特許第5794825号(P5794825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794825
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】酸素の発生方法及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/02 20060101AFI20150928BHJP
   H01M 8/06 20060101ALI20150928BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20150928BHJP
【FI】
   C01B13/02 B
   H01M8/06 K
   !H01M8/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-105125(P2011-105125)
(22)【出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2012-236726(P2012-236726A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100162330
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 幹規
(72)【発明者】
【氏名】池田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】米村 将直
(72)【発明者】
【氏名】谷 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】岩田 光由
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−011965(JP,A)
【文献】 実開昭62−149352(JP,U)
【文献】 特開昭50−017395(JP,A)
【文献】 特開昭47−011461(JP,A)
【文献】 特開昭60−131806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/00−13/36
H01M 8/06
H01M 8/10
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超酸化カリウムを加圧成型して得られる粒状物又はブリケットを、呼気ではなく連続的に供給された水で加水分解して酸素を発生させる酸素の発生方法であって、
上記粒状物又はブリケットが、上記酸素を上部から取り出す反応容器内に、該反応容器の側壁面と該粒状物又はブリケットの間に下部から上部に貫通する空間を設けるように配置され、該空間の横断面の面積が、該反応容器の横断面の面積中の15〜25%である酸素の発生方法
【請求項2】
上記粒状物が、平均粒径3〜10mmのペレットである請求項1に記載の酸素の発生方法。
【請求項3】
上記粒状物が、固体密度1.0〜2.2g/mlを有する請求項1又は請求項2に記載の酸素の発生方法。
【請求項4】
超酸化カリウムを加圧成型して得られるブリケット又は粒状物を加水分解して酸素を発生させる酸素供給部であって、上記粒状物又はブリケットが、上記酸素を上部から取り出す反応容器内に、該反応容器の側壁面と該粒状物又はブリケットの間に下部から上部に貫通する空間を設けるように配置され、該空間の横断面の面積が、該反応容器の横断面の面積中の15〜25%である酸素供給部と、
水素供給部と、
上記酸素供給部から供給される酸素と、上記水素供給部から供給される水素とを反応させて発電を行う燃料電池本体と
を備える燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素の発生方法及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全や化石燃料の枯渇の問題から、化石燃料に代わる代替エネルギーとして燃料電池が電力の供給源として考えられている。一般に、燃料電池は、水素等を含む燃料ガスと酸素や空気等の酸化剤とを反応させ、燃料電池(燃料電池本体)にて発電を行う。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は低温で発電できるので、起動性の良さが期待され、自動車等の移動体用の動力源として開発が進められている。
【0003】
酸化剤としては空気を用いるのが一般的であるが、たとえば、水を電気分解して酸素を得るものが提案されている。この場合には、同時に水素も得られることになるが、電気分解に要するエネルギーを考えると、損失が多く用途が限定される。
一方、呼気中の水蒸気等のガス中水分と接触、反応して酸素を発生する、超酸化カリウム(KO)等の酸素発生剤を使用した酸素自給型マスクが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−24853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸素自給型マスクに酸素発生剤として使用されている超酸化カリウム(KO)を給水により加水分解して酸素を発生させ、燃料電池等に利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、超酸化カリウム(KO)粉末を加水分解して効率よく酸素を発生させる方法を検討した。しかし、呼気中の水分量であれば、超酸化カリウム粉末全体が水と徐々に反応して酸素ガスを発生するが、水を連続的に供給すると反応が局在化し、反応が広がらず、反応効率が悪いことを見出した。具体的には、超酸化カリウム粉末の上方から水を添加した場合、水の落下する下方に向かって縦穴が掘られていくが、穴の横方向には副産物である水酸化カリウムの硬い壁が形成されて粉末と水との接触が妨げられ、反応が横に拡がらない。超酸化カリウム粉末の上方から反応容器の側面に沿って水を添加した場合、水の落下する下方に向かって縦穴が掘られていき、容器の底面に到達後、反応は底面に沿って横方向に進行するが、副産物である水酸化カリウムの硬い壁に拒まれてガス抜きができなくなる。また、超酸化カリウム粉末の下方から水を添加した場合でも、副産物である水酸化カリウムの硬い壁に拒まれてガス抜きができなくなる。本発明者は、粉末を利用してこれらの課題を解消するには限界があると考え、超酸化カリウム粉末を加圧成型して得られる粒状物又はブリケットを加水分解することを検討し、本発明を完成させたものである。
本発明は、超酸化カリウムを加圧成型して得られる粒状物又はブリケットを加水分解して酸素を発生させる酸素の発生方法を提供する。また、超酸化カリウムを加圧成型して得られるブリケット又は粒状物を加水分解して酸素を発生させる酸素供給部と、水素供給部と、上記酸素供給部から供給される酸素と、上記水素供給部から供給される水素とを反応させて発電を行う燃料電池本体とを備える燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超酸化カリウムの表面に加水分解反応によって生じる水酸化カリウム膜の生成が抑制でき、高い酸素発生率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一つの実施形態である燃料電池システムの要部の概略構成を示すブロック図を示す。
図2】実施例で使用した酸素発生装置を示す。
図3】積算酸素発生量と積算供給水量に関する結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酸素を発生させるため、超酸化カリウム(KO)を加水分解する。超酸化カリウムの加水分解反応は、以下の式で表すことができる。
4KO+2HO → 4KOH+3O
【0010】
超酸化カリウムは、加圧成型して得られる粒状物又はブリケットを用いる。
加圧成型して得られる粒状物として、超酸化カリウム粉末を打錠成型して得られたペレットを用いてもよい。例えば平均粒径1〜100μm、市販の打錠成型機を用い、好ましくは粉体の嵩密度0.2〜0.5g/mlが固体密度1.0〜2.2g/mlとなる圧力で成型して、好ましくは平均粒径3〜10mmのペレットを得る。平均粒径が10mmを超えると、加水分解用容器への充填性が悪くなり、空隙が増加し、酸素発生速度の低下を招く場合がある。平均粒径が3mm未満では、加水分解反応により形成される粒子表面の水酸化カリウムがブリッジを形成し、加水分解反応が進行しにくい場合がある。ペレットの大きさは、打錠成型機の設定により選択できるが、異なる粒径の粒子を用いてもよい。
ペレット化にすることにより、充填密度が例えば0.7〜2.2g/ml好ましくは1.3〜2.2g/mlとなり、ペレット化前の粉末の嵩密度である0.2〜0.5g/mlより大幅に向上し、充填率を上げることができる。充填密度は、500mlメスシリンダーに粒状物を充填して測定できる。
【0011】
超酸化カリウムは、加圧成型して得られるブリケットを用いてもよい。例えば平均粒径1〜100μmの超酸化カリウム粉末を、好ましくは粉体の嵩密度0.2〜0.5g/mlが固体密度1.0〜2.2g/mlとなる圧力で成型して成型してブリケットを得る。例えば(80〜150)mm×(80〜150)mmで高さが20〜80mmの金型を用いることができる。
ブリケットの大きさや形状は特に限定されないが、例えば、最短の一辺や直径が10mmを超える直方体、立方体、円柱、球等が挙げられる。ブリケットは容器に1個づつ充填しても良いし、複数個を積層あるいは並べて配置しても良い。
【0012】
前記粒状物又はブリケットは、加水分解が行われ、上部から酸素が取り出される反応容器内に、反応容器の側壁面と粒状物又はブリケットとの間に下部から上部に貫通する空間を設けるように配置される。反応容器の下部から上部に貫通する空間の横断面の面積は、反応容器の横断面の面積中の15〜25%となるように配置されることが好ましい。反応容器の下部から上部に貫通する空間の横断面の面積を15%以上とすることにより、副産物の水酸化カリウムの容器側面への固着の形成を抑制でき、発生する酸素ガスが超酸化カリウムの粒状物又はブリケットから容易に取り出される。貫通する空間の横断面の面積が25%を超えると、反応容器の効率的使用とならないため、好ましくは25%以下である。
粉状物の場合は、反応容器よりも小さい網状の容器に粒状物を収納して反応容器の中央部に配置し、反応容器の側壁面と粒状物との間に反応容器の下部から上部に貫通する空間を確保できる。例えば、充填したペレット上面から水を散布すれば、連続的な酸素ガス発生を得られる。好ましくは、散布面積がペレット充填面よりも極端に小さくなくらないようにする。
ブリケットの場合は、ブリケットのサイズを反応容器よりも小さくしたり、反応容器よりも小さい複数のブリケットを組合せて反応容器の側壁面とブリケットとの間に反応容器の下部から上部に貫通する空間を確保できる。例えば、ブリケットの上方から水を散布するか、又はブリケットの下方から水を浸透させても連続的な酸素ガス発生を得られる。
【0013】
超酸化カリウム粉末を加水分解する場合には、全ての超酸化カリウムを反応させるストイチオメトリックな理論量の10倍程度の水が必要なることが経験的に見出された。しかし、水素化マグシウム粉末を加圧成型して得られる粒状物又はブリケットを加水分解する場合には、大幅な水量の削減が可能となる。後述する実施例では、全ての超酸化カリウムを反応させるストイチオメトリックな理論量の4.4倍の水で、理論量の97.7%の酸素発生を確認している。
【0014】
本発明の酸素発生方法により発生された酸素は、燃料電池システムに利用できる。燃料電気システムは、超酸化カリウムを加圧成型して得られるブリケット又は粒状物を加水分解して酸素を発生させる酸素供給部と、水素供給部と、上記酸素供給部から供給される酸素と、上記水素供給部から供給される水素とを反応させて発電を行う燃料電池本体とを備える。
燃料電池システムの一つの実施形態を、燃料電池システムの要部の概略構成を示すブロック図である図1を用いて説明する。燃料電池としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好適であるが、その形式は問わない。
【0015】
燃料電池(燃料電池システム)1には、水素と酸素とによって電気化学反応(発電反応)による発電が行われる燃料電池4(燃料電池本体)と、燃料電池4に酸素を供給する酸素発生装置2と水素を供給する水素供給源3とが備えられている。燃料4には、固体電解質膜の両面に酸素極および水素極が圧着された膜電極接合体5が備えられている。
酸素発生装置2には、水貯蔵容器6に貯蔵された水が供給されるように構成されている。酸素発生装置2では、超酸化カリウムを加圧成型して得られる粒状物又はブリケットと水とが混合されることによって酸素が発生する。生成された酸素は、燃料電池4の酸素極へ供給される。水素供給源3の水素は、燃料電池の水素極へ供給される。
【0016】
水素極に供給された水素は、水素極でイオン化した水素イオンとされ、高分子電解質膜中を酸素極側へ移動する。一方、イオン化にて生成した電子は水素極から図示しない外部負荷を流れ、酸素極に移動することで電力を供給する。酸素極に供給された酸素は、酸素極に移動した電子によってイオン化される。イオン化された酸素イオンと、高分子電解質膜中を移動して酸素極に到達した水素イオンとが反応し、水が生成される。生成された水を水貯蔵容器6に供給して再利用してもよい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
超酸化カリウムとして、成型により製造した953.5gのブリケット(114mm×114mm×高さ40mm、中央部に直径11mmの貫通孔、角部がR18mmの面取り)を用いた。ブリケットの密度は1.60g/mlであった。使用した酸素発生装置を図2に示す。水は、天秤11で供給量を測定しながら送液ポンプ12で8.7g/分で試験容器13(122mm×122mm×高さ339mm)に送られ、試験容器13内に試験容器13の側壁面とブリケットの間に下部から上部に貫通する空間を設けるように容器の中央部に配置した超酸化カリウムのブリケット1個と反応させた。発生した酸素ガスの量は、積算流量計14で測定された。積算水素発生量と積算水素供給水量に関する結果を図3に示す。
なお、試験容器の側壁面とブリケットとの間の下部から上部に貫通する空間に関して、該空間の横断面が反応容器の横断面に占める割合は、R18をC18とみなして計算すると{122x122−114x114+36x36/2)/(122x122)}x100となり、17%であった。
【0018】
図3において、ライン21は、供給水量に対する温度補正済みの理論積算酸素発生量を示し、理論酸素ガス発生量225.2Lを示すa点に対応する、積算供給水量を示すライン23のb点が理論供給水量となり、120.7gであった。ライン22は、積算酸素発生量を示し、酸素発生停止点であり、理論量の97.7%に相当する酸素ガス発生量220.1Lを示すc点に対応する、積算供給水量を示すライン23のd点が酸素発生総供給水量であり、533gであった。したがって、理論量の4.4倍の供給水量で理論量の97.7%の水素発生量を得たことになった。これは、理論量の10倍の水が必要なる超酸化カリウム粉末の加水分解からは予想できない結果であった。
【符号の説明】
【0019】
1 燃料電池システム
2 酸素発生装置
3 水素供給源
4 燃料電池スタック
5 膜電極接合体
6 水貯蔵容器
11 天秤
12 送液ポンプ
13 試験容器
14 積算流量計
21、22、23 ライン
図1
図2
図3