【実施例1】
【0072】
図1は、本実施例1に係るスライドファスナーを示す模式図であり、
図2は、同スライドファスナーが使用される鞄を示す斜視図である。また、
図3は、ファスナーテープの一部の織組織を模式的に示す組織図である。更に、
図4は、スライドファスナーの横断面図である。
【0073】
なお、以下の説明において、前後方向とは、ファスナーテープの長さ方向を指し、スライダーが摺動する摺動方向と同じ方向である。特に、左右のファスナーエレメントを噛合させてスライドファスナーを閉鎖するようにスライダーを摺動させる方向を前方とし、左右のファスナーエレメントを分離させてスライドファスナーを開くようにスライダーを摺動させる方向を後方とする。
【0074】
また、左右方向とは、ファスナーテープのテープ幅方向を指し、ファスナーテープのテープ面に平行で、且つ、テープ長さ方向に直交する方向である。更に、上下方向とは、ファスナーテープのテープ面に直交するファスナーテープの表裏方向を指し、特に、ファスナーテープに対してスライダーの引手が配されている側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
【0075】
本実施例1に係るスライドファスナー1は、帯状のファスナーテープ11のテープ内側縁部11bにエレメント列20が形成された通常タイプのスライドファスナーとして構成されている。この本実施例1のスライドファスナー1は、例えば
図2に示すように、鞄5(ショルダーバック)の主収容部の開口部5aや、外ポケットの開口部5bに取り付けられて用いられる。
【0076】
本実施例1のスライドファスナー1は、左右のファスナーテープ11の対向するテープ内側縁部11bに沿って複数の金属製ファスナーエレメント21が列設されてエレメント列20が形成された一対のファスナーストリンガー10と、各ファスナーストリンガー10の前端部にエレメント列20に隣接して配された第1止具6(上止具とも言う)と、一対のファスナーストリンガー10の後端部に跨るようにエレメント列20に隣接して配された第2止具7(下止具とも言う)と、エレメント列20に沿って摺動可能に配されたスライダー30とを有している。
【0077】
ここで、本実施例1のスライドファスナー1は、ファスナーテープ11に主要な特徴を有するものであり、ファスナーエレメント21、第1及び第2止具6,7、並びにスライダー30については、従来と同様のもの(特に、第1止具、第2止具、及びスライダーについては金属製ファスナーエレメント用のもの)を使用している。
【0078】
具体的には、本実施例1の金属製ファスナーエレメント21は、噛合頭部22と、噛合頭部22から股部23を介して分岐延設された一対の脚部24とを備えている。また、噛合頭部22の前面側(テープ長さ方向の前方側面側)には、噛合凸部が突設されており、噛合頭部22の後面側(テープ長さ方向の後方側面側)には、噛合相手側の噛合凸部が嵌着する噛合凹部が凹設されている。
【0079】
このファスナーエレメント21は、一対の脚部24間にファスナーテープ11の後述する芯紐部11cを含むテープ内側縁部11b(エレメント取付部とも言う)が挿入された状態で、両脚部24が互いに近接する方向(内側)に加締められてファスナーテープを挟むことにより、ファスナーテープ11に所定の間隔で取り付けられている。この場合、ファスナーエレメント21の脚部24のテープ幅方向の端部(噛合頭部22と反対のテープ内方側の端部)は、後述する内側一重織領域14上に位置する。
【0080】
本実施例1のスライダー30は、金属製ファスナーエレメント用のスライダーであり、スライダー胴体31と、スライダー胴体31に回動可能に保持される引手32とを備えている。スライダー胴体31は、上下翼板33,34と、上下翼板33,34の肩口側端部間を連結する案内柱35と、上翼板33の上面側に立設された引手取付柱36と有している。
【0081】
上翼板33は、上翼板本体33aと、上翼板本体33aの左右側縁部から下翼板34に向けて垂設された左右の上フランジ部33bとを備えている。下翼板34は、下翼板本体34aと、下翼板本体34aの左右側縁部から上翼板33に向けて立設された左右の下フランジ部34bとを備えている。また、上翼板33の上フランジ部33bと、下翼板34の下フランジ部34bとの間には、左右のファスナーテープ11を挿通させるテープ挿通間隙37が形成されている。
【0082】
更に、スライダー胴体31の前端には、案内柱35を間に挟んで左右の肩口が形成されているとともに、スライダー胴体31の後端には後口が形成されている。また、上下翼板33,34間には、左右の肩口と後口とを連通する略Y字形状のエレメント案内路が形成されている。
【0083】
本実施例1のファスナーテープ11は、双糸からなる緯糸8と複数の経糸9とを用いて、経糸9の開口内にキャリアーバーの往復動にて緯糸8を緯入することにより織成されている。なお、本発明において、ファスナーテープ11を構成する経糸9及び緯糸8の材質や繊度は特に限定されるものではなく、従来のスライドファスナー1にて一般的に用いられている経糸及び緯糸と同様の糸を用いることができ、また、必要に応じて経糸9及び緯糸8の材質や繊度を任意に変更することもできる。
【0084】
このファスナーテープ11は、
図3に示すように、鞄5等のファスナー被着製品に縫い付けられるテープ主体部11aと、ファスナーエレメント21が取り付けられるテープ内側縁部(エレメント取付部)11bとを有しており、また、ファスナーテープ11のテープ内側の側端縁には膨大状の芯紐12が織り込まれた芯紐部11cが配されている。この芯紐部11cは、後述するように、ファスナーテープ11のテープ側端縁に形成された袋織組織内に、芯紐12が保持固定されることにより構成されている。
【0085】
また、同ファスナーテープ11は、例えばスライダー30の引手32が引っ張られてスライダー30の摺動操作が行われる場合、
図5に示すように、スライダー30における下フランジ部34bの上端面(上翼板33の上フランジ33bと対向する対向上面)と外側面(ファスナーテープの上下方向に延び、下フランジ部34bの上端面に直交する面)との間に挟まれて配される外側の稜線部34cに接触し、このファスナーテープ11とスライダー30の下フランジ部34bとの接触状態は、引手32を摘んでスライダー30が操作されている間は維持される。
【0086】
図5に示す摺動操作において、左右一対のファスナーストリンガー10のファスナーエレメント21を噛合させるようにスライダー30を摺動すると、下フランジ部34bの稜線部34cが、特に、その稜線部34cにおける肩口側の部分が、ファスナーテープ11と接触する。また、この稜線部34cは、下フランジ部34bの肩口側において、下フランジ部34bの外側面から内側面にかけて連続的に形成される場合もあり、この場合、その稜線部34cは、後述する下フランジ部34bの内側面と上端面との間に配される内側の稜線部34dの一部を呈する。ここで、外側の稜線部34cは、肩口側の部分におけるような下フランジ部34bの外側面から内側面にかけて連続する表面部分を含むものとする。
【0087】
この場合、ファスナーテープ11において、スライダー30の摺動時に、下フランジ部34bの外側の稜線部34cに接触するテープ部分又は接触する可能性のあるテープ部分をスライダー接触部と規定し、このスライダー接触部は、スライダー30における外側の稜線部34cの位置に対応するように、テープ幅方向に所定の領域に亘って、ファスナーテープ11のテープ長さ方向に沿って連続的に存在している。
【0088】
このようなスライダー接触部は、スライダー30をファスナーテープ11の上方に引っ張ること、又は、ファスナーテープ11を下フランジ部34bの方向へ引っ張ることで、下フランジ部34bの外側の稜線部34cに接触する箇所又は接触するおそれのある箇所である。
【0089】
また、スライダー接触部については、例えば、スライダー30の下フランジ部34bの内側面と外側面との間の寸法を測り、ファスナーエレメント21の脚部24から、その寸法分離れた位置をスライダー接触部として近似できるため、このように近似した位置を、下フランジ部34bの外側の稜線部34cの位置に対応するテープ部分となるスライダー接触部として特定することもできる。すなわち、ファスナーテープ11のスライダー接触部は、通常の使用では下フランジ部34bの外側の稜線部34cに接触しなくても、例えばスライダー30が強く引っ張られたときなどに、その外側の稜線部34cに接触するおそれがある場合を含む。この外側の稜線部34cの位置に対応するファスナーテープ11の箇所は、外側の稜線部34cを通る上下方向の仮想線を引いたときに、ファスナーテープ11の表面と交差する箇所と換言することもできる。
【0090】
また、本実施例1のファスナーテープ11は、
図3に示したように、一重織組織にて織成されているとともに、テープ幅方向の所定領域が二重織組織にて織成された織構造を有している。
具体的に説明すると、本実施例1のファスナーテープ11は、上述のスライダー接触部を含むテープ幅方向の所定領域に亘って配された二重織領域13と、この二重織領域13のテープ内縁側に隣接して配された内側一重織領域14と、その内側一重織領域14の更にテープ内縁側に配され、芯紐12を保持するように袋織組織で織成された芯紐保持領域16と、二重織領域13のテープ外縁側に隣接して配された外側一重織領域15と、ファスナーテープ11の外側縁部にて、次位の緯糸8を順次引っ掛けてループの折り返し端を連結することにより形成された図示しない耳部とを有している。
【0091】
なお、ここで、ファスナーテープ11のテープ内縁側とは、一対のファスナーストリンガー10を平行に並べた状態において、その一対のファスナーストリンガー10のテープ幅方向の中央側と表現することができ、テープ外縁側とは、ファスナーストリンガー10のファスナーエレメントが取付けられる縁部と反対の縁部側と表現することができる。
【0092】
本実施例1において、スライダー接触部を含む二重織領域13は、双糸からなる緯糸8と8本の経糸9とにより袋織組織で構成されており、
図6などに示すように、テープ上面側に配される第1織部25aと、テープ下面側に配される第2織部25bとを備えている。この場合、第1織部25aと第2織部25bは、互いに分離して形成されており、内側一重織領域14における二重織領域13側の端部と、外側一重織領域15における二重織領域13側の端部において繋ぎ合わされている。
【0093】
また、二重織領域13は、第1織部25aに配される4本の経糸9aが1組の緯糸8の下側と3組の緯糸8の上側とを走行し、且つ、第2織部25bに配される4本の経糸9bが3組の緯糸8の下側と1組の緯糸8の上側とを走行する1/3,3/1組織で構成されている。なお、本発明において、この二重織領域13は、例えば1/4,4/1組織で構成することも可能である。
【0094】
このように構成された二重織領域13においては、テープ幅方向に走行する緯糸8が第1織部25aと第2織部25bとに交互に分かれて配されているため、第1及び第2織部25a,25bのそれぞれに配される緯糸8の密度が、内側一重織領域14や外側一重織領域15における緯糸8の密度の約半分の大きさとなる。
【0095】
このため、本実施例1の1/3,3/1組織で構成された二重織領域13では、例えば当該領域が一重織組織で構成されているような従来の場合に比べて、第1織部25aの上面側及び第2織部25bの下面側に露呈する緯糸8の割合(又は面積)が大幅に低減するとともに、第1織部25aの上面側及び第2織部25bの下面側に露呈する経糸9の割合(又は面積)が増大している。
【0096】
更に、この二重織領域13では、経糸9と緯糸8とが上面側の第1織部25aと下面側の第2織部25bとに分かれて配されているため、同ファスナーテープ11の内側一重織領域14や外側一重織領域15に比べて、柔軟性が高くなるとともに、テープ厚さも厚くなっている。
【0097】
本実施例1の内側一重織領域14は、双糸からなる緯糸8と2本の経糸9とにより形成されており、1本の経糸9が1組の緯糸8の上側と1組の緯糸8の下側とを交互に走行する平織組織(1/1組織)で構成されている。これにより、内側一重織領域14は、しっかりした構造を備えており、また、内側一重織領域14におけるテープ厚さをより薄くするとともに内側一重織領域14のテープ表面及び裏面を滑らかにすることができる。
【0098】
また、外側一重織領域15は、双糸からなる緯糸8と複数本の経糸9とを用いて、二重織領域13と耳部との間に形成されており、1本の経糸9が2組の緯糸8の上側と2組の緯糸8の下側とを交互に走行する綾織組織(2/2組織)で構成されている。
【0099】
このような内側一重織領域14と外側一重織領域15とが二重織領域13を間に挟むようにして二重織領域13に隣接して配されていることにより、二重織領域13の織組織を安定させて、二重織領域13に配されている経糸9の位置が緯方向にずれることを防いでいる。また、内側一重織領域14は、芯紐保持領域16の織組織を安定させるとともに、その芯紐保持領域16に保持される芯紐12の位置を固定する役割も果たしている。
【0100】
ここで、内側一重織領域14と二重織領域13との境界は、内側一重織領域14に配される2本の経糸9(全ての緯糸と接触状態にある経糸)のうちの二重織領域13側の経糸9と、その経糸9に対して隣接する二重織領域13の経糸9(第1織部25a及び第2織部25bの一方を形成する緯糸のみと接触状態にある経糸)との間に位置する。つまり、芯紐部11cに隣接する経糸9から、内側一重織領域14の二重織領域13に隣接する経糸9までが内側一重織領域14の範囲である。
【0101】
また、外側一重領域15と二重織領域13との境界は、外側一重織領域15に配される経糸9(全ての緯糸と接触状態にある経糸)のうちの最も二重織領域13側の経糸9と、その経糸9に対して隣接する二重織領域13の経糸9(第1織部25a及び第2織部25bの一方を形成する緯糸のみと接触状態にある経糸)との間に位置する。つまり、外側一重領域15の二重織領域13に隣接する経糸9から耳部に隣接する経糸9までが外側一重織領域15の範囲である。
【0102】
本実施例1の芯紐保持領域16は、二重織領域13と同様の袋織組織で、すなわち、1/3,3/1組織で構成されており、テープ上面側に配される織部とテープ下面側に配される織部との間に芯紐12が保持されている。
【0103】
また、本実施例1のファスナーテープ11において、テープ厚さの薄い内側一重織領域14は、スライダー30の下フランジ部34bにおける上端面と内側面との間に配される内側の稜線部34dの位置に対応して配され、内側一重織領域14と二重織領域13との境界は、下フランジ部34bにおける内側面の位置と外側の稜線部34cの位置との間に形成されている(
図4及び
図6を参照)。本実施例1のスライドファスナー1において、ファスナーテープ11は、ファスナーエレメント21に対してテープ表裏方向の略中央部に位置するとともに、スライダー30のテープ挿通間隙37に挿通されている。
【0104】
この場合、ファスナーテープ11の内側一重織領域14は、ファスナーエレメント21に挟持される芯紐部11cに隣接して配されているため、ファスナーエレメント21とスライダー30との位置関係から、スライダー30のテープ挿通間隙37におけるテープ表裏方向の略中央部に位置し、スライダー30の下フランジ部34bや上フランジ部33bには殆ど接触しない。
【0105】
しかし、例えばスライドファスナー1の長期に渡る使用においては、スライダー30の摺動が繰り返されることによって、下フランジ部34bとファスナーエレメント21が何回も衝突することにより、下フランジ部34bにおける内側の稜線部34dが、テープ挿通間隙37に向けて上方に徐々に延びながら先端部を尖らせるように次第に塑性変形することがある。このように尖鋭に変形した内側の稜線部34dが、上方に徐々に延びていくうちにファスナーテープ11に接触してしまうと、スライダー30を摺動させたときにファスナーテープ11が切断される不具合が生じる。
【0106】
このような不具合に対して、本実施例1のスライドファスナー1では、上述のようにテープ厚さの薄い内側一重織領域14が、スライダー30の下フランジ部34bにおける内側の稜線部34dの位置に対応して配されている。これにより、下フランジ部34bにおける内側の稜線部34dが上述のように上方に延びるように変形したとしても、その変形した内側の稜線部34dをファスナーテープ11に接触し難くすることができ、その結果、スライダー30の当該内側の稜線部34dによってファスナーテープ11が切断される時期を大幅に遅らせて、スライドファスナー1の寿命を延ばすことが可能となる。
【0107】
以上のような構成を有する本実施例1のスライドファスナー1は、例えばスライダー30が操作されていないときには、左右のファスナーテープ11が、上述したように、スライダー30のテープ挿通間隙37の略中央部に保持され、スライダー30の下フランジ部34bにも上フランジ部33bにも接触していない状態となる(
図4及び
図6を参照)。
【0108】
一方、例えば引手32が引っ張られてスライダー30が摺動操作される場合、
図5及び
図7に示したように、スライダー30は、引手32から引っ張り力を受けて、斜め上方に引っ張られながら摺動する。このとき、ファスナーテープ11は、テープ内側縁部11bからテープ外側縁部に向けて、テープ幅方向へ下り傾斜するように湾曲するため、スライダー30は、下フランジ部34bの上端面と外側面との間に配される外側の稜線部34cと、ファスナーテープ11の二重織領域13とが接触した状態で、エレメント列20に沿って摺動する。また、鞄に取付けたスライドファスナー1のスライダー30が摺動操作される場合、鞄を肩掛けしたままの状態で摺動操作が行われることがあるため、この際には、スライダー30が斜め上方に引っ張られながら摺動することがより顕著になる。
【0109】
この場合、本実施例1のファスナーテープ11においては、前述のように、二重織領域13の第2織部25bの下面側に露呈する緯糸8の面積が大幅に低減し、第2織部25bの下面側に露呈する経糸9の面積が増大している。このため、緯糸8自体は、スライダー30の下フランジ部34bに直接接触し難くなるとともに、スライダー30が第2織部25bの下面側に露呈する経糸9に主に接触することとなるため、緯糸8がスライダー30から受ける損傷の程度を小さく抑えることができる。従って、スライダー30の摺動時にファスナーテープ11の二重織領域13がスライダー30の下フランジ部34bに直接接触しても、当該二重織領域13に配された緯糸8が切断され難くなる。
【0110】
更に、スライダー30の摺動時に、ファスナーテープ11が上述のようにテープ内側縁部11bからテープ外側縁部に向けて下り傾斜するように湾曲している場合、二重織領域13では、テープ上面側に配された第1織部25aが引き伸ばされてファスナーテープ11の湾曲を支えるとともに、テープ下面側に配された第2織部25bが、第1織部25aよりも円弧の内側に配されている分だけ、テープ幅方向に少し弛んだ状態で保持される。
【0111】
このとき、スライダー30の下フランジ部34bに接触する第2織部25bでは、テープ幅方向へ動くことが可能な自由度が第1織部25aよりも大きくなるため、第2織部25bがスライダー30の下フランジ部34bに接触して応力を受けても、その応力を数本の経糸9のみに集中させることなく、第2織部25b全体に効果的に分散させることができる。それにより、第2織部25bにおいて、各経糸9の位置がテープ幅方向にずれることを効果的に防いで、第2織部25bに経糸9の目ずれが生じることを防止できる。
【0112】
従って、本実施例1のスライドファスナー1では、スライダー30の摺動が繰り返し行われても、二重織領域13の第2織部25bに経糸9の目ずれによって緯糸8が長く露呈することがないため、スライダー30の接触によって緯糸8が切断される可能性を極めて小さくし、スライドファスナー1の寿命をより長く延ばすことが可能となる。
【0113】
更に、本実施例におけるファスナーテープ11の二重織領域13では、上述のように、内側一重織領域14や外側一重織領域15に比べて、柔軟性が高くなるとともに、テープ厚さも厚くなっている。この二重織領域13が高い柔軟性を有することにより、スライダー30を摺動させてエレメント列20を噛合・分離させる際に、各ファスナーエレメント21の微小な動きを許容するとともに、ファスナーテープ11をエレメント案内路に沿うようにして容易に湾曲させることが可能となる。その結果、スライダー30の摺動性及び操作性が大幅に向上し、スライダー30の摺動操作を軽い力で円滑に行うことができる。
【0114】
また、スライダー30のテープ挿通間隙37を通る二重織領域13が厚く形成されていることにより、テープ挿通間隙37の空間部分が二重織領域13によって大きく塞がれる。このため、スライダー30が摺動しているときに、スライダー30のテープ挿通間隙37に、スライドファスナー1以外の生地などの他部材が噛み込むことを効果的に防止でき、スライダー30の摺動操作をより円滑に且つ安定して行うことができる。
【0115】
なお、本発明においては、前述のようにファスナーエレメントの材質や形態は任意に変更することができ、例えば
図8に示したようなファスナーエレメント21aをファスナーテープ17のテープ内側縁部17bに取着することも可能である。この場合、ファスナーエレメント21aは、合成樹脂を射出成形することにより形成されており、ファスナーテープ17に固着される胴部と、胴部から外方に向けて延出し、テープ長さ方向の寸法が狭まるように括れた形状を有する首部と、首部から外方に向けて更に延出した噛合頭部とを有している。この場合、ファスナーエレメント21aの胴部のテープ幅方向の端部(噛合頭部と反対のテープ内方側の端部)は、後述する内側一重織領域14a上に位置する。
【0116】
更に、本発明では、ファスナーテープにおける内側一重織領域及び外側一重織領域がそれぞれ一重織組織で形成されていれば、その具体的な織組織は特に限定されるものではない。例えば
図8に示したように、内側一重織領域14aの織組織を、平織組織(1/1組織)から、1本の経糸9が2組の緯糸8の上側と2組の緯糸8の下側とを交互に走行する綾織組織(2/2組織)に変更してファスナーテープ17を構成することも可能である。
【0117】
このように内側一重織領域14aを2/2組織で構成することにより、内側一重織領域14aの柔軟性が高められるため、スライダー30の摺動性や操作性を更に向上させることができる。また、内側一重織領域14aが2/2組織の場合、内側一重織領域14aのテープ厚さが、1/1組織の場合よりも厚くなる。
【0118】
ファスナーテープ17の内側一重織領域14aの厚さが厚くなることにより、ファスナーエレメント21aを上述のように合成樹脂を射出成形することによって形成する場合に、成形用金型間にファスナーテープ17を安定して挟み込んだ状態で射出成形を行うことができる。このため、ファスナーエレメント21aをファスナーテープ17の所定の位置に安定して形成できるとともに、射出成形時に湯漏れが生じることをより効果的に防止できる。
【0119】
また、本発明では、スライドファスナー1の用途などに応じて、ファスナーテープの各領域に配される経糸9の本数を任意に変更することができる。例えば
図9に示したように、ファスナーテープ18の内側一重織領域14bに配される経糸9の本数を4本に増やすこともできるし、また、
図10に示したように、ファスナーテープ19の二重織領域13aに配される経糸9の本数を12本に設定することもできる。
【0120】
この場合、本発明の二重織領域13,13aに配される経糸9の本数は、特に8本以上12本以下に設定されることが好ましい。二重織領域13,13aに配される経糸9が8本以上であることにより、ファスナーテープ11のスライダー接触部を含む所定領域を、確実に二重織組織で構成することができる。また、二重織領域13,13aに配される経糸9が12本以下であることにより、二重織領域13,13aの幅寸法が大きくなりすぎることを防ぎ、第1及び第2織部25a,25bが離間してファスナーテープ11,17,18の形態が乱れることを防止できる。
【実施例2】
【0121】
図11は、本実施例2に係るスライドファスナーの要部を拡大して示す要部断面図である。
本実施例2に係るスライドファスナー2は、通常タイプのスライドファスナーとして構成されており、左右のファスナーテープ41の対向するテープ内側縁部に沿ってコイル状のファスナーエレメント51が縫着された一対のファスナーストリンガー40と、各ファスナーストリンガー40の前端部及び後端部に配された図示しない第1及び第2止具と、ファスナーストリンガー40の連続エレメント列に沿って摺動可能に配されたスライダー60とを有している。
【0122】
ここで、本実施例2のスライドファスナー2において、ファスナーエレメント51は、従来のコイル状のファスナーエレメントと同様の構成を有しており、また、第1止具、第2止具、及びスライダー60は、コイル状のファスナーエレメントに対して用いられる従来の第1止具、第2止具、及びスライダーと同様の構成を有している。
【0123】
具体的には、本実施例2のコイル状ファスナーエレメント51は、噛合頭部52と、噛合頭部52からテープ幅方向に延びるように配された上下脚部53,54と、当該ファスナーエレメント51の上脚部53を隣接する次位のファスナーエレメント51の下脚部54と連結する連結部55とを有している。このファスナーエレメント51は、上下脚部53,54間に芯紐56を挿通させた状態で、縫製糸57の二重環縫いによりファスナーテープ41に縫着されることによって、連続エレメント列を形成している。
【0124】
本実施例2のスライダー60は、コイル状ファスナーエレメント51用のスライダーであり、スライダー胴体61と、スライダー胴体61に回動可能に保持される図示しない引手とを備えている。スライダー胴体61は、上下翼板63,64と、上下翼板63,64の肩口側端部間を連結する図示しない案内柱と、上翼板63の上面に立設された図示しない引手取付柱と有している。
【0125】
上翼板63は、上翼板本体63aと、上翼板本体63aの左右側縁部から下翼板64に向けて垂設された左右の上フランジ部63bとを備えている。また、下翼板64は平板状に形成されており、当該下翼板64の左右側縁部には下フランジ部が設けられていない。この場合、上翼板63の上フランジ部63bと、下翼板64の左右側縁部との間に、ファスナーテープ41を挿通させるテープ挿通間隙67が形成されている。
【0126】
本実施例2におけるファスナーテープ41は、双糸からなる緯糸8と複数の経糸9とを用いて織成されており、テープ主体部と、ファスナーエレメント51が取り付けられるテープ内側縁部(エレメント取付部)とを有している。また、同ファスナーテープ41は、スライダー60の引手が引っ張られてスライダー60の摺動操作が行われる場合に、スライダー60における下翼板64の上面(上翼板63に対向する対向上面)と外側面(ファスナーテープの上下方向に延び、下翼板64の上面に直交する面)との間に挟まれて配される稜線部64aに接触するスライダー接触部が、テープ長さ方向に沿って連続的に存在している。
【0127】
また、本実施例2のファスナーテープ41は、スライダー接触部を含むテープ幅方向の所定領域に亘って配された二重織領域43と、この二重織領域43のテープ内縁側に隣接して配された内側一重織領域44と、二重織領域43のテープ外縁側に隣接して配された外側一重織領域45と、ファスナーテープ41の外側縁部にて、次位の緯糸8を順次引っ掛けてループの折り返し端を連結することにより形成された図示しない耳部とを有している。この場合、ファスナーエレメント51は、内側一重織領域44上に位置している。
【0128】
また、本実施例2における二重織領域43、内側一重織領域44、及び外側一重織領域45の各織組織は、前述の実施例1におけるファスナーテープ11の二重織領域13、内側一重織領域14、及び外側一重織領域15とそれぞれ同様に構成されている。
【0129】
以上のような本実施例2のスライドファスナー2では、例えば引手が引っ張られてスライダー60が摺動操作される場合、スライダー60の下翼板64側の稜線部64aに、ファスナーテープ41の二重織領域43が接触するものの、前述の実施例1のスライドファスナー1の場合と同様に、二重織領域43に配された緯糸8が切断され難くなる。また、スライダー60の摺動が繰り返し行われても、二重織領域43の第2織部25bに経糸9の目ずれが生じることを防いで、緯糸8が切断される可能性を極めて小さくし、スライドファスナー2の寿命をより長く延ばすことが可能となる。
【0130】
また、本実施例2のスライドファスナー2でも、ファスナーテープ41の所定領域に二重織領域43が配されていることにより、その二重織領域43における柔軟性が高くなるとともに、テープ厚さも厚くなるため、スライダー60の摺動性及び操作性が向上する効果が得られるとともに、スライダー60のテープ挿通間隙67に他部材が噛み込むことを効果的に防止できる。
【0131】
なお、本実施例2のスライダー60にあっても、下翼板64の左右側縁部から上翼板63に向けて立設された左右の下フランジ部を備えてもよい。この場合、下フランジ部は、上フランジ部63bの上下方向の寸法よりも小さいものである。そして、上翼板63の上フランジ部63bと、下翼板64の下フランジ部との間には、左右のファスナーテープ11を挿通させるテープ挿通間隙が形成される。このスライダーにおいては、下フランジ部の上翼板63と対向する上端面(対向上面)と、下フランジ部の外側面(ファスナーテープの上下方向に延び、下フランジ部の上端面に直交する面)との間に、稜線部が配される。
【実施例3】
【0132】
図12は、本実施例3に係る隠しスライドファスナーを示す断面図である。
本実施例3に係る隠しスライドファスナー3は、一対の隠しタイプのファスナーストリンガー70と、各ファスナーストリンガー70の前端部及び後端部に配された図示しない第1及び第2止具と、ファスナーストリンガー70の連続エレメント列に沿って摺動可能に配されたスライダー90とを有している。
【0133】
本実施例3における隠しタイプのファスナーストリンガー70は、ファスナーテープ71と、ファスナーテープ71のエレメント取付部71cに沿って配された連続エレメント列とを有しており、ファスナーテープ71は、テープ主体部71aと、テープ主体部71aの一側縁から延設され、U字状に折り曲げられたテープ折曲部71bと、テープ折曲部71bから更に延設されたエレメント取付部71cとを備えている。
【0134】
連続エレメント列は、コイル状のファスナーエレメント81が上下脚部83,84間に芯紐86を挿通させた状態で、縫製糸87の二重環縫いによりファスナーテープ71に縫着されることによって構成されており、各ファスナーエレメント81は、その噛合頭部82をファスナーテープ71のテープ折曲部71bから外方に突出させるようにしてエレメント取付部71cに取着されている。この場合、ファスナーテープ71は、左右の連続エレメント列を噛合させたときに、左右のファスナーテープ71のテープ折曲部71b同士が接触するように構成されている。
【0135】
本実施例3のスライダー90は、隠しスライドファスナー用のスライダーであり、スライダー胴体91と、スライダー胴体91に回動可能に保持される引手92とを備えている。スライダー胴体91は、上下翼板93,94と、上下翼板93,94の肩口側端部間を連結する案内柱95と、上翼板93の上面に立設された引手取付柱96と有している。
【0136】
上翼板93は平板状に形成されており、当該上翼板93の左右側縁部には上フランジ部が設けられていない。また、下翼板94は、下翼板本体94aと、下翼板本体94aの左右側縁部から上翼板93に向けて立設された左右の下フランジ部94bとを備えている。この場合、上翼板93の左右側縁部と下翼板94の下フランジ部94bとの間には、ファスナーテープ71を挿通させるテープ挿通間隙97が形成されている。
【0137】
本実施例3において、ファスナーテープ71は、双糸からなる緯糸と複数の経糸とを用いて織成されている。また、同ファスナーテープ71は、スライダー90の引手92が引っ張られてスライダー90の摺動操作が行われる場合に、スライダー90の下フランジ部94bにおける上端縁(先端縁)に接触する、特に、同下フランジ部94bにおける上端面と外側面との間の外側の稜線部94cに接触するスライダー接触部が、テープ長さ方向に沿って連続的に存在している。
【0138】
また、本実施例3のファスナーテープ71は、図示は省略するものの、スライダー接触部を含むテープ幅方向の所定領域に亘って配された二重織領域と、この二重織領域のテープ内縁側に隣接して配された内側一重織領域と、二重織領域のテープ外縁側に隣接して配された外側一重織領域と、ファスナーテープ71の外側縁部にて、次位の緯糸を順次引っ掛けてループの折り返し端を連結することにより形成された耳部とを有している。
【0139】
この場合、本実施例3における二重織領域、内側一重織領域、及び外側一重織領域の各織組織は、前述の実施例1及び実施例2におけるファスナーテープ11,41の場合と同様に構成されている。すなわち、本実施例3の二重織領域は、経糸9の本数が8本以上12本以下に設定された袋織組織で構成されており、ファスナーエレメントが取着される側のテープ面となるテープ第1面(テープ外面)側に配される第1織部と、スライダー90の下フランジ部94bに接触するテープ第2面(テープ内面)側に配される第2織部とを備えている。
【0140】
また、本実施例3のファスナーテープ71において、内側一重織領域と二重織領域との境界は、スライダー90の下フランジ部94bにおける内側面の位置と外側の稜線部94cの位置との間に形成されており、テープ厚さの薄い内側一重織領域は、スライダー90の下フランジ部94bにおける上端面と内側面との間に配される内側の稜線部の位置に対応して配されている。
【0141】
以上のような本実施例3の隠しスライドファスナー3では、実施例1及び実施例2における通常タイプのスライドファスナー1,2の場合と同様に、二重織領域において、第2織部のテープ第2面側に露呈する緯糸の面積が大幅に低減するとともに、同テープ第2面側に露呈する経糸の面積が増大している。
【0142】
このため、二重織領域における第2織部の緯糸は、スライダー90の下フランジ部94bにおける外側の稜線部94cに直接接触し難くなるとともに、緯糸がスライダー90から受ける損傷の程度を小さく抑えることができる。従って、スライダー90の摺動時にファスナーテープ71の二重織領域が、スライダー90の下フランジ部94bにおける外側の稜線部94cに接触しても、当該二重織領域に配された緯糸が切断され難くなる。
【0143】
更に、この隠しスライドファスナー3において、テープ折曲部71bに形成されている二重織領域では、テープ第1面側に配された第1織部が引き伸ばされてファスナーテープ71の折り曲げ形態を支えるとともに、テープ第2面側に配された第2織部が、第1織部よりも内側に配されている分だけ、テープ幅方向に少し弛んだ状態で保持される。
【0144】
このとき、テープ折曲部71bにてスライダー90における外側の稜線部94cに接触する第2織部では、テープ幅方向へ動くことが可能な自由度が第1織部よりも大きくなるため、第2織部がスライダー90における外側の稜線部94cに接触して応力を受けても、その応力を第2織部全体に効果的に分散させることができる。これにより、第2織部では、各経糸の位置がテープ幅方向にずれることを効果的に防いで、第2織部に経糸の目ずれが生じることを防止できる。
【0145】
従って、本実施例3の隠しスライドファスナー3では、スライダー90の摺動が繰り返されても、ファスナーテープ71の二重織領域において、経糸の目ずれに起因して緯糸が長く露呈することがないため、スライダー90の接触によって緯糸が切断される可能性が極めて小さくなり、隠しスライドファスナー3の寿命をより長く延ばすことが可能となる。