特許第5794930号(P5794930)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5794930長周期地震動の到来判定方法及び到来判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794930
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】長周期地震動の到来判定方法及び到来判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   G01V1/28
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-39840(P2012-39840)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-174529(P2013-174529A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096862
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 千春
(72)【発明者】
【氏名】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】高木 政美
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−091480(JP,A)
【文献】 特開2011−043511(JP,A)
【文献】 特表2005−538277(JP,A)
【文献】 佐藤 智美 他,”長周期応答スペクトルの地盤増幅率の経験的予測式とその理論的解釈”,日本建築学会構造系論文集 第76巻 第669号,2011年11月,1905〜1914頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/28
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大地震が発生した際に、予測場所に設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定する方法であって、
過去の地震におけるマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、当該地震時に複数の観測地点における地震記録で得た固有周期および応答値のデータと、上記観測地点における堆積層厚のデータとから、予め上記予測場所における堆積層厚を含む一定の範囲内の堆積層厚を有する上記観測地点の上記地震記録から上記固有周期および応答値を抽出または算出し、得られた上記固有周期および応答値のうちから上記予想場所である構造物の固有周期を含む一定の範囲内の上記固有周期における上記応答値を抽出して、上記設定値を超える第1の応答値データ群と、当該設定値に満たない第2の応答値データ群とに分類するとともに、これらの境界面を上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする判定面として設定し、
地震発生時に、緊急地震速報によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータが、上記判定面に対して上記第1の応答値データ群側に位置する時に、上記予測場所に上記設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来すると判定することを特徴とする長周期地震動の到来判定方法。
【請求項2】
大地震が発生した際に、予測場所の構造物に設定値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定するシステムであって、
地震時に発せられる緊急地震速報の受信手段と、当該受信手段によって受信されたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータから上記長周期地震動が到来するか否かを判定する制御手段とを備えてなり、
上記制御手段は、過去の地震におけるマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、当該地震時に上記予測場所における堆積層厚を含む一定の範囲内の堆積層厚を有する複数の観測地点における地震記録で得た固有周期および応答値のうち上記予想場所である構造物の固有周期を含む一定の範囲内の上記固有周期における上記応答値のデータを格納したデータベースから上記応答値を抽出し、上記設定値を超える第1の応答値データ群と、当該設定値未満の第2応答値データ群とに分類して、これらデータ群の境界面となる上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする判定面を算出する演算手段と、
地震発生時に、上記受信手段によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータが、上記判定面に対して上記第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する判断手段と、
この判断手段によって少なくとも上記第1の応答値データ群側に位置すると判断された時に、当該判断情報を出力する出力手段とを有することを特徴とする長周期地震動の到来判定システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に、特定の構造物等に、予め設定した値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定するための判定方法及び判定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、地震発生時に気象庁から発せられる緊急地震速報に基づいて、当該地震の揺れが到達する数秒〜数十秒前に、地震の規模や揺れの到達時間を予測する様々な手法が開発され、かつ実用に供されている。
【0003】
一方、今後予想される南海トラフ沿いの巨大地震等においては、周期が数秒〜十数秒の長周期地震動が発生すると考えられている。このような長周期地震動は、長距離を減衰することなく伝搬するとともに、さらに平野の堆積構造によって増幅されることにより、都市部における超高層建物や免震建物あるいは石油タンク等の固有周期の長い構造物を大きく揺らして被害を拡大させるおそれがある。
【0004】
そこで、近年、この種の長周期地震動を予知する手法として、下記特許文献1、2に見られるような、長周期地震動検知器や地震動振幅レベル予測装置等が提案されているが、いずれも特定の場所に構築されている構造物に対する予測に適用した場合に、当該場所に固有な情報が反映されていないために、予測精度に劣るという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−91480号公報
【特許文献2】特開2010−85268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、緊急地震速報に基づいて、特定の場所に、予め設定した値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを高い精度で判定することができる長周期地震動の到来判定方法及び到来判定システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者等は長周期地震動の到来と地盤における堆積層厚との関係について鋭意研究を行った結果、後述する実施例において詳述するように、地震が発生した際に、予測する場所に揺れを大きくする長周期地震動が到来するか否かは、当該場所における堆積層の厚さの大小が大きな影響を与えることを見出すとともに、地震発生時に容易に入手し得る緊急地震速報の情報と、インターネット上でも入手可能な当該堆積層の厚さに関する情報とを組み合わせることにより、高い精度で特定の場所に長周期地震動が到来するか否かを判定することができるとの知見を得るに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、大地震が発生した際に、予測場所に設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定する方法であって、 過去の地震におけるマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、当該地震時に複数の観測地点で観測における地震記録で得た固有周期および応答値のデータと、上記観測地点における堆積層厚のデータとから、予め上記予測場所における堆積層厚を含む一定の範囲内の堆積層厚を有する上記観測地点の上記地震記録から上記固有周期および応答値を抽出または算出し、得られた上記固有周期および応答値のうちから上記予想場所である構造物の固有周期を含む一定の範囲内の上記固有周期における上記応答値を抽出して、上記設定値を超える第1の応答値データ群と、当該設定値に満たない第2の応答値データ群とに分類するとともに、これらの境界面を上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする判定面として設定し、地震発生時に、緊急地震速報によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータが、上記判定面に対して上記第1の応答値データ群側に位置する時に、上記予測場所に上記設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来すると判定することを特徴とするものである。
【0010】
次いで、請求項に記載の発明は、大地震が発生した際に、予測場所の構造物に設定値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定するシステムであって、地震時に発せられる緊急地震速報の受信手段と、当該受信手段によって受信されたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータから上記長周期地震動が到来するか否かを判定する制御手段とを備えてなり、上記制御手段は、過去の地震におけるマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、当該地震時に上記予測場所における堆積層厚を含む一定の範囲内の堆積層厚を有する複数の観測地点における地震記録で得た固有周期および応答値のうち上記予想場所である構造物の固有周期を含む一定の範囲内の上記固有周期における上記応答値のデータを格納したデータベースから上記応答値を抽出し上記設定値を超える第1の応答値データ群と、当該設定値未満の第2応答値データ群とに分類して、これらデータ群の境界面となる上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする判定面を算出する演算手段と、地震発生時に、上記受信手段によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータが、上記判定面に対して上記第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する判断手段と、この判断手段によって少なくとも上記第1の応答値データ群側に位置すると判断された時に、当該判断情報を出力する出力手段とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1または2に記載の発明によれば、過去の地震時に、当該地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、予測場所に近い堆積層厚の観測地点の地震記録から得られた応答値のデータとに基づいて、予め設定した設定値を超える第1の応答値データ群と上記設定値に満たない第2の応答値データ群との境となる判定面を、上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする関数として設定しておくことにより、地震発生時に、緊急地震速報によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと上記判定面の関数とを比較することにより、容易に上記予測場所に、設定値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを高い精度で判定することができる。
【0013】
この際に、地震動の卓越する周期と、構造物の固有周期が近い場合に、特に揺れの程度が大きくなるために、過去の複数の観測地点で観測された地震記録から得られた固有周期及び応答値のデータの中から、上記予測場所の構造物の固有周期に近い一定範囲内の固有周期において上記設定値を超える応答値を抽出して上記第1の応答値データ群を構成することにより一層判定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る長周期地震動の到来判定システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図2】本発明の実施例において用いた過去の地震データを示す図表である。
図3】上記実施例において用いた観測地点及び当該観測地点における堆積層の厚さを示す基礎震度分布図である。
図4図2の地震データのうち紀伊半島南東沖(M7.4)及び駿河湾(M6.5)で発生した地震に対する固有周期と5%擬似変位応答スペクトルとの関係を示すグラフで、(a)は堆積層厚が0km〜1kmの範囲内の観測地点で観測されたデータによるもの、(b)は堆積層厚が3km〜4kmの範囲内の観測地点で観測されたデータによるものである。
図5】堆積層厚が0km〜1kmの範囲の観測地点で観測されたデータに基づいて、設定値前後のデータ群を画成する判定面を設定した状態を示す3次元グラフである。
図6】堆積層厚が3km〜4kmの範囲の観測地点で観測されたデータに基づいて設定値前後のデータ群を画成する判定面を設定した状態を示す3次元グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る長周期地震動の到来判定システムの一実施形態を示すもので、図中符号1が、長周期地震動の到来を予測する建物(構造物)である。
そして、この建物1に、地震発生時に発せられる緊急地震速報を衛星通信を介して受信するためのアンテナ(受信手段)2及び/又はインターネットを介して受信するためのインターネット通信回線(受信手段)3と、当該受信手段2、3によって受信されたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータから長周期地震動が到来するか否かを判定する制御手段とが設けられている。
【0016】
上記制御手段の構成を具体的に説明すると、先ず上記受信手段2、3からの緊急地震速報を常時取り込み可能に設定されているとともに、取り込まれた緊急地震速報から、当該建物1に、予め設定した値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定するプログラムが組み込まれた汎用のコンピュータ(演算手段・判断手段)4が設置されている。
【0017】
また、このコンピュータ4には、例えば図2に示すような、過去の発生した多数の地震について、それぞれのマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、各々の地震時に例えば図3に示す複数の観測地点で得られた固有周期及び応答値のデータを格納したデータベース5が接続されている。さらに、このデータベース5には、各々の観測地点における堆積層厚の情報が格納されている。ちなみに、当該堆積層厚の情報は、例えば図3に見られるように、インターネット上の防災科学技術研究所・地震ハザードステーション(J−SHIS)のサイトにおいて、上記観測地点を含む地域の基盤深度分布として公開されており、当該データを簡便に用いることができる。
【0018】
さらに、コンピュータ4には、これによって長周期地震動が到来すると判定された際に、その警報を表示するモニタ(出力手段)6や、建物1のエレベータ等を停止させる信号を発信する出力ライン(出力手段)7が接続されている。
【0019】
また、このコンピュータ4には、予め、建物1の用途(例えば集合住宅や工場等)や構造(例えば超高層建物、免震建物、低層建物等)などの相違に基づいて、当該建物において揺れが過度に大きくなった際に警告を発したり、あるいはエレベータや精密製造機等の設備機器類を停止させたりするための閾値となる応答値が設定されている(設定値)。
【0020】
そして、当該コンピュータ4において、事前にデータベース5に格納されているデータの中から、建物1の固有周期T及びこの建物1が建設されている地盤における堆積層厚Dに基づき、この堆積層厚Dを含む一定の範囲(D±α)内の堆積層厚を有する複数の観測地点が選択され、これら選択された観測地点で観測された地震記録から、その固有周期及び応答値のデータが抽出又は算出され、さらに得られた応答値のうちから、建物1の固有周期Tを含む一定の範囲(T±β)内の固有周期において上記設定値を超える応答値のデータを抽出して第1の応答値データ群とされ、他の応答値のデータを第2の応答値データ群として分類されている。
【0021】
ちなみに、過去の複数の地震に対する多数の観測地点での応答値のデータから、建物1の堆積層厚D及び固有周期Tに近いデータを抽出するに際して、堆積層厚の範囲Dに対する誤差範囲αの値は、過去の地震を観測した観測地点の数(すなわちサンプル数の適否及び要求される精度)に応じて適宜決定されるものであり、例えばαを0.5kmとして、建物1における堆積層厚が3.5kmである場合に、堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲にある観測地点からのデータを抽出すればよい。また、抽出する固有周期の範囲(T±β)については、建物1の建築場所の地域において卓越する固有周期と建物1の固有周期との関係から数秒〜十数秒の範囲を選択すればよい。
【0022】
そして、コンピュータ4においては、このようにして得られた第1及び第2の応答値データ群が、対応する地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする座標空間内に配置され、これら第1及び第2の応答値データ群の境界となる判定面が算出されている。なお、当該判定面としては、平面あるいは判定精度をより高めたい場合には高次の曲面が採用されている。
【0023】
そして、上記判定面の情報が、事前にメモリに格納されているとともに、地震が発生時に、受信手段2、3から緊急地震速報としてマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータが入力された際に、当該データが、判定面に対して上記第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断し、少なくとも上記第1の応答値データ群側に位置すると判断された時に、当該判断信号をモニタ(出力手段)6や、出力ライン(出力手段)7から出力するようになっている。
【0024】
したがって、上記構成からなる長周期地震動の到来判定システム及び、これを用いた到来判定方法によれば、過去の地震時に、当該地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと、建物1の地盤の堆積層厚に近い堆積層厚を有する観測地点における上記地震時の応答値のデータとに基づいて、予め設定した設定値を超える第1の応答値データ群と上記設定値に満たない第2の応答値データ群との境となる判定面を、上記マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3次元の変数とする関数として設定し、地震発生時に、緊急地震速報によって得られたマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータと上記判定面の関数とを比較することにより、容易に建物1に、上記設定値以上の応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを高い精度で判定することができる。
【0025】
なお、上記実施形態においては、長周期地震動の到来判定システムを、長周期地震動の到来を予測する建物(構造物)1に設置した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上記建物1とは異なる場所に設置して当該建物1を制御したり、あるいは当該システムを任意の箇所に設置して複数の建物を制御したりする場合にも同様に適用することが可能である。
【実施例】
【0026】
本発明の作用効果を検証するために、以下の解析を行った。
先ず、図2に示すような2003年5月〜2011年8月の間に発生したマグニチュード(M)5.0以上の地震のデータと、各々の地震について、図3に示す関東平野の観測地点で観測された地震記録のデータを収集するとともに、図3に示す防災科学研究所・地震ハザードステーション(J−SHIS)によって公開されている基盤深度分布から各観測地点の堆積層厚を得た。この際に、上記期間中に発生したM5以上の地震であっても、記録が十分に得られていないものやノイズが混入したものは除外した。
【0027】
次いで、上記地震記録のデータのうちから、図2に示した紀伊半島南東沖M7.4の地震と駿河湾M6.5の地震について、堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された地震記録と、堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された地震記録とを抽出し、それぞれ応答値(5%擬似変位応答スペクトル)を求めた。
【0028】
図4(a)は、堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、図4(b)は、堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値をそれぞれ示すものである。なお、いずれも横軸は固有周期であり、縦軸は変位応答スペクトルの値である。これらの図から、堆積層厚が大きいほど、振幅値が大きく、特に関東平野において卓越するといわれている7秒前後の長周期における振幅が大きくなっていることが判る。
【0029】
そこで次に、関東平野において卓越する周期を6〜8秒とし、当該固有周期の範囲内において応答値(ここでは変位量)の設定値を3cm(例えば、新宿の超高層建物においてエレベータが停止する際の頂部の最大変位量)とし、地震記録から求めた擬似変位応答スペクトル(擬似速度応答スペクトルに周期/2πを乗じた値)が3cmを超えるものを第1の応答値データ群とし、3cmに満たないものを第2の応答値データ群として区分した。
【0030】
なお、本実施形態においては、応答値として、上記のように擬似変位応答スペクトルの値を用いた場合について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、擬似速度、加速度応答スペクトル等の当該建物の応答値や、当該建物の入力となる観測された加速度、速度、変位の最大値を応答値として用いることも可能である。なお、観測された値を用いる場合は、固有周期の情報は必ずしも必要としない。
【0031】
図5は、図4(a)に示した堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3軸とする座標空間において該当する地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離の位置にプロットしたものであり、図中上記第1の応答値データ群のデータは丸印で、第2の応答値データ群のデータは四角印で示してある。
【0032】
また、図6は、同様に図4(b)に示した堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である観測地点で観測された応答値を、マグニチュード、震源深さ及び震央距離を3軸とする座標空間において該当する地震のマグニチュード、震源深さ及び震央距離の位置にプロットしたものであり、図中上記第1の応答値データ群のデータは丸印で、第2の応答値データ群のデータは四角印で示してある。
【0033】
図5図6を比較すると、図6に示した堆積層厚が大きな観測地点の方が、第1の応答値データ群に分類された応答値のデータが、より広い範囲に分布している、並びに地震のマグニチュードが大きい程、また震源深さが浅い程、長周期地震動が到来する傾向にあることが判る。
【0034】
また、これらの図から、上記第1の応答値データ群と、第2の応答値データ群との境界となる面(以下、判定面と称す。)を定めることができることも判明した。
そこで、図5及び図6に示すように、各々の場合について、当該判定面を求めた。この判定面は、本実施例においては図5及び図6に示すように平面を用いたが、要請される精度によっては曲面を用いてもよい。ちなみに、当該判定面は、重回帰分析、サポートベクターマシンによる判別等の手法によって求めることができる。
【0035】
以上のことから、大地震が発生した際に、例えば図1に示した建物1に、この建物1の用途や構造等に対応して設定した値を超える応答が生じる長周期地震動が到来するか否かを判定する場合には、先ず受信手段2、3によって緊急地震速報としてマグニチュード、震源深さ及び震央距離のデータを受信する。
【0036】
そして、上記建物1の地盤の堆積層厚が0km〜1.0kmの範囲である場合には、上記緊急地震速報で得られたデータが、図5に示す判定面に対して第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する。また、上記建物1の地盤の堆積層厚が3.0km〜4.0kmの範囲である場合には、上記緊急地震速報で得られたデータが、図6に示す判定面に対して第1及び第2の応答値データ群のいずれ側に位置するか判断する。
【0037】
そして、いずれの場合も、上記緊急地震速報で得られたデータが、第1の応答値データ群の側に位置すると判断された場合に、建物1に上記設定値を超える応答が生じる長周期地震動が到来すると判定することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 建物(予測場所の構造物)
2、3 受信手段
4 コンピュータ(演算手段・判断手段)
5 データベース
6、7 出力手段
図1
図2
図4
図3
図5
図6