(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794941
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】コンクリート床版の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
E01D24/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-66623(P2012-66623)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-194495(P2013-194495A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】508117525
【氏名又は名称】株式会社 アクティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】福島 修
【審査官】
竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−114688(JP,A)
【文献】
特開平02−292404(JP,A)
【文献】
特開2003−027420(JP,A)
【文献】
特開平04−289303(JP,A)
【文献】
特許第4705197(JP,B1)
【文献】
特開2008−014067(JP,A)
【文献】
米国特許第04823452(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 24/00
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁とコンクリート床版の接合境界面をワイヤソーによって水平切断して両者の結合を解除するにあたり、水平切断の始点にコンクリート床版表面から橋桁上面に達するワイヤソーを落とし込む始点溝を幅員方向に形成し、水平切断の終点には、橋桁の両側にコンクリート床版を貫通する貫通穴を形成し、この貫通孔に、アームの両端に着脱可能なプーリを有する方向変換プーリのアームをプーリを外して挿入して固定し、アームにプーリを取付け、始点溝にワイヤソーを落とし込み、コンクリート床版の下面を通して方向変換プーリを介して終点の貫通穴に導いてワイヤソーをコンクリート床版上に設置したワイヤソー駆動装置によって走行駆動して橋桁とコンクリート床版の接合境界面を水平切断し、コンクリート床版を適宜のブロックに切断して撤去するコンクリート床版撤去方法。
【請求項2】
請求項1において、橋桁が幅員方向端部であり、コンクリート床版の張出部を先行撤去し、ワイヤソーを落とし込む始点溝を張出部を撤去したコンクリート床版の端部までとし、水平切断の終点の貫通穴を片側のみとし、終点の橋桁側面に方向変換プーリを固定してワイヤソーをコンクリート床版上のワイヤソー駆動装置に導いて橋桁とコンクリート床版の接合境界面を水平切断し、コンクリート床版を適宜のブロックに切断して撤去するコンクリート床版撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年月の経過で老朽化した橋梁床版を低騒音低公害で、かつ、経済的に切断撤去する橋梁床版の撤去にあたり、床版と橋桁の結合を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架道路の床版は、年月の経過により老朽化したり、設計荷重より大きな交通荷重によって損傷されるので改修が必要となり、コンクリート床版を撤去しなければならなくなる。
一般的な床版撤去方法は、橋桁上に設置されたコンクリート床版をコンクリートカッターで適当な間隔で切断してブロックに分割し、ブロック化されたコンクリート床版をジャッキで持ち上げて橋桁に連結固定されている床版をジャッキ等で持ち上げて剥離し、分割切断したブロックをクレーンで撤去している。また、ジャッキ等を使用することなく床版ブロックを撤去した場合は、橋桁上に残コンクリートが残っており、この残コンクリートをブレーカー等で粉砕して撤去し、コンクリート床版を橋桁に定着していたジベルやアンカー筋をガス切断器等で切断して橋桁上面を平面としていた。
【0003】
しかしながら、この撤去工法は、コンクリート床版の橋梁幅員方向と、橋桁方向に切断してブロックとするので切断量が多く施工に時間を要する。そのうえ、橋桁上の残コンクリートをブレーカーにより破砕するため、騒音、振動、粉塵などの環境上、衛生上の問題があり、市街地での施工に不適であるばかりでなく、橋桁を損傷する場合もあった。更に、コンクリート床版の撤去後に床版を橋桁に定着しているジベル若しくはアンカー筋の切断作業、コンクリート破砕屑の回収等の作業が必要である。また、橋桁を新たなものに交換のために撤去する場合、橋桁上のコンクリート重量が加算されるので撤去に使用するクレーンの能力の大きなものが要求され、大型クレーンが必要となってコストがかかるため経済性に劣り、また、大型クレーンを設置する場所を確保しなければならなかった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1(特公平6−43682号公報)にあるように、コンクリート床版と橋桁とが結合されている部分及びアンカー筋をワイヤソーで水平に切断分離することによって、ブロック化されたコンクリート床版を簡単に橋桁から撤去できるようにすると共に、橋桁上の残コンクリートを殆どゼロにすることが提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−43682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案された工法は、コンクリート床版の下側にワイヤソー駆動装置を設置するものであるため、コンクリート床版の下側に機器を設置する作業台が必要であり、都市高速道路の高架橋では作業台を設置する足場を組む空間がほとんどないため作業台を吊り下げて設置しなければならず、作業空間の高さを1m程度しか取れず、作業を迅速におこなうことができなかったので、施工準備に多大の時間と費用を要すると共に、作業効率が低いものであった。
本発明は、ワイヤソー駆動装置をコンクリート床版の下側に設置せずにコンクリート床版と橋桁の結合を解除できるようにして施工期間の短縮、作業効率の向上、及び工費を節減できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、橋桁とコンクリート床版の接合境界面をワイヤソーによって水平切断して両者の結合を解除するにあたり、水平切断の始点にコンクリート床版表面から橋桁上面に達するワイヤを落とし込む始点溝を幅員方向に形成し、水平切断の終点に、橋桁の両側にコンクリート床版を貫通する貫通穴を形成し、始点溝にワイヤソーを落とし込み、コンクリート床版の下面を通して終点の貫通穴に導いて貫通穴を通じてワイヤソーをコンクリート床版上に設置したワイヤソー駆動装置によって走行駆動して橋桁とコンクリート床版面の境界面を水平切断するものである。
コンクリート床版の下側から上側にワイヤソーの走行方向を変換するには、軸の両端に旋回可能に取り付けられているプーリを使用する。
【発明の効果】
【0008】
コンクリート床版と橋桁との接合境界面をワイヤソーで切削分離するに当たり、コンクリート床版上に設置したワイヤソー駆動装置によって切削分離をおこなうことができるので、ワイヤソー駆動装置をコンクリート床版の下側に設置する従来の方法と比較して格段に作業効率を向上させることができる。
また、全ての切断作業を冷却水を使用しない乾式切断方法によって実施することが可能であり、泥水が発生しないので環境汚染がないので、周辺住民が工事現場に近接している都市高速道路の高架橋のコンクリート床版撤去に好ましい工法である。
橋桁とコンクリート床版の接合境界面を水平切断して橋桁とコンクリート床版の結合が解除されるのでコンクリート床版を橋桁に残置させた状態で適宜の大きさのブロックに切断することができ、コンクリート床版の切断撤去作業を短時間で終了させることができると共に、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】複数の橋桁とコンクリート床版の結合解除を同時におこなう実施例の概念断面図。
【
図6】複数の橋桁とコンクリート床版の結合解除を同時におこなう実施例の概念平面図。
【
図7】橋桁が幅員方向端部の場合の本発明の実施例の断面図。
【
図8】本発明に使用する転換プーリの一例の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜
図3は、ワイヤソーによるコンクリート床版1と橋桁2の接合境界面を水平切断する方法を示す概略説明図である。
コンクリート床版1は、橋桁2に固定されているジベルやアンカー筋等の定着具3によって橋桁2と一体化されている。
一体化されているコンクリート床版1と橋桁2の結合を分離解放するために、水平切断の始点Sに、橋軸と直角方向にフランジ21の幅より大きな始点溝42をコンクリート床版1の表面から橋桁上面に達する幅10〜15mmの溝を形成する。この始点溝42はワイヤソー5を落とし込み、コンクリート床版1の下側に導くためのものであり、ワイヤソー5を収容することができる幅が必要である。
【0011】
水平切断の終点Eには、橋桁2の両側で橋桁2のフランジ21の幅より大きな間隔でコンクリート床版1を貫通する貫通穴40をコアドリルで形成する。
終点Eの貫通穴40、40の間には溝43を形成する。この溝43は、コンクリート床版1と橋桁2の接合境界面を水平切断した後、コンクリート床版1を隣接する床版部分から切り離すための溝であるので、溝幅は特に限定されないものであり、ワイヤソー5による水平切断終了後に形成してもよい。
始点溝42の切削形成は、コンクリートカッターを使用し、水を使用することなく橋桁2の上面までドライ切削し、カッターブレードの冷却には水を使用しないのが好ましい。
【0012】
始点溝42の形成は、円形ブレード基板の外周面に、切削用ダイヤモンドチップが固着されていると共に、円形ブレード基板側面に放熱用ダイヤモンドチップが固着されている回転ブレードを使用したり、円形ブレードを被うカバーの切削進行方向の後部から空気を送り、前方から吸引排気して切削切粉を排除すると共に回転ブレードを冷却する方法、また、切削進行方向に向かって円形ブレードを下から上にアッパー回転させ、その際の円形ブレードの周速を600〜1200m/分とする鉄筋コンクリートの切削方法などを採用する。
【0013】
冷却用の空気は、必要に応じてボルテックスチューブ冷却装置によって、空気を冷却して送風したり、または、ドライミストを冷却空気に混入させるなどしてドライ切断を円滑におこなえるようにする。
また、ワイヤソー5を設置するために形成する始点溝42の溝幅は10〜15mmと広いため、それに合った幅のダイヤモンド砥粒層を備えたブレードを使用しなければならないが、市販のコンクリートカッター用の円形ブレードの切削溝幅は、4mm程度であるので、ブレードを複数枚を重ねて必要な切削幅を得るなどする。
また、単独の円形ブレードを駆動軸に対して傾斜させて取り付けることによって切削溝幅を円形ブレードの刃の幅より広い溝幅で切削することが可能である。
【0014】
ワイヤソー駆動装置6を、コンクリート床版1に作成した終点Eの貫通穴40の近傍に設置し、ワイヤソー5を始点溝42に落とし込んでコンクリート床版1の下側に導き、終点の貫通穴40まで引き回して貫通穴40を通してコンクリート床版1の上側に引き出す。引き出したワイヤソー5を連結して無端状とし、ワイヤソー駆動装置6によって駆動走行されるようにする。
ワイヤソー5をコンクリート床版1の下から上側に導くには、貫通穴40に方向変換プーリ51を設置しておこなう。
図示の例は、方向変換プーリ51をワイヤソー駆動装置6から下側に延びるアームの先端に取り付けたものであるが、
図8に示すアーム52の両端にプーリ53を旋回可能に取り付けたものを適宜の固定治具によって貫通穴40に固定すれば、ワイヤソー駆動装置6を貫通穴40から離れた位置に設置することができる。
アーム52に対してプーリ53を着脱自在とすれば、貫通穴40の直径を変換プーリ53の直径より小さく、かつ、アーム52の通過を許容する大きさとすることができ、貫通穴40を形成するためのコアドリルの穿孔径を小さくすることができるので経済的であり、また、作業効率も向上する。
【0015】
コンクリート床版1の表面上に設置してあるワイヤソー駆動装置6の駆動プーリ61を回転させてワイヤソー5を駆動走行させ、ワイヤソー5によって橋桁2とコンクリート床版の接合境界面をジベル等の連結具3と共に水平に切断を進行させ、コンクリート床版1と橋桁2との結合を解いて分離する。
ワイヤソーによる橋桁2とコンクリート床版1の境界面の切削も、ドライ切断とするのが好ましい。
コンクリート床版1と橋桁2の結合状態を解除されてもコンクリート床版は橋桁で支持されている。次に、コンクリート床版1を適宜の間隔で幅員方向の切断をおこなってコンクリートブロックとしてクレーン等によって撤去する。
【0016】
図4は、他の実施例であり、ワイヤソー駆動装置6の移動を少なくして水平切断の施工効率を向上させるものであり、終点Eの貫通穴40の両側に始点S1とS2を設定し、それぞれ始点溝42、42を形成する。中央の貫通穴40の位置Eにワイヤソー駆動装置6を設置する。一方の始点S1の始点溝42と終点Eの貫通穴40間でワイヤソー5を巻き回して水平切断をおこなう。ワイヤソー駆動装置6を移動させず、そのままの位置でもう一方の始点S2の始点溝42と終点Eの貫通穴40の間でワイヤソー5を巻き回して水平切断する。このようにすることによって、ワイヤソー駆動装置6を移動させることなくコンクリート床版1を橋桁2から分離することができるので効率的にコンクリート床版の撤去をおこなうことができる。
【0017】
図5及び
図6は、他の実施例であり、橋梁は複数の橋桁2から構成されているので、橋桁2とコンクリート床版1の結合の分離のための水平切断を橋桁毎におこなわず、隣接する複数の橋桁2について、1つのワイヤソー駆動装置によって同時に水平切断をおこなうようにしたものである。
図5及び
図6に示すように、隣接する二つの橋桁2a、2bを1つの橋桁と考え、貫通穴40を橋桁2aと橋桁2bの側方に形成し、変換プーリ51を適宜の位置に設置しワイヤソー5が橋桁2a、2bを囲むように配設し、一度に隣接する橋桁2a、2bのコンクリート床版1との接合境界面を水平切断することも可能である。
【0018】
図7に示す例は、本発明の応用例であり、橋桁2が橋梁の幅員方向の端部である場合の施工例である。
コンクリート床版1との結合を解除する橋桁2が端部に位置するものであるので、橋桁2より外側に張り出すコンクリート床版を
図7に示すように予め切断撤去するので、橋桁2の片側面にコンクリート床版が存在しなくなる。
従って、コンクリート床版1の水平切断の終点Eに形成する貫通穴40が、橋桁2の片側ですみ、コンクリート床版1の下側に通すことなくコンクリート床版1の側面を始点Sから終点Eまで配設することができるので、施工が容易となる。
【0019】
図示の実施例では、I型断面の橋桁を例として本発明を説明したが、橋桁の断面はI型に限定されず、箱桁であっても本発明は適用することができる。また、橋桁は鋼製であってもコンクリート製、プレストレストコンクリート製であっても本発明の適用に支障はない。
【符号の説明】
【0020】
1 コンクリート床版
2 橋桁
21 フランジ
3 床版定着具(ジベル、アンカー筋)
40 貫通穴
42 始点溝
5 ワイヤソー
51 方向転換プーリ
6 ワイヤソー駆動装置
61 駆動プーリ