(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794936
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】分解ガソリンの水素化精製方法
(51)【国際特許分類】
C10G 45/06 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
C10G45/06 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-51375(P2012-51375)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-185069(P2013-185069A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JX日鉱日石エネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590000455
【氏名又は名称】一般財団法人石油エネルギー技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(72)【発明者】
【氏名】関 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正典
【審査官】
▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−530911(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/069144(WO,A1)
【文献】
特開昭59−105083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
B01J 21/00−38/74
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点範囲が70〜145℃の分解ガソリン留分を90質量%以上含む留分を原料油として、水素の存在下、γ−アルミナを担体としてニッケルのみを担持し、触媒全量に対するニッケル含有量が酸化物換算で15〜25質量%である触媒により水素化精製処理することを特徴とする分解ガソリンの水素化精製方法。
【請求項2】
γ−アルミナの平均細孔直径が50〜150Åであり、かつ比表面積が250〜400m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の分解ガソリンの水素化精製方法。
【請求項3】
前記分解ガソリン留分が、ベンゼン含有量30〜50質量%、トルエン含有量15〜30質量%、炭素数8の芳香族炭化水素含有量5〜20質量%、全芳香族炭化水素含有量50質量%以上であり、硫黄分含有量が150質量ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の分解ガソリンの水素化精製方法。
【請求項4】
水素の存在下、反応温度200〜300℃、反応圧力2.0〜7.0MPa、水素/油比20〜200Nm3/kl、液空間速度0.5〜7.0h−1で水素化精製処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分解ガソリンの水素化精製方法。
【請求項5】
水素化精製処理により得られる生成油がドクター試験陰性であり、かつベンゼンの損失率が1.5%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分解ガソリンの水素化精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分解ガソリンの水素化精製方法に関し、詳細には芳香族炭化水素の水素化を抑制した分解ガソリンの水素化精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベンゼン、キシレンのような基礎化学原料の需要は高まっている。そのためエチレン製造装置を主体とする石油化学工場では、エチレンやプロピレンのみならずベンゼン、キシレンの生産性を高めることも重要である。
【0003】
エチレン製造装置から留出する分解ガソリン留分とは、沸点範囲70〜145℃程度の留分を指し、ベンゼンが30〜50質量%、トルエンが15〜30質量%、炭素数8の芳香族炭化水素(C8芳香族炭化水素)が5〜20質量%含まれる。ただし、組成はエチレン製造装置の原料や運転状況にもよる。
石油化学工場では、この分解ガソリン留分を溶剤抽出や蒸留工程を経ることにより、ベンゼン、トルエンおよび炭素数8の芳香族炭化水素を分離し出荷している。
しかしながら、分解ガソリン留分中には50〜150質量ppmの硫黄分が含まれているため、固定床反応塔に脱硫触媒を充填し、水素気流中、高温高圧の反応条件下で硫黄分の除去を行っている。この水素化脱硫のプロセスについては、非特許文献1に紹介されている。脱硫触媒としてはアルミナを主成分とした担体に活性金属としてモリブデンとコバルトが担持されたものが広く用いられている。なお、水素化精製などを経て得られるベンゼンなど製品に含まれる硫黄分については、品質規格上、JIS K2276に定めるドクター試験において陰性を示さなければならない。
【0004】
この脱硫触媒によって、ベンゼンなどの芳香族炭化水素のごく一部は水素化されナフテンとなる。芳香族炭化水素の水素化は製品収率の低下を招くとともに、水素を消費するため、運転コストが増加するので好ましくない。
また触媒活性金属の主成分であるモリブデンは鉄鋼材料としての用途が多く、新興国の発展による鉄鋼需要拡大により、近年価格が高騰している。この結果、水素化精製触媒の価格も上昇傾向にあり、この点でも工場の運転コストが増加してしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「プロセスハンドブック」,VOL.3,石油学会編,1986年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はエチレン製造装置から留出する分解ガソリン留分を、安価な触媒を用いて、水素化精製処理により硫黄分を除去し、かつ芳香族炭化水素の水素化を抑制して、ベンゼン、トルエン、キシレンの製品収率の低下の少ない水素化精製方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、γ−アルミナ担体にニッケルのみを活性金属種として担持した触媒が分解ガソリンの脱硫活性を示し、かつ市販のコバルト−モリブデン触媒に比べ芳香族炭化水素の水素化活性が低いことを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、沸点範囲が70〜145℃の分解ガソリン留分を90質量%以上含む留分を原料油として、水素の存在下、γ−アルミナを担体としてニッケルのみを担持し、触媒全量に対するニッケル含有量が酸化物換算で15〜25質量%である触媒により水素化精製処理することを特徴とする分解ガソリンの水素化精製方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、沸点範囲が70〜145℃の分解ガソリン留分を90質量%以上含む留分を原料油とし、γ−アルミナを担体としニッケルのみを担持した触媒を固定床反応装置に充填して水素化精製処理を行うことにより、硫黄分を除去するとともに、芳香族炭化水素の水素化を抑制することで併せて無駄な水素の消費を抑制し、効率良くBTXを製造することが出来る。また、ニッケルはレアアースに属し高価であるものの、モリブデンの50%程度の価格であり、また原産地に極端な偏りがないため、安定供給も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における水素化精製処理の原料油は、エチレン製造装置から留出する分解ガソリンが用いられる。
エチレン製造装置は、原料を熱分解してエチレン、プロピレン等のオレフィン類を製造する装置で、スチームクラッカー、スチームクラッキング装置、エチレンクラッカー、エチレンクラッキング装置などとも呼ばれる。
エチレン製造装置の原料は特に限定されないが、直留系のナフサ留分、灯軽油留分、水素化分解やFCC(流動接触分解)などの分解系装置より得られるナフサ留分、灯軽油留分などを挙げることができる。
エチレン製造装置における分解反応は、通常、分解温度は770〜850℃、原料の滞留時間(反応時間)は0.1〜0.5秒、スチーム/原料(質量比)は0.2〜0.9で行われる。
【0011】
本発明における水素化精製処理の原料油は、エチレン製造装置から留出する沸点範囲70〜145℃の分解ガソリン留分を少なくとも90質量%以上、好ましくは95質量%以上含んだ留分である。沸点範囲70〜145℃の分解ガソリン留分が90質量%未満の場合、原料油中のBTX(ベンゼン、トルエンおよびキシレンの総称)の割合が低くなるので好ましくない。
原料油は沸点範囲70〜145℃の分解ガソリン留分を90質量%以上含有すれば特に限定されないが、ベンゼン含有量が25〜50質量%、トルエン含有量が15〜30質量%、炭素数8の芳香族炭化水素含有量が5〜25質量%であり、硫黄分含有量が250質量ppm以下のものを好適に用いることができる。
【0012】
分解ガソリン留分は、通常、ベンゼン含有量:30〜50質量%、トルエン含有量:15〜30質量%、炭素数8の芳香族炭化水素含有量:5〜20質量%、全芳香族炭化水素含有量:50質量%以上のものであり、また硫黄分含有量は150質量ppm以下のものが好ましく用いられる。
なお、本願において、ベンゼン含有量、トルエン含有量、炭素数8の芳香族炭化水素含有量および全芳香族炭化水素含有量はガスクロマトグラフによる分析法(JIS K2536−3)で、硫黄分含有量の分析法はJIS K2541に準拠した方法により求められる値である。
【0013】
なお、本原料油について、本発明の水素化精製処理を行う前にパラジウムなどの貴金属を担持した貴金属触媒を用いて、オレフィン類ならびにジオレフィン類の水素化を行う水素化前処理を行ってもよい。
水素化前処理の反応圧力(水素分圧)は2.0〜7.0MPaが好ましく、より好ましくは3.5〜6.0MPaである。2.0MPa未満ではオレフィン類の水素化が進行しないおそれがあり、また7.0MPaを超えると水素消費が大きくなり運転コストが増加するので好ましくない。
水素化前処理の反応温度は40〜100℃の範囲が好ましく、より好ましくは50〜90℃である。100℃を超えると硫黄化合物の反応が起こり、それにより生じる硫化水素によって、触媒が被毒を受け活性が低下するので好ましくなく、また40℃未満ではオレフィン類の水素化が進行しないおそれがあるため好ましくない。
水素化前処理の液空間速度(LHSV)は特に制限されないが、1.0〜15.0h
−1が好ましく、より好ましくは3.0〜12.0h
−1である。1.0h
−1未満では処理量が低いので生産性が低くなり実用的ではない。また15.0h
−1を超えると反応温度が高くなり、触媒の活性劣化が進行するので好ましくない。
【0014】
本発明の水素化精製処理に用いる触媒は、多孔性のγ−アルミナを担体とし、活性金属種としてニッケルのみを担持した触媒である。
γ−アルミナの平均細孔直径は50〜150Åであることが好ましく、また比表面積は250〜400m
2/gであることが好ましい。
本発明においては、γ−アルミナに担持される活性金属はニッケルのみからなり、他の金属は含まない。触媒全体に対するニッケル担持量は酸化物換算で15〜25質量%が好ましく、15〜20質量%がより好ましい。15質量%未満および25質量%を超えた場合には、脱硫活性が大きく減少するので好ましくない。担持方法については特に制限はないが、容易でかつ経済的なIncipient Wetness法が最も好ましい。
【0015】
本発明における分解ガソリンの水素化精製処理は、固定床反応装置に触媒を充填して水素雰囲気下、高温高圧条件で行なわれる。
反応圧力(水素分圧)は2.0〜7.0MPaが好ましく、より好ましくは3.5〜6.0MPaである。2.0MPa未満では脱硫活性が低下する傾向にあり、また7.0MPaを超えると水素消費が大きくなり運転コストが増加するので好ましくない。
反応温度は200〜300℃の範囲が好ましく、より好ましくは240〜280℃である。200℃未満では脱硫活性が減少する傾向にあり実用的でない。また、300℃を超えると触媒の活性劣化が促進するので好ましくない。
液空間速度(LHSV)は特に制限されないが、0.5〜7.0h
−1が好ましく、より好ましくは1.5〜6.0h
−1である。0.5h
−1未満では処理量が低いので生産性が低くなり実用的ではない。また7.0h
−1を超えると反応温度が高くなり、触媒の活性劣化が進行するので好ましくない。
水素/油比は20〜200Nm
3/klの範囲が好ましく、より好ましくは50〜150Nm
3/klである。水素/油比が20Nm
3/kl未満では脱硫活性が大きく低下する傾向にあるので好ましくない。また200Nm
3/klを超えても脱硫活性に大きな変化がなく、運転コストが増加するだけなので好ましくない。
【0016】
本発明の水素化精製処理により得られる生成油はドクター試験が陰性であり、またベンゼンの損失率は通常1.5%未満と低く、芳香族の水素化が抑制される。
【実施例】
【0017】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
LSRナフサ(軽質直留ナフサ)を原料としたエチレン製造装置から得られた分解ガソリン(沸点範囲:70〜145℃)を水素化精製処理の原料油とした。この分解ガソリン中のベンゼン、トルエンおよびC8芳香族炭化水素の割合は、それぞれ41質量%、21質量%および10質量%、そして硫黄分は95質量ppm含まれていた。
触媒担体には、平均細孔直径80Å、比表面積300m
2/gのγ−アルミナを用いた。この担体にIncipient Wetness法でニッケルを担持し、550℃で3時間焼成して触媒を調製した。この時、触媒に対するニッケル含有量は、酸化物換算で18質量%であった。
固定床流通式反応装置にて水素化精製を行うにあたり、触媒充填後、水素(95容量%)と硫化水素(5容量%)の混合ガスを用いて350℃で24時間、充填した触媒の予備硫化処理を行い、活性化した。
反応圧力5.0MPa、水素/油比100Nm
3/kl、液空間速度5.0h
−1、反応温度270℃での条件で分解ガソリンの水素化精製処理を行い、生成油を得た。
生成油の硫黄濃度(JIS K2541)、ドクター試験(JIS K2276)結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
ベンゼン損失率とは、(原料油中のベンゼン含有量(質量%)−生成油中のベンゼン含有量(質量%))/原料油中のベンゼン含有量(質量%)×100(%)で定義する。
なお、ベンゼン含有量はJIS K2536−3の方法で測定した値である。
【0019】
(実施例2)
触媒のニッケル含有量が酸化物換算で15質量%とした以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0020】
(実施例3)
触媒のニッケル含有量を酸化物換算で24質量%とした以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0021】
(実施例4)
触媒担体として、平均細孔直径80Å、比表面積280m
2/gのγ−アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0022】
(実施例5)
触媒担体として、平均細孔直径55Å、比表面積300m
2/gのγ−アルミナを用いたこと以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0023】
(比較例1)
触媒のニッケル含有量が酸化物換算で28質量%とした以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0024】
(比較例2)
触媒のニッケル含有量が酸化物換算で5質量%とした以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0025】
(比較例3)
担体として平均細孔直径80Å、比表面積300m
2/gのγ−アルミナを用い、モリブデンおよびコバルトの含有量が酸化物換算でそれぞれ20質量%および2質量%である触媒を用いた以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0026】
(比較例4)
担体として平均細孔直径80Å、比表面積が400m
2/gのアモルファスシリカを用い、ニッケルの含有量が酸化物換算で20質量%である触媒を用いた以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0027】
(比較例5)
担体として平均細孔直径80Å、比表面積300m
2/gのγ−アルミナを用い、モリブデンおよびニッケルの含有量が酸化物換算でそれぞれ20質量%および2質量%である触媒を用いた以外は、実施例1と同様に、水素化精製処理を行った。生成油の硫黄濃度、ドクター試験結果およびベンゼン損失率を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
以上のように、沸点範囲が70〜145℃の留分を90重量%以上含む分解ガソリンを原料とし、モリブデンに比べ安価なニッケルのみを担持金属とする触媒を固定床反応装置に充填して水素化精製処理を行うことで、ドクター試験陰性を満たしながら、水素化精製処理によるベンゼン損失率をコバルト−モリブデン系脱硫触媒およびニッケル−モリブデン系脱硫触媒よりも抑制することが出来る。