(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794900
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】医薬液剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/51 20060101AFI20150928BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20150928BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20150928BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
A61K31/51
A61K47/24
A61K9/08
A61P3/02 105
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-256918(P2011-256918)
(22)【出願日】2011年11月25日
(65)【公開番号】特開2012-126714(P2012-126714A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-263066(P2010-263066)
(32)【優先日】2010年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153039
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真有
(74)【代理人】
【識別番号】100160462
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 有希子
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 泰貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正寿
【審査官】
加藤 文彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−306846(JP,A)
【文献】
特開昭64−063358(JP,A)
【文献】
特開2005−023008(JP,A)
【文献】
特開2002−322062(JP,A)
【文献】
特公昭48−010227(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/51
A61K 9/08
A61K 47/24
A61P 3/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イノシン酸またはその塩と、チアミン、チアミン硝化物、チアミン塩化物塩酸塩、ベンフォチアミン、またはフルスルチアミンとを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させたことを特徴とする、肉体疲労時のチアミン、チアミン硝化物、チアミン塩化物、ベンフォチアミン、またはフルスルチアミンの補給のための内服用医薬液剤組成物(ただし、銅化合物を含有する内服用医薬液剤組成物を除く)。
【請求項2】
イノシン酸またはその塩がイノシン−5’−リン酸またはその塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イノシン−5’−リン酸またはその塩が、イノシン−5’−リン酸ナトリウムである請求項2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運動などによる肉体疲労時には甘味の強い物が好まれることが経験的に知られ、特定濃度のアスコルビン酸で酸味を持たせた場合にも肉体疲労時の嗜好性が向上することが開示されている(特許文献1参照)。また、特定濃度のショ糖に、特定の有機酸を特定濃度にて添加した場合も肉体疲労時の嗜好性が向上した内服液剤が得られ(特許文献2参照)、ショ糖の0.15〜0.6モル濃度相当の甘味度を有する糖アルコール等を配合した液剤も嗜好性が良好であることが開示されている(特許文献3参照)。
【0003】
一方、グルタミン酸摂取がラットの水泳時間を延長すること(例えば、特許文献4参照)、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が運動負荷後の血中乳酸濃度を軽減すること(例えば、特許文献5参照)が開示され、アミノ酸に抗疲労作用のあることが知られている。なお、核酸の一種であるイノシン酸やグアニル酸は代表的な旨味物質としてよく知られており、これらは単独で使うよりも組み合わせた方が、旨味が一層増すことも知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、アミノ酸やビタミン類の抗疲労作用が、肉体疲労時における嗜好性に関与するかどうかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−93134号公報
【特許文献2】特開2000−333651号公報
【特許文献3】特開平11−171777号公報
【特許文献4】特開平4−164028号公報
【特許文献5】特開2006−16358号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】渡辺誠、「調味料[1]うま味調味料(2)」、食品と容器、2004、Vol.45 No.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肉体疲労時の栄養補給効能を有する内服用医薬液剤および/または肉体疲労回復効果を有する内服用医薬液剤組成物において、それらの嗜好性を向上させることは、当該効能および/または当該効果を高めることに繋がることから、合目的な手段となり得る。
【0008】
しかし、上述のアスコルビン酸を添加した液剤の安定性は不充分であるという課題があり、また、ショ糖を配合する場合には嗜好性は増すかもしれないが、カロリー過剰摂取という課題があった。そのため、アスコルビン酸やショ糖を含有せず、かつ、嗜好性(特に肉体疲労時)の高まる液剤組成物を実現することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イノシン酸またはその塩とビタミンB1またはその誘導体を配合した組成物が、疲労負荷前(平常時)の嗜好性が向上し、さらに驚くべきことに、肉体疲労時では嗜好性がさらに向上するという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に記すとおりである。
(1)イノシン酸またはその塩と、ビタミンB1またはその誘導体とを含有する、嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物、
(2)肉体疲労時における嗜好性を向上させた、上記(1)に記載の内服用医薬液剤組成物、
(3)ビタミンB1またはその誘導体が、チアミン、チアミン硝化物、チアミン塩化物塩酸塩、ベンフォチアミン、またはフルスルチアミンである上記(1)または(2)に記載の内服用医薬液剤組成物、
(4)イノシン酸またはその塩がイノシン−5’−リン酸またはその塩である、上記(1)〜(3)いずれか1つに記載の組成物、ならびに、
(5)イノシン−5’−リン酸またはその塩が、イノシン−5’−リン酸ナトリウムである上記(4)に記載の内服用医薬液剤組成物、
【発明の効果】
【0011】
本発明により、嗜好性を向上させた内服用医薬液剤が得られた。肉体疲労時の栄養補給および/または疲労回復効果を有する医薬液剤の嗜好性が向上すると、当該効能および/または当該効果をより一層高めることにも繋がるため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】肉体疲労前後のチアミン硝化物の単独投与、およびイノシン酸ナトリウム単独投与およびこれらを併用したものを投与した場合の嗜好性(運動負荷前(平常時)および運動負荷後)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に使用されるビタミンB1またはその誘導体としては、チアミン、チアミン硝化物、チアミン塩化物塩酸塩、ベンフォチアミン、フルスルチアミン等が挙げられる。チアミン硝化物およびチアミン塩化物塩酸塩は、第15改正日本薬局方に収載されており、ベンフォチアミンおよびフルスルチアミンは、日本薬局方外医薬品規格2002に収載されている。本発明においては、チアミン硝化物またはベンフォチアミンが好ましく、チアミン硝化物がより好ましい。
【0014】
本発明に使用されるイノシン酸とは、イノシンリン酸の総称であり、イノシン−2’−リン酸、イノシン−3’−リン酸またはイノシン−5’−リン酸をいう。好ましいイノシン酸はイノシン−5’−リン酸である。イノシン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられ、好ましくはナトリウム塩である。イノシン酸またはその塩は医薬品添加物事典2005などに収載されている。なお、本明細書においてイノシン−5’−リン酸ナトリウムのことをイノシン酸ナトリウム、5’−イノシン酸ナトリウムまたはIMPという場合がある。
【0015】
本発明の医薬液剤組成物中に添加されるビタミンB1またはその誘導体の添加濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.001〜10mM、さらに好ましくは0.005mM〜10mMである。また本発明の医薬液剤組成物中に添加されるイノシン酸またはその塩の添加濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.005〜10mM、さらに好ましくは0.05〜10mMである。
【0016】
本発明の内服用医薬液剤においては、本発明の効果を損なわない限り、内服用医薬液剤に使用される成分や添加物を、さらに添加することができる。例えば、ビタミンB2(リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン等)、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサル、ピリドキサミン及びこれらのリン酸又は塩酸塩等)、ビタミンB12(コバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン等)、ビタミンBT(カルニチン塩化物等)、ニコチン酸アミド等ビタミン類;グルタミン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン等のアミノ酸類、カフェイン、無水カフェイン等のカフェイン類、肉従蓉、枸杞子、大棗、黄精、刺五加等の生薬等が挙げられる。これらのうち、より好ましくは、グルタミン酸、ビタミンB2、ビタミンB6、あるいはニコチン酸アミドである。これら成分の配合量にも特に制限はなく、従来公知の量で含めることができる。
【0017】
また、本発明の組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、糖、糖アルコール、甘味料、ミネラル類、有機酸類、精油成分、溶解補助剤、pH調整剤、界面活性剤、保存剤、香料、着色剤、矯味剤等を含めることができる。
【0018】
本発明の組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、各成分を適量の精製水で溶解した後、pH調整し、次いで、残りの精製水を加えて容量調整をすることにより製造することができる。また、必要に応じて、濾過及び減菌処理をすることもできる。
【実施例】
【0019】
表1に記載の成分および分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0020】
【表1】
【0021】
表2に記載の成分および分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0022】
【表2】
【0023】
(試験例)
(1)被検物質
チアミン硝化物は和光純薬工業社製のものを、5’−イノシン酸ナトリウムは味の素(株)のものを使用した。
【0024】
(2)使用動物
ddY系雄性マウス5週齢を日本エスエルシー(株)から購入し、温度20〜26℃、湿度30〜70%、照明時間7時〜19時に制御された飼育室内でマウス用ポリカーボネート製ケージに入れ、市販のFR−2飼料(フナバシファーム製)を自由摂取させ3週間馴化させた。
【0025】
(3)試験方法
9週目に、実験は1ケージあたり3匹とし各群6ケージで行った。飲料用水として注射用水の入った給水瓶(コントロール群)と、注射用水に被検物質としてチアミン硝化物0.01mM(チアミン単独群)、イノシン酸ナトリウム0.5mM(イノシン酸単独群)、またはチアミン硝化物0.01mMとイノシン酸ナトリウム0.5mM(併用群)を添加した給水瓶、すなわち、2つの給水瓶をケージ中に設置した。4日間の各瓶の飲水量を測定し、次式によって嗜好率(%)を算出した。
【0026】
【数1】
【0027】
式中、「総飲水量」とは、試験中にマウスが飲んだ、注射用水の量と各被検物質を添加した注射用水の量を合計した値である。例えば、試験中、マウスが注射用水を50g、被検物質を添加した注射用水を30g飲んだ場合、嗜好率は、次のとおり算出される。
【0028】
【数2】
【0029】
11週目に該マウスを自動回転かご((有)永澤理化学機器店製)に入れ、2.4回転/分のスピードで毎日3時間1週間にわたり強制歩行させ、4日間の飲水量をもとに運動負荷後の嗜好率とした。
【0030】
(4)試験結果
コントロール群とイノシン酸単独群、コントロール群とチアミン単独群、およびコントロール群と併用群を用いた場合の、運動負荷前および運動負荷後の嗜好性に関する結果を
図1に示す。いずれも、各群18匹の平均値である。
図1の結果より、以下のことがわかった。
【0031】
イノシン酸単独群は、コントロール群よりも、嗜好率が低い傾向が認められた。また、運動負荷後においては、イノシン酸単独群水と、コントロール群の嗜好率は、ほぼ同等であった(
図1の水 vs IMP)。
【0032】
チアミン硝化物単独群とコントロール群の嗜好率は、ほぼ同等であった。この結果は、運動負荷後においても、変化は認められなかった(
図1の水 vs VB)。
【0033】
一方、併用群については、コントロール群よりも、嗜好率が高いことが認められた。運動負荷後において、併用群の嗜好率が、さらに高くなった(
図1の水 vs IMP+VB)。
【0034】
以上の結果から、平常時において、チアミン硝化物やイノシン酸ナトリウム各々単独で投与した場合には、嗜好率に影響はなかったにもかかわらず、チアミン硝化物およびイノシン酸ナトリウムを併用した場合には、嗜好性が向上することが認められた。さらに、運動負荷後の肉体疲労時において、チアミン硝化物およびイノシン酸ナトリウムを併用した場合の嗜好性は、さらに向上することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、通常時および肉体疲労時ともに嗜好性を高める内服用医薬液剤組成物を得ることができる。このことにより、通常時だけでなく、肉体疲労時の栄養補給が必要な場合に、例えば、嗜好性を向上させた飲み易いドリンク剤等を提供することができるので、有用である。