特許第5795060号(P5795060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795060
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ワーク測定機能を有する工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20150928BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20150928BHJP
   B23Q 3/155 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   B23Q17/00 Z
   B23Q11/08 Z
   B23Q3/155 H
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-514947(P2013-514947)
(86)(22)【出願日】2011年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2011062035
(87)【国際公開番号】WO2012157126
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】寺川 慎二
(72)【発明者】
【氏名】正和 裕太
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−264570(JP,A)
【文献】 特表2010−513042(JP,A)
【文献】 特開2008−023661(JP,A)
【文献】 特開2008−203270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00
B23Q 3/155
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの寸法を測定するワーク測定機能を有する工作機械において、
前記ワークの加工領域に隣接した収納領域に配置され、ワーク加工用の加工工具とワーク測定用の測定工具とを収納する工具マガジンと、
前記測定工具が着脱可能に取り付けられ、前記ワークに対して相対移動する主軸と、
前記加工領域と前記収納領域との間に開閉可能に設けられ、ワーク加工時に閉鎖し、ワーク測定時に解放するシャッターと、
前記収納領域に配置され、前記主軸に取り付けられた前記測定工具との間で通信する通信モジュールと、
を備えることを特徴としたワーク測定機能を有する工作機械。
【請求項2】
請求項1に記載のワーク測定機能を有する工作機械において、
前記シャッターを開閉する開閉駆動部と、
前記主軸に前記加工工具が取り付けられたワーク加工時に前記シャッターが閉鎖し、前記主軸に前記測定工具が取り付けられたワーク測定時に前記シャッターが開放するように前記開閉駆動部を制御するシャッター制御部とをさらに備える、ワーク測定機能を有する工作機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載のワーク測定機能を有する工作機械において、
前記工具マガジンは、前記加工工具を収納する第1収納部と、前記測定工具を収納する第2収納部とが周縁部に配設された回転割出し可能な回転体であり、
この工具マガジンを割り出す割出し駆動部と、
前記割出し駆動部を制御する工具マガジン制御部とをさらに備え、
前記通信モジュールは、前記工具マガジンの近傍に配置され、
前記工具マガジン制御部は、前記主軸に前記測定工具が取り付けられたとき、前記測定工具と前記通信モジュールとの間に、前記主軸に取り付けられた前記測定工具が収納されていた空の前記第2収納部が位置するように前記割出し駆動部を制御する、ワーク測定機能を有する工作機械。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のワーク測定機能を有する工作機械において、
前記測定工具は先端部にタッチプローブを有する、ワーク測定機能を有する工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸に着脱可能に測定工具を取り付け、ワークの寸法等を測定するワーク測定機能を有する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸に着脱可能に測定工具を装着し、測定工具をワークに対して相対移動させてワークの寸法等を測定するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、測定工具に送受信器を装着するとともに、測定工具の上方(スプラッシュガードの天井)に送受信モジュールを取り付け、赤外線、電波、超音波等の空間伝搬波を介して測定工具と送受信モジュールとの間で通信を行う。
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、スプラッシュガードの天井に送受信モジュールを取り付けるため、ワーク加工時に加工屑や加工液等の飛散物が送受信モジュールに付着し、測定工具と送受信モジュールとの間の通信に支障を来たすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−331067号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ワークの寸法を測定するワーク測定機能を有する工作機械において、ワークの加工領域に隣接した収納領域に配置され、ワーク加工用の加工工具とワーク測定用の測定工具とを収納する工具マガジンと、測定工具が着脱可能に取り付けられ、ワークに対して相対移動する主軸と、加工領域と収納領域との間に開閉可能に設けられ、ワーク加工時に閉鎖し、ワーク測定時に解放するシャッターと、収納領域に配置され、主軸に取り付けられた測定工具との間で通信する通信モジュールと、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1は、本発明の実施の形態に係る工作機械の概略構成を示す側面図である。
図2は、本発明の実施の形態に係る工作機械の外観斜視図である。
図3は、図1の矢視III図である。
図4は、図1の矢視IV図である。
図5は、図4のグリッパの拡大図である。
図6は、加工工具の一例を示す側面図である。
図7は、測定工具の一例を示す側面図である。
図8は、本発明の実施の形態に係る工作機械の制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、図1図8を参照して、本発明によるワーク測定機能を有する工作機械の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る工作機械の概略構成を示す側面図であり、一例として工具自動交換機能を有する横形のマシニングセンタを示している。図2は、このマシニングセンタの外観斜視図である。なお、以下では便宜上図示のように前後方向、左右方向、および上下方向を定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るマシニングセンタは、ワークWに対して相対移動する主軸10と、主軸10に取付可能な各種工具30を収納する工具マガジン20と、ワークWと工具マガジン20との間に設けられた開閉可能なシャッター40とを有し、工具交換装置を介して主軸10と工具マガジン20との間で工具30が授受される。工具30は、ワーク加工用の複数の加工工具31とワーク測定用の測定工具32とを含み、ワーク加工時に主軸10に加工工具31が取り付けられ、ワーク測定時に主軸10に測定工具32が取り付けられる。なお、図1は、主軸10に測定工具32が取り付けられたワーク測定状態を示している。
図2に示すように、マシニングセンタは全体が略直方体形状をなし、その前後面、左右面および上下面はそれぞれカバー100によって覆われている。前面のカバー100には開口部101が設けられている。開口部101は左右方向にスライド可能な扉102によって開閉され、扉102を開放した状態でワークWの交換作業等が行われる。扉102には監視用の窓103が設けられている。右面カバー100の凹部の前側には操作盤110が設けられ、操作盤110により各種指令を入力できる。
右面のカバー100の一部は内側(左方)に入り込み、凹部104が形成されている。凹部104の奥面(左面)には監視用の窓105が取り付けられ、凹部104の上面にはヒンジ部を介して回動可能に扉106が取り付けられている。扉106は取っ手106aを下方に回動操作することで開放可能である。扉106の内側には工具マガジン20が配置され、扉106を開放して工具マガジン20に収納された工具30の差替作業が行われる。
図1に示すように、主軸10は、前後方向の回転軸線を中心に主軸頭11に回転可能に設けられている。主軸頭11は、前後移動体12の前部に設けられている。前後移動体12は、直線送り機構を介して左右移動体13の上面に前後方向(Z軸方向)に移動可能に支持されている。左右移動体13は、直線送り機構を介して上下移動体14の上面に左右方向(X軸方向)に移動可能に支持されている。上下移動体14は、直線送り機構を介してベッド15の後面に上下方向(Y軸方向)に移動可能に支持されている。前後方向、左右方向および上下方向の直線送り機構は、例えばガイドレールとガイドブロックによる案内装置、およびボールねじとボールねじを回転駆動するサーボモータによる駆動装置により構成される。主軸10に取り付けられた工具30は、主軸頭11内のスピンドルモータ76により回転駆動される。
ベッド15の上面には、テーブル16が設置されている。テーブル16は、例えばサーボモータにより鉛直方向の軸線を中心にB軸方向に回転送り可能である。テーブル16の上面にはイケール17が設置され、イケール17の前後面にはそれぞれワークW1,W2が取り付けられている。ワークW1は扉102に面して取り付けられ、ワークW2は工具30の先端部に対向して取り付けられている。このようなイケール17を用いることで、後面のワークW2を加工している間に、扉102を開放して前面のワークW1を着脱することができる。このため、ワークWの着脱作業の度にワーク加工を中断する必要がなく、複数のワークWを効率よく連続して加工することができる。
以上の構成により、ワークW2に対して工具30が直交3軸方向(X、Y、Z軸方向)および回転1軸方向(B軸方向)に相対移動可能となり、ワークW2を所望の形状に加工することができる。なお、テーブル16を前後方向の軸線を中心に回転送り可能に構成し、マシニングセンタを直交3軸方向および回転2軸方向(B、C軸方向)に相対移動可能な5軸加工機とすることもできる。X軸用、Y軸用、Z軸用、およびB軸用の各サーボモータには、モータ回転量を検出する回転量検出器が設けられており、これらセンサからの信号によってワークWと主軸10との相対位置を演算することができる。
ベッド10の左右側方には、左右一対の支柱18が立設されている。左右の支柱18の上端部には、左右方向にわたりマガジンベース25が架設され(図3,4参照)、マガジンベース25に工具マガジン20が回転可能に支持されている。マガジンベース25は、前側が高く、後側が低くなるように傾斜して設けられ、工具マガジン20も同様に傾斜して設けられている。すなわち、鉛直線と工具マガジン20の回転軸線とのなす角が所定の傾斜角αとなるように工具マガジン20は傾設されている。
ワークWと工具マガジン20との間には、水平方向に水平カバー41が延設され、水平カバー41により、カバー100の内部空間が上下に仕切られている。すなわち、ワークWの加工領域WSと工具マガジン20が収納された収納領域MSとに仕切られている。水平カバー41は、ワーク加工時に加工屑や加工液が収納領域MSへ飛散することを防止する。水平カバー41の後部には、平面視略矩形状の開口部41a(図4参照)が設けられ、水平カバー41には左右方向にスライド可能にシャッター40が取り付けられている。
一方、移動体12〜14の前方には主軸頭カバー43が立設され、水平カバー41の下方かつ主軸頭カバー43の前方に加工室(加工領域)WSが形成されている。主軸頭カバー43には開口部43aが設けられ、開口部43aを介して主軸10および工具30が主軸頭カバー43を貫通している。主軸頭カバー43は上下方向および左右方向に巻き取り可能であり、工具30の上下動および左右動に伴い開口部43aも上下、左右に移動する。
図3は、工具マガジン20の概略構成を示す背面図、すなわち、工具マガジン20を傾斜角α方向から見た図(図1の矢視III図)であり、図4は、工具マガジン20の構成をより詳細に示す図1の矢視IV図である。なお、図3,4は、測定工具32が主軸10に取り付けられたワーク測定状態を示している。
図3に示すように、工具マガジン20は、図の点aを中心にして矢印β方向に回転可能に支持された回転フレーム21と、回転フレーム21の周縁部に設けられた複数の工具保持部、すなわちグリッパ22とを有する。マガジンベース25の左右方向中央部には、工具マガジン20の割出用のモータ(割出モータ)26が取り付けられている。割出モータ26は、例えばサーボモータによって構成される。
回転フレーム21は、割出モータ26の出力軸に連結された略円形状の回転中心部211と、回転中心部211の周囲に、回転中心部211と同心状に設けられたリング状のグリッパ支持部212と、回転中心部211から放射状に延在し、回転中心部211とグリッパ支持部212とを接続するスポーク部213とを有する。
グリッパ22は、グリッパ支持部212に周方向等間隔に設けられ、各グリッパ22に、それぞれ着脱可能に工具30が保持されている。グリッパ22は、加工工具31を保持する加工工具用グリッパ221と、測定工具32を保持する測定工具用グリッパ222とを有する。説明の便宜上、グリッパ22を2種類に分けたが、実施には各グリッパ221,222の形状は互いに等しく、同じグリッパで加工工具31も測定工具32も保持することができる。
図3,4のワーク測定状態では、後述するように測定工具32が工具交換位置Paに回転割出しされる。工具交換位置Paとは、主軸10にグリッパ22が最も近接する位置、すなわち工具マガジン20の最下部かつ最後部におけるグリッパ位置である。この工具交換位置Paにおいて工具30の軸線方向が前後方向を向くように、工具30は工具マガジン20の傾斜角αに応じた角度で工具マガジン20に対し傾斜してグリッパ22に保持される。これにより、工具交換位置Paに割り出された工具30の軸線と主軸10の軸線とを互いに一致させることができる。なお、図4では、主軸10に測定工具32が取り付けられており、工具交換位置Paにおけるグリッパ22(測定工具用グリッパ222)は空である。
工具交換時には、主軸10は工具交換位置Paまで上昇する。このため、工具マガジン20を傾設して工具30を保持するように構成することで、工具交換位置Paを加工領域WSに近接して設定することができ、主軸10の上方への移動量を抑えることができる。
図5は、グリッパ22の拡大図である。図5に示すように、各グリッパ22は、周方向に互いに向かい合わせに配置された一対の把持部材22aを有する。各把持部材22aはグリッパ支持部212にピン22bを介して回動可能に軸支されている。一対の把持部材22aの内側かつ外径側には、工具30のV溝31c,32c(図6,7)に対応して湾曲凹部22cが形成されている。一対の把持部材22aの内側かつ内径側にはばね22dが連結され、ばね22dの付勢力により湾曲凹部22cの内側に工具30が挟持される。
図4に示すように、加工領域WSと収納領域MSとを区画する水平カバー41の開口部41aは、工具交換位置Paの下方に開口されている。収納領域MSには開閉用シリンダ42が設けられ、開閉用シリンダ42の駆動によりシャッター40が左右方向(図の矢印γ)にスライドし、開口部41aが開閉される。開閉用シリンダ42は例えばエアシリンダにより構成される。なお、シャッター40は前後方向にスライドする方式でも、蝶番方式でも、いかなる構成でもよい。
図6は、加工工具31の一例を示す側面図であり、図7は、測定工具32の一例を示す側面図である。図6に示すように、加工工具31は、回転軸線に沿ってシャンク31a、フランジ31b、V溝31cおよび工具部31d(図ではドリル)を有する。シャンク31aの周面は後端面に向けて先細のテーパ面形状をなし、主軸10の先端部のテーパ孔(不図示)に密着状態で嵌合し、主軸10に設けられたクランプ装置78(図8)によってクランプされる。なお、クランプ装置78は、例えば加工工具31のシャンク31aを主軸10の後方に引き込むコレット付きのドローバー等、周知のものである。
図7に示すように、測定工具32は、回転軸線に沿ってシャンク32a、フランジ32b、V溝32c、円筒部32dおよびタッチプローブ32eを有し、バッテリとスイッチ回路とを内蔵している。シャンク32a、フランジ32b、V溝32cは、加工工具31のシャンク31a、フランジ31b、V溝31cと同形状であり、加工工具31と同様に測定工具32も主軸10にクランプ可能である。スイッチ回路は、タッチプローブ32eの先端の接触子32fが被測定物(ワークW)に接触するとオン信号(接触信号)を出力し、被測定物から離間するとオフ信号(非接触信号)を出力する。
ワーク測定時には、主軸10の回転を停止した状態で、測定工具32をワークWに対し相対移動させ、タッチプローブ32eの先端の接触子32fをワークWの被測定面に接触させる。これにより測定工具32がオン信号を出力し、オン信号の出力時における加工工具31の位置を演算することで、ワークWの寸法を測定することができる。
円筒部32dの周面には、空間伝播波による通信が可能な送受信器51が装着されている。送受信器51は、測定工具32の周方向の基準位置に配置された単一の受信器51aと、受信器51aと周方向に隣接して周方向等間隔に複数配置された送信器51bとを有する。受信器51aと送信器51bは、例えば赤外線の受光素子および発光素子により構成され、測定工具32に内蔵されたバッテリからの電力により作動する。測定工具32は、受信器51aが上方を向くように工具マガジン20に収納される。
送受信器51の受信器51aおよび送信器51bは、収納領域MSに配置された通信モジュール52との間で赤外線を介して通信を行う。なお、赤外線ではなく、電波や超音波を用いて通信を行うようにしてもよい。すなわち、送受信器51と通信モジュール52との間の通信媒体は、赤外線以外の空間伝播波であってもよい。なお、光学式や電波式等、空間伝搬波を介した有線以外の通信を総称して、無線による通信と呼ぶこともある。
図1に示すように、水平カバー41の上面にはブラケット53が立設されている。ブラケット53の先端部には、主軸10に取り付けられた測定工具32の送受信器51に向けて、通信モジュール52が取り付けられている。より詳細には通信モジュール52は、図1,4に示すように、回転中の工具マガジン20と干渉しないように工具マガジン20の下側に、かつ、工具交換位置Paにある測定工具用グリッパ222と左右方向同一位置に配置され、測定工具用グリッパ222よりも上方かつ後方に位置する。この場合、送受信器51と通信モジュール52との間、すなわち送受信器51と通信モジュール52とを直線で結んだ線分上、あるいはその線分の近傍に、水平カバー41の開口部41aが位置している。要するに、通信モジュール52は、その受信機52a、送信器52bが水平カバー41の開口部41aの方向を向き、シャッター40が開放状態のとき、主軸10に取り付けられた測定工具32の送受信器51と通信可能な収納領域MS内の位置に配置されていればよい。また、送受信器51と通信モジュール52との間には、ワーク測定状態にある測定工具用グリッパ222も位置する。なお、図4では、ブラケット53の図示を省略している。
図1において、通信モジュール52は、測定工具32の送信器51bから送信された赤外線信号を受信する受信器52aと、測定工具32の受信器51aに赤外線信号を送信する送信器52bとを有する。受信器52aが受信する信号には、タッチプローブ32eが出力したオンオフ信号が含まれ、送信器52bが送信する信号には、測定工具32の電源オンオフ指令に対応した信号が含まれる。
通信モジュール52の送信器52bは、例えば拡大円錐状に空間伝播波を発生する。このため、加工領域WS内で測定工具32を移動してワークWを測定する際に、測定工具32の受信器51aを常に円錐伝播波の内側に位置させることができ、送信器52bからの信号を受信器51aが容易に受信することができる。
一方、送受信器51の送信器51bは、測定工具32の周面に周方向にわたって複数設けられているため、各送信器51bにより測定工具32の周面から放射状に信号を送信することができる。したがって、ワーク測定時において、いずれかの送信器51bからの信号を受信器52aが確実に受信することができる。なお、送受信器51との通信性を高めるために、収納領域MS内の互いに異なる位置に通信モジュール52を複数設けるようにしてもよい。
以上のように構成された工作機械の動作は制御装置で制御される。図8は、本実施の形態に係る制御装置の主要な構成を示すブロック図である。
制御装置は、工具交換やワーク加工、ワーク測定に関する各種情報を入力する入力装置71と、主軸10の位置を検出する主軸位置検出器72と、収納領域MS内に設置された通信モジュール52と、ワーク加工やワーク測定に関する処理を実行する制御部70と、工具マガジン20を回転駆動する割出モータ26と、主軸10を移動する主軸移動用モータ75と、主軸10を回転駆動するスピンドルモータ76と、テーブル16を回転駆動するB軸用モータ77と、主軸10に工具30をクランプするクランプ装置78と、シャッター40を開閉する開閉用シリンダ42とを有する。
入力装置71は、操作盤110と、NCプログラムの読取り部とを含む。主軸位置検出器72は、X軸用、Y軸用およびZ軸用のサーボモータに付属する回転量検出器によって構成される。主軸移動用モータ75は、X軸用、Y軸用およびZ軸用のサーボモータ(X軸用モータ75a,Y軸用モータ75b,Z軸用モータ75c)を含む。制御部70は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。
制御部70には、入力装置71、主軸位置検出器72および通信モジュール52からの信号が入力される。制御部70は、これらの信号に基づき所定の処理を実行し、通信モジュール52、割出モータ26、主軸移動用モータ75、スピンドルモータ76、B軸用モータ77、開閉用シリンダ42およびクランプ装置78にそれぞれ制御信号を出力する。
以下、本実施の形態に係る工作機械の主要な動作、特に制御部70の処理による動作を説明する。
(1)ワーク加工時
ワーク加工時には、主軸10に加工工具31が取り付けられ、NCプログラムに従い主軸移動用モータ75およびB軸用モータ77が駆動される。これによりワークWに対して加工工具31が相対移動し、スピンドルモータ76の駆動により加工工具31が回転し、ワークW(W2)が加工される。このワーク加工時には、開閉シリンダ42によりシャッター40が閉じられ、開口部41aが閉鎖される。これによりワーク加工時に発生した加工屑や加工液等の飛散物が、収納領域MS内の通信モジュール52の表面や、加工マガジン20に収納された他の加工工具31および測定工具32の表面に付着することを防止できる。
ワーク加工時に入力装置71から工具交換指令が入力されると、工具交換装置により以下のようにして主軸10の加工工具31が他の加工工具31に自動交換される。なお、以下の説明では、便宜上、交換前の加工工具31を第1加工工具、交換後31の加工工具を第2加工工具と呼ぶ。
工具交換が指令されると、まず、スピンドルモータ76の駆動を停止するとともに、主軸10の前後方向(Z軸方向)および左右方向(X軸方向)の位置がそれぞれ工具交換位置Paに一致するようにX軸用モータ75aおよびZ軸用モータ75cを制御する。次いで、開閉用シリンダ42の駆動によりシャッター40を開放し、さらに第1加工工具31を収納するための空グリッパ221を工具交換位置Paに割り出す。
この状態で、主軸10が工具交換位置Paまで上昇するようにY軸用モータ75bを制御する。主軸10が工具交換位置Paまで上昇すると、主軸10に装着された第1加工工具31のV溝31cが空グリッパ22(221)の把持爪22aに係合される。この係合状態においてクランプ装置78により第1加工工具31をアンクランプし、Z軸用モータ75cの駆動により工具マガジン20と干渉しない位置まで主軸10を後方に退避させる。これにより第1加工工具31を加工工具用グリッパ221に受け渡すことができる。
次いで、割出モータ26の駆動により工具マガジン20を回転し、次の加工に用いられる第2加工工具31を工具交換位置Paに割り出す。その後、Z軸用モータ75aの駆動により主軸10を工具交換位置Paまで前進させ、クランプ装置78により第2加工工具31を主軸10にクランプする。第2加工工具31のクランプが終了すると、Y軸用モータ75bの駆動により主軸10を下降し、第2加工工具31を加工領域WS内に移動する。
その後、開閉用シリンダ42の駆動によりシャッター40を閉鎖し、スピンドルモータ76の駆動により第2加工工具31を回転駆動する。以上により工具自動交換が終了する。以降、NCプログラムの実行によりワークWに対して第2加工工具31が相対移動され、新たな加工工具31を用いてワークWが加工される。
(2)ワーク測定時
ワークWの加工終了後に、入力装置71によりワーク測定指令が入力されると、上述した手順と同様の手順によって、主軸10に装着される工具が加工工具31から測定工具32に自動交換される。すなわち、シャッター40を開放し、かつ、主軸10の回転を停止した状態で、主軸10を工具交換位置Paまで移動し、さらにクランプ装置78をアンクランプして、加工工具31を加工工具用グリッパ221に受け渡す。
次いで、割出しモータ26の駆動により、工具マガジン20に収納された測定工具32を工具交換位置Paに割り出し、測定工具32をクランプ装置78によりクランプして、図1に示すように加工領域WSに移動する。この場合、工具マガジン20には、測定工具32の受信器51aが上方を向くように測定工具32が収納されているため、測定工具32は、受信器51aが上方を向いた基準状態で主軸10にクランプされる。測定工具32が加工領域WSへ移動した後は、図4に示すようにシャッター40を開放状態のままとし、測定工具用の空グリッパ222も工具交換位置Paに割り出されたままとする。
その後、制御部70からの指令により、通信モジュール52から電源オン指令に対応した信号(電源オン信号)が送信される。測定工具32の周面の受信器51aが電源オン信号を受信すると、測定工具32の電源(スイッチ回路の電源)がオンし、ワーク測定が可能となる。次いで、測定工具32の送信器51bが通信モジュール52を向くようにスピンドルモータを回転駆動し、測定工具32の位相を基準状態から所定量(例えば180°)だけずらす。
この状態で、ワークWに対して主軸10を相対移動し、ワーク表面の測定位置に、測定工具32の先端の接触子32fを接触させる。接触子32fがワーク表面に接触すると、タッチプローブ32eはオン信号を出力する。このオン信号は送信器51bから送信され、収納領域MS内の受信器52aで受信される。受信器52aが受信した信号は制御部70に取り込まれ、制御部70は、オン信号の発生時の主軸10の位置座標からワーク表面位置を演算することができる。
タッチプローブ32eによるワーク測定が完了すると、スピンドルモータ76を回転駆動し、測定工具32の位相を基準状態に戻す。この状態で、制御部70からの指令により、通信モジュール52から電源オフ指令に対応した信号(電源オフ信号)が送信される。測定工具32の受信器51aが電源オフ信号を受信すると、測定工具32の電源がオフし、ワーク測定動作が終了する。
なお、図8の制御部70に、シャッター40の開閉状態を検出するシャッター開閉検出器、主軸10に装着された工具30のクランプ状態を検出するクランプ状態検出器、工具マガジン20の割出し位置を検出する割出し位置検出器等を接続し、これら検出器からの信号により各部の動作状態を監視しながら、制御部70における処理を実行するようにしてもよい。以上の説明において、割出しモータ26、主軸移動用モータ75、クランプ装置78および制御部70等が工具交換装置を構成するが、工具交換装置の構成はこれに限らない。
本実施の形態によれば、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)測定工具32の周面に送受信器51を装着し、この送受信器51と通信可能な通信モジュール52を収納領域MSに配置するとともに、ワークWと工具マガジン20との間に、加工領域WSと収納領域MSとを連通および遮断する開閉可能なシャッター40を設け、ワーク加工時にシャッター40を閉鎖するようにした。これによりワーク加工時に、加工屑や加工液等の飛散物が送受信器51および通信モジュール52の表面に付着することを防止できる。このため、ワーク測定時に送受信器51と通信モジュール52との間で空間伝搬波を介した良好な通信が可能となる。
本実施の形態の参考例として、通信モジュール52を加工領域内にて透明カバーで覆い、その透明カバーにエアーを吹き付けて、加工屑や加工液の付着を防止することや、通信モジュール52を専用の収納箱に入れて、測定時に収納箱の蓋を開け、加工時に蓋を閉める等、種々の防御装置を追加して設けることが考えられる。しかしながら、本実施の形態では、加工領域WSと収納領域MSとの間にもともと有するシャッター40の内側、すなわち工具の収納領域MS側に通信モジュール52を設置するだけで、参考例のように加工屑や加工液に対する新たな防御装置を何ら必要としない利点がある。
(2)ワーク測定時には、制御部70での処理によりシャッター40を開放したままとするので、送受信器51と通信モジュール52との間の空間伝搬波がシャッター40によって遮断されることを防止できる。これにより、空間伝搬波として赤外線を用いることができ、送受信器の構成を簡素化できる。
(3)ワーク測定時には、制御部70での処理によりさらに測定工具用の空グリッパ222を工具交換位置Paに配置するため、送受信器51と通信モジュール52との間にシャッター40や工具30等の障害物(遮蔽物)が介在せず、送受信器51と通信モジュール52との間で確実に通信を行うことができる。
(4)ワーク測定時に測定工具32の位相をずらし、ワーク測定の開始時および終了時に、測定工具32の周面の受信器51aが通信モジュール52側を向き、タッチプローブ32eによるワーク測定時に、送信器51bが通信モジュール52側に向くようにした。これにより測定工具32の周面に装着した送受信器51を用いて、通信モジュール52からの電源オンオフ指令を容易に受信することができ、かつ、タッチプローブ32eのオンオフ信号を通信モジュール52に容易に送信することができる。
(5)ワーク測定時に、通信モジュール52からの信号によって測定工具32の電源をオンするので、測定工具32のバッテリの消耗を抑えることができる。
(6)測定工具32のセンサ部をタッチプローブ32eにより構成したので、センサ部の回路構成を簡素化でき、空間伝搬波を送受信する測定工具32に用いて好適である。
なお、上記実施の形態では、工作機械のカバー100の内部空間の上方および下方にそれぞれ収納領域MSおよび加工領域WSを設けるようにしたが、加工領域WSに隣接して収納領域MSを設けるのであれば、収納領域MSと加工領域WSとを上下逆に設けてもよく、あるいは左右に隣接して設けるようにしてもよい。したがって、ワークWと工具マガジン30との間に設けられる開閉可能なシャッター40の配置も上述したものに限らない。
上記実施の形態では、測定工具32の周面に単一の受信器51aと複数の送信器51bを装着するようにしたが、送受信器51の構成はこれに限らない。例えば単一の送信器51bあるいは複数の受信器51aを装着するようにしてもよい。また、複数の受信器51aおよび複数の送信器51bを装着し、そのいずれかが通信モジュール52を向くようにして、測定工具32の位相合せを不要にするようにしてもよい。通信モジュール52を工具マガジン20の周縁部のグリッパ22の内側に固定的に設けるようにしたが、工具マガジン20と干渉しない収納領域MS内の他の位置に、通信モジュール52を設けるようにしてもよい。また、通信モジュール52を工具マガジン20に配置してもよい。
さらに、測定工具32には送受信器51として受信器51aおよび送信器51bを有するとしたが、タッチプローブ32eのオンオフ信号を送信する送信器51bのみを有する構成でもよい。この場合、測定工具32が主軸10に取り付けられるとタッチプローブ32eの電源がオンされ、主軸10から取り外されると電源がオフされるスイッチを設け、通信モジュール52は、送信器51bからのオンオフ信号を受信する受信器52aだけを有する構成とすればよい。
工具マガジン20の周縁部に、一対の把持部材22aを有する加工工具用グリッパ221(第1収納部)と測定工具用グリッパ222(第2収納部)を設けたが、これら第1収納部および第2収納部としてのグリッパ22の形状は上述したものに限らない。工具マガジン20を、割出しモータ26により回転割出し可能な回転体として構成したが、例えばチェーン駆動により固定フレームの周囲を工具30が旋回する、いわゆるチェーン式の工具マガジンとして構成することもできる。
主軸10に測定工具32が取り付けられたとき、送受信器51と通信モジュール52との間に測定工具用グリッパ222が位置するように割出し駆動部としての割出しモータ26を制御したが、空間伝搬波の経路上に空グリッパ222が位置するように割出しモータ26を制御するのであれば、工具マガジン制御部としての制御部70の処理はいかなるものでもよい。
上記実施の形態では、測定工具32の先端部にタッチプローブ32eを設け、タッチプローブ32eの先端部をワーク表面に接触させてワーク寸法を測定するようにしたが、測定工具32の構成はこれに限らず、例えば非接触式のセンサを有する測定工具32を用いることもできる。以上では、横形のマシニングセンタを例に説明したが、立形のマシニングセンタやマシニングセンタ以外の工作機械等にも本発明は同様に適用できる。
本発明によれば、測定工具に送受信器を装着し、この送受信器と通信可能な通信モジュールを収納領域に配置するとともに、ワークと工具マガジンとの間に、加工領域と収納領域とを連通および遮断する開閉可能なシャッターを設けるようにした。これによりワーク加工時に、加工屑や加工液等の飛散物が通信モジュールの表面に付着することを防止でき、送受信器と通信モジュールとの間で空間伝搬波を介した良好な通信が可能となる。
【符号の説明】
【0007】
10 主軸
20 工具マガジン
26 割出しモータ
31 加工工具
32 測定工具
32e タッチプローブ
40 シャッター
42 開閉用シリンダ
51 送受信器
52 通信モジュール
70 制御部
221 加工工具用グリッパ
222 測定工具用グリッパ
WS 加工領域
MS 収納領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8