸鉄リチウムとともに複合一体化されたもの、あるいはカーボン複合体が混合されたものの少なくともいずれか一方の場合において当該構成物が含有されたことを特徴とし、含有状態を特に規定するものではない。そして当該オリビン形リン酸鉄リチウムは、粒径が10〜150nmであること、好ましくは50〜120nmであること、また当該オリビン形リン酸鉄リチウムの電気抵抗がJIS K 1469で規定されている手法にて測定した場合に、2〜10Ωcm、好ましくは、3〜6Ωcmであること、さらにはカーボンブラック複合体を1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%含有してなるリチウムイオン二次電池用正極電極である。ところで、電池の充放電時の抵抗に大きく寄与する電池構成材としては、正極電極が主たるものであり、本発明品の正極電極により電極内の電子伝導ネットワークが向上し、正極電極抵抗が低減され、大電流充放電が可能となる。
また、当該正極板は充放電中に正極粒子が膨張収縮しても、正極粒子と導電材との接触性が向上維持され、急激な容量や出力の低下防止を可能にする。
オリビン形リン酸鉄リチウム粒子の電気抵抗は、カーボンコート等により低減することができる。
【0009】
カーボンブラック複合体は繊維状炭素とカーボンブラックとが連結されたものである。繊維状炭素とカーボンブラックの連結とは単なる接触ではなく、炭素質で物理的に融着していることを意味し、通常の機械的操作では容易に分離されることなく、連結された繊維状炭素とカーボンブラック間で接触抵抗なしで電子が自由に移動できるものである。そのため、活物質と混合した際もカーボンブラック複合体のまま存在し、良好な分散性が得られると同時に高導電性が保たれる。繊維状炭素単独では、活物質等やその他の材料と混合する場合、配向や繊維同士の絡み合いのため、良好な分散性を得ることが困難であり、導電性にバラツキが生じる。カーボンブラックと繊維状炭素を単純に混合した場合は形状が異なるため更にバラツキが大きくなるが、本発明のカーボンブラック複合体は導電性の安定性に優れていることが特長の一つである。ここで繊維状炭素は1〜50質量%であることが好ましい。繊維状炭素が1質量%未満であると、十分な導電性が得られず、50質量%を超えるとカーボンブラックとの連結が十分でなくなると同時に、繊維状炭素の凝集などのため分散性が著しく低下する。
【0010】
本発明で使用される繊維状炭素とは、炭素繊維(カーボンファイバー)、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等である。本発明においては繊維状炭素を適宜選択可能であるが、繊維状炭素は活物質との電子のやり取りを効果的に行うため、活物質の粒径に対して繊維状炭素は小さい方が好ましい。例えば、活物質の平均粒径が20μm未満であれば、平均直径が100nm以下のものが好ましい。また、繊維状炭素の平均直径はある程度の強度を持たせるため5nm以上が好適である。
更には、2種類以上の繊維状炭素を組み合わせて使用することも可能である。例えば、平均直径20nmのカーボンナノチューブと100nmの気相成長炭素繊維を組み合わせれば、毛細血管と動脈の関係となり、更に効果的な電子授受及び移動も可能となる。この場合も平均直径の小さい方の繊維状炭素は活物質の粒径に対して小さい方が好ましく、平均直径が大きい方の繊維状炭素の配合量は平均直径が小さい方の繊維状炭素100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0011】
本発明で使用されるカーボンブラックとは、電極全体の導電性を保つとともに、活物質の膨張・収縮の緩衝材としての役割を担い、例えば、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。中でもアセチレンブラックは、アセチレンガスの熱分解という還元雰囲気での反応あることから繊維状炭素を導入して複合化する場合は、燃焼ロスが少なく、好適である。
【0012】
カーボンブラック複合体の製造方法は、繊維状炭素とカーボンブラックが連結しているものである。その製造方法は、特に限定されないが、例えば、炭化水素熱分解中に繊維状炭素を導入し複合化する方法、WO/2007/013678号公報に記載されているように、アセチレンガスの熱分解中、及び/又はアセチレンガスを熱分解させた状態で、繊維状炭素化触媒を含む炭化水素を供給し、複合化する方法などが挙げられる。また、繊維状炭素とカーボンブラックを炭化水素やアルコールなどの炭素化原料液中に分散させ、炭素化原料液を液状またはガス化した状態で加熱等の操作により炭素化し、繊維状炭素とカーボンブラックを連結させても良い。このカーボンブラック複合体はJIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下である。灰分は主に繊維状炭素製造時の触媒や不純物の金属(例えばFe、Ni等)やその酸化物からなり、灰分が1.0質量%を超えると、例えばLiイオン二次電池とした場合、充電時に負極上への金属の析出が起こり、充放電容量が低下するばかりか、セパレータを突き破り短絡して発火する危険性がある。
【0013】
本発明の正極電極を用いたリチウム二次電池に使用できるセパレータは、正極および負極を電気的に絶縁して電解液を保持するものである。上記セパレータは合成樹脂製などを挙げることができ、その具体例としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどを挙げることができる。電解液の保持性が良いことから、多孔性フィルムを用いることが好ましい。
【0014】
また本発明正極電極を用いたリチウム二次電池において、当該電極群が浸漬される電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。
【0015】
リチウム塩を含む非水電解液における非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等が挙げられる。また、上記非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF
4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSO
3CF
4)等が挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例により、本発明に係るリチウム二次電池用正極電極を詳細に説明する。しかし、本発明はその要旨をこえない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本発明における正極電極およびコイン電池作製方法の一例を以下に示す。
【0017】
<正極電極の作製>
正極活物質としてオリビン形リン酸鉄リチウムを、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用いた。これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加、混練した正極合剤(スラリー)を作製した。当該正極合剤スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウム二次電池用正極電極を得た。
ただし、当該オリビン形リン酸鉄リチウムの一次粒径が5,10,80,150および200nmのものを準備し、特に仕様に明記していない限り基準として80nmのものを用いた。また、当該オリビン形リン酸鉄リチウムは単独では抵抗が大きいため、一般的に粒子表面に導電性カーボンを被覆して抵抗低減を図っている。この被覆に対しては今回、炭化ガスによる蒸着手法を用いたが、その手法を特定するものではなく、カーボンコートした後の活物質粒子の電気抵抗値(JIS K 1469)規定するものであり、1,2,5,10および13Ωcmのものを作製して電極作製に用いた。特に仕様に明記していない限り基準として5Ωcmのものを実施・比較例に用いた。
次に、当該発明の電極抵抗低減に寄与させるカーボンブラック複合体の作製方法について記す。ただし、複合体に用いるカーボンブラックや繊維状炭素の種類または複合体化させる手法については本発明の要旨を越えない限り、以下に記すものに限定されるものではない。本実施例ではカーボンブラックとしてアセチレンブラック(平均一次粒子径35nm)を用い、繊維状炭素としてカーボンナノチューブ(平均直径20nm)を用いた。複合体を作製する方法として以下の焼成方法を用いた。アセチレンブラックとカーボンナノチューブを質量比1:1でエタノール(関東化学社製試薬:純度99.5%)に1質量%混合したスラリーを、電気炉内において窒素(10L/min)流通下、1500℃で焼成し、カーボンブラック複合体を得た。また、カーボンコートされたオリビン形リン酸鉄リチウムに対して当該カーボンブラック複合体を単に所定重量部混合する場合は別として、さらにカーボンコートされたオリビン形リン酸鉄リチウムと以下の焼成方法によって複合一体化させたものも本発明の実施例11として用いた。カーボンブラック複合体とオリビン型リン酸鉄リチウムをエタノール(前述)に1質量%混合したスラリーを、電気炉内において窒素(10L/min)流通下、600℃で焼成し、複合一体化させたものを得た。特に仕様に明記していない限り基準としてカーボンブラック複合体2質量%、カーボンコートされたオリビン形リン酸鉄リチウム90質量%、ポリフッ化ビニリデン8質量%のものを用いた。また、実施例12は、繊維状炭素としてカーボンナノチューブ(平均直径20nm)及び気相成長炭素繊維(平均直径100nm)を質量比1:1で混合したものを用いた他は、実施例11と同様の評価を行った。
【0018】
下表のように、各電極仕様に応じて、実施例〜実施例および比較例〜比較例の上記正極板と種々のカーボンブラック複合体添加量の正極板とを試作した。そしてそれぞれ作製した正極板を用いて2032形コイン電池を作製した。正極板に対する対極としては金属リチウムを用い、これらを電気的に隔離するセパレータとしてオレフィン繊維製不織布を用いた。電解液にはEC、MECを体積比で30:70 に混合した溶液中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/L 溶解したものを用いた。
電池の放電性能試験としては、電池を初充電後、充放電効率が100%近傍になるのを確認後、0.7mA/cm
2の電流密度にて定電流放電を2.1Vまで行った際の放電容量を測定し、正極活物質量で除した容量密度(mAh/g)を算出した。まずは、本発明に供するカーボンコートされたオリビン形リン酸鉄リチウム正極活物質自体の仕様(一次粒子径と活物質電気抵抗)、およびカーボンブラック複合体自体の灰分仕様の違いによる電池特性への影響について、放電性能を検討しその試験結果を表1に示した。
つぎに当該カーボンブラック複合体を種々の所定量正極板に含有させた際の放電容量密度を
図1にまとめた。放電容量試験は上記同様に行った。
さらにサイクル性能試験として、充電は4.1V(3.5mA/cm
2制限電流)の定電流定電圧充電(0.175mA/cm
2時終了)で、放電は3.5mA/cm
2の定電流で2.1Vまで行い、休止をそれぞれの間に10分間行って50サイクル繰り返した際のサイクル試験1サイクル目の放電容量に対する容量比率を放電容量維持率として表し、表2に示した。
【0019】
カーボンブラック複合体については、下記の方法により、物性を測定した。
(1)カーボンブラック複合体の繊維状炭素の平均直径については透過型電子顕微鏡(TEM)により、倍率3万倍で100本測定し、その平均値を平均直径とした。
(2)カーボンブラック複合体の灰分についてはJIS K 1469に従い測定した。
【0020】
【表1】
【0021】
表1の実施例と比較例より、本願発明は容量密度と容量維持率の両方が優れていることが判る。本発明のリチウムイオン二次電池用正極のオリビン形リン酸鉄リチウムの一次粒子径については、5nmの細かい粒子の場合には、理論上は比表面積が大きくなり活物質表面のLiイオンの電荷移動に関わる電気化学的反応サイトが増加し、結果容量が増加するものと考えられるが、粒子が細かくなるとオリビン形結晶構造が崩れ、表面の一部にアモルファス相が析出した。また、粒子が細かいために電極塗工する際の塗工スラリーの分散性が悪化して、塗工面の凹凸が顕著に見られた。このことにより、容量が低下する傾向にある。一方、粒子径が200nmでは、上述した電気化学的反応サイトが減少するために容量が低下する傾向にある。一次粒子径としては10〜150nmが好ましい。
オリビン形リン酸鉄リチウム粒子の電気抵抗は、電気抵抗が1.5Ωcmでは、活物質合剤中のカーボンコート量が多いために、活物質量が少なくなって容量は低下する傾向にある。一方、カーボンコート量の少ない13Ωcmの場合には、活物質量自体は多くなったものの電気抵抗が大きいために、電池放電時の電圧降下が大きく、容量が低下する傾向にある。電池抵抗としては2〜10Ωcmが好ましい。
カーボンブラック複合体に関しては、炭素原子成分が連結複合化しているためにその不純物である灰分量が抵抗や容量に起因すると考えられる。灰分が多いものは抵抗が大きくなると考えられ、容量が低下する傾向にある。カーボンブラック複合体のJIS K 1469で規定される灰分が1.0質量%以下であることが必要である。
つぎに上記カーボンブラック複合体とオリビン形リン酸鉄リチウムとの配合比率について検討した。
図1に配合質量比に対する容量推移を示した。結果、1〜5質量%までは正極電極抵抗の低下により、容量の増加と飽和状態となり、5質量%を越えて30質量%までは徐々に低下するが、それを越えると活物質量の低減により急激に低下することがわかった。したがって配合比領域は1〜30質量%が好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。
さらに本発明のカーボンブラック複合体の含有状態による差異について検討し、比較例としてカーボンブラックをオリビン形リン酸鉄リチウム活物質に混合した正極電極の場合と比較した。表1より、比較例のカーボンブラック単体でも容量は維持可能であるが、サイクル寿命においてカーボンブラックとカーボンナノチューブ等の繊維状炭素を複合化したものを混合したものと比して、容量低下が大きいことがわかった。これは、充放電初期には、カーボンブラック単体でもオリビン形リン酸鉄リチウム活物質間の電子伝導ネットワークが形成されて容量が少なくならない。しかし充放電サイクルを繰り返すと、活物質の膨張収縮により活物質間の電子伝導ネットワークがそのまま維持されず、カーボンブラックと活物質との電子伝導接点が変化するためにネットワークの崩壊を生じ、容量低下を来したものと考える。これはさらに当該カーボンブラック複合体を当該活物質に混合したものに比べて、活物質と焼成手法等により一体複合化させて正極板を形成したものは、さらに容量やサイクル特性において優れたものとなることからも電子伝導ネットワークの維持がカーボンブラック複合体やさらには活物質との複合化により成されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のリチウム二次電池用正極電極は、高容量であって、かつ大電流充放電が繰り返し可能であり、電動工具やハイブリッドカーなど大電流充放電が必要とされる用途に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】正極電極内でのカーボンブラック複合体含有量と容量密度の関係