(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794766
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】質量流量測定装置を調整および駆動するための方法、および質量流量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01F 1/84 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
G01F1/84
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-145896(P2010-145896)
(22)【出願日】2010年6月28日
(65)【公開番号】特開2011-7797(P2011-7797A)
(43)【公開日】2011年1月13日
【審査請求日】2012年7月5日
(31)【優先権主張番号】10 2009 030 903.9
(32)【優先日】2009年6月26日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591168600
【氏名又は名称】クローネ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Krohne AG
(74)【代理人】
【識別番号】100061815
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(74)【代理人】
【識別番号】100128679
【弁理士】
【氏名又は名称】星 公弘
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【復代理人】
【識別番号】100182556
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 暁
(72)【発明者】
【氏名】タオ ワン
(72)【発明者】
【氏名】ユーシフ フセイン
【審査官】
里村 利光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−114476(JP,A)
【文献】
特開2007−163203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリオリの原理にしたがい動作する、測定管を備える質量流量測定装置を調整および駆動するための方法であって、
前記測定管が励振され、測定管の質量流量に依存する、測定管の振動の位相ずれ、またはこれに相当する時間差(td)が検出され、測定管の温度(T)が検出され、検出された時間差(td)と検出された温度(T)を用いた計算式によって対応する質量流量が計算され、
少なくとも1つの、同種の質量流量測定装置の測定によって求められた、質量流量に影響する既知の、理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)及び質量流量に影響する、個別の質量流量測定装置の機器固有の温度依存性(e)を前記計算式に取り入れ、
後続の較正プロセスで、前記計算式において、前記理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)を考慮することによって、質量流量に影響する質量流量測定装置の機器固有の温度依存性(e)を求め、
前記計算式において、前記既知の理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)と、前記較正プロセスで求めた機器固有の温度依存性(e)とを用いて質量流量を求める方法において、
質量流量測定装置の調整時および/または駆動時に求められた機器固有の温度依存性を、機器診断または完成品診断に利用し、
求められた目下の機器固有の温度依存性(e)と、少なくとも1つの、先行して求められた機器固有の温度依存性とを比較することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)および/または前記機器固有の温度依存性(e)を、それぞれ線形関係の形態で求め、
質量流量に対するそれぞれの影響を、関連する温度差(ΔT)との乗算によって得ることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記既知の理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)に、測定管材料の少なくとも1つの弾性係数(E)の温度依存性を取り入れることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記既知の理論的または経験的な材料の温度依存性(KT)に、測定管材料の線膨張係数(α)を取り入れることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記線膨張係数(α)として、線膨張係数の温度依存性(α(T))自体が考慮されることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
質量流量を求めるための前記計算式で少なくとも1つの機械的管応力依存性が考慮され、対応する機械的管応力が測定管で求められ、測定された機械的管応力が流量値の計算のために前記計算式で使用されることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記機械的管応力として、測定管の周囲応力(σ)および/または軸応力(τ)が求められることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
質量流量の機械的管応力依存性を、それぞれ線形関係の形態で求め、
質量流量に対するそれぞれの影響を、前記時間差(td)における、関連する機械的応力差(Δσ、Δτ)と定数c1,c2との乗算によって得ることを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
別の温度依存性を前記計算式において考慮するために、二次多項式を、前記時間差(td)における、関連の温度差(ΔT)において考慮することを特徴とする請求項6から8までのいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
コリオリの原理にしたがい動作する、測定管を有する質量流量測定装置であって、
前記測定管が励振され、測定管の質量流量に依存する、測定管の振動の位相ずれ、またはこれに相当する時間差(td)が検出され、測定管の温度(T)が検出され、検出された時間差(td)と検出された温度(T)を用いて計算式によって対応する質量流量が計算される質量流量測定装置において、
該質量流量測定装置は、請求項1から9までのいずれか一項記載の方法を実施するように構成されていることを特徴とする質量流量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリオリの原理にしたがい動作する、測定管を備える質量流量測定装置を調整および駆動するための方法に関する。ここでは測定管が励振され、測定管の質量流量に依存する、測定管の振動の位相ずれ、またはこれに相当する時間差(td)が検出され、測定管の温度(T)が検出され、検出された時間差(td)と検出された温度(T)を用いて計算公式によって対応する質量流量が計算される。さらに本発明は、コリオリの原理にしたがい動作する質量流量測定装置に関するものであり、この質量流量測定装置は前記の方法を実施することができるように構成されている。
【背景技術】
【0002】
コリオリの原理にしたがい動作する質量流量測定装置はすでに長い間、公知であり、種々の技術分野、とりわけ工業的プロセス測定技術で広く普及している。構造的にコリオリの原理による質量流量測定装置は種々異なって構成されており、この装置は1つの、または複数の直管または湾曲管を有する。しかしこのことは本発明には重要でない。以下で、「1つの」測定管を備える質量流量測定装置について述べる場合、これは限定的に理解すべきではなく、むしろこれに結び付いた技術思想を、複数の測定管を備える質量流量測定装置に転用することができる。
【0003】
測定装置の具体的構成には関係なく、コリオリの原理に基づく質量流量測定装置に共通するのは、その測定管が、通例は中央に配置された励振器により励振されることである。測定管に通流がない状態では、測定管は励振個所を中心に対称に振動する。測定管を通る場合体に通流に依存して、すなわち測定管を通る媒体の質量流量に依存して、振動の形態が励振個所の両側で、前もって対称に設置された場合には非対称に変化する。励振個所の両側で測定値検出器により検出された振動成分は、位相がずれている。この位相ずれは、実際の質量流量に比例する。励振個所の両側で検出された振動の位相ずれは、当然のことながら、励振個所の一方の側にある測定管の振動のゼロクロスと、測定管の励振個所の他方の側にある測定管の振動のゼロクロスとの時間差に相当する。
【0004】
測定装置をその精度に関して改善したいという一般的希望は別にして、質量流量測定装置には特定の適用事例ではとくに高い精度が要求される。例えば検定義務のある使用分野での較正可能なコリオリ質量流量測定装置に要求される。これは例えば流動性のある媒体を監視して配分する場合における取引用計量器の場合である。ここで要求される精度は、パーミル領域にある。
【0005】
質量流量測定装置は、較正能力がなくても通常は工場側で較正され、検査台で規定の質量量が加えられる。ここで質量流量測定装置により検出された質量流量と、高精度に規定された実際の質量流量から、例えば較正係数が計算され、この較正係数が計算公式で使用される。この計算公式は、測定量として存在する時間差を、較正係数を用いて質量流量に対する対応の値に変換する。このような計算公式は次のとおりである。
【数1】
【0006】
ここで質量流量測定装置の較正は、通例、固定され、よく規定された温度で、すなわち予想される使用温度に近い基準温度、例えば20℃で行われる。
【0007】
経験から、測定結果の精度は、基準温度とは異なるコリオリ質量流量測定装置の動作温度では悪化することが分かっており、場合によっては許容可能な精度を逸脱する。基準温度とは異なる動作温度でも測定精度を得るために、従来技術から、測定管の温度Tを検出し、測定管の材料の弾性係数Eと測定管の温度との関係を計算公式の枠内で考慮することが公知である。その理由は、コリオリ測定管の振動特性は測定管の材料の弾性係数Eに依存しており、したがって弾性係数Eの温度依存性が、測定管の振動特性の温度依存性として直ちに作用するからである。この関係は既知であり、例えば式2の公式に基づき明白である。
【数2】
【0008】
式(2)で
Cは定数、
Eは測定管材料の弾性係数、
Ipは測定管の断面二次モーメント、Ip=π/64(D
4−d
4)、
Dは測定管の外径、dは測定管の内径であり、
ψは測定管の伸長に沿った関数であり、センサxl/lの個所での値が重要である。
【0009】
測定管の弾性係数の温度依存性を補償または考慮することでは、温度変動が大きい場合には、測定精度に関して十分な結果にながらないことが判明している。このことはとりわけ(排他的ではないが)、極端に冷えた媒体(例えば液体窒素、沸点−195.80℃)または極端に媒体が測定管を通流する質量流量測定装置の適用に当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明の課題は、コリオリ質量流量測定装置を駆動するための公知の方法においける前記欠点、または公知の質量流量測定装置における前記欠点を少なくとも部分的に回避し、とりわけ質量流量測定装置の精度の温度依存性を、温度差が大きい場合でも改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、コリオリの原理により動作する質量流量測定装置の前記駆動方法においては次のようにして解決される。すなわち、質量流量に影響する既知の理論的または経験的な少なくとも1つの材料−温度関係KTを計算公式において考慮し、後続の較正プロセスで、前記質量流量に影響する既知の理論的または経験的材料−温度関係KTを考慮することによって、質量流量に影響する、質量流量測定装置の機器固有の温度依存性を求め、質量流量を求めるための前記計算公式において、既知の理論的または経験的材料−温度関係KTと、機器固有の温度依存性eとを考慮するのである。
【0012】
本発明の方法によって、種々の温度影響係数を相互に区別することが可能になる。そのためにまず、質量流量に影響する既知の理論的または経験的材料−温度関係KTが基礎とされる。理論的材料−温度関係は通例、公式に基づく温度的な物理関係式であり、経験的材料−温度関係は通例、多数の同種の質量流量測定装置の測定によって得られる。したがって理論的材料−温度関係でも、経験的材料−温度関係KTでも、個別の機器を表すパラメータが取り扱われるわけではない。
【0013】
後続の較正プロセスで求められる機器固有の温度依存性eは、較正プロセスが実行される個別の質量流量測定装置にだけ該当する。「質量流量に影響する既知の理論的または経験的材料−温度関係KTを考慮して」について述べる場合、機器固有の温度依存性が求められ、そしてこれにより既知の理論的または経験的材料−温度関係KTを、機器固有の温度依存性eに取り込むのではなく、むしろ機器固有の温度依存性から意図的に取り出して計算することを意味する。これにより他の方法よりも、考察する質量流量測定装置の個別の機器固有の特性に関して重要で予測力の高い情報が得られる。
【0014】
最後に計算公式で質量流量を求めるために、既知の理論的または経験的材料−温度関係KTと、機器固有の温度依存性eとが考慮され、これにより質量流量に関連する温度依存性の影響がすべて考慮される。
【0015】
本発明の手段によって初めて、機器固有の温度依存性eを特定することができる。このことは例えば、質量流量測定装置の較正が測定データにだけ基づいており、予想される温度依存性のモデル的イメージが理論的または経験的アプリオリとして使用されない場合には不可能である。測定データだけに基づく較正では、温度に依存するすべての影響ファクタが重なり合い、これらが質量流量に関与するようになる。そのため、測定管の励振信号および傾斜信号を考慮した測定よって、これらを基本的に区別することができない。
【0016】
本発明のとくに有利な実施形態では、質量流量測定装置の較正時および/または動作時に求められた機器固有の温度依存性が、機器診断または完成品診断に利用される。このために例えば質量流量測定装置を工場側で調整する際には、機器固有の温度依存性により作用する、質量流量への影響が、特定の偏差を越えないように注意することができる。しかし設置状況のすべてのパラメータも考慮するために、較正プロセスをユーザにより実行することもできる。
【0017】
機器固有の温度依存性eが、所定の時間間隔で質量流量測定装置において求められると有利である。なぜならこの場合、目下の求められた機器固有の温度依存性eを少なくとも1つの、先行して求められた機器固有の温度依存性eと比較することができ、これにより質量流量測定装置における悪化する変化、または質量流量測定装置の取付け状況全体において悪化する変化を識別することができるからである。
【0018】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態によれば、理論的または経験的材料−温度関係KTおよび/または機器固有の温度依存性eが、それぞれ線形関係の形態で求められる。本発明のとくに有利な実施形態では、質量流量へのそれぞれの影響が、関連の温度差ATと定数との簡単な乗算によって、式3に示すように得られる。
【数3】
【0019】
2つの異なる関連の温度差ΔT1とΔT2を備える変形実施形態は、理論的または経験的材料−温度関係KTおよび/または機器固有の温度依存性eが、種々の測定状況で互いに独立しており、種々異なる基準温度において求めることができることを明示している。
【0020】
本方法のさらなる好ましい実施形態によれば、既知の理論的または経験的材料−温度関係KTに、使用される材料の少なくとも1つの弾性係数Eの温度依存性が取り込まれる。とりわけ管材料の弾性係数Eの温度依存性が取り込まれる。したがってこの関係を考慮することができる。なぜなら一方で管材料の弾性係数Eの影響はコリオリ質量流量測定の枠内で既知であり(式2参照)、他方で弾性係数とその温度依存性は多数の材料について既知だからである。したがって理論的材料−温度関係KTの枠内で比較的簡単に使用することができる。
【0021】
さらに本方法のとくに好ましい実施形態によれば、既知の理論的または経験的材料−温度関係KTに、少なくとも1つの熱的線膨張係数α、とりわけ管材料の線膨張aが取り込まれる。さらに、熱的線膨張係数α(T)の温度依存性自体が考慮されると有利であることが判明した。このことはとりわけ温度領域が広がった場合の測定で重要である。
【数4】
【0022】
本方法の好ましい実施形態によれば、質量流量を求めるための計算公式で少なくとも1つの機械的管張力依存性が考慮され、対応する機械的管応力(σ、τ)が測定管で求められ、測定された機械的管応力が流量値の計算のために計算公式で使用される。
【数5】
【0023】
好ましくは機械的管応力として、測定管の周囲応力(σ)および/または軸応力(τ)が求められる。このことはとりわけストレーンゲージを使用して行われる。ストレーンゲージは、好ましくは周方向と軸方向で測定管に取り付けられる。存在する温度情報は、周方向および/または軸方向での検出された長さ変化において、熱的膨張作用を、力の作用下で生じる膨張作用から区別するために使用される。なぜなら後者が実質的に応力情報に寄与するからである。好ましくは存在する温度情報が、ストレーンゲージにより得られる抵抗情報の温度依存性を補償するためにも使用される。
【0024】
本方法のさらなる好ましい実施形態は、質量流量の機械的管応力依存性がそれぞれ線形関係の形態で考慮され、とりわけ質量流量へのそれぞれの影響が、関連の機械的応力差(Δσ、Δτ)と定数との乗算によって得られる。
【数6】
【0025】
本方法のとくに良好に適合可能な変形実施形態では、さらなる温度依存性を考慮するために計算公式にさらなる関数温度関係が、ここでは機械適応力を考慮する項と組み合わされて取り入れられる。
【数7】
【0026】
関連の温度差(ΔT)において二次多項式を、前に述べた別の温度依存性を考慮するために利用するととりわけ有効であることが判明した。パラメータを求めるための測定数をさらに概観できるからである。
【数8】
【0027】
前記方法は、密度測定と、とりわけコリオリ質量流量測定装置を用いた密度測定と関連して使用することができる。この場合の対象測定値は、質量流量ではなく密度である。
【0028】
本発明のさらなる独立の技術思想によれば、冒頭に述べた本発明の課題はさらに、測定管を有し、コリオリの原理にしたがい動作する質量流量測定装置であって、
測定管が励振され、測定管の質量流量に依存する、測定管の振動の位相ずれ、またはこれに相当する時間差(td)が検出され、測定管の温度(T)が検出され、検出された時間差(td)と検出された温度(T)を用いて計算公式によって対応する質量流量が計算される質量流量測定装置において、
質量流量測定装置が前記本発明の方法を実施できるように構成することによって解決される。