特許第5795022号(P5795022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795022
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ダンパー付き耐力壁およびダンパー
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   E04H9/02 311
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-101248(P2013-101248)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-221980(P2014-221980A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2014年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】前田 珠希
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−149143(JP,A)
【文献】 特開2011−32777(JP,A)
【文献】 特開2010−121384(JP,A)
【文献】 特開2014−222012(JP,A)
【文献】 特開平5−332045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣合う柱の間にブレースを設け、このブレースの下端を、ダンパーを介して片方の柱の下部に接合したダンパー付き耐力壁であって、
前記ダンパーは、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結しかつ壁面に対する出入り方向の傾斜部分を有するエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とでなり、
前記柱接合用の垂直材が前記柱の側面に接合され、前記ブレース接合用の垂直材が、前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有し、この上方突出部に接合金物を介して前記ブレースの下端を接合した
ことを特徴とするダンパー付き耐力壁。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパー付き耐力壁において、前記ブレース接合用の垂直材が角パイプからなり、前記接合金物が、前記角パイプからなる垂直材の上端に接合されて前記片方の柱側へ片持ち状に延びる片持ち延出部を有し、この片持ち延出部上に前記ブレースの下端面を接合したダンパー付き耐力壁。
【請求項3】
請求項2に記載のダンパー付き耐力壁において、前記接合金物が、前記片持ち延出部および前記角パイプの上端面に接合される部分を構成して上下を向く接合用鋼板と、前記ブレースの側面と前記接合用鋼板の上面とに接合された上側のリブプレートと、前記上方突出部の側面と前記接合用鋼板の下面とに接合された下側のリブプレートとでなるダンパー付き耐力壁。
【請求項4】
耐力壁に設けられるダンパーであって、
互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結したエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とを備え、 前記板状のウェブ部が、前記平行板部に対して前記耐力壁の壁面の出入り方向に傾斜を成す一つまたは複数の傾斜板部により構成され、
前記柱接合用の垂直材が板状であり、前記ブレース接合用の垂直材が角パイプ状であってかつ前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有するダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄骨系等の住宅やその他の建物の耐力壁となり、地震などにより加わるエネルギーを吸収する機能を備えたダンパー付き耐力壁およびダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
図16は、住宅用耐力壁に組み込まれるダンパーの従来例を示す。図16(A),(B)に示す従来例では、ダンパーとしてH形鋼30を用い、これをそのウェブ部30aが耐力壁の壁面と垂直になるように耐力壁内に配置してX型ブレース34やK形ブレース35に接合し、前記ウェブ部30aで変形能力を確保している。図16(C)に示す従来例では、ダンパーとして鋼板のパネル31を用い、これを耐力壁の壁面と平行になるように耐力壁内に配置してK型ブレース35に接合し、前記パネル31にスリット31aを形成することで変形能力を確保している。図16(D)に示す従来例では、ダンパーとして極低降伏点鋼板32を用い、これを耐力壁の壁面と平行になるように耐力壁内に配置してX型ブレース34Aに接合し、極低降伏点鋼板32の伸び能力で曲げ変形能力を確保している。
【0003】
この他、図17に示すようなせん断ダンパー33を梁36およびブレース37に接合したものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−108668号公報
【特許文献2】特開2010−121348号公報
【特許文献3】特許4580458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エネルギー吸収要素として鋼材ダンパーを用いる場合、曲げ変形では変形能力は優れるが、耐力が低く、鋼材量が多くなる。一方、せん断変形では高耐力が期待できるが、変形能力が乏しい。
繰り返し作用する地震エネルギーを安定して吸収するには、耐力と変形能力のバランスが必要となる。
【0006】
そのため、図16(C)のように、ダンパーにスリットなどの加工を施し、あるいは図16(D)の例のように、鋼材として低降伏点鋼のような、高い伸び能力のあるものを用いるなどの必要がある。
しかし、スリットなどの加工を施す場合、加工の工程が増え、製造コストが高くなる。低降伏点鋼のような特殊な鋼材を用いる場合、材料コストが高くなる。
【0007】
せん断と曲げとの両方の変形を利用し、ダンパーの変形にせん断成分に加えて曲げ成分を加えることで、繰り返し作用する地震に対して安定したエネルギー吸収能力が得られると考えられる。
【0008】
このような課題を解消するダンパーとして、図18図19に示すものを提案した(特願2012−206778号)。この提案例のダンパー101は、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部102,102と、これら平行板部102を連結するエネルギー吸収用の板状のウェブ部103と、前記一対の平行板部102,102の両端間にそれぞれ接続した一対の垂直板部104,104とでなる。ウェブ部3は傾斜した鋼板113A,113Bからなる。
【0009】
図19に示すように、鉄骨フレーム構造の耐力壁120では、その柱121と上側梁122との接合部である上側隅部に一端が接合されたブレース124の他端に図の片方の垂直板部104が接合され、もう片方の垂直板部4は柱121に接合される。
【0010】
この提案例のダンパー101によると、ウェブ部103が、耐力壁120の壁面に対して出入り方向の傾斜を成しているので、高い変形能力が得られる。そのため、材料として低降伏点鋼を用いたり、ウェブ部103にスリットなどの加工を施すことなく、地震などにより耐力壁120の壁面に沿う水平方向の荷重を受けたとき、十分な変形能力を確保することができる。図20には、このダンパー1の耐力試験結果をグラフで示している。
【0011】
しかし、耐力壁の設計を行う場合、柱に121に接合されたダンパー101にブレース124をそのまま接合すると、柱芯とブレース芯がベースプレート面で交点がずれることがある。そのため、交点を一致させるために工夫する必要があった。
【0012】
この発明の目的は、ダンパーに、通常の鋼材を使用し、かつスリットなどの加工を施すことなく、安定したエネルギー吸収と大きな変形能力が得られ、かつ柱芯とブレース芯との交点のずれが発生し難いダンパー付き耐力壁、およびそのダンパーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のダンパー付き耐力壁は、隣合う柱の間にブレースを設け、このブレースの下端を、ダンパーを介して片方の柱の下部に接合したダンパー付き耐力壁であって、
前記ダンパーは、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結しかつ壁面に対する出入り方向の傾斜部分を有するエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とでなり、
前記柱接合用の垂直材が前記柱の側面に接合され、前記ブレース接合用の垂直材が、前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有し、この上方突出部に接合金物を介して前記ブレースの下端を接合したことを特徴とする。
【0014】
この構成によると、ウェブ部が壁面に対する出入り方向の傾斜部分を有する板状であるため、地震などにより建物の壁面に沿う水平方向の繰り返し荷重を受けたときに、せん断変形に、曲げ変形成分が加わり、安定したエネルギー吸収と、大きな変形能力とが得られる。
この大きな変形能力が、材料として低降伏点鋼を用いたり、ウェブ部にスリットなどの加工を施すことなく得られる。なお、低降伏点鋼を用い、あるいはウェブ部にスリットを設けた場合は、より大きな変形能力が得られる。また、ダンパーのせん断耐力・剛性は、前記ウェブ部の傾斜角度、板厚、幅寸法を調整することで容易に調整することができる。より大きな変形能力が求められる場合には、例えば、前記ウェブ部の壁面に対する傾斜角度を30度等に設定することで、より一層大きな変形能力を確保することができる。
また、前記ブレース接合用の垂直材が、前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有し、この上方突出部に接合金物を介して前記ブレースの下端を接合するため、柱芯とブレース芯との交点のずれが発生し難い。すなわち、柱芯とブレース芯とがベースプレート面で交点がずれることが回避される。
なお、ここで言うベースプレート面は、通常はベースプレートの下面とするが、建物の設計の都合上などから、ベースプレートの上面とする場合もあり、さらに柱脚の高さ範囲内の特定の箇所をベースプレート面と称する場合もある。
【0015】
この発明のダンパー付き耐力壁において、前記ブレース接合用の垂直材が角パイプからなり、前記接合金物が、前記角パイプからなる垂直材の上端に接合されて前記片方の柱側へ片持ち状に延びる片持ち延出部を有し、この片持ち延出部上に前記ブレースの下端面を接合しても良い。
この構成の場合、ブレース接合用の垂直材が角パイプからなるため、柱側へ片持ち状に延びる片持ち延出部を有する接合金物が安定して設置でき、ブレースを接合金物に接合し易い。
【0016】
この構成の場合に、前記接合金物が、前記片持ち延出部および前記角パイプの上端面に接合される部分を構成して上下を向く接合用鋼板と、前記ブレースの側面と前記接合用鋼板の上面とに接合された上側のリブプレートと、前記上方突出部の側面と前記接合用鋼板の下面とに接合された下側のリブプレートとでなる構成であっても良い。
前記各リブプレートが設けられることで補強効果が得られる。そのため、いずれも板状の接合用鋼板とリブプレートによる簡単な構成で堅固な接合が行える。
【0017】
この発明のダンパーは、耐力壁に設けられるダンパーであって、
互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結したエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とを備え、 前記板状のウェブ部が、前記平行板部に対して前記耐力壁の壁面の前後方向に傾斜を成す一つまたは複数の傾斜板部により構成され、
前記柱接合用の垂直材が板状であり、前記ブレース接合用の垂直材が角パイプ状であってかつ前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有する。
【0018】
この構成のダンパーによると、この発明のダンパー付き耐力壁につき前述したと同様に、ダンパーに、通常の鋼材を使用し、かつスリットなどの加工を施すことなく、安定したエネルギー吸収と大きな変形能力が得られ、かつ柱芯とブレース芯とがベースプレート面で交点のずれが発生し難いという効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のダンパー付き耐力壁は、隣合う柱の間にブレースを設け、このブレースの下端を、ダンパーを介して片方の柱の下部に接合したダンパー付き耐力壁であって、前記ダンパーは、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結しかつ壁面に対する出入り方向の傾斜部分を有するエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とでなり、前記柱接合用の垂直材が前記柱の側面に接合され、前記ブレース接合用の垂直材が、前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有し、この上方突出部に接合金物を介して前記ブレースの下端を接合したため、前記ダンパーに、通常の鋼材を使用し、かつスリットなどの加工を施すことなく、安定したエネルギー吸収と大きな変形能力が得られ、かつ柱芯とブレース芯との交点のずれが発生し難いという効果が得られる。
【0020】
この発明のダンパーは、耐力壁に設けられるダンパーであって、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部と、これら一対の平行板部を連結したエネルギー吸収用の板状のウェブ部と、前記上下一対の平行板部の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材とを備え、前記板状のウェブ部が、前記平行板部に対して前記耐力壁の壁面の出入り方向に傾斜を成す一つまたは複数の傾斜板部により構成され、前記柱接合用の垂直材が板状であり、前記ブレース接合用の垂直材が角パイプ状であってかつ前記一対の平行板部のうちの上側の平行板部よりも上方に突出した上方突出部を有するため、通常の鋼材を使用し、かつスリットなどの加工を施すことなく、安定したエネルギー吸収と大きな変形能力が得られ、かつ柱芯とブレース芯との交点のずれが発生し難いという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)はこの発明の一実施形態に係るダンパー付き耐力壁の正面図、(B)はそのダンパーの斜視図である。
図2】同耐力壁のダンパー付きのブレースの左側面図、正面図、右側面図、およびそのダンパー部分の下面図である。
図3】同ダンパーの拡大正面図である。
図4】同ダンパーの拡大左側面図、右側面図、および下面図である。
図5】同ダンパーの斜視図である。
図6】同ダンパーの断面図である。
図7】同ダンパーを接合する柱の柱脚付近を示す正面図、側面図、および破断平面図である。
図8】ダンパーの変形例の側面図である。
図9】(A),(B)はそれぞれダンパーのさらに他の変形例の側面図である。
図10】ダンパーのさらに他の変形例の側面図である。
図11】(A),(B)はそれぞれダンパーのさらに他の変形例の側面図である。
図12】ダンパーのさらに他の変形例の側面図である。
図13】ダンパーのさらに他の変形例の側面図である。
図14】(A)はダンパーのさらに他の変形例の側面図、(B)は従来例との違いの説明図である。
図15】この発明のダンパーと従来例との効果の違いの説明図である。
図16】従来例の説明図である。
図17】他の従来例の説明図である。
図18】提案例に係るダンパーの正面図、断面図、および斜視図である。
図19】同ダンパー備えた耐力壁の正面図である。
図20】同ダンパーの試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図7と共に説明する。このダンパー付き耐力壁20は、隣合う柱21,21の間にブレース24を設け、このブレース24の下端を、ダンパー1を介して片方の柱21の下部に接合したものである。ブレース24の上端は、もう片方の柱21の上部に設けられたブラケット25に接合金物26を介して接合される。ダンパー1は、地震などにより加わるエネルギーを吸収する部材である。隣合う柱21,21の上端および下端間は、梁23によって接合される。柱21の下端は、例えば、その下端に設けられたベースプレート27を介して、基礎天端面Sにアンカーボルト(図示せず)で接合される。この耐力壁20は、例えば戸建て住宅の耐力壁であって、鉄骨のフレームからなる。なお、下端の梁23は省略しても良い。
【0023】
各柱21、梁23、およびブレース24は、いずれも角形パイプまたはその他の形鋼等の鋼材からなる。ブレース24の上端の接合金物26は、例えばH形鋼の切片からなり、片方のフランジがブレース24の上端面に溶接等で接合されていて、もう片方のフランジが、柱21に設けられたブラケット25に重ねられボルト接合される。
【0024】
図5に拡大して示すように、ダンパー1は、互いに上下に位置して平行に配置される一対の平行板部2,2と、これら平行板部2を連結するエネルギー吸収用の板状のウェブ部3と、前記一対の平行板部2,2の一端同士および他端同士をそれぞれ接合した柱接合用およびブレース接合用の垂直材4,5とでなる。前記一対の平行板部2,2および柱接合用の垂直材4は、帯鋼等の平板状の鋼板からなる。ブレース接合用の垂直材5は角パイプからなる。ウェブ部3は後述の鋼材からなる。平行板部2,2とウェブ部3、および平行板部2,2と垂直材4,5とは、隅肉溶接等の溶接により接合されている。
【0025】
ダンパー1のウェブ部3は、その表面が耐力壁20の壁面に対して出入り方向の傾斜を成すように配置される。この例では、ウェブ部3の長手方向の一部が耐力壁20の壁面に対して所定角度の傾斜を成し、ウェブ部3の長手方向の他部が前記壁面に対して前記傾斜角度と異なる角度の傾斜を成すように断面山形とされている。ウェブ部3を断面山形とするため、この実施形態では、2枚の帯鋼等の平板状の鋼板13A,13Bを、図6のように互いに隅肉溶接等の溶接部により接合してウェブ部3が構成される。これにより、ダンパー1の全体の断面はM字形とされる。すなわち、ウェブ部3の上側部分となる鋼板13Aは壁面に対して下向きに傾斜し、ウェブ部3の下側部分となる鋼板13Bは壁面に対して上向きに傾斜した姿勢となる。
【0026】
柱接合用の垂直材4は、上記のように平板状の鋼板からなり、ボルト挿通孔7を有していて、図1のように柱21のブレース配置側の側面に重ねられ、前記ボルト挿通孔7に挿通されたボルト8により柱21に接合される。具体的には、例えば図7に示すように、タップ孔28の開いたプレート29を柱21の側面に溶接しておき、そのプレート29に前記垂直材4を重ねて前記タップ孔29にボルト8をねじ込むことにより、ダンパー1を柱21に接合する。
【0027】
図3に示すように、ブレース接合用の垂直材5は、一対の平行板部2,2のうちの上側の平行板部2よりも上方に突出した上方突出部5aを有し、この上方突出部5aに接合金物9を介してブレース24の下端に接合される。接合金物9は、角パイプからなる垂直材5の上端面に接合されて柱側21へ片持ち状に延びる片持ち延出部10aを有し、この片持ち延出部10a上にブレース24の下端面が溶接等で接合される。接合金物9は、前記片持ち延出部10aおよび前記角パイプからなる垂直材5の上端面に接合される部分10bを構成して上下を向く接合用鋼板10と、上下のリブプレート11,12とでなる。上側のリブプレート11は、ブレース24の側面と接合用鋼板10の上面とに溶接等で接合される。下側のリブプレート12は、垂直材5の上方突出部5aの側面と接合用鋼板10の下面とに溶接等で接合される。各リブプレート11,12は、それぞれ2枚が平行に設けられている。
【0028】
なお、角パイプからなる垂直材5の上端面は、ブレース24のブレース芯O2に対して垂直となるように、斜めに切断され、その傾斜に沿って接合用鋼板10が接合されている。そのため、ブレース24の下端は接合用鋼板10に対して垂直に接合されている。
【0029】
ブレース24は、前記各溶接等でダンパー1と一体化されてダンパー付きブレース24Aを構成し、柱21に対する取付施工は、ダンパー1の垂直材4をボルト8により柱21に接合することで行われる。また、ブレース24の上端は、図1と共に前述したように、上端の接合部材26を柱21のブラケット25に対してボルト接合することにより行われる。
【0030】
作用、効果を説明する。垂直材5は、ウェブ部3の鋼板13A、13Bの荷重を伝達する。図15(C),(D)に正面図および側面図で示すように、前記せん断パネルダンパー41のウェブ部43をせん断軸に対して回転させる、つまり壁面の出入り方向に傾斜させた場合、剛性はウェブ部43の傾斜が大きくなるほど低くなるが、変形能力は高くなると考えられる。
上記実施形態のダンパー1によると、そのウェブ部3が、耐力壁20の壁面に対して出入り方向の傾斜を成しているので、高い変形能力が得られる。そのため、材料として低降伏点鋼を用いたり、ウェブ部3にスリットなどの加工を施すことなく、地震などにより耐力壁20の壁面に沿う水平方向の荷重を受けたとき、十分な変形能力を確保することができる。
【0031】
このダンパー1のせん断耐力・剛性は、前記ウェブ部3の傾斜角度、板厚、幅寸法を調整することで容易に調整することができる。また、この実施形態では、ウェブ部3を山形断面形状としてその表面を複数面で構成しているので、ウェブ部3を、2枚の鋼板13A,13Bが並ぶ広さの1枚の平板状とした場合に比べて耐力壁20の壁厚方向の厚さが薄くなり、ダンパー1が耐力壁20の厚み範囲内に納まり易い。また、座屈面の長さを短くできるので、座屈耐力も向上する。
【0032】
なお、大きな変形性能が求められる場合には、前記ウェブ部3の表面の壁面に対する傾斜角度を例えば30度等に設定することで、より大きな変形性能を確保することができる。必要であれば、前記ウェブ部3に孔やスリットなどによる断面欠損分を設けて、せん断耐力・剛性を調整しても良く、ウェブ部3の材料として低降伏点鋼あるいは極低降伏点鋼を用いてさらに変形能力を大きくしても良い。
【0033】
また、この構成の耐力壁20によると、ブレース接合用の垂直材5が、上側の平行板部2よりも上方に突出した上方突出部5aを有し、この上方突出部5aに接合金物10を介してブレース24の下端を接合している。そのため、柱芯O1とブレース芯O2との交点Pのずれが発生し難い。すなわち、柱芯O1とブレース芯O2とがベースプレート面の1点で交わらないことが回避される。
【0034】
さらに、ブレース接合用の垂直材5が角パイプからなるため、柱21側へ片持ち状に延びる片持ち延出部10aを有する接合金物9が安定して設置でき、ブレース24を接合金物9に接合し易い。また、接合金物9には上下の各リブプレート11,12を設けたため、補強効果が得られる。そのため、板状の接合用鋼板10とリブプレート11,12による簡単な構成で堅固な接合が行える。
【0035】
図8は、ダンパー1の変形例を示す。このダンパー1では、1枚の平板状の鋼板を断面M字形に曲げ加工して前記一対の平行板部2,2と断面山形のウェブ部3とを一体に形成している。一対の平行板部2,2とウェブ部3とが続く部分は、2段に折り曲げている。この構成のダンパー1の場合、曲げ加工だけで済み、溶接が不要であるため、生産性に優れ、安価に製造できる。その他の構成および作用効果は第1の実施形態で用いたダンパー1と同様である。
【0036】
図9(A)は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す第1の実施形態において、前記ウェブ部3が1つの山形鋼13Cからなり、これによりダンパー1全体の断面をM字形としている。この例場合、ウェブ部3に山形鋼13Cを用いるため、2枚の鋼板を溶接する場合に比べて生産性に優れる。その他の構成および作用効果は図1図6に示した実施形態の場合と同様である。
【0037】
図9(B)は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す第1の実施形態において、前記ウェブ部3が2つの山形鋼13D,13Eを互いに溶接等の接合してなる断面波形のものとされている。このように波形とすると、ウェブ部3の傾斜板部の傾斜角度を大きくしながら、全体厚さをより薄くできる。
【0038】
図10は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す実施形態において、前記ウェブ部3が1枚の平板状の鋼板からなる。その他の構成および作用効果は図1図6に示した第1の実施形態の場合と同様である。
【0039】
図11は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す実施形態において、前記ウェブ部3が、前記一対の平行板部2,2の間にこれら平行板部2と平行に配置された中間板部13Fと、この中間板部13Fと前記一対の平行板部2,2との間にこれら平行板部2に対して傾斜姿勢で配置されて前記中間板部13Fと前記一対の平行板部2,2とを連結する2枚の傾斜板部13G.13Hとでなる。この場合、各傾斜板部13G,13Hが壁面に対して傾斜を成す。図11(A)の構成例では、両傾斜板部13G,13Hが同じ方向で角度に傾斜しており、図11(B)の構成例では、両傾斜板部13G,13Hが互いに逆向きで同じ傾斜角度(絶対角が同じ)で傾斜している。その他の構成および作用効果は図1図6に示した実施形態の場合と同様である。
【0040】
図12は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す第1の実施形態において、前記ウェブ部3が1枚の波板鋼板からなる。この構成の場合、ウェブ部3が1枚でありながら、同じ鋼材量で全体厚さをより薄くできる。
【0041】
図13は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1では、図1図6に示す第1の実施形態において、前記ウェブ部3が、断面L形に曲げ加工した2枚の板材13I,13Jを互いに溶接等で接合してなる断面山形のものである。その他の構成および作用効果は図1図6に示した実施形態の場合と同様である。
【0042】
図14(A)は、ダンパー1のさらに他の変形例を示す。このダンパー1は、同図のようにH形鋼をそのウェブ部が壁面に対して傾斜を成すように配置したものであり、H形鋼の上下のフランジ部がダンパー1の一対の平行板部2,2とされ、H形鋼のウェブ部がダンパー1のウェブ部3とされる。この場合、上下一対の平行板部2,2は壁面に対して垂直とはならず、共に傾斜を成す。
同じH形鋼であっても、図14(B)のようにそのウェブ部が壁面と平行になるように配置した場合、図15を参照して説明したように変形能力は小さくなるが、この実施形態のようにウェブ部を壁面に対して傾斜させることで変形性能を大きくすることができる。すなわち、この実施形態の場合も、図1図6に示した実施形態の場合と略同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…ダンパー
2…平行板部
3…ウェブ部
4,5…垂直材
5a…上方突出部
9…接合金物
10…接合用鋼板
10a…片持ち状延出部
11,12…リブプレート
13A,13B…鋼板
13C,13D,13E…山形鋼
13F…中間板部
13G,13H…傾斜板部
13I,13J…板材
20…耐力壁
21…柱
23…梁
24…ブレース
O1…柱芯
O2…ブレース芯
P…交点
図1
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