特許第5794774号(P5794774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794774
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】洗米排水の液化糖化方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/14 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   C12P19/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-264908(P2010-264908)
(22)【出願日】2010年11月29日
(65)【公開番号】特開2012-115150(P2012-115150A)
(43)【公開日】2012年6月21日
【審査請求日】2013年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】305036850
【氏名又は名称】渡辺 昌規
(73)【特許権者】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100151873
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌規
(72)【発明者】
【氏名】日高 晴太郎
(72)【発明者】
【氏名】立木 智裕
(72)【発明者】
【氏名】金本 繁晴
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雄一
【審査官】 鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−011198(JP,A)
【文献】 特開平06−062882(JP,A)
【文献】 渡辺昌規ほか,日本生物工学会大会講演要旨集,2008年,Vol.60th,p.60(2Aa09)
【文献】 新家龍ほか,神大農研報(Sci. Rept. Fac. Agr. Kobe Univ.),1983年,Vol.15,p.335-342
【文献】 Lopez et al.,J. Agric. Food Chem.,2005年,Vol.53,p.989-995
【文献】 Linko and Javanainen,Enzyme and Microbial Technology,1996年,Vol.19,p.118-123
【文献】 Kim et al.,Applied and Environmental Microbiology,1988年,Vol.54, N0.4,p.966-971
【文献】 渡辺昌規ほか,日本生物工学会大会講演要旨集,Vol.60th,p.60(2008)
【文献】 新家龍ほか,神大農研報(Sci. Rept. Fac. Agr. Kobe Univ.),Vol.15,p.335-342(1983)
【文献】 Lopez et al.,J. Agric. Food Chem.,Vol.53,p.989-995(2005)
【文献】 Linko and Javanainen,Enzyme and Microbial Technology,Vol.19,p.118-123(1996)
【文献】 Kim et al.,Applied and Environmental Microbiology,Vol.54, N0.4,p.966-971(1988)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗米排水に液状の液化酵素(マイコラーゼ(登録商標)LV(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を0.5mL/L及び液状の糖化酵素(アミガーゼ(登録商標)(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を1mL/Lの割合で混和し、
反応温度60℃で液化反応及び糖化反応を並行して行い、前記洗米排水中のデンプンを単糖にする、
ことを特徴とする洗米排水の液化糖化方法。
【請求項2】
米の処理量2000kg/h、使用水量300L/hの条件で排出される前記洗米排水を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の洗米排水の液化糖化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗米排水の液化糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物を主成分とするバイオマス原料からバイオエタノールを製造する技術が広まってきている。一般的に、バイオマスを原料に用いるバイオエタノールの製造では、バイオマスに含まれるデンプンを分離し、デンプンを液化、糖化して単糖に分解した後、発酵(エタノール生成)、蒸留(分離)の工程を経て得られる。
【0003】
通常、デンプンの液化及び糖化では、液化酵素(或いは液化酵素を分泌する菌)を用いてデンプンを液化した後、糖化酵素(或いは糖化酵素を分泌する菌)を用いて糖化が行われる(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−50195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に代表されるように、デンプンの液化糖化は、液化工程と糖化工程とを別々に行っている。液化酵素と糖化酵素では、至適温度や至適pHが異なるため、液化工程後、糖化工程を行う前に液化酵素の至適温度から糖化酵素の至適温度まで昇温或いは降温させている。このため、時間を要するとともに、昇温或いは降温に要するエネルギーも必要となり、生産コストが高くなる。また、液化工程及び糖化工程を別々に行うため、液化用反応槽、糖化用反応槽が必要となり、設備コストも高くなる。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、短時間でデンプンの液化糖化を行って単糖を得る洗米排水の液化糖化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るデンプン含有物の液化糖化方法は、
洗米排水に液状の液化酵素(マイコラーゼ(登録商標)LV(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を0.5mL/L及び液状の糖化酵素(アミガーゼ(登録商標)(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を1mL/Lの割合で混和し、
反応温度60℃で液化反応及び糖化反応を並行して行い、前記洗米排水中のデンプンを単糖にする、
ことを特徴とする。
【0009】
また、米の処理量2000kg/h、使用水量300L/hの条件で排出される前記洗米排水を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る洗米排水の液化糖化方法では、洗米排水に、液化酵素及び糖化酵素をともに混和して液化及び糖化を並行して行い、洗米排水中のデンプンを単糖までに分解している。デンプンは液化酵素によって液化された後、すぐさま糖化酵素によって糖化されるので、液化工程及び糖化工程を別工程で行う場合に比べ反応時間の短縮が可能である。
【0011】
また、同属のα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを用いる場合では、これらの至適温度及び至適pHは大凡近似することから、液化及び糖化を同一温度で行うことができ、液化工程及び糖化工程を別工程で行う場合に必要な温度調節が不要であり、それだけ反応時間を短縮することができる。また、温度調節に要するエネルギーも不要であるため、省エネルギーであり生産コストも安くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1におけるグルコース生成量を示すグラフである。
図2】実施例2におけるグルコース生成量を示すグラフである。
図3】対照実験におけるグルコース生成量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態に係るデンプン含有物の液化糖化方法は、洗米排水及び/又は洗米排水から分離したデンプンを含有するデンプン含有物に液化酵素及び糖化酵素を混和する。そして、液化反応及び糖化反応を並行して行い、デンプン含有物中のデンプンを単糖にする方法である。
【0014】
洗米排水は、精白米(無洗米)に加工するまでの過程で生じる排水であり、洗米排水には主に米表層のアリューロン層(糊粉層)由来の固形成分が含まれ、この固形成分の主成分はデンプンである。この洗米排水をそのままデンプン含有物として用いても、洗米排水から固形成分を分離したものをデンプン含有物として用いてもよい。なお、白米から精白米に加工する際に生じる高濃度のデンプンを含有する洗米排水及び/又はこの洗米排水から分離したデンプンを含有するデンプン含有物を用いることが好ましい。
【0015】
液化酵素は、デンプンの1,4−α−結合を不規則に切断し液状化する酵素である。
【0016】
糖化酵素は、液化反応で不規則に切断され液状化されたデンプンの糖鎖の非還元末端の1,4−α結合を分解してグルコース等の単糖を生じさせる酵素である。
【0017】
液化酵素と糖化酵素をデンプン含有物にともに混和するため、まず、液化酵素がデンプンを不規則に切断して液状化し、液状化されたデンプンは、速やかに糖化酵素によって分解され単糖が生じる。液化工程と糖化工程を個別に行う場合では、液化工程で液化が十分に進行するまで糖化工程に移ることができないが、液化酵素と糖化酵素がともに添加されているので、デンプンは液化された後、速やかに単糖までに分解され、デンプンから単糖までに分解されるまでの時間を短くすることができる。
【0018】
液化酵素としてアスペルギルス属に属するα−アミラーゼを、糖化酵素としてアスペルギルス属に属するグルコアミラーゼを用いることが好ましい。アスペルギルス属に属するα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼを用いる場合、同属の微生物であるため、それぞれの至適pH及び至適温度は近似する。したがって、一定の反応温度、一定のpHで、α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼはともに活性を維持し、効率的にデンプンの液化、糖化が進行する。なお、反応温度は、α−アミラーゼの至適温度とグルコアミラーゼの至適温度との間の温度にするとよい。双方の酵素が活性を維持でき、デンプンの液化及び糖化が効率的に行われる。
【0019】
また、通常の液化工程と糖化工程とを個別に行う場合では、液化した後に昇温或いは降温させるが、本実施の形態ではそのような温度調節を行う必要がない。このため、昇温或いは降温させる時間を必要とせず、反応時間の短縮が可能である。また、昇温或いは降温に要するエネルギーも必要がなく、省エネであるとともに、生産コストの低下にも寄与する。
【0020】
更には、液化用反応槽及び糖化用反応槽が不要であり、一つの反応槽で液化、糖化を行うことができるので、設備コストの低下も実現できる。
【0021】
添加する液化酵素と糖化酵素の割合は、用いる酵素の組み合わせや、反応時間、酵素のコストを鑑みて、適宜設定すればよい。
【0022】
また、液状の液化酵素及び液状の糖化酵素を用いることが好ましい。液状であるため、液化酵素及び糖化酵素が短時間でデンプン含有物中に均一分散し、液化、糖化が速やかに進行する。
【0023】
更に、液状の液化酵素及び液状の糖化酵素を用いることで、各酵素の分量及びデンプン含有物中への添加も容易に行うことができ、操作性にも優れる。
【0024】
また、洗米排水から分離したデンプンを含有するデンプン含有物を用いており、洗米排水のpHはおよそ5〜7と弱酸性である。アスペルギルス属に属するα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼの至適pHは弱酸性であるので、洗米排水等のpHを調整することなく、そのまま酵素を添加して液化、糖化を行うことができる。
【0025】
なお、上記では洗米排水から分離したデンプンを含有するデンプン含有物の液化、糖化について説明したが、トウモロコシやサトウキビ等、炭水化物を主成分とする穀物等のバイオマス由来のデンプン含有物についても応用することが可能である。
【実施例1】
【0026】
洗米排水に液化酵素及び糖化酵素を添加し、液化及び糖化を並行して行った。
【0027】
洗米排水は、無洗米加工装置(SJR2A型(株式会社サタケ))を用い、米の処理量2000kg/h、使用水量300L/h、稼働時間8h/dayの条件で駆動して得られた排水を用いた。
【0028】
容器に洗米排水を500mL入れ、この中に液状の液化酵素であるα−アミラーゼ及び液状の糖化酵素であるグルコアミラーゼを同時に添加した。α−アミラーゼとして、マイコラーゼ(登録商標)LV(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を0.25mL(0.5mL/L)添加した。また、グルコアミラーゼとして、アミガーゼ(登録商標)(商品名:ディー・エス・エムジャパン(株))を0.5mL(1mL/L)添加した。
【0029】
容器内容物を50℃に維持し、容器内を攪拌しながら(5,000rpm)液化反応及び糖化反応を並行させて行った。以下、これをMYC+AMI50と記す。
【0030】
また、対照実験として、粉末状の液化酵素及び粉末状の糖化酵素を洗米排水に添加し、液化反応及び糖化反応を行った。液化酵素として、スピターゼ(商品名:ナガセコケムテックス(株))を0.25g(0.5g/L)、糖化酵素として、グルコチーム(ナガセコケムテックス(株))を1.5g(3.0g/L)添加した以外、上記と同様に行った。以下、これをControl50と記す。
【0031】
なお、対照実験は、容器に入れた洗米排水中に含有する全てのデンプンが単糖であるグルコースまで分解されたことを確認するため、各酵素を過剰に添加して行った。
【0032】
反応1時間、1.5時間、2時間におけるそれぞれのグルコース生成量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定(HPLC測定)した。
【0033】
表1及び図1に、それぞれ反応1時間、1.5時間、2時間におけるグルコース生成量の測定結果を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
Control50では、反応1.5時間、2時間でグルコース生成量はさほど変わっておらず、洗米排水中のデンプンは全てグルコースまで分解されていることがわかる。したがって、用いた洗米排水中に含まれるデンプンが全てグルコースまでに分解されると、大凡40g/Lである。
【0036】
一方、MYC+AMI50では、対照実験に比べ、反応速度が遅く、反応2時間でも全てのデンプンをグルコースまで分解できていない。
【実施例2】
【0037】
続いて、実施例1とは異なる反応温度にして、実施例1と同様に、洗米排水中のデンプンの液化、糖化を行った。
【0038】
反応温度は55℃、60℃、65℃、70℃とし、それぞれの温度について実施例1と同様に行った。マイコラーゼLV及びアミガーゼを添加した系において、反応温度55℃、60℃、65℃、70℃で行ったものを、以下、それぞれMYC+AMI55、MYC+AMI60、MYC+AMI65、MYC+AMI70と記す。
【0039】
また、対照実験についても上記と同様に行い、反応温度55℃、60℃、65℃、70℃で行ったものを、以下、それぞれControl55、Control60、Control65、Control70と記す。
【0040】
そして、それぞれについて、実施例1と同様、生成したグルコース量を測定した。
【0041】
マイコラーゼLV及びアミガーゼを添加した場合の生成したグルコース量の測定結果を図2及び表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
また、対照実験の生成したグルコース量の測定結果を図3及び表3にそれぞれ示す。
【0044】
【表3】
【0045】
MYC+AMI60において、反応1時間、1.5時間、2時間でそれぞれ生成したグルコースが37.8、39.1、39.9g/Lと、40g/Lに近い値である。用いた洗米排水から得られるグルコースのほぼ最大量が得られていることがわかる。α−アミラーゼとしてマイコラーゼLVを、グルコアミラーゼとしてアミガーゼを用いる場合では、反応温度を60℃程度にして行うと効率的であることがわかる。
図1
図2
図3