特許第5794983号(P5794983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5794983-ガスの特性を求めるためのセンサ素子 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794983
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ガスの特性を求めるためのセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20150928BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   G01N27/46 331
   G01N27/46 327C
   G01N27/46 327G
   G01N27/46 327J
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-518833(P2012-518833)
(86)(22)【出願日】2010年4月20日
(65)【公表番号】特表2012-531613(P2012-531613A)
(43)【公表日】2012年12月10日
(86)【国際出願番号】EP2010055158
(87)【国際公開番号】WO2011000584
(87)【国際公開日】20110106
【審査請求日】2012年3月5日
(31)【優先権主張番号】102009027276.3
(32)【優先日】2009年6月29日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100112793
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳大
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−イェルク レンツ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス シュナイダー
【審査官】 野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−090222(JP,A)
【文献】 特開2007−278941(JP,A)
【文献】 特開2003−294697(JP,A)
【文献】 特開2003−294698(JP,A)
【文献】 特開2003−294690(JP,A)
【文献】 特開平08−271476(JP,A)
【文献】 特開平10−318980(JP,A)
【文献】 特開平08−122287(JP,A)
【文献】 特開2009−036608(JP,A)
【文献】 特開2007−256247(JP,A)
【文献】 特開2006−105612(JP,A)
【文献】 特開2006−105613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定ガス空間(118)内のガス成分を検出するためのセンサ素子(112)であって、
前記センサ素子(112)は少なくとも1つの第1のセル(120)と少なくとも1つの第2のセル(156)とを有し、
前記第1のセル(120)は少なくとも1つの第1の電極(130)と少なくとも1つの第2の電極(142)とを有し、さらに、該第1の電極(130)と該第2の電極(142)とを接続する第1の固体電解質(132)を有し、
前記第2のセル(156)は少なくとも1つの第3の電極(158)と少なくとも1つの第4の電極(162)とを有し、さらに、該第3の電極(158)と該第4の電極(162)とを接続する第2の固体電解質(170)を有し、
前記第2の電極(142)は少なくとも1つの第1の電極空洞(148)内に配置されており、前記第4の電極(162)は少なくとも1つの第2の電極空洞(166)内に配置されており、
前記第1の電極空洞(148)には前記測定ガス空間(118)からのガスが供給され、前記第2の電極空洞(166)には該第1の電極空洞(148)からのガスが供給され、
前記第1の固体電解質(132)および前記第2の固体電解質(170)はそれぞれ、少なくとも1つの固体電解質材料を含み、
前記固体電解質材料は、該固体電解質材料のイオン伝導度より低いイオン伝導度を有する少なくとも1つの支持部材(140)に埋め込まれており、
前記支持部材(140)は少なくとも1つの支持材料を含み、
前記支持材料は少なくとも1つの絶縁材料を含み、
前記絶縁材料は
大50%の割合のガラス相を含む、酸化アルミニウムであるセラミック酸化物を含むかまたは当該セラミック酸化物から成
前記第1のセル(120)は少なくとも2つの部分セル(122,124)を有し、
前記少なくとも2つの部分セル(122,124)は相互に依存せずに動作可能である、
ことを特徴とする、センサ素子。
【請求項2】
前記第1の電極空洞(148)と前記第2の電極空洞(166)とは、前記ガスまたは該ガス中の少なくとも1つのガス成分の通流および/または拡散を少なくとも部分的に制限する少なくとも1つの制限部材(168)によって分離されている、請求項記載のセンサ素子(112)
【請求項3】
前記少なくとも1つの制限部材(168)が拡散バリア(154)である、請求項記載のセンサ素子(112)
【請求項4】
前記センサ素子(112)は多層構成体を有する
請求項1からまでのいずれか1項記載のセンサ素子(112)
【請求項5】
前記多層構成体は、ラミネート法によって相互に結合されたセラミック膜の形態の少なくとも2つの前記支持部材(140)を有する、
請求項記載のセンサ素子(112)
【請求項6】
前記支持部材(140)の少なくとも一部はフレームとして形成されており、
前記フレームは前記第1のセル(120)および/または前記第2のセル(156)を少なくとも部分的に包囲する、
請求項1からまでのいずれか1項記載のセンサ素子(112)
【請求項7】
前記フレームは、前記第1の固体電解質(132)および/または前記第2の固体電解質(170)を包囲する、
請求項記載のセンサ素子(112)
【請求項8】
前記第2の電極(142)および前記第4の電極(162)はそれぞれ異なる触媒特性を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載のセンサ素子(112)
【請求項9】
前記センサ素子(112)はさらに、少なくとも1つの第5の電極(176)と少なくとも1つの第6の電極(180)とを有する少なくとも1つの監視セル(174)を含み、
前記監視セル(174)は、前記第5の電極(176)と前記第6の電極(180)とを接続し少なくとも1つの電解質材料を含む少なくとも1つの第3の固体電解質(182)を有し、
前記第5の電極(176)は前記第1の電極空洞(148)内に配置されており、
前記第6の電極(180)は少なくとも1つの基準ガス空間としての基準空気流路(178)内に配置されており、
前記固体電解質材料は前記支持部材(140)に埋め込まれている、
請求項1からまでのいずれか1項記載のセンサ素子(112)
【請求項10】
請求項1からまでのいずれか1項記載のセンサ素子(112)を少なくとも1つ含む、センサシステム(110)であって、
前記センサシステム(110)は、前記第1のセル(120)と前記第2のセル(156)とをポンプカスケード構成体として動作させるように構成されていることを特徴とする、センサシステム。
【請求項11】
前記センサシステムは、排ガス中の窒素酸化物を検出するセンサシステム、または、広帯域酸素センサシステムである、請求項10記載のセンサシステム(110)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定ガス空間内のガスの少なくとも1つの特性を検出するための公知のセンサ素子に関する。前記測定ガス空間内のガスの少なくとも1つの特性はたとえば、物理的および/または化学的に検出可能な特性である。とりわけこの特性は、前記ガスの少なくとも1つのガス成分の割合であり、この特性はたとえば該ガス成分の分圧またはパーセンテージである。前記少なくとも1つのガス成分はたとえば、酸素および/または窒素酸化物(NOx)である。このようなセンサ素子の基本的構成は従来技術から公知であり、たとえばRobert Bosch GmbH による「Sensoren im Kraftfahrzeug」第2版、2007年4月、第154〜159頁に記載されている。基本的に、本発明においても、同文献中に開示されたセンサ構成を本発明に応じて修正することができる。
【0002】
従来、上述のセンサ素子に共通する点、とりわけ排ガス酸素センサ(いわゆるラムダセンサ)または排ガスNOxセンサに共通する点、とりわけ、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン用の未処理エミッション用の電気化学的排ガスNOxセンサに共通する点は、該センサ素子が、たとえばイットリウム安定化二酸化ジルコニウム(YSZ)等である固体電解質膜から成る積層体として作製されたセラミックセンサ素子を含むことである。このようなセンサは通常、電気化学的な動作原理で動作し、たとえばNOxを検出するためには、1つまたは複数のポンプセル(ポンプカスケード)を介して排ガス中のNOxの割合を段階的に上昇させ、最後のチャンバ内において、たとえば電流測定によって求める。上述のようなセンサは、ダブルチャンバ式センサまたはマルチチャンバ式センサとも称され、また、ポンプセルカスケードセンサとも称される。このようなセンサの動作原理では通常、複数のネルンストセルおよび/またはポンプセルが必要であり、このネルンストセルおよび/またはポンプセルは、センサ素子の全体構成内に組み込まれている。
【0003】
しかし、このような構成、とりわけマルチセル構成では通常、公知のセンサ素子において固体電解質が電解質としての機能を果たすだけでなく支持材料の機能も果たすという問題がある。それゆえ、この固体電解質の材料には機械的な安定性と熱衝撃耐性とに関して厳しい要件が課される。しかし、ドープ量が増大し、ひいてはイオン伝導度が上昇するにつれて、通常の固体電解質材料の機械的耐性および負荷容量は低下していくので(通常、最大耐性は最大伝導度に相当しない)、これらの条件が両立することは難しい。上述の問題に関連する別の技術的な問題に、漏れ電流の除去がある。たとえば必要とされる機械的安定性に起因して、ドープ量を任意に上昇させることができないにもかかわらず、センサ素子を動作させるためには所定のイオン伝導度を実現しなければならないので、温度を上昇させてセンサ素子を動作させる場合が多い。こうするためにはたとえば、1つまたは複数の加熱素子を使用する。しかし所定の条件になると、たとえば温度が上昇した場合、イオン伝導度によって、センサ素子中に妨害となる漏れ電流が発生してしまう。この漏れ電流はたとえば、センサ素子の電極と加熱素子との間に形成される。それゆえ通常は、センサ素子の動作には必要とされない領域において、加熱素子および電極の双方が絶縁され、この絶縁は手間を要する。多層構成体を使用する場合には通常、比較的下位の層平面にまで達するスルーコンタクトも同様に絶縁され、この絶縁も手間を要する。このように手間のかかる絶縁層の作製を行っても、センサ素子の製造時には通常、高い漏れ電流に起因する製造欠陥が生じる。
【0004】
発明の開示
それゆえ本発明では、公知のセンサ素子、センサ素子を含むセンサシステム、センサ素子の使用方法の欠点の少なくとも一部を回避する、ガス特性検出用のセンサ素子とセンサシステムとセンサ素子の使用とを開示する。このセンサ素子は、測定ガス空間内のガスの少なくとも1つの特性を検出するのに使用され、とりわけ混合気中のガス成分を検出するのに使用される。たとえば前記混合気は、内燃機関の排ガスであり、とりわけディーゼルエンジンまたはガソリンエンジンの排ガスである。しかし、別の構成の測定ガス空間も基本的には可能であり、該測定ガス空間をたとえば別のセンサ素子のスペースや、比較的大きなセンサ素子のスペースとすることもできる。前記ガスの少なくとも1つの特性は、たとえば上述のように、該ガスに含まれるガス成分の割合とするかまたは該割合を含むことができる。すなわち前記少なくとも1つの特性を、ガス成分のパーセンテージおよび/または分圧とするか、または該少なくとも1つの特性は該ガス成分のパーセンテージおよび/または分圧を含むことができる。前記少なくとも1つのガス成分はとりわけ、酸素および/または窒素酸化物(NOx)であり、このことに応じてセンサ素子を、たとえば電気化学的な排ガスNOxセンサとして構成することができ、とりわけ未処理エミッション用の電気化学的な排ガスNOxセンサとして構成することができる。前記センサ素子はとりわけ、後述のように、モノリシック構成とすることができる。すなわち、モノリシック型の電気化学的な排ガスNOxセンサおよび/または排ガスOセンサとすることができる。
【0005】
前記センサ素子は少なくとも1つの第1のセルと少なくとも1つの第2のセルとを含む。前記第1のセルは少なくとも1つの第1の電極と、少なくとも1つの第2の電極と、両電極を相互に接続する第1の固体電解質とを有している。前記第2のセルは少なくとも1つの第3の電極と、少なくとも1つの第4の電極と、両電極を相互に接続する第2の固体電解質とを有している。前記第2の電極は少なくとも1つの第1の電極空洞内に配置されており、前記第4の電極は少なくとも1つの第2の電極空洞内に配置されている。前記第1の電極空洞には、前記測定ガス空間中のガスが供給され、前記第2の電極空洞には、該第1の電極空洞中のガスが供給される。前記第1の固体電解質および前記第2の固体電解質はそれぞれ少なくとも1つの固体電解質材料を含み、該固体電解質材料は、該固体電解質材料のイオン伝導度よりも低いイオン伝導度を有する少なくとも1つの支持部材内に埋め込まれている。両固体電解質材料を別個のものとするか、または両固体電解質材料全体を同一とするか、または両固体電解質材料の一部を同一とすることができる。
【0006】
前記少なくとも1つの第1のセルは複数とすることもでき(たとえばポンプカスケードの場合には、該ポンプカスケードに含まれる第1のセルを2つまたは3つ以上とすることができる)、たとえば、前記第1の電極が前記測定ガス空間に直接または間接的に接続されるように、前記少なくとも1つの第1のセルを構成することができる。たとえば、少なくとも1つのガス透過層を介して前記第1の電極を前記測定ガス空間に接続し、この接続によって該第1の電極から該測定ガス空間へガスが輸送され、また逆に、該測定ガス空間から該第1の電極へガスが輸送されるようにすることができる。この構成の代わりに、前記第1の電極を、前記測定ガス空間および両電極空洞から分離された別の空間内に配置し、たとえば、該第1の電極において生成ないしは分解されたガスが該別の空間へ放出されるように構成することもできる。両電極はとりわけ、前記固体電解質材料に接続される電極材料を含むことができ、たとえば少なくとも1つの貴金属を含むことができる。とりわけ前記電極材料は、白金および/またはパラジウムおよび/またはロジウムとすることができ、とりわけ該電極材料を、少なくとも1つの貴金属セラミック化合物とすることができ、たとえばいわゆるサーメットとすることができる。前記第1の電極空洞はたとえば、前記センサ素子の多層構成体の比較的下位の層平面に配置することができ、該第1の電極空洞は前記測定ガス空間から分離されて設けられる。前記第1の電極空洞に前記測定ガス空間中のガスを供給するためには、たとえば少なくとも1つの開口および/または少なくとも1つの供給孔および/または別の形態の連通部を設けることができる。前記測定ガス空間と前記第1の電極空洞との連通部はたとえば、ガスおよび/または該ガス中の成分の通流および/または拡散を低減する部材を含むことができ、たとえば少なくとも1つの拡散バリアおよび/または少なくとも1つの通流バリアを含むことができる。前記少なくとも1つの拡散バリアはたとえば、少なくとも1つの多孔質材料を含むことができ、たとえば多孔質Alを含むことができる。
【0007】
前記第1の電極空洞および前記第2の電極空洞は複数設けることができ、これら両電極空洞も相互に分離されて設けられることにより、該第1の電極空洞から該第2の電極空洞へのガス輸送またはその逆に該第2の電極空洞から該第1の電極空洞へのガス輸送が少なくとも制限されるように構成される。とりわけ、前記ガスの通流および/または拡散または該ガス中の少なくとも1つのガス成分の通流および/または拡散を少なくとも部分的に制限する少なくとも1つの制限部材によって、前記第1の電極空洞と前記第2の電極空洞とを分離することができ、とりわけ拡散バリアおよび/または少なくとも1つの通流バリアによって両電極空洞を分離することができる。基本的には、前記第1の電極空洞および前記第2の電極空洞を、前記少なくとも1つの制限部材によって相互に分離された、2つ以上の分離された複数の部分空洞とし、1つの同じ空洞とすることもできる。
【0008】
前記第3の電極もまた、前記測定ガス空間に直接または間接的に接続することができ、たとえばこの接続においても、少なくとも1つのガス透過性保護層および/または少なくとも1つの開口によって該第3の電極と該測定ガス空間とを接続することができる。このような構成によってたとえば、前記第3の電極と前記測定ガス空間との間において実質的に阻害されずにガス交換を行うことができる。また上記構成の代わりに、前記第3の電極も前記第1の電極と同様に、前記測定ガス空間と別個に設けられた別の空間内に配置することにより、たとえば該第3の電極において分解されたガスを該別の空間内に逃がすことができる。有利には、前記第3の電極と前記第1の電極とは別個に設けられる。しかし基本的には、前記第3の電極と前記第1の電極とを少なくとも部分的に同一部分とすることも可能である。
【0009】
たとえば、前記第1の固体電解質と前記第2の固体電解質とは、相互に別個の固体電解質として設けられる。その際には、上述の各セルが前記固体電解質を複数含むこともでき、たとえば複数の固体電解質フィールド(パッチ)として設けられた複数の固体電解質を含むこともできる。上記構成の代わりに、前記第1のセルと前記第2のセルとが、少なくとも1つの共通の固体電解質を共有することにより、該第1の固体電解質の構成部分と該第2の固体電解質の構成部分とが少なくとも部分的に同一であるように設けることもできる。しかし有利には、前記第1の固体電解質と前記第2の固体電解質とを別個に分離して設ける。
【0010】
相互に接続された前記第1のセルおよび前記第2のセルの他に、有利には別のセルを設けることもできる。この別のセルは場合によっては別の空洞に接続することもでき、該別の空洞を相互に接続することもできる。たとえば、前記第1のセルは複数の部分セルのカスケード構成体を含むことができ、その際には、これら複数の部分セルはまとまって1つの第1のセルとして機能し、たとえば、該第1のセルのカスケード構成体においてガス成分の高濃度化を行うことができる。このことについては後で詳述する。第2のセルも同様に複数設けることができる。
【0011】
前記支持部材は、最適な絶縁作用を実現できるように構成することができ、それと同時に、該支持部材は最適な耐性を実現するように構成することもでき、とりわけ前記固体電解質材料より高い機械的強度を有するように構成することもできる。このような構成により、前記センサ素子の安定性と電解質特性とを別個に最適化することができる。とりわけ前記支持部材は、前記第1のセルおよび/または前記第2のセルを機械的に安定化するために、少なくとも1つの支持膜を含み、および/または少なくとも1つの支持膜から作製される。このような支持膜により、耐性と絶縁作用とを最適化することができる。前記支持部材はとりわけ、少なくとも1つの絶縁材料を含む少なくとも1つの支持材料を含むことができ、とりわけ、少なくとも1つの絶縁材料を含む少なくとも1つの支持材料から作製することができる。前記絶縁材料は特に、たとえばAl等であるとりわけ酸化アルミニウムであるセラミック絶縁材料と、とりわけ酸化アルミニウムであるセラミック酸化物と、5%未満の割合の異種相(Fremdphase)を含む、とりわけ酸化アルミニウムであるセラミック酸化物と、最大50%の割合のガラス相を含む、とりわけ酸化アルミニウムであるセラミック酸化物とのうち、少なくとも1つの材料を含むか、または少なくとも1つの材料から作製することができる。
【0012】
前記センサ素子はとりわけ多層構成体を含むことができる。すなわち、複数の層平面たとえば複数の膜が相互に重なって配置された構成体を含むことができる。前記多層構成体はたとえばラミネート法で作製することができ、場合によっては該ラミネート工程の後に、1つまたは複数の焼結工程を行うことができる。とりわけ前記多層構成体は少なくとも2つの支持部材を含むことができ、有利には3つ以上の支持部材を含むことができる。この支持部材はとりわけセラミック膜とすることができ、たとえばセラミック絶縁膜とすることができる。前記複数の支持部材は、たとえばラミネート法によって相互に接続することができ、とりわけ該ラミネート工程の後に、少なくとも1つの焼結工程を施すことができる。
【0013】
前記第1の固体電解質および前記第2の固体電解質を形成するのに使用される固体電解質材料は、とりわけ少なくとも1つの金属酸化物を含むことができ、特に、とりわけ二酸化ジルコニウム(ZrO)である少なくとも1つの酸化ジルコニウムを含むことができる。この金属酸化物はとりわけ、スカンジウム、イットリウム、セリウム、カルシウムのうち1つまたは複数のドープ材を用いて安定化および/またはドープすることができる。とりわけ前記固体電解質材料は、イットリウムおよび/またはスカンジウムおよび/またはカルシウムおよび/またはセリウムがドープされた二酸化ジルコニウムとすることができる。
【0014】
上述の支持部材で必要とされるのは、該支持部材が前記固体電解質材料のイオン伝導度より低いイオン伝導度を有することのみである。有利には、支持部材および/または固体電解質材料が電気伝導度を有するようには構成されないが、支持部材および/または固体電解質材料が電気伝導度も有する場合にはさらに、該支持部材の電気伝導度が該固体電解質材料の電気伝導度より低くなるように構成しなければならない。有利には、前記支持部材のイオン伝導度は前記固体電解質材料のイオン伝導度の少なくとも1/10であり、有利には1/100であるか少なくとも1/1000である。前記支持部材および前記固体電解質材料に電気伝導度も存在する場合には、有利には、上述のイオン伝導度比を電気伝導度にも適用する。前記支持部材は、完全な絶縁特性を有する代わりに、少なくとも僅かなイオン伝導特性および/または電気伝導特性を有するように設けることもでき、たとえば該支持部材は、少なくとも1つの固体電解質材料を含むことができ、たとえば少なくとも1つの金属酸化物を含むことができ、有利には、前記セルの固体電解質材料に使用されるのと同じ金属酸化物を含むことができる。この場合にはたとえば、前記金属酸化物にドープされる量を、前記第1のセルおよび/または前記第2のセルの固体電解質材料のドープ量より少量にすることができる。このようにして、金属酸化物の形態の同一のマトリクス材料を使用することにより、良好なプロセス適合性を実現することができ、たとえば、支持部材の膨張特性とセルの固体電解質材料の膨張特性とが同様になり、および/または、支持部材の熱機械的特性とセルの固体電解質材料の熱機械的特性とを同様にすることができる。その際には、第1のセルの固体電解質と第2のセルの固体電解質とを同一にするか、または異なるものとすることができる。たとえば、前記支持部材の固体電解質材料は、二酸化ジルコニウムが混合された酸化アルミニウムを含むことができる。
【0015】
とりわけ、前記支持部材の全部または一部をフレームとして形成することができる。このフレームは、前記少なくとも1つの第1のセルおよび/または前記少なくとも1つの第2のセルを少なくとも部分的に包囲する。たとえば前記フレームは、前記支持部材の1つまたは複数の膜を含むことができる。この膜には、完全に閉じられた少なくとも1つの開口または少なくとも部分的に閉じられた少なくとも1つの開口が設けられる。たとえば、前記支持部材は少なくとも1つの膜を含み、多層構成体のラミネートおよび/または焼結前に該少なくとも1つの膜に前記少なくとも1つの開口が打ち抜きまたは切除によって設けられるかまたは別の手法によって設けられ、たとえば機械的な手法および/またはレーザ法によって設けられる。このようにしてたとえば、インレイ技術を実施することができる。このインレイ技術では、前記支持部材ないしは該支持部材の少なくとも1つの開口に前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質および/または場合によっては別の固体電解質をインレイの形態で使用することができる。たとえば、前記インレイの焼結前の厚さを150μm〜750μmとし、焼結後の厚さを50〜250μmとすることができる。基本的には、前記インレイの厚さを別の厚さとすることもできる。その際には、前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質は、前記フレームのちょうど1つの開口を含むか、または、前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質を作製するために複数の開口をもうけることもできる。たとえば前記第1のセルは、前記支持部材に複数の開口を含むことができ、すなわち2つまたは3つ以上の開口を含むことができ、該開口にはそれぞれ、完全または部分的に第1の固体電解質が充填されており、たとえば亀の甲の模様の形態および/または複数の円形または多角形のインレイの形態で充填することができる。第2のセルおよび/または場合によっては前記センサ素子に含まれる別のセルも同様に構成することができる。
【0016】
前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質および/または場合によっては別のセルの別の固体電解質の固体電解質材料がとりわけ少なくとも1つのインレイの形態で挿入された少なくとも1つの開口を前記支持部材が有し、たとえば該開口をセルごとに少なくとも1つ有する上述のインレイ技術によって、該固体電解質の固体電解質材料と該支持部材とを相互に別個に最適化することができ、支持部材の材料の機械的安定性および/または絶縁特性を最適化することができると同時に、前記固体電解質ではそれに対して、電気的特性および/または電解質特性を最適化することができる。その際には、第1の固体電解質および/または第2の固体電解質の固体電解質材料のドープ量を、通常のセンサ素子の場合のドープ量より多くすることができ、このことによって場合によっては、より高いイオン伝導度を実現することができる。前記固体電解質材料を包囲する支持部材によって該固体電解質材料が機械的に安定化されることにより、通常は、ドープ量が多くなることに伴う機械的強度の低下を甘受することができる。
【0017】
別の有利な構成は、前記第1のセルおよび/または前記第2のセルの構成に関するものであり、前記第1のセルおよび前記第2のセルの前記電極空洞内に配置された電極はとりわけ、相互に異なる特性を有することができ、たとえば、ガスおよび/またはガス中の各成分に対する両電極の反応が相互に異なるようにすることができる。たとえば、前記第2の電極の触媒特性が前記第4の電極の触媒特性と異なるようにすることができ、たとえば前記第2の電極の触媒活性が第4の電極の触媒活性より小さくなるように、たとえば、該第2の電極が窒素酸化物を分解する触媒活性が、該第4の電極の窒素酸化物分解の触媒活性より小さくなるように、該第2の電極を構成することができる。こうするためにはたとえば、前記第2の電極の触媒特性が低下するように該第2の電極に「毒を添加」することができる。この第2の電極に毒を添加するためにはたとえば、該第2の電極に、窒素酸化物分解を阻止するための少なくとも1つの触媒毒を混合するか、または異なる手法によって触媒毒を添加する。たとえば、窒素酸化物分解を阻止するために第2の電極に金を添加し、たとえば金添加された白金電極または白金サーメット電極を構成することができる。このようにしてたとえば、前記第1の電極空洞内において、前記少なくとも1つの第1のセルをポンプセルとして設けることにより、窒素酸化物分解が行われることなく、該第1の電極空洞内に存在する酸素を少なくとも部分的に排出することができる。このようにして、前記第1の電極空洞内の窒素酸化物の濃度を上昇させることができ、該窒素酸化物はたとえば前記制限部材を介して前記第2の電極空洞内に到達することができる。このようにして、少なくとも第4の電極が内部に配置されたこの第2の電極空洞内において、たとえば窒素酸化物の分解が行われて酸素が発生する。この窒素酸化物の分解ではたとえば、NOxが酸素と窒素とに分解されるか、または、より小さい酸化数を有する窒素酸化物に分解される。このようにして前記第2のセルにおいて測定されるポンプ電流は、たとえば第2の電極空洞内の窒素酸化物濃度を表す尺度として使用することができる。
【0018】
上述のように、前記少なくとも1つの第1のセルは複数の部分セルを含むことができ、たとえば2つまたは3つ以上の部分セルを含むことができる。とりわけ、前記部分セルが相互に独立して動作可能であるように構成することができるが、その場合にも、前記部分セルはたとえば少なくとも1つの要素を共用することができ、たとえば少なくとも1つの電極および/または前記少なくとも1つの固体電解質を共用することができる。しかし、前記部分セルの少なくとも1つの要素はそれぞれ、1つの部分セルに対してのみ設けなければならない。このような構成ではたとえば、複数の部分セルを使用することにより、たとえば、第1の電極空洞内から酸素を排出することによって所定のガス成分の濃度を順次増大させるための、ポンプセルのカスケード構成を実現することができる。前記複数の部分セルは、第1の電極空洞の複数の別個の部分空間内に配置することができ、たとえば、該第1の電極空洞を複数の部分空間に分割することができる。これらの複数の部分空間はたとえば、1つまたは複数の制限部材によって、たとえば1つまたは複数の上述の制限部材によって相互に分離することができる。このようにして、1つの部分セルから次の部分セルへ、そのつど濃度が上昇していくガスを順次流入させることができ、および/または、1つの部分セルから次の部分セルへの拡散を行うことができる。このような複数の部分セルを通過した後に、前記少なくとも1つの第2の電極空洞内に流入および/または拡散していく。
【0019】
前記センサ素子はさらに、少なくとも1つの監視セルを含むことができる。前記第1のセルおよび/または前記第2のセルが有利にはポンプセルとして、前記センサ素子を規定通りに動作させるためのセンサシステム内または方法において動作し、その全部または一部をネルンストセルとして使用できるのに対し、前記監視セルは有利にはネルンストセルとして動作する。前記監視セルは少なくとも1つの第5の電極と少なくとも1つの第6の電極とを有し、さらに、該第5の電極と該第6の電極とを接続し少なくとも1つの固体電解質材料を含む第3の固体電解質を有する。前記監視セルの固体電解質材料に関しては、前記第1のセルおよび前記第2のセルの固体電解質材料に関して上述した事項を参照することができる。前記第3の固体電解質の全部または一部は、前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質と同一とすることができる。その際には、前記第5の電極が前記第1の電極空洞内に配置されるように前記監視セルが設けられる。前記第1の電極空洞が複数設けられている場合、前記第5の電極はこれら複数の第1の電極空洞のうち1つまたは複数またはすべての電極空洞内に配置することができる。複数の第5の電極を使用することもできる。それに対して第6の電極は、少なくとも1つの基準ガス空間内に、すなわち、既知のガス雰囲気が存在するかまたは既知のガス雰囲気に調整された空間内に配置される。この空間は有利には、前記測定ガス空間から分離された別個の空間である。たとえば前記基準ガス空間は、内部に既知の酸素濃度が存在する空間であり、とりわけ内部の空気率が既知である空間である。前記基準ガス空間はたとえば、大気中の空気が充填された空間とすることができる。この基準ガス空間の全部または一部を、基準空気流路として形成することもでき、たとえば、内燃機関の周辺に接続された基準空気流路として形成することもできる。また前記構成の代わりに、基準ガス空間の全部または一部を、前記測定ガス空間と一緒にまとめ、および/または、該測定ガス空間に連通させることもできる。
【0020】
有利には、前記第3の固体電解質の固体電解質材料も前記少なくとも1つの支持部材内に埋め込まれる。前記第3の固体電解質が前記支持部材に埋め込まれる可能な実施形態に関しては、前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質の上記説明を参照することができる。その際には、前記第1の固体電解質および/または前記第2の固体電解質が埋め込まれたのと同一の支持部材に前記第3の固体電解質を埋め込むことができ、また、該第3の固体電解質を別の支持部材に埋め込むこともできる。前記第1の固体電解質および前記第2の固体電解質も同一の支持部材に埋め込むことができ、また、第1の固体電解質と第2の固体電解質とをそれぞれ異なる支持部材に埋め込むこともできる。本発明ではさらに、上述の1つまたは複数の実施形態のセンサ素子の他に、該センサ素子を少なくとも1つ含むセンサシステムも開示する。前記センサシステムはさらに、前記少なくとも1つの第1のセルおよび前記少なくとも1つの第2のセルをポンプカスケードとして動作させ、特に、とりわけ窒素酸化物である少なくとも1つのガス成分を濃度上昇および検出するように構成されている。こうするためには、前記センサシステムはたとえば制御部を有することができ、該制御部はたとえば、上述のカスケード構成を動作させるための1つまたは複数の電子回路部品および/または1つまたは複数のデータ処理構成要素を用いて構成されている。このような構成によってたとえば、前記少なくとも1つの第1のセルにおいて、検出対象であるガス成分の濃度上昇が行われ、その後、該ガス成分はたとえば前記第2のセルにおいて検出される。オプションとして設けられる前記第3のセルはたとえば、前記第1の電極空洞内の少なくとも1つの特性を監視するために使用することができ、たとえば酸素割合(たとえばパーセンテージおよび/または分圧)を検出および/または制御および/またはフィードバック制御するために使用することができる。この少なくとも1つの第3のセルによって検出された測定量はたとえば、前記第1のセルおよび/または前記第2のセルのポンプ電流をフィードバック制御および/または制御するために使用することができる。前記第2のセルのネルンスト信号および/またはポンプ電流を出力信号として使用するか、または、該ポンプ電流および/またはネルンスト信号から出力信号を導出することができる。この出力信号はたとえば、検出対象である少なくとも1つのガス成分の割合を表すことができ、たとえば測定ガス空間内のガス中に含まれる窒素酸化物の割合を表すことができる。
さらに、上述の複数の実施形態におけるセンサ素子の使用も開示する。本発明の使用では、排ガス中の窒素酸化物の検出のために前記センサ素子を使用するか、または前記センサ素子を広帯域酸素センサとして使用するか、または両目的のために該センサ素子を使用する。ここでは、広帯域センサとは一般的に、検出対象であるガス成分の割合を正確に検出できる空気率領域および/または該ガス成分の濃度領域が比較的大きいセンサ素子を指す。可能な実施形態については、上記で引用した従来技術を参照することができる。
【0021】
本発明により、公知のセンサ素子および/またはセンサシステムの上述の欠点を少なくとも十分に回避することができ、たとえば、センサ素子基板として使用される支持部材もセラミック固体電解質から作製する必要がなくなり、たとえばイットリウム安定化二酸化ジルコニウムから作製する必要がなくなる。このようにして、従来技術では上述のように熱機械的耐性と動作特性との間で妥協しなければならなかったのを回避するか、または両特性を最大限にすることができる。さらに、前記支持部材をセラミック固体電解質から作製しなくてもよくなり、このことによって、たとえばスクリーン印刷によって作製される絶縁層によって個々の加熱領域および/または電極領域および/または給電領域を絶縁する大きな手間を解消することができる。このことにより、センサ素子の構成を簡略化することができる。それにもかかわらず、従来技術において見られる形状および精度にかかる制約を甘受しなくてもよくなる。というのも、支持部材の絶縁特性を最大限にすることにより、入力結合および漏れ電流を最大限に回避し、この入力結合や漏れ電流によって生じる信号の変化を最大限に回避できるからである。このようにしてとりわけ、とりわけ排ガスNOxセンサにおいて得られる測定信号のように、電流測定による測定信号が小さい場合に生じる問題を回避することができ、高い精度と正確な測定信号とを実現することができる。
【0022】
とりわけ上述のインレイ技術により、たとえば打ち抜き技術(Einstanztechnik)によって、支持部材をたとえば支持膜の形態で作製することができ、かつ、主に該支持膜の機械的安定性および/または熱安定性(たとえば熱衝撃安定性)および/または熱水安定性の特性を最適化することができる。この支持部材には、特別に適合された固体電解質の形態の機能インレイを備えることができる。この技術によってとりわけ、センサセラミックのモノリシック構成を実現することができる。すなわち、たとえば外形および/または安定性を実現するために実質的に同一の支持部材が使用される構成を実現することができ、この支持部材は、相互にラミネートされた複数の層から構成することもできる。たとえばセルの領域等である機能領域のみに、適切な機能インレイを備えることができる。このようにして、センサセラミックのモノリシック構成を実現することができ、とりわけ、動作のために1つまたは複数の組み込まれたネルンストセルおよび/または1つまたは複数の組み込まれたポンプセルを必要とするセンサ素子を実現することができる。前記センサ素子全体をたとえば、機械的に高強度であり電気絶縁性が高いAlセラミックから作製することができる。このような構成では、前記少なくとも1つのネルンストセルおよび/または前記少なくともポンプセルを実現するために、電極領域および/または固体電解質材料から成るセルの領域において小さい制限された領域のみ、とりわけいわゆる窓のみを設けることができるようになる。本発明ではその際には、固体電解質材料として、機能最適化された固体イオン伝導体を選定することができ、たとえば、スカンジウムドープされたZrOを使用することにより、機械的強度の低下や材料コストの上昇を引き起こすことなく、低温イオン伝導特性を最適化することができる。別の重要な利点として、電極領域および給電線と、場合によっては少なくとも1つの加熱素子とにおいて、相互間の電気的絶縁を簡略化することができる。従来技術ではたとえば、伝導性の二酸化ジルコニウム基板上に絶縁層を印刷することにより、該絶縁層によって電極および給電線を相互に絶縁していた。このような絶縁手法は手間を要し、不具合が生じることが多い。高絶縁性の基板を支持部材として使用することにより、場合によって生じる、加熱体入力結合および/または貫通絶縁体に関する問題を回避することができ、動作精度をより高くすることができる。本発明の構成はさらに、公知のセンサ素子と比較してセンサ素子をより小型化できるという別の利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のセンサ素子および本発明のセンサシステムの実施例を示す。
【0024】
実施例
図1に一例として、本発明のセンサシステム110の一実施例を示す。このセンサシステム110は、本発明のセンサ素子112と、該センサ素子112に接続された制御部114とを有する。前記制御部114の全部または一部を、図1に示されているように外部の制御部として設けることができ、1つまたは複数のインタフェース116を介して該制御部114と前記センサ素子112とを接続することができる。また、上述の構成の代わりに、または上述の構成とともに、前記制御部114の全部または一部をセンサ素子112に組み込むことができ、たとえば該センサ素子112のケーシング(図1には示されていない)および/または該センサ素子112の多層構成体に組み込むことができ、種々の構成が可能である。前記制御部114はたとえば、1つまたは複数の電流源および/または1つまたは複数の電圧源および/またはたとえば電流測定用および/または電圧測定用の1つまたは複数の測定装置を含むことができ、たとえば適切な給電線を介してこれらをセンサ素子112に接続することができる。種々の構成が可能であり、当業者は以下の説明に基づいて、これらの構成を実現することができる。
【0025】
前記センサ素子112は多層構成体で構成される。図1には、このセンサ素子112の断面を示している。一例として、測定ガス空間118内の窒素酸化物を検出するために構成されたセンサ素子112を示す。このセンサ素子112は第1のセル120を有し、図中の実施例では、該第1のセル120は第1の部分セル122と第2の部分セル124とを含む。またこの構成の代わりに、前記第1のセル120が1つのセルのみを含む構成も可能であり、また2つ以上の部分セルを含むこともできる。前記第1のセル120の第1の部分セル122および第2の部分セル124はそれぞれ、外部ポンプ電極126ないしは128を含み、これらの外部ポンプ電極126,128はそれぞれ、前記第1のセル120の第1の電極130として機能する。図中の実施例では、前記外部ポンプ電極126,128は測定ガス空間118に直接さらされており、および/または該測定ガス空間118に接続されている。このことにより、測定ガス空間118とのガス交換が可能になる。さらに、前記部分セル122,124はそれぞれ、第1の固体電解質132を含む。図中の実施例ではこの第1の固体電解質132は、前記第1の部分セル122に対して設けられ固体電解質材料を有する第1の固体電解質インレイ134(図1では文字Aも使用して表されている)と、前記第2の部分セル124に対して設けられ同様に固体電解質材料を有する第2の固体電解質インレイ136(図1では文字Bも使用して表されている)とを含む。複数の第1の固体電解質インレイ134および/または複数の第2の固体電解質インレイ136および/または両部分セル122,124を構成するために設けられた1つの共用の第1の固体電解質132を有する構成も可能である。前記固体電解質インレイ134,136は、フレームとして機能する支持部材140に設けられた開口138に挿入されている。この詳細については後述する。さらに、前記第1のセル120は第2の電極142として、第1の部分セル122に対して設けられた第1の内部ポンプ電極144と、第2の部分セル124に対して設けられた第2の内部ポンプ電極146とを含む。前記第2の電極142は第1の電極空洞148内に配置されており、前記測定ガス空間118に接続された連通部150を介して、該第1の電極空洞148にガスおよび/またはガス成分が供給される。図中の実施例では前記連通部150は、前記測定ガス空間118内から前記第1の電極空洞148内へガスが拡散および/または流入するのを制限するかまたはその逆に該第1の電極空洞148から該測定ガス空間118へガスが拡散および/または流入するのを制限する制限部材152を含んでいる。前記制限部材152はたとえば、多孔質材料である拡散バリア154とすることができる。たとえば排ガスおよび/または別のガスが前記測定ガス空間118内から前記制限部材152を通って、前記第1の電極空洞148内へ流入および/または拡散することができる。
【0026】
さらに、図中の実施例では前記センサ素子112は少なくとも1つの第2のセル156を含む。図中の実施例ではこの第2のセルは、第1のセル120が設けられたのと同一の層平面に配置されているが、この第2のセルは基本的に、別の層平面に設けることもできる。図中の実施例では、前記第2のセル156は第3の電極158を含んでおり、該第3の電極158はNO外部ポンプ電極160として形成され、および/または動作することができ、図中の実施例では一例として、該第3の電極158も測定ガス空間118に結合されている。さらに、前記第2のセル156は第4の電極162も有し、該第4の電極162はたとえばNO内部ポンプ電極164として形成され、および/または動作することができ、該第4の電極162は第2の電極空洞166内に配置されている。前記第1の電極空洞148と前記第2の電極空洞166とは制限部材168を介して連通されている。たとえば、この制限部材168も拡散バリア154とすることができる。その際には、図中の実施例では両電極空洞148,166が、前記制限部材168を介して相互に分離された部分空間となって、1つの比較的大きな空洞を成すが、ガスおよび/またはガス成分が前記第1の電極空洞148内から前記第2の電極空洞166内へ流入および/または拡散することができ、また逆に、該第2の電極空洞166内から該第1の電極空洞148内へガスおよび/またはガス成分が流入および/または拡散できるようにしなければならない。とりわけ、図1中において符号NOによって表された窒素酸化物が第1の電極空洞148内から第2の電極空洞166内に拡散および/または流入するか、または逆に、窒素酸化物が第2の電極空洞166内から該第1の電極空洞148内に拡散および/または流入でき、かつ、この拡散および/または流入が前記制限部材168によって減速されるかまたは少なくとも制限されるようにすることができる。
【0027】
前記第2のセル156もまた複数の部分セルを含むことができ、さらに該第2のセル156は、前記第3の電極158と前記第4の電極162とを接続する第2の固体電解質170を有し、この実施例では該第2の固体電解質170もまた、フレームとして機能する前記支持部材140に設けられた開口138に配置され固体電解質材料を含む固体電解質インレイ172として形成することができる。図1では、前記固体電解質インレイ172は文字Cも使用して表されている。さらに図中の実施例では、前記センサ素子112は監視セル174も有する。この監視セル174は、前記多層構成体のうち低い位置の層平面に配置することができ、たとえば前記電極空洞148,166より下方に配置することができる。前記監視セル174もまた複数の部分セルを含むことができ、またネルンストセルとして動作することができ、該監視セル174は、前記第1の電極空洞148内に配置された第5の電極176と、基準空気流路178に配置された第6の電極180とを有し、さらに該監視セル174は、該第5の電極176と該第6の電極180とを接続する第3の固体電解質182も有する。図中の実施例では一例として、この第3の固体電解質182もまた、前記支持部材140の開口138内に配置され固体電解質材料を含む固体電解質インレイ184として設けることができる。しかし基本的には、前記監視セル174を従来のように作製することもできる。図中の実施例では、前記第3の固体電解質182は文字Dを用いて表されている。前記制御部114は、前記第1のセル120および前記第2のセル156をポンプセルとして動作させるように構成することができる。その際にはたとえば、両ポンプセルのポンプ電流を検出することができる。前記監視セル174はたとえばネルンストセルとして動作させることができる。その際には、たとえば第1の電極空洞148と基準空気流路178との間の酸素成分の分圧差に起因して前記監視セル174に生じるネルンスト電圧を検出することができる。たとえば、前記基準空気流路178の全部または一部に何も充填せずに構成することができるが、基本的には、該基準空気流路178の全部または一部に、ガス透過性の多孔質材料を充填することができ、たとえば多孔質の酸化アルミニウムを充填することができる。また基本的には、前記第1の電極空洞148および/または前記第2の電極空洞166の全部または一部にも何も充填せずに構成することができるが、該第1の電極空洞148および/または第2の電極空洞166の全部または一部にガス透過性の多孔質材料を充填することもできる。
【0028】
図1に示された実施例のセンサ素子112は、多層構成で作製されている。その際には、前記支持部材140はたとえば2つまたは3つ以上の支持膜186を含む。これらの支持膜186は有利には絶縁材料から作製され、たとえばセラミック絶縁材料から作製される。この絶縁材料はとりわけ酸化アルミニウム膜とすることができ、たとえばAl膜とすることができる。この実施形態に関しては、図1において、上述のような絶縁材料から作製された3つの支持膜186が使用された実施例が示されている。これら3つの支持膜186はたとえば、まず最初に相互にラミネートされ、その後、これらの支持膜186に1つまたは複数の焼結工程を実施することができる。その際にはたとえば、ラミネート前に前記支持膜186に前記開口138を、打ち抜き、型押し、切り込みまたは別の手法によって形成することができ、該開口138が前記支持部材140の窓、とりわけ該支持膜186の窓を形成するようにする。図1に示された多層構成体では、第1の支持膜188が前記第1のセル120および前記第2のセル156を支持するための支持部材140となり、第2の支持膜190が両電極空洞148,166と前記監視セル174とに対する支持部材140となり、第3の支持膜192が前記基準空気流路178に対する支持部材140となる。たとえば、第3の支持膜192の下方に配置される加熱素子を支持するために別の支持膜186を設けることもできる。この加熱素子は、図1中に示されていない。
【0029】
前記支持部材140は有利には支持材料を含み、該支持材料の機械的特性および/または熱機械的特性および/またはイオン伝導および/または電気伝導の絶縁特性ないしは絶縁は最適化することができる。とりわけ、前記支持材料を上述のようにAlとすることができる。このことに相応して、前記複数の支持膜186はたとえば、材料組成が同じであるAlセラミック膜を含むことができる。有利には、これらのAlセラミック膜の層厚は等しい。その際には第1の支持膜188は、固体電解質132,170を設けるための窓として、有利には打ち抜きによって形成された開口138を含むことができる。第2の支持膜190はたとえば、第3の固体電解質182として固体イオン伝導体を設けるために有利には打ち抜きによって形成された窓として前記開口138を有することができる。前記固体電解質材料はたとえば、スカンジウム安定化および/またはイットリウム安定化および/またはセリウム安定化および/またはカルシウム安定化された二酸化ジルコニウムを、たとえばインレイ134,136,172および184の形態で含むことができ、たとえば、このような二酸化ジルコニウムのイオン伝導特性を最適化することができる。図1には示されていないが、電極給電線と、オプションとして(たとえば第5の電極176および/または第6の電極180のコンタクトを行うために)設けられる1つまたは複数のスルーコンタクトとを設けることができる。有利には、これらも支持部材140内に配置される。また、オプションとして1つまたは複数の加熱素子も設けることができるが、この加熱素子も図1には示されていない。この加熱素子はたとえば、スクリーン印刷によって組み込まれた1つまたは複数の白金ヒータである。
【0030】
以下、前記センサシステム110の動作を簡単に説明する。オプションとして実施される他の構成については、基本的に、従来技術から公知である排ガスNOxセンサを参照することができる。制限部材152を透過して、たとえば排ガス等であるガスが前記第1の電極空洞148内に拡散する。このガスはたとえば、図1に示されているように、酸素(O)および窒素酸化物(図1では一般化して、可能な酸化数を特定することなくNOを用いて表されており、また、NOxという表示を用いることもできる)を含む。図1では、網掛けされた円によって酸素原子を示しており、窒素分子は、網掛けされていない円によって示されている。第1の電極空洞148内において、第1のセル120によって窒素酸化物成分の濃度上昇が順次行われる。その際には、まず第1の部分セル122によって酸素が第1の電極空洞148内からポンピングで排出され、窒素酸化物が残る。前記第2の電極142において前記窒素酸化物が分解するのを阻止するため、たとえば所期のように毒を添加することにより、該第2の電極142の触媒特性を阻止または少なくとも低下させることができる。前記部分セル122,124は1つまたは2つまたは2つ以上設けることができ、この部分セル122,124が、部分セルごとに連続して混合気中の酸素割合が順次低減していくポンプカスケード構成体を構成することができる。たとえば、第1の電極空洞148内において第2の部分セル124の下方ではすでに、混合気中の酸素割合が、第1の部分セル122の下方の酸素割合より低くなっている。このようにして、濃度上昇を行うことができる。第2の部分セル124と、別の部分セルが設けられている場合には該別の部分セルとによって、第1の電極空洞148内からさらに酸素をポンピングで排出することにより、さらに濃度上昇を行うことができる。前記第1の電極空洞148内の酸素割合および/または該第1の電極空洞148内の1つまたは複数の場所における酸素割合を、たとえば前記少なくとも1つの監視セル174によって監視および/または制御および/またはフィードバック制御することができる。この監視セル174は複数設けることができ、複数の場所に設けることができる。
【0031】
窒素酸化物の割合が上昇した後、ガスおよび/またはガス成分は、前記第1の電極空洞148内から制限部材168を透過して前記第2の電極空洞166内に達することができる。第1のセル120が十分に機能している場合には、前記第2の電極空洞166内に達したガスは実際には、もっぱら窒素酸化物だけとなる。この窒素酸化物は第4の電極162において、図1において示されているように分解され、有利には触媒分解される。その際には窒素が分離されて第2の電極空洞166内に残るか、または該第2の電極空洞166内から、たとえば図1に示されていない開口を通って逃がすことができる。それに対し、前記分解で生成された酸素は第4の電極162において第2の固体電解質178内に取り込まれ、第3の電極158までポンピング輸送することができる。窒素酸化物がこのように窒素と酸素とに分解されることにより生成され前記第2のセル156に流れるポンプ電流、および/または、窒素酸化物がより小さい酸化数の窒素酸化物と酸素とに分解されることにより生成され該第2のセル156に流れるポンプ電流は、還元電流として、前記センサシステム110および/またはセンサ素子112の本来検出すべき測定信号を成す。前記ポンプ電流はたとえば、制御部114によって検出することができる。この還元電流はたとえば、前記測定ガス空間118のガス中に含まれる窒素酸化物の割合を表す尺度である。
【0032】
図1に示された実施例は、少なくとも1つの第1のセル120と少なくとも1つの第2のセル156とを含むセラミックセンサ素子112を備えた、電気化学的な排ガスセンサの可能な一実施例に過ぎず、たとえば前記セルは、ネルンストセルおよび/またはポンプセルとすることができる。1つの共用の支持部材140を用いることにより、前記センサ素子112をとりわけモノリシック構成とすることができ、とりわけ該センサ素子112を全体的に、耐性および電気絶縁性が最適化されたセラミック酸化物から作製することができる。最適なイオン伝導特性を有することができる固体電解質インレイを用いて実施される上述のインレイ技術により、センサ素子112の個々の構成要素の機能を別個に最適化することができる。上述のように、有利には、被印刷材として処理できる少なくとも3つの個々の膜を前記支持膜186として、これらの支持膜186から前記センサ素子112を作製することができる。これらの支持膜186はとりわけ、同じ組成を有することができる。たとえば、前記支持膜186を相互にラミネートしてまとめ、その後、該支持膜186に1つまたは複数の焼結工程を施すことができる。前記支持膜186はたとえば、5%未満の割合の異種相を含む酸化アルミニウムおよび/または最大50%の割合のガラス相を含む酸化アルミニウムから成る膜を含むことができる。前記開口138はとりわけ打ち抜きによって形成することができる。前記開口138は前記多層構成体の作製時に、前記固体電解質インレイ134,136,172および184の挿入前に設けることができる。前記固体電解質インレイの厚さはたとえば、焼結前では250〜750μmとすることができ、焼結後では50〜250μmとすることができる。図1に示された電気化学的なセンサ素子112はたとえば、上述のように排ガスNOxセンサとして使用することができる。本発明の最適化に関する上述の利点は、有利には1つまたは2つ以上のポンプセルが設けられオプションとして1つまたは2つ以上のネルンストセルが設けられるマルチセル構成において良く観察することができる。というのも、このように多数のセルを設けることにより、通常は多数の電極給電線が必要になるからである。多数の電極給電線と、場合によってはさらに少なくとも1つの加熱素子とが設けられる場合、従来技術の構成では、上述の電子的な問題、とりわけクロストークおよび/または入力結合が特に顕著に見られる。本発明の構成では、支持部材140のとりわけ絶縁特性および/または強度特性を最大限にすることができるので、このような本発明の構成では、多数の電極給電線および/または複数のスルーコンタクトが設けられていても、クロストークないしは電気的な入力結合を確実に保証することができる。
図1