特許第5794757号(P5794757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ロンウッドの特許一覧 ▶ 富山県の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794757
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】野球用バット
(51)【国際特許分類】
   A63B 59/00 20150101AFI20150928BHJP
【FI】
   A63B59/00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-244767(P2009-244767)
(22)【出願日】2009年10月23日
(65)【公開番号】特開2011-87817(P2011-87817A)
(43)【公開日】2011年5月6日
【審査請求日】2012年10月11日
【審判番号】不服2014-18969(P2014-18969/J1)
【審判請求日】2014年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】399080744
【氏名又は名称】株式会社ロンウッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】池田 真一
(72)【発明者】
【氏名】溝口 正人
(72)【発明者】
【氏名】金丸 亮二
(72)【発明者】
【氏名】水野 渡
(72)【発明者】
【氏名】塚本 吉俊
(72)【発明者】
【氏名】住岡 淳司
【合議体】
【審判長】 黒瀬 雅一
【審判官】 吉村 尚
【審判官】 山本 一
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭30−419(JP,Y1)
【文献】 実公昭49−8841(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面の中央に位置し且つ木製で矩形断面の補強芯(21b)と、該補強芯(21b)を取り囲み且つ竹片(33)を積層させた外周材(31)と、を接着で一体化した母材(12b)から製造された野球用バットであって、
前記補強芯(21b)は、横断面の一辺の長さが30から40mmの矩形状で、先端から末端までを貫通しており、且つ矩形断面の硬質材(23)を中心に配置して、その全周を減衰材(24)で取り囲んだ構造として、
横断面径の絞り込まれたグリップ部分は、該補強芯(21b)だけで構成されていることを特徴とする野球用バット。
【請求項2】
横断面の中央に位置し且つ木製で正方形断面の補強芯(21c)と、該補強芯(21c)を取り囲み且つ竹片(33)を積層させた外周材(31)と、を接着で一体化した母材(12c)から製造された野球用バットであって、
前記補強芯(21c)は、横断面の一辺の長さが30から40mmの正方形で、先端から末端までを貫通しており、且つ一本の硬質材(23)の一側面に一本の減衰材(24)を貼り合わせて正方形断面とした小片(22)を四個寄せ集めた構造として、
該小片(22)は、野球用バットの中心軸を基準として90度ずつ回転移動させたように配置し、且つ全ての前記硬質材(23)の一角は前記中心軸に集め、
横断面径の絞り込まれたグリップ部分は、該補強芯(21c)だけで構成されていることを特徴とする野球用バット。
【請求項3】
前記硬質材(23)はヒッコリーまたは樫を用いており、且つ前記減衰材(24)はアオダモまたはメイプルを用いていることを特徴とする請求項1または2記載の野球用バット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球競技で使用される野球用バットに関する。
【背景技術】
【0002】
硬式野球で使用される木製バットは、打撃の際の強烈な荷重に耐える必要があり、素材となる樹木は、アオダモやメイプルやホワイトアッシュなどに限られている。しかし、これらの樹木は生息域が比較的狭く、しかも育成に長い年月を要するため、最近では資源の枯渇が進んでおり、木製バットを安価に供給することは難しい状況にある。これに対して金属バットは、大量生産で安価に供給可能だが、軽量で反発係数も大きいため、打撃側が一方的に有利になり、試合が円滑に進まない恐れがある。そのため国内のプロ野球では、金属バットの使用が認められておらず、アマチュア野球でも何らかの制限を設ける場合がある。
【0003】
木製バットの代替としては、木片や竹片を貼り合わせた各種の接合バットが挙げられ、最も広く普及しているのは、全体を竹片で構成した竹バットである。竹バットの素材となるのは、大径に成長する孟宗竹が一般的で、伐採した竹を細長い短冊状の竹片に加工した後、接着剤でこれらを貼り合わせて正方形断面の母材を製造して、最終的に旋盤で所定の形状に仕上げている。また竹バットのほか、断面から見て中心部だけを竹片で形成して、その周囲にメイプルなどの板材を貼り合わせたラミバットと呼ばれる製品も普及している。構造上、ラミバットのグリップ部分は完全な竹製になるが、打撃部分の外周は木製バットと同等な木材で覆われる。
【0004】
バットに関する技術開発は歴史が古く、これまでにも多数の特許等が出願されており、その中で本願と関連のある案件を以下に示す。このうち特許文献1は、バットの強度を向上するため、中心に藤の木を貫通させたことを特徴としている。また特許文献2は、バットの中心に鉄棒を差し込んだことを特徴としており、折損の防止や強度の向上を目的としている。次の特許文献3は、竹バットの構造に関するもので、竹片の配置方法などが開示されている。最後の特許文献4は、竹バットの反発力を改善することを目的としており、中心部分に硬質な材料を使用して、その両側に竹材を接着して打撃部分を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実明4262号公報
【特許文献2】実明63303号公報
【特許文献3】実明379399号公報
【特許文献4】実公昭35−016213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
竹バットの素材となる竹は、成長が早く資源が枯渇する恐れもなく、また接着剤の改良も進んでおり、衝撃や経年劣化で接着面が剥がれることもなく、安全性には何らの問題もない。しかし竹は周知のように、曲げ荷重に対する剛性が低く、竹バットについても打撃の際、全体が弓状に変形して衝撃を吸収するため、飛距離を得ることが難しく、公式戦で使用されることは少ない。なお前記のラミバットについても、グリップ部分は全体が竹で形成されており、剛性に関しては竹バットと大差がない。
【0007】
また前記のアオダモやメイプルなどの比重は、約0.73だが、竹の比重は約0.68である。これらの値は、品種や産地や水分割合などで差はあるものの、竹の方が軽量であることに変わりはない。したがって製品化の際、形状を同一とすれば竹バットの方が軽くなり、また重量を同一とすれば木製バットの方が細身になり、竹バットと木製バットの形状と重量を共に一致させることは難しく、必然的に使用感に差が生じてしまう。なお硬式野球用の木製バットの重量は、「S2型」と呼ばれるやや細身のタイプで、900gから910gである。
【0008】
バットの強度を向上するため、特許文献1のように、何らかの芯材を用いる方法があるが、この文献のような円断面の芯材は、その外周を囲む木材との接着面にバランス良く圧力を加えることが困難で、接着強度が不足しやすい。また特許文献2のように、金属や樹脂などを芯材に使用した場合、木製バットとは認められず、競技団体が定める各種規則により、公式戦での使用が認められない恐れがある。そのほか特許文献4のバットは、グリップ部分の全体が硬質な素材で構成され重量が増加するほか、打撃の際、衝撃がそのまま手に伝達して使用感が劣るため、素振りなど練習での使用が中心になり、試合での使用には適していない。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、従来の木製バットに類似した性能を有しており、しかも価格や資源保護の面にも優れた野球用バットの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、横断面の中央に位置し且つ木製で矩形断面の補強芯と、該補強芯を取り囲み且つ竹片を積層させた外周材と、を接着で一体化した母材から製造された野球用バットであって、前記補強芯は、横断面の一辺の長さが30から40mmの矩形状で、先端から末端までを貫通しており、且つ矩形断面の硬質材を中心に配置して、その全周を減衰材で取り囲んだ構造として、横断面径の絞り込まれたグリップ部分は、該補強芯だけで構成されていることを特徴とする野球用バットである。
【0011】
本発明による野球用バットは、従来の竹バットを基本として、その内部に硬質材と減衰材の二種類の素材で構成される補強芯を組み込んだことを特徴としている。さらに補強芯の横断面は、母材の状態において矩形に限定しており、しかも製品化された状態において、先端から末端のグリップエンドまで、硬質材と減衰材のいずれも途中で途切れることなく両端を貫通しているものとする。ただし、補強芯の中心がバットの中心と完全に一致している必要はない。なお母材とは、バットの素材となる正方形断面の棒を指しており、これを旋盤で切削して最終的な製品となる。また横断面とは、母材やバットの長手方向に対して直交する輪切り状の面を指している。
【0012】
補強芯は、バットの剛性向上と重量調整のために組み込まれている。そのため補強芯は、竹よりも曲げ剛性が高く、しかも竹よりも比重が大きい素材を使用する必要がある。しかし単純に剛性を高くすると、衝撃が吸収されずにグリップに伝達して、使用感が悪化する恐れがある。そこで本発明による補強芯は、主に剛性を高めるための硬質材と、主に衝撃を吸収するための減衰材を組み合わせて、木製バットに類似する性能を追求している。なお硬質材と減衰材は接着で強固に一体化しており、しかも母材の長手方向に沿ってその断面形状が変化することはなく、いずれの横断面についても、二種類が金太郎飴のように同一形状に配置されている。ただしバットとして製品化された状態において、小径となるグリップ部分(直径約25mm)は、補強芯だけで構成され、且つ補強芯の外縁が切削され、断面形状が円形に変化する
【0013】
補強芯の外周に積層される竹片は、伐採した竹を長手方向に引き裂いて所定の長さに切断したもので、従来の竹バットと相違がなく、個々の竹片の端面は細長の長方形で、短冊のような外観となる。この竹片の面積が広い面に接着剤を塗布して、この面同士が密着するように重ね合わせた後、圧力と熱を加えて竹片の積層体を製造する。同様に、硬質材と減衰材を接着剤で一体化して矩形断面の補強芯を製造する。そして積層体と補強芯の表面に接着剤を塗布して、これらを所定の構成に配置した後、圧力と熱を加えると積層体と補強芯の全てが一体化して、母材が完成する。
【0014】
このように補強芯の断面を矩形状に限定することで、母材を製造する際、補強芯と竹片との境界面全体に均等に圧力を加えることができ、補強芯や竹片のゆがみを除去できるほか、接着剤が境界面の全体に浸透して理想的な接着が実現する。そのためバットの外周に作用した荷重は、確実に補強芯に伝達され、しかも接着不良による亀裂の発生も防止できる。また補強芯は、中間で途切れることなく両端を貫通しているため、剛性が全域で向上して打撃の際の変形を抑制でき、さらに補強芯と竹との比重の差により純粋な竹バットよりも重量が増加するほか、減衰材の作用で使用感も改善する。
【0015】
加えて補強芯は、横断面の一辺の長さが30から40mmの矩形状とすることで、小径となるグリップ部分は、補強芯だけで構成される。これによってグリップ部分は、従来の木製バットと同等な剛性が確保され、さらに減衰材によって手に伝達する衝撃が緩和される。また補強芯は、矩形断面の硬質材を中心に配置して、その全周を減衰材で取り囲んだ構造とする。
【0016】
硬質材は、接着性を考慮して矩形断面に限定するほか、硬質材を取り囲む減衰材は、二本から四本程度の棒材を組み合わせたもので、一本の棒材の中心をくり抜いたものではない。補強芯をこのように構成することで、硬質材が減衰材によって完全に取り囲まれるため、硬質材に伝達する衝撃が緩和されるほか、硬質材から伝達していく衝撃も緩和され、使用感の改善が期待できる。なお硬質材や減衰材の断面寸法の詳細については、都度最適な値を選択する。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に対し補強芯の構造だけが異なるもので、この補強芯は、横断面の一辺の長さが30から40mmの正方形で、且つ一本の硬質材の一側面に一本の減衰材を貼り合わせて正方形断面とした小片を四個寄せ集めた構造で、小片は、野球用バットの中心軸を基準として90度ずつ回転移動させたように配置し、且つ全ての硬質材の一角は中心軸に集まっていることを特徴とする。
【0018】
この発明による補強芯は、一辺の長さが30から40mmの正方形断面で、硬質材と減衰材を組み合わせた小片を用いた構造である。個々の小片は、硬質材と減衰材を面接触させた二層構造で、補強芯の断面の四分の一の大きさの正方形断面である。なお小片の配置は、バットの中心軸を原点とする90度回転対称として、且つ硬質材が中心に集積するようにする。補強芯をこのように構成することで、硬質材が分散配置され、さらに個々の硬質材が減衰材で挟み込まれるため、衝撃が広範囲に分散される。なお硬質材や減衰材の断面寸法の詳細については、都度最適な値を選択する。
【0019】
請求項3記載の発明は、補強芯の素材を限定するもので、硬質材はヒッコリーまたは樫を用いており、且つ減衰材はアオダモまたはメイプルを用いていることを特徴とする。ヒッコリーは、主に北米東部に生息しているクルミ科の広葉樹で、木材としては硬質で衝撃荷重にも強く、古くはゴルフクラブにも使用されていた。乾燥した状態での比重は約0.85で竹よりも大きく、バットの剛性を高めるほか重量も増加する。また樫(カシ)についても、ヒッコリーには及ばないが相応の剛性と比重を有しており、各種工具の柄などに使用されている。ヒッコリーや樫は、資源が豊富で入手性に問題はない。
【0020】
減衰材には、従来の木製バットの素材であるアオダモやメイプルを用いる。アオダモやメイプルは、強度に優れるほか、衝撃を適度に吸収する性質があり、バットとして理想的な条件を備えている。したがって先の硬質材と組み合わせることで、強度の向上に貢献するほか、硬質材で伝達される衝撃を緩和でき、使用感が木製バットに類似したものとなる。なおアオダモやメイプルは、前記のように資源の面で制約があるものの、本発明では、その断面積が小さいため、従来は廃棄されていた端材などを使用可能で、費用の増加を最小限に抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明のように、硬質材と減衰材で構成された補強芯を中心部分に組み込み、その外周に竹片を積層した野球用バットによって、従来の竹バットの欠点である柔軟性が改善され、木製バットに類似した剛性が得られるほか、補強芯を硬質材と減衰材の二層構造とすることで、衝撃を緩和でき、木製バットに類似した使用感が得られる。さらに補強芯として、竹よりも比重の大きい素材を使用するため、形状を変えることなく重量を木製バットと同等の920g程度に調整可能で、実際の試合でも違和感なく使用できる。
【0022】
また減衰材を除く硬質材や竹片は資源量が豊富であり、安価で高性能のバットを市場に安定して供給できる。さらに補強芯と竹片の各構成要素は矩形断面であり、隣接する要素同士の接触面に圧力を加えながら接着作業を行えるため、各要素が強固に一体化して、内部からの破損を防止できる。そのほか補強芯は、途切れることなくバットの先端から末端までを貫通しているため、断面が絞り込まれるグリップ部分の強度も確保でき、耐久性も向上する。加えて本発明によるバットは、従来の竹バットの製造工程を流用でき、この点でも製品価格を抑制できる。
【0023】
さらに中央に硬質材を配置して、その全周を減衰材で取り囲んだ構造の補強芯とすることで、硬質材の全周が減衰材に覆われるため、硬質材と手が接触することがなく、衝撃を確実に緩和できる。
【0024】
請求項2記載の発明のように、硬質材と減衰材を接着した小片を四個合わせた構造として、且つ小片を90度ずつ回転移動させたように配置した補強芯を用いることで、硬質材を分散配置でき、しかも個々の硬質材は減衰材で挟み込まれるため、衝撃を効率よく緩和できる。また個々の減衰材の断面積が小さくなるため、アオダモなどの端材の有効活用にも貢献する。
【0025】
請求項3記載の発明のように、硬質材としてヒッコリーまたは樫を用いて、減衰材としてアオダモまたはメイプルを用いることで、費用を抑制しながら木製バットに類似する性能のバットを提供できる。なお、アオダモやメイプルを用いる減衰材は、従来の木製バットに比べて断面積が小さいため、木製バットを製造する際に発生した端材など、これまでは活用が困難だった部分を使用でき、費用の増加もわずかであり、希少資源の有効活用が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1(A)(B)(C)(D)】野球用バットの構造を示しており、(A)は正面図と左側面図で、(B)はB−B断面図で、(C)はC−C端面図で、(D)はD−D端面図である。
図2(A)(B)】図1に示す野球用バットの元になる母材の横断面で、(A)は構成要素を分離した状態で、(B)は全体を一体化した状態である。
図3(A)(B)(C)(D)】請求項1に基づく野球用バットの構造例を示しており、(A)は正面図と左側面図で、(B)はB−B断面図で、(C)はC−C端面図で、(D)はD−D端面図である。
図4(A)(B)】図3に示す野球用バットの元になる母材の横断面で、(A)は構成要素を分離した状態で、(B)は全体を一体化した状態である。
図5(A)(B)(C)(D)】請求項2に基づく野球用バットの構造例を示しており、(A)は正面図と左側面図で、(B)はB−B断面図で、(C)はC−C端面図で、(D)はD−D端面図である。
図6(A)(B)】図5に示す野球用バットの元になる母材の横断面で、(A)は構成要素を分離した状態で、(B)は全体を一体化した状態である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1野球用バット11aの構造を示しており、図1(A)は正面図と左側面図で、図1(B)はB−B断面図で、図1(C)はC−C端面図で、図1(D)はD−D端面図である。この図に示す野球用バット11aは、中心に配置された矩形断面の補強芯21aが両端を貫通しており、その外側を竹片33が積層した外周材31で取り囲んでいる。本図の補強芯21aは、一辺の長さが36mmの正方形断面で、中央の硬質材23を上下の減衰材24で挟み込んだ三層構造である。硬質材23は、ヒッコリーを長辺36mm、短辺12mmの長方形断面に製材したもので、B−B断面図のように、途切れることなく両端を貫通している。また減衰材24は、アオダモを長辺36mm、短辺12mmの長方形断面に製材したもので、上下のいずれも途切れることなく両端を貫通している。
【0028】
補強芯21aの外側を覆う外周材31は、多数の竹片33を接着して形成されている。竹片33は、伐採した竹を繊維方向に引き裂いた細長い短冊状で、C−C端面図の外縁で斜線が引かれている細長い長方形の区画が一個の竹片33を表している。なお一個の竹片33の断面は、長辺が15mm、短辺が5mm程度だが、当然ながらばらつきがある。また竹は本来円筒状であるため、厳密には竹片33も湾曲しているが、個々の竹片33の幅は、元の竹の直径に比べて十分に小さいため、平面状の板として扱うことができる。C−C端面図のように、隣接する竹片33同士は隙間なく密着しており、しかも補強芯21aと竹片33との境界も同様に密着しており、全体が一体化している。なお個々の竹片33は、端面から見て、その長手方向ができるだけ半径方向に沿うように配置されている。
【0029】
バットの断面が絞り込まれるグリップ部分では、D−D端面図のように、全体が補強芯21aだけで構成される。したがってこの近傍では、従来の木製バットと同等な剛性が確保されており、しかも硬質材23を減衰材24で挟み込んでいるため、手に伝達する衝撃が緩和される。なお硬質材23の素材としては、ヒッコリーのほか樫が挙げられ、また減衰材24の素材としては、アオダモやメイプルのほか、ホワイトアッシュやヤチダモやトリネコが挙げられる。
【0030】
図2は、図1に示す野球用バット11aの元になる母材12aの横断面で、図2(A)は構成要素を分離した状態で、図2(B)は全体を一体化した状態である。なお母材12aの断面形状は、どの場所でも同一で約70mm角である。母材12aは、個々の竹片33を一度に接着する訳ではなく、まず始めに、個々の竹片33の広い面同士を接着した積層体32を製造する。この積層体32は、後工程での接着不良を防止するため、表面を平滑化する。さらに、補強芯21aを構成する硬質材23と減衰材24を規定の断面形状に加工する。そして、硬質材23と減衰材24と積層体32の表面に接着剤を塗布して、これらを一体化すると、最終的に図2(B)のような母材12aが完成する。
【0031】
図3請求項1に基づく野球用バット11bの構造例を示しており、図3(A)は正面図と左側面図で、図3(B)はB−B断面図で、図3(C)はC−C端面図で、図3(D)はD−D端面図である。この図に示す野球用バット11bは、中心に配置された矩形断面の補強芯21bが両端を貫通しており、その外側を竹片33が積層した外周材31で取り囲んでいる。本図の補強芯21bは、一辺の長さが36mmの正方形断面で、中央の硬質材23を取り囲むように減衰材24が配置された構造である。硬質材23は、ヒッコリーを一辺16mmの正方形断面に製材したもので、B−B断面図のように、途切れることなく両端を貫通している。また減衰材24は、アオダモを長方形断面に製材したものを四個組み合わせており、いずれも途切れることなく両端を貫通している。そのほか外周材31については、先の図1と全く同じである。
【0032】
バットの断面が絞り込まれるグリップ部分では、D−D端面図のように、全体が補強芯21bだけで構成される。したがってこの近傍では、従来の木製バットと同等な剛性が確保されており、しかも硬質材23の全周を減衰材24で取り囲んでいるため、手に伝達する衝撃が緩和される。なお硬質材23や減衰材24の素材は、先の図1と同様である。
【0033】
図4は、図3に示す野球用バット11bの元になる母材12bの横断面で、図4(A)は構成要素を分離した状態で、図4(B)は全体を一体化した状態である。この図でも先の図2と同様、竹片33を接着した積層体32を製造すると共に、補強芯21bを構成する硬質材23と減衰材24を規定の断面形状に加工する。そして、硬質材23と減衰材24と積層体32の表面に接着剤を塗布して、これらを一体化すると、最終的に図4(B)のような母材12bが完成する。
【0034】
図5請求項2に基づく野球用バット11cの構造例を示しており、図5(A)は正面図と左側面図で、図5(B)はB−B断面図で、図5(C)はC−C端面図で、図5(D)はD−D端面図である。この図に示す野球用バット11cは、中心に配置された矩形断面の補強芯21cが両端を貫通しており、その外側を竹片33が積層した外周材31で取り囲んでいる。本図の補強芯21cは、一辺の長さが36mmの正方形断面で、計四個の小片22を90度ずつ回転させたように配置した構造である。この小片22は、長さが18mmの正方形断面で、硬質材23と減衰材24を接着した二層構造で、B−B断面図のように、途切れることなく両端を貫通している。なお各小片22は、硬質材23が中心に集積するように配置してあり、補強芯21cの外縁は、減衰材24の占める割合が大きい。そのほか外周材31については、先の図1と全く同じである。
【0035】
C−C端面図のように、個々の硬質材23は、減衰材24や竹片33で取り囲まれており、衝撃が効率よく緩和されていく。また断面が絞り込まれるグリップ部分では、D−D端面図のように、全体が補強芯21cだけで構成されるが、硬質材23は中心部分に集積しており、外周面は硬質材23の端面が部分的に露見するだけで、使用感に大きな影響を与えることはない。
【0036】
図6は、図5に示す野球用バット11cの元になる母材12cの横断面で、図6(A)は構成要素を分離した状態で、図6(B)は全体を一体化した状態である。この図でも先の図2と同様、竹片33を接着した積層体32を製造すると共に、補強芯21cを構成する計四個の小片22をあらかじめ製造している。個々の小片22は、いずれも矩形断面の硬質材23と減衰材24を接着した二層構造だが、断面積は減衰材24の方が大きい。そして計四個の小片22を並べた上、小片22と積層体32の表面に接着剤を塗布して、これらを一体化すると、最終的に図6(B)のような母材12cが完成する。
【符号の説明】
【0037】
11a、11b、11c 野球用バット
12a、12b、12c 母材
21a、21b、21c 補強芯
22 小片
23 硬質材
24 減衰材
31 外周材
32 積層体
33 竹片
図1(A)(B)(C)(D)】
図2(A)(B)】
図3(A)(B)(C)(D)】
図4(A)(B)】
図5(A)(B)(C)(D)】
図6(A)(B)】