【実施例1】
【0011】
PET装置は、被検体に投与された陽電子放出核種を取り込んだ組織から放出される一対のガンマ線(対消滅ガンマ線)を同時計数することで、陽電子放出核種を取り込んだ組織の分布を示すPET画像の再構成を行なう装置である。ここで、本実施例に係るPET装置は、対消滅ガンマ線の検出時間差を利用してガンマ線が放出された位置を正確に特定するTOF(Time Of Flight)法により、TOF−PET画像を再構成する装置である。
【0012】
まず、実施例1に係るPET装置の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施例1に係るPET装置の構成を説明するための図である。
図1に示すように、実施例1に係るPET装置は、架台装置10と、コンソール装置20とを有する。
【0013】
架台装置10は、被検体Pに投与され、被検体Pの生体組織に選択的に取り込まれた陽電子放出核種から放出される対消滅ガンマ線を所定のモニタリング期間において計数する装置であり、天板11と、寝台12と、寝台駆動部13と、検出器モジュール14と、検出器カバー15と、FE回路16と、同時計数回路17とを有する。なお、架台装置10は、
図1に示すように、撮影口となる空洞を有する。
【0014】
天板11は、被検体Pが横臥するベッドであり、寝台12の上に配置される。寝台駆動部13は、後述する寝台制御部23の制御のもと、寝台12を移動することにより、被検体Pを架台装置10の撮影口内に移動させる。
【0015】
検出器モジュール14は、ガンマ線に由来する光を計数する。すなわち、検出器モジュール14は、被検体Pから放出されるガンマ線を検出するフォトンカウンティング(photon counting)方式の検出器モジュールであり、架台装置10においては、複数の検出器モジュール14が、例えば、被検体Pの周囲をリング状に取り囲むように配置される。なお、複数の検出器モジュール14は、リング状に配置される場合に限定されるものではなく、例えば、平板上に配列された複数の検出器モジュール14が2つ被検体Pを挟んで対向する位置に配置される場合であってもよい。以下では、複数の検出器モジュール14をまとめて、単に検出器と記載する場合がある。すなわち、検出器は、複数の検出器モジュール14を有する。
図2は、検出器モジュールを説明するための図である。
【0016】
例えば、検出器モジュール14は、
図2に示すように、シンチレータ141と、光電子増倍管142(PMT:Photomultiplier Tube)と、ライトガイド143とを有するアンガー型の検出器である。
【0017】
シンチレータ141は、被検体Pから放出されて入射したガンマ線を可視光に変換するNaIやBGOなどが、
図2に示すように、2次元に複数配列されている。また、光電子増倍管142は、シンチレータ141から出力された可視光を増倍して電気信号に変換する装置であり、
図2に示すように、ライトガイド143を介して稠密に複数個配置されている。ライトガイド143は、シンチレータ141から出力された可視光を光電子増倍管142に伝達するために用いられ、光透過性に優れたプラスチック素材などからなる。
【0018】
なお、光電子増倍管142は、シンチレーション光を受光し光電子を発生させる光電陰極、発生した光電子を加速する電場を与える多段のダイノード、および電子の流れ出し口である陽極から成っている。光電効果により光電陰極から放出された電子は、ダイノードに向って加速されてダイノードの表面に衝突し、複数の電子を叩き出す。この現象が多段のダイノードに渡って繰り返されることにより、なだれ的に電子数が増倍され、陽極での電子数は、約100万にまで達する。かかる例では、光電子増倍管142の利得率は、100万倍となる。また、なだれ現象を利用した増幅のためにダイノードと陽極との間には、通常600ボルト以上の電圧が印加される。
【0019】
このように、検出器モジュール14は、ガンマ線をシンチレータ141により可視光に変換し、変換した可視光を光電子増倍管142により電気信号に変換することで、被検体Pから放出されたガンマ線の数を計数する。
【0020】
図1に戻って、検出器カバー15は、複数の検出器モジュール14からなる検出器を収納するカバーである。
【0021】
FE回路16は、複数の検出器モジュール14それぞれが有する複数の光電子増倍管142それぞれの後段に接続され、同時計数回路17の前段(Front End)に接続される。FE回路16は、各光電子増倍管142が出力した電気信号から同時計数回路17の処理に用いられる各種データを生成する。
【0022】
すなわち、FE回路16は、各光電子増倍管142が出力した電気信号のアナログ波形データの波形整形処理を行なう。具体的には、FE回路16は、アナログ波形データに対して演算処理(積分処理および微分処理)を行なうことで、波高がエネルギーとなるデータを生成する。
【0023】
そして、FE回路16は、ガンマ線の入射位置を弁別する。具体的には、FE回路16は、シンチレータ141から出力された可視光を同じタイミングで電気信号に変換出力した光電子増倍管142の位置と、エネルギーとから重心位置を演算することで、ガンマ線の入射位置(シンチレータ141の位置)を決定する。
【0024】
そして、FE回路16は、各光電子増倍管142が出力した電気信号のアナログ波形データから、ガンマ線が検出された時間(検出時間)を計測する。例えば、FE回路16は、アナログ波形データにおいて、予め設定された電圧値の閾値となった時点をガンマ線の検出時間として計測する。
【0025】
そして、FE回路16は、上記した処理により生成したデータ(ガンマ線の検出位置、ガンマ線のエネルギー、ガンマ線の検出時間)を検出器の計数情報として、同時計数回路17に出力する。
【0026】
同時計数回路17は、FE回路16から出力された計数情報の中で、陽電子放出核種から放出された対消滅ガンマ線を所定の時間幅内で略同時に計数した2つの計数情報の組み合わせを同時計数情報として生成する。
【0027】
具体的には、同時計数回路17は、FE回路16から出力された各種デジタルデータから、ガンマ線の入射タイミング(検出時間)が一定時間の時間ウィンドウ幅以内(例えば、2ナノ秒以内)にあり、エネルギーがともに一定のエネルギーウィンドウ幅にある組み合わせを検索(Coincidence Finding)する。そして、同時計数回路17は、検索した組み合わせの出力結果を、対消滅ガンマ線を略同時に計数した情報であるとして同時計数情報(Coincidence List)を生成する。そして、同時計数回路17は、同時計数情報をPET画像再構成用の投影データとして、コンソール装置20に送信する。ここで、対消滅ガンマ線を同時計数した2つの検出位置を結ぶ線は、LOR(Line of Response)と呼ばれる。なお、本実施例1では、同時係数情報が架台装置10内で生成される場合について説明した。しかし、本実施例1は、同時計数情報がコンソール装置20内で生成される場合であっても適用可能である。
【0028】
コンソール装置20は、操作者によるPET装置の操作を受け付けるとともに、架台装置10によって収集された同時計数情報からPET画像(本実施例1ではTOF−PET画像)を再構成する装置である。
【0029】
具体的には、コンソール装置20は、
図1に示すように、入力部21と、表示部22と、寝台制御部23と、較正部24と、画像再構成部25と、データ記憶部26と、システム制御部27とを有し、コンソール装置20が有する各部は、内部バスを介して接続される。
【0030】
入力部21は、PET装置の操作者が各種指示や各種設定の入力に用いるマウスやキーボードなどを有し、操作者から受け付けた指示や設定の情報を、システム制御部27に転送する。
【0031】
表示部22は、操作者によって参照されるモニタであり、システム制御部27による制御のもと、PET画像を操作者に表示したり、入力部21を介して操作者から各種指示や各種設定などを受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。
【0032】
寝台制御部23は、寝台駆動部13を制御することで、被検体Pを架台装置10の撮影口内に移動させる。
【0033】
較正部24は、検出器モジュール14それぞれの検出時間を決定するための時間情報を較正する。なお、較正部24については、後に詳述する。
【0034】
データ記憶部26は、
図1に示すように、同時計数情報データ26aと、時間情報データ26bと、画像データ26cとを有する。同時計数情報データ26aは、同時計数回路17が生成した同時計数情報を記憶する。画像データ26cは、画像再構成部25により再構成されたPET画像を記憶する。時間情報データ26bは、較正部24の処理結果を記憶する。なお、時間情報データ26bが記憶する内容については、後に詳述する。
【0035】
画像再構成部25は、同時計数回路17が生成した同時計数情報(投影データ)を同時計数情報データ26aから読み出して、読み出した投影データを、例えば、逐次近似法を用いることで、PET画像を再構成する。さらに、本実施例に係る画像再構成部25は、同時計数情報の検出時間の時間差を用いて、TOF−PET画像を再構成する。そして、画像再構成部25は、再構成したPET画像をデータ記憶部26の画像データ26cに格納する。
【0036】
システム制御部27は、架台装置10およびコンソール装置20の動作を制御することによって、PET装置の全体制御を行う。具体的には、システム制御部27は、寝台12の移動や、FE回路16および同時計数回路17による同時計数情報の収集処理を制御する。また、システム制御部27は、入力部21を介して入力された操作者からの設定情報に基づいて、画像再構成部25におけるPET画像の再構成処理を制御する。また、システム制御部27は、画像データ26cが記憶するPET画像を、表示部22に表示するように制御する。
【0037】
以上、本実施例に係るPET装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、本実施例に係るPET−CT装置は、上述したTOF−PET画像を再構成する。
【0038】
ここで、TOF−PET画像を再構成する場合は、ガンマ線の速度は光速であるため、PET装置の各検出器モジュール14の時間分解能が重要となる。すなわち、TOF−PET画像を再構成する場合は、検出器モジュール14それぞれの検出時間を決定するための時間情報を高精度に較正する必要がある。
【0039】
従来、時間情報の較正には、ゲルマニウム68など陽電子放出核種を含む点線源を用いる方法が一般的に行なわれている。かかる方法(以下、従来方法と記載する)では、PET画像のFOV(Field Of View)内に点線源が設置される。例えば、点線源は、撮影口の中心位置に設置される。かかる状態で、同時計数回路17は、同時計数情報を生成する。同時計数情報には、上述したように、対消滅ガンマ線を検出した2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間の情報が含まれている。
【0040】
従来方法では、対消滅ガンマ線を検出した2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間の時間差と、対消滅ガンマ線を検出した2つの検出器モジュール14それぞれの点線源設置位置からの距離とを用いることで、時間情報を較正する。
図3は、従来の較正方法の課題を説明するための図である。
【0041】
しかし、
図3に示すように、陽電子放出核種を含む点線源301がFOV内に設置された場合、対消滅ガンマ線を検出可能な検出器モジュール14のペアは、常に点線源301を結ぶ直線状にある検出器モジュール14のペアに限定されてしまう。例えば、従来方法では、
図3に示す実線の丸で囲まれた2つの検出器モジュール14それぞれと、
図3に示す点線の丸で囲まれた1つの検出器モジュール14との間で対消滅ガンマ線を検出することができない。その結果、従来方法では、すべての検出器モジュール14の時間情報を揃えることはできない。
【0042】
そこで、本実施例では、すべての検出器モジュール14の時間情報を揃えるために、検出器において、複数の検出器モジュール14で囲まれる範囲内の任意の位置に、周囲が散乱体で囲まれた陽電子放出核種を含む点線源が設置される。
図4は、実施例1にて用いられる点線源を説明するための図である。
【0043】
すなわち、
図4に示すように、本実施例にて用いられる点線源30は、陽電子放出核種を含む物体30aと、物体30aの周囲を覆う散乱体30bとにより形成される。例えば、散乱体30bは、高密度の金属などである。散乱体30bの厚さを調整することで、点線源30から散乱なしで放出されるガンマ線と、点線源30から散乱されたうえで放出されるガンマ線との割合を調整することができる。
【0044】
散乱体30bで物体30aが覆われた点線源30は、従来用いられていた点線源301と同様に、FOV内に設置される。例えば、点線源30は、撮影口の中心位置に設置される。
図5は、実施例1にて対消滅ガンマ線を検出可能な検出器モジュールの組み合わせを説明するための図である。
【0045】
点線源30から放出される対消滅ガンマ線は、散乱体30bにより散乱されるため、
図5に示すように、LOR上にない2つの検出器モジュール14により検出することができる。なお、点線源30から放出される対消滅ガンマ線は、両方とも散乱せずに放出される場合もあり、かかる場合の対消滅ガンマ線は、LOR上の2つの検出器モジュール14により検出される。すなわち、本実施例1では、散乱体30bで物体30aが覆われた点線源30を用いることで、複数の検出器モジュール14のすべての組み合わせで、時間情報の較正を行なうことができる。なお、点線源30が設置される位置は、複数の検出器モジュール14で囲まれる範囲内にて、任意の位置に設置することができる。
【0046】
以上、本実施例1に係る点線源30について説明した。このように点線源30が設置された状態で、
図1に示す較正部24の処理が実行される。すなわち、較正部24は、点線源30から放出された対消滅ガンマ線を略同時に計数した2つの検出器モジュール14の各検出時間と、当該2つの検出器モジュール14の位置と、点線源30の位置とに基づいて、当該2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間を決定するための時間情報を較正する。これにより、較正部24は、複数の検出器モジュール14すべての時間情報を較正する。
【0047】
具体的には、較正部24は、点線源30からの対消滅ガンマ線を所定の時間ウィンドウ幅内で計数した2つの検出器モジュール14それぞれの時間情報を較正する。まず、PET装置の管理者は、点線源30を設置し、入力部21を介して、較正用計測開始要求を入力する。そして、システム制御部27は、FE回路16および同時計数回路17の処理が実行されるように制御する。例えば、時間情報の較正処理を行なう場合、本実施例1に係る同時計数回路17は、時間ウィンドウ幅のみを検索条件として、同時計数情報を生成する。すなわち、同時計数回路17は、時間情報の較正処理を行なう場合と、画像再構成処理を行なう場合とで、検索条件を変更する場合であってもよい。
【0048】
かかる制御により、同時計数情報が同時計数情報データ26aに順次格納されると、較正部24は、処理を開始する。
図6は、実施例1に係る較正部を説明するための図である。
【0049】
例えば、同時計数情報データ26aに、
図6に示すように、「ID:2」の検出器モジュール14が時間「T:t1」に検出した計測情報と、「ID:16」の検出器モジュール14が時間「T:t2」に検出した計測情報との組み合わせが同時計数情報として格納されたとする。なお、
図6に示す「P」は、ガンマ線の検出位置を示し、
図6に示す「E」は、ガンマ線のエネルギーを示す。
【0050】
かかる場合、較正部24は、「ID:2」の検出器モジュール14と点線源30との距離(D2)と、「ID:16」の検出器モジュール14と点線源30との距離(D16)とを用いて較正処理を行なう。すなわち、較正部24は、
図6に示すように、「t1−t2」が、「(D2/c)−(D16/c)」と等しいか否かを判定する。なお、「c」は、ガンマ線の速度、すなわち、光速である。
【0051】
ここで、「t1−t2」と「(D2/c)−(D16/c)」とが等しい場合、「ID:2」および「ID:16」の2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間は、正確な時間情報により計測されていると判定される。しかし、「t1−t2」と「(D2/c)−(D16/c)」とが異なる場合、較正部24は、「ID:2」の検出器モジュール14の時間情報と、「ID:16」の検出器モジュール14の時間情報とを較正する。すなわち、較正部24は、「t1−t2」と「(D2/c)−(D16/c)」との差を用いて、例えば、「ID:2」の検出器モジュール14の時間情報を相対的基準値として、「ID:16」の検出器モジュール14の時間情報を較正する。
【0052】
このように、較正部24は、同時計数情報が同時計数情報データ26aに格納されるごとに、2つの検出器モジュール14間の時間情報の較正を行なう。
【0053】
そして、較正部24は、例えば、「ID:1」の検出器モジュール14の時間情報を絶対的基準値(例えば「0」)として、「ID:1」の検出器モジュール14以外の検出器モジュール14の時間情報を較正する。これにより、較正部24は、すべての検出器モジュール14の時間情報を較正する。
【0054】
そして、較正部24は、較正結果を
図1に示す時間情報データ26bに格納する。
図7は、時間情報データを説明するための図である。
【0055】
例えば、
図7に示すように、時間情報データ26bは、較正部24の処理結果として、検出器モジュール14−1(ID:1)の時間情報を「0」とした場合、「ID:2」の検出器モジュール14の時間情報が「Δt2」であると記憶する。同様に、
図7に示すように、時間情報データ26bは、「ID:3」の検出器モジュール14の時間情報が「Δt3」であり、「ID:4」の検出器モジュール14の時間情報が「Δt4」であると記憶する。
【0056】
そして、システム制御部27は、操作者から入力部21を介して、陽電子放出核種により標識された物質(例えば、
18F標識デオキシグルコースなどの薬剤)が投与された被検体のPET画像(TOF−PET画像)の撮影要求を受け付けると、画像再構成部25の再構成処理を以下に説明するように制御する。
【0057】
すなわち、画像再構成部25は、較正部24により較正された複数の検出器モジュール14それぞれの時間情報に基づいて補正された対消滅ガンマ線の各検出時間の時間差を用いて、被検体のTOF−PET画像を再構成する。
図8は、画像再構成部を説明するための図である。
【0058】
具体的には、画像再構成部25は、同時計数情報データ26aに格納された同時計数情報を、時間情報データ26bに格納されている較正済みの時間情報を用いて補正する。
【0059】
例えば、
図8に示す一例では、「ID:1」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P1_1、E:E1_1、T:T1_1」と、「ID:2」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P2_2、E:E2_2、T:T2_2」との同時計数情報が格納されている。かかる場合、画像再構成部25は、同時計数情報データ26aから「ID:1」の検出器モジュール14の時間情報「0」と、「ID:2」の検出器モジュール14の時間情報「Δt2」とを取得する。そして、画像再構成部25は、
図8に示すように、「T:T1_1」は補正せずに、「T:T2_2」を「T:T2_2+Δt2」と補正する。
【0060】
また、
図8に示す一例では、「ID:10」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P10_2、E:E10_2、T:T10_2」と、「ID:3」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P3_2、E:E3_2、T:T3_2」との同時計数情報が格納されている。かかる場合、画像再構成部25は、同時計数情報データ26aから「ID:10」の検出器モジュール14の時間情報「Δt10」と、「ID:3」の検出器モジュール14の時間情報「Δt3」とを取得する。そして、画像再構成部25は、
図8に示すように、「T:T10_2」を「T:T10_2+Δt10」と補正し、「T:T3_2」を「T:T3_2+Δt3」と補正する。
【0061】
また、
図8に示す一例では、「ID:8」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P8_3、E:E8_3、T:T8_3」と、「ID:20」の検出器モジュール14の出力を由来とする計測情報「P:P20_3、E:E20_3、T:T20_3」との同時計数情報が格納されている。かかる場合、画像再構成部25は、同時計数情報データ26aから「ID:8」の検出器モジュール14の時間情報「Δt8」と、「ID:20」の検出器モジュール14の時間情報「Δt20」とを取得する。そして、画像再構成部25は、
図8に示すように、「T:T8_3」を「T:T8_3+Δt8」と補正し、「T:T20_3」を「T:T20_3+Δt20」と補正する。
【0062】
そして、画像再構成部25は、検出時間を補正した同時計数情報を用いて、TOF−PET画像を再構成する。
【0063】
なお、上記では、同時計数情報の補正処理が画像再構成部25により行なわれる場合について説明した。しかし、本実施例は、同時計数情報の補正処理が較正部24またはシステム制御部27により行なわれる場合であってもよい。あるいは、本実施例は、各検出器モジュール14の出力データを処理する際に、FE回路16が時間情報データ26bを用いて各検出器モジュール14の検出時間を補正した計数情報を同時計数回路17に出力する場合であってもよい。かかる場合、同時計数回路17により生成される同時計数情報の検出時間は、時間情報により補正されたデータであるので、画像再構成部25は、同時計数情報データ26aに格納された同時計数情報をそのまま用いてTOF−PET画像の再構成を行なう。
【0064】
また、上記では、較正部24がコンソール装置20に設置される場合について説明した。しかし、本実施例は、較正部24が架台装置10に設置される場合であってもよい。FE回路16が時間情報データ26bを用いて各検出器モジュール14の検出時間を補正する場合、較正部24が架台装置10に設置されるとともに、時間情報データ26bも架台装置10に設置されることが望ましい。いずれの場合であっても、画像再構成部25は、検出時間が較正部24の処理結果により補正された同時計数情報を用いて、TOF−PET画像を再構成する。
【0065】
次に、
図9および10を用いて、本実施例1に係るPET装置の処理の流れについて説明する。
図9は、実施例1に係るPET装置の較正処理を説明するためのフローチャートであり、
図10は、実施例1に係るPET装置の画像再構成処理を説明するためのフローチャートである。
【0066】
図9に示すように、実施例1に係るPET装置は、点線源30が設置された状態で、管理者から入力部21を介して、較正用計測開始要求を受け付けた否かを判定する(ステップS101)。ここで、較正用計測開始要求を受け付けない場合(ステップS101否定)、PET装置は、待機状態となる。
【0067】
一方、較正用計測開始要求を受け付けた場合(ステップS101肯定)、システム制御部27の制御により、同時計数回路17は、FE回路16が出力したデータを用いて、同時計数情報を生成する(ステップS102)。
【0068】
そして、較正部24は、同時計数情報の出力元となる2つの検出器モジュール14の各検出時間から時間情報を較正する(ステップS103)。すなわち、較正部24は、
図6に示すように、2つの検出器モジュール14それぞれと点線源30との間の距離を用いて、当該2つの検出器モジュール14の時間情報を較正する。
【0069】
その後、較正部24は、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正したか否かを判定する(ステップS104)。ここで、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正していない場合(ステップS104否定)、較正部24は、ステップS103に戻って、未処理の同時計数情報を用いた較正処理を行なう。
【0070】
一方、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正した場合(ステップS104肯定)、較正部24は、すべての検出器モジュール14の時間情報を較正し、較正した時間情報を時間情報データ26bに格納して(ステップS105)、処理を終了する。なお、上記した時間情報の較正処理は、PET装置の出荷時や、PET装置の定期点検時に、管理者により実行される。
【0071】
そして、時間情報データ26bを用いて本実施例1に係るPET装置は、TOF−PET画像の再構成処理を行なう。すなわち、
図10に示すように、本実施例1に係るPET装置は、操作者から入力部21を介して、PET画像(TOF−PET画像)の撮影要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS201)。ここで、撮影要求を受け付けない場合(ステップS201否定)、PET装置は、待機状態となる。
【0072】
一方、撮影要求を受け付けた場合(ステップS201肯定)、システム制御部27の制御により、同時計数回路17は、FE回路16が出力したデータを用いて、同時計数情報を生成する(ステップS202)。
【0073】
そして、画像再構成部25は、システム制御部27の制御により、同時計数情報の検出時間を較正された時間情報により補正する(ステップS203、
図9を参照)。
【0074】
その後、画像再構成部25は、検出時間が補正された同時計数情報に基づいて、PET画像(TOF−PET画像)を再構成し(ステップS204)、処理を終了する。
【0075】
上述したように、本実施例1では、較正部24は、ガンマ線に由来する光を計数する複数の検出器モジュール14を有する検出器において、複数の検出器モジュール14で囲まれる範囲内の任意の位置に、周囲が散乱体30bで囲まれた陽電子放出核種を物体30aにより形成される点線源30が設置された状態で対消滅ガンマ線を略同時に計数した2つの検出器モジュール14の各検出時間と、当該2つの検出器モジュール14の位置と、点線源30の位置とに基づいて、当該2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間を決定するための時間情報を較正することで、複数の検出器モジュール14すべての時間情報を較正する。画像再構成部25は、陽電子放出核種により標識された物質が投与された被検体を撮影する際、較正部24により較正された複数の検出器モジュール14それぞれの時間情報に基づいて補正された対消滅ガンマ線の各検出時間の時間差を用いて、被検体のTOF−PET画像を再構成する。
【0076】
したがって、本実施例1では、周囲が散乱体30bで囲まれた陽電子放出核種を物体30aにより形成される点線源30を用いることのみで、時間情報の較正を行なうことが可能な検出器モジュール14の組み合わせを網羅することができる。すなわち、本実施例1では、すべての検出器モジュール14の時間情報を高精度かつ簡便に較正することができる。その結果、本実施例1では、ガンマ線の検出時間差を用いた画像を高精度に再構成することが可能となる。
【実施例2】
【0077】
実施例2では、時間情報の較正に用いられる同時計数情報が選択される場合について、
図11を用いて説明する。
図11は、実施例2に係る較正部を説明するための図である。
【0078】
実施例2に係るPET装置は、
図1を用いて説明した実施例1に係るPET装置と同様の構成からなる。しかし、実施例2に係る較正部24は、各検出器モジュール14の計数結果から算出されるガンマ線のエネルギーに基づいて、少なくとも一方のガンマ線が散乱体30bにより散乱されずに放出されたガンマ線である対消滅ガンマ線を略同時に計数した2つの検出器モジュール14それぞれの検出時間を用いて、当該2つの検出器モジュール14それぞれの時間情報を較正する。
【0079】
すなわち、実施例2に係る較正部24は、両方とも散乱線の対消滅ガンマ線を検出した同時計数情報を時間較正の処理対象データから排除する。
【0080】
例えば、散乱後のガンマ線のエネルギーを「E
s」とし、散乱前(散乱無し)のガンマ線のエネルギーを「E
i」とし、「m」を電子の質量とし、「θ」をガンマ線の散乱角とし、「c」を光速とすると、散乱後のガンマ線のエネルギーを「E
s」は、以下の式(1)により算出される。
【0081】
【数1】
【0082】
例えば、式(1)を用いることで、散乱角が「45°」の場合の「E
s」は、「E
i」を「511kev」とすると、「395kev」となる。すなわち、ガンマ線は、散乱した角度に応じてエネルギーを失う。したがって、散乱線の計数結果は、エネルギーが小さいために、例えば、電圧値の閾値を用いて検出時間を計測する際に、計測精度が悪化する。このため、両方とも散乱線の対消滅ガンマ線を検出した同時計数情報の検出時間は、時間情報を較正するために用いないことが望ましい。
【0083】
例えば、
図11に示すように、同時計数情報において、「ID:2」の検出器モジュール14が時間「T:t1」に検出した計測情報のエネルギーが「e1」であり、「ID:16」の検出器モジュール14が時間「T:t2」に検出した計測情報のエネルギーが「e2」であるとする。そこで、較正部24は、同時計数情報を形成する計数情報の出力元となる2つの検出器モジュール14および点線源30の位置から、散乱角を「45°」と算出する。そして、較正部24は、「散乱角:45°」を式(1)に代入して、「E
s:365kev」と算出する。
【0084】
そして、較正部24は、
図11に示すように、「511−a<e1<511+a」であり、かつ、「395−b<e2<395+b」である場合、あるいは、「395−b<e1<395+b」であり、「511−a<e2<511+a」である場合、
図11に示す同時計数情報を用いて、「ID:2」および「ID:16」の検出器モジュール14の時間情報の較正を行なう。また、較正部24は、散乱角が略「0°」として算出される同時計数情報については、エネルギーが両方とも「511−a<e1<511+a」である場合、時間情報の較正処理を行なう。また、
図11に示す「a」および「b」は、PET装置の管理者により、任意に設定することができる。
【0085】
これにより、較正部24は、両方とも散乱線の対消滅ガンマ線を検出した同時計数情報を排除したうえで、すべての検出器モジュール14の時間情報を較正する。
【0086】
次に、
図12を用いて、本実施例2に係るPET装置の処理の流れについて説明する。
図12は、実施例2に係るPET装置の較正処理を説明するためのフローチャートである。なお、実施例2に係るPET装置の画像再構成処理は、
図10を用いて説明した実施例1に係るPET装置の画像再構成処理と同様であるので、説明を省略する。
【0087】
図12に示すように、本実施例2に係るPET装置は、点線源30が設置された状態で、管理者から入力部21を介して、較正用計測開始要求を受け付けた否かを判定する(ステップS301)。ここで、較正用計測開始要求を受け付けない場合(ステップS301否定)、PET装置は、待機状態となる。
【0088】
一方、較正用計測開始要求を受け付けた場合(ステップS301肯定)、システム制御部27の制御により、同時計数回路17は、FE回路16が出力したデータを用いて、同時計数情報を生成する(ステップS302)。
【0089】
そして、較正部24は、式(1)により設定されるエネルギーウィンドウ幅内にある同時計数情報を選択する(ステップS303)。すなわち、較正部24は、両方とも散乱無しの対消滅ガンマ線を計数した同時計数情報と、一方が散乱無しで一方が散乱ありの対消滅ガンマ線を計数した同時計数情報を選択する。
【0090】
その後、較正部24は、選択した同時計数情報の出力元となる2つの検出器モジュール14の各検出時間から時間情報を較正する(ステップS304)。
【0091】
そして、較正部24は、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正したか否かを判定する(ステップS305)。ここで、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正していない場合(ステップS305否定)、較正部24は、ステップS303に戻って、未処理の同時計数情報を用いた較正処理を行なう。
【0092】
一方、すべての検出器モジュール14の組み合わせで時間情報を較正した場合(ステップS305肯定)、較正部24は、すべての検出器モジュール14の時間情報を較正し、較正した時間情報を時間情報データ26bに格納して(ステップS306)、処理を終了する。
【0093】
上述したように、本実施例2では、両方とも散乱線の対消滅ガンマ線を検出した同時計数情報の検出時間を排除して、すべての検出器モジュール14の時間情報を較正するので、時間情報をより高精度に較正することができる。その結果、本実施例2では、ガンマ線の検出時間差を用いた画像をより高精度に再構成することが可能となる。
【0094】
なお、上記した実施例1および2では、散乱体30bが物体30aの全周囲を覆うことで点線源30が形成される場合について説明した。しかし、実施例1および2で用いられる点線源30は、散乱体30bが物体30aの一部を覆うことで形成される場合であってもよい。
図13は、実施例1および2で用いられる点線源の変形例を説明するための図である。
【0095】
例えば、点線源30は、
図13の(A)に示すように、散乱体30bが物体30aの下半分を覆うことで形成される場合であってもよい。あるいは、点線源30は、
図13の(B)に示すように、散乱体30bが物体30aの複数の箇所を覆うことで形成される場合であってもよい。すなわち、点線源30から放出される対消滅ガンマ線の一部が散乱することで、すべての検出器モジュール14の組み合わせで同時計数情報を生成することが可能であるならば、散乱体30bにより物体30aを覆うパターンは、任意に変更することができる。
【0096】
なお、本実施例1および2で説明した核医学イメージング方法は、あらかじめ用意された核医学イメージングプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。核医学イメージングプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、核医学イメージングプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0097】
以下説明したとおり、本実施例1および2によれば、ガンマ線の検出時間差を用いた画像を高精度に再構成することが可能となる。