(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795053
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】微粒子低減のための真空内ビーム形成口の清浄化
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20150928BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01L21/265 603B
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-503736(P2013-503736)
(86)(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公表番号】特表2013-533573(P2013-533573A)
(43)【公表日】2013年8月22日
(86)【国際出願番号】US2011000484
(87)【国際公開番号】WO2011126538
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】12/755,081
(32)【優先日】2010年4月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505413587
【氏名又は名称】アクセリス テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】コルヴィン,ニエル
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ジンチェン
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特表平10−512710(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0267001(US,A1)
【文献】
特開平11−354068(JP,A)
【文献】
特開平11−329336(JP,A)
【文献】
特表平10−512393(JP,A)
【文献】
特表2008−546153(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0245957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/30−37/36、
H01L 21/26−21/268、21/322−21/326、
21/42−21/428、21/477−21/479
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン注入システムにおいて微粒子の混入を低減する方法であって、
イオン源と、質量分析器の流出口に近接して配置された分解口と、上記分解口の下流に配置された減速抑制板と、被加工物にイオンが注入される間、上記被加工物を支持するよう設計されたエンドステーションとを備えたイオン注入システムを用意する工程と、
上記イオン源を用いてイオンビームを形成する工程と、
上記イオンビームから電子を選択的に分離して上記イオンビームを集束させるために、上記減速抑制板に減速抑制電圧を印加する工程と、
上記エンドステーションと外部環境との間で上記被加工物を移動させる工程と、
上記イオンビームの高さ、および/または幅を拡張および収縮させて、上記分解口の1つ以上の表面に上記拡張および収縮させたイオンビームを照射し、上記1つ以上の表面に残留した、すでに堆積された材料が後に被加工物に混入することを緩和するために、上記被加工物の移動と同時に、上記減速抑制電圧を調整する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記減速抑制電圧は、上記イオンビームからの電子の除去および上記イオンビームの集束の両方に影響を及ぼし、上記イオンビームに印加された上記減速抑制電圧を調整することにより、様々な減速抑制電圧において、上記イオンビームの正味の高さ、および/または幅の調整がなされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記減速抑制電圧を0ボルトから動作抑制電圧までの間で変化させる工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記減速抑制電圧を1つ以上の周期にて、周期的に変化させる工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記分解口は、上流対向面、下流対向面、および側面を備えており、
上記分解口の上記1つ以上の表面は、上記上流対向面および上記側面を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記被加工物を上記エンドステーションと外部環境との間で移動させる工程が要する時間は、3秒未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記イオン注入システムは、さらにプラズマ電子フラッド容器を備えており、上記プラズマ電子フラッド容器の少なくとも1つ以上の表面に、上記拡張および収縮されたイオンビームを照射することで、該表面に残留した、すでに堆積された材料を除去することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記すでに堆積された材料は、上記プラズマ電子フラッド容器にある1つ以上の開口から落下することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記1つ以上の表面から、上記すでに堆積された材料を除去することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記1つ以上の表面に対する、上記すでに堆積された材料の付着力を増加させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
イオン注入システムにおいて微粒子の混入を低減する方法であって、
イオン源と、質量分析器と、上記質量分析器の流出口に近接して配置された分解口と、上記分解口の下流に配置された減速抑制板と、エンドステーションとを備えたイオン注入システムを用意する工程と、
上記イオン源を用いてイオンビームを形成する工程と、
外部環境から上記エンドステーションへ被加工物を移動させる工程と、
上記イオンビームが上記被加工物に照射される前に、上記イオンビームから電子を分離させるために、上記減速抑制板に減速抑制電圧を印加する工程と、
上記イオンビームから減速されたイオンを上記被加工物に注入する工程と、
上記被加工物を上記エンドステーションから上記外部環境へ移動させる工程と、
上記イオンビームを拡張および収縮させて、上記分解口の1つ以上の表面、および/または上記分解口の下流に位置する1つ以上の部材に、上記拡張および収縮させたイオンビームを照射し、上記1つ以上の表面に残留した、すでに堆積された材料が後に被加工物に混入することを緩和するために、上記被加工物の上記エンドステーション内外への移動と同時に、上記減速抑制電圧を調整する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記減速抑制電圧を0ボルトから動作抑制電圧までの間で変化させる工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記減速抑制電圧を1つ以上の周期にて、周期的に変化させる工程を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記1つ以上の表面から、上記すでに堆積された材料を除去することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
上記減速抑制電圧を調整する工程は、上記1つ以上の表面に対する、上記すでに堆積された材料の付着力を増加させることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
上記被加工物を上記エンドステーションと上記外部環境との間で移動させる工程が要する時間は、3秒未満であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
上記分解口の下流に位置する1つ以上の部材は、さらにプラズマ電子フラッド容器を備えており、上記プラズマ電子フラッド容器の少なくとも1つ以上の表面に、上記拡張および収縮されたイオンビームを照射することで、該表面に残留した、すでに堆積された材料を除去することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
被加工物にイオンを注入する間における微粒子の混入を低減するシステムであって、
イオンビームを形成するよう設計されたイオン注入システムと、
減速抑制板に連結された操作可能な減速抑制電圧源と、
上記被加工物をエンドステーションと外部環境との間で移動させるよう設計された移動機構と、
制御部とを備えており、
上記イオン注入システムは、イオン源と、質量分析器の流出口に近接して配置された分解口と、上記分解口の下流に配置された減速抑制板と、減速抑制電圧源と、上記イオンビームによって上記被加工物にイオンが注入される間、被加工物を支持するよう設計されたエンドステーションとを有しており、
上記減速抑制板に印加された所定の減速抑制電圧は、上記減速抑制電圧に基づき上記イオンビームから電子を分離するために操作可能であり、
上記制御部は、上記被加工物の移動と同時に、上記減速抑制電圧を所定の低電圧から上記所定の減速抑制電圧までの間で調整するよう設計されており、これにより、上記イオンビームを拡張および収縮させ、少なくとも上記分解口の1つ以上の表面に、上記拡張および収縮させたイオンビームを照射し、上記1つ以上の表面に残留した、すでに堆積された材料が被加工物に混入することを緩和することを特徴とするシステム。
【請求項19】
上記制御部は、上記エンドステーションと上記外部環境との間の上記被加工物の移動と同時に、上記減速抑制電圧を0ボルトから上記所定の減速抑制電圧までの間で選択的に調整することを特徴とする、請求項18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[本発明の分野]
本発明は主にイオン注入システムに関し、特に、イオン注入システムにおける微粒子混入を制御するためのシステムおよび方法に関する。
【0002】
[本発明の背景]
イオン注入システムは、半導体装置や他の製品の製造において、半導体ウェハ、表示パネルなどの被加工物に、ドーパント成分として知られる不純物を注入するために用いられている。従来のイオン注入システムまたはイオン注入装置は、n型またはp型のドーピング領域を生成するために、または、被加工物に保護層を形成するために、被加工物に対してイオンビームを用いた処理を行う。半導体をドーピングするためにイオン注入システムを用いる場合、イオン注入システムは選択された種類のイオンを注入することで、所望の外来的な材料を生成する。例えば、アンチモン、ヒ素、またはリンなどの原料物質から生成されたイオンを注入すると、n型の外来的な材料のウェハが完成する。あるいは、ホウ素、ガリウム、またはインジウムなどの材料から生成されたイオンを注入することで、半導体ウェハ中にp型の外来的な材料の部分が生成される。
【0003】
従来のイオン注入システムは、所望のドーパント成分をイオン化させるイオン源を備えており、イオン化されたドーパント成分は加速され、所定エネルギーを有するイオンビームを形成する。イオンビームが被加工物の表面に向かって出射されることで、被加工物にドーパント成分が注入される。イオンビーム内の高エネルギーなイオンは被加工物の表面を貫通し、被加工物材料の結晶格子に取り込まれる。これにより、所望の導電性を有する領域が形成される。注入処理は一般的に、高真空処理チャンバにて行われる。そうすることで、残留する気体分子との衝突によるイオンビームの分散を防ぎ、被加工物に対して空気中の浮遊微粒子が混入するリスクを最小限に抑えることができる。
【0004】
イオン線量およびイオンのエネルギーは、イオン注入を定義する上で一般的に用いられる2つの変数である。イオン線量は、特定の半導体材料に対して注入されるイオンの濃度に対応している。典型的な例として、高イオン線量の注入には、高電流の注入装置(一般的に10ミリアンペア(mA)より大きいイオンビーム電流)を用い、より少量の注入には中電流の注入装置(約1mAのビーム電流まで対応可能)が用いられる。イオンのエネルギーは、半導体デバイスにおける接合深さの制御に用いられる。注入イオンの深さの度合いは、イオンビームを構成するイオンのエネルギーによって決定される。半導体デバイスにおいて、レトログレードウェルを形成するために用いられる高エネルギーの処理は、一般的に数百万電子ボルト(MeV)に至る注入が必要であるが、浅い接合では、1千電子ボルト(keV)より低いエネルギーしか必要としない。
【0005】
半導体デバイスの小型化が求められている傾向が続いていることにより、低エネルギーで高ビーム電流を供給可能なイオン源を有する注入装置が求められている。高ビーム電流とすることで必要な線量レベルを確保しつつ、低いエネルギーレベルとすることで浅い注入が可能となる。相補性金属酸化膜半導体(CMOS)デバイスにおけるソース/ドレイン接合には、例えば、このような高電流および低エネルギーの適用が必要である。
【0006】
[本発明の概要]
本発明は、イオン注入システムにおける微粒子混入を低減するための方法およびシステムを提供する。本発明のいくつかの様態における基本的な理解を得るべく、以下に本発明の概要を示す。なお、この概要は本発明を広範囲に示すものではない。本発明の重要点や必須の要素を識別したり、本発明の範囲を詳細に記述したりする意図はない。この概要は、本発明の概念をいくつか簡潔な形で提示し、後述のより詳細な説明の前置きとすることを目的としている。
【0007】
本発明は概して、イオン注入システムにおける微粒子混入を低減するための方法及びシステムに向けたものである。ある典型的な様態によれば、高電流イオン注入システムなどのイオン注入システムは、イオン源と、質量分析器の流出口に近接する分解口と、分解口の下流に位置する減速抑制板および/または開口とを有する。さらに、エンドステーションが分解口および減速抑制板の下流に設けられる。このエンドステーションは、イオンが注入される間、被加工物を支持するように構成されている。一例では、分解口の下流かつエンドステーションの手前に、さらにプラズマ電子フラッド封入容器(プラズマフラッドアセンブリとも呼ばれる)および/または1つ以上の接地参照口が設けられている。
【0008】
本発明の例示的な一様態によれば、イオンビームはイオン源によって形成され、その質量が分析される。イオンビームは続いて、分解板と減速抑制板を透過する。減速抑制板には減速抑制電圧が印加されており、これによりイオンビームから電子を選択的に分離し、イオンビームを集束させる。一例では、被加工物はエンドステーションに設けられ、イオンビームからのイオンが注入される。その後、被加工物はエンドステーションから外部環境へ移動され、別の被加工物が注入処理のためにエンドステーションに運ばれる。被加工物をエンドステーションと外部環境との間を移動させるのと同時に、減速抑制電圧は調整され、イオンビームの高さおよび/または幅が拡張および収縮される。これにより、例えば、減速抑制電圧が調整される間に、分解口における1つ以上の表面に拡張または収縮されたイオンビームが衝突し、その1つ以上の表面に残った、すでに堆積された材料が被加工物に混入することを一般に軽減することができる。例えば、減速抑制電圧を調整して、1つ以上の表面から、すでに堆積された材料をスパッタリングすることで、その1つ以上の表面から、すでに堆積された材料を一般に除去することができる。あるいは、イオンビームの種類、質量、および/またはエネルギーに応じて、例えば減速抑制電圧を調整することで、1つ以上の表面にすでに堆積された材料の粘着性が上がる。
【0009】
他の例示的な様態によれば、減速抑制電圧は、イオンビームからの電子除去、およびイオンビームの集束に共に影響を及ぼす。イオンビームに対する減速抑制電圧を調整することにより、結果として、様々な減速抑制電圧におけるイオンビームの正味の高さおよび/または幅の調整が行われる。したがって、イオンビームは一般に、拡張/収縮されるか、分解口の下流に位置する部材を通過することになる。そのため、イオンビームを拡張および収縮することで、少なくとも分解口の1つ以上の表面にイオンビームが衝突し、結果としてすでに堆積された材料がスパッタリングにより一般に清浄される、および/またはすでに堆積された材料を上記1つ以上の表面に強力に付着、貼付させる。このことにより、膜応力によって、堆積された材料が剥がれる可能性を抑制することができる。
【0010】
さらに他の例によれば、プラズマフラッドアセンブリまたは下流に設けられる任意の容器の底は、例えば、プラズマフラッドアセンブリの穴や開口の間などの、対応する表面に存在する微粒子やすでに堆積された材料を、その穴や開口から微粒子が落ちることができる程度動かすことで清浄される。
【0011】
別の例によれば、被加工物のエンドステーションへの移動またはエンドステーションからの移動と同時に、減速抑制電圧は、0ボルトから動作抑制電圧までの間の値に調整される。別の例において、減速抑制電圧は、被加工物のエンドステーションへの移動またはエンドステーションからの移動と同時に、1つ以上の周期で周期的に変化する。
【0012】
上記、および関連部分を実現するために、本発明は以下にて詳細に記載し、特許請求の範囲にて特に示されている構成を有する。以下の説明および添付図面は、本発明のある実施形態を詳細に図示している。しかしながら、これらの実施形態は、本発明の原理が採用されうる複数方法のうちのいくつかを示しているのみである。本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【0013】
[本発明の詳細な説明]
本発明は主に、1つ以上の被加工物に対するイオン注入に関連する、微粒子混入を低減するためのシステムおよび方法を提供する。具体的には、本方法は、イオン注入システムにおいて、イオンビームが質量分析器を通過した後に拡張および収縮させる方法であり、下流に設けられた1つ以上の部材の1つ以上の表面が、イオン注入システムのエンドステーションから被加工物が出し入れされる間に、拡張されたイオンビームに露光される方法を提供する。
【0014】
以下において、図面を参照しながら本発明を説明する。本明細書全体を通して同様の参照符号が用いられる箇所は、同様の構成要素を参照している。以下の様態の説明は単に本発明を例証するものであり、限定的に捉えられるべきではない。以下の説明において、説明することを目的として、数々の具体的な記載は本発明の詳細に理解するために記載されている。しかしながら、本発明がこれら詳細なしで実行可能であることは、当業者であれば明白である。
【0015】
図1および
図2は、イオン注入システム100の模式図を例示する。このイオン注入システムは、本発明の1つ以上の様態を実施するのに適している。イオン注入装置100は一例として示されているが、本発明は、例えば高エネルギーシステムや低エネルギーシステムなどの、他の様々な種類のイオン注入装置およびシステムを用いて実施することができる。これら全てのシステムは、本発明の範囲に含まれることが意図される。
【0016】
図1および
図2のイオン注入システム100は、例えば、端末102、ビームラインアセンブリ104、およびエンドステーション106(例えば、まとめてプロセスチャンバと称する)を備えている。このイオン注入システムは、
図1に示す1つ以上の真空ポンプ108によって真空状態に設けられる。イオン注入システム100は、例えば、イオンを被加工物110(例えば、半導体ウェハ、表示パネル等)に注入するように構成される。一例では、イオン注入システム100は単一の被加工物110にイオンを注入するように構成され(例えば、「シリアル」イオンインプランター)、被加工物はエンドステーション106内に設けられる支持体112の上に(例えば、台座または静電チャック)に一般的に設けられている。あるいは、イオン注入システム100は複数の被加工物110にイオンを注入するように構成されており(例えば、「バッチ」イオン注入装置)、エンドステーション106は、いくつかの被加工物がイオンビーム114に対して並進移動する回転皿(図示せず)を備えている。なお、イオン源からイオンを抽出し、1つ以上の被加工物に注入することができるあらゆるイオン注入装置が、本発明の範囲に含まれることが意図される。しかしながら、本発明は、比較的短いビームライン長を有するイオン注入システム100(例えば、高電流イオン注入装置)において特に有用である。
【0017】
端末102は、例えば、ソース電源122から給電されるイオン源120、および、抽出電源126から給電され、抽出電圧V
Exを印加することによってイオン源120からイオンを抽出する抽出アセンブリ124を備える。この構成により、抽出されたイオンビーム114をビームラインアセンブリ104に供給する。抽出アセンブリ124は、ビームラインアセンブリ104と共同して、エンドステーション106に設けられた支持体112の上に置かれた被加工物110に対してイオンを向け、特定のエネルギーレベルにてイオンが注入されるように動作可能である。
【0018】
一例では、イオン源120はプラズマチャンバ(図示せず)を備えており、プロセス材料M
Sourceのイオンは、高い正電位V
Sourceによってエネルギーが与えられる。なお、一般的には陽イオンが生成されるが、本発明は源120が陰イオンを生成するシステムであっても適用可能である。抽出アセンブリ124はさらに、プラズマ電極130、および、1つ以上の抽出電極132を備える。プラズマ電極は1つ以上の抽出電極に対してバイアスされるが、イオン源120内ではプラズマに対して浮遊電位となる(例えば、典型的に接地された被加工物110に対して、プラズマ電極は120kVである)。1つ以上の抽出電極132は、例えば、プラズマ電極130の電圧よりも低い電圧でバイアスされる(例えば、0−100kVの抽出電圧V
Extract)。プラズマに対する1つ以上の抽出電極132における負の相対的な電位は、陽イオンをイオン源120から抽出し、加速させることができる静電界を生成する。例えば、1つ以上の抽出電極132は、1つ以上の抽出口134と連結されており、正に荷電されたイオンが1つ以上の抽出口を通ってイオン源120から放出されてイオン光114を形成し、抽出されたイオンの速度は一般的に、1つ以上の抽出電極に与えられた電位V
Extractによって決定される。
【0019】
本発明の例示的な様態によれば、ビームラインアセンブリ104は、イオン源120近傍に入口を有する(例えば、抽出口134と連結された)ビームガイド135と、抽出されたイオンビーム114が供給される質量分析器136と、分解板138を有する出口とを備える。質量分析器は主に、適切な電荷対質量比またはその範囲を有するイオン(例えば、質量分析された結果、所望の質量範囲内のイオンを有するイオンビーム)のみを、エンドステーション106内に位置する被加工物110へ有意に通過させる双極磁場を形成する。一般的に、イオン源120における源材料のイオン化は、所望の原子質量を有する正に荷電された種類のイオンを生成する。しかしながら、所望の種類のイオンに加え、イオン化処理は他の原子質量を有するイオンを一定量形成する。適性原子質量より高かったり低かったりするイオンは、注入するのに適しておらず、好適でない種類として扱われる。質量分析器136によって生成された磁場は、一般的にイオンビーム114に含まれるイオンを、曲線の経路を辿って動くように作用する。そのため、磁場は、好適な種類のイオンの原子質量と同じ原子質量を有するイオンのみがビーム経路Pを通過してエンドステーション106に向かうように設置されている。
【0020】
本発明の他の様態によれば、
図1のビームガイド135の出口にある分解板138は質量分析器136と共同して動作し、好適な種類のイオンの原子質量と同一ではないが近い原子質量を有する好適でない種類のイオンを、イオンビーム114から排除する。分解板138は、例えば、ガラス状の黒鉛またはタングステンもしくはタンタルなど他の材料からなり、1つ以上の延伸口140を有する。イオンビーム114内のイオンは、ビームガイド135から放出されるときにこの開口を通って出て行く。分解板138での、イオンビーム110の経路Pから分散されるイオン(例えば、P’に図示)は最小値であり、イオンビームの幅(P’−P’)は、イオンビーム114が分解口140を通るところで最小である。
【0021】
一例では、概して、好適な種類の原子質量と同一原子質量(または電荷対質量比)を有するイオンのみが、所定の、好適なイオンビーム経路Pを通過してエンドステーション106に向かうように、制御部142は、イオン源120から抽出されたイオンの速度と、質量分析器136の磁場の強度および方向性を規定する。制御部142は、一例において、イオン注入装置100の全ての構成を制御することができる。制御部142は、例えば、イオンを生成する電源122を制御することができる。また、イオンビーム経路Pが主に制御される抽出電源126をも制御することができる。制御部142はまた、例えば、他のもののうち、質量分析器136に対応する磁場の強度および方向性を調整することができる。別の例では、制御部142は、エンドステーション106の中にある被加工物110の位置を制御することができ、さらにエンドステーション106と外部環境143との間での被加工物の移動を制御するように構成されていてもよい。また、システム100の全体的な制御を行うのに、制御部142は、プロセッサ、コンピュータシステム、および/またはオペレータを備えていてもよい(例えば、オペレータによる入力と共同するコンピュータシステム)。
【0022】
好適なイオンの原子質量よりもはるかに大きいまたははるかに小さい原子質量を有する、好適でない種類のイオンは、
図1のビームガイド135内の好適なビーム経路Pから鋭く偏向され、大体はビームガイドから放出されない。しかしながら、好適でないイオンの原子質量が好ましい種の原子質量に近似する場合、好適でないイオンの経路は好ましいビーム経路Pから少ししか逸れない。したがって、このような、好適なビーム経路Pから少ししか逸れない好適でないイオンは、分解口140の上流対向面144に衝突する傾向がある。高電流イオン注入装置100において、ビーム経路Pの長さは比較的短く、イオンビーム114はしばしば、イオンビームが被加工物110に衝突する直前に減速する(例えば、「減速モード」と称される)ことが好ましいとされる。このようなシステムにおいては、分解板138の下流に減速抑制板146が設けられ、大体は減速抑制電圧供給源148から供給された減速抑制電圧V
Decelがイオンビームを減速させ、ビームラインPに沿って上流に電子が運ばれるのを防止する。さらに、減速抑制板146の下流に接地板150が設けられ、減速抑制板146の下流効果を中和する。例えば、減速抑制板146と接地板150は、減速されたイオンビーム114を集光させるための光学機器として用いられている。なお、一例では減速抑制板146がイオンビームを減速および/または抑制するのに用いられているが、減速抑制板はいかなる電気的に印加された板および/または開口から構成されていてもよく、このような板および/または開口のすべてが本発明の範囲に含まれることが意図される。
【0023】
一例によれば、減速抑制板に印加される減速抑制電圧V
Decelによって、一般的に、イオンビーム114を囲むプラズマシース内の電子数が決定される。イオンビーム114から十分な数の電子を除去すると、ビームの「ブローアップ」で知られる状態が発生することがある。これは、イオンビームに含まれる、同様に(正に)荷電されたイオンが、相互的に反発しあう傾向を示している(空間電荷効果としても知られる)。このような相互的な反発によって、他の好適な形状のイオンビームが、意図されたビームライン経路Pから逸れることになる。そのため、減速抑制板146は、イオンビーム114から電子が引き剥がされたときにイオンビームを集光させる作用を有し、イオンビームの高さおよび幅は、少なくとも部分的には、イオンビームおよび/または減速抑制板に対応する集光部分から引き剥がされた電子の量に基づいて大体は決定される。
【0024】
他の例では、開口接地板150の下流に、イオンビーム経路Pに沿ってプラズマ電子フラッド(PEF)容器152がさらに設けられている。PEF容器は、電子をイオンビーム114に印加することで被加工物110の電荷を制御し、また、イオンビームに対応する空間電荷を制御し、被加工物の近傍で発生するイオンビームのブローアップまたは拡張を制御するように構成される。他の例によれば、PEF容器はルーバ容器154を備えている。
【0025】
イオン注入装置100が動作している間、好適でない種類のイオン、分解口140、ビームガイド135などからスパッタリングされた炭素などの混入物質、イオン源120からのドーパント材料、さらに被加工物110からのスパッタフォトレジストおよびシリコンが、イオンビーム114に隣接するイオン注入装置の1つ以上の内表面156に積層する傾向がある。特に、分解口140の周りにある分解板138の、
図2に示す上流対向切断面158には、被加工物110に繰り返しイオンを注入した後に混入物質(図示せず)が積みあがる傾向がある。さらに、被加工物110自体からのフォトレジスト材料も、イオン注入装置100の内表面156に積みあがる可能性もある。
【0026】
分解板138とエンドステーション106の間にある部材に対応する1つ以上の内表面156上に混入物質が積みあがると、注入作業中にいずれは剥がれ落ちる傾向がある。このことにより、不利益な放電や粒子状の問題が生じることになる。さらに、分解口140周囲に混入物質が積みあがることで、ビーム経路Pの外端に近い好適なイオンがその積みあがった混入物質にあたり、混入物質を払い落としてしまう。この払い落とされた混入物質はさらに被加工物110の表面に運ばれ、注入処理された被加工物に様々な望ましくない影響を与えてしまう。この払い落とされた混入物質は、例えば、減速抑制板150などによって生成された高電界に侵入することもでき、これによって有害なアーキングが発生し、付加的な粒子が生成されてしまう。イオンビームのブローアップはさらに、通常はイオンビームの経路の外にあたる表面から粒子を取り込んで運んでしまう可能性がある。そのため、イオンビーム114の搬送におけるこのような妨害は、注入後の被加工物の量の均一性や全般的な質に悪影響を大きく及ぼす可能性が大きい。
【0027】
したがって、本発明の他の様態として、
図3は、イオン注入システムにおいて、被加工物に起きる微粒子混入を低減するための方法を示している。ここでは例示的な方法を一連の行為やイベントとして図示、説明しているが、本発明ではこの行為やイベントが図示、説明された順番に制限されることはなく、いくつかの工程が異なる順番および/または他の工程と同時に行われることも可能である。また、本発明に係る方法を実施するのに、図示された工程を全て実施する必要はない。さらに、記載の方法は、本説明において図示され、説明されたシステムと関連して実施されてもよく、図示されていない他のシステムと関連して実施されてもよい。
【0028】
図3に示すように、方法300は工程205にてイオン注入装置を用意することからはじまる。イオン注入システムは、例えばイオン注入システム100(
図1,2参照)のように、イオンビームを用いて1つ以上の被加工物にイオンを注入するように構成される。
図1および
図2のイオン注入システムは一例であり、同様または異なる部材を有する他のさまざまなイオン注入システムも本方法の注入装置として用意されてもよく、このようなイオン注入システム全てが本発明の範囲に含まれる。工程205にて用意されるイオン注入システムは、例えば、イオン源と、質量分析器の流出口に近接して設けられている分解口と、分解口の下流に位置する減速抑制板と、イオンを被加工物に注入する間、被加工物を支えるように構成されたエンドステーションを備えている。
【0029】
一例によれば、イオンビームは、イオン源を用いて工程210にて形成される。上記の通り、イオンビームから電子が選択的に引き剥がされてイオンビームが集束する減速抑制板には、減速抑制電圧が印加される。減速抑制板の下流に位置する被加工物は、例えば、その減速されたイオンビームからのイオンが注入される。十分に注入処理が行われ、処理が完了すると、被加工物はエンドステーションおよび外部環境に移動させられる(工程215)。こうすることで、別の被加工物が注入処理を受けるのに外部環境からエンドステーションに移動してくることができる。
【0030】
本発明によれば、大体は工程215における、被加工物のエンドステーションへ、またはエンドステーションからの移動に伴って、工程220において減速抑制板に印加される減速抑制電圧が調整される。これにより、イオンビームを拡張および収縮することができる。工程220は、被加工物110がエンドステーションと外部環境の間で移動する期間(例えば、工程215において被加工物が交換される間)と同時に行われるのが有意である。このことで、イオンビームを用いて材料が運ばれることによる被加工物混入の可能性を緩和することができる。
【0031】
工程220においてイオンビームが拡張および収縮する間、例えば、少なくとも分解口の1つ以上の表面に、拡張および収縮されたイオンビームが衝突する。例えば、分解口、減速抑制板、およびあらゆる接地参照口または他に分解口の下流に設けられたアセンブリは、工程220の間、拡張および収縮されたイオンビームに衝突される。工程220の減速抑制電圧を調整することで、分解口、減速抑制板、および分解口の下流に設けられた接地参照口または他のアセンブリに対応する1つ以上の表面に以前に堆積(例えば、スパッタ)した材料は、後述するとおり、概して緩和される。
【0032】
したがって、減速抑制電圧は最大電圧と最小電圧との間で調整される。このことにより、被加工物に微粒子が混入することなく、またイオン注入システムの停止時間を最小限に抑えながら、分解口、減速抑制板、および分解口の下流に設けられた接地参照口または他のアセンブリの切断面を通して、イオンビームを拡張したり収縮したりすることができる。そのため、イオンビームは概して分解口および/または分解口の下流に位置する部材を通り抜ける。イオンビームを拡張および収縮することで、イオンビームは少なくとも分解口の1つ以上の表面に衝突する。これにより、概してすでに堆積された材料をスパッタリングによって清浄される、および/または、すでに堆積された材料を1つ以上の表面に強力に付着させることができる。その結果、膜応力によって、堆積された材料が裂ける可能性を抑えることができる。すでに堆積された材料が除去されるか、さらに強力に1つ以上の表面に付着されるかは、例えば、使用される特定のイオンビームのエネルギーまたは質量によって決定される。これとは関係なく、本発明は続いて行われるイオン注入の間にすでに堆積された材料が被加工物に対して有害に衝突する可能性を低くすることができる。
【0033】
一例では、拡張および収縮されたイオンビームは、分解口の少なくとも前面および側面に衝突する。これにより、分解口の少なくとも前面および側面がスパッタリンクによって清浄される。したがって、本例において、被加工物が移動している間、イオンビームが消されないことが好適である
。
【0034】
さらに別の例示的な様態によれば、工程220は、0ボルトとある動作抑制電圧(例えば、15keV)との間で減速抑制電圧を調整することを含む。例えば、動作抑制電圧は、被加工物の移動の間で1サイクル以上、周期的に印加される。被加工物の、例えばエンドステーションから外部環境への移動は、約3秒未満で行うことができる。減速抑制電圧は約3秒未満で調整され、被加工物イオン注入の準備が完了すると、所望の減速抑制電圧に戻る。
【0035】
さらに別の例示的な様態によれば、工程205で用意されるイオン注入システムは、さらにプラズマ電子フラッド容器を備え、工程220の拡張/収縮イオンビームはさらにプラズマ電子フラッド容器の少なくとも1つ以上の表面と衝突し、大体は以前にスパッタリング/堆積された材料および/または微粒子を除去する。例えば、工程220では、イオンビームがプラズマフラッドアセンブリまたは下流容器に対応する1つ以上の表面に衝突することで、プラズマフラッドアセンブリまたは下流容器が清浄化される。微粒子の除去や移動は、例えば、微粒子がプラズマフラッドアセンブリの孔や開口から落ち、プラズマフラッドアセンブリから混入物質を概して除去できればよい。さらに別の例によれば、堆積された材料が1つ以上の表面からスパッタリングされるのか、それとも意図的に1つ以上の表面により強力に付着(例えば、「貼付」)されるのかの判断がなされる。堆積された材料を1つ以上の表面に貼付することにより、堆積された材料が続いて行われる被加工物に対する処理が行われる間にスパッタリングされることで除去されることが少なくなる。堆積された材料をスパッタリングするか貼付するかの判断は、少なくとも部分的には、注入される種類のイオンの好適なイオンビームエネルギーおよび/または特徴(例えば、質量)に基づいて行われる。
【0036】
本発明は特定の好適な実施形態に基づいて図示され、説明されているが、当業者であれば同等の変更は本明細書や添付図面の読解により可能であることは明白である。特に、上記部材(アセンブリ、装置、回路、等)によって行われる様々な機能について、これら部材を説明するのに用いられる表現(「手段」への参照をも含む)は、他に明記されない限り、説明された部材の特定機能を行う(つまり、機能的に同等な)いかなる部材に対応することを意図する。これは、本発明の例示された実施形態において説明された、その機能を実行する部材が、記載構造と構造的には同一でない場合でも同じである。また、本発明の特定の構成が複数の実施形態のうちの1つにしか記載されていない場合でも、それを異なる実施形態の構成と、いかなるまたは特定の出願が所望する、有利なように適宜組み合わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一様態に係る、イオン注入システムを示す平面図である。
【
図2】本発明の別の様態に係る、イオン注入システムを詳細に示す平面図である。
【
図3】本発明の別の様態に係る、1つ以上の被加工物に対してイオンを注入している間における微粒子の混入を低減させるための方法を示すブロック図である。