(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794914
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】逆イオントフォレシスのためのパッチ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20150928BHJP
A61B 5/1477 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
A61B5/00 N
A61B5/14 332
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-515599(P2011-515599)
(86)(22)【出願日】2009年7月1日
(65)【公表番号】特表2012-515563(P2012-515563A)
(43)【公表日】2012年7月12日
(86)【国際出願番号】GB2009001652
(87)【国際公開番号】WO2010001122
(87)【国際公開日】20100107
【審査請求日】2012年6月8日
(31)【優先権主張番号】0901188.3
(32)【優先日】2009年1月26日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514166595
【氏名又は名称】ダーマル ダイアグノスティックス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Dermal Diagnostics Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】チョウダーリー,デュワン,ファツルル,ホック
【審査官】
野田 洋平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−016489(JP,A)
【文献】
特開2006−068492(JP,A)
【文献】
特表2008−501037(JP,A)
【文献】
特開2008−183409(JP,A)
【文献】
実開昭62−197334(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/01
A61B 5/06−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚を通じて1以上の検体を採取するパッチであって、
患者の皮膚に隣接して位置する電極層(7)と、
電極層(7)を作動させて、逆イオントフォレシスによって、患者の皮膚を通じて検体を取り出させる手段(1)と、
電気伝導性媒質を収容する第1の貯蔵器(4)を含む貯蔵層(3)と、
電極層と皮膚との間の伝導性を高めるために、第1の貯蔵器(4)から皮膚に隣接する電極層(7)の表面への伝導性媒質の輸送を制御する手段(2)と、
患者の皮膚から取り出された検体を、検体が分析されるべき場所(13)に輸送する手段と、
を含み、
前記貯蔵器(4)からの伝導性媒質の輸送を制御する手段(2)は、制御刺激を受けて前記貯蔵層(3)を伸張および/または圧縮するように動作させ、それによって前記貯蔵器(4)に正の圧力を加えるアクチュエータ手段(2)を含むことを特徴とするパッチ。
【請求項2】
パッチを患者の皮膚に貼り付ける手段(6)をさらに含み、アクチュエータ手段(2)の動作は、皮膚の拡張および/または収縮も引き起こすことを特徴とする請求項1に記載のパッチ。
【請求項3】
貯蔵層(3)は、患者への経皮送達のための薬物を収容する第2の貯蔵器(4’)をさらに含み、第1の貯蔵層(4)からの伝導性媒質の輸送を制御する手段は、薬物を第2の貯蔵器(4’)から患者の皮膚に送達するためにも適していることを特徴とする請求項1または2に記載のパッチ。
【請求項4】
患者から採取された検体を分析するとともに、分析結果に基づいて患者への薬物の送達を制御する手段をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載のパッチ。
【請求項5】
検体を検体が分析されるべき場所に輸送する手段は、検体を患者の皮膚から検出チャンバ(13)に送達する少なくとも1つの導管(11)を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のパッチ。
【請求項6】
導管(11)を通る検体の流れを引き起こすために作動されてよい、導管(11)に隣接した、1つ以上のさらなる電極(7a,7b)を含むことを特徴とする請求項5に記載のパッチ。
【請求項7】
導管(11)は、電気伝導性媒質を予め充填されているか、または、電気伝導性材料で作製されていることを特徴とする請求項6に記載のパッチ。
【請求項8】
検体が導管を通る間に検体をろ過する手段(14)をさらに含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のパッチ。
【請求項9】
伝導性媒質は液体電解質であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のパッチ。
【請求項10】
少なくとも2つの部分で形成され、これらの部分の1つは、交換のために、パッチから離脱可能であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のパッチ。
【請求項11】
離脱可能な部分は第1の貯蔵器(4)を含むことを特徴とする請求項10に記載のパッチ。
【請求項12】
離脱可能な部分は電源を含むことを特徴とする請求項10に記載のパッチ。
【請求項13】
患者の皮膚を通じて1以上の検体を採取するためのパッチの作動方法であって、
アクチュエータ手段(2)を動作させて、パッチの第1の貯蔵層(3)を伸張および/または圧縮し、それによって貯蔵器(4)に正の圧力を加え、貯蔵器(4)から電気伝導性媒質を出させるステップと、
電極層と皮膚との間の伝導性を高めるために、電気伝導性媒質を皮膚に隣接する電極層(7)の表面に輸送するステップと、
電極層(7)を作動させて、逆イオントフォレシスによって、患者の皮膚を通じて検体を取り出させるステップと、
患者の皮膚から取り出された検体を、検体が分析されるべき場所(13)に輸送するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
アクチュエータ手段(2)を動作させるステップは、パッチが貼り付けられた患者の皮膚の領域を、引き伸ばす作用があることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
検体を検体が分析されるべき場所(13)に輸送するステップは、導管(11)を通して検体を検出チャンバ(13)に送達することを含むことを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
パッチの第2の貯蔵器(4’)から患者の皮膚に薬物を送達するステップをさらに含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
電極層(7)を作動させて、順イオントフォレシスによって薬物を患者の皮膚内に押し遣るステップをさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
患者への薬物の送達は、パッチを介して患者から取り出した検体の分析に応じて行われることを特徴とする請求項16または17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の皮膚に適用して、分析のための皮膚内の液体の構成成分を、逆イオントフォレシスの技術によって皮膚を通して取り出すことが可能なパッチに関する。本発明はまた、逆イオントフォレシスのためのパッチおよび患者への薬物の経皮送達のためのパッチの双方に使用するのに好適な、アクチュエータ機構に関する。さらに、本発明は、前記検体の分析の感度、信頼度および精度を向上させる機構に関する。
【0002】
「薬物」の用語は、本明細書では、治療的であると否とを問わず、患者の血流中に送達する必要のある、たとえば薬理物質、ワクチンおよびたんぱくなどの、生物学的に活性なあらゆる物質を指す。患者は、ヒトでも動物でもよい。
【背景技術】
【0003】
イオントフォレシスの技術は、患者の皮膚を通じた薬物の送達に関して知られている。一対の電極が皮膚に適用され、そのうちの1つが、帯電した薬物の分子をはじいて、皮膚の孔を通して患者の体内に押し遣るために、使用される。分析のために、間質液のイオン、分子または他の成分を皮膚外に取り出すために、上記過程を逆に作動させることも知られている。間質液は、細胞外空間における細胞間に見出される液であり、その主たる構成成分は、水、アミノ酸、糖、脂肪酸、補酵素、ホルモン、神経伝達物質、薬物(患者に投与されたもの)、塩および細胞からの老廃物である。間質液は、赤血球が存在せず、存在するたんぱくが遥かに少ないという点で、全血と相違する。
【0004】
糖尿病を患っている人のグルコースレベルをチェックする目的で、周期的な間隔で間質液から検体を取り出すGlucowatch(登録商標)装置などの装置が知られている(GlucowatchはCygnus社の登録商標である)。Glucowatch(登録商標)装置は、皮膚からグルコースなどの検体を取り出すために、逆イオントフォレシスの過程を使用する。検体は、ゲルパッド上に取り出され、そこからグルコース酸化酵素と反応させられて、過酸化水素を形成し、その濃度が電気化学的に測定される。Cygnus社に譲渡されている米国特許第6391643号に記載されているように、ゲルパッドは、患者の皮膚への装置の適用の前には、ライナーシートによってイオントフォレシス電極から分離されてよい。皮膚から取り出されたグルコースの濃度は、間質液に存在するグルコースの濃度の千分の1程度の範囲にあり、したがって、非常に感度のよいアッセイ/検出方法および実質的にゲルパッドの全面積にわたるセンサを必要とする。皮膚の湿気または汗は装置を誤作動させ、皮膚への装置の適用後グルコースレベルの測定までに、2時間というウォームアップ期間が必要になる。Glucowatch(登録商標)装置は、通常、腕時計の態様で患者の手首にストラップで取り付けられ、特に、身体と皮膚の外形の自然な動きのために、ゲルパッドと皮膚との接触の損失、ならびに伝導性およびイオントフォレシス可動性の損失が、しばしば生じる。さらに、電気遊走(つまり電動力によって駆動される検体の動き)は、ゲルなどの高粘性媒質中では液体媒質に比べてより高い抵抗を有し、したがって、皮膚内からセンサへの分子の駆動のために、より大きな電位差または電流の印加期間の増大の必要性を招く。また、検体がゲルパッド上に収集される場所で使用されるセンサ技術の限界もあり、何らかの特定の領域における検出のために検体をさらに濃縮することに関する、センサの日常的な較正を必要とする問題もある。この場合、装置を皮膚から外すごとに(つまり、皮膚との接触が失われるごとに)、自動センサを破棄して、新たなものに取り替えなければならない。装置は、また、非常に寒い天候に影響され、皮膚炎を起こしがちである(全ユーザの25%にまで皮膚炎を起こしたと報告されている)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、患者の皮膚を通じて1以上の検体を採取するパッチであって、
患者の皮膚に隣接して位置する電極層と、
電極層を作動させて、逆イオントフォレシスによって、患者の皮膚を通じて検体を取り出させる手段と、
液体電解質などの電気伝導性媒質を収容する第1の貯蔵器と、
電極層と皮膚との間の伝導性を高めるために、第1の貯蔵器から皮膚に隣接する電極層の表面への伝導性媒質の輸送を制御する手段と、
患者の皮膚から取り出された検体を、検体が分析されるべき場所に輸送する手段とを含むパッチを提供する。
【0006】
伝導性媒質は、好ましくは液体電解質である。貯蔵器からの伝導性媒質の輸送を制御する手段は、貯蔵器から下流の流路に負の圧力を加える手段、または、貯蔵器そのものに正の圧力を加える手段のどちらを含んでもよい。正の圧力を加える手段は、制御刺激を受けて貯蔵器を伸張および/または圧縮するように動作するアクチュエータ手段を含み得る。パッチが患者の皮膚に貼り付けられているとき、アクチュエータ手段の動作は、皮膚の拡張も引き起こして、皮膚を通じての検体の輸送を高める。
【0007】
検体が分析されるべき場所に検体を輸送する手段は、単に、皮膚に隣接する採取チャンバの領域における検体の濃度を高めるだけでもよいが、好ましくは、別個のセンサチャンバに検体を送達するための導管を含む。これは、好ましくは、採取チャンバからの液の全体的な移動を伴うものではなく、むしろ、対象とする検体分子またはイオンの液を通じての選択的な輸送である。限られた場所における検体の濃縮は、それらを検出するセンサの能力を大きく高める。
【0008】
本発明に従うパッチは、さらに、患者への経皮送達のための薬物を収容する第2の貯蔵器を含んでよく、この場合、第1の貯蔵器から電解質液を制御的に送達する手段は、薬物を第2の貯蔵器から患者の皮膚に送達するためにも適している。薬物の送達は、パッチによって患者から取り出された検体の分析結果に基づいて、自動的に制御されてよい。
【0009】
本発明は、さらに、患者の皮膚を通じて1以上の検体を採取する方法であって、
パッチの電極層が患者の皮膚に隣接するように、パッチを位置させるステップと、
電極層と皮膚との間の伝導性を高めるために、電気伝導性媒質をパッチの第1の貯蔵器から皮膚に隣接する電極層の表面に輸送するステップと、
電極層を作動させて、逆イオントフォレシスによって、患者の皮膚を通じて検体を取り出させるステップと、
患者の皮膚から取り出された検体を、検体が分析されるべき場所において濃縮するステップとを含む方法を提供する。
【0010】
本発明は、さらに、形状記憶合金から形成された概して平面状のメッシュを含む、経皮パッチのためのアクチュエータを提供する。
【0011】
アクチュエータのメッシュは、アクチュエータの長手に沿って延在するジグザグ状のワイヤと、隣接するジグザグ状のワイヤを結合する架橋ワイヤとを含んでもよい。好ましくは、架橋ワイヤは直線状でない。
【0012】
アクチュエータは、ニッケル−チタン合金などの形状記憶合金のシートから切り出してよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】本発明に従う逆イオントフォレシスパッチの、弛緩状態における模式的断面図である。
【
図1b】本発明に従う逆イオントフォレシスパッチの、活動状態における模式的断面図である。
【
図2a】本発明に従う逆イオントフォレシスパッチの単一の貯蔵器の、弛緩状態における模式的断面図である。
【
図2b】本発明に従う逆イオントフォレシスパッチの単一の貯蔵器の、活動状態における模式的断面図である。
【
図2c】
図2aおよび
図2bに類似の模式的断面図であり、検体収集のための代替手段の詳細を示す図である。
【
図2d】
図2aおよび
図2bに類似の模式的断面図であり、検体収集のための代替手段の詳細を示す図である。
【
図3】形状記憶合金から形成された本発明に従うアクチュエータの図である。
【
図4】形状記憶合金から形成された本発明に従う代替のアクチュエータの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1aおよび
図1bは、逆イオントフォレシスのためのパッチの小部分の断面を模式的に示している。個々の層の相対的な厚さは、一定の比率では表されていない。実際には、パッチの面積は数平方センチメートルであり、その厚さは数ミリメートル以下であり、したがって、パッチは患者の皮膚に応じて撓むに足るだけ柔軟である。
【0015】
パッチは、患者の皮膚に送達する1以上の液体を収容する一連のチャンバ4から成る貯蔵層3を含んでいる。以下に説明するように、液体は薬物または電解質溶液を含んでよい。貯蔵層3は柔軟であり、その下面は弾性膜5によって制限されており、弾性膜5には、液体が通って貯蔵器チャンバ4から皮膚へと流れ得る孔8があけられている。接着層6が、パッチを患者の皮膚に離脱可能に接着する。接着層6は、概して液体を浸透させ得るか、図示したように、弾性層5の孔8と位置が揃った孔を有してよい。
【0016】
貯蔵層3の上面は、アクチュエータ層2に取り付けられており、このアクチュエータ層2は、通常、微小電気機械(MEMS)装置として形成される。アクチュエータ層2は、パッチ用の微小電子制御回路を含む上部制御層1に取り付けられている。パッチは、患者から取り出された液のための分析チャンバ13(
図2には示されているが、
図1には示されていない)を含んでおり、この分析チャンバ13は、関連するセンサおよび処理装置と共に、制御層1内に位置してもよい。検体のための導管11が、パッチを厚さ方向に貫通して、皮膚対向表面から分析チャンバ13に達している。
【0017】
患者の皮膚に隣接するパッチの表面には、電極7が形成されている。電極7は、銀、塩化銀、カーボンナノチューブまたは他の適当な材料の薄膜として、たとえばインクジェット技術を使用して、弾性層5の高分子膜に印刷することによって、形成してよい。電極は、逆イオントフォレシスに適するアノードおよびカソードのアレイを形成するパターンとされている。電極を通じて適切な電圧および電流を皮膚に印加することによって、間質液の成分は患者の皮膚から取り出されて、分析のために導管11を通ってチャンバ13に入れられる。パッチは、このように、患者の間質液/皮膚中の指標物質のレベルの、連続的なまたは断続的な監視に適している。
【0018】
微小電子層1の制御下でのパッチのアクチュエータ2の動作は、パッチに拡張と弛緩とを交互に起こさせる。一方、これは、貯蔵層3、弾性膜5、およびパッチが貼り付けられた患者の皮膚の領域を交互に拡張および弛緩させる。皮膚の表面層−角質層−の伸張は、皮膚表面の障害を破壊する結果となり、汗孔および毛嚢などの孔の伸張は、孔径を増大させる結果となって、パッチ内への間質液の皮膚を通じた輸送を増進する。
【0019】
本発明に従えば、貯蔵チャンバ4の少なくともいくつかは、電気伝導性媒質(以下、「電解質」という)を収容しており、文献に記載されているように、イオントフォレシスの過程を引き起こすために必要な緩衝化塩溶液を含んでもよい。貯蔵層3を拡張するアクチュエータの動作は、−典型的には、貯蔵チャンバ4を1つの次元において伸張させ、その他の次元においては圧縮することによって−、貯蔵チャンバ4を変形させる効果を有し、したがって、それらの体積が減少して、電解質が強制的にチャンバ4から出され、弾性膜5の孔8を通って患者の皮膚に向けられる。特に
図2に示したように、弾性膜5は、電極7と患者の皮膚との間に、電解質が流れ込み得る空洞9を形成する形状としてよい。液体状の電解質の存在は、電極と皮膚との間の良好な伝導性を確保し、これが、逆イオントフォレシス過程の有効性を高める。Glucowatch(登録商標)装置などの既存のシステムに関する前述のすべての問題は、本発明によって克服される。皮膚炎が低下することで高い安全性が達成され、伝導性媒質の液体としての性質(低粘性)のおかげで、身体の突然の動きによる電気的接触の損失がなくなることが、このシステムをより信頼性の高いものにしている。皮膚との接触の損失が生じた場合、過剰の液が皮膚および再適用された装置から取り除かれ、伝導性媒質を放出して皮膚と電気的に接触させるように作動される新たな貯蔵器(適切な微笑電子的制御プログラムに基づく)のおかげで、動作は継続され得る。皮膚炎は、ヒトおよび動物において皮膚炎を抑制することが知られている物質を伝導性媒質中に使用することによって、さらに低減され得る。これらの物質には、アルカリ金属塩基、アロエベラ、カモミレ、アルファ−ビスアボロール、コラニチダエキス、緑茶エキス、ティーツリーオイル、カンゾウエキス、アラントイン、尿素、カフェインまたは他のキサンチン類、グリシリジン酸およびその誘導体および2価カチオンストロンチウム、抗ヒスタミン物質、ならびに、他の抗痒剤などが含まれる。
【0020】
皮膚から取り出される検体の量も、伝導性媒質中に皮膚浸透増強剤を入れることによって、さらに高め得る。浸透増強剤は、局所製剤および経皮製剤において、皮膚の障害特性を壊して、皮膚を通じての活性剤の送達を増進させる目的で使用されている。これらのうちのいくつかは、皮膚の上層である角質層の局所的膨潤および破壊を引き起こす。これらは、逆イオントフォレシスに関連して使用されるパッチへの皮膚からの検体の移動の抵抗を低下させるために、伝導性媒質と相乗的態様で使用してもよい。皮膚浸透増強剤は非常に広範囲にわたり、界面活性剤ならびに小胞およびナノ微粒子のほか、精油およびアルコールを含み、文献に詳述されている。
【0021】
液体を置いて電気的接触を達成する能力は、検体収集チャンバの下流に位置するセンサに液が直接送達されることを可能にし、したがって、コスト、および液取り出し機構の要素の近傍にセンサを一体化することに関連する信頼性の問題を低減する。検体は、分析およびデータ処理のために、チャンバ13内に、さらにはパッチ内に、たとえば微小電子層1の隣に、取り込まれてよく、これでより容易で安い製品製造が可能になる。検出のための採取処理は、この技術を使用することで向上する。
図2cは、電極チャンバと検出チャンバ13に達する導管11との間のスクリーン、フィルタまたは膜14、つまり、大きさまたは表面特性によってフィルタリングする手段を示している。これによって、分析すべきサンプルからあらゆる障害物が除去されて、分析サンプルの純度が向上する。導管11は、
図2dに示すように、大きくされて追加の電極7aおよび7bが挿入されてよく、これらの電極は、刺激を受けて、検体を採取チャンバから検出チャンバに移動させて、検出用センサの近傍における検体の濃度を高める。導管11は、適度な粘度と伝導度を有する伝導性媒質で予め満たされてよく、これによって、採取チャンバ9から検出チャンバ13への検体の選択的な移動が可能になり、システムの信頼性および頑健性がさらに向上する。作動機構、イオントフォレシスおよび導管内の液の組み合わせは、読み取りと読み取りの間にセンサを洗浄するために、あるいは、読み取りの合間ごとに検体をセンサの別の領域に輸送するために、使用してもよい。
【0022】
検出チャンバ13に達する単一の導管11の代わりに、イオンのイオントフォレシス移動を確実にするように設計された多数の微細導管を備えてもよい。浸透効果の結果、グルコースなどの中性分子も導管11内を運搬されることになって、採取チャンバ9から検出チャンバ13まで濃度勾配が生じる。
【0023】
電極7,7a,7bは、銀、塩化銀、白金などの一般に入手可能ないかなる電極材料で形成してもよく、カーボンナノチューブから製造された電極を用いてもよい。好適なセンサは、アミノ酸、糖、脂肪酸、補酵素、ホルモン、神経伝達物質および薬物などの任意の数の検体の検出のために、統合されていてよい。
【0024】
この多目的高機能検出手段は、血中グルコース監視に加えて、尿素(慢性腎疾患の診断のため)および血中乳酸塩(救急患者のため)などのいくつかの潜在的な検体の検出を容易にするであろう。
【0025】
貯蔵層3は、各々の直径が10mmに達する多数の大きいチャンバ4を含んでいてもよいし、各々の直径が数マイクロメートルの数百の小さいチャンバ4を含んでいてもよい。アクチュエータ2は区画に分割されてよく、その場合、微小電子層1の制御の下で、個々のチャンバ4または一群のチャンバ4の選択的な作動が可能である。
図1bにおいては、矢印10で示されているように、チャンバ4の1つのみが拡張しつつある。貯蔵チャンバ24の構成材料は高分子でよく、たとえば、Rhm GmbHによって販売されている製薬高分子のEudragit(登録商標)類、アクリル酸架橋高分子、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、シリコーン、ポリウレタン、および互換性があると考えられる他の高分子材料がある。
【0026】
図2に示すように、各チャンバ4は、弾性膜5を貫通する単一のまたは複数の孔8と流体連通してよい。これらの孔は、材料の除去を伴ってあるいは伴わずに形成してよく、後者は、サブミクロンからミリメートルにわたる直径の貯蔵器の、保管時のおよび適用に際しての作動前の、貯蔵器からの漏れを防止する。すべての経皮システムは一般に、特にパッチが薬物含有経皮パッチである場合、保管の援助として、およびパッチの保護のために、製造中に付された裏打ち層を有している。裏打ち層は、皮膚に貼り付くパッチの面を基本的に密閉し、ポリプロピレンおよび紙/厚紙をはじめとする様々な材料が一般に使用されている。ここでは、パッチ内の溶液をはじいてより頑健なシールを提供する表面特性を有する、ゼラチン状組成物の裏打ち層の使用を提案する。これらの材料はパッチに強固に接着し、しかも、除去後にゲルの残存物を生じることなく容易に除去することが可能である。このような裏打ち層の材料には、シリコーンゲルおよびハイドロゲルが含まれる。
【0027】
貯蔵チャンバ4のいくつかは、電解質溶液の代わりに、国際公開第2005/120471号に記載されているように、アクチュエータ2の制御の下でプログラムされた養生法に従って皮膚の表面に直接送達されるべき薬物製剤を収容してもよい。養生法は、患者中心的または時間治療的でよく、あるいは、自己調節フィードバック/薬物放出を有する組み込みの非侵襲的診断監視機構に基づいてよく、すなわち、チャンバ13に導かれた患者の間質液の分析は、貯蔵器から送達される薬物の量およびタイミングの決定に使用してよい。利用可能な技術に基づくフィードバック機構は、患者データの中央システム/コンピュータへの遠隔フィードバックを可能にするように、統合され最適化されてよい。上記特徴は、組合せで、診断および治療のための完全に統合された頑健なシステムを提供する。明らかに、この配置では、アクチュエータ2は、電解質収容チャンバ4上および薬物収容チャンバ4上で独立に動作することが可能でなければならないが、両者に共通の機構を使用してよい。薬物は、前述の説明とは逆の意味で、順イオントフォレシスによって薬物分子を皮膚内に押し遣るために電極7が使用できるように、伝導性媒質によって搬送してよい。
【0028】
図2aおよび
図2bに示すように、患者からの検体の取り出しおよび分析チャンバ13への検体の送達を増進するために、マイクロポンプまたは他の吸引機構12が導管11の各々に設置されてよい。これに代えて、分析チャンバ13への液の取り出しを援助するために、低圧源(不図示)−パッチの内部あるいは外部−が、分析チャンバ13の各々に接続されてもよい。
【0029】
同様に、チャンバ4からの液(電解質または薬物)の取り出しを援助するために、低圧源が弾性層5の孔8に接続されてよい。本発明は、貯蔵チャンバ4からの液の輸送の制御のために、この態様での相対圧の制御が唯一の手段である実施形態、つまり、貯蔵層を拡張または圧縮するアクチュエータの配備が必要でない実施形態を包含する。
【0030】
パッチが単一の不可分ユニットとして提供される必要はない。パッチは、パッチのある部分が再使用され他の部分が交換されるのを可能にするために、2以上の着脱可能な部分を含んでもよい。たとえば、アクチュエータは、貯蔵層と一体でよいが、微小電子制御回路および電源からは離脱可能でよく、これにより、電源は、電池切れのとき、パッチ全体を交換することなく、交換することができる。これに代えて、微小電子制御回路はアクチュエータと一体とすることも可能であり、この場合、電源のみの交換が必要である。さらにまた、貯蔵層は、制御回路および電源と一体のアクチュエータから離脱可能でよく、これにより、貯蔵器中の薬物の供給が尽きたときに、引き続き機能し得る微小電子制御回路を処分することなく、(貯蔵器と導管とを適切に位置揃えして)貯蔵器を交換することができる。
【0031】
図3は、
図1および
図2に示したものなどのパッチ内の貯蔵層3を拡張することが可能な、本発明に従うアクチュエータの例を示している。図示したアクチュエータは、形状記憶合金のシートから一部品の形態で形成されている。
【0032】
形状記憶合金(SMA)は、それぞれマルテンサイト構造およびオーステナイト構造として知られている低対称結晶構造から高対称結晶構造への温度依存性相変態のおかげで、その形状を記憶する物質である。SMAには3つの主要なタイプがあり、それらは、銅−亜鉛−アルミニウム、アルミニウム−ニッケル、およびニッケル−チタンである。後者は、優れた機械的特性を有している。SMAの最大の利点は、低電圧を必要とするだけで、大きな力と迅速な変位の両方を生成する能力である。主な不都合は、低いエネルギ効率と大きなヒステリシスである。しかしながら、システムは理想的には低速での数十〜数百ミクロンの横方向の移動を要求するので、この応用の目的のためには、大きな変異および力という利点が低エネルギ効率および本来的ヒステリシスを上回る。
【0033】
SMAは、その物理的および機械的特性のために、この特定の応用に最も適していると考えられる。ニッケル−チタンは、そのより優れた機械的特性のため、好ましい選択肢であり、必要な横方向の変位を生成するために適切な形状のメッシュの形態で使用してよい。
【0034】
次の特性を有するニッケル−チタン(ニチノール)形状記憶合金ワイヤが得られた:
【0035】
このワイヤにベンチトップ電源を使用して電流を流して、Eudragit NE 30D アクリルポリマから生産された高分子膜の約0.7mmの厚さで6cm×3cmの区画に、約5%の張りを生じるようにワイヤを作動させた。電圧は、手持ち式のデジタル電圧計を用いて測定した。ワイヤの温度も、高分子がバイアス電圧の除去によって元の長さに戻るのに要する時間である遷移時間と共に、記録した。結果を以下に示す:
【0036】
上記の結果に基づき、さらなる試験のために、必要な電力が中程度であり引張り力が適当であるので、太さ101.6μmのニチノールワイヤを選択した。理論的には、これらのどの太さもここでの目的に適するであろう。動作温度がヒトの体温(37℃)と同程度であることが判り、したがって、患者の皮膚に密接させて適用しても、心地悪くはないであろう。
【0037】
SMAワイヤに基づいて、いくつかの図案を描いた。SMAワイヤを屈曲させて蛇行形状を創生することで、SMAの張り効果を大幅に高めることができた。試験は、このやり方で充分な張りおよび力が達成されることを、示した。計算は、SMAをレバーアレイにすることで、変位がパッチの要求に合致する値にまで拡大されることを、示した。
【0038】
SMAから生成される張りを最大にするために、既知の蛇行形状を利用することにした。SMAアクチュエータを、個別のワイヤから作り上げるのではなく、工業的標準の処理を使用してSMAの単一のシートから切り出した、概して平面状のメッシュとして形成することにした。カメラおよびアナログ時計などの装置の微小な部品の大量生産のために、レーザ切断または化学エッチングの処理が使用されている。この処理は、数百ミクロンからセンチメートルまでの大きさの耐久性の高い、数万の部品を生産することが可能である。
【0039】
本計画に使用されるこの処理は、商業化のために必要であろう多数回の生産のために、比較的直線的にスケールアップすることができるという利点を有している。
【0040】
処理経路−化学エッチングおよびレーザ切断−が、必要な構造を提供するための経路として調査された。両経路共に成功であったが、レーザ加工の方が、形成される構造のスケールでは、より優れた仕上がりを与えた。レーザ加工は、化学エッチングよりもコストがかかる。化学エッチングの方が、より薄いSMAシートを用いて提供されるより小さな構造を必要とする状況では、より実用的かもしれない。
【0041】
図3は、ニチトール形状記憶合金のシートからレーザ切断によって形成されたアクチュエータの図である。このアクチュエータは、約2cm×3cmの大きさで、その両端に1対の非切断バー20を有する長方形の一般形状を有し、非切断バー20間に、相互接続されたワイヤのメッシュが延在し、ワイヤ間に孔が存在する。メッシュは、バー20間でアクチュエータの長手に沿って延在する4本のジグザク状のつまり蛇行したワイヤ22と理解することができる。この例では、ジグザグの頂−頂間の波長が、頂−谷間で測定したジグザグの振幅にほぼ等しい。4本のジグザク状ワイヤ22は、1本のワイヤの頂が近隣のワイヤの谷に隣接するように、相互に位置付けされている。個々のジグザグ状ワイヤ22の隣接する頂および谷の各対の間に、架橋ワイヤ24が延在している。架橋ワイヤ24は屈曲し、つまり曲がっている。この例では、架橋ワイヤの全ての屈曲は同じ方向を向いており、架橋ワイヤ24の屈曲の角度は、ジグザグ状ワイヤ22の屈曲の角度にほぼ等しい。
【0042】
使用に際しては、それぞれの端バー20に電源を接続することによって、アクチュエータ全体にわたって電圧が印加される。電流がメッシュのワイヤを流れて、ワイヤを抵抗加熱し、これがSMAにその遷移温度を超えさせて、メッシュの形状を変化させる。ジグザグ状ワイヤ22の形状がその変化を拡大して、アクチュエータの長さの増大が支配的な結果になるようにする。架橋ワイヤ24の主たる目的は、個々のジグザグ状ワイヤ22の相互の配置を保ち、ジグザグ状ワイヤ22が変形してメッシュの平面から逸脱するのを防止することである。
【0043】
この装置を使用して、66%に達する低温(マルテンサイト形)歪みを失敗なく達成することができた。このSMA構造は、また、低温相から高温相に活性化するときに、少なくとも4.25Nの力を発生することが可能であった。
【0044】
アクチュエータを加熱するための代替の方法は、化学的な手段、たとえば発熱酸化反応、によることであろう。
【0045】
メッシュは、同様の結果を達成する他の様々な形状を有するように、形成されてよいことが理解されよう。また、メッシュの同様の形状は、レーザ切断、エッチングまたはスタンピングによってシートから生成することに代えて、SMAワイヤの房を結合しまたは絡ませることによって生成し得ることも、理解されよう。
【0046】
図4は、形状記憶合金の個別のワイヤ30から形成したアクチュエータ試作品を示す。
6本のアクチュエータワイヤ30の各々は、2つの端バー32間に、曲がりくねったつまりジグザグの形状で延びている。示した例では、各端バー32は、柔軟な制御ワイヤ34に取り付けられており、制御ワイヤ34が適切な制御エレクトロニクス(不図示)への接続を可能にする。実際のパッチにおいては、制御ワイヤ34は、形態を変えてプリント回路基板の一部として実現することが可能であろう。ワイヤ30の1本に電流が印加されると、そのワイヤは遷移温度よりも高く熱せられ、その形態が変化してワイヤの全長(つまり、端バー32間の直線距離)が増大する。ジグザグ状アクチュエータワイヤ30の各々は、その変形が束縛されて装置の平面内に留まるように、概して平坦なポーチに収容される。
【0047】
適切な制御エレクトロニクスを備えることで、ワイヤ30の各々は、装置の隣接層内の対応する貯蔵器(
図4には示していない)の1つ以上を、選択的に変形させるように個別に加熱され得ることが、理解されよう。
【0048】
さらに、アクチュエータとして形状記憶合金が使用される場合、形状記憶合金は、絶縁されてよく、てこを成し、パッチの本体が歪みにより座屈するのを防止するように、剛性フレームに固定されてもよいことが、理解されよう。