(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被牽引物を牽引するベルトが巻き掛けられるドラムと、当該ドラムを回転させるモータとを有する電動ウィンチ、および前記電動ウィンチを制御するコントローラを備えた電動ウィンチの制御装置であって、
前記ドラムと前記モータとの間に設けられ、前記ドラムおよび前記モータを締結状態または開放状態とする電磁クラッチと、
前記ドラムに設けられ、ロック状態で前記ドラムの一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制し、リリース状態で前記ドラムの一方向および他方向への回転を許容するラチェット機構と、
前記電磁クラッチを介さずに前記ベルトを巻き取る方向の回転力を前記ドラムに伝達する弛み取り機構と、
前記コントローラに設けられ、前記電磁クラッチの故障を検知する電磁クラッチ故障検出部と、
前記コントローラに設けられ、前記電磁クラッチ故障検出部から故障検出信号が入力されたときに、前記ラチェット機構をロック状態にすることで前記ドラムの他方向への回転を規制し、かつ前記弛み取り機構による前記ドラムの一方向への回転を許容する駆動制御部と、
を有することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。
請求項1または2記載の電動ウィンチの制御装置において、前記電磁クラッチ故障検出部は、前記ドラムが規定速度以上の回転速度で回転しているときの高速回転信号である場合に、前記故障検出信号を出力することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。
請求項1記載の電動ウィンチの制御装置において、前記電磁クラッチ故障検出部は、前記電磁クラッチを流れる電流を検出し、検出した検出電流が前記駆動制御部からの指令電流と異なる場合に前記故障検出信号を出力することを特徴とする電動ウィンチの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1(a),(b)は車両に搭載された電動ウィンチの基本動作を説明する説明図を、
図2は
図1の車両を上方から見た本発明のシステム構成を説明する説明図を、
図3(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は介助者により車外から操作可能なリモコンを示す平面図を、
図4は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、
図5は
図4の電動ウィンチの内部構造(一部)を示す斜視図を、
図6は
図4の電動ウィンチを構成する部材の接続関係を模式的に示す図を、
図7はコントローラの内部構造を示すブロック図をそれぞれ表している。
【0019】
図1および
図2に示すように、車両10は福祉車両であり、当該車両10の後方側(図中右側)には、被牽引物としての車椅子20を搭載可能な車椅子搭載スペース11が形成されている。車椅子搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(
図2における上下方向)に所定間隔を持って一対の電動ウィンチ30が設置されている。各電動ウィンチ30は、先端側にフック31が装着されたベルト32を備えており、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。具体的には、各電動ウィンチ30から各ベルト32を引き出して、各フック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21にそれぞれ引っ掛け、その状態のもとで各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことにより、図中矢印M1に示す方向に車椅子20が移動する。
【0020】
車椅子搭載スペース11の車両後方側には、地面Gと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設置されている。スロープ12は、車両10の走行時においては、床面Fに形成された格納部(図示せず)に格納されている。一方、車両10を停車させてかつバックドア13を開いた状態とし、図示しないスロープ操作スイッチをオン操作することにより、スロープ12は格納部から車外に向けて延出されるようになっている。
【0021】
各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことで、
図1(b)に示すように車椅子20はスロープ12上を移動していき、やがて車椅子20は、図中破線に示すように床面F上に到達して車椅子搭載スペース11内に搭載される。また、各電動ウィンチ30により各ベルト32を送り出すことで、
図1(b)のように車椅子搭載スペース11内に搭載された車椅子20を床面Fから地面Gへ移動される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20の地面Gと床面Fとの間の移動を容易に誘導できるようにしている。ここで、各電動ウィンチ30は図示しない介助者(使用者)により操作され、各電動ウィンチ30の操作中においては、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支持するようにする。
【0022】
各電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、
図2に示すように構成されている。つまり制御装置40は、各電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60およびリモコン70から構成されている。各電動ウィンチ30とコントローラ50との間、および操作パネル60とコントローラ50との間には、通信線および電源線よりなる配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車外に持ち出すことで、各電動ウィンチ30を車外から操作できるようになっている。
【0023】
ここで、
図2に示すように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設置されており、各固定ベルト16の各フック15は、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20の左右側にある一対の車輪22にそれぞれ引っ掛けられるようになっている。これにより、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20は、各ベルト32の各フック31および各固定ベルト16の各フック15の合計4箇所で固定され、ひいては車両10内で車椅子20が移動したりがたついたりするのを抑制している。
【0024】
操作パネル60は、
図3(a)に示すようにパネル本体61を備えている。パネル本体61は車椅子搭載スペース11の中央から後方側に設けられ、操作パネル60は車両10の後方から操作可能となっている。パネル本体61には、主電源スイッチ62,ベルトフリースイッチ63,速度切替スイッチ64およびブザー(スピーカ)65が設けられている。
【0025】
主電源スイッチ62は、制御装置40のシステム電源をオン状態とするために操作するものである。主電源スイッチ62をオン操作することでシステム電源がオン状態となり、このとき、主電源スイッチ62のインジケータ62aが点灯するようになっている。また、主電源スイッチ62は、制御装置40をシステムリセット(初期化)する際にも操作され、例えば、3秒以上の長押しをすることでシステムリセットされるよう設定されている。
【0026】
ベルトフリースイッチ63は、各電動ウィンチ30のロック状態を解除するために操作するもので、ベルトフリースイッチ63をオン操作することで、各ベルト32を引き出したり収納したりできるようになっている。つまり、ベルトフリースイッチ63をオン操作し、各ベルト32を引き出して車外にある車椅子20に引っ掛けたり、各電動ウィンチ30からそれぞれ引き出した各ベルト32の長さを揃えたりできるようにしている。ここで、ベルトフリースイッチ63をオン操作すると、ベルトフリースイッチ63のインジケータ63aが点灯するようになっている。
【0027】
速度切替スイッチ64は、車椅子20を車椅子搭載スペース11に搭載したり車椅子搭載スペース11から降ろしたりする際に、各ベルト32の移動速度、つまり引き込み速度や送り出し速度を、低速(LOW)または高速(HIGH)に切り替えるのに操作するものである。また、ブザー65は、各ベルト32の引き込み作動時や送り出し作動時,各電動ウィンチ30の動作不良時(故障発生時)等において、電子音等の警告音を発生するようになっている。ここで、警告音としては電子音に限らず、音声によるアナウンスであっても良い。
【0028】
リモコン70は、乾電池駆動のワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチ62が操作され、制御装置40のシステム電源がオン状態のときに使用可能となる。リモコン70は、
図3(b)に示すようにリモコン本体71を備えており、リモコン本体71は、リモコン電源スイッチ72,入スイッチ73および出スイッチ74を備えている。リモコン70は、さらにインジケータ75を備え、当該インジケータ75は、リモコン70の操作時等に点灯するようになっている。また、インジケータ75の点灯が暗くなったら乾電池(図示せず)を交換するようにする。
【0029】
ここで、リモコン70の操作は介助者によって行うようにし、介助者によりリモコン電源スイッチ72をオン操作し、その後、入スイッチ73を押すことで、各電動ウィンチ30が作動する。そして、入スイッチ73を押している間は、各電動ウィンチ30が継続して作動し、車椅子搭載スペース11への車椅子20の搭載がアシストされる。一方、出スイッチ74を押すと、今度は各電動ウィンチ30が逆方向に作動する。そして、出スイッチ74を押している間は、車椅子搭載スペース11からの車椅子20の降ろし動作がアシストされる。
【0030】
なお、リモコン70の操作中においては、介助者は車椅子20のグリップGR(
図1参照)を把持し、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、各電動ウィンチ30を駆動制御することで、介助者による車椅子20の移動をアシストするようになっている。
【0031】
車両10の左右側に設けられる各電動ウィンチ30は、何れも同じ形状かつ同じ構造のものを採用している。
図4ないし
図6においては、何れか一方の電動ウィンチ30のみを示しており、以下、何れか一方の電動ウィンチ30を代表して、その詳細構造について説明する。
【0032】
電動ウィンチ30は、
図4および
図6に示すように、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
【0033】
電動モータ部80は、モータ部(モータ)81とギヤ部82とを備えている。モータ部81はコントローラ50により正転または逆転方向に回転駆動されるようになっている。モータ部81の内部には、回転軸(図示せず)が回転自在に設けられ、ギヤ部82の内部には、回転軸の回転を減速して高トルク化するためのウォームおよびウォームホイールよりなる減速機構(図示せず)が設けられている。ウォームホイールの回転力は出力軸83(
図6参照)に伝達され、当該出力軸83はドラム部90に向けて突出し、ドラム部90を形成するドラム92(
図5参照)を回転させるようになっている。
【0034】
図6に示すように、ギヤ部82(ウォームホイール)と出力軸83との間、つまりモータ部動力伝達経路におけるドラム92とモータ部81との間には、電磁クラッチ84が設けられている。電磁クラッチ84は、コントローラ50により制御され、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする。具体的には、電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは切り離される。
【0035】
なお、電磁クラッチ84は、ウォームホイールと一体回転する第1プレート(図示せず),出力軸83と一体回転する第2プレート(図示せず)およびステータコイル(図示せず)を備えている。そして、ステータコイルに駆動電流を供給することでステータコイルは電磁力を発生し、当該電磁力により各プレートは吸引されて締結される(締結状態)。一方、ステータコイルへの駆動電流の供給を停止することで各プレートは切り離される(開放状態)。
【0036】
ドラム部90は、
図4に示すようにケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、
図5に示すドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻き掛けられるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
【0037】
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32の捻れを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
【0038】
ここで、
図4の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(
図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの各取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくこと無く強固に固定されている。
【0039】
ケーシング91の内部には、
図5に示すように、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ただし、
図5に示す弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、
図4に示すようにケーシング91の外部に設けられている。
【0040】
ドラム92にはベルト32が巻き掛けられ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(
図6参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
【0041】
ドラム92とドラム軸92aとの間には、
図6に示すようにワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(
図5において反時計方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。一方、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転がドラム軸92aに伝達されず、ドラム92が空回りするよう構成されている。
【0042】
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aと係合し、ドラム92のベルト32の引き込み方向(一方向)への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向(他方向)への回転(
図5において時計方向)を阻止し得る揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材93cとを備えている。
【0043】
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給することで、駆動ピン93dはピンの軸方向に移動し、引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれてリリース状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向への双方向にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92の双方向への回転が許容され、ひいては車椅子20を車椅子搭載スペース11から降ろせるようになる。
【0044】
一方、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止することで、図示しない内蔵バネのバネ力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
【0045】
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、ドラム92がベルト32を巻き取る方向の回転力を発生し、この弛み取りモータ95の回転力は、減速ギヤ機構94c,トルクリミッタ94d,小径ギヤ94bおよびスパーギヤ94aを介してドラム92に伝達される。また、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、
図6に示すようにトルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより弛み取りモータ95への過負荷を防止し、弛み取りモータ95を保護するようにしている。つまり、弛み取りモータ95としては、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルクを発生し得る小型モータを採用できるようになっている。
【0046】
図7に示すように、コントローラ50は、駆動制御部51および第1クラッチ故障検出部52を備えている。コントローラ50は、さらに第2クラッチ故障検出部53(図中破線部分)を備えている。
【0047】
コントローラ50には、操作パネル60およびリモコン70から、それぞれ有線または無線で種々の操作情報(操作信号)が入力されるようになっている。また、コントローラ50には、電動ウィンチ30を構成するモータ部81,電磁クラッチ84,ソレノイド駆動部材93c,弛み取りモータ95および回転センサ96が電気的に接続されている。そして、コントローラ50の駆動制御部51は、操作パネル60およびリモコン70から出力された操作信号や、回転センサ96から出力された検出信号に基づいて、上述した電動ウィンチ30を構成する駆動系部品(81,84,93c,95)を、一対の各電動ウィンチ30で同期するよう駆動制御するようになっている。
【0048】
ここで、回転センサ96はホール素子よりなり、回転センサ96と対向するドラム92の部分には、当該ドラム92の回転に伴って回転するリングマグネット(図示せず)が設けられている。これにより、回転センサ96はドラム92とともにリングマグネットが回転するとリングマグネットの磁極の切り替わりに応じて「オン」または「オフ」を示す矩形波信号(パルス信号)を発生するようになっている。そして、駆動制御部51は、入力された各パルス信号から、ベルト32に掛かる負荷やベルト32の移動速度等を算出する。ここで算出した種々のデータは、電動ウィンチ30のきめ細かな駆動制御に反映させるようになっている。
【0049】
第1クラッチ故障検出部52は、本発明における電磁クラッチ故障検出部を構成しており、当該第1クラッチ故障検出部52には、回転センサ96からのパルス信号、つまりドラム92の回転を示す検出信号が入力されるようになっている。第1クラッチ故障検出部52は、入力された検出信号に基づいて、電磁クラッチ84が開放状態で故障しているか否かを判定する。ここで、第1クラッチ故障検出部52は、駆動制御部51によって回転されるモータ部81の回転方向に対して、回転センサ96から出力されるパルス信号が異なる回転方向の場合、つまりドラム92が正回転(正転)すべきところで逆回転(逆転)していることに起因する逆回転信号rrsと、駆動制御部51がモータ部81およびドラム92を回転させる速度に対して、回転センサ96から出力されるパルス信号がより高速度な場合、つまりドラム92が一定速度で回転すべきところで高速で回転していることに起因する高速回転信号hssとを受けて、これらの信号rrs,hssから電磁クラッチ84が開放状態で故障したことを検知するようになっている。
【0050】
第1クラッチ故障検出部52は、上述のように電磁クラッチ84が開放状態で故障したことを検知すると、故障検出信号fsを駆動制御部51に向けて出力するようになっている、そして、駆動制御部51は、故障検出信号fsが入力されると、ラチェット機構93をロック状態とする制御を実行する。つまり、駆動制御部51は、ソレノイド駆動部材93c(
図5参照)への駆動電流の供給を停止し、これによりラッチギヤ93aに歯止め93bを係合させてロック状態とする。このようにラチェット機構93をロック状態とすることで、ベルト32の送り出し方向に対するドラム92の回転が規制される。
【0051】
次に、以上のように形成した本実施の形態に係る制御装置40の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
【0052】
図8(a),(b)は第1クラッチ故障検出部における故障検出動作を説明する説明図を表している。
【0053】
[ドラム92の逆回転を検知]
介助者によってリモコン70の入スイッチ73が操作されると、
図8(a)に示すように、電動ウィンチ30はベルト32を巻き取り、車椅子20を引き込む引き込み動作(図中実線矢印)を開始する。すると、車椅子20が車椅子搭載スペース11に向けて移動していく。このとき、電磁クラッチ84には駆動電流が供給されて締結状態となっており、時間の経過とともにパルスカウント数が増加していく。ここで、パルスカウント数の増加は、ドラム92が正方向に回転(正転)してベルト32がドラム92に巻き取られていることを意味している。つまり、ここでのパルスカウント数の増加は、正常な検出信号として回転センサ96から第1クラッチ故障検出部52に入力される。よって、第1クラッチ故障検出部52は、電磁クラッチ84が正常であると判定して、駆動制御部51に故障検出信号fsを出力しない。
【0054】
その後、電磁クラッチ84が、何らかの原因で締結状態から開放状態に故障すると、モータ部81の駆動力がドラム92に伝達されなくなる。すると、図中破線矢印に示すように、ドラム92が車椅子20の自重によってベルト32を送り出す方向に逆回転を開始し、車椅子20がスロープ12の傾斜に沿って後退するようになる。ここで、ドラム92の逆方向への回転(逆転)に伴ってパルスカウント数は減少していき、ここでのパルスカウント数の減少は、逆回転信号rrsとして第1クラッチ故障検出部52に入力される。
【0055】
第1クラッチ故障検出部52は、入力された逆回転信号rrsが確かなものなのか否か、つまり、一時的にドラム92が逆転しただけで電磁クラッチ84は正常なのか、また、逆回転信号rrsが継続して出力され電磁クラッチ84は確実に故障したのかを判定する。具体的には、逆回転信号rrsの大きさ(逆回転量)と、所定のしきい値Thとを比較する処理を実行し、逆回転信号rrsがしきい値Thよりも大きいと判定した場合には、ドラム92の逆回転が一時的なものではなく、電磁クラッチ84が開放状態で故障したことに依るものであるとして、駆動制御部51に故障検出信号fsを出力する。そして、駆動制御部51は故障検出信号fsの入力に伴い、ラチェット機構93をロック状態とする制御を実行する。ラチェット機構93がロック状態となることで、ドラム92のベルト32の送り出し方向への回転が規制されるため、それ以上の車椅子20の後退が防止される。
【0056】
[ドラム92の高速回転を検知]
介助者によってリモコン70の出スイッチ74が操作されると、
図8(b)に示すように、電動ウィンチ30は送り出し動作(図中破線矢印)を開始する。すると、車椅子20が一定の速度でスロープ12上を移動していく。このとき、電磁クラッチ84には駆動電流が供給されて締結状態となっており、時間の経過とともにドラム92の回転速度(ドラム回転速度)は略一定に保持される。ここで、ドラム回転速度は、回転センサ96からのパルス信号の出現間隔に基づいて推定することができ、パルス信号の出現間隔が長い場合はドラム回転速度が遅く、パルス信号の出現間隔が短い場合はドラム回転速度が速い。
【0057】
図8(b)の前半部分(図中左側)における回転センサ96からのパルス信号の出現間隔は略一定間隔を保持しており、ドラム回転速度は略一定となっている。したがって、回転センサ96からのパルス信号は正常な検出信号として第1クラッチ故障検出部52に入力される。よって、第1クラッチ故障検出部52は、電磁クラッチ84が正常であると判定して、駆動制御部51に故障検出信号fsを出力しない。
【0058】
その後、電磁クラッチ84が、何らかの原因で締結状態から開放状態に故障すると、モータ部81の駆動力がドラム92に伝達されなくなる。すると、
図8(b)の後半部分(図中右側)に示すように、車椅子20の重量等によってドラム92の送り出し方向への回転速度が上昇していく。このようにドラム回転速度が上昇するのに伴い、回転センサ96から第1クラッチ故障検出部52に向けてパルス信号としての高速回転信号hssが出力される。
【0059】
第1クラッチ故障検出部52は、入力された高速回転信号hssが確かなものなのか否か、つまり、一時的にドラム92が高速回転しただけで電磁クラッチ84は正常なのか、また、高速回転信号hssが継続して出力され電磁クラッチ84は確実に故障したのかを判定する。具体的には、高速回転信号hssが、高速回転判断しきい値Vを超え、かつ所定時間Tの間出力されたか否かを判定する処理を実行する。そして、高速回転信号hssが高速回転判断しきい値Vを超え、かつ所定時間T以上継続したと判定した場合には、ドラム92の高速回転が一時的なものではなく、電磁クラッチ84が開放状態で故障したことに依るものであるとして、駆動制御部51に故障検出信号fsを出力する。その後、駆動制御部51は故障検出信号fsの入力に伴い、ラチェット機構93をロック状態とする制御を実行する。これにより、車椅子20が後退し続けることを防止できる。
【0060】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動ウィンチ30の制御装置40によれば、ドラム92とモータ部81との間に、両者を締結状態または開放状態とする電磁クラッチ84を設け、ドラム92に、ロック状態でドラム92の引き込み方向への回転を許容しつつ送り出し方向への回転を規制し、リリース状態でドラム92の引き込み方向および送り出し方向への回転を許容するラチェット機構93を設け、コントローラ50に、電磁クラッチ84の故障を検知する第1クラッチ故障検出部52と、第1クラッチ故障検出部52から故障検出信号fsが入力されたときに、ラチェット機構93をロック状態とする駆動制御部51とを設けた。
【0061】
これにより、第1クラッチ故障検出部52が電磁クラッチ84の故障を検出すると、駆動制御部51がラチェット機構93をロック状態として、ドラム92の送り出し方向への回転が規制され、ひいてはベルト32がドラム92から送り出されることを確実に防止することができる。このように、電磁クラッチ84の故障時に作用するフェイルセーフ機能を設けたので、使用者(介助者や搭乗者)に与える不安感を低減することができ、ひいては信頼性を向上させることが可能となる。
【0062】
図9は第2クラッチ故障検出部の構成を示すブロック図を表している。
【0063】
図7に示すように、コントローラ50は、第1クラッチ故障検出部52に加えて、電磁クラッチ故障検出部としての第2クラッチ故障検出部53(図中破線部分参照)を設けており、この第2クラッチ故障検出部53によっても電磁クラッチ84の故障を検知するようにしている。第1クラッチ故障検出部52では、回転センサ96からのパルス信号に基づいてドラム92の回転を監視し、ドラム92の異常回転(逆回転や高速回転)を検知すると電磁クラッチ84が故障であると判定(メカ的故障検知)した。一方、第2クラッチ故障検出部53では、電磁クラッチ84に流れる電流を検出し、検出した検出電流の大きさに応じて電磁クラッチ84の電源線等が断線したり地絡したりしたことを判定し、これにより電磁クラッチ84が故障であると判定(電気的故障検知)する。
【0064】
第2クラッチ故障検出部53は、
図9に示すように、電磁クラッチ84に電気的に接続され、電磁クラッチ84の下流側には駆動回路53aが設けられている。電磁クラッチ84の上流側には電源53bが電気的に接続され、下流側の駆動回路53aは車両10(
図1参照)の車体53cに接地(アース)されている。また、電磁クラッチ84と電源53bとの間には、電流検出部材としてのシャント抵抗53dが設けられ、シャント抵抗53dには電流検知回路53eが電気的に接続されている。電流検知回路53eは、シャント抵抗53dを介して電磁クラッチ84に流れる実電流(検出電流)RIを検出するようになっている。
【0065】
第2クラッチ故障検出部53には、
図7に示すように、電磁クラッチ84を駆動するための指令電流OIが、駆動制御部51から入力されるようになっている。そして、第2クラッチ故障検出部53は、電流検知回路53eからの実電流RIの大きさと、駆動制御部51からの指令電流OIの大きさとを比較する比較処理を実行するようになっている。具体的には、実電流RIの比較対象となる指令電流OIは、所定の幅を有するよう設定、例えば±0.5mA等の幅を有するよう設定されており、この規定範囲内に実電流RIが入っていない場合には、第2クラッチ故障検出部53は、実電流RIと指令電流OIとが異なるとして、電磁クラッチ84が断線や地絡等、電気的は故障であると判定する。その後、第2クラッチ故障検出部53は駆動制御部51に故障検出信号fsを出力し、駆動制御部51は故障検出信号fsの入力に伴いラチェット機構93をロック状態とする制御を実行する。
【0066】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、本発明に係る電磁クラッチ故障検出部として、第1クラッチ故障検出部52および第2クラッチ故障検出部53の双方をコントローラ50に設けたものを示したが、本発明はこれに限らず、制御装置40の仕様等に応じて、第1クラッチ故障検出部52および第2クラッチ故障検出部53のうちの少なくともいずれか一方をコントローラ50に設けるようにしても良い。