(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794761
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】セサミン類及びビタミンEを含有する抗疲労剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/355 20060101AFI20150928BHJP
A23L 1/302 20060101ALI20150928BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20150928BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20150928BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
A61K31/355
A23L1/302
A61K31/36
A61P3/02 109
A61P43/00 121
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-533157(P2009-533157)
(86)(22)【出願日】2008年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2008066766
(87)【国際公開番号】WO2009038089
(87)【国際公開日】20090326
【審査請求日】2011年8月25日
【審判番号】不服2014-4421(P2014-4421/J1)
【審判請求日】2014年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2007-243136(P2007-243136)
(32)【優先日】2007年9月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】竹本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小野 佳子
(72)【発明者】
【氏名】安武 瑶子
【合議体】
【審判長】
蔵野 雅昭
【審判官】
前田 佳与子
【審判官】
安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】
特開平4−368326(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/105749(WO,A1)
【文献】
片岡洋祐,酸化ストレスと脳の疲労,医学のあゆみ,2003年,Vol.204,No.5,p.314−318
【文献】
平本恵一ら,酸化ストレスと疲労,医学のあゆみ,2003年,Vol.204,No.5,p.309−313
【文献】
原田雅己,セサミンの生理活性−抗酸化作用と生体防御−,Bio Industry,2000年,Vol.17,No.3,p.23−31
【文献】
Free Radical Biology & Medicine,1990年,Vol.8,p.9−13
【文献】
Experimental Gerontology,2003年,Vol.38,p.285−290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/33-33/44
A23L1/27-1/308
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JMEDPLUS(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのセサミン類および少なくとも一つのビタミンEを有効成分として含有する抗疲労剤であって、セサミン類を1〜10重量%含み、セサミン類の総量1に対してビタミンEの総量を8〜12の割合で含む、前記抗疲労剤。
【請求項2】
疲労に関連する疾患または状態を予防または処置するための医薬組成物または飲食物である、請求項1に記載の抗疲労剤。
【請求項3】
セサミン類が、セサミン及び/又はエピセサミンである、請求項1又は2に記載の抗疲労剤。
【請求項4】
ビタミンEが(±)−α−トコフェロールである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抗疲労剤。
【請求項5】
抗疲労剤を製造するための、少なくとも一つのセサミン類及び少なくとも一つのビタミンEの使用であって、前記抗疲労剤はセサミン類を1〜10重量%含み、セサミン類の総量1に対してビタミンEの総量を8〜12の割合で含むものである、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セサミン類及びビタミンEを有効成分とする抗疲労剤に関する。より詳細には、セサミン類及びビタミンEを有効成分とし、肉体的および/または精神的疲労を予防および/または軽減させることができる医薬組成物又は飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労とは、身体的あるいは精神的作業を行ったときに生じる、活動力や作業能率の量的または質的な低下であり、さらには倦怠感、不快感、脱力感等の疲労感の自覚を伴うものである。これらの機能的低下と疲労感の発生は同時に生じる場合もあるが、時間差を持って生じたり、個別に独立して発生したりする場合もある。このような生理学的な疲労は通常、体を休めることにより元の正常な状態に回復し、長く続くことはない。1985年に行われた総理府の「健康に関する国民意識調査」では、約6割強の人が疲労を訴えているが、疲労を訴えている人の7割は「一晩の睡眠により疲労は回復する」と答えている。しかしながら、近年ではこの傾向が変わりつつある。1999年に行われた厚生省疲労調査研究班が実施した疫学調査によると、疲労を自覚している人の割合は約6割と変わっていないが、疲労を自覚している人うちの6割もの人が6ヶ月以上にわたって疲れを感じていることが報告されている。すなわち、1985年から1999年までの14年の間に、慢性的な疲労に悩む人が増加し、疲労の質が変化してきているのである(非特許文献1)。そして、最近では、慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome;CFS)なる疾患や、過労死が大きな社会問題となっている。しかし、疲労に関する原因、メカニズムは多種多様であり、多くの研究者により研究が行われているが、全体像の把握には至っておらず、また、慢性疲労症候群や過労死などの疲労を原因とする疾患の明確な治療または予防方法は確立されていない。
【0003】
最近では、いわゆる「抗疲労物質」と呼ばれる、疲労の軽減作用や、疲労から正常な状態への回復を早める作用などを有する物質が報告されている。例えば、ある種のアミノ酸組成物(特許文献1)や、L−カルニチンおよびヒスチジン関連ジペプチド(特許文献2)、サンザシ抽出物(特許文献3)などに体力増強作用があることが報告されている。また、運動等による体力の消耗や疲労時等における栄養補給を目的として、アスコルビン酸を含む栄養補給組成物が有用であることが示されている(特許文献4)。
【0004】
セサミン類は、ゴマの主要なリグナン化合物の一種であり、ゴマ種子中に0.1〜0.5質量%程度含まれている。セサミン類については、例えば、血中コレステロール低下作用及び/又は血中中性脂肪低下作用(特許文献5)、抗高血圧作用(特許文献6)、活性酸素消去作用(特許文献7)及び運動負荷時の過酸化脂質生成抑制作用(非特許文献2)等の種々の生理作用を示すことが知られている。しかしながら、セサミン類が抗疲労作用を示すということについては知られていなかった。
【0005】
一方、ビタミンEは脂溶性の生理的な抗酸化剤で、フリーラジカルや活性酸素との反応性がきわめて高い化合物である。ビタミンEの抗疲労作用としては、例えば、ビタミンEを摂取したラットにおいてトレーニングによる持久力増強効果が高まること、老齢ラットの疲労の初期段階を抑制すること(非特許文献3)、マウスを用いた水泳実験で酸化ストレスを抑えることで水泳時間を延長させること(非特許文献4)、及び、ヒトでビタミンCとEを事前に摂取しておくと筋収縮運動後の筋能力低下を抑制すること(非特許文献5)、等が知られているが、他方、ヒトにおいて、ビタミンEを120IU/日で30日間摂取しても運動による筋損傷及び炎症の抑制効果はみられなかった、という報告もある(非特許文献6)。
【0006】
第6次改定日本人の栄養所要量では男性10mg/日、女性8mg/日とされている。ビタミンE効力の高い主な食品には、ヒマワリ油、サフラワー油、米ヌカ油及び大豆油等の植物油類、マーガリン、アーモンド及び落花生などの種実類、及び小麦胚芽などがある。許容上限摂取量が600mg/日(α−トコフェロール当量)と設定され、市中薬局で購入する場合300mg/日、サプリメントのうち栄養機能食品としては150mg/日が上限とされている。
【0007】
ところで、ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体とトコフェロール類を含有する組成物がコレステロール降下作用を示すことが知られている(特許文献8)。
【特許文献1】特開平9−124473号公報
【特許文献2】特開2001−046021号公報
【特許文献3】特開平8−47381号公報
【特許文献4】特開平6−327435号公報
【特許文献5】特許第3001589号公報
【特許文献6】特開平5−051388号公報
【特許文献7】特開平6−227977号公報
【特許文献8】特許第3283274号公報
【非特許文献1】疲労の科学(9.疲労回復情報;2001、講談社)
【非特許文献2】International journal of sports medicine 2003 24(7), 530-534
【非特許文献3】Experimental gerontology 2003 Mar;38(3):285-90
【非特許文献4】Free radical biology & medicine 1990;8(1):9-13
【非特許文献5】European journal of applied physiology 2004 Oct;93(1-2):196-202
【非特許文献6】Medicine and science in sports and exercise 2002 May;34(5):798-805
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒトやヒト以外の動物に対して有効な抗疲労剤を提供することを目的とする。特に、安全性が高く、そして継続摂取が可能である抗疲労剤、特に、医薬組成物又は飲食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、疲労度を評価するためのモデルとされている水浸負荷モデル動物による遊泳試験において、被験動物にセサミン類とともにビタミンEを投与した場合に、セサミン類及びビタミンEをそれぞれ単独で投与した場合に比較して、顕著な相乗作用が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.少なくとも一つのセサミン類及び少なくとも一つのビタミンEを有効成分として含有する抗疲労剤、
2.疲労に関連する疾患または状態を予防または処置するための医薬組成物または飲食物である、前記1に記載の抗疲労剤、
3.セサミン類が、セサミン及び/又はエピセサミンである、前記1又は2に記載の抗疲労剤、
4.ビタミンEが(±)−α−トコフェロールである、前記1乃至3のいずれか一つに記載の抗疲労剤、
5.抗疲労剤を製造するための、少なくとも一つのセサミン類及び少なくとも一つのビタミンEの使用、及び
6.疲労状態の予防または治療方法であって、該予防または治療を必要とする対象に、少なくとも一つのセサミン類及び少なくとも一つのビタミンEを含有する組成物を投与することを含む方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明はセサミン類とビタミンEとを有効成分とする抗疲労剤であり、本発明により、優れた抗疲労作用を示す組成物を提供することができる。
【0012】
また、セサミン類やビタミンEは様々な生理活性を有することから、抗疲労作用だけでなく、その他の生理活性も相加的又は相乗的に発揮することが期待できる。さらに、ビタミンE及び胡麻由来の成分であるセサミン類は、長年に渡って飲食品として摂取されている安全な物質である。そのため、本発明により、中期、長期にわたって経口摂取しても安全である、優れた抗疲労作用を示す組成物を提供することができる。したがって、本発明の抗疲労剤は医薬用組成物や、健康食品等の飲食物として提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、(±)−α−トコフェロール、及び/または、セサミン/エピセサミン混合物の投与による遊泳時間の短縮抑制効果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の抗疲労剤について、以下、具体的に説明する。
<セサミン類>
本発明において、セサミン類とは、セサミン及びその類縁体を含む化合物の総称である。前記のセサミン類縁体としては、エピセサミンの他、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示でき、これらの立体異性体又はラセミ体を単独で、または混合して使用することができる。本発明においては、セサミン及び/又はエピセサミンを好適に用いることができる。また、セサミン類の代謝体(例えば、特開2001−139579号公報に記載)も、本発明の効果を示す限り、本発明のセサミン類に含まれるセサミン類縁体であり、本発明に使用することができる。
<ビタミンE>
本発明において、ビタミンEとは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール及びδ−トコフェロール等のトコフェロール化合物、並びに、酢酸トコフェロール等のトコフェロールのエステル誘導体を意味するものである。そして、本発明の抗疲労剤において、ビタミンEとしては、トコフェロール化合物の一種のみを用いることができ、または、二種以上を組み合わせて用いることもできる。また、トコフェロール化合物は不斉炭素を有しているため立体異性体が存在するが、本発明において、各トコフェロール化合物は、単一の立体異性体のみを用いることができ、また、それら異性体の任意の割合の混合物(ラセミ体を含む)として用いることもできる。
【0015】
本発明の抗疲労剤においては、好ましくは、α−トコフェロールとγ−トコフェロールの混合物、またはα−トコフェロールがビタミンEとして用いられる。
<抗疲労作用>
本発明の抗疲労剤は、ヒトやヒト以外の動物に抗疲労作用を示すものである。ここで、ヒト以外の動物とは、産業動物、ペットおよび実験動物を表す。具体的には、産業動物とは、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ及びヒツジ等の家畜、ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥及びダチョウ等の家禽、並びに、ブリ、ハマチ、マダイ、マアジ、コイ、ニジマス及びウナギ等の魚類等、産業上飼養することが必要とされている動物をいう。ペットとはイヌ、ネコ、マーモセット、小鳥及びハムスター等のいわゆる愛玩動物、コンパニオン・アニマルをいい、実験動物とはマウス、ラット、モルモット、ビーグル犬、ミニブタ、アカゲザル及びカニクイザル等、医学、生物学、農学及び薬学等の分野で研究に供用される動物を表す。中でも本発明の抗疲労剤は、疲労を知覚するヒト、産業動物、ペット及び実験動物に用いられ、特にヒトに対して好適に用いられる。
【0016】
疲労とは、身体的あるいは精神的負荷を連続して与えたときにみられる一時的な身体的および精神的パフォーマンスの低下現象であり、パフォーマンスの低下は、身体的および精神的作業能力の質的あるいは量的な低下を意味する。また、本発明の「疲労」には、慢性疲労症候群や過労死をも包含するものとする。
【0017】
本発明の抗疲労作用とは、上記疲労を減弱させる作用や疲労を回復させる作用をいい、具体的には、運動や作用した部位(脳を含む)の働きの持続時間を向上させること、および同じ運動量や作用量での疲労物質の増加を抑制すること(持久力向上・体力増強)、運動や作用した部位が疲労していないにもかかわらず脳や神経などが疲労感知状態になっていることを改善すること、ならびに運動や作用した部位の疲労状態を通常状態に回復することを促進する効果をいう。
【0018】
また、本発明の抗疲労剤が目的とする慢性疲労症候群とは、日常生活に支障を来すほどの長期的な全身疲労感、倦怠感、微熱、リンパ節腫脹、筋肉痛、関節痛及び精神神経症状などの基本的な症状を意味する。本発明の抗疲労剤は、この慢性疲労症候群を処理、すなわち慢性疲労症候群の各症状を緩和し、正常な状態に移行させることができる。さらに、本発明の抗疲労剤が目的とする過労死とは、重度の過労状態にあり、身体的活力を保つことができないにも関わらず、疲労を十分に感じることができなくなり、その結果、脳血管疾患や心疾患を発症して永久的労働不能や死亡に至った状態を意味する。本発明の抗疲労剤は、慢性疲労症候群を処置することができ、それにより過労死を予防しうるものである。
【0019】
本発明の抗疲労作用、すなわち抗疲労剤としての効果は、例えば次の試験により確認することができる。すなわち、水浸断眠試験における遊泳時間の測定である。水浸飼育のように、十分な睡眠や休息姿勢をとることができず、肉体的にも精神的にも休息できない環境で飼育されたマウスを用い、おもりを負荷させた状態で遊泳させ、限界水泳時間(例えば10秒以上鼻が水没した場合、その水没する時までの時間、又は、最終的に(再浮上しなくなるまで)鼻先が水没した場合、その水没の時までの時間)を測定することにより、その疲労度を確認するものである。この動物モデルは肉体的及び精神的疲労モデルであるから、被験物質を投与することにより遊泳時間が延長されれば、肉体的及び精神的疲労やそれに伴う筋肉痛等の苦痛を予防または改善できたこと、体力が増強され疲労困憊に至るまでの時間が延長されたこと、疲労状態のもとで身体的活力が維持されたこと等、疲労に対する抵抗性があることが確認される。
【0020】
本発明の抗疲労剤は、これを摂取することにより疲れにくくなり、また疲労回復にも効果がある。すなわち、スポーツなどの筋肉運動に際して肉体疲労を感じたとき、計算作業等の連続作業に際して精神疲労を感じたときに摂取して疲労の回復を図ることができることはいうまでもないが、予め摂取してから労働、スポーツなどを行うと疲労を予防することもできる。また、スポーツを行う前や途中で摂取することにより、持久力向上が期待できる。さらに、日常的に摂取することにより、精神的な疲労やそれに伴う疾患をも予防することができる。
<抗疲労剤>
本発明の抗疲労剤はセサミン類とビタミンEとを有効成分として含有する。そして、抗疲労剤の使用態様に応じて、その効果を損なわない限り、その他の任意の成分を含有することができる。任意の成分としては、例えば、ビタミンB及びビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、ホルモン、栄養成分及び香料等の生理活性成分のほか、製剤化において配合される乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、増量剤及び抗酸化剤等を適宜配合することができる。
【0021】
本発明の抗疲労剤は、ヒトやヒト以外の動物が摂取することによってそれら動物において抗疲労作用を奏するものである。それら動物が摂取する形態は特に制限されないが、経口で摂取されることが好ましく、そのため、本発明の抗疲労剤は経口摂取に適した経口用組成物の形態であることが好ましい。経口用剤には、例えば、医薬用組成物及び飲食物等が含まれる。
【0022】
本発明の抗疲労剤において、セサミン類とビタミンEとの配合割合は、抗疲労作用を示す限りにおいて特に制限はない。例えば、本発明の抗疲労剤は、セサミン類の総量1に対して、ビタミンEの総量を1乃至30の割合(質量比)、好ましくは2乃至15の割合(質量比)、さらに好ましくは8乃至12の割合(質量比)、で配合することができる。このような割合で配合した場合に、本発明の抗疲労剤は、セサミン類とビタミンEとの特に顕著な相乗作用を示すものである。例えば、本発明者らは、5mg/kgのセサミン/エピセサミン混合物と50mg/kgの(±)−α−トコフェロールとをマウスに経口投与した場合に、それらが相乗的に作用し、優れた抗疲労作用を示すことを確認している(実施例1参照)。
【0023】
本発明の抗疲労剤におけるセサミン類の配合量としては、剤の全質量に対して、例えば0.01乃至50質量%であり、好ましくは0.1乃至10質量%である。また、ビタミンEの配合量としては、剤の全質量に対して、例えば0.1乃至50質量%であり、好ましくは1乃至40質量%である。また、必要量のセサミン類及びビタミンEの経口での摂取を容易にするということを考慮した場合、抗疲労剤におけるセサミン類及びビタミンEの配合量を、それぞれ、例えば、1乃至10質量%及び5乃至40質量%とすることもできる。
【0024】
本発明の抗疲労剤の製造においては、セサミン類及びビタミンEは、それぞれ、天然物から単離された状態のセサミン類及びビタミンEを使用することができ、また、化学的に合成されたセサミン類及びビタミンEを使用することができる。また、その構成成分としてセサミン類またはビタミンEを含む材料を用いて、本発明の抗疲労剤を製造することもできる。その構成成分としてセサミン類を含む材料としては、例えば、ゴマ油及びゴマ絞り粕等を挙げることができる。その構成成分としてビタミンEを含む材料としては、例えば、キャノーラ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、ひまわり油、綿実油、及び落花生油等を挙げることができる。
【0025】
本発明の抗疲労剤は、セサミン類とビタミンE、及び必要に応じて使用することができる上記の任意成分、とを、抗疲労剤の使用態様に応じて、適切な方法で混合することによって製造することができる。
【0026】
また、本発明の抗疲労剤が飲食物である場合には、例えば、任意の食品(固形物または液状物)にセサミン類とビタミンEとを添加することによって本発明の抗疲労剤とすることができる。また、セサミン類若しくはビタミンEの一方のみを含有する任意の食品に他方の成分を添加することによって、本発明の抗疲労剤とすることができる。
【0027】
本発明で使用されるセサミン類(またはセサミン類を含む材料)は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択した場合には、通常、ゴマ油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または精製物という)を用いることができる。また、市販のゴマ油(液状)をそのまま用いることもできる。しかしながら、ゴマ油を用いた場合には、ゴマ油特有の風味が官能的に好ましくないと評価されることもあることから、ゴマ油から抽出された無味無臭であるセサミン抽出物(又はセサミン精製物)を用いることが好ましい。また、ゴマ油を用いた場合、セサミン含有量が低いため、好ましい量のセサミンを配合しようとすると、処方される組成物の単位投与当りの体積が大きくなり過ぎるため、摂取に不都合を生じることがある。特に、経口投与用に製剤化した場合は、製剤(錠剤、カプセルなど)が大きくなり過ぎて摂取に支障が生じる。したがって、摂取量が少なくてよいという観点からもゴマ油からのセサミン抽出物(又はセサミン精製物)を用いることが好ましい。
【0028】
このように、本発明の抗疲労剤の製造にその構成成分としてセサミン類を含む材料を使用する場合、セサミン類を高い濃度で含有する濃縮物を用いるのが好ましい。濃縮の度合いは、用いるセサミン類の種類や製造する抗疲労剤の形態により適宜設定すればよいが、通常、セサミン類が1質量%以上となるように濃縮されたセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。セサミン類濃縮物中のセサミン類総含量は、20質量%以上がより好ましく、さらに50質量%以上が好ましく、さらにまた70質量%以上が好ましく、90質量%以上まで濃縮(精製)されたものが最適である。
【0029】
本発明で使用されるセサミン類は、上記のとおり、従来の食品中より見出した化合物又はその類縁化合物であるので安全性の面からも優れているのは明らかである。これはまた、7週令のICR雄性マウスに対し、セサミン2.14g/day/kgを2週間連投(経口投与)したところ、何ら異常な症状は認められなかったことからも明らかである。
【0030】
本発明で使用されるビタミンE(またはビタミンEを含む材料)は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、本発明に用いられるビタミンEとしては、天然の抽出ビタミンE、化学合成により得られたdl体ビタミンEなどα−トコフェロールを含むものであればいずれのビタミンEを使用することもできる。また、天然型および合成したビタミンE誘導体(酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールなど)であっても利用できる。抽出ビタミンEとしては、例えば、キャノーラ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、ひまわり油、綿実油、落花生油などから分離・精製して得られる、α−、β−、γ−、δ−トコフェロールおよびトコフェロールの同族体であるα−、β−、γ−、δ−トコトリエノールなどを含む混合物が挙げられる。本発明においては、α−トコフェロールの含量の高いビタミンEを使用することが有利であり、具体的には、α−トコフェノロールが、ビタミンE中に5質量%以上(更に好ましくは、10質量%以上)含まれるものであることが好ましい。なお、本発明では、各トコフェロールの含有量が調整された市販のビタミンEを使用することができる。
【0031】
本発明の抗疲労剤を医薬組成物とする場合、その形態には特に制限はなく、医薬組成物として許容される形態とすることができる。例えば、本発明の抗疲労剤を注射剤の形態として投与することができる。また、本発明の抗疲労剤を液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤及び丸剤等の形態とし、経口投与することができる。その形態は、病態やその進行状況、その他の条件によって適宜選択することができる。また、本発明の抗疲労剤の投与量についても、対象、病態やその進行状況、その他投与形態等の条件によって適宜選択することができる。例えば、ヒト(成人)を対象に経口投与する場合には、一般に、セサミン類及びビタミンEがそれぞれ、例えばセサミン類が0.5mg〜100mg、ビタミンEが10mg〜300mg、好ましくはセサミン類が1mg〜60mg、ビタミンEが20mg〜200mg程度を、さらに好ましくはセサミン類が3mg〜60mg、ビタミンEが40mg〜150mg程度を、1日に1〜3回程度の頻度で連続投与するとよい。
【0032】
本発明の抗疲労剤は、上記のとおり、優れた抗疲労作用を示すものである。また、本発明の抗疲労剤は、セサミン類とビタミンEの持つその他の種々の生理作用が相加的に、または相乗的に発揮され得ると考えられる。これらのことから、本発明の抗疲労剤は、健康食品としても好適に利用できる。
【0033】
ここでいう健康食品とは、例えばカプセル剤や錠剤のように、セサミン類とビタミンEとを含有する組成物そのものを有効成分とする製剤又は食品、ならびに一般の食品にセサミン類及び/またはビタミンEを配合して、生体に対する抗疲労作用等の種々の機能をその食品に付加してなる機能性食品(特定保健用食品や条件付き特定保健用食品が含まれる)を挙げることができる。さらに、生体の疲労を軽減または疲労回復を促進する旨の表示を付してなる、抗疲労作用を有することを特徴とする食品等も包含するものとする。
【0034】
セサミン類とビタミンEとを含有する健康食品としては、その形態を特に制限するものではなく、例えば、粉末状、顆粒状及び錠剤状等の固体状;溶液状、乳液状及び分散液状等の液状;及びペースト状等の半固体状、等の任意の形態に調製することができる。例えば、ヒト(成人)を対象とする健康食品では、一般に、その食品の一回の摂取でセサミン類及びビタミンEがそれぞれ、例えば1乃至60mg及び10乃至300mg、好ましくは5乃至60mg及び20乃至200mg程度摂取できるように、セサミン類及びビタミンEを健康食品に配合することができる。
【0035】
以下、本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1.セサミン類とビタミンEによる抗疲労作用
被験物質となるセサミン類及びビタミンEとして、それぞれ、セサミン/エピセサミン混合物(セサミン:エピセサミン(質量比)=5:5)及び(±)−α−トコフェロール(和光純薬工業)を用いた。
【0037】
水浸断眠試験により、疲労に対する効果を評価した。評価は、Tanakaらの方法(Neuroscience,Let.352,159−162,2003)を一部改変した方法で実施した。Balb/c系雄性マウス(8週齢)を日本エスエルシー株式会社より購入し、1週間試験環境で馴化させた後、順調な発育を示した動物を試験に供した。平均体重が均等になるように1群10匹で表1のようにマウスを5群に群分けした。そのうち、4群は水浸断眠ストレス群として、床敷(ペーパーチップ)のかわりに水温23℃の水道水を水深7mmになるように飼育ケージに入れて飼育することにより、マウスを水浸断眠させた。(±)−α−トコフェロール、及びセサミン/エピセサミン混合物を共にオリブ油に溶解し、被験サンプルとした。2日間の水浸断眠中にそれぞれの被験サンプルを、表1に示したように、(±)−α−トコフェロール、及び/または、セサミン/エピセサミン混合物を、それぞれ、50mg/kg及び5mg/kgの摂取量となるように、1日1回、2日間強制経口投与した。
【0038】
水浸飼育2日後、マウスの尾に体重の8%相当の重りをつけて水槽中(直径18cm、水深30cm)で遊泳させ、限界水泳時間(最終的に(再浮上しなくなるまで)鼻先が水没する、その水没までの時間)を測定した。水浸飼育群(水浸断眠ストレス群)のマウスは通常飼育群のマウスよりも遊泳時間が短縮するが、(±)−α−トコフェロール、セサミン/エピセサミン混合物またはそれら双方の投与によって遊泳時間の短縮をどれだけ抑制できるかにより、疲労に対する効果を判定した。
【0039】
【表1】
結果を
図1に示す。
図1中、*はスチューデントt検定による危険率0.05%の有意差を示す。
図1より明らかなとおり、水浸飼育対照群(群2)の遊泳時間は、通常飼育対照群(群1)にくらべて短縮した。被験サンプルとしてセサミン/エピセサミン混合物を投与した群(群4)で少し遊泳時間の短縮抑制効果がみられたが、(±)−α−トコフェロールを投与した群では遊泳時間の短縮抑制効果は認められなかった。しかしながら、セサミン/エピセサミン混合物と、単独では効果のなかった用量の(±)−α−トコフェロールを投与した群(群5)においては、セサミン/エピセサミン混合物を単独で投与した群4と比較して、遊泳時間の短縮抑制効果が顕著に増強されていた。
【0040】
以上のことから、セサミン類とα−トコフェロールには相乗的な抗疲労作用があることが確認された。
【0041】
実施例2.抗疲労剤の製造
本発明の抗疲労剤の製造例を以下に示す。
(製剤例1)顆粒剤
セサミン 10g
酢酸トコフェロール 10g
無水ケイ酸 20g
トウモロコシデンプン 110g
以上の粉体を均一に混合した後に10%のハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通り練和し、押し出し、乾燥して顆粒剤を得た。
(製剤例2)カプセル剤
ゼラチン 60.0%
グリセリン 30.0%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒360mgのソフトカプセルを得た。
【0042】
セサミン 3.5mg
ビタミンE 35mg
グリセリン脂肪酸エステル 15.0mg
ミツロウ 15.0mg
小麦胚芽油 223mg
(製剤例3)錠剤
セサミン 10g
ビタミンE 60g
デンプン 223g
ショ糖脂肪酸エステル 9.0g
酸化ケイ素 9.0g
これらを混合し、単発式打錠機にて打錠して径9mm、質量300mgの錠剤を製造した。
(製剤例4)ドリンク剤
呈味: DL−酒石酸ナトリウム 0.1g
コハク酸 0.009g
甘味:液糖 800g
酸味:クエン酸 12g
ビタミンC 10g
セサミン 1g
ビタミンE 20g
シクロデキストリン 5g
乳化剤 5g
香料 15ml
塩化カリウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
上記成分を配合し、水を加えて10リットルとした。このドリンク剤は、1回あたり約100mlを飲用する。