【0017】
また、このコンピュータ4には、例えば
図2に示すような、過去の発生した多数の地震について、それぞれの
マグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、各々の地震時に例えば
図3に示す複数の観測地点で得られた固有周期及び応答値のデータを格納したデータベース5が接続されている。さらに、このデータベース5には、各々の観測地点における堆積層厚の情報が格納されている。ちなみに、当該堆積層厚の情報は、例えば
図3に見られるように、インターネット上の防災科学技術研究所・地震ハザードステーション(J−SHIS)のサイトにおいて、上記観測地点を含む地域の基盤深度分布として公開されており、当該データを簡便に用いることができる。
【実施例】
【0026】
本発明の作用効果を検証するために、以下の解析を行った。
先ず、
図2に示すような2003年5月〜2011年8月の間に発生したマグニチュード(M)5.0以上の地震のデータと、各々の地震について、
図3に示す関東平野の観測地点で観測された地震記録のデータを収集するとともに、
図3に示す防災科学研究所・地震ハザードステーション(J−SHIS)によって公開されている基盤深度分布から各観測地点の堆積層厚を得た。この際に、上記期間中に発生したM5以上の地震であっても、記録が十分に得られていないものやノイズが混入したものは除外した。
【0027】
次いで、上記地震記録のデータのうちから、
図2に示した紀伊半島南東沖M7.4の地震と駿河湾M6.5の地震について、堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された地震記録と、堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された地震記録とを抽出し、それぞれ応答値(5%擬似変位応答スペクトル)を求めた。
【0028】
図4(a)は、堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、
図4(b)は、堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値をそれぞれ示すものである。なお、いずれも横軸は固有周期であり、縦軸は変位応答スペクトルの値である。これらの図から、堆積層厚が大きいほど、振幅値が大きく、特に関東平野において卓越するといわれている7秒前後の長周期における振幅が大きくなっていることが判る。
【0029】
そこで次に、関東平野において卓越する周期を6〜8秒とし、当該固有周期の範囲内において応答値(ここでは変位量)の設定値を3cm(例えば、新宿の超高層建物においてエレベータが停止する際の頂部の最大変位量)とし、地震記録から求めた擬似変位応答スペクトル(擬似速度応答スペクトルに周期/2πを乗じた値)が3cmを超えるものを第1の応答値データ群とし、3cmに満たないものを第2の応答値データ群として区分した。
【0030】
なお、本実施形態においては、応答値として、上記のように擬似変位応答スペクトルの値を用いた場合について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、擬似速度、加速度応答スペクトル等の当該建物の応答値や、当該建物の入力となる観測された加速度、速度、変位の最大値を応答値として用いることも可能である。なお、観測された値を用いる場合は、固有周期の情報は必ずしも必要としない。
【0031】
図5は、
図4(a)に示した堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3軸とする座標空間において該当する地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離の位置にプロットしたものであり、図中上記第1の応答値データ群のデータは丸印で、第2の応答値データ群のデータは四角印で示してある。
【0032】
また、
図6は、同様に
図4(b)に示した堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3軸とする座標空間において該当する地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離の位置にプロットしたものであり、図中上記第1の応答値データ群のデータは丸印で、第2の応答値データ群のデータは四角印で示してある。
【0033】
図5と
図6を比較すると、
図6に示した堆積層厚が大きな観測地点の方が、第1の応答値データ群に分類された応答値のデータが、より広い範囲に分布している、並びに地震のマグニチュードが大きい程、また震源深さが浅い程、長周期地震動が到来する傾向にあることが判る。
【0034】
また、これらの図から、上記第1の応答値データ群と、第2の応答値データ群との境界となる面(以下、判定面と称す。)を定めることができることも判明した。
そこで、
図5及び
図6に示すように、各々の場合について、当該判定面を求めた。この判定面は、本実施例においては
図5及び
図6に示すように平面を用いたが、要請される精度によっては曲面を用いてもよい。ちなみに、当該判定面は、重回帰分析、サポートベクターマシンによる判別等の手法によって求めることができる。
【0035】
以上のことから、大地震が発生した際に、例えば
図1に示した建物1に、この建物1の用途や構造等に対応して設定した値を超える応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定する場合には、先ず受信手段2、3によって緊急地震速報としてマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータを受信する。
【0036】
そして、上記建物1の地盤の堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である場合には、上記緊急地震速報で得られたデータが、
図5に示す判定面に対して第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する。また、上記建物1の地盤の堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である場合には、上記緊急地震速報で得られたデータが、
図6に示す判定面に対して第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する。
【0037】
そして、いずれの場合も、上記緊急地震速報で得られたデータが、第1の応答値データ群の側に位置すると判断された場合に、建物1に上記設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来すると判定することができる。